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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆ss「ロンド」長編② 勝燐♀

 燐が北海道の網走に来てからもうすぐ一年が過ぎる。一年目はとにかく、慣れない気候と僻地の不便さに右往左往していた。しかし二年目となれば慣れたもので、九月の今から異様に早い初雪に向けた準備に頭が向いていた。
「まだスノーマンは出ないだろうけど、本部に聖油とか発注かけようかな。」
 もちろん、ご当地名物の悪魔も時々は出現しては近隣住人に迷惑をかけることもあった。祓魔師にとっては冬に活発化する悪魔の対策も冬の準備に含まれる。
 僻地でありながらも教会の周辺には人が住んでいる。燐は修道女の長いスカートを揺らし教会の行事や整備や任務の祓魔に追われながら、時たま来る人々と話す毎日だった。来るのは信心深い年配の人が多く、若い人は少ない。
『サタンの娘の俺がシスターだなんて、ちょっと皮肉で笑えるかも。』
 くすくすと思い出し笑いが出てくる。燐は自分が作ったクッキーを頼まれた分だけ包んで、教会に来た年配の婦人に渡した。婦人は燐に千円札を差し出してくる。燐は小銭袋からお釣りを婦人に手渡して有難う御座いますと言った。
「燐ちゃんも髪を伸ばしてすっかり女の子になったわねえ。最初来た時は本当に男の子みたいだったのに。」
「えーと俺は……寒いの嫌だから伸ばしてただけですよ。」
「似合ってるわよお。」
「えへへっ。」
 手入れが面倒そうだから、伸ばしても肩あたりまでだった。でもこうやっておだてられると、悪い気はしない。
「好きな人でも出来たのかい?」
「………そういうわけじゃ、ないです。」
 燐はこの手の話題になると逃げ腰になる。何も無ければ無いと開き直れるけど、燐としては何も無いとは言えない事情がある。
『勝呂の手紙。もうそろそろかな?』
 今のようにふと考える瞬間がある。でもこの婦人にこのことを言ったら、たぶん他の人にも――。一緒に暮らしている雪男には絶対にばれる。それで、「思わせぶりなことをしちゃいけないよ」とやんわりとした口調で、こってり叱られるのだ。
「シスターって言っても日本なんだから。そこまで気にしなくてもいいと思うんだけどねえ。」
「そんなんじゃ、日本の教会のシスターはいい加減だって、世界中の人に思われますってば。」
「ところでねえ、このクッキーなんだけど。」
 話題がころころ変わるご婦人だった。これ以上恋愛話をされて深く追求されるよりはましだったが、拍子抜けする。
「町の直売所にクッキー置いてもいいって。」
「本当ですかっ。」
 燐は前のめりになった。
「美味しいからねえ。でも町から遠いから、なかなか買いたくても買えない人も多くて……。でも、場合によっては出荷の量が多くなるけど、大丈夫? 全部一人で作っているのでしょう?」
「なんとかやってみます! ありがとうございます。」
 燐は即答して深く頭を下げた。その嬉しそうな顔を見て婦人は上機嫌に教会から出て行く。燐はガッツポーズを取った。燐の少ない収入にもう少しは色がつくだろう。そして燐は密かにしていた計画の目標額に予定より早く辿り着きそうなことに嬉しくなった。
『俺個人が旅費を捻出出来たら、みんなに、勝呂に逢える時間も取れるかもしれない。』
 前の本土行きの旅費は弟持ちだった。燐は無い頭で必死に考えてみた結果、もしかしたら取れなかったのは時間ではなく、旅費だったのかもしれないという可能性に気がついた。 
時間はあっても先立つものがなければ何処にもいけない。あの時は冬休みだったから、しえみならともかく、勝呂たちは帰省して京都だっただろう。ならば京都まで行く可能性も考えて、自分が旅費を捻出できればと考えた。
 だから少ない取り柄でもある料理でなんとかしてみようと思った。しえみも言っていた。自分が出来ることから始めようと。
でもこんな教会で定食屋みたいな真似は出来ない。それならクッキーを何枚かで何百円っていう感じで売ってみようと思った。そこで教会に入った側の小さな机に袋入りで並べていたら、さっきの婦人が最初に手にとってくれた。そしてすっかり常連になってくれて、友達にも勧めてくれて、直売所に話をつけてくれた。最初のお客さんが行動力のある親切な人だったのが幸運だった。そして近いうちに燐のクッキーが直売所に並ぶ。
 婦人のその優しさが嬉しかった。そしてまた勝呂との思い出がぶり返す。
 涙ぐみそうになるのを堪えて首を横に力いっぱい振る。自分から逢いに行けるのだから、いちいち思い出して泣いていられない。
「姉さん。手紙来てるよ。」
 嬉しさで胸が一杯になっているところに、外からカソック姿の弟が入ってきた。右手に封の切られた封筒を二通持っている。燐は弟の持っている封筒を見て呆れたように手を腰に当てた。
「また先に封切ったな?」
「見られるのが嫌な疚しいことは書かれてないんでしょ?」
 弟に先に封を切られるのはいつものことだが、やはり自分宛の手紙は、自分が真っ先に封を開けたい。雪男から受け取った手紙は勝呂からだった。
「勝呂君がみんなの手紙を集めて、同じ封筒に送ってくれるんだよね。」
 雪男は時折、勝呂の話題を出すときは苦笑いを浮かべる。しかしそれは日常動作に紛れてしまうさりげなさなので、燐は気づかない。
「あ。今回はメフィストからの手紙も入ってる。」
「僕の分にも入ってるかな。」
 燐の処遇が網走行きに留まったのは、ある意味メフィストのお陰だった。そのせいか知らないが、何回かにいっぺんは勝呂の送ってくる手紙に紛れて、メフィストの手紙も入ってくる。
「網走一周年おめでとうって……。そんなん祝われても嬉しくねーよ!」
 燐はメフィストからの手紙を床に叩きつける真似をした。雪男は姉に渡したのとは違うもう一つの封筒から一通の手紙を取り出し、字面を目で追う。
「……。元気そうにやってるみたいだね。」
「志摩ったら俺の手料理が恋しいのかよ。しょーがねえなあ。本当なら、みんなには焼きたてを食わせてやりたいところなんだけどな……。」
 燐が勇み足で台所に向かおうとする。雪男はその姉の肩を掴んで引き止めた。
「姉さん。さっきから嬉しそうだね。嬉しいのは手紙だけじゃないんでしょ?」
 燐はむふふと息を漏らして満面の笑みを浮かべた。
「加藤さんって常連の人がいるだろ。」
「帰るところさっき見たね。」
「その人が町の直売所の人に俺のクッキーを勧めてくれてさ。そこにうちのクッキーが並ぶことになったんだ。」
「へえ……。」
 雪男は姉の肩から手を離す。それじゃあ頑張りなよと言って、これ以上台所に向かおうとする姉を引き止めることなかった。
 
     *   *   *
 
「燐ちゃんから手紙来たんか。」
 勝呂に手渡された紙片をひらひらと見せながら、志摩はイタズラっぽく笑う。勝呂の手の中にはまだまだ分厚い便箋の束があった。
「元気にはやっとるらしい。」
 ぶっきらぼうに勝呂は応える。その声音の固さに志摩はこめかみを押さえた。
「えーとなあ……。もうちょっと、はしゃいでもええんやないの?」
「恥ずかしいわ。あほう。」
「燐ちゃんのこと、好きな癖に。」
「…………………。…………………。あ。理事長宛の手紙が混じっとる。」
「ちょちょちょ。坊? 何気なく話題変えよう思っとるみたいやけど、却って不自然やから!」
 志摩は部屋から逃亡しようとする勝呂の肩を掴む。勝呂は振り向きざま志摩をぎろりと睨んだ。
「志摩。俺はな……。」
 反射的に睨んでしまったのに気付いたのか、わざと目線を下げて目を伏せる。
「俺は、あいつのこと好きかどうかまだ……決めかねとる。でも逢いたいって、いつも思ってる。」
「あー。そう。」
 逢いたいといつも思うこと自体が、そういうことなのではないかと志摩は思っている。本当にこの人は奥手で素直じゃない。一昔前の少女マンガを読まされている気分だ。その奥手っぷりに志摩は力が抜けていく。そんな志摩が見えていないのか、勝呂は言葉を続ける。
「だから。今度逢いに行こうと思う。祓魔師の資格も互いに取れたし。」
「え? 北海道まで逢いに行くんか。」
 勝呂家の長男は奥手な割には行動派だった。勝呂は正面を向いて志摩に耳打ちする。
「学校はなんとか誤魔化して休むつもりやけど。」
 志摩は思わず涙ぐんだ。変態みたいに真面目な坊に、学校を休んでまで逢いたい彼女が出来たことに、ものすごく感動している。あの勝呂のことだから冬休みにとか言い出しかねないところなのに。
「わかった。坊。俺協力するわ。」
「協力は、しなくてええけど。」
 
     *   *   *
 
 燐は今日も甘い匂いを漂わせている。それはクッキーを沢山焼いているから。自然とその匂いが服に染み付いてくる。クロはその匂いが大好きだった。それ以上にクッキーを焼く燐の優しげな顔が大好きだった。
「りん。クッキーやくとき、いつもうれしそう。」
「これで金貰ってるからな。」
「かねがうれしいのか?」
「金そのものじゃなくて……。貯めた金でやりたいことがあるんだ。」
 クロは燐の言葉に首を傾げた。
「やりたいこと?」
「この金でみんなに会いに行くんだ。しえみに志摩に、子猫丸に。出雲に。勝呂。」
 勝呂って呟いた瞬間の燐の顔は、恋する少女が浮かべるものだった。しかし恋を知らない猫又には、微妙に分からないわずかな変化だった。
 燐は家庭用オーブンレンジから、何回目かの焼きたてクッキーを取り出して、次の生地を焼きにかかる。家庭用で作るとなると一回ごとに出来上がる数は少ないが、何回も焼いていく内に、クッキーは皿の上でこんもりと山を作っていた。
「いちまいもらっていい?」
「ほいっ。」
 プレーンのクッキーを一枚だけクロに手渡す。クロは嬉しそうにそれを口に咥えた。
 
 その様子を雪男はドア越しに聞いていた。姉が自分の見てる前では言わない本音を聞いて、確信する。
「やっぱり貯めたお金の使い道はそうなるか。」
 学園のみんなに。勝呂に逢いたい。そんな姉の気持ちが雪男にとっては耐えられない苦痛になる。
 雪男は姉が大好きだ。昔からずっと、姉を守りたいと願っていた。いや、姉を独占したいと言うのが正しい。姉をこの世界のどんなものからも遮って、二人きりで過ごして死んでいきたいと思っていた。その為に祓魔師になった。姉に反論の隙も与えない交渉と工作でここまで辿りついたのに。やっとそんな毎日を一年続けられたのに。
「勝呂君。君が悪いんだよ。」
 姉はあくまでまだ「みんな」に逢いたいと言っている。でも姉をここまで駆り立てたのは一人しかいない。勝呂竜士。姉はこの男に恋している。
 その証拠に姉はどんどん可愛く、綺麗になっている。髪も伸ばして雪男以外の人間からも、女の子らしくなったと言われるようになった。義父が生きていたらさぞ、その変化を喜んでくれただろう。でも雪男は喜べない。その変化をもたらしたのは自分じゃなくて勝呂だからだ。
 自分の選んだ方法がけして、姉に希望を与えるものじゃなかったことは分かってる。でもこのやり方が一番、姉を守るのに確実だった。何せ姉が惚れている勝呂は現時点で姉に何もやってあげられてない。網走行きが決まってなければ、姉はとうの昔に殺されている。雪男のやったことは姉の命を救っている。でも何故か負けた気分になっている。
「姉さん。」
「雪男っ。ノックくらいしろよ。」
「台所に入るのにいちいちノックする人はいないよ。」
「そうかもしれねーけど。」
 今のところ姉の収入源はこのクッキーの山だ。貯金はあるだろうけど、本土に渡るほどじゃない。そして姉は任務に赴くこともある雪男と違って、みんなに逢う以外の本土に行くための名目がない。この生活は短く見積もって半年くらいは続くだろう。
 燐という姉は、自分から逃げおおせられるはずがない。逃げる前に自分が捕まえて閉じ込めるつもりだから。その為なら泣かせても叫ばせてでも、最後には諦めさせる。
それに反対する人間は騎士団の内部には、恐らくいない。可哀想と思わないわけじゃないけれど、これが姉を取り囲
む現実だ。雪男が閉じ込めて守っていることで、姉はなんとか人間らしく生きている。要は姉さえ自分を受け入れてくれればいいわけだ。 
そうすれば、二人だけの完全で完璧な、幸せの世界が確立される。
 姉の初恋が勝呂に行ったことだけは残念だったけど、この先何十年かかろうと忘れさせてみせる。
雪男は歪な決意を胸に、姉に笑顔を見せた。
 





文通すらも雪男に把握されてる現状です。この雪男の悪代官が!

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柴仲達
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趣味:
読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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