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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆☆リクエスト企画「ロンド2」 勝燐 燐女体化

Nさんのリクエストで「ロンドの続き もしくは 勝燐♀(←雪男)シリアス」です。大変遅れましてすみませんでした。しかもちょっと尻切れトンボっぽい終わりですが、楽しんでいただければ幸いです。雪男のシスコンっぷりを堪能してください。そしてもどかしい勝呂をあたたかい目で見守ってください。ではでは。




 古いのか古めかしているのか分からない薄暗い廊下で、勝呂の三メートル前を歩く少女がいた。スカートからは長い尻尾が覗いている。しかし少女はそれを後ろめたそうにしないし、隠そうともしていなかった。尻尾を見ている勝呂も、それに動揺することも恐怖することもなかった。
 
『お前。杜山さんや神木に自分からサタンの娘や言うて、話したんか。』
『だって、勝呂が。俺がサタンの娘だって、俺の口から聞きたかったって言ったろ?』
『俺は誰にも言わんつもりやった。』
『え? そうなんだ……。うーん、でも。俺みたいな奴に仲良くしてくれるあいつらには、勝呂が言ったとおり、俺の口から言ったほうがいいって思ったんだ。』
『お前みたいなって、そんな……』
 
 その時の燐の言葉を聞いて、勝呂は絶句した。自分としてはやりきれなさに言った言葉だったのに、そこまで思いつめられているとは。しかし臆病で建前だらけの自分と違って最初は燐に対してどう接していいか分からないようだったしえみも、二三日すれば少々顔を引きつらせながら燐に声をかけた。神木出雲などは、しょっぱなからそんなことは、大したことないと断言までした。祓魔塾の教室のど真ん中で、わざと声を張り上げて勝呂ら男連中に当て付けるかのように、臆病者は嫌いだとまで宣言した。
『俺は別に奥村がサタンの娘やからって、びびっとるわけやないわ!』
 いや、間違いなく、心の中ではびびっていた。あのあと雪男が喧嘩の仲裁に入らなかったら、どう収拾をつけるべきか自分でも分からなかっただろう。そんなことがあった日の晩が今夜だった。
「びびってないって、言ってくれてありがとう。」
 誰もいない廊下で燐は勝呂に振り返った。後ろで尻尾が揺れている。雪男から燐がサタンの娘だと知らされたあと、ただ自分は燐を責めるようなことしか言わなかったのに。そんな燐を受け入れたしえみと出雲そして、塾をやめたはずの一般人の朴の変わりない友情のお陰で、燐はもう自分の秘密を隠す気がなくなったらしい。堂々とありのままの自分を晒している。それがなんだか、言いようのない神秘的な雰囲気を纏わせていた。月明かりのせいもあるんだろうか?
「杜山さんも、神木も凄いなあ。」
 勝呂は呟いた。
「うん。勝呂の言葉のお陰。」
「いや。女子連中の凄さは俺には関係あらへんし。」
 燐はそうじゃないんだよなと勿体ぶりながら言う。
「しえみが言ってたんだけどさあ。後から大変なことが起きて、そのどさくさで知ってしまうより、燐の口から聞いて知った今のほうが断然良かったって。本当に友達なんだって思えて良かったって。そう言ってた。出雲は、あんたの有り余る欠点に比べたらサタンの娘ってことぐらい大したことないわよだって。朴も俺の中身が総入れ替えするわけじゃないから、全然構わないって。でも俺って、勝呂にああ言われなくちゃ、雪男やメフィストの言われるまま秘密にしてたと思う。そんで。ばれたとき、もっとみんなと気まずい思いをしたんじゃねえかな。ほんと。勝呂のお陰。」
 何を言うんやこいつはと、勝呂は思わず燐から目を逸らす。その言葉こそ臆病な勝呂の心を救ってくれているのに。勝呂の言葉を、晒すのが怖い秘密を打ち明ける勇気に変えたのは、純粋に燐の力なのに。本当に女はたくましい。
「燐……。」
 勝呂は大股で三メートルの距離を一メートル以内までに縮める。勝呂の言葉を勇気に変えた燐のようにならなくちゃいけないと思ったから。
「お前はアレから、俺のことどう思ってる?」
 燐の前に立った勝呂を燐は上目遣いで問いかけた。勝呂はすぐには返事が出来なかった。
「あいつらみたいに俺のこと、受け止めてくれるなんて甘いこと考えてるわけじゃないけど。」
「なんでいきなり他人行儀っぽくなるんや。」
「じゃあ、友達って思ってていい?」
 燐はスカートのポケットから畳んだ紙を取り出した。それを大事そうに広げる。
「志摩が、女子と違って僕たちは何もなしで友達だと宣言できないからって、こんなの書いてくれたんだ。」
 その紙には、奥村燐の友達リストと銘打たれて署名が複数あった。志摩廉造。三輪子猫丸。宝――。
「あいつまで署名してたんかいっ。」
「うん。勝呂に一番に書いて欲しかったけど、俺勇気出なくて。それで勝呂が最後になったんだ。」
 燐は勝呂に紙を見せびらかしている。
「友達でいいよな。俺、そう思っていいんだよな?」
 勝呂は戸惑った。
「名前、書いてくれる?」
 署名をすれば確実に燐の孤独を癒せるだろう。だけどそうではないんだと、勝呂は下ろした手を硬く握った。
「俺は、それに名前を書けへん。俺はお前のこと普通に友達やと思うてへんから。」
 え? っと小さな声を上げて、燐は目を見開いた。その大きな目がじんわりと潤んでいく。
「やっぱり、俺のこと嫌い。」
「違うわ! 俺は男やぞ。ほんでお前は、女子やろうが。そんならお前のこと、普通に思うとらん言うたら、友達と違うやろ。」
 燐はなかなか繋がらない電話のように、目を泳がせながら勝呂の言葉を理解しようと苦戦している。痺れを切らして勝呂は燐の右手を乱暴に取る。
「ごめん。俺馬鹿だから、勝呂の言ってることまだよく分からない。」
「それ馬鹿やなくて鈍いんやろうが。」
 俺はと勝呂が続けようとした時、黒い影が燐の背後にいて、燐の肩に両手を置いていた。
「奥村さんも勝呂君も夜の校舎に遅くまで留まっているのは、校則違反ですよ。」
 対面の自分の目線の先には、燐の双子の弟・雪男がいた。
「雪男。」
 姉の気まずそうに伏せた顔に対して、雪男はあくまで優しげな笑みを浮かべている。
「姉さん。心配したよ。早く寮に帰らないと。」
 燐を連れて帰ろうとする雪男に、勝呂は食い下がるように言った。
「若先生。もう少しだけ燐と話させてもらえませんか?」
 雪男は勝呂を振り返る。霜が降りたかのような冷たい目だった。
「前にも言ったとおり、姉は悪魔なんです。そんな名前で呼ぶような親密さが許されるような身の上じゃないんです。君なら自重してくれると思ったんですけど、案外一番危険だったようですね。」
「危険? なんやそれ。俺の言おうとしたことが最初から分かっているような言い草やけど。」
「そうです。大体は予想がついています。君がもしその続きを口にしたなら、姉は自分では望んでいない罪を作ることになる。」
「罪ってなんや。」
「人間を誑かす危険な悪魔だと、騎士団に認識されます。」
 勝呂は雪男の影に隠れている燐に目をやった。ふるふると震えて誰かに助けて欲しいけど、雪男がいるからそれを口に出せないようだった。しかし震える口元で燐は雪男に縋るように言った。
「ごめんなさい……。そんなつもりじゃなかった。雪男。ごめんなさい……。俺が全部悪いんだ。」
 弟に泣きながら謝っている燐が、さっき友達に打ち明けて良かったと喜んでいた少女とは同一人物だと勝呂には思えなかった。また泣き顔にさせてしまった。数日前のあのときのように。
 雪男は目の前の泣き顔の少女が本当の燐だと言わんばかりに、優しげな口調で言い聞かせている。
「本当に気をつけてよ。高校生になって初めて友達がたくさん出来てはしゃぐ気持ちも分かるけど、姉さんは悪魔なんだよ。そこの線引きはしっかりしなくちゃ。」
 勝呂は胃袋あたりに怒りがふつふつと煮えるのを感じていた。
 悪魔やから? 友達が出来てはしゃぐのは分かるけど自重しろ? 誰かに異性として好きって言われることが罪になる?
 目の前で雪男は燐を抱き寄せている。
「大丈夫だよ。姉さんには僕がいるから。」
 そして勝呂のほうを再び振り返る。
「君の実家は騎士団に所属していますよね。君には立場があるはずだ。君の実家の再興のためにも、今言おうとした言葉は考え直して欲しい。」
 そして雪男は付け加える。
「それが姉のためにもなるんだ。」
 雪男はつかつかと燐の手を引っ張って廊下の向こうに消えていく。燐は何度か勝呂を振り返るが、雪男に背中をぽんぽんと叩かれる度に前を向かされていた。勝呂は行き場のない言葉と手をどうすることも出来なかった。
 
     *   *   *
 
 寮の自室のドアを開けて、雪男は乱暴に燐の腕を引っ張って部屋に押し込めた。
「もうこれ以上姉さんを、他の男の目に晒すのは危険だ。」
 雪男は燐が大切そうに握っている紙切れを不愉快そうに見ている。この紙に署名した男どもは、あくまで今は友達だと誓約しているようだが、その署名してある誰が第二第三の勝呂になるか分からない。
「雪男。俺本当にそんなつもりはなかったんだ。」
 雪男は燐の肩を掴んで乱暴に揺さぶる。
「そんなふうにしおらしく泣いて見せるから、勘違いした男が引き寄せられるんだよ!」
 雪男は燐が持っている紙切れを破いてしまいたい衝動に駆られて、燐から紙を取り上げる。
「こんなもの……」
「やだ! 雪男!」
 燐は雪男に取り縋って紙を握っている手を両手で握り締めた。雪男はその行動に目を奪われる。もしこの紙を破いてしまったらと嗜虐的な気持ちになったが、それ以上に優しい言葉で甘やかしたくなった。
「……。本当に姉さんは、男心をそそるよ。その健気なところとか、純粋なところとか。」
 雪男は取り上げた忌々しい紙切れを燐の手に握らせてやる。
「勝呂君はその紙に名前を書かないって言ったんだろ。つまりそういうことだよ。」
 雪男はざまあみろと勝呂を嗤ってみる。姉が目の前で紙を胸の前で握りしめている。まるで抱きしめるように。
「姉さん。もう泣かないで。僕がきつく言い過ぎた。姉さんは悪くない。」
 しゃくり上げる燐が雪男を見上げる。
「じゃあ、勝呂も悪くないよな。」
 それには雪男の笑顔が引きつる。しかしここで勝呂が悪いといえば、姉はまた泣き出してしまう。
「あ、ああ。そうだよ。勝呂君も、悪くない。」
 今のままなら二人はずっと罪を犯さないで済むんだと、雪男は姉に言い聞かせる。実は雪男自身に言い聞かせているのかもしれないが、燐は安堵したかのように涙を拭った。
「俺のせいで勝呂が悪いんじゃなくて良かった。」
 本当に純粋で健気でいじらしくて、だから誰にも触れさせたくない。
『三年後なんて悠長なことは言ってられない。』
 一刻も早く燐を誰の目にも届かないところに閉じ込めてしまわなければ。
 雪男の言葉に気を許したのか、凭れ掛かって眠そうにしている姉をベッドに運ぶ。そして手を握って髪を撫でながら寝付かせたあと、雪男は上層部へメールを送った。
 
『至急、網走赴任の辞令を受けたし。』






すみません。すみません。本当に仕事のシフトとかイベントとかで遅れてしまって、すみません。話としては、受けたときから考えていたのですが、書く時間が取れませんでした。これに懲りずにまたリクエストいただけるとうれしいです。リクエストありがとうございました。

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☆☆リクエスト企画ss「パンタグリュエル」勝燐

木音さんのリクエストで「勝燐で燐に勉強を教えるはずが、途中で飽きた燐の構って攻撃に負けてちょっとだけ休憩するつもりが、勝呂の方が勉強以外で燐を構うことに夢中になってしまう。楽しかったけど、しまったと後悔する的な勝呂君な話」です。
少しニュアンスが変わってしまってすみませんでした。




 朝洗面所の前まで来ると兄がいた。
目の前にある鏡に顔を近づけている。鏡の表面のすれすれまで近づくと、うぎゃあと叫んで顔を覆っていた。雪男はその様子を立ち止まって見ていたが、兄の右手が上がって拳が鏡に届く前に慌てて声をかけた。
「ストップ兄さん。鏡割っちゃ駄目。」
「あわわ。おっとっと……」
 燐は止めてくれて助かったぜと言いながら雪男から顔を逸らしている。その頬のあたりはまだ赤みが残っていた。どんだけ一人で恥ずかしい思いをしていたんだか。
「勝呂君は兄さんとキスするとき、どんな顔したって気にしてないと思うんだけど。」
「え? お前なんでそれわかるの?」
 雪男は冷めた目をしてわたわたしている兄に言う。
「あんなに何かに顔を近づける行為は限られてるよ。しかもその後もんどりうって恥ずかしがっているのを見れば大体想像つくし。」
「兄貴のそんな姿を見て、そんな冷静に声かけてくんなよ。それにもんどりまでうってねえ。」
 恥ずかしさの上塗りの兄だった。雪男は溜息をつく。
「まあねえ。兄さんが自分の挙動を意識し始めたのは良い傾向だと思うよ。」
 少々皮肉を混じらせた雪男の言葉に燐は噛み付いてくると思いきや、上目遣い(身長差のせい)で、何か問いかけたそうにしている。
「どうしたの?」
「ああ。えーと……。お前最近、俺と勝呂が会ってても目くじら立てなくなったよなあ。身体検査もしなくなったし。」
「僕も頭が冷えることはあるよ。ていうか、身体検査は浮ついている兄さんに対するお仕置きの意味もあったし。」
「そうならそうと口で言ってくれよ! あれ凄く恥ずかしかったんだからな!」
「でも口だけだと、兄さんは堪えてくれないだろうし。反省も進歩も実践型なんだから。」
 燐はかつて自分が雪男に言ったことに反論できずに唸っている。
「勝呂君は基本真面目なんだから、兄さんが悪いほうに誘導しなけりゃ、僕に心配させるようなことをする人じゃないと、最初から分かっていたよ。」
「じゃあ俺がいつも問題だったってことかい!」
 雪男は数秒の沈黙のあと、そうだね何時も兄さんが問題なんだと口にした。雪男としては、自分がいつも腹の中に溜め込んでいるある思いも込めていた。燐はそれを理解出来ないまま、そうかよと落胆していた。
 本当にこの兄は何も分かっていない。自分のことさえも碌に理解していない。
「さっきの鏡の前の奇行を見たら想像できるんだけど、今日も勝呂君に迷惑をかけるつもりだったんじゃないの? 勉強会の途中で変に彼を挑発したら駄目だよ。もう少しは神妙にしておいたほうがいいよ。」
 説教じみた言葉の中には嫉妬も混じっていたが、前のように爆発することはない。ただ燻っているだけだ。しかし雪男はそれが不快だと感じていない。
「お、おう。きちんと勉強教えて貰うから、心配するなよ。俺だって真面目に出来るんだからな。」
「はいはい。」
 そんな言葉を一ミリも信じていない雪男。
どうせこの兄はまた勝呂に甘えてしまうんだろう。勝呂は勝呂でそんな兄を突っぱねることが出来てないんだから、二人ともお相子だ。つくづく勝呂が理性の塊の男で良かったと雪男は安堵している。だから自分の嫉妬も割りと早い時期に収まったのだろうと思っている。
洗面所をあとにしようとする兄に、雪男は声をかけた。
「勝呂君は父さんじゃないんだからね。」
「なんでそこでジジイが出てくるんだよ。」
「彼はかっこいいけど父さんじゃないから。」
「当たり前じゃん。」
 それ以上は言わない。雪男は頭に疑問符を浮かべる兄を見送った。
 
     *   *   *
 
 今更だが今日は日曜日。全寮制の正十字学園としては何のために全寮制かというと、日曜日にも学業に専念して欲しいという、学校サイドの事情というか理想もある。裕福な子女も多く通うので、未来のエリートを育てるために、わざと生徒を閉じ込める。彼らからすれば経済的には十分可能なはずの娯楽から一歩退かせている。それでも一部の生徒は経済的な余裕すらないので、寮で似たもの同士で愚痴り合うか前向きに勉強するしかない。
 燐は勝呂のお陰で、後者の立場になれた。勝呂がいなければ、ただだらだらと学園内で無駄な時間を過ごして雪男のストレスを増やしていただろう。
勝呂がいるから燐にとっては辛くて堪らない勉強、しかも自主的な勉強も逃げ出さないでいられる。雪男が勝呂との交際を、まあ渋々ながらも黙認しているのは、そういうプラス面がおおいに貢献しているからだった。
「なあ。勝呂。三時間経ったよ? 俺ちょっと休憩していいかな?」
「あのなあ。もう少し考えろや。もうちょっとでこの問題解けるやろ。そしたら楽になれるんやで。化学は解答途中で計算やめるとかなりきついで。」
「うん。」
 勝呂の顔を見上げる燐から勝呂は目を逸らす。計算のややこしさに目を潤ませた燐を見たら、甘やかしたい衝動に負けてしまう。今は勝呂の燐への甘やかしをやんわりと食い止めてくれる子猫丸もいないし、燐と同じ部類で出来ない子な甘やかしたいとは思わない志摩もいない。何かで誰かで誤魔化せない辛さを勝呂は抱えながら自分の勉強も進める。
「もうちょっと。もうっちょっと。はあ……。なあ勝呂。シャーペンで出来たタコが疼くんだけど。そんで、計算してる数字が霞んで見えてきた。」
 手の痛みと、眼精疲労。それがどうしたと勝呂は思った。そんなものは勉強する上では当たり前の副産物だ。目の前で数式が大名行列始めるとか、ピンクの象が見えてこない限りはどういうことないと勝呂は思っている。それぐらいの経験がないと、成績上位者になれないと勝呂は知っている。
そこまでは追い込む気はないが、その寸前くらいは入学して数ヶ月経つのだから、そろそろ頑張って欲しいところだ。でもたぶん今回は無理かもしれない。せめて燐が今やっている問題が解けたら――。
「勝呂、見て。これ合ってる、かな?」
 勝呂は逸らしていた目を燐のノートに向ける。
「まあええやろ。」
「本当!」
 確かに使っている公式を間違えてないし、筆算でのちまちまとした計算も合っている。解答欄は指定された小数点での数値で出されている。勝呂はほっとする。今回は駄目だしせずに済みそうで良かった。
「ほら燐。アメちゃんや。舐めとけ。」
「ありがとう。」
 勝呂はポケットからアメを取り出す。勉強の合間の糖分補給にいつも常備しているものだった。それを個包装を解いて燐の口に放り込む。
「大分出来るようになってきたなあ。一学期の最初はほんま、どうなるか思うとったけど。」
「勝呂のお陰だよ。ほんと。」
「いや。お前の場合、奥村先生いう頭のいい身内がいるんやから。やれば出来るんやないのか。今もちょっとだけ手こずったけど出来よったし。」
 燐はアメをもごもごと口の中でさせながら言う。
「勝呂はわかってない。馬鹿は俺のポリシーだから、変えようがない。」
「かっこつけて言うな。お利口さんになれば色々楽になることもあるんやで。それになあ、俺は普段からお前を馬鹿扱いしとると思われてるかもしれへんけど、ほんまはやれば出来る子やと思ってるから。」
 燐は口の中でアメを噛み砕きながら、それに返す。
「なんか言ってること、うちのジジイみてえ。」
「お前の死んだ親父さんのことか。せやなあ、親の立場やったら俺以上に言うのは当たり前やなあ。」
 うちの生臭坊主とは違うんやなと勝呂は心の中で呟く。あの父親は息子の必死な向上心にまるで理解がなかった。楽なほうに逃がそうとばかりしていた。勝呂が三月に高校へ進学のために京都を出る直前まで。
 しかし燐のいう父親にしても、このやれば出来る馬鹿を追い詰めるまでの厳しさはなかったように見受けられる。実際は甘やかされたんじゃないかと思う。じゃないと同年代の男にここまで甘えてくるわけがない。
 勝呂は何かがチカっと胸に刺さったような気がした。
「勝呂?」
「ああ? なんや?」
 自分の心の中を読まれたのかと一瞬焦ったが、次に自分に向かって伸びてくる腕を見て、勝呂は取り越し苦労を悟った。
「なあ。勝呂ぉ……」
「だからなんや?」
 燐の場合は目だけが物を言うわけではない。全身で訴えかけてくる。いつのまにか離れていた身体がぴたっとくっついているし、顔も異様に近いような気がする。
「ほれ。もうひとつアメちゃん。」
「うん。」
 またひとつアメを口の中に放り込んでやった。嬉しそうに燐はそれを舐めている。アメを催促されていたように解釈した振りをしたが、無邪気そうな顔をして燐の勝呂への接触はますますエスカレートしようとしていた。
 こいつ。何気に俺のダムを決壊させるつもりやな。
 勝呂は燐の行動にそこはかとなく危惧を覚える。口の中で温められた甘いアメの匂いをぷんぷんさせながら、燐はまた勝呂と呼ぶ。右手は膝に、左手は肩にかかっている。もう膝に乗られるのも時間の問題だった。
「燐――。」
「またアメちゃん?」
 やっぱりこいつは分かっとってやっていると勝呂は確信する。最初から巧妙に誘われていた。自分では無意識なのだろうが。勉強に飽きたか疲れたかしてごねるところから、こうやって膝に乗るチャンスを待っていたんだろう。勝呂がそうせざるをえなくなる心理に誘導してしまう。なんだか同じ祓魔師候補生相手に失礼極まりないが、もの凄く悪魔的な何かを感じさせる。
「アメでもいいけど俺。なあ、勝呂?」
 悪魔の甘言なら突っぱねて拒絶する。しかし悪魔のような好きな相手の誘いならどうだろう? 
「あかんなあ。」
「何が?」
 それには答えずに勝呂は燐の腕を引いて抱き寄せた。
「勝呂……」
 燐はくすぐったそうに身じろぐ。その感触が余計に勝呂の心の何かをくすぐってやまない。
「勝呂。キス……」
「わかっとるわ阿呆。」
 こうやって憎まれ口を叩かないとやってられない。勝呂は燐に覆いかぶさるとその口に自分の口を重ねる。まだ甘いアメの味が残っていた。
 
     *   *   *
 
「あーあ……。雪男に注意されてたんだけどな。」
 甘ったれ男の弟の名前を耳にした途端、勝呂は背筋が震えた。
「奥村先生、なんか言うたんか?」
「あんまり勝呂を挑発して迷惑かけるなって。」
 勝呂は内心どこまで把握されてるんやと思った。それ以前に意外とこの兄弟はツーカーなのだと再認識した。
「俺は迷惑やと思わんけど。」
「そうだよな。抱きついてきたのは勝呂が先だったよな。」
 それは、ちゃうやろ。勝呂は雪男の心配の意味を読み取った。迷惑はかけられたつもりはないが、どこまでも対処に困る誘いはあったと思う。
本当にこの目の前の馬鹿は、巧妙な心理戦のようなものを仕掛けて、見事に勝ちを取っていく。言うなればアレのような。
「悪魔、か……」
「なんか言った?」
 にこっと笑った口元から尖った犬歯が覗く。犬歯にしては鋭すぎるように見えた。
「気のせいやろ。」
 ちょっと二重写しに見えただけだ。いるわけがない数式の大名行列やピンクの象が見えたようなものだ。それは勉強疲れの脳が見せたものじゃない。色ボケした脳が見せたものだから。だから燐が、とんでもない大悪魔に見えてしまうんだ。
「ちょっと怖なるわ。お前のこと。」
 散々キスしたのにまたキスしたくなる。
「大丈夫。俺ただの馬鹿だから。」
「お前のポリシーかい。」
 そしてそれは安全であることの保証だった。その保証を勝呂は信用してみようと思う。
「大丈夫。雪男にはちゃんと勉強してたって嘘つくから。」
 
やっぱり悪魔かもしれないと思った。





前半の雪男は私の都合で付け足してしまいました。すみません。メインのほうもなんだからずれにずれてこんなんになりました。後悔というよりは畏れですかね。
これにこりないで、またリクエストなりくださると嬉しいです。ありがとうございました。
もう一人、リクエスト受け付けているかたがいらっしゃるのですが、もう少しだけお待ちください。そのほかリクエストは21日まで受け付けてますので、お気軽にご連絡ください。

拍手[7回]


20000ヒット

おかげさまで20000来ちゃいました。これもひとえに、ここに来てくださる皆様のおかげです。随分と拙い文章を読ませてしまっていることに、かなり罪悪感めいたものもあります。
でも拍手等を下さる皆様への感謝はっぱないことになってます。いつもありがてえありがえとpc画面に手を合わせています。
そんな私達からの一方的なお願い。またリクエスト企画をしたいと思います。以下が概要です。皆様のリクエスト、心よりお待ちしております。

リクエスト募集期間
8月10日18時から8月21日18時まで
(インテックス大阪の会場でも直接リクエストを受け付けております。作品はサイト掲載)

ジャンル
忍たま、青エク、東方(カップリングと簡単なシチュ指定をお願いします)

リクエストはメールフォームかコメントか、この記事の拍手でお願いします。

拍手[2回]


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HN:
柴仲達
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女性
職業:
会社員
趣味:
読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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