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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆ss「究極鬼畜神木出雲」勝燐+朴出 リクエスト序曲第二幕

けいりんさんすみません。前座第二幕です。




 朴朔子は恋人持ちの男を甘く見ていた。少年漫画の男が読者の少年達に見せる爽やかさを、そのまま信じていたのかもしれない。朴は少年漫画なんぞは読まないが、アニメ化されたテレビの画面をちら見する限りではそのようになっていた。だからなのか、男は些細なことでは動じない生き物だと思い込んでいたようだ。特に女子に対しては多少の理不尽や無法も許されるものだと、心の片隅で思い上がっていたのかもしれない。
 要するに朴は男を侮っていた。
 その証拠に――。
「ぱーくー。」
 頬を膨らませ顔を真っ赤にして涙を溜める出雲が目の前にいた。
「あんた。奥村燐の尻触って、ちょっと気になってたって言ったって、勝呂から聞いた。私が一番大事って言った癖に。」
 勝呂が出雲に先日の出来事をちくったようだ。出雲の言葉からは何らかの誇張表現もない。事実そのままを伝えてくれたようだ。しかしそんなものは何も有難くもなかったが。
「出雲ちゃん。私と勝呂君の言うこと、どっち信じる?」
 柔らかい笑みを引っ込めて少し真剣なふりをしてみる。出雲はじゃあと問い直す。
「勝呂の言ってたことは嘘……」
「じゃないけど。」
「やっぱり奥村に手を出してるってことじゃない!」
 ヤキモチやいた出雲を眺めているのは楽しいが、こじれてしまったら手がつけられないかもしれない。
「ごめんね。おなかが空きすぎたのと同じ感覚だったのかもしれない。だって出雲ちゃんと最近会えないこと多くなったし。」
「時間取れなくなったのは私の所為かもしれなかったけど。それ差し引いても納得出来ない。」
 出雲は相変わらずふくれっ面だ。朴は「困った」と「出雲ちゃん可愛い」が二対八くらいの割合で思案していた。つまりあまり困っていなかった。
じゃあと朴は出雲に提案してみる。その提案を聞いて、出雲が本気で泣きじゃくり始めた。
「やだよ。朴。私男なんて……。」
「出雲ちゃん。私達のことを小学生の頃から続く惰性にしたくなければ、それは必要なことなの。」
 何の屁理屈だと出雲は思った。開き直るにしても、もう少しどうにかならないものかとも思った。
出雲の両手は朴に捕まえられてしまっている。でもその手は出雲を無理に拘束するような力はなかった。まるで振りほどいても構わないというような、どっちつかずさで、そういえば朴はいつもそうだった。あとくされの無い女の子を見つけては、出雲に隠れて遊んでいた。たったひとつ違うのは、今回朴が手を出したのは男だということだった。これは出雲にとって救われることなのか、より一層不安を掻き立てるものなのか。そして朴はそんな出雲に繰り返し告げる。あることを為せと。
「朴……。」
 繋いだ手は朴のほうから離れていく。それを今度は出雲が引き止めてしまった。
「駄目だよ。出雲ちゃん。ちゃんと結論を出してからじゃないと。」
「結論、すぐに出せるから。待って……。」
「すぐに出せる結論なんて意味がないんだけどね。ま、いっか。出雲ちゃん、頑張ってね。」
 
     *   *   *
 
 背中に気配がすると思ったらでかい巨体(日本語的におかしい)が立っていた。またお前かよと出雲は自然と眉間の皴が深くなる。
 
「しつこいようやけど。俺と奥村は実は付き合っとるんや。」
「ちゃんと朴には釘を刺しておいたわよ。これで私は義務は果たしたわけだし、それ以外のことだったらあんたらのことに興味無いし。」
 勝呂もそれはわかっているらしく、溜息をついて頷くだけだった。
そのときの出雲は適当な鍵穴から塾の扉を開ける前のことだった。
 出雲にとってはそんなに親しいわけではない男子のしつこいカミングアウトなど、授業前に聞きたくなどない。
「そないな嫌そうな顔せんでくれ。」
「だからちゃんと朴には言ったってば。私に会えなくてお腹が空きすぎたせいらしいわ。」
「だから言うて、デパ地下の試食やないんやで。奥村は。」
「私も朴にデパ地下の試食で腹を満たされるのは心外なのよ。」
「だから奥村はデパ地下やない!」
「あんたが先に言ってきたんでしょうが! あんたにとっちゃ奥村は、家に用意されてある愛情たっぷりのごはんかもしれないけど、朴にとっちゃ帰り道に簡単につまみ食い出来る程度の扱いなのよ。どう? 安心したでしょ?」
 勝呂は顔を引きつらせたあと、ほっとしたように胸を撫で下ろした。彼の中で何かの落としどころが見つかったらしい。
「すまん。俺はあいつが女にも意識されとるなんて、今までいっこも考えたことはなかったから。」
「私も信じたくなかったわよ。朴がまさかあいつに、手を出すなんて。」
 苦々しげな出雲の口調に勝呂はまあまあと宥めている。
「あんたの用事は把握したわ。もう二度とあんなことにはならないように、朴を監督してくれって言いたいんでしょ。」
 そうやけど、と勝呂は小さな声で呟いたあと、身長差があるというのに屈んで上目遣いでこちらを見てきた。妙に威圧感を感じさせた。本人はそのつもりはないだろうけど。
「なあ。奥村って、女の目から見ても可愛いと思うか? その、特殊な趣味の女から見たら。」
 なんだかんだで出雲は加害者側の関係者なので、そのくらいの被害者からの素朴な疑問は親切に答えてやろうかと思った。
「あんたみたいにごつくないしね。身長と体重の比率の割には、どこもかしこも小作りでまあまあ整ってるし。」
「なんか玄人並みの鑑定やな。」
「褒める筋合いの無い男を褒めようと思ったら、それなりに曖昧で無難なとこを選ぶわよ。可愛いなんてはっきり言いたくないし。」
 勝呂はやっぱりなあと呟きながら、眉間の皴を深くする。出雲は言い返す。
「私に恋人自慢しようとしても無駄よ。どんな男にだって興味ないから。」
「お前はそう言うやろうと思ってた。」
 その言葉に出雲はかちんときたが、勝呂は気づく様子はないので続けて訊く。
「でもあいつに、男女で共通するようなええところがある場合、どうやろ?」
「男女で共通?」
 確かに出雲は消極的に軽くではあるが、奥村燐の可愛さを認めた。しかしそれを勝呂に額面どおりに受け取られるのは、少し納得がいかないところだった。
「正直言うてくれや。奥村は可愛いか?」
「可愛いでいいわよ。あんた私にそう言わせたいんでしょ?」
 可愛いと認め口に出すのは癪だが、この話の流れでは可愛くないと否定するほうが難しくなっていた。否定したら無限ループに陥りそうな気がした。
「神木。お前猫好きやろ? 奥村はな、なんか触ったら猫みたいに柔らかい感じなんや。目かてちょっと釣り目で……。」
「あんた何時の間に人の嗜好を嗅ぎつけてんのよ。そんなこと言ってたら気になってくるじゃないの。あいつが。」
 出雲にとって猫に例えられてしまうと、ちょっとふらふらと引き寄せられるような気がする。勝呂は再び「やっぱりな」と言いながら一人で納得している。
「誘導尋問っぽくやって一人で納得しないでよ。鬱陶しい。」
 勝呂は俯いた目を今度は天井に向けて、はあっと溜息を吐いた。
「ごめん。志摩や子猫にはよう言わんというか、知られとうないから、お前に話すしかないんや。」
 そんな宛てのされ方は嫌だ、それになんだか上から目線が入っていると思った。しかし前触れが無さ過ぎる二度目のカミングアウトの理由が分からない。しかし困ったことに勝呂の話を嫌だという気分になれない。こいつも意中の相方のことで悩んでいる奴なんだと、不覚にも共感しそうになる。
 それを認めるのが嫌で、出雲はここぞとばかりに釘を刺す。
「勝呂。私はあくまであんたを振り切れないから、こうやって話を聞いているだけ。恋人自慢がこれ以上長く続くようなら。」
「どうするんや。」
 勝呂は怖気づいたように少し後ずさる。そして出雲は言う。
「まあ、聞いてやってもいいわよ。だけど長くなればなるほど、私の中のあんたへの評価が、知らない内にだだ下がりするだけだからね。」
 冷たく言い放ったつもりでも勝呂はほっとしたような顔をしている。心証などどうでもいいようだ。
「せやな。もうそろそろ本題いかんと。――お前のように奥村を可愛いと思っとる女子いうて、結構おるんかな? ほんで、女子に限らずやけど、やっぱり、あいつのこと可愛い思う男もおると思わへんか?」
「うざ!」
 これだけは幾らなんでも言うまいと思っていた一言が、うっかり口をついて出た。自分の意思にまるで背いて出た。
「あんた自分の彼氏のこと、かいかぶりすぎてるんじゃないの!」
「やって、俺、奥村先生に言われたことがあるんや。実の兄が好きやて。」
 出雲はふらふらと眩暈がしたようにドアに凭れる。奥村雪男の兄に対する態度も薄々は怪しいと思っていたが、まさかのまさかだった。
「あんたそれ口外厳禁な秘密なんじゃないの。」
「いや。ええわ。どうせ奥村先生には、俺とあいつのことをやっかんで言われたことやから。」
「あんたの人間関係もややこしいわね。そうね。ただの恋人ののろけを聞かされるよりは、気分は悪くないわ。……とりあえず。歩きながら話しましょう。じゃなきゃ優等生が二人揃って遅刻する羽目になるわ。」
 出雲は鍵を使って塾の中に入る。勝呂もそれに続いた。しかし今日に限って塾の教室の中には誰も来ていなかった。背後にはまだ何か言いたそうな勝呂の気配がする。
「もう少しだったら、あんたの愚痴ぐらい聞いてやるわよ。」
 朴が勝呂に気の毒な思いをさせたことには、わずかながら申し訳ないと思っている出雲だった。うざいうざいとは思っていても、そんなうざくとも心配性な彼氏を持つ燐が羨ましく思えた。それにしてもデリケートすぎる。目の前のゴリラは。
「おおきに……。奥村先生のことが吹っ切れたと思うたら、今度は朴さんやから。」
「朴のほうが奥村先生より手ごわいと思うわよ。手が早くて油断がならないって点では。でも私がさせないけどね。」
「頼む。そうしてくれ。」
 勝呂は椅子に凭れてぐったりしている。よほど溜め込むものがあったらしい。
 やっぱり男同士の付き合いも爽やかじゃないようだ。それを知っただけでも出雲はなんだか楽になれるような気がした。あの優等生な奥村雪男と勝呂竜士からして、そうなんだから。
「男子のことなんか眼中にないけど、女子界隈で言えば、やっぱり燐のほうは、優等生な弟である奥村先生の評判の影に隠れちゃってるところはあるわね。朴が奥村燐に目をつけたのは、たまたま私が朴を塾に誘ったせいもあるし。塾に通っていない女子なんて言う及ばずだわ。あんたにとっては安堵して良いとは思うわよ。女子に関しては。あんたにとってのお邪魔虫が、いい感じに隠れ蓑になってくれているから。男子にしても高身長で高成績で好感度高い奥村先生のほうが注目されやすいでしょ。奥村先生は有名人だしね。」
「どっちにしろ奥村先生のお陰か。」
 最後のほうではどうしても複雑な心境になってしまうらしい勝呂だった。口を歪めて苦笑いしている。
「ほんで。これは俺のことになるんやけど。燐は俺のかっこいいとこ好きや言うんやけど、お前は俺のことかっこいいと思う?」
 出雲は腹からせりあがってくるマグマのような衝動を覚える。勝呂のはにかんだような顔がそれに拍車をかける。そしてそれは堪えきれずにドロドロに融けた溶岩やら水蒸気やらガスが言語に変わり、出雲の口の中で暴れている。悩み相談かと思えば今度はのろけかよ。出雲は勝呂の前で足を踏み鳴らし、指を突き出して宣言する。
「かっこいいですって? あんたが? 寝言は寝てから言って欲しいわ。さっきまでのあんたの言動のせいで、奥村燐の言うかっこいいところが全部台無しになったわよ!」
「うわああああ!」
 勝呂の断末魔の声に出雲は冷笑を浮かべる。
「奥村先生が、あんたと私のここ十数分の会話を聞いていたとしたら、どう思うかしらね?」
「そ、それは……」
「言われたくなきゃ今度の詠唱の小テスト、わざととちりなさい。」
「えー。そんなこと出来へんわ。というか、まだ気にしとったん!」
「あったりまえでしょ。あんたみたいなゴリラに負けた私の気持ちなんて。実はさっきの会話、録音してたの。私のとこだけ音声を加工して、旧寮のポストに匿名で投函しても良くてよ。」
 出雲はスカートの脇のポケットに手を突っ込んでいる。そこにレコーダーがあると勝呂に主張しているようだ。
 
 勝呂は明らかに顔色を失くしている。その足元に目をむけてみたら、小刻みに震えていた。
「う、うそやろ。そんなことせえへんよな。神木は。」
「私性格悪いからー。あ。それと蝦蟇との鬼ごっこも兼ねた体力テストも私に負けるのよ。ふふふ。これで私が塾で随一の秀才になれるわ。」
「俺みたいなゴリラに体力で勝って嬉しいんか? お前は?」
 出雲はにやりと笑う。
「やるの? やらないの? どっち?」
 出雲の顔はさっきまでの親身さを完全に投げ捨てていた。代わりに酷薄な笑顔を向けている。勝呂が詠唱のテストでとちって、追いかけっこに敗北すれば、確実に祓魔塾は出雲の天下だ。この小テスト二つをピンポイントで狙ったのは、この二つこそが一番確実に勝呂の面目を潰すことが出来るテストだからだ。
「お前は顔に似合わず、いや、顔どおりのいけずな性格やったんやな。」
「馬鹿ね。私の貴族的な麻呂眉はね、権謀術数に長けているという相という意味よ。」
「麻呂眉にそないな意味があったんか!」
 勝呂が目を回している。凄く可哀相で愉快な光景だった。
「ふふふ。日本では仏教より神道のほうが歴史が古いのよ。新参のあんたら坊主なんかに、巫女の血統の私に負けるわけにはいかないわ。」
 そこまでして勝ちたいのか、しかも宗教を持ち込むかと勝呂は思った。
「そこまでして勝ちたいわけじゃないわよ。そっちの方向に性格悪いわけじゃないから。」
 出雲はポケットから手を出して広げてみせた。そこには何もなかった。
「さっきまでの言動を奥村先生にちくるつもりは、はなから無いわ。詠唱もとちる必要もないし、追いかけっこも全力出していいわよ。感謝することね。」
「え? 全部冗談やったん?」
「確認しないでよ。それよりも、何も条件なしで愚痴聞いたりのろけ聞いたりした私に、何か言うべきことがあるんじゃない?」
「すまん?」
「謝るくらいなら、最初から言わなきゃいいじゃない。」
「わ、わかった。おおきに。やな?」
「やな? が余計。」
「お……おおきに。」
 勝呂は足早に出雲から離れるといつもの自分の席について、ひどくお行儀よく座っていた。しかし出雲はそれを見てさして何も思わない。恋心には罪がないからだ。
 そんな哀れな心配性うざかっこ悪い奥村燐の彼氏を見ていると、朴に課された課題をこなすのに、ほんの少し躊躇する理由が出来てしまった。しかしやらねばならないと出雲は思った。
 
     *   *   *
 
神木出雲が自分とは異性であるところの男を意識したのは、実に十五年の人生に於いて初めてのことだった。
「奥村燐……。」
 今は祓魔塾の授業中なので奥村燐は前方の席で教師にテキストで頭をはたかれている。馬鹿には後頭部にも表情があるのか、またやっちまったというような軽い反省が窺えた。教師もいつものことなので「しっかりしろよ~」などと慣れた口を聞いている。高くも低くもない声で「すみませ~ん」と返す燐の言葉に周囲は、苦笑しながらもほのぼのとした空気が漂う。
「先生! 燐は、ちゃんと頑張ってるんだよ。」
 しえみが大真面目に燐を庇うのもいつものことだった。出雲はそんなのは学期の初めには気にもならなかったのに、今日になって今更のようにイライラしてしまう。小学校の低学年ですら男子女子の間には壁があるはずなのに。燐としえみの間にはうす膜くらいしか見えない。
『どいつもこいつも……。』
 そんなお子チャマコンビのしえみと燐を暖かく周囲は見ている。まるで幼い孫を見守る好々爺の眼差しじゃないかと出雲は思った。こいつらはそんな心に余裕のある奴らだったのかと疑問が沸いてくる。でもいつのまにか、教室の雰囲気はそんなふうになってしまっていた。
 呆れながらも小声で燐に答えを教えようとしていた勝呂竜士の気配にも出雲は気づいていた。今回はその手助けが間に合わなかったようで、彼のわずかな落胆がまた教室の空気を微笑ましくさせている。
 そういえば、最初の頃は奥村燐に噛み付く勝呂竜士に、わずかながらに同感するところのあった出雲だった。多かれ少なかれ目的があってこの正十字学園に来た自分や勝呂にとっては、奥村燐のような、どこの学校の一般クラスにも一人や二人はいるような落ち毀れの存在が塾にあることに辟易するのは、どれにおいても専門職を志す者にとっては当たり前な心理だろう。
しかし。自分と同意見だったはずの勝呂が燐に篭絡されたと聞いたとき、『まあ、あいつは顔は可愛いからな。』とか『馬鹿で稚拙な子ほど可愛いってことだろう』とか『自分と違って勝呂は世話が焼ける馬鹿は可愛いんだろう』とか、自分のなかのもやもやを誤魔化した。
 奥村燐は可愛い。
自分の性格の悪さを自覚すればするほど、燐の言動や人間性の可愛らしさが浮き彫りになる。でも燐の場合は、可愛げが人間的な甘さや要領の悪さに通じるところがあって、詰まるところ自分のような摺れた人間には、ある意味眩しくて直視に耐えない。
 直視出来ないから斜めに見る。でも上手くいかない。今まで他人のことなど知ったことではないと思っていた自分が、特定の人間について、今更粗捜しめいたことなんか出来ない。そういうのは、友達と連帯感を深める道具として他人を異質がって笑いものにする連中と同等になってしまうからだ。
『そうよ。私は元々、そんな連中に異質がられて笑われるほうの人間だったじゃない。』
 悔しいがそれが幼い頃から心に留めていたアイデンティティの一つだった。滅多なことでは他人に興味を持たずに済んで、詮索せずに済む言い訳みたいなものだった。
 
『神木さんは他人に構って欲しいから、見えるはずがないのに「わざと」悪魔が見えるなんて言っちゃうんだ。』
『おっかしー。』
『そんなこというから誰にも相手にされなくなっちゃうんだよ。』
 
 嫌なことを思い出した。
あの頃は縋るような気持ちで誰かに分かって欲しかったのかもしれない。その「わかって欲しい」と思うことが、かっこ悪くて惨めであるという陰口を他人から引き出してしまうと知ってから、神木出雲は孤独をしょうがないと諦めた。朴以外のことに関しては。
『私は奥村燐が羨ましいだけよ。』
 この塾にいる人間は全員に当てはまると言っていいほど、やはり多かれ少なかれ、人とは一風違うものを抱えている。奥村燐にも、そういうところがあるのかもしれない。「かも」というのは消極的に見積もった結果で、あの男が一般生徒の中に溶け込んでいるところなんか想像出来ない。黙って普通にしていても浮いたように見える。
 反対に祓魔師の中でも最年少という異彩を放つ彼の弟は、ごく普通に優等生で普通の社会に溶け込めている。出雲は一般に溶け込める彼こそを羨ましく思うべきじゃないのかと、いつも思っていた。
一般に溶け込める彼も祓魔師になるくらいだから、出雲のように尋常でない過去を過ごしたに違いない。でもそれは幾重にも塗り固められた笑顔で完全に隠れてしまっている。それはそれで努力の賜物で尊敬せずにはいられない。でも正直、前述の感想を裏切ってとても羨ましいとは思えない。 
何故ならそんな変わり者集団の祓魔塾生達の心を一つにしているのは、燐やしえみのような、人間的馬鹿甘な連中だったりするのだ。出雲だって、馬鹿のように他人を信じる人間を進んで裏切りたくないと思ってしまう程度にはあの馬鹿たちに毒されていた。
純粋な善に対して、条件付の偽善のほうがよっぽど楽なのにと、出雲は苦々しく思う。たぶんあの志摩廉造あたりは同じことを考えている同類じゃないかと、出雲は勝手に想像を膨らませていた。
ふと机の上を見ると、誰かからのメモが置いてあった。志摩がにこにことこちらを見ている。
『気が合うってわけじゃないんだから。』
 メモには『あんじょう堪えたってや。』と書いてあった。同類だとこちらが思っていると、志摩はそれを嗅ぎつけるタイプらしい。同性だったら、うっかり友達になっているような存在かなと出雲は溜息が出る。
 またいつの間にかメモがある。今度は『思うとることが、顔にものすご出とるよ。』だった。思わず出雲は手で顔を覆った。
 すごく複雑な心境だった。同じ女子同士なのに分かって貰えなかった自分の悩みを、まさか自分とは相容れないと思っていた、不真面目そうに見える男子に察して貰えるとは思わなかった。
『朴が試してみてって言ったのって、こういうこと?』
 対抗意識や偏見だけで男を見るもんじゃないと叱られた。朴が急に奥村燐に接触したことで出雲が目くじらを立てたからだ。我ながら思い出すと異常だったと思うヒステリーだった。
でも朴はいつものように穏やかに、そんな出雲を受け流して悪びれもしなかった。
『出雲ちゃんは私が男子に興味を持ったのが、わけわかんないわけだよね。でも私は意味のないことはしないよ? これは出雲ちゃんのためでもあると思うんだ。』
 何が私のためだよと出雲は怒鳴りたくなる。しかし言い返せなかった。感情的なことばかり言って朴に嫌われるのが怖かった。ならば朴に騙されたつもりで、朴と同じことをしてみるほうがマシだと思った。
 今はやはり朴の言ったことは正しかったと認めるのは癪だ。意識を変えて見れば、本命の奥村燐の他に志摩にさえ、自分に相容れる部分を見つけてしまった。
 
 授業が終わるチャイムが鳴る。彼はきっと今日も弟としえみと三人で帰路に着くだろう。それか勝呂らと勉強会でもするのだろうか。
「私はそんなのに参加するわけじゃないし。」
 どうせ誘われないしと自らに言い訳しながら教室を出る。そのとき一歩先んじて宝が先に出た。宝と目が合う。宝は出雲に向けて人形を翳した。
『言いたいことがあるなら、さっさといえ!』
 宝の人形の指は燐のほうを指差していた。あいつにと言わんばかりに。
「言うだけじゃ済まないから悩んでんのよ。」
『そうか。』
 宝はそそくさと廊下を小走りで進んでいった。
「はあ……。やっぱり実行しなきゃいけないかしら。」
 もやもやする気持ちを晴らすには、斜めから見ているだけでは駄目だということは明らかだった。正面から奥村燐に対峙するしかない。
 
 


次回完結予定です。前座のですが。次回予告「最終回・完全鬼畜杜山しえみ」。

拍手[4回]

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柴仲達
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会社員
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読書、二次創作
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忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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