幸福雑音
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☆ss「ロンド」長編⑤ 勝燐♀+雪男
「あ、危なかったぜ。」
よろよろと燐はベッドに倒れこむ。その枕元にクロがいた。
「タイマン勝負なんて何年かぶりだったからよ。気合の出し方思い出すのに、ちょっちかかっちまった。」
どこからかクロが燐の側に寄ってくる。
「りん。はくりょくすごかった。ゆきお、うごけなかった。」
「見てたのかよ。お前はよ。ちょっと派手な姉弟喧嘩だったけどさ。」
雪男が聞いていたとしたら、後で涙で枕を濡らしそうな台詞だった。渾身の告白が姉にとっては弟がちょっとごねたぐらいにしか感じなかったらしい。
「あいつには散々迷惑かけたと思ってるし。俺もそろそろあいつ頼みっぽい生き方はやめるべきだな。」
またも雪男が聞いたら、縋りつきたくなる決別の言葉だった。
燐は何一つ弟の気持ちを分かっていなかった。そして最悪のルートの一つを、その気もないのに回避したことにも気づいていなかった。
「それを改めて考えたら、俺はこの網走で、ほけほけとシスターしてる場合じゃないような気がしてきた。」
雪男の掛けた心理的な心の枷は燐の中でどうとでもなる、ちゃちな存在になっていた。所詮頭の中で考えていただけのことがいつまでも計算どおりに嵌ってくれるはずがない。日々の暮らしの中では、いつのまにか色んな価値観が刻一刻と生まれるのが当たり前だから。
「雪男のここ一年の説教の中では、今日のがすっげえ堪えたんだ。わかるか? クロ。」
「うん。なんかわかるような気がする。」
猫又の言葉に燐はうんうんと頷いている。
雪男の言うように、かつての仲間たちはいつまでも学園にいてくれるわけじゃない。正十字町にもいてくれるかどうかも分からなくなる。そして悪魔に関わる頻度が高くなれば、燐に対する見方も変わってくるかもしれない。
「あんなふうに言われちゃったらな、流石の俺もめげそうになったぜ。」
燐はベッドのマットの下から一枚の紙を取り出す。それを眺めて燐は笑みを浮かべる。七つの名前が並ぶその紙は、燐の宝物だった。そしてその紙に書かれてない名前の持ち主を思い出す。
「勝呂――。」
「すぐろなまえない。」
「いいんだよ。名前なくても。」
猫又のくせに字が読めるなんてと燐は呟く。どうせ暇つぶしにジジイが教えたんだろうと結論づけた。
「あいつ、俺のこと今どう思ってるのかな?」
燐が再び呟くと同時に部屋のドアがノックされた。
「姉さん?」
「雪男?」
燐はドアのほうに向かおうとしたが、弟の声がそれを制止した。
「開けなくていいから。僕、今姉さんの顔見たら、何するか分からないから。」
「ええ? まだなんかあるのかよ。」
「な、なんにもないよ。」
それならいいんだと燐は安堵する。
「姉さん。頭ごなしに言ったことは謝るけど、僕の言ったことも可能性が無いわけじゃないと、ちゃんと理解して欲しい。それこそ姉さんが人間に失望するのは、僕だって見たくないから。どうしてもって言うなら、ヴァチカンが認めるような上位の祓魔師になってからなら、みんなに会ってもいいんじゃないのかな? たぶんあと、最低でも六年いや、五年くらいかかるかもしれないけど。」
雪男からすれば、五年も経てば勝呂にしても燐にしても、相手への思いが薄れているのかもしれない。雪男は希望的な観測のもとに、燐へ告げた。
「うーん。そうかもしれねえな。」
「好意的に取って貰えて嬉しいよ。」
それじゃ。雪男はゆっくりした足取りで部屋の前から去っていく。燐はベッドの上のクロのほうを向いて話しかけた。
「あと五年だってよ。」
「ごねん。あっというま。」
「お前にとっちゃな。」
でも俺は違うんだよ。燐は天井を見上げて、「うん」と一人で頷いた。
「クロ。俺やっぱ、あいつらに……、勝呂に会いにいくわ。」
学園に戻って、みんなに会って、そのとき自分に湧き上がった心のままに後のことは考えればいいやと開き直る。当然雪男はそんな燐を許さないだろうが。しかしここで躊躇ったら駄目だと燐は決めた。
燐は自前のリュックサックに、持っていた紙と何枚かの着替えを詰め込む。
「夜冷えるかもしれねえからな。」
壁に掛けていたシスターの衣装に着替え、その上からジャケットを羽織る。そして一年間封印していたも同然の降魔剣を手に取る。
リュックを背負って燐は台所に向かった。さっきまで雪男と口論をしていた厨房のシンクの上の小さな照明をつける。
暗い光の中にぼんやりと浮かぶのは、白い布に覆われた使われないスペース。それに掛けられた布を燐は一気に剥がした。
「くくく……。ははは。ふはははは! あっはははは!」
まさしく悪魔というような哄笑が響く。燐の目の前にあるのは、十キロ単位の小麦粉が詰まった袋の山だった。
「クッキーはダミーだったんだよ。雪男。俺の本当の収入源は、この小麦粉を使って作った、うどんやラーメンだったんだ!」
傍らに使い込まれた麺棒も何本か立て掛けられている。調理台には、面積の広いまな板。そして麺打ちのための大振りな包丁も布の下から覗いていた。
「出雲に感謝しなくちゃな。」
網走に行く前に燐は、出雲から一つだけアドバイスを受けた。
『何があっても、先立つものは金よ。自分の自由になる金を確保しときなさい。』
恋する乙女は手段を選んでいられない。
雪男の目を盗んで麺打ちに勤しみ、悪魔級の体力を生かして大量生産した麺を、地元の幹線道路沿いのドライブインに卸していたのだ。週二回ごとのペースだったので、本業のシスターやダミーのクッキー作りにも支障は来たさない。そして夜中にリヤカーを括り付けた自転車で十キロ先のドライブインに出荷していた。
二人だけの教会なので、雪男の知らない死角が意外とあったのが幸いした。しかも雪男には任務という外出があったので、教会に来ることのない地元民との交流が、燐が思っているより少なかった。なので、このような奇妙なシスターがチャリを転がしているという評判も知られずに済んだ。
もともと短期の荒稼ぎのつもりだった。雪男にばれそうになればすぐに撤退する予定だった。運良く今日までばれずにいたので、旅費三回分は貯金できている。思えば長い一年だったと燐は小麦粉の袋を眺めながらしみじみと思い出していた。
それを空の上から観測する悪魔がいた。今は厨房の火元は全て沈黙しているので、外とあまり温度差のない窓ガラスは曇りもせず、灯りの点いた中の様子は丸写しだった。
「兄上。兄上はこのことを言ったのですか?」
抑揚の無い声でアマイモンは言う。
「あのクソ妹は、どうやらこの修道院を抜け出す算段をしていたようですね。」
「クソって……。言いたくなる気持ちは分かりますよ。私はあの末妹が大人しくしているはずがないと、彼女の懐中の蛇である策士な弟が狡猾に企てた幽閉状態を看過していましたから。」
「だから。兄上はあのクソ妹が周りから押し付けられた状況を、ぶち壊す瞬間を待っていたのでしょう。」
メフィストは笑う。
「どうしますか。アマイモン。こうやって私とずっと実況解説役を務めますか?」
「………。」
アマイモンは爪を噛んでいる。メフィストはこういう時のアマイモンの操縦法を心得ていた。
「いや。じゃあ私が可愛いメフィスト犬の姿であの妹のお供についていきますよ。」
メフィストは犬に変身する。
「待ってください。僕がいきます。」
アマイモンは立ち上がった。犬化したメフィストを愛おしそうに抱える。
「兄上は節操がなくて下らないものがお好きですけど、僕はそんな兄上のことを、物好きもいい加減にしろとか、いい子にしている僕のほうを構えとかは思いません。ですが、兄上直々にあの妹を構うのはやめて欲しいです。」
「わんわん。(お前も余程のもんじゃないですか。)」
メフィストとアマイモンが話している間にも、修道院の厨房にいた燐は我に返っていた。
「そうじゃなかった。俺、クッキー取りに来たんだった。」
燐は冷蔵庫にしまったクッキーを取り出して、保存用の缶に移した。三つの大きな缶に厳重に封をして、それもリュックに詰め込んだ。
そして何を思ったのか、同じように冷蔵庫にあった三角錐型の牛乳パックも何個か入れた。帰ってくるまでに賞味期限がきたらまずいとでも思ったらしい。日常的なことに無頓着な雪男がうっかり飲んでしまってはいけないと、妙な姉心だった。
「りん、みんなにおみやげか?」
「そう。クッキーはな。牛乳は、途中で飲めばいいだろ。手紙にも書いてあったし、志摩の奴に食わせてやらなくちゃな。」
「すぐろは?」
燐はいきなり真っ赤になって顔を覆う。
「そんなことより。急がないと。」
燐はなるべく足音を立てないように、教会の玄関とも呼べる礼拝堂に急ぐ。途中で雪男に置手紙でもしようかと思ったが、そんなものを置いていっても行き先は特定されるし、後から確実に叱られるので、潔く何も伝えずに出て行くことにした。
「チャリは、使わないでおこう。」
夜の闇が隠してくれるのでとクロのほうを振り向き頷く。クロも待ってましたとばかりに、本来の巨大な姿に変わった。
「りん。せなかにのれっ。」
「おう! じゃあ駅まで頼むわ。」
クロは燐と一緒に暇な時には地図や路線図を見ていた。いつかは本土に渡るのだから、道を知っているのは損ではない。 しかし二人のいう駅の意味は、とてもざっくばらんで、適当そのものだった。
「とにかく始発まで走って、行き着いた駅から電車を使おう。それなら雪男に特定されずに済む。」
「りん、わるがしこい。あくまみたい。」
「悪魔なんだよ。俺は。」
二人は夜の闇に溶け込んで初雪がまだの網走の道を走り抜けた。
「まったく一年も待たせて。……まあ、いいでしょう。」
犬になったメフィストはいつのまにか地面に下ろされている。そして一人取り残された。
姉さん印のうどんは竹さんの発想です。柴はクッキーまででした。
よろよろと燐はベッドに倒れこむ。その枕元にクロがいた。
「タイマン勝負なんて何年かぶりだったからよ。気合の出し方思い出すのに、ちょっちかかっちまった。」
どこからかクロが燐の側に寄ってくる。
「りん。はくりょくすごかった。ゆきお、うごけなかった。」
「見てたのかよ。お前はよ。ちょっと派手な姉弟喧嘩だったけどさ。」
雪男が聞いていたとしたら、後で涙で枕を濡らしそうな台詞だった。渾身の告白が姉にとっては弟がちょっとごねたぐらいにしか感じなかったらしい。
「あいつには散々迷惑かけたと思ってるし。俺もそろそろあいつ頼みっぽい生き方はやめるべきだな。」
またも雪男が聞いたら、縋りつきたくなる決別の言葉だった。
燐は何一つ弟の気持ちを分かっていなかった。そして最悪のルートの一つを、その気もないのに回避したことにも気づいていなかった。
「それを改めて考えたら、俺はこの網走で、ほけほけとシスターしてる場合じゃないような気がしてきた。」
雪男の掛けた心理的な心の枷は燐の中でどうとでもなる、ちゃちな存在になっていた。所詮頭の中で考えていただけのことがいつまでも計算どおりに嵌ってくれるはずがない。日々の暮らしの中では、いつのまにか色んな価値観が刻一刻と生まれるのが当たり前だから。
「雪男のここ一年の説教の中では、今日のがすっげえ堪えたんだ。わかるか? クロ。」
「うん。なんかわかるような気がする。」
猫又の言葉に燐はうんうんと頷いている。
雪男の言うように、かつての仲間たちはいつまでも学園にいてくれるわけじゃない。正十字町にもいてくれるかどうかも分からなくなる。そして悪魔に関わる頻度が高くなれば、燐に対する見方も変わってくるかもしれない。
「あんなふうに言われちゃったらな、流石の俺もめげそうになったぜ。」
燐はベッドのマットの下から一枚の紙を取り出す。それを眺めて燐は笑みを浮かべる。七つの名前が並ぶその紙は、燐の宝物だった。そしてその紙に書かれてない名前の持ち主を思い出す。
「勝呂――。」
「すぐろなまえない。」
「いいんだよ。名前なくても。」
猫又のくせに字が読めるなんてと燐は呟く。どうせ暇つぶしにジジイが教えたんだろうと結論づけた。
「あいつ、俺のこと今どう思ってるのかな?」
燐が再び呟くと同時に部屋のドアがノックされた。
「姉さん?」
「雪男?」
燐はドアのほうに向かおうとしたが、弟の声がそれを制止した。
「開けなくていいから。僕、今姉さんの顔見たら、何するか分からないから。」
「ええ? まだなんかあるのかよ。」
「な、なんにもないよ。」
それならいいんだと燐は安堵する。
「姉さん。頭ごなしに言ったことは謝るけど、僕の言ったことも可能性が無いわけじゃないと、ちゃんと理解して欲しい。それこそ姉さんが人間に失望するのは、僕だって見たくないから。どうしてもって言うなら、ヴァチカンが認めるような上位の祓魔師になってからなら、みんなに会ってもいいんじゃないのかな? たぶんあと、最低でも六年いや、五年くらいかかるかもしれないけど。」
雪男からすれば、五年も経てば勝呂にしても燐にしても、相手への思いが薄れているのかもしれない。雪男は希望的な観測のもとに、燐へ告げた。
「うーん。そうかもしれねえな。」
「好意的に取って貰えて嬉しいよ。」
それじゃ。雪男はゆっくりした足取りで部屋の前から去っていく。燐はベッドの上のクロのほうを向いて話しかけた。
「あと五年だってよ。」
「ごねん。あっというま。」
「お前にとっちゃな。」
でも俺は違うんだよ。燐は天井を見上げて、「うん」と一人で頷いた。
「クロ。俺やっぱ、あいつらに……、勝呂に会いにいくわ。」
学園に戻って、みんなに会って、そのとき自分に湧き上がった心のままに後のことは考えればいいやと開き直る。当然雪男はそんな燐を許さないだろうが。しかしここで躊躇ったら駄目だと燐は決めた。
燐は自前のリュックサックに、持っていた紙と何枚かの着替えを詰め込む。
「夜冷えるかもしれねえからな。」
壁に掛けていたシスターの衣装に着替え、その上からジャケットを羽織る。そして一年間封印していたも同然の降魔剣を手に取る。
リュックを背負って燐は台所に向かった。さっきまで雪男と口論をしていた厨房のシンクの上の小さな照明をつける。
暗い光の中にぼんやりと浮かぶのは、白い布に覆われた使われないスペース。それに掛けられた布を燐は一気に剥がした。
「くくく……。ははは。ふはははは! あっはははは!」
まさしく悪魔というような哄笑が響く。燐の目の前にあるのは、十キロ単位の小麦粉が詰まった袋の山だった。
「クッキーはダミーだったんだよ。雪男。俺の本当の収入源は、この小麦粉を使って作った、うどんやラーメンだったんだ!」
傍らに使い込まれた麺棒も何本か立て掛けられている。調理台には、面積の広いまな板。そして麺打ちのための大振りな包丁も布の下から覗いていた。
「出雲に感謝しなくちゃな。」
網走に行く前に燐は、出雲から一つだけアドバイスを受けた。
『何があっても、先立つものは金よ。自分の自由になる金を確保しときなさい。』
恋する乙女は手段を選んでいられない。
雪男の目を盗んで麺打ちに勤しみ、悪魔級の体力を生かして大量生産した麺を、地元の幹線道路沿いのドライブインに卸していたのだ。週二回ごとのペースだったので、本業のシスターやダミーのクッキー作りにも支障は来たさない。そして夜中にリヤカーを括り付けた自転車で十キロ先のドライブインに出荷していた。
二人だけの教会なので、雪男の知らない死角が意外とあったのが幸いした。しかも雪男には任務という外出があったので、教会に来ることのない地元民との交流が、燐が思っているより少なかった。なので、このような奇妙なシスターがチャリを転がしているという評判も知られずに済んだ。
もともと短期の荒稼ぎのつもりだった。雪男にばれそうになればすぐに撤退する予定だった。運良く今日までばれずにいたので、旅費三回分は貯金できている。思えば長い一年だったと燐は小麦粉の袋を眺めながらしみじみと思い出していた。
それを空の上から観測する悪魔がいた。今は厨房の火元は全て沈黙しているので、外とあまり温度差のない窓ガラスは曇りもせず、灯りの点いた中の様子は丸写しだった。
「兄上。兄上はこのことを言ったのですか?」
抑揚の無い声でアマイモンは言う。
「あのクソ妹は、どうやらこの修道院を抜け出す算段をしていたようですね。」
「クソって……。言いたくなる気持ちは分かりますよ。私はあの末妹が大人しくしているはずがないと、彼女の懐中の蛇である策士な弟が狡猾に企てた幽閉状態を看過していましたから。」
「だから。兄上はあのクソ妹が周りから押し付けられた状況を、ぶち壊す瞬間を待っていたのでしょう。」
メフィストは笑う。
「どうしますか。アマイモン。こうやって私とずっと実況解説役を務めますか?」
「………。」
アマイモンは爪を噛んでいる。メフィストはこういう時のアマイモンの操縦法を心得ていた。
「いや。じゃあ私が可愛いメフィスト犬の姿であの妹のお供についていきますよ。」
メフィストは犬に変身する。
「待ってください。僕がいきます。」
アマイモンは立ち上がった。犬化したメフィストを愛おしそうに抱える。
「兄上は節操がなくて下らないものがお好きですけど、僕はそんな兄上のことを、物好きもいい加減にしろとか、いい子にしている僕のほうを構えとかは思いません。ですが、兄上直々にあの妹を構うのはやめて欲しいです。」
「わんわん。(お前も余程のもんじゃないですか。)」
メフィストとアマイモンが話している間にも、修道院の厨房にいた燐は我に返っていた。
「そうじゃなかった。俺、クッキー取りに来たんだった。」
燐は冷蔵庫にしまったクッキーを取り出して、保存用の缶に移した。三つの大きな缶に厳重に封をして、それもリュックに詰め込んだ。
そして何を思ったのか、同じように冷蔵庫にあった三角錐型の牛乳パックも何個か入れた。帰ってくるまでに賞味期限がきたらまずいとでも思ったらしい。日常的なことに無頓着な雪男がうっかり飲んでしまってはいけないと、妙な姉心だった。
「りん、みんなにおみやげか?」
「そう。クッキーはな。牛乳は、途中で飲めばいいだろ。手紙にも書いてあったし、志摩の奴に食わせてやらなくちゃな。」
「すぐろは?」
燐はいきなり真っ赤になって顔を覆う。
「そんなことより。急がないと。」
燐はなるべく足音を立てないように、教会の玄関とも呼べる礼拝堂に急ぐ。途中で雪男に置手紙でもしようかと思ったが、そんなものを置いていっても行き先は特定されるし、後から確実に叱られるので、潔く何も伝えずに出て行くことにした。
「チャリは、使わないでおこう。」
夜の闇が隠してくれるのでとクロのほうを振り向き頷く。クロも待ってましたとばかりに、本来の巨大な姿に変わった。
「りん。せなかにのれっ。」
「おう! じゃあ駅まで頼むわ。」
クロは燐と一緒に暇な時には地図や路線図を見ていた。いつかは本土に渡るのだから、道を知っているのは損ではない。 しかし二人のいう駅の意味は、とてもざっくばらんで、適当そのものだった。
「とにかく始発まで走って、行き着いた駅から電車を使おう。それなら雪男に特定されずに済む。」
「りん、わるがしこい。あくまみたい。」
「悪魔なんだよ。俺は。」
二人は夜の闇に溶け込んで初雪がまだの網走の道を走り抜けた。
「まったく一年も待たせて。……まあ、いいでしょう。」
犬になったメフィストはいつのまにか地面に下ろされている。そして一人取り残された。
姉さん印のうどんは竹さんの発想です。柴はクッキーまででした。
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自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
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