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    <title>幸福雑音</title>
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    <description>女性向け二次創作サイト。
イベント参加情報もここに載せています。
オフは忍たま、オンでは青エク中心。</description>
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    <dc:date>2013-07-09T13:32:13+09:00</dc:date>
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    <title>☆「ポケモンデイズ⑤後編」主♂チェレ</title>
    <description>　たまには自分から電話をかけてみたほうがいいのかもしれない。だけどとても恐れ多いことだと思って手が止まってしまう。そうこうしている内に鳴ってしまったライブキャスターに慌ててしまうトレーナーを見て呆れているジャノビ―を横目に、チェレンは電話を取った。
「も、もしもし。」
『チェレン。まだ寝てないの...</description>
    <content:encoded><![CDATA[　たまには自分から電話をかけてみたほうがいいのかもしれない。だけどとても恐れ多いことだと思って手が止まってしまう。そうこうしている内に鳴ってしまったライブキャスターに慌ててしまうトレーナーを見て呆れているジャノビ―を横目に、チェレンは電話を取った。<br />
「も、もしもし。」<br />
『チェレン。まだ寝てないのかのう。年寄りも夜更かしの最中じゃ。』<br />
「アデクさん。こんばんわ。あ、あのですね。今ヒウンにいるんです。ジムは留守にしてたようなので、街をいろいろと。」<br />
『またアーティのやつめ。いつまで人妻に片思いしとんじゃ。』<br />
「え？　人妻？」<br />
『ん？　チェレンもそういうのに興味あるんか？』<br />
「そ、そそ、そんな。」<br />
　ほぼ毎晩と言っていいくらいアデクはチェレンに電話を掛けてくる。最初の一回目か二回目に他に話し相手ならアデクさんにはいっぱいいるでしょうと尋ねてみたことはあった。しかしアデクは苦笑いしながらこう言った。<br />
&nbsp;<br />
『儂、若いもんに説教されるジジイだから。チェレン以外には怖くて電話出来ないんじゃ。』<br />
&nbsp;<br />
　だからって毎日自分を狙い打たなくてもとチェレンはライブキャスターに映った情けないチャンピオンの顔を思い浮かべる度に吹き出しそうになる。<br />
　もしかしたら成人してからポケモントレーナーになったチェレンが物珍しいからかもしれない。たとえそうであったとしてもチェレンはアデクからの電話をいつのまにか楽しみにしていた。<br />
「そのかわりにバトルカンパニーに寄ってみたんですよ。」<br />
『社長には会ったのか？』<br />
「はい。」<br />
『相変わらず、あの風体なのかのう？』<br />
「清掃員さんだと最初思っちゃいました。」<br />
　やはりの！　アデクは腹を抱えて笑っていた。釣られてチェレンも笑ってしまう。<br />
『こうやって電話で話すのもいいものだが、また直接チェレンと会って話してみたいものだな。』<br />
「&hellip;&hellip;はい。」<br />
　チェレンはアデクの次の言葉を待っていた。どこかで待ち合わせて会えるなら会いたい。アデクはその場所を言ってくれれば、その場に出来るだけ早く駆けつけるのにともチェレンは思った。<br />
『うーん&hellip;&hellip;。』<br />
　アデクは少し迷ったように髭の生えた顎を擦った。<br />
「あの。」<br />
『まあ、またどっかで会えるじゃろ。』<br />
「そ、そうですね。」<br />
　少しチェレンはがっかりする。しかし前にも何か理由があってイッシュを放浪していたと聞いていたから、その関係もあるのだろう。<br />
『ところでチェレン。チェレンの周囲でプラズマ団の噂は聞かないかのう？』<br />
「プラズマ団ですか？」<br />
『今リーグ内で要注意組織になりそうな連中なのじゃが。』<br />
「僕の、同郷のトレーナーが夢の跡地でバトルになったと聞きました。」<br />
『なんと、それで？』<br />
「話を聞いた彼も直接は関わってなかったみたいなんですよ。彼が駆けつけたときには、直接かかわった彼女&hellip;&hellip;彼女も同郷なんですけど、その人がムンナを苛めていたプラズマ団員を追い払った後だったらしいんで。」<br />
『やはり活動範囲がカラクサから北上しておるのか。&hellip;&hellip;奴らは一度撃退されれば、その町からは撤退するらしいかのう。お前さんもその頼りになる強い幼馴染とまめに連絡を取って、なるたけ近くにおったほうがいい。』<br />
「僕だって大丈夫だと思います。」<br />
『それはそうなのだが、チェレン。年寄りの言うことは聞くもんじゃぞ。それにチェレンからのそういう情報を少しはあてにさせて欲しいんじゃ。』<br />
「あなたと僕とのことを幼馴染たちに言ってもいいでしょうか？　その毎日電話してるとか。」<br />
『いや。そんな内緒にすることじゃないじゃろ。チェレンは儂の大切な電話仲間じゃ。』<br />
　どんだけ人を誑し込めば済むんだろうか。このジジイは。チェレンの頭の片隅に小さな怒りが火を灯した。どうせ僕が思うほど僕のことを思ってもない癖に。そりゃあ出会ったのは一回限りで、あとのやりとりは電話だけなのだから、声高に関係がどうのと言える立場ではない。噂ではかなりなナンパジジイだとも聞く。男の自分が憧れ半分やっかみ半分でぐだぐだしてるなんて思ってないだろう。<br />
『とにかく気を付けるんじゃぞ。チェレンは可愛いからな。』<br />
「かっ&hellip;&hellip;。」<br />
　アデクはばいばいと手を振ると電話を切ってしまった。チェレンは耐えられなくなって夜中のカフェのオシャレなテーブルに突っ伏した。幸いにもテーブルとテーブルの間には仕切りがあったので誰もチェレンの奇行を気に留めなかった。<br />
「かわいいって、言われた&hellip;&hellip;。」<br />
　どうしよう。遥かに年上の男に可愛いと言われて悶絶している現実に危機感を覚えながらも、頭の中はふわふわと幸せだった。<br />
　ジャノビ―はそんなチェレンの頭をぽんぽんと叩いている。このトレーナーは出会った最初は、眼鏡をくいっと片手で上げる仕草が似あうような秀才気取りだったのに、あっというまにジジイに絆されて他の人間に見えないところでの振る舞いが年齢不相応に幼いところを平気でポケモンに見せている。否、ポケモンの前で見栄を張る余裕を、あの赤い鬣のジジイにすっかり奪われているのかもしれない。<br />
　そしてそれは恋なのよと、おばちゃんジャノビ―は言葉が扱えるなら伝えたかった。<br />
「君。君のジャノビーがね、君のその感情は恋なんだよって。」<br />
　チェレンとジャノビ―が顔を上げると、光のない目でＮがチェレンを見下ろしていた。さも初恋に浮かれているチェレンに呆れているかのように。<br />
「き、君は&hellip;&hellip;。」<br />
　カラクサではトウヤにＮと名乗っていた。あのときのＮはチェレンなど眼中にないようにトウヤに全ての関心を注いでいた。今のＮの興味はチェレンに向いているようだが、その目はチェレンを見ているようでいながら、興味も目もチェレンに向けられているとはチェレンには思えなかった。<br />
「それと、ジャノビーは気づいているみたいだけど。君のその眼鏡、伊達眼鏡でしょう？　近眼用にしても遠視用にしても、眼鏡を掛けるとレンズ越しの顔の輪郭が少し歪んで見えるらしいけど」<br />
　Ｎは人差し指をチェレンに向けてチェレンの顔の輪郭を見えるままになぞった。<br />
「君の顔の輪郭は綺麗なままだよ。」<br />
　悪意のある笑みを浮かべていた。チェレンは自分の視力には問題はないのに眼鏡を掛けていることがバレた驚きと、何故それをＮが見破って得意そうにしているのかという困惑に、口をもごもごと動かすだけで言葉が声にならない。<br />
「君の恋の相手はトウヤじゃないみたいだね。だけど眼鏡を外して相手を見れるような思い切りにも届いていない。」<br />
「め、眼鏡は関係ないだろ。それになんでトウヤが&hellip;&hellip;」<br />
　Ｎはふいっと後ろを向いてカフェから出ていく。チェレンもジャノビーを連れてその後を追うが狭い路地裏に無造作に捨ててあった雑誌で足を滑らせてしまった。<br />
「じゃの！」<br />
　ジャノビーはチェレンが足を挫いていないか様子を見た。幸いにも捻挫は免れたがＮの姿はすっかり見失ってしまった。<br />
　もやもやした気分だったが、会計を済ませていなかったのでまた店の中に戻る。路地裏のカフェの店主はチェレンを食い逃げだと疑う素振りすら見せずにチェレンから金を受け取った。<br />
「さっきからライブキャスターが鳴ってたよ。」<br />
「え？」<br />
　テーブルの上の置きっぱなしだったライブキャスターを見ると着信ではなくメールが一通届いていた。<br />
「置きっぱなしだったから見張っといておいてあげたよ。」<br />
　店主はレジから目を細めてチェレンを見ていた。チェレンはぺこりと礼をしながらライブキャスターを手に取った。<br />
チェレンの目に飛び込んできたのは、「トウヤ」「ヒウン」「ジム戦」という単語だった。その文面を始めから目を通す。<br />
『チェレン。トウヤだよ。今からヒウンジムに挑戦する。じゃあね。』<br />
チェレンはレジの後ろの時計を反射的に見たあと店を再び飛び出した。<br />
「なに考えてるんだ。トウヤは！」<br />
　首から上に血が上っていくのがはっきりとわかった。時計は時刻を九時過ぎだと示していた。どんな鷹揚なジムリーダー相手であってもあまりにも失礼な時間帯である。ジムリーダーにしてもプライベートタイムを過ごしている時間だ。そこにトウヤが乗り込むなんて、あの瀟洒なサラリーマンをしていたトウヤにあるまじき行為だった。　<br />
店を出てジャノビーをボールにしまい、ジムの方向へ思わず駆け出そうとしたチェレンの片方の腕を誰かが引っ張った。<br />
「うわっ。」<br />
「捕まえた。」<br />
　チェレンの手を引っ張ったのはトウヤだった。トウヤはチェレンの心配事を他所ににこにこしている。<br />
「トウヤ。メール&hellip;&hellip;。いや、今からジム戦なんて絶対に非常識だからね。」<br />
「分かってるよ。そんなこと。あー、それにしても君がこんなに慌てて出てくるとは思わなかったな。」<br />
　トウヤは少し気まずそうに外から君が見えたからと悪びれたようにイタズラの弁解をした。<br />
「ひどいじゃないか。本気にした僕も迂闊だけど、僕はヒウンジムまで君を止めに行こうとしてたんだぞ。」<br />
「だから冗談が過ぎたからごめんって言ってるだろ。それにしても僕が予想したより君の反応が早かったんで、こっちもびっくりさせられたって感じかな。君だったらメールを見たあと、少し考え込んで渋々仕方なしに僕を止めるメールの文面を考えるか、いやそれじゃヒウンジムで僕がジムリーダーとトラブルを起こしていた場合、僕とジムリーダーの間に入らなければならないかなと考え直してジムに向かうか、くらい程度の対応をされると思ってたからさ。」<br />
「僕はそこまで人が悪いつもりはないよ。」<br />
　同郷者が近くで迷惑をかけたならフォローするくらいの人情はチェレンは持っている。幾ら迷惑をかけたかもしれない同郷者が年上であってもだ。<br />
「そうやって僕が行動を起こすのを予測して観察じみた真似をするなんて、君はそんな奴だったかな？」<br />
　チェレンにしては率直な恨み言だった。トウヤはしどろもどろに振る舞いながらごめんと繰り返している。<br />
「ごめん。本当に悪意があったわけじゃないんだ。寧ろその反対というか、君にとって僕がどれ程かな。なんて試してみたくなって。」<br />
　そんなやり方で試さなくてもとチェレンはトウヤを斜めに見る。そんな試し方をして何が分かるというのか。<br />
「とにかく、ヒウンジムにはもっと常識的な時間に行くべきだよ。僕は朝に行ったけど留守だった。だから明日の朝以降がいいんじゃないかな？」<br />
　トウヤは気まずそうにバッジケースの蓋を開けてチェレンに見せた。<br />
「ごめん。チェレンより先にジムリーダーに挑戦してバッジをゲットしたんだ。僕は前の日の昼にシッポウでアーティさんに会っていたから、彼が今日の昼ごろジムに戻るのをわかっていたんだ。それで昼過ぎに行ってすんなりと挑戦できたんだ。」<br />
　チェレンは一足ヒウンに到着したのが早かったせいでトウヤに出遅れてしまった。昼間のチェレンはバトルカンパニーで連戦していて、ポケモンセンターに戻ったときには既に夕方だった。なので今日はジム戦は諦めていた。完全にすれ違いである。<br />
「もうバッジをゲットしていた癖に。人が悪いな。」<br />
　拗ねたような言い方のチェレンは、でも案外怒っていない様子だった。先にバッジをゲットしたのだから、最初のときのような対抗意識でもっと拗ねられるとトウヤは思っていたが、そういう感情はトウヤのさっきした少し悪質な嘘の反動で薄れてしまっているだけなのだろうか。<br />
いや。感じやすすぎる感性を持ったチェレンが今までとは違う世界に揉まれて、少しだけ鷹揚に構えることを覚えたせいなのかもしれない。そしてやはりチェレンが現在トウヤに内緒にしている人間こそがキーマンだと確定できた。<br />
　トウヤなりの素人プロファイリングでは、その人物はトウヤたちみたいな駆け出しのトレーナーにとって一目置く存在だろう。その癖チェレンを呆れさせるような抜けたところも平気で他人に見せる。だから神経質なチェレンが例の人物との交流おうちに耐性をつけたんだろうと考えられる。しかしその呆れるような姿さえも様になるような存在だ。<br />
そんな人物像に当てはまるのは、ポケモンリーグに関連したジムリーダー以上の実力を持つ、少し風変りな有名人に違いない。しかも野宿ばかりしていたチェレンとばったり出会うようなライフスタイル。もう事情通・情報通のトウヤにはほとんど特定できていた。ただし、その人物はこれだと推理するにはビッグな人物過ぎるかもしれない。<br />
「トウヤは僕をびっくりさせたつもりだけど、僕もトウヤをびっくりさせられることがあるんだ。前言ったポケモンの年齢当てが得意な人なんだけど。」<br />
　トウヤはうんと頷いた。こんなところで立ち話もなんだからと宿のある方向へ誘導する。チェレンも通行人がまだいる道路で立ち止まって名前を明かすことは、たぶん憚れる人物だろうから。<br />
　トウヤはビジネスホテルへチェレンと歩いていきながら、やっと話してくれる気になってくれたんだねと肩を竦めた。<br />
「その人も別に教えたって構わないって。」<br />
「そうなのか。」<br />
「その人は今、プラズマ団について情報を集めているらしいんだ。この前トウヤから聞かされた夢の跡地でベルがプラズマ団に遭遇したことも一応伝えておいた。僕のことが心配だから君たちとも連絡を取るようにとも忠告された。だから――。」<br />
「チェレン。理由とかはどうでもいいんだよ。君はその人物の名前を言えば僕を驚かせると思ったんだろう？　だったらその人の名前を明かしてごらんよ。」<br />
「そ、その人の名前は&hellip;&hellip;」<br />
　さっきまでトウヤと目線を合わせていたチェレンなのに、急に首ごとトウヤから背けてしまった。みるみるトウヤから見えるチェレンの耳が紅くそまっていくのが、トウヤの推理をますます核心に迫らせてしまう。<br />
「チャンピオン。」<br />
　トウヤはえっと大声を出して驚いたように振る舞った。その言葉が出てくることは予測済みもいいところだったが、驚いてやらないとチェレンの打ち明ける決心に釣り合わない。<br />
「チャンピオンって？」<br />
「アデクさんって知ってるよね。」<br />
「他の地方に比べて高齢のチャンピオンで有名なことは知ってる。このごろはイッシュを放浪しているらしいけど、たまたまチェレンが行き当たるなんてなあ。」<br />
　空々しい感想にもチェレンは誠実に受け応えしていた。<br />
「チャンピオンなんだから。それなりの人物だと僕らだったら予測するじゃないか。だけどアデクさんはちょっとどころじゃない変わった人で、いつも何らかで僕はあの人にチャンピオンはこうであれという期待を裏切られたけど、でも、その何倍も素敵なものを持っている人だったんだ。」<br />
「いつも？　そんなにしょっちゅう会うわけじゃないのに？」<br />
　口を滑らしてしまったとチェレンは動揺していた。しかし少し間を置いて白状した。チェレンの地が擦れてなくて素直な証拠だった。<br />
「電話番号を交換して夕方から今くらいの時間まで、そのときに一回連絡を取ってる。いっても、いつも一方的にアデクさんのほうから掛けてくるんだけど、今日は僕のほうから掛けてみようかと思った。だけど結局、アデクさんのほうから掛かってきた。」<br />
　トウヤは表情を変えずに「そう」と頷いた。<br />
「チェレンは要領が悪いな。そんな有名人相手だったら、自分からどんどん積極的に行かなくちゃ。もしかしたらそれが後々有利に働くかもしれないよ。」<br />
「そんなんじゃないよ。」<br />
「&hellip;&hellip;ごめん。サラリーマンだったときの悪い癖だな。ときどき人間関係を損得勘定と秤にかけてしまうのは。チェレンは損得関係なくアデクさんのことを尊敬してるんだろ。」<br />
　敢えて尊敬のところにトウヤはアクセントを置いた。<br />
「尊敬だなんて。いつもあの人には呆れてるって。」<br />
「呆れるところにすら尊敬を見出せる人物こそ、それこそ大人物じゃないか。」<br />
「そうなのかな&hellip;&hellip;？　そんな人物云々っていうより、もっとなんというかふわふわした感じで。好きっていうのかな。」<br />
　トウヤが怪訝な顔をする。チェレンはアデクのことを話し始めてから明らかにテンションがおかしい。もしかすると事態はトウヤが予測していたより、チェレンの中では進行しているかもしれない。アデクの中ではどうか分からないが、毎日電話をしてくるというくだりからして僅かに脈があると錯覚しそうになるが、どうも習慣的になっていると言ったほうがいいだろう。アデクもチェレンに対して同じような感情を少しでも持っているのなら、自分だけが一方的に電話を掛け続けるという現実に少しでも憤りを持つはずである。それをチェレンに軽い恨み言として拗ねてみせるくらいの技術は当然持ち合わせているだろう。軟派で人を誑し込むのが得意な好々爺だという評判からして、トウヤの予測は間違いないはずだ。<br />
「僕がこんなふうに一人で思ってるだけなんだけどね。でも、今日は可愛いって言われたし。はっきりしたことじゃないけど、また会いたいってこと言われたんだ。ねえ。トウヤ？　どうしよう？」<br />
　チェレンが珍しくトウヤを頼って甘えてきた。なんだかんだでトウヤを年上と認識して信頼してくれているらしい。チェレンは世間話の延長線上の相談事と割り切っているつもりだろうが、無意識下に置いた甘え心を垣間見せた。<br />
「チェレン、あのね。」<br />
　トウヤはやはりここで、チェレンの感情が手の届かないところまで一人歩きしないようにしなければと思った。知らず知らずのうちに足早になったトウヤにチェレンは追いすがった。<br />
「ねえ。トウヤ。どう思う？」<br />
　トウヤは黙ってチェレンの手を取る。<br />
「ほら。宿ついたよ。で？　なんだっけ？　僕に話聞いて欲しいんだっけ？　それじゃホテルの部屋でゆっくり話を聞こうかな。」<br />
　トウヤはフロントの呼び鈴を鳴らす。チェレンの手を離さないままホテルスタッフが奥から出てくる短い時間にもう片方の手でチェレンの肩を引き寄せて耳元で囁いた。<br />
「僕も前からチェレンのことを可愛いって思ってたよ。それでね。僕はずっと前から君のことが好きだった。」<br />
　チェレンの身体が固まるのが手に取るようにわかった。奥から出てきたフロントクラークは、お部屋はどれにしましょうかと尋ねてくる。トウヤはいじわるそうにチェレンに問いかけた。<br />
「今日はチェレンは積る話もあるみたいだし、一緒の部屋に泊まろうか。ツインかよければダブルで。」<br />
　チェレンは慌ててトウヤから身体を引き離し、焦ったようにシングル二部屋でと叫んだ。クラークはご友人同士ならツインがお得ですよと勧めてくる。それでもチェレンは譲らなかった。<br />
「ごめん。トウヤ、話はまた今度で。頭の中を整理させて欲しい。」<br />
　トウヤは思った通りの反応を返してきたチェレンにくすくす笑いながら、じゃあ今日のところはお互い一人で泊まろうと話を締め括った。<br />
&nbsp;<br />
<ul>
	<li>
		　　＊　　　＊</li>
</ul>
&nbsp;<br />
　フロントクラークから鍵を一つずつ受け取って、隣同士に配置された部屋に入ろうとする。チェレンが部屋に入ってドアをそのまま戻そうとしたとき、トウヤが押し入ってきた。<br />
「ト、トウヤ？」<br />
　トウヤが後ろ手にドアを閉めると、オートロックがすぐさま施錠してしまった。チェレンが立ちすくんでどうしていいか分からなくなっていると、トウヤはおもむろにモンスターボールをバッグから取り出した。<br />
「なに？」<br />
「今たぶん寝てると思うから静かにしていてね。」<br />
　トウヤはそっとボールからミジュマルを出した。ホテルの備え付けのベッドの上にすやすやとミジュマルが眠っている。<br />
「抱っこしてみる？」<br />
　チェレンはトウヤのほうを振り向いて「いいの？」と小声で訊きかえす。トウヤは頷いてミジュマルを抱っこしてチェレンに差出してきた。<br />
　チェレンはおずおずとミジュマルを抱っこしてみる。白い柔らかい毛がチェレンの手を擽っている。<br />
「チェレンはそういえばミジュマルが好きだったことを思い出してね。ほら。よく読んであげたよね。チェレンがちっちゃいときにミジュマルの絵本を。伝説の白黒ポケモンの絵本より、ミジュマルのお話が好きだった。」<br />
「そんな。昔のことじゃないか。僕はもうあのころの身体が弱くて、みんなを心配させてばかりいた僕じゃない。今更だけどポケモントレーナーになって、バッジもゲットしていってる。」<br />
「そうだね。今のようになるまで、よく頑張ってたね。」<br />
　チェレンは腕の中のミジュマルに顔を近づけてその柔らかい毛皮に頬ずりする。やはり最初のポケモンをミジュマルに決められなかった未練が残っていたようだ。それでこそトウヤの思うつぼだったが、チェレンはわざとトウヤがミジュマルを先に選んだなどとは疑ってもいないだろう。ミジュマルも恋の駆け引きに自分を上手いこと利用されているとは気づいていない。<br />
　自分のような狡い大人にとって、目の前の子どもの純真さは罪悪感の種にもなる。だがそれをトウヤは種のままで芽吹かせることはなかった。<br />
　ミジュマルを抱っこして幸せそうにうっとりとしているチェレンに、トウヤは近づいて声をかけた。<br />
「ねえ。さっきの僕の告白はどう思ってくれてるのかな？」<br />
　幸福感に水を差されたチェレンは少し怯えたようにごめんと呟いた。<br />
「トウヤのことをそんなふうに見たことがなかった。」<br />
　そして少し考え込むように下を向いたあと、何かに気が付いたかのようにトウヤに質問する。<br />
「じゃ、じゃあ&hellip;&hellip;なんでベルと結婚してたわけ？」<br />
　トウヤはそうきたかと苦笑いを浮かべた。<br />
「互いのためかな。ベルの家庭事情は近所でも有名だったし。僕は僕で社会人をしてたから、世間体のためにベルと結婚した。僕もベルもお互いじゃない相手だと、自分の望みは叶えられないとわかってたからね。」<br />
「トウヤの望みって&hellip;&hellip;？」<br />
　トウヤはチェレンに近寄ってミジュマルごとチェレンを抱きしめた。<br />
「僕の好きな小さな男の子が大人になってポケモントレーナーになったとき、彼の側にいて支えたいって願望。」<br />
「そ、そんな動機でトウヤは。馬鹿なのか！」<br />
　Ｎが怒るようなことで、やはりトウヤはチェレンに怒られた。だから自分の馬鹿さ加減は認めるしかない。<br />
「そうだね。僕のポケモントレーナーになった動機は、あらゆることを冒涜して馬鹿にしていたようなもんだ。でもベルも自分の望みのためにそれを了承していたし、ベルも僕たちと同じように十年かかってその望みを叶えた。倫理や道徳には反しているかもしれないけど、僕たちの結婚と離婚には、僕たちの夢が掛かっていたわけだから、許してくれとは言わない。ただそういうことがあったと認めて欲しい。それでね、チェレン。」<br />
　チェレンはトウヤから離れようとしたが、ミジュマルを抱いていたせいで突き放せずにいた。<br />
「君の夢を僕の夢にしたい。二人で同じ道を歩きたい。」<br />
　トウヤはチェレンにそう伝えた。<br />
&nbsp;&nbsp;<br />
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    <dc:subject>ポケモン</dc:subject>
    <dc:date>2013-07-09T13:32:13+09:00</dc:date>
    <dc:creator>柴仲達</dc:creator>
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    <dc:rights>柴仲達</dc:rights>
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    <title>☆「ポケモンデイズ⑤前編」主♂チェレ　アロキダ　アーティ</title>
    <description>　本日はトウコとエンブオーは町の外れの森で野宿だった。本日はというよりは本日もだった。今日も今日とてお捻りを貰ってはいるが、トウコは宿に金を使うような女ではなかった。
「エンブオー。アクロマさんみたいにカレー作ってみたよ。」
　トウコはけしてメシマズではない。平均的に料理はこなせる。ちゃんとポケ...</description>
    <content:encoded><![CDATA[<font style="font-size: x-small;">　本日はトウコとエンブオーは町の外れの森で野宿だった。本日はというよりは本日もだった。今日も今日とてお捻りを貰ってはいるが、トウコは宿に金を使うような女ではなかった。<br />
「エンブオー。アクロマさんみたいにカレー作ってみたよ。」<br />
　トウコはけしてメシマズではない。平均的に料理はこなせる。ちゃんとポケモン仕様に香辛料を控えたカレーを作っていた。<br />
　エンブオーはアクロマの名前を聞いてひくっと顔を引き攣らせたが、トウコにスプーンを渡されると大人しくカレーを食べ始めた。<br />
「エンブオーは本当にお行儀よくご飯を食べるよね。私ご飯の食べ方が綺麗な男の子って好きだな。んー。そういえば、エンブオーはなんでそんなに食べるの上手なの？　普通ポケモンってよっぽどお利口さんだったり、訓練しないとスプーンなんて使えないよね。」<br />
　エンブオーは「え？」というように驚いて泣きそうな顔になった。もう七年くらい前のことだった。旅の途中でチャオブーに進化して二足歩行が出来るようになってすぐの出来事だった。<br />
&nbsp;<br />
『チャオブー。これ持ってご飯食べられるようになりなさい。』<br />
&nbsp;<br />
　わずか十一歳の少女が母親のような口調でチャオブーに言ってきた。<br />
『私、チャオブーと一緒にご飯食べたいの。だけど同じご飯を手掴みだったり犬食いされるのは我慢ならないの。』<br />
　チャオブーは、四足歩行のポカブだったときに直接口で食事を摂っていたことが、まさかトウコにとって不愉快な行為だったとは、このときまで思ってもみなかった。そして二足歩行になったからって即人間のようにご飯を食べる訓練をしろと命令されたことがショックだった。無性に悲しかった。<br />
　だけどチャオブーは健気にトウコに従った。トウコは別に訓練して最初の不器用そうなチャオブーに苛立ったりする様子はなかった。だがその平然とした態度が余計怖かった。腹の中ではさぞや立腹されているのではと、一人前にこぼさずに食事が出来るまで怯えて気が気ではなかった。<br />
　なのに、今のトウコはそんなことを忘れたように、どうしてエンブオーの食事の仕方が綺麗なのかと問うてくる。エンブオーがどれほどの失敗を毎日重ねながら、ここまで食事の仕方が上達するまでの過程を見てきたはずなのに、トウコは無邪気にエンブオーの心を抉ってきた。<br />
「ブオ&hellip;&hellip;」<br />
　今はお馬鹿なトウコも流石に何か悟ったらしい。<br />
「あ&hellip;&hellip;なんか私が言ったんだろうね。あ。思い出した。私そう言えばこう言ったんじゃなかったっけ？　『私の食べ方をよく見なさい。そしてそれを真似するの。これはね、倣るってことの訓練なの。』って。」<br />
　エンブオーは安心する。記憶が抜け落ちるのはよくあることだ。トウコは覚えてくれていた。でもエンブオーはトウコが言った訓練云々は、食事の仕方を改めさせられた時から何ヶ月か経ったあとに言われたんじゃなかったかなと首を捻る。その頃にはチャオブーだったエンブオーはきちんと食事が出来るようになっていた。トウコは比較的新しい記憶の言葉を口にして、忘れていたことを誤魔化しているのではと勘繰りたくもある。<br />
だいたいあの時真似をしろと言ったのは、箸を使って何か野菜の煮物を掴んでみろという、一歩進んだ課題を遊びっ気まじりに提示してきた時だった。流石に箸はエンブオーには無理だったので、トウコはごめんごめんと言いながら、エンブオーの横から箸をスプーンかフォークに持ちかえさせていた。エンブオーも人間のような食べ方に慣れてきたせいもあったが、そのトウコの言い方に以前のようにいつまでも胃をじくじくさせるような怖さは感じなかった。<br />
　そしてそのうちトウコのほうがポケモンっぽいものの食べ方をするようになっていたような気がする。木の実をもいだそばから丸かじりにしたり、ひょいひょい投げながら遊び食いしたり、逆にお行儀の悪さをエンブオーが窘めるようになっていた。<br />
　その当時にはエンブオーの他にもポケモンがいた。<br />
　カレーを食べ終えてトウコは既に片づけもそこそこに眠り込んでいる。エンブオーは当時いた仲間を指折り数えるように指差ししながらふと違和感に気付いた。<br />
「オ？」<br />
　ロコン。ダルマッカ。ヒトモシ。メラルバ。そして自分。いち、に、さん、よん、ご？　なんだか一匹足りないような気がする。だけど誰かがいたはずだ。なのに。そいつの名前が思い出せない。<br />
　エンブオーはトウコに替わって食器を片づけながら首を捻り続ける。トウコのことだからわざと五匹だけで旅をするなんて考えづらい。しかし仲間の種別をいちいち覚えていたエンブオーなのに、どうしても六匹目の名前が思い浮かばない。トウコのことだから炎タイプの可能性が高いけれど、なんだか違う気がする。<br />
　おぼろげながらに見たような記憶は、自分の斜向かいにスプーンを使ってご飯を食べる姿だった。そいつは自分とは違って箸も使えたような気がする。それが無性に悔しくて羨ましかった。どうしてかそいつの姿は分からないのに、当時の感情だけはありありと蘇る。<br />
「エンブオー&hellip;」<br />
　トウコが寝言を言っている。<br />
「エンブオーは心配しすぎ&hellip;&hellip;。」<br />
　夢の中でもアクロマが出てきているのだろうか。ならば自分もこんなぐだぐだしたことを考えずに、トウコの夢の中に駆けつけたほうがいいかもしれない。何せあの科学者は他人の夢の中に入る機械なども発明してそうな気がしてならないからだ。<br />
&nbsp;<br />
　エンブオーは目を閉じた。眠りはすぐにやってきてエンブオーを夢の中に誘ってくれたが、その中に出てきたのは誰だか分からない六匹目と向かい合わせでご飯を食べている夢だった。そしてそいつは言ってくるのだった。<br />
『お前、メシ喰うの上手いな。』<br />
『お前のほうが上手い。』<br />
　エンブオーは答えた。<br />
『いやいやいや。』<br />
　そいつはエンブオーの渋い顔に悪びれることなく、ふざけたように首を振った。エンブオーは少しむっとなって、スプーンを置いた。<br />
『上手じゃないことで褒められるのは嫌いだ。』<br />
『あのさあ&hellip;&hellip;、まあいっか。』<br />
『なんだよ？』<br />
『お前は頑張り屋で謙虚ないいやつってことだよ。』<br />
『俺はただのいじけ虫だよ。』<br />
『炎タイプのくせにっ。』<br />
『いつもいじいじじめじめしてる。炎タイプなんだから湿ってちゃ駄目なのに。』<br />
　六匹目は意地悪そうに笑っていた。<br />
『俺は炎ポケモンじゃねえから。天候には左右されにくいっちゃ、にくいけど。』<br />
『お前はそう言えば――タイプだったな。』<br />
&nbsp;<br />
　顔も姿も思い出せない奴の「タイプ」をエンブオーは夢の中で口にした。だけど目が覚めたら忘れていた。そうかあいつは炎タイプじゃなかったんだ。だけどそれはそいつを特定する手掛かりになり得なかった。<br />
&nbsp;</font><br />
<ul>
	<li>
		<font style="font-size: x-small;">　　＊　　　＊</font></li>
</ul>
<font style="font-size: x-small;">&nbsp;<br />
　トウヤはシッポウシティのポケモンセンター内で、手に持った木の実を見ながら苦笑いを浮かべている。その木の実はチェレンからお裾分けして貰ったオレンの実で、思わずにやけてしまうくらい嬉しい品だが素直に喜べない。<br />
　お裾分けのお裾分けだったからだ。<br />
&nbsp;<br />
『貰い物なんだけど。トウヤも持っていて役に立つかもしれないし。僕が木の実を貰った人が言うには、レンジャーがトレーナーに木の実をわけてやるのは当たり前って話だし。だから&hellip;&hellip;どうぞ？』<br />
&nbsp;<br />
　はにかみながらぶっきらぼうに、不器用可愛く木の実を差出してくるチェレンの好意を、トウヤが断るはずもなかった。<br />
　しかし。その木の実をチェレンにあげた人物は、チェレンがトウヤにその正体を秘密にしている「ポケモンの年齢当てが得意な人」と同一人物だとほぼ確信している。「木の実をチェレンにあげた人」と別人である可能性は限りなく低い。<br />
　チェレンは件の人物に人間として良い方向に毒されてきている。あの子はもっと気難しくて人見知りだったのに。あの子は幼少から病弱なせいで頑なに育ってしまったのに。何をやらかせば、旅先で見かけた知り合いに声を掛けられるようになったり、自分から木の実を分けてあげたいと言い出せるようになれるのか？　チェレンにこれほどの化学変化をもたらすくらいに、その人物はどれほどのチート性能を誇っているのだろうか？<br />
　トウヤはとりあえずミジュマルに木の実を持たせてみた。ミジュマルは喜んでいる。トウヤはミジュマルが勢い余って木の実にかぶりつく前に言う。<br />
「これはね。バトルで体力がやばいって時に食べる非常食なんだよ。」<br />
「みじゅじゅ。」<br />
　ミジュマルは頷いている。トウヤは他のポケモンにも同じように木の実を持たせた。<br />
　木の実を持ったあとの手を嗅いでみると柑橘系の匂いが染みついていた。確かに良い匂いだし、嫌いな匂いでもない。<br />
　トウヤはミジュマル達をボールに戻すと、そのまま施設内のトイレに入って手洗い場で手を洗い始めた。普段は自分は好きでも嫌いでもなく、妻だったベルは寧ろ好んでいたからどちらかというと親しんでいた香りなのに、どうしてかその匂いが手についていると思うとイライラしてくる。石鹸も多めに手に付けて飲食店の店員かというくらい入念に手を洗った。<br />
「よし。石鹸の匂いしかしない。」<br />
　手の匂いを嗅いでトウヤは頷いた。<br />
　この頃はトウヤは狙いすまされたように騒動に見舞われている。シッポウシティに行く途中もポケモンを盗られた女の子の為にプラズマ団のしたっぱと戦う羽目になった。<br />
そしてつい一時間前にはジム戦に向かおうと思いきや、プラズマ団がジム兼博物館に押しいり強盗してきて、ドラゴンタイプのポケモンの頭骨を持ち出そうとした。たまたまそばにいたトウヤも駆り出された結果、なんとか無事に頭骨は奪還できた。<br />
「厄年でもないのになあ。」<br />
　前の厄年の時はお祓いしなくても、今のような巻き込まれ事故的な状況にはならなかった。昔と違って会社という組織に守られている身ではないからかもしれないが、短期間に色々ありすぎである。<br />
「アロエさんやアーティさんを待たせるわけにはいかないし。とりあえず行こうか。」<br />
　ポケモンセンターのガラス張りのドア越しに外を見てみるが、カラクサタウンで偶然にもＮを見つけたような運命のイタズラはもう起こらなかった。それはわかっていたことだ。Ｎはもうとっくにシッポウシティでの目的は果たしているだろう。今頃はヒウンシティにでも向かっていてもおかしくない。<br />
トウヤはＮに関するジム戦などでの公式試合の記録は努めて見ないようにしていた。早すぎはするがもう過去のことにしていた。どうもああいう記録を見ると、自分のペースでやればいいはずのことでも不必要に焦ってしまう。地上を駆けるしかない獣が天を舞う鳥を見上げて、大地の切れ目で遠回りすることに歯噛みするのと同じくらい無意味なことだ。<br />
「遠回り上等じゃないか。そのうち彼は僕の視界からも記憶からもなくなるさ。そしてとっくに彼の視界にも記憶にも僕はもういないんだろうし。」<br />
　トウヤは知らず知らずのうちに、Ｎに対しての自分の立場を弱者に置くことで精神の均衡を保っていた。いや逆にＮを遥か高いところに置いてしまったのかもしれない。<br />
　博物館の中に入るとアロエの夫がいた。猫背ぎみの気弱そうな眼鏡の男はぴょこんとトウヤにお辞儀をする。名前はキダチと言っていた。<br />
「さきほどはありがとうございます。あ、ママが待ってますからどうぞ奥に進んで下さい。今、アーティさんと一緒にお茶飲んでるはずです。どうせならあなたも、一休みしてからうちのママと戦ってみてはどうでしょう？」<br />
　かつての自分のようなサラリーマン稼業ではないこの博物館の副館長は、いかにもアットホームなのんびりとした空気を漂わせている。少々のんびりしすぎな感さえあった。しかしながらトウヤのような大人より、子どもを相手する機会のほうが多いせいなのかもしれないと思った。ジムはあくまで公共機関ではあるが市役所みたいな対応を子どもにするわけにはいくまい。<br />
「アーティさんはうちのママと本当に仲良しで、よくジムを留守にしてこっちに来られるんですよ。要はさぼってるんですよ。アーティさんが留守にしている間に、先ばっかり急ぐトレーナーさんたちにヒウンを観光させてあげてるんだよと嘯いてるんです。確かにヒウンは大きい街ですけど。」<br />
「そ、そうですか&hellip;&hellip;。でも僕もどちらかというと観光よりジム戦を優先したいから、そうだな。僕がヒウンに行くときには手でも繋いでアーティさんも一緒に連れて帰らなくちゃですね。」<br />
　キダチはあーと声を上げながら言う。<br />
「それは名案って言えば名案なんですけど、あのトレーナーはあなたよりさらにせっかちでしたよ。あの緑の髪の背の高いトレーナーは――。」<br />
　トウヤの肩がびくっと震える。トウヤの前を歩きながらキダチはまるで詩の文句のように滔々と、緑の髪の背の高いトレーナー＝Ｎのことを語る。<br />
「先を急ぎます。お願いしますと彼はアロエママとアーティさんに頭を下げました。彼があの人たちに頼んだことって、いやアーティさんに頼んだことってなんだと思いますか？　このジムでアロエママに勝ったその場でアーティさんにも挑戦したんですよ。彼は。基本自由人なアーティさんも、それはそれは戸惑っていました。」<br />
　トウヤは無機質な声でキダチの言葉のあとを継ぐ。<br />
「きちんとした手続きを踏まない、前例のないこと。そんなことを言われれば誰でも戸惑いますよ。」<br />
　キダチは首を振る。<br />
「そんなんじゃないですよ。このイッシュの風土で手続きや決まり事なんてそんなに問題じゃないんです。彼が申告した手持ちポケモンのレベルは、アロエママのジム戦での水準には届いていたのですけど、アーティさんのジムの水準には到底無理だと。しかもアロエママとのバトルのあとすぐなんて、誰が勝てると思いますか？」<br />
　でも彼は勝ったんだろ？　<br />
トウヤは口にはしなかったが結論じみた卑屈な問いが頭に浮かんだ。<br />
「結果彼はアーティさんを倒しました。アーティさんは先を急ぐ彼の為にジムの職員に電話して、彼がヒウンのジムについたときにすぐにバッジを渡せるように手配しました。」<br />
「公式戦扱いにしちゃうんですか？」<br />
　流石のトウヤもその破格の扱いに驚いた。キダチはそうしなきゃ彼が頼み込んだ意味がないでしょうと苦笑を浮かべた。<br />
「ジムリーダーに勝ったんですから。しかもかなり挑戦者に不利な条件で。」<br />
　Ｎならやりかねないとトウヤは思った。天才の才能だけではない。Ｎには明確にして強固な意志があり、それはどんな状況でさえもＮに向かって吹いてくる風にできる。しかもそれは追い風だ。<br />
「えっと&hellip;&hellip;。でも、良い子でしたよ。ほんとに無理なこと言ってすみませんって、何度も何度もアロエママとアーティさんに謝ってましたから。泣きそうな顔してね。僕のような凡人には分からないことなんですけど、あの子には本当に泣くほど先を急ぐ理由があるんだなって。ほんとは喜んであげなきゃいけないのに可哀そうになっちゃいましたもん。才能があるんだから、もっと余裕こいていればいいのに。才能があるせいで自分をすり減らしてるんじゃないかと心配になっちゃうような子でしたよ。」<br />
　そうやって天才が人前で悲壮感を漂わせて切羽詰っているから、自分やキダチみたいな凡人が余計に焦る羽目になるんだと、少しＮに説教をしたくなるトウヤだった。たぶんこれは説教したいというより八つ当たりに似た感情だろう。だからふつふつと獣が崖の突端から向こう岸まで跳躍してやろうという気概が湧いてきていた。<br />
「ごめんなさい。」<br />
　キダチは何故かトウヤに謝ってきた。<br />
「僕が彼に何かやってあげたり出来るわけじゃないのに。勝手なことをあなたに愚痴ってばかりで。」<br />
　キダチはそう言いながらアロエのオフィスまで案内してくれた。アロエとアーティはデスクで紅茶のカップを手にトウヤを見た。<br />
「アロエさん。アーティさん。お願いがあるんです。」<br />
　アロエは口元だけ、にやっと笑ってみせた。<br />
「もしかしてうちのダンナから聞いたのかい？」<br />
　キダチはトウヤの意図することを察して額に冷や汗が滲んだ。ただこういうトレーナーがいたと世間話のつもりだったのに、見た目冷静そうな男をひどく動揺させてしまったのだと気が付いた。<br />
　トウヤは冷静そうに見える顔のまま頷いた。<br />
「ええ。」<br />
　アーティは「あーあ。せっかくさぼりに来たのに」と言わんばかりに肩を竦めた。<br />
「いいよ。シッポウジム・ヒウンジムの連チャンバトル。前例作っちゃったんだから、これも公式扱いだね。」<br />
「では。お願いします。」<br />
　トウヤは背筋を正して最敬礼より深く頭を下げた。胸の中には、やってやる、Ｎに追い付いてやるという気概が満たされていた。二人のジムリーダーは静かに紅茶のカップを置いて立ち上がった。<br />
&nbsp;</font><br />
<ul>
	<li>
		<font style="font-size: x-small;">　　＊　　　＊</font></li>
</ul>
<font style="font-size: x-small;">&nbsp;<br />
　トウヤの膝は完全に折れて床についていた。キダチはあんなことをバトルの前に言うんじゃなかったと後悔するかのように唇を噛みしめている。トレーナーにとって強い存在が傍にいるということがどれほど焦燥感を煽るのか、キダチはうっかり忘れていた。<br />
「気にすることじゃないですよ。トウヤさん。ママには勝ったじゃないですか。アーティさんにもあんなに善戦したし。タブンネでアーティさんのハハコモリにあんなに競るなんて、僕見たことなかったですもの。」<br />
　トウヤは俯いている。キダチが言ったことは正真正銘の真実だろう。でも結果は――。それでもキダチは語らずにはいられなかった。<br />
「結果は全てですけど、結果が全てじゃないんですよ。勝った人は負けた経験が出来ないんですよ。負けた人はその経験を活かして勝つことだって出来るんですから。いいですか？　僕はアロエママのしがない夫です。アロエママにはトレーナーとして足元にも及ばない凡夫です。だけど子どもが一人前になった今でも一緒にいられるのは、アロエママに負けっぱなしでも腐らずにいられたからです。」<br />
　ポケモン勝負してたのかこの夫婦はと、トウヤはぼんやりとアロエとキダチを交互に見やった。のんびりと穏やかそうな貧弱な男がトウヤに向かって何故か熱く語っている。<br />
「緑の髪の彼だって、勝つべくして勝ったんじゃないですよ。勝てるまで頑張ったから勝ったんですよ。彼の服には草むらを何遍も通り抜けてきたような染みがついていたし、ポケモンも彼を慕っていました。トウヤさんはこのジムを出たら、ヒウンでアーティさんに再戦して、今度こそバッジをゲットするんでしょ？　ヒウンに行くまではヤグルマの森だってあります。そこでポケモンと一緒に頑張ればいいじゃないですか。草むら百ぺんはトレーナーの基本ですよ。」<br />
「そうだね。あんたもよくヤグルマの森に行っては葉っぱくっつけて帰ってきてるよね。それにしても、あんたそんなに私に勝ちたかったの？」<br />
「当たり前じゃないですか！　僕はあなたの旦那さんですからあ！」<br />
　アロエはその大きな胸にキダチを抱えてよしよしとあやしていた。そんな夫婦の様子を見て、アーティに負けたトウヤなのに、なんでか落ち込んでた気分がバカバカしくなってきた。<br />
「アーティさん。ヒウンジムでまた挑戦させてもらいますね。」<br />
「そうなると&hellip;&hellip;。僕は今からジムに帰らなくちゃいけない空気だよねえ。うう&hellip;&hellip;。アロエ姐さん。寂しいよお。ていうか僕のとこにもアロエ姐さんが来て欲しいな。」<br />
「私ぁあんたみたいな自由業とは違うんだよ。あんまし都会も好きじゃないしね。」<br />
「うう。ヒウンの芸術仲間に僕の最高のミューズだって紹介したいのに。」<br />
「冗談言うんじゃないよ。私はミューズなんかじゃなくってママなんだから。」<br />
　あれ？　トウヤは首を傾げた。どうしてかジムリーダーの表ざたにならない人間関係を垣間見たような気がする。見ればアロエの左手をしっかりとアーティが握り、右手をキダチが捕まえていた。ああそうかと合点はいく。<br />
「それでは僕はヤグルマの森で鍛えてからヒウンに行こうと思います。アーティさん。間違いなくヒウンで待っててくださいね。」<br />
「ああ。わかってるよお。じゃあアロエ姐さん。またそっちに行くからねえ。」<br />
　限りなく名残惜しげにアーティはジムから去っていく。出ていく間際にちらりと顔を覗かせてからキダチに向かってべーっと舌を出していた。<br />
「あの。トウヤさん。」<br />
　キダチがアロエから手を離して、お願いがあるのですがと申し出る。<br />
「前から思ってたことなんですけど。僕もヒウンのアーティさんのジムのジムバッジをゲットしにトウヤさんに同行していいですか？　ヤグルマの森なら僕も熟知してますから、一緒に僕も特訓させてください。」<br />
「え？」<br />
「こんなおじさんとじゃダメですか？」<br />
「いや僕もかなりおじさんなほうですから。かまいませんよ。」<br />
　キダチはくるっとアロエのほうを振り向いて言った。<br />
「ママ。いいよね？」<br />
「まあ、たまにはいいだろうね。しっかりやりなよ。」<br />
　こうしてトウヤに束の間の同行者がつくことになった。<br />
&nbsp;</font><br />
<ul>
	<li>
		<font style="font-size: x-small;">　　＊　　　＊</font></li>
</ul>
<font style="font-size: x-small;">&nbsp;<br />
　ヤグルマの森の中で野性の虫ポケモンと戦ったり、自然に溶け込んでいるレンジャーと遭遇したりしながら、トウヤとキダチは先に進んでいた。<br />
　トウヤのミジュマルはまだまだ子どものせいか、あまり見たことのない虫ポケモンに対して少々怖がり気味だった。他の手持ちも大げさに怖がったりしないが虫ポケモンは苦手な様子だった。いきなり糸を吐かれたり毒を吐かれたりすれば、ダメージ以外の精神的あれやこれやも受けるには違いない。だからとにかく虫ポケモンの独特な攻撃に慣れさせることを先決とした。<br />
思えば結構繊細な神経のトウヤの手持ちがアーティの虫ポケモンにボロ負けしたのは当然のように思える。そんなことも考えずにバトルをごり押しした自分は、やはり大人を気取っているがトレーナーとしては未熟なのだろう。<br />
「ごめんね。ミジュマル。チョロネコ。シママ。タブンネ。お前たちは虫ポケモンとはアーティさんの手持ちが初めてだったんだよね。」<br />
　特にチョロネコは普段から使えない奴ではあるが、虫タイプが弱点でもあったので今回ばかりは彼女を叱れない。ミジュマルも草タイプまで持つハハコモリには対応出来ないし、タブンネも決定打を持っていない。それより何より焦りすぎたと反省する一番のポイントはシママにあった。<br />
「ニトロチャージか。」<br />
　シママはいましがたそれを覚えたばかりだった。レベルが一つ二つ違うだけでアーティのポケモンに圧倒的に有利な技を習得出来たのである。本当に自分が焦りすぎたせいで、とんだとばっちりをポケモン達に食わせてしまったとトウヤは思った。<br />
　ヤグルマの森には他の虫以外のポケモンが飛び出てきたりするが、やはり虫が出てきた時にトウヤのポケモン達は動きがぎこちなくなる。虫ポケモンを初めて相手にしたのが、ジムリーダーの手持ちだったのが痛かったのかもしれない。<br />
　その点、キダチのポケモン達は慣れたものだった。多少の粘つく糸くらいは易々と躱すし、少々毒液を浴びてもステータス異常達しない程度はそのまま野性の虫ポケに向かっていくのだ。<br />
　トウヤとキダチは大人の男同士らしく、おてて繋いで特訓などというぬるいことはしなかった。お互いに別々の場所で自分たちのポケモンに専念している。でも同じように強くなろうとしている同類がいることはトウヤにもポケモン達にも励みになった。<br />
トウヤにもうっすら感づいたことだが、キダチがアーティに挑戦しようと決心したのは、どうやらアーティがアロエに対して特別な想いを抱いていることが原因なようだ。<br />
「みじゅ。」<br />
　ミジュマルはキダチのポケモンの様子と自分に纏わりついている糸をそれぞれ見て、憑き物が落ちたように悟り始めていた。べたべたの糸が絡んできても死にはしないと。きっかけがあればそこから先は楽になる。他のポケモンも段々と虫ポケモンの攻撃を気にしなくなってきた。<br />
無機質で表情が読みにくい虫ポケモンの攻撃を最初は読めなかったトウヤだが、次第にパターンが読めてきた。毒や麻痺攻撃がどんなタイミングで来るか読めるようになった。<br />
「みじゅ。」<br />
　最初はフシデに追いかけられて泣きべそをかいていたミジュマルも、遠隔攻撃なら楽に倒せるようになってきた。ただし自分の大切なホタチをぶつけるには少々の躊躇が見られたが。<br />
　やっぱり自分にはこういうのが向いている。積み重ねたものを根拠にして、先を読んでいくやり方こそがトウヤのスタイルなのだと。天才のＮには届かないがなんやかやのコツを掴むのは得意なのだとトウヤには自負するところがあった。<br />
　Ｎを気にしていたら、自分は躓いてしまう。<br />
　Ｎを振り切るためにＮを無理に越えようとするのはよそうと改めて思ったとき、トウヤの風邪熱にじくじくと浸食されていたような脳がさあっと冷めた。<br />
　もともとトレーナーになったのはチェレンのことを陰ながら見守りたいがためだったじゃないかと、チェレンと別れてから半日ほどまったくそのことに頭がいってなかったことを訝しく思った。そしてＮという憑き物が落ちたことを改めて自覚した。<br />
「トウヤさん。ポケモンに対しての指示がすごくナチュラルになってきたじゃないですか。」<br />
「え？　そうですか？」<br />
　わざとらしく謙遜してみせるがそんなことはトウヤ自身がとっくに自覚していた。<br />
　そろそろ夕闇が迫ってくる時間だった。キダチは川辺にシートを広げてトウヤを手招きした。川の水に手を突っ込んでキダチは缶ビールをトウヤに差出した。<br />
「冷やしておいたんですよ。特訓が終ったら一緒に呑もうかと思って。」<br />
「ありがとうございます。」<br />
　トウヤはあちゃあと小声で呟いた。トウヤにはツマミも何もそういう準備はなかったからだ。<br />
「ママが二人分お弁当を持たせてくれましたから。」<br />
「何から何まですみません。」<br />
　恥ずかしさで笑いが込み上げてきて小刻みに震えてしまう。しかしながらにこにことキダチが勧めてくるなら喜んでお言葉に甘えるしかない。<br />
「キダチさんて、ビールといいお弁当といい&hellip;&hellip;本当に気が回られる方ですね。」<br />
「だって僕はアロエママの片腕ですから。あの博物館、ママが館長で僕が副館長で。何かイベントがあったときのなんやかんやの手配は僕の担当なんです。」<br />
「僕もサラリーマン時代にはそういうことしてたはずなんだけどな。ここのところちょっと焦りが出てきたせいで、余裕なくなってたかも。缶ビールなんてすごく久しぶりな気がするし。」<br />
　互いに缶を開けて乾杯をする。トウヤもキダチも一口飲むとぷはっと息をついた。<br />
「トウヤさん。緑の髪の彼と知り合いなんでしょ？　だから負けたくなくてああいうことしたんですよね。」<br />
「キダチさんだってアーティさんに負けたくないんですよね。」<br />
「緑君うちのジムに入る前になんだか後ろ振り向いて何かを気にしていたみたいなんですよね。それは後からくるあなたのことを気にしてたんじゃないかと――。」<br />
「アーティさんなんですけど、アロエさんがママ呼びをそれとなく推奨するのに、頑なに姐さんって呼びますよね。あれってあなたに対する当てつけですよね。」<br />
「トウヤさん酔ってますか？　嫌なこと言わないで下さいよ。」<br />
「あなたが先に言ってきたんじゃないですか。」<br />
　男二人は少量のアルコールで既にほろ酔いになっていた。キダチははにかむように笑う。<br />
「女王様に指名されて夫になった男の気持ちってわかります？」<br />
「なんとなくは、想像できる気はします。」<br />
　あ、なんか惚気話きたなとトウヤは思った。トウヤだってＮに二人の英雄の話をされてそれとなくトウヤに対する期待を仄めかされたとき、少しの高揚感となんで自分なのだという疑念に襲われた。だからキダチの抱える思いもわかる。しかしトウヤには既に心の中にチェレンがいる。勿論何一つチェレンには伝えていないが、Ｎからのご指名を断るだけの動機になり得た。反対の動機でキダチはアロエに望まれたからこそ、分不相応な彼女の夫という立ち位置を誰にも譲ることなく今まで過ごしてきた。<br />
　キダチにアロエといたことによって後悔があると疑うほうが野暮なのだろう。しかしそれなりのジレンマを耐えてきたのは間違いない。<br />
「やっぱり思われたくないんですよね。副館長だから館長と結婚出来たとかって。」<br />
「いや。女王様はそんなこと思ってないでしょ。あなたが忠実で優秀な臣下だから駙馬にしたなんて。アロエさんはそれに自分のこと女王様なんて思ってないでしょう。あの人は自分のことはママだってアーティさんにも言い張ってましたし。」<br />
「でもアロエママはやっぱり女王様なんですよね。」<br />
「そうですね。本人が望もうとも望まざろうとも、あの人なら生まれながらの女王様だって誰もが納得しますもんねえ。」<br />
　キダチはそうなんですとなんだか気弱そうな笑みを浮かべたが、そこから顔を赤くして少しにやけながらトウヤに言った。<br />
「でもね。夜は僕が王様なんですよ～。」<br />
「キダチさん。あなた相当酔ってますよ。」<br />
「いやいいでしょ、このくらい。大人同士なんですから。」<br />
「いや。あなた今絶賛キャラ崩壊中だからっ。」<br />
　くそ。このリア充が。と、キダチのにやけたくすくす笑いにトウヤは苦虫を噛み潰したような笑みを返した。世間体からくる重圧や葛藤なんて、夜に仲良くいちゃいちゃすれば解消されるなんて、本当に羨ましいったらありゃあしない。<br />
「アーティさんに嫌味言われても仕方ないですよ。それって。」<br />
「そうですね。それくらい我慢しましょうかね。」<br />
　ああ。はやくリア充になりたい。トウヤは一つ心に秘めるものが増えた。次にチェレンに会えたら、思い切って告白するのも手かもしれない。<br />
　キダチは本当に酔ってしまったのか、こくりこくりと眠そうに身体を揺らしている。トウヤはビールの缶をキダチから取り上げてシートの上にキダチを寝かせた。<br />
「おやすみなさい。夜の王様。」<br />
「うむ。苦しゅうない。」<br />
　それは殿様だとトウヤは突っ込んだ。そして自分も良い心地な酔いのうちに寝てしまおうとシートの上に横になった。ビールの缶は朝片付けようとものぐさなことを思いながら。<br />
&nbsp;<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
後編に続く。</font>]]></content:encoded>
    <dc:subject>ポケモン</dc:subject>
    <dc:date>2013-07-09T13:29:38+09:00</dc:date>
    <dc:creator>柴仲達</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>柴仲達</dc:rights>
  </item>
  <item rdf:about="http://ktkr.gjgd.net/%E9%80%B2%E6%92%83%E3%81%AE%E5%B7%A8%E4%BA%BA/%E2%98%86%E3%80%8C%E8%AA%B0%E3%82%82%E7%AA%81%E3%81%A3%E8%BE%BC%E3%82%93%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%82%89%E3%81%AC%E3%80%8D%E3%83%9F%E3%82%AB%E3%82%A8%E3%83%AC">
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    <title>☆「誰も突っ込んではならぬ」ミカエレ</title>
    <description>　アルミン・アルレルトは友人の言動には寛大なほうだった。エレンが無鉄砲なことをしようとも、それを収拾するためにミカサが手段を選ばず女の子離れした身体能力を見せようとも。彼はいつも二人を羨みはするかもしれなかったが、離れたいという衝動に襲われることはなかった。
　そんな彼が一方の友人への違和感を感じ...</description>
    <content:encoded><![CDATA[　<font style="font-size: x-small;">アルミン・アルレルトは友人の言動には寛大なほうだった。エレンが無鉄砲なことをしようとも、それを収拾するためにミカサが手段を選ばず女の子離れした身体能力を見せようとも。彼はいつも二人を羨みはするかもしれなかったが、離れたいという衝動に襲われることはなかった。<br />
　そんな彼が一方の友人への違和感を感じ始めたのは、一週間ほど前からだった。そしてまた一週間経った現在、その違和感は続いている。それどころかその違和感は日ごとに強くなっていた。<br />
アルミンの幼馴染のエレンもその異変に気付いた。そしてアルミン以上にその違和感を気にしだしていた。<br />
幼馴染三人組・ウォールマリア内シガンシナ区の路地裏。エレンとミカサとアルミンはいつものように集まったが、エレンはミカサのほうをしきりに気にしていて、しばらくしてからやっと口を開いた。ミカサの首元を指差して。<br />
「ミカサ。それ、ずっとそうやってるのか？」<br />
　ミカサはこくんとエレンの問いかけに頷いた。無表情ではあるがそれが嬉しそうだとエレンはなんとなく察知する。しかしその嬉しそうな表情がエレンにとってはまずかった。<br />
「あ、あのさ&hellip;&hellip;。ちょっといい加減にしろよ。」<br />
　エレンにしては婉曲的な言い方を選んでいた。それでも少し声音にはたからアルミンが聞いて棘を感じる。<br />
「いい加減？」<br />
　ミカサは今度は首を傾げていた。季節は冬になろうとしていた。<br />
ミカサの白い額に似合わない眉間の皺が現れ始めていた。アルミンはまずいと思った。<br />
「ミ、ミカサも近いうちにちゃんとすると思うよ。この前エレンの喧嘩を止めに行ったとき、少し汚れちゃったし。」<br />
「わたし、糞ガキの鼻血のあとくらい気にしないけど。」<br />
　赤色で紛れているが、少しばかりくすんだ色になっている部分がある。<br />
「気にしろよ。というかこの前って言えば三日くらい前じゃねえか。既に染みになってるぞ。母さんに頼んでなんとかして貰えよ。」<br />
　ミカサのまだ地面を向いている拳がぶるぶると震えている。エレンが指摘してきたことだから従いたい気もするが、どうしても譲れないなにかがあって葛藤しているようだ。ミカサにしては子供っぽい反応だ。<br />
「エレン。どうしても駄目？」<br />
「そうだ。なんとかしなくちゃいけないんだよ、それは。」<br />
　それは遠い未来に調査兵団に入る時の決意と同様の強い意志を伴っていた。その割には言い方はひどく抽象的だ。なんとかというのもひどく限定した行為を指しているが、それそのものとそれに連なる原因を口にすることは躊躇われたようだった。<br />
　ミカサは顔立ちはエレンたちとは異なって異質な風貌をしているが、間違いなくの美少女なのだから。エレンなりに気を使っているが故だった。<br />
「だって。エレンがこれにしてほしいをすると消えるから。」<br />
「消える？　なんだそれ？」<br />
　消えるという言葉にエレンは顔をしかめていた。ミカサもエレンと同じように口に出せない言葉と理由がある風だった。アルミンは踏み込めない何かに踏み込もうとするエレンを止めようと、腕を掴んだ。<br />
「アルミン。どうしたんだよ。」<br />
「い、いや&hellip;&hellip;。」<br />
　アルミンの背中あたりから冷や汗が噴き出てしまう。<br />
ミカサはけして非常識な少女でもなければ、幼児性も強くない。<br />
ただエレンに対する変質的な執着だけがネックなのだ。しかもエレンその人がいまいちそれを理解しきれていないところがある。平均的な男の子だから女の子の微妙なこだわりが理解できるはずがない。エレンは精々のところ、ミカサが自分に過保護なのが時々鬱陶しいという程度にしか思っていない。<br />
しかしミカサはエレンに対して口やかましいわけではない。熱っぽい目で見ることもなければ、周りに対してエレンの所有権を主張するわけでもない。時々物騒な言葉を吐くことはあるけれど、エレンの危機やそれに準ずる事態の時にさえ、ただ黙ってその拳を振るうのみだ。拳を振るうほどでなければ、エレンの後ろに控えていじめっ子を威圧して追い返す程度に留める冷静さを持っている。<br />
なんとまあ、一人の男の子に執着する少女にしては控えめでさりげない過保護だった。実力行使でいつも無鉄砲に飛び込むエレンに身を以てわからせることも出来るはずなのだ。しかし彼女はそれをしようとしない。<br />
呼吸をするようにエレンを助けることが、彼女にとって愉悦だとか至福だとかもあまり思っていないはずだ。呼吸によって酸素と二酸化炭素を交換する行為をいちいち重要だと意識していないように、彼女の生命活動において、ごく自然にエレンに関することが必須で不随意的な動作であるのだろう。<br />
　だからエレンもミカサと出会ってから生活を共にしだして、今になって気づいてしまうしかなかったのだろう。<br />
「ミカサ。もう一年経ってるんだ。わかるよな？　俺はお前がそれを&hellip;&hellip;はっきり言うぞ。洗濯しているところを見たことがない。」<br />
　エレンはやっとそれとかなんとかとかしか言えなったもの、そのものずばりを口に出した。ミカサは首元を摘まんで言う。<br />
「そうね。半年くらい前からまずいかなって思っていた。だけどエレンもおばさんもおじさんも何も言ってこないから、まあいいかなって思ってたの。」<br />
　アルミンもエレンが何も言わない様子だから、いいのかなと思っていたのが本音だった。しかしそれはアルミンにあるまじき楽観視だった。<br />
「そういえば。首のあたりが少し痒いかなって思ってたの。」<br />
「あたりまえだろ。ちょっと見せてみろよ。&hellip;&hellip;あーあ、汗疹になってるし。このさい洗濯して綺麗にしような。アルミンだってそう思うだろ。」<br />
　ミカサの冷たい目がアルミンを射抜く。アルミンはミカサが何に対して拘っているかに気づいているが、それをエレンがいるこの場で言ってしまうと、エレンの気性からして最悪それをミカサから取り上げてしまいかねない。それをみすみす取り上げさせるミカサではないだろうから、イエーガー家内に巨人が入り込んだ規模の騒乱が起こることは必至だった。<br />
　アルミンは二人の主張を、当事者同士以上に理解していた。しかしアルミンは頭の中で考えるのが精一杯で、彼らが同時に了承してくれるような案が見当たらない。<br />
「わかった。エレンの言うとおりにする。」<br />
　ミカサが折れてくれた。アルミンはほっと胸を撫で下ろす。アルミンが野暮なことを考えなくても、ミカサにとってその品は洗濯して染み込んだ全てが洗い流されても、大事なものであることは変わらない。ミカサがその真実を分かってないはずがないのだ。考えてみればそういうことなのだ。エレン自身の願いを無下にするほどのことではないのだ。<br />
「だけど、エレンも私のお願い一つだけ聞いて。」<br />
「わ、わかったよ。」<br />
　アルミンは二人の交渉を見守って思わず息を詰まらせてしまった。<br />
&nbsp;<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
　アルミンは初夏の空を見上げながら取り留めもなく昔のウォールマリアが崩壊する前のことを思い出していた。座学を終えて昼食を取りにいく途中だった。サシャがダッシュで横を走り去る。<br />
「なんでこんなこと思い出したんだろ。」<br />
　あの時、エレンとミカサが二人で穏便に了承し合って決めたことなのだから、強烈な思い出になるはずがないのだ。アルミンは頭をかりかり掻きながら歩いていた。今日、ミカサの首にマフラーは巻かれていなかった。そのマフラーには曰くがあって、ミカサがイエーガー家に引き取られることになったきっかけの事件の際に、エレンからもらったものらしい。<br />
マフラーであるのだから、その素材はきっと毛糸か何か保温が利くものだろう。だから真夏になれば用がなくなるものだ。春先からして要らない。しかしミカサは本当にほぼ一年中と言っていいくらいそれを首に巻いている。時折それを鼻先までずり上げる癖があった。そのあと深呼吸をしているのもアルミンはよく目にしていた。<br />
「五年前のあの日まで、あれに意味があるなんて思ってもなかったけど。」<br />
　それは今のエレンにとっても同様だろう。アルミンの後ろをミカサとエレンが並んで歩いている。<br />
「ああ&hellip;&hellip;」<br />
　今日はあのマフラーはエレンの首に巻かれていた。その違和感にアルミン以外は気づいていないようだった。<br />
「ミカサもういいだろ。もうこれ首から外していいよな？」<br />
　エレンは暑いマフラーに辟易したようにミカサに伺いを立てていた。ミカサは無言で首を振る。<br />
「駄目。一日じゅう着けてなきゃ。まだ石鹸の匂いしかしない。」<br />
「いや。石鹸の匂いがするうちにさあ。」<br />
　エレンが外しかけたマフラーを、ミカサはエレンの手をやんわりと払いのけてまたぐるぐると巻きなおした。<br />
　ミカサがエレンからもらったマフラーを洗濯する条件。あのマフラーからエレンの匂いを消し去ることを許せる条件。それは洗い立てのマフラーをエレンが一日首に巻いて、エレンの匂いを再びつけること。<br />
　ミカサにとってマフラーは単に寒さから身を守ることではない。かつてのそのマフラーの持ち主の匂いを、何の不自然もなく感じるためのもの。それならば訓練生随一の実力の行使でエレンから直接嗅げばいいのだろうが、最初にエレンの匂いを感じたのは、そのマフラーが最初だったのだ。それがミカサのエレンへの想いの反芻だった。<br />
「奥ゆかしいって言うのかな？　いや。その&hellip;&hellip;ミカサの趣味というか、こだわりというか。」<br />
　その嗜好に名を付けるなら、一番相応しい言葉は変態だろう。だけど周りにいる誰も彼もそれを咎めたり揶揄したり、嫌悪の眼差しを向けていない。アルミンも二人にそんな眼差しを向けることなんて考えられない。他ならぬエレンが、普通に考えれば不自然なミカサのお願いを了承し続けているのだから。<br />
　夕刻になって夕食を終えたらエレンは少し怒ったような顔をして、ミカサにマフラーを差出すのだろう。ミカサはそれを受け取り鼻にそれを当て、匂いを確かめたあと、自室にそれを持ち帰り明日からまたそれを首に巻き続けるだろう。ミカサがエレンに乞うてエレンがそれを了承して、また何度でも可能な限り同じことを繰り返すつもりなのだろう。<br />
「あーあ。それでも恋じゃないんだね。」<br />
　だけどアルミンはエレンにもミカサにもとやかく言うつもりはなかった。アルミンはそんな二人の関係が好きなのだった。<br />
&nbsp;<br />
&nbsp;<br />
「まあ。エレンは靴下とか下着とか強請られたわけじゃないし。エレンがいいよって言ってくれる程度のお願いで済んで良かったとしか言いようがないね。」<br />
　もどかしい二人を見て歯がゆいアルミンは、いっそのことミカサがエレンに靴下とパンツでも要求してくれりゃあわかりやすいんじゃないのかと、一〇四期生に君臨する静かなる女傑に心の中で突っ込んだ。<br />
「だけどそんなミカサはミカサじゃないよね。」<br />
恋する変態は奥ゆかしいのが良いのも確かだった。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
進撃にはまりましたので書いてみました。初めての進撃がミカエレとは思いませんでした。</font>]]></content:encoded>
    <dc:subject>進撃の巨人</dc:subject>
    <dc:date>2013-05-11T16:20:30+09:00</dc:date>
    <dc:creator>柴仲達</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>柴仲達</dc:rights>
  </item>
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    <title>☆「ポケモンデイズ④」主♂Ｎ　トウコ　アクロマ</title>
    <description>　シチューの礼だとアデクは朝になって目が覚めて二人で朝食を摂ってから言った。チェレンは遥か上にある木の枝まで登ったアデクをぽかんと口を開けながら見上げていた。
「ほれ。オレンの実じゃ。」
　アデクは青い皮のオレンの実を一つ取った。
「それは知ってますけど。」
　ポケモンに持たせておけばその実...</description>
    <content:encoded><![CDATA[　シチューの礼だとアデクは朝になって目が覚めて二人で朝食を摂ってから言った。チェレンは遥か上にある木の枝まで登ったアデクをぽかんと口を開けながら見上げていた。<br />
「ほれ。オレンの実じゃ。」<br />
　アデクは青い皮のオレンの実を一つ取った。<br />
「それは知ってますけど。」<br />
　ポケモンに持たせておけばその実を食べて体力を回復できる。ポケモンリーグの公式試合でも公認されている。<br />
「まだいっぱいあるからのう。何個かチェレンにわけてやろうかと思ったわけじゃ。下に落とすから受け止めるか拾ってくれんかの？」<br />
「いいですよ。」<br />
　チェレンの返答の一瞬後に木の実が落ちてきた。チェレンはそれを手でキャッチする。もぎたての木の実は新鮮な柑橘系の強い香りを放っていた。<br />
「ああ&hellip;&hellip;。」<br />
　自然とその香りに嘆息する。野生で生えている木の実はこんなに芳香が強いのかと。<br />
「チェレン。ほれ。」<br />
　二個三個と木の実が降ってくる。チェレンはそれを受け止めて腕に抱えていく。アデクは何個か木の実をもいだあと、これくらいかと呟いて木から降りてきた。<br />
「オレンの実は割と日持ちするからのう。多めに持っていても困らんじゃろ。」<br />
「え&hellip;あの&hellip;&hellip;。ありがとうございます。」<br />
「そんなに畏まらなくてよい。木の実をわけてやるのはレンジャー連中も当たり前のようによくやることじゃ。」<br />
「そうなんですか。」<br />
　まだチェレンはレンジャーには出会っていない。アデクはわしわしとチェレンの頭を掴むように大きな手で撫でた。<br />
「成人しとる割には世間知らずじゃのっ。」<br />
「悪かったですね。」<br />
　アデクの大きな手からもチェレンが抱えている木の実と同じ香りがする。木の実をもいだ時に香りが移ってしまったのだろう。<br />
「これでシチューの礼も済んだことじゃし。」<br />
「アデクさんはこれからどちらに。」<br />
「&hellip;&hellip;。まあ、適当じゃ。」<br />
　一瞬だけ気になる間があったが、アデクの口から適当と聞かされれば意外とその間は気にならないものだった。<br />
「また会えたらよいな。」<br />
「ですね。」<br />
　チェレンは森の奥に入っていくアデクの背中が見えなくなるまで見送った。<br />
「僕も、行こうか。」<br />
　チェレンは木の実をバッグに仕舞い一歩を踏み出す。なんだかいつもより気分も足取りも軽く思える。バッグの中からもあのオレンの実の香りが感じられるようだ。あの大きな手のひらに移った香りが。なんだか隣に今でもアデクがいてくれているような気がする。離れていても、いつでも近くにいるような。<br />
&nbsp;<br />
<ul>
	<li>
		　　＊　　　＊</li>
</ul>
&nbsp;<br />
チェレンとはまったく別の空間で窓からの朝日を受けてＮとトウヤは乱れたベッドの上で向き合っていた。<br />
Ｎが寝ている間にトウヤは初挑戦するジム戦に向けて、公式のデータをインターネットで見ていた。そこにはＮと対戦したジムリーダーであるコーンの試合の成績があった。それを見たトウヤの背筋に冷たいものが走ったあと、なんだか分からない電流が身体を貫いてトウヤを動けなくさせた。<br />
　トウヤの隣で寝返りを打ったあと、おはようと言ってトウヤを見上げたＮにトウヤはぎこちなく笑った。昨日までのようにトウヤはＮに偉そうに大人面が出来なくなっていた。<br />
「結局泊りがけになっちゃったね。」<br />
　Ｎは手櫛で髪を梳きながら、トウヤの言葉に気にすることはないだろと何気なさそうに言った。<br />
「そんなことでやきもきする人が、二人ともいるわけじゃないでしょ。」<br />
「それはそうだけど。」<br />
　やはりチェレンのことが後ろめたいのかとＮはトウヤを怪訝そうに見る。トウヤはトウヤでどういうわけか、荷物をまとめてそそくさと立ち去るつもりな雰囲気を漂わせている。<br />
「トウヤ。僕とのことは別に気にしなくてもいいからね。その&hellip;&hellip;昨日のことは、君は最初は本当に僕のことを助けようとしてくれたんだし。」<br />
　トウヤはノートパソコンの電源を切りながら安堵したように溜息をついた。<br />
「そう言ってもらえると少し気分は楽になるね。欲望に憑りつかれた頭が覚めて、一番に思ったのは未成年である君に手を出して、なんだか捌け口に使ってしまったような罪悪感をどうしようかってことだった。」<br />
　それよりもっと大きな理由はあるのだが、それこそＮにとってなんでもないような顔をされると思い話すのは避けた。<br />
「&hellip;&hellip;。そういうこと口に出さなくてもいいのに。」<br />
　トウヤはＮにとって困った子どもであることはＮも自覚していたが、その困ったところを容認するしかなくされている。<br />
「今日こそはジムリーダーに挑戦しないとなあ。」<br />
　なんでも入念にじっくり取り組むトウヤにしてはなんだか焦りが混じったように早口で言った。<br />
「うん。トウヤ、頑張ってね。僕は次の町にいくよ。」<br />
「そうか。君は既にバッジをゲットしてたよね。」<br />
　Ｎは無言で頷いた。これからＮは次の町に行くのだろう。それでチョロネコの他にポケモンをゲットしてＮらしい最強のチームを作っていくだろう。Ｎと一度やりあったトウヤだったが、用心のためにかなり鍛えていたミジュマルがいたからこそ、Ｎのチョロネコに勝てた。しかし後日、Ｎはジムリーダーにチョロネコ一匹で勝利した。トウヤがやっとバオップがいて勝てるかなと考えている相手にだ。<br />
たぶんＮが育てたチョロネコは強くなっている。トウヤはそう確信している。Ｎならあらゆるポケモンの潜在能力を引き出せる。ただこつこつとレベルを上げていくことだけが取り柄の自分とは違う。Ｎならどんどん自分をおいていくように駆け足とびでチャンピオンに挑戦して勝つだろう。<br />
その頃自分はまだまだ旅の途中で、幾つかのジムでバッジは獲得しているかもしれないが、Ｎに追い付くわけがない。<br />
「Ｎ。チェレンのことは別にして、僕は僕なりに結構ポケモントレーナーという自分にのめり込めそうな気がしてきたよ。君みたいな天賦の才を目の当たりにして、僕みたいな地を這う者がこうやって対等みたいに喋る機会はもう、そうないだろうね。」<br />
　Ｎは不機嫌そうに眉根を寄せる。<br />
「そんなこと言わないでよ。僕は君のこと」<br />
　トウヤは首を振る。<br />
「君は普通の人とは違う。特別な才能に恵まれた人間だ。僕が十くらい若ければ、それでも君と対等に付き合っていけるのかもしれないけど。もう僕は他のトレーナーと比べてもスタートが出遅れているし、何ら突出したところのない平凡な脱サラ人間だ。だから、精々君が僕に憤っていたことは、おいおい改めようと思う。本当にあのときは大人げないことを言ってすまなかった。この機会を逃したら君にこうやって面と向かって謝ることも出来ないと思う。」<br />
　Ｎはトウヤが言い終わるのを見届けてトウヤに背中を向けた。どうしてもトウヤに察して欲しい自分の考えを伝えるために。<br />
「トウヤはイッシュの伝説は知ってるよね。」<br />
　いきなりＮが突拍子のないことを言いだす。<br />
「絵本かなんかで読んだことはあるよ。そういえばちっちゃかったチェレンにも読み聞かせたことはある。白黒ドラゴンポケモンと人間の英雄の話だったっけ？　僕が知ってるのは子ども版だったから君が話してる伝説と違って脚色されてるかもしれないけど。」<br />
「その英雄伝説もポケモンもニンゲンの英雄も一匹と一人じゃなかっただろ。その伝説は相対する双子の英雄と、白と黒の対になるポケモンの世界を救った物語だったはずだ。このイッシュには必ず対になった二人の英雄が必要だと暗示してないかい？　僕はある意味探してるのかもしれない。僕の成し遂げたいことを叶えたいために、そのもう一人を。」<br />
「Ｎ。君はお伽噺を信じる歳でもないだろうに。それはあくまで架空の話だろ。この現実の世界でもし何か異変が起きたときに世界を救えるのは、そんな一人か二人の英雄か伝説のポケモンじゃないと思うよ。」<br />
　Ｎはトウヤを振り向いた。なんだか哀しそうな顔をトウヤは向けられた気がするが、すぐに謝ってその気のせいを振り切った。<br />
「いや。伝説っていうのは歴史も含まれるところもあるし。たまたま異変を解決したのが、そういう目立った人物が二人で示し合わせたようにポケモンを連れていたってことも考えられるし。だからって今から世界を救うとしても、そんな伝説を踏襲しなくちゃいけないっていうのはないんだよ。」<br />
　Ｎは反論する。<br />
「だけど誰かがしなくちゃいけないことだよね。能力があるなら尚更、その責務は負うべきだろ。」<br />
　トウヤはＮの目の色が変わったことにＮへの危惧を感じる。そして少し前の集会を開いていた壮年の男の演説を思い出す。世界はまた何かに向かって動き始めている。Ｎはもしかしたらその当事者に組み込まれているかもしれない。<br />
「もし世界にそんな危機が訪れたら、そんなその場にいるだけのたった一人が背負いこまなくちゃいけないって言い分は間違っている。たとえその人物でしか世界を救えないと言われたとしても。その人にも拒否したり他に助けを求める手段があったって構わないと僕は思う。とにかく独断で暴走するのは、どんな場合でも避けたほうがいい。君と同類の特殊な能力と天才的な頭脳をもってしてもだ。」<br />
　世界の各地方で時々きな臭い事件は起こる。しかもある程度勢力のある組織が関与しているときもある。その組織の類まれなる頭脳を持つトップは、時に世界を救いたいという善意からの動機に駆られていた。だがそうした組織のトップの失敗に共通したところがある。<br />
　それは太古のポケモンの伝説を踏襲しようとしたところだ。つまりは昔々の人間離れした英雄の復興という真似事だ。<br />
　その結果、日照りと洪水が同時に起こった地方のニュースをトウヤは聞いたことがある。時空が歪んだというファンタジーめいた騒動も聞いたことがある。後者では組織の代表が行方不明になって、未だに発見されていないらしい。<br />
　歴史を学んでそれを活かすのは効果的な方法かもしれない。歴史上の英雄の活躍が蘇れば、人々はひれ伏すかのような感動を植えつけられるかもしれない。しかし歴史の踏襲は今の時代に合致しない可能性もあるし、当時に起こった同じ災厄を招きかねない。<br />
「Ｎ。一つ訊きたいんだ。チャンピオンに勝ってから叶えたい君の目標は、ひょっとしたら世界を救うことなのか？」<br />
「世界を救うことがトモダチを救うことになれば、たしかにそれが僕の願いにはなるね。」<br />
　Ｎの意志は頑強だ。幾ら大人だと自負するトウヤといえども今はどうしようもない。だから縋るようにトウヤはＮにお願いをした。<br />
「Ｎ。無茶はしないでおくれよ。その&hellip;&hellip;君は僕より出来たやつなんだから。それにそんな壮大な目標以前に、君には一個人として幸せになって欲しいんだ。出来るなら不特定多数の人間とセックスして別れる関係じゃなくて、本当に好きな人と出会って欲しい。じゃなきゃ、今の君にはあり得ないことと思うかもしれないけど、目標に挫折してしまった時が心配だ。その時に僕は君の友人として駆けつけてやれる距離にいないかもしれない。」<br />
「友人？」<br />
「そう、友人。」<br />
　Ｎはそれじゃと言って部屋から出た。完全に決別を告げられたような気分にトウヤはなる。<br />
「他にどう言えばいいんだよ。」<br />
　Ｎを心配する人間はいるんだよ。とか。才能があるからってＮが全てを背負う必要はない。とか。ＮにはＮらしく幸せになって欲しい。とか。言えるだけ言ったつもりなのに。<br />
「これじゃあ、ちょっと&hellip;&hellip;。」<br />
　たぶん半分も伝わっていない。旅先のごく最初に出会ったいつまた出会えるか分からない友人の行く末に、もやもやを募らせるトウヤだった。<br />
&nbsp;<br />
　Ｎは振り切るように町を出て草むらを歩いている。Ｎにとっては普通のこと、外の世界にはポケモンの声があふれていた。他愛のない彼らの平和そうな生活は、ある日突然トレーナーによって奪われる。その先は本当にトレーナー次第だ。<br />
　優しくされるのも。辛い目に合わされるのも。鍛えられるのも。着飾らされるのも。甘やかされるのも。こき使われるのも。<br />
「チョロネコ。数日間本当にお疲れ様。」<br />
　Ｎがモンスターボールに話しかけるとチョロネコをボールから出した。チョロネコはＮのズボンに自分の頬を擦りつけている。<br />
「にゃあ。」<br />
「こんなものの中に閉じ込めててごめんね。君は君の本来あるべき日常に戻るんだ。」<br />
「にゃ&hellip;&hellip;。」<br />
　チョロネコは頭を垂れている。自由になれるのにどうしてそんな寂しげにしているのだろう。<br />
「僕は君にあるべき姿で生きていて欲しいんだ。」<br />
「にゃ、にゃあ&hellip;&hellip;。」<br />
Ｎの言葉を受け入れたようにチョロネコは草むらにすっと姿を消した。まるで自分のトレーナーだった人はそういう人だから、その人の考えを踏みにじらないようにしたいという気遣いが見えるようだった。本当に自分がどうしたいかにそぐわなくても。<br />
　Ｎは思わずチョロネコが消えた草むらに呼びかけた。ずっと傍にいたかったのにという消え入りそうな思いが聞こえたからだ。<br />
「ありがとう。ごめん。また会えたらその時は――。」<br />
　そんな悲しそうな顔をしなくてもいい世界に変えてみせるから、と。<br />
　空になったモンスターボールは本当に情けないほど軽く感じる。しかしこの中にトモダチを繋ぎとめることはどれだけ傲慢なことなのかは、誰よりもＮが知っている。だからＮはトモダチの為に英雄になる道を選ぶほかない。たぶんずっと一人で。<br />
　ポケモンの声がのどかに聞こえる。ニンゲンの傍らにいることを知らないトモダチの声だ。Ｎにとって心を支えてくれるトモダチの声だった。この声が世界の全ての場所で聞こえる世界。その世界のためならＮはなんでも出来た。<br />
「それが僕の幸せなんだよ。トウヤ。だけど少しトウヤの言葉につられそうだったなあ。好きな人と幸せになんて、残酷すぎること言わないでよ。」<br />
　叶えてくれないくせに。<br />
それが絶たれたらＮには他に考えられる選択肢などなくなってしまっていた。たぶんどころではない確信で、自分はもう戻れないところまでトウヤを好きになってしまった。<br />
狡くて理屈屋で下世話で偽善者の小男。それでいながら変なところで律儀で優しくて苦労性なところを見せる、大きな手のひらの大人。<br />
もう一度、あの低くて渋い声が聞いてみたい気がするけど、あの余韻に浸っていたいけれど、それだとトモダチを救う決心が鈍ってしまう。<br />
だから今は離れるのだ。<br />
「でも今度会うとき、トウヤの隣にチェレンがいたら&hellip;&hellip;」<br />
　それを思うと胸が潰れそうなＮだった。<br />
&nbsp;<br />
<ul>
	<li>
		　　＊　　　＊</li>
</ul>
&nbsp;<br />
　シッポウシティの手前にある小さな町でチェレンは見知った顔を見つけた。声を掛けるか掛けないか迷って少し息が詰まる。<br />
『せっかく旅に出てるんじゃから――』<br />
　アデクが屈託なく笑って言った言葉を思い出す。<br />
少しでも自分から声を掛けてみよう。そう思ったらぎこちないながらも自然と彼の方に足が向いて声が出た。<br />
「トウヤっ。」<br />
　トウヤは目を丸くして驚いていた。驚きのあまり声が出ないようで口元をしきりに覆っている。<br />
「チェレン&hellip;&hellip;。」<br />
「え、え、あのっ。驚かせて&hellip;&hellip;。ごめん。」<br />
　顔に熱が帯びてくる。たぶん恥ずかしさで顔が赤くなってきているのかもしれない。トウヤも挙動不審にキョロキョロと辺りを見渡していた。<br />
「そ、んなこと、ないよ。いやあ。また会えるなんてなあ。」<br />
　そこらへんに座らない？　トウヤが指差す方向には噴水のそばのベンチがあった。<br />
「うん。」<br />
　チェレンは頷いた。トウヤは不自然に口の端を上げて、半ば肩をぷるぷると震わせている。<br />
「チェレンから声を掛けてくるなんて珍しいね。」<br />
「そ、そうかな？」<br />
　対人関係では消極的なほうだという自覚はチェレンにはあったが、まさか声を掛けただけでトウヤがこんなに動揺するとは思わなかった。<br />
「知ってる人とか旅に出てからあんまり見ないから。」<br />
「そっか。」<br />
　トウヤは落ち着いてきたのか、チェレンの知っている瀟洒な男の顔に戻りつつあった。<br />
　二人は横に並んでベンチに座る。腰を据えて話す予定じゃなかったチェレンは、少し何から話そうかと迷った。<br />
「あのさ、トウヤはバッジどれくらい取れた。」<br />
　トウヤはチェレンの無理に出した質問に、さらりと一つと言った。Ｎと別れた後、意気込んだように飛び込んだジムで自分でも思いがけなく楽勝したのがトウヤの自信を回復させていた。<br />
「僕も一つなんだ。君はミジュマルを選んだから、相手はデントさんだったんだろ？　僕はポッドさんに当たって少し苦戦したかな。だけどね、ヒヤップやチョロネコがいてくれて助かったよ。」<br />
「チョロネコ&hellip;&hellip;。」<br />
　トウヤは中空を見上げて、そして気のせいだろうか少し疲れたような顔をして溜息をついた。トウヤのチョロネコはやはりジム戦ではやはり役に立たなかった。<br />
「チェレンのチョロネコも頼りになるんだね&hellip;&hellip;」<br />
　どうしたのとチェレンが顔を覗き込むとトウヤはあのねと話し始めた。<br />
「僕もチョロネコ捕まえたって言ったよね。そのチョロネコがさ、あんまり頼りにならないんだよ。のんびりやでマイペースというか、悪く言えばぐーたら。ちょっと彼女をどうしていいか。」<br />
「トウヤに困ってしまうことってあったんだ。」<br />
　チェレンにとっては目から鱗だった。何事もそつなくこなすエリートなのに、人間の部下の扱いもいいと聞いていたのに、たった一匹のチョロネコでこんなに悩んでしまうのか。<br />
「僕もこんなことは初めてだからね。君にはとんだ愚痴を聞かせてしまって申し訳ないというか。」<br />
　トウヤの悩み事を聞くという万に一つともない事態にチェレンは動揺している。<br />
「そんなことないよ。僕もたいしたアドバイスは出来ないけど。」<br />
　チェレンは自分のチョロネコを顧みても、どうしてトウヤがこんなに困っている状況になっているか分からない。トウヤと自分のチョロネコの違い。多少の個体差もあるのだろうがと考えたところでチェレンは閃いた。<br />
「ああっ。」<br />
　チェレンはその思いつきを口に出してみる。<br />
「僕が会ったポケモンの年齢当てが得意っていう人が言ってたんだけど、僕のチョロネコって他のトレーナーが連れているチョロネコより年齢が高いらしいんだ。もしかしたら逆にトウヤのチョロネコは僕のチョロネコとは反対に、限りなく若い個体なのかもしれないよ。野生での経験値も少ないからかもしれない。本当にもしかしたらだけど。」<br />
　チェレンはトウヤを慰めるように言う。<br />
しかしトウヤはそんな気休めは絶対あり得ないことは分かっていた。幾ら人間とポケモンといえど分かるものは分かる。トウヤのチョロネコは本当にやる気がない。自分の同僚や上司に甘えるだけ甘えるつもりでいる。そして上辺は従順な振りをしてうまーく乗り切るつもりだろう。<br />
だけどそんな確証はチェレンには言えない。チェレンのポケモンに対する夢はぶち壊せない。そんな人間とポケモンの間に目も当てられない駆け引きが常に展開されていることなど。<br />
トウヤのチョロネコはトウヤの性格にさえも付け込んでいる。一旦自分がゲットしたポケモンが使えないからと言って放逐してしまうなんて、完璧な大人を自負するトウヤには到底出来ない。人情的なものよりトウヤのプライドがそれを許さない。<br />
「いや。こうなれば僕にも意地がある。嫌が応にも彼女を使えるようにしてみせる。」<br />
「が、頑張るんだね。」<br />
　ここでこの話は打ち切ろう。トウヤはそれとは別件の、チェレンにも関係する話を持ち出すことにした。<br />
「それで、このごろさ――。あのカラクサで演説してた連中いただろ。あいつらがついに非合法活動に手を出してきたんだ。そんで、ベルがね」<br />
「ベルに何か危険なことがあったのっ？」<br />
　チェレンが身を乗り出して本気で心配している。<br />
「夢の跡地でその、あいつら&hellip;&hellip;プラズマ団って言ったかな。そいつらとやりあったらしいんだ。ムンナっていう珍しい能力を持つポケモンをある目的のために苛めてたんだって。それをベルが助けたらしいんだよ。僕もその場面に遅れて出くわしたわけなんだけど。」<br />
「それで。ベルとムンナは無事だったの？　トウヤは助けたんだよね。ベルとその子を。」<br />
「いや。助ける以前の問題だった。あいつらさあ、ベルが童顔なのをいいことに言っちゃいけないことを言ったんだよ。」<br />
「言っちゃいけないことって？」<br />
　不思議そうに首を傾げるチェレンに、トウヤは脳裏に浮かぶその時ベルが叫んだ言葉を反芻していた。<br />
&nbsp;<br />
『ごるあああ！　ガキども！　わりゃあ誰に向かってカワイイとかおじょうちゃんとかぬかしとんじゃあ！　わしゃこれでも三十来とんじゃあ！　舐め腐っとるとケツの穴から手ぇ突っ込んで奥歯がたがた言わすずお！』<br />
&nbsp;<br />
　怒りのあまりトウヤの元妻は普段は高めで甘い声が割れ、彼女の過保護な父親が訊いたら卒倒するような言葉を吐きながら、プラズマ団の若造たちを撃退していた。ベルは自分が可愛くて童顔だということで世間知らずのお嬢ちゃんというレッテルを父親に張られ、必要以上に過保護にされてきた。だから年配の者にならいざ知らず、プラズマ団のまだ二十歳そこそこの若造に可愛いお嬢ちゃん呼ばわりされてしまっては、切れるしかなかったのだろう。<br />
&nbsp;<br />
『わしゃあお前らが鼻垂らしてポケモンのポの字も知らんかったそのへんの糞ガキやってたころから、親に内緒でバーチャルポケモンバトルやっとったんじゃ！　バーチャルやいうてもなあ、廃人と凌ぎを削ってきたんじゃ！　卵厳選、努力値振りの、ドーピングアイテムを駆使した奴らに勝つにはなあ！　先の先の百手先読んでやっとなんじゃ！　年季が違うんじゃお前らと！』<br />
　そしてベルはムンナに向かって叫ぶ。<br />
『おい！　こんな糞ボケカス連中に負けとる場合違うやろ！　おばちゃんが手伝ったるから、一緒にいてこましたろうで！』<br />
&nbsp;<br />
　最終的にはベルはプラズマ団を撃退した。プラズマ団の下っ端は悪夢でも見たように撤退した。<br />
&nbsp;<br />
「チェレンも気を付けてね。」<br />
「プラズマ団に？　それともベルに対しての接し方にかな？」<br />
「どっちもということにして。それでね、ベルを落ち着かせたあと、不穏な奴もいなくなったからそのへん探索したんだ。そしてすごい逸材をゲットしたんだよ。」<br />
「逸材？　やっぱりあのへんだとムンナかな。」<br />
　トウヤはボールからポケモンを出した。<br />
「え？」<br />
　チェレンは自分の目を疑っていた。<br />
「タブンネだよ。」<br />
　トウヤはポケモンセンターでナースポケモンをやっていることで知られているタブンネを、トレーナーが経験値稼ぎのためにゲットせずに戦って瀕死に追い込み続けて罪悪感ばかりを募らせるタブンネを、まさか捕まえてパーティにいれていたとは。<br />
「この子、いや彼女はね、ミジュマルやチョロネコにはない耐久力を持っているんだ。」<br />
「タブンネ。」<br />
「タブンネじゃないよ。タブンネ。君は素晴らしいよ。」<br />
「タブンネ？」<br />
　チェレンは曖昧に頷いている。タブンネを手持ちにするトレーナーは珍しい。その珍しいトレーナーが目の前にいる現実にひたすら驚いている。<br />
　それにしても、さっきから見た目は愛くるしいタブンネが発しているなんだか禍々しいオーラは気のせいなのだろうか。時代劇でいうところの人斬り侍の持つ殺気というのだろうか。それをタブンネから感じる。<br />
「いやあ。彼女ちょっとご機嫌斜めみたいなんだ。僕が技を指示するだろ。彼女はメロメロを覚えているから、まずそれをオス相手には使うだろ。その度に舌うちされるんだよね。でもそのあと無防備なオスポケに対するおうふくビンタの凄まじさは目も当てられないよ。」<br />
「トウヤ。たぶんタブンネはメロメロを使いたくないんだよ。オスに媚を売るようで嫌なんじゃないのかな？　早くメロメロは忘れさせてあげたほうがいいんじゃない？」<br />
　タブンネはチェレンの言葉に頷いている。<br />
　トウヤのゲットしたタブンネはその見かけとは裏腹に、硬派というか武闘派な性格だった。トウヤにゲットされたのも更なる強さを極めたいという意志で、だった。しかしながら自らの特性が災いしているのが現状だった。その一つが自分の手持ち技であるメロメロだった。こんな女の武器で相手を無力化させる技などタブンネにとっては屈辱以外の何物でもない。しかしトレーナーにとっては王道の戦略なのだ。<br />
「タブンネ。」<br />
　タブンネはチェレンの腰あたりを叩いた。気づいてくれてありがとうと言っているつもりなのだろうか。<br />
「好戦的なタブンネなんだね。だけどしばらく別の技を覚えるまではメロメロは有効に使わせてもらうよ。」<br />
　タブンネがまた舌打ちをした。早く別の技を覚えてとっしんだのすてみタックルをかましたいと心に誓うのだった。彼女の願いは肉弾戦ポケモンを極めること。なんの小細工もない純粋な強さを極めることが、彼女にとってのトウヤの側にいる動機なのだから。<br />
「トウヤのポケモンってちょっと変わってるね。」<br />
　ボールに戻ったタブンネを見てチェレンは呟いた。<br />
「まあ彼女はミジュマルの姉貴分としても頼りがいがあるからね。バオップを育て屋さんに預けたあと、沈みがちなミジュマルに喝を入れてくれて大分助かってるんだ。」<br />
「そうか。トウヤの手持ちはなんだかんだでチームとして成り立っているんだね。」<br />
　　チェレンが感慨深くなっていると近くをでかいリュックを背負った男が通りかかった。<br />
「お兄さんがた。さっきの話からするとトレーナー？　どちらかと勝負してみたいんだけど。」<br />
「じゃあ僕と勝負しようか。」<br />
　トウヤが立ち上がって男と対峙する。チェレンは出遅れてしまった。<br />
「あ&hellip;&hellip;。トウヤ、頑張って。」<br />
　トウヤは満面の笑みで頷いた。<br />
「じゃあ、タブンネ頼んだよ。」<br />
　男はドッコラーを繰り出した。<br />
　トウヤはタブンネに指示を出す。<br />
「タブンネ。メロメロ。」<br />
　タブンネは「え？」と言うように聞き返した。ドッコラーが攻撃をしているが自前の耐久性でタブンネは耐えた。<br />
「タブンネ。はやくメロメロ。」<br />
　タブンネは振り返ってトウヤを睨みつけたあと、ぺっと地面に唾を吐いて、しょうがないと言わんばかりにメロメロを繰り出した。<br />
　チェレンはその光景を見て、トレーナーとポケモンの関係って画一的じゃないんだなと学んだ。目の前ではタブンネに手を出せないドッコラーがタブンネのおうふくビンタの餌食になっていた。<br />
&nbsp;<br />
　バトルはトウヤの勝利に終わった。タブンネで削ったドッコラーを引き継ぎミジュマルとチョロネコを次々と出してトウヤは獲得した経験値をきちんと三分していた。実にバランスの取れた育て方をすると思うと同時に、すこし遠回りなバトルの仕方をしているなというのがチェレンの感想だった。<br />
「すごかったな。お前のタブンネ。俺もゲットして育ててみてもいいかもな。」<br />
　男はそう言って去って行った。新たなるタブンネ使いが生まれようとする前兆めいて見えた。<br />
　トウヤは嘆息してベンチに再び座る。ベンチの背もたれに身体を預けチェレンと呼んだ。<br />
「さっきさあ、ポケモンの年齢当てが得意っていう人に出会ったって言ってたけど、どんな人なのかな？」<br />
　チョロネコやタブンネの話題にかまけていたが、実はトウヤが気になっていたのはチェレンが口を滑らせて言った人間の話だった。その人物がいつどこでチェレンと会って、どのような関わりを持ったのかを聞いてみたかったのだ。ポケモンの話題の途中でいきなりその話題に切り替えるのもわざとらしかったので、タブンネの話題が終ったところで切り出そうと待っていたのだった。<br />
　その人物のことを気にする理由はある。少し前のチェレンと打って変わって今回のチェレンは自らトウヤに声を掛けてきた。予想できるのはその人物の影響をチェレンが受けたということだ。しかも接触したのは短期間だとしか考えられないから、世間的に見ても余程の人物であるか、それともチェレンにとって深く心を傾ける対象になった人物だと考えられる。<br />
「君ちょっと印象変わったし、その人の影響を受けてるのかなって思って。だからどんな人なのかなって興味が湧いたんだ。」<br />
　チェレンは困ったように笑った。<br />
「野宿した時に一緒に食事をした人なんだ。」<br />
　トウヤがぴくりと反応する。<br />
「君、ずっと野宿してるんだろ。ずっと思ってたんだけど身体は大丈夫なのか？」<br />
「あ、少し風邪引いたからもう今日からは控えるつもりでいるんだ。その人にも無理するなって言われたから。」<br />
　トウヤはまたぴくっとこめかみが動く。<br />
「僕も前から無茶はするなって言ってたのに、君は初対面の人の言うことは聞くんだね。」<br />
　トウヤが旅の当初からチェレンを気にかけていることは、チェレン自身もわかっていた。だけどチェレンはトウヤに対して少しばかりの対抗心も持っていたので、僕の好きなようにさせて欲しいと強情を張っていた。<br />
「か、風邪引いて咳が出て介抱されたとき、トウヤと同じこと言われたからっ。痛い目にあって初めて反省したってやつかな。今じゃトウヤの言ったことは正しいってわかってるし。トウヤの言うことを少しでも聞いておけば良かったって思ってるし。」<br />
「そういうタイミングだっただけなんだね。」<br />
　トウヤの声が低くなる。<br />
「トウヤの言葉、無視するようなことしてごめん。」<br />
「いや、いいんだ。」<br />
　チェレンの言葉を受け入れたように頷いたトウヤだったが、内心はチェレンが出会った人物に対しての嫉妬未満の疑惑で渦巻いていた。あの強情なチェレンがこんなに素直に謝ってくるとは思えない。どんな人間が魔法じみた手管でチェレンを変えたのかが気になる。<br />
「誰なのかな？　君をそんなに素直にしたのは。」<br />
　チェレンはふるふると首を振る。<br />
「あんまり公に名前を言い触らせない事情のある人なんだ。ていうか、その人との出会いが僕にとっても宝物みたいに思ってるから。も&hellip;&hellip;もう少しだけそれを僕だけのものにしておきたいんだ。トウヤに絶対にその人のこと教えないってわけじゃないから。今だけ内緒にしてていいよね？」<br />
　トウヤはチェレンからの好感度とチェレンの周囲の人間関係の把握を両天秤にかけている。チェレンからは考えられないような夢見がちな言葉を聞いて、トウヤはこの状況に少しばかり恐怖を覚えた。だがしつこく追及すれば、チェレンは二度とトウヤにチェレン自身の近況なりを打ち明けてくれることは皆無になりかねない。ならば泣く泣くその不可解な人物の正体については目を瞑るしかないだろう。まだトウヤの追及が好奇心からと受け取られているであろううちに。<br />
「宝物ねえ。ロマンチックな言葉だね。ならもう少し君だけのものにしていいよ。だけど、近いうちには僕にも紹介して欲しい。その素敵な年齢当ての達人さんを。」<br />
「&hellip;&hellip;うん。わかった。トウヤにも紹介するから。」<br />
　トウヤとチェレンはぎこちないながらも微笑みあう。いつも頬を引き締めていたチェレンの白い顔が、少し紅くなっていた。何かが自分がチェレンから離れていた間に進行しつつある。世界の裏の部分でも、トウヤにとって身近で見知った人間にも。<br />
　トウヤにはおぼろげながらにそれが怖かった。<br />
&nbsp;<br />
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	<li>
		　　＊　　　＊</li>
</ul>
&nbsp;<br />
　ゲーチスは組織の専用車でとある研究所に赴いていた。そこでは彼がスカウトした科学者がある動力機関とそれを制御する装置を開発している。<br />
　ゲーチスがそこに下っ端に声をかけ扉を開けてもらうと、顔は知っているが招いた覚えのない女研究者が気安く声を上げた。<br />
「はーい。ヘル・ゲーチス。」<br />
「貴女は&hellip;&hellip;アララギ博士ですか。」<br />
　ゲーチスはアララギの傍にいた金髪碧眼のメガネで白衣のお抱え科学者アクロマにどういうことかと視線を送る。<br />
「ご心配ありません。ラギさんにはご協力頂いてるだけなんです。」<br />
　横でアララギがうんうんと頷いている。実に罪のない微笑みを浮かべながら。しかしここは非合法な組織の最重要な開発を行っている場所だ。彼女のように日向の場所で大手を振っている存在がこの場にいることは少し都合が悪い。いや実に都合が悪い。<br />
　彼女が個人研究者としてプラズマ団にいるならば、それはまだ許せる。だが彼女の場合は父親も高名な学者という、二世研究者だ。父親もプラズマ団に協力する気があるというご都合主義は存在しないだろう。というかプラズマ団の前提をことごとく覆すようなことを企んでいる可能性のほうが高い。<br />
「ドクターアクロマ。困りますなあ。外部の者を招くなど。」<br />
「えー。だって&hellip;&hellip;貴方が融通してくれた団員さんたちより、ラギさんのサポートのほうが断然頼りになるんですもん。」<br />
「ドクターアクロマ。彼女はあのアララギ博士のご息女ですよ。我々の考えと同調するわけがありません。それは水と油が混じることがないと言うほど明らかではありませんか。」<br />
「えー？　私はロマっちが面白い研究してるから来ないかって言われて来ただけだけど。ねえ、ロマっち。」<br />
「そうですよ。」<br />
　ゲーチスは科学者には守秘義務とかは丸無視かいと頭が痛くなる。<br />
「しかしながら、私はアララギ博士のお父上の見解なども知っているわけで。反対論者の派閥関係者はやはり歓迎しかねますねえ。アララギ博士。」<br />
「あらら。私と父さんが同じ意見だと思ってゲーチスさんは心配してるわけえ？　せっかくカノコから手伝いに来たのに？　ロマっち悲しいよね。そんな言い方。」<br />
「ラギさん。ラギさんは一人で団員百人分くらいの頭脳はあるんですよ。いいじゃないですかゲーチス様。」<br />
　ゲーチスはアララギとアクロマの後ろに鎮座している開発途中の装置に目をやる。明らかに先日見た状態より進歩している。専門家でない団員では間に合わないのはゲーチスだって理解している。<br />
「アララギ博士。私としては貴女がいることで助かるのは存じています。その反面で心穏やかではなくなっています。貴女がお父上やその派閥にいる研究者に情報を漏洩させることが恐ろしいのです。」<br />
「あら。じゃあ私のことをここに拘束するつもりなのかな？　いや、それ困るし。荷物も最低限しか持ってきてないし。」<br />
「言われるまでもなく、それが不可能なことは理解しています。それこそ高名な学者の失踪事件だと大騒ぎになってしまいますから。」<br />
　アクロマは焦れたように半ば子どものような言い分でゲーチスに言う。<br />
「ラギさんは別にプラズマ団のことを探りにここに来たわけじゃないんですよ。さっきから聞いていましたら、なんでラギさんのお父さんの話が出てくるんですか？　わかりませんねえ。」<br />
「ドクター・アクロマよ。親と子はあくまで別の個人とされているが、それを大方の人間は切り離して考えられないものなのです。どうしても私には、父親のほうのアララギ博士の影がこのアララギ博士の後ろにちらついてしまうのです。」<br />
　ゲーチスのなんとも言えない表情にアララギは開き直ったようにしょうがないと呟いた。<br />
「みんな父さんのことを気にするのよね。ロマっちが庇ってくれるのは嬉しいよ。だけど昔からそうなんだよね。ヘル・ゲーチスもそうなのよ。」<br />
　ゲーチスはアララギの言い草に眉根を寄せる。<br />
「それを理解して貰えるのは有難いことです。貴女は経験からそれを承知した上でここに来たわけですね。」<br />
　そこまでのことは言っていない言うようにアララギはあーと掠れた声を出す。<br />
「いや。ロマっちが面白いことをしてるって、それだけだけどね。それと特別に報酬貰うって約束だから。」<br />
「報酬ですか。それは現時点でプラズマ団としても保証せねばなりませんね。」<br />
　報酬というよりも口止め料としての意味が強いがとゲーチスは心の中で呟いた。<br />
　結局アララギはゲーチスを悩ませる天才どもの一人でしかないのだろう。アクロマしかり。Ｎしかり。それと関わるには信頼とか契約とかけじめは役に立たない。自由にやらせられるところだけ自由にやらせるしかない。<br />
「アララギ博士。このことが外部に流出した場合、貴女の身柄や身の安全は保証しませんがよろしいですかね。」<br />
「承知するも何も。あり得ないことだと私は思うよ。」<br />
　そうですか。ゲーチスは諦めるように空いた椅子に腰を下ろした。<br />
&nbsp;<br />
　再び扉が開けられる。<br />
「こんにちは！　アクロマさん、カレー食べに来たけど住所ここで良かったよね？」<br />
　ゲーチスが持ち前の巨体をぎくりと震わせる。また部外者が来たと。<br />
「トウコちゃん。何年ぶりだろ。」<br />
「あら。アララギ博士。エンブオー、博士だよ！　わあ！　そんな外で団員さんに謝ってないで、こっちこよ！」<br />
　ゲーチスは首から下を硬直させたまま、首だけアクロマの方を向き無表情で言った。<br />
「ドクター・アクロマ。説明して欲しいのだが。」<br />
「彼女はトウコさんと言います。私のその&hellip;&hellip;」<br />
「お友達だよっ。」<br />
　珍しくもじもじしているアクロマの様子がおかしいが、トウコの屈託のなさにゲーチスはもう何も発言したくもなくなってきた。<br />
「トウコさん。ここで見たことはご内密にお願いできますか？」<br />
　ゲーチスは自分の背後にある巨大な装置を指してトウコに問いかけた。<br />
「うん。私カレー食べにきただけだから。」<br />
「ロマっちのカレー美味しいからね。そうかトウコちゃんもカレーに釣られてきたのね。」<br />
　もしかして先のアララギの言った特別な報酬というのは、カレーのことだったのかと、ゲーチスは麻痺した半身に血の気が蘇ったような怒りによる錯覚を覚える。<br />
「それではゲーチス様。私はカレーを作りに行ってきます。」<br />
　アクロマは嬉々として部屋から出た。<br />
　ゲーチスはもう突っ込むのも疲れてきた。天井裏に何故かいるダークトリニティに目配せをする。<br />
　ダークトリニティは無言で頷いた。たぶん彼らがアララギとトウコの監視を担ってくれるだろう。それだけがゲーチスにとっての救いと呼べるものだった。<br />
　横を見るとトウコのらしいエンブオーが「あのう、すみませんでした」とばかりに待機している。ゲーチスは小声で気にしなくてもいいですよと言った。<br />
「ご婦人二人もその身が健やかであり続けたいのなら、この老体の忠告を誠実に受け止めて欲しいものですね。」<br />
　優しい口調とは裏腹の脅し文句を二人に告げてゲーチスは出て行った。<br />
「アララギ博士。」<br />
　トウコの呼びかけにアララギは手にしていた工具を床に置いた。<br />
「アララギ博士じゃないでしょ。トウコちゃん。もう五年以上も連絡一つすら寄越さないで。しかもこんな悪の組織の最重要拠点に入り込むだなんて。」<br />
「アクロマさんに招待されたんです。」<br />
「トウコちゃん。いつからそんなに軽はずみな子になったの？　旅に出る前のあなたは思慮の塊のような子だったのに。私もさっきは老人の警戒心を削ぐために、あなたがもとから少し頭が軽い子のように扱っちゃったけど、私としてもあなたのキャラの変わりようにビックリしたわよ。噂では聞いていたけど目の当たりにすると少し怖くなるわ。」<br />
　もしかして馬鹿っぽい子の演技してるの？　アララギの声が微かに無機質な室内に反響した。トウコはきょとんと首を傾げている。<br />
「演技って言われても&hellip;&hellip;昔も今も私変わってないつもりなんだけど。」<br />
「あなたからしてみれば、そうかもね。じゃあ言わせてもらうわ。あなたのエンブオーが無茶苦茶高いレベルなのに、ヨーテリーに勝ててないのは一体なぜ？　シッポウシティでのこと、ロマっちに聞いたわよ。」<br />
「えー。でも負けちゃったんだから仕方ないじゃないですか。」<br />
　トウコは本当に困ったような顔をしている。<br />
「負けたら負けたで昔のあなたはそれをきちんと分析して次のバトルに活かせる子だったよね。あなた、負けたことにも全然気にしてないでしょ。それとエンブオー以外のポケモンはどうしたの？」<br />
「えっと&hellip;逃げちゃいました。たぶん私を見限って。」<br />
「それにも全然危機感を持っていない。」<br />
「はい。確かに。」<br />
「自分の身に起こったことなのに、なんか他人事のように思ってない？」<br />
「私がポケモンに対して真剣じゃないって言うんですか？」<br />
　トウコはおろおろしている。アララギは溜息をついた。エンブオーがふるふると首を振っている。ポケモンが鳴き声や攻撃行動ではなく、わずかな仕草でトレーナーを庇っている。自分の前で進行している会話を理解しているかのように。かなりレベルだけではなく知能も高いエンブオーのようだ。<br />
「わかってる。トウコちゃんは本当にポケモンが大好きなのよね。」<br />
「はい。大好きです。バ、バトルだってそのうち勝てたらいいなって。」<br />
　アララギはそれ以上はトウコを責める気にはなれなかった。科学的に分析出来る問題じゃないと明らかにわかるからだ。これはポケモンに関わる学者とトレーナーがお互いに一線を引いた上でのやり取りなのだから仕方ない。<br />
トウコが本当にお馬鹿になってしまったにしろ、演技しているにしろ、それをアララギに正直に言っているとは限らない。どちらにでも取れるようにそれらしく受け応えしている。しかし演技でも自然の変化しろ、トウコの変化の結果は自分の同業者であるアクロマの興味を惹いてしまっている。<br />
アクロマの研究はポケモンの潜在能力を引き出すこと。トウコはその反対の現象を起こしている稀有なトレーナーだから、アクロマのアンテナに引っかかったのだろう。<br />
　トウコは昔は才媛と呼ばれるような優秀な少女だったという過去も十分、アクロマにとっては興味の対象になったのだろう。彼女の変わりようの転機は遡れば、ポケモンを手にしたことだ。その因果関係にアクロマが目を付けるのは当たり前だ。アララギだってその因果関係の是非を確かめたいに決まっている。<br />
　取りつく島のないトウコにアララギは手を変えてみようと思った。そして声を若干甘くしてトウコ肩に腕を回し引き寄せ顔を近づける。<br />
「トウコちゃん。トウコちゃんは昔、私にすごく懐いててくれたよね。大きくなったら博士みたいにポケモンの研究したいなって言ってくれたよね？　でも、大きくなったらなったで、若くて優しくて優秀な男の人のほうがいいのかな？」<br />
「博士？　どゆこと？」<br />
　アララギはトウコのポニーテールにした髪を掬い上げる。それを指に絡ませながら熱っぽくトウコを見た。<br />
「やきもち妬いているのかもしれないわね。こっちは何年も連絡寄越してくれなかったのに、初対面のロマっちのとこにほいほい来ちゃったから。」<br />
「そ、そういうつもりなかったんです。博士に連絡しちゃうと、親が嗅ぎつけたときに博士に迷惑かけちゃうかなって。」<br />
「そうね。そうなりかねなかったけど。悲しいな。私にとって可愛いトウコちゃんがいざという時頼ってくれないなんて。私もっとトウコちゃんに頼られたかったな。」<br />
「博士&hellip;&hellip;。ごめんなさい。」<br />
　トウコは俯いてしゅんとしている。でもトウコより背の高いアララギにはトウコの表情は読み取れない。ここまで情に訴えかけてもトウコは一向にアララギになびいてきたり、感情的に反論することもない。本当に世間で言うところの可愛らしい女の子の範囲を守って、それらしい反応をしてくれている。逆に単なる考える頭のない素直なだけの女の子には出来ない芸当だろう。<br />
　まあいいかとアララギはトウコの肩をぽんと叩いた。今日のところは会話のシーソーゲームを続けるより、旧知の仲同士、アクロマの振る舞う甘口カレーに舌つづみを打つことにしよう。<br />
年頃の娘はこれだから扱いにくい。自分が男ならもう少しやりようがあったのだが、自分は女だ。それでも大人の女の魅力でたらし込むには昔のトウコを知っているだけにリスクを警戒してしまう。今は何の下心のない地元の恩師というポジションから離れないようにしておこう。<br />
「ロマっちのカレーがそろそろ出来上がるころだとは思うわよ。」<br />
「あ。じゃあ私、持ってくるの手伝います。キッチンこっちですよね。エンブオー。エンブオーも手伝おうよ。」<br />
「ブオっ。」<br />
「じゃあエンブオー行くよ。」<br />
　アララギは笑顔で手を振った。あのエンブオーがトウコに張り付いている限りは、アクロマも研究者ではない男としてのアプローチもままならないだろう。<br />
「それと、」<br />
　誰に言うでもなくアララギは呟く。天井にいる監視者はアララギの何気ない目に息を潜めた。アクロマのほうに行ったトウコより、アララギを監視しようという判断らしい。<br />
「ふっ。」<br />
　アララギは笑った。そしてまたモニター画面と睨めっこをしながらトウコ達が運んでくるカレーを待つことにした。<br />
&nbsp;<br />
　トウコはキッチンに続く通路を歩く。<br />
「ねえ。エンブオー。あの部屋すっごい機械がいっぱいあったね。」<br />
「ブオ。」<br />
　トウコがここの施設に来て初めてここについての感想を口にした。今までそれを気にもなっていなかったような態度から、施設の大部分を占める制作中の機械に言及したトウコにエンブオーはわずかに反応が遅れて生返事をしてしまった。<br />
「ブ、ブオっ」<br />
「あれ壊すのエンブオーだけじゃちょっと無理っぽいよね。逃げちゃったあの子達帰ってきてくれるかな？」<br />
「&hellip;&hellip;。」<br />
　何気にトウコは逃げて行った他の手持ちを気にしていたのかとエンブオーは絶句した。しかもトウコはあいつらが戻ってくる可能性があるかのように言っている。<br />
「エンブオー。プラズマ団の演説聞いたこと覚えてる？」<br />
　エンブオーは頷く。<br />
「ポケモンの解放って言っていながら、あの機械はものすごく矛盾してるよ。」<br />
「&hellip;&hellip;オ？」<br />
　トウコはあの機械の塊の正体が分かっているのだろうか。<br />
「本で見たことあるんだ。電気ポケモンの電気エネルギーを動力にしている車の写真。あれ結局、ポケモン倫理に背くからって開発中止になっちゃったんだよね。そうだよね。電気ポケモンに命令しないと車動かないってことだよね。ポケモンも長い走行距離を走ってる間に疲れちゃうかもしれないのに。」<br />
　よくある発明品の失敗談だった。車と言うからにはつい数年前の話だと考えられる。トウコは続けた。<br />
「開発しちゃった人はじゃあ何匹かで交代とか、充電式にしようとか言ってたけど、どっちにしたってポケモン可哀そうだよ。道具や燃料扱いするなんてひどいよね。で、アクロマさんが作ってたあの機械だけど、どうやらポケモンを道具にしようという設計みたい。」<br />
　そういえば大型のポケモンが入れるくらいのケージが付属していたとエンブオーは思い出した。トウコはエンブオーの反応に頷いた。<br />
「あの優しくて純粋そうな人が作ったものとは信じたくないけど。だけど頼まれちゃったんだろうね。たぶん。アクロマさんは優しいから純粋だから断れなかったんだよ。そういうことにしておこう。これを使ってポケモンを解放させれば、その時一回きりだけだから、必要な行為だからしょうがないとかかな。まあ私が壊しちゃってもアクロマさんは怒らないよね。だってアクロマさんは私のこと好きみたいだし。」<br />
　トウコは長いセリフをまるで歌うように言った。エンブオーはその逐一の意味を読み取るたびに、だんだんと今までのトウコが遠くなるような気がした。トウコの手を掴んで言葉を止めさせたいけど、その手が何故だか掴めない。<br />
「エンブオー、大丈夫。何も怖くない。アクロマさんも、博士も、ゲーチスのおじいちゃんも、この中にいるプラズマ団員さんたちも。私のことだって。エンブオーが怖がって怯えることはないんだよ。だって世界は混沌として優しいんだもん。」<br />
　トウコのほほえみには絶対の自信が潜んでいる。本当に何も怖くないかのように。<br />
　もう少し奥に進むとカレーの匂いが漂ってきていた。<br />
「あ。トウコさん。カレーちょうど出来上がったところなんですよ。」<br />
　嬉しそうな笑顔のアクロマはエプロン姿でトウコを迎え入れた。<br />
　トウコがエンブオーに語った企みなど、何も知ろうはずもないアクロマだった。彼は彼女に自分の開発したものを壊されたとしたら、彼はいったい彼女にどんな表情を見せ、何を言ってしまうだろうか。自分の良かれ悪かれ努力の結晶をぶち壊されても、このような笑顔を向けられるとは思えない。それとも万能の科学者の本領を発揮して、壊れない機械とやらに仕上げているのだろうか。<br />
　誰も彼もの胸も内を互いに分からないまま、プラズマ団の研究室は今日も稼働し続けていた。<br />
&nbsp;]]></content:encoded>
    <dc:subject>ポケモン</dc:subject>
    <dc:date>2013-05-03T18:05:17+09:00</dc:date>
    <dc:creator>柴仲達</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>柴仲達</dc:rights>
  </item>
  <item rdf:about="http://ktkr.gjgd.net/%E3%83%9D%E3%82%B1%E3%83%A2%E3%83%B3/%E2%98%86%E3%80%8C%E9%9B%BB%E6%B0%97%E9%BC%A0%E3%81%AE%E3%81%AA%E3%81%8F%E3%81%93%E3%82%8D%E3%81%AB%E3%80%8D%E3%80%8C%E6%8B%9D%E5%95%93%E3%80%81%E3%83%99%E3%82%A2%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%81%E3%82%A7%E6%A7%98%E3%80%8D%E3%83%92%E3%83%93%E3%83%AC%E3%80%81%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%AC">
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    <title>☆「電気鼠のなくころに」「拝啓、ベアトリーチェ様」ヒビレ、グリレ</title>
    <description>　夜が明けるまでまだ時間がある。ヒビキがその山の麓に立ったとき。
&amp;amp;nbsp;
　あの人は僕を待っているわけじゃないけど、僕のような存在を待っていたと信じたい。じゃないとこの険しい山を登っている意味がない。まだ見ぬあの人のことを理解しているだなんて言うのは、なんとまあ傲慢なことだけど、これまでの...</description>
    <content:encoded><![CDATA[　<font style="font-size: x-small;">夜が明けるまでまだ時間がある。ヒビキがその山の麓に立ったとき。<br />
&nbsp;<br />
　あの人は僕を待っているわけじゃないけど、僕のような存在を待っていたと信じたい。じゃないとこの険しい山を登っている意味がない。まだ見ぬあの人のことを理解しているだなんて言うのは、なんとまあ傲慢なことだけど、これまでの道筋にあの人が落としてきた思いを僕は逐一拾い集めてきた。あの人の心の欠片を僕は集めてあの人に返そうと思う。もうすぐすべてのピースが組み合わさる。それこそが彼だと思う。<br />
&nbsp;<br />
ヒビキはここに彼の人がいるのかとため息が出る。三年前にポケモントレーナーの世界に忽然と現れ、悪の組織を壊滅せしめて、チャンピオンの座についたと思いきや、それから先はこの山に閉じこもってしまった少年。<br />
「三年前が今の僕と同い年だったから、生きていれば十四歳だよな。見た目も僕が知ってる感じじゃないかも。」<br />
　とはいえ、せっかくバッジを集めて会いに行くのだ。というか、会いに行く権利を手に入れるためにバッジを集めたのだ。<br />
「だけどなあ。あの人に会ったっていう人たちの感想なりなんなりあるはずなんだけどね。この山って人間は立ち入り禁止ってわけじゃないし、三年間の間にも僕みたいなやつもいるだろうし。」<br />
　考えられるのは、その彼に会った誰も彼もが彼のことを語ろうとしないという可能性だろうか。<br />
　ヒビキも胸に秘めていることだが、レッドに会えたらまず一番に尊敬していることを伝え、対戦を申し込むだろう。勝っても負けてもそのあとに出る行動は決まっている。彼に地上に戻って欲しいと説得することだ。もし説得に失敗しても地上にいる顔馴染のトレーナーや彼の母親に彼の無事を伝えるべきであろう。<br />
　だが誰もそれをせずにいる。最悪を考えれば誰も口を噤んでしまうだろうが、それはあまりにも無責任というべきであろう。その最悪の事態があったとしても、少なくとも彼を連れ戻すことは出来るのだ。<br />
「だから僕はあの人は生きていると考える。」<br />
　あの人のもとにはあの人が愛したピカチュウがいるはずだ。シロガネ山にて野性で生息していないはずのピカチュウが。そんな愛ポケを自分の道連れにすることは考え辛い。<br />
　そう考えている間にもヒビキは息をするように野性のポケモンを手持ちポケモンで追い払って山を登っていく。<br />
　息が白くなっていく。思うよりここは寒かった。氷の欠片が舞っていてどこか幻想的だが、人間が生きていくにはあまりにも寂しい世界が目の前にあった。何故こんなところに閉じこもってしまったのだろう。ヒビキは知っている限りのレッドを頭の中でこねくりまわしている。<br />
　無口で静かな少年。切れ長な目が時々帽子のつばで隠れている。そのくせバトルは強くて、悪しき大人を次々と返り討ちにしてきた。その時も一切無言だったという。白熱したバトルの最中にその澄んだ声はポケモンに指示を出すときのみ発せられ、勝利してもやはり無言だったという。<br />
「あ。思った以上に排他的っぽいなあ。」<br />
　普通ならもっと血の気が多そうな情報もありそうなのに。むしろヒビキのイメージの中の彼はひたすらクールだ。<br />
　さてヒビキがこうやってイメージの中のレッドを膨らまして膨張させ続けているのは、憧れと尊敬もある。それと同時にまだ出会わない彼に恋心めいたものも感じていた。<br />
　常識的に考えて、妄想約九十パーセントそれでいて男に恋するなど、ヒビキ本人からしてみても自分が痛すぎる。だからヒビキはその痛々しい恋情になんらかの結論を出したかったのかもしれない。幼い頃の純粋な尊敬と憧れに立ち返りたかった。妄想過ぎて恋に陥ったのなら、現実を直視して目を覚ますしかない。<br />
「だけど現物を見て決定的になったら、僕どうしよう。」<br />
　彼との状況を想像してみるに一対一のタイマンである。さらなる現実に直面するために告白はしたほうがいいのかもしれない。<br />
『ずっとまだ見ぬあなたに憧れていました。そして、逢いまみえた今、僕の気持ちは決定的になりました。レッドさん。僕はあなたのことが好きです。レッドさんは僕より三つ年上。年上の人に憧れるのは男の通る道です。今あなたの目に映っている僕は、さぞや青臭くて子供っぽいくせに、やけに熱っぽい目をしているなあとお思いでしょう。それこそが僕の気持ちなのです。あなたを思うあまりに故郷を飛び出し、その地方のバッジを集めチャンピオンになり、あなたの君臨するこのカント―の地にまで訪れました。そこでもここに来るためにジムリーダーと勝負し続けてきました。そしてやっとここまで来ることが出来たのです。今から勝負をして下さい。あなたへの思いをこのバトルに全て捧げます。万に一つでもあなたに勝てたなら、あなたのその涼しい目を僕に向けて下さい。そして処女雪のようなその手を僕に差し伸べて「君みたいな人を待っていた」と言って下されば、とてつもない至福です。出来ることならこの寒々しいところから僕が地上に連れ出して差し上げたいです。僕の故郷はあなたの故郷であるマサラタウン同様、ど田舎の辺境ですが、負けず劣らずいいところでもあります。一緒に来てくれませんか？　僕のその&hellip;&hellip;お嫁さんとして。』<br />
　一通り妄想を終えた後、こんなんだから妄想の相手に恋してしまうのだと自己嫌悪になってしまった。<br />
　ふと目の前が明るくなる。太陽がかなりくっきりと丸く見える。粒の細かい氷が舞っているせいであまり太陽が眩しく感じない。<br />
　掘立小屋が見える。窓からは明かりが漏れていた。曇っているガラスの向こうで何かの影が揺らいでいる。ヒビキの胸が高鳴った。　ヒビキはその小屋が廃墟でないと確信した。迷わず近づいてその小屋のドアを開けた。<br />
「ごめんください！　レッドさん。あなたのヒビキが会いにきました。」<br />
　ばんと音を立てられて開けられたドア。小屋の中にはヒビキの想像通りの年上の少年がいた。黒髪の切れ長の目。見るからに静かな佇まい。ヒビキを見る目は予定外の客を見る目で冷やかだった。<br />
&nbsp;<br />
「&hellip;&hellip;。なに？」<br />
&nbsp;<br />
　すべてが想像通りだった。しかしたった一つ想像外だったその少年は、ヒビキに対して澄んだ声で「なに？」と問いかけてくるが、それに対するヒビキの応酬は――。<br />
「うわああああああああ！」<br />
　ヒビキの目の前のレッドは全裸で部屋の中に立っていた。小屋の中には本当にかすかな照明が灯っていた。反射的にヒビキはドアを閉めて全体重を全てドアにかけてへたれた。<br />
「あ、あ、あ、あ、&hellip;&hellip;はあ&hellip;&hellip;はあ&hellip;&hellip;服着てください！」<br />
「いやだ。」<br />
　ドアの向こうで冷たい声が答えた。<br />
「このままじゃ僕は小屋の中に入れません。お願いですから、服着て下さい。」<br />
「入れないなら帰ればいいじゃないか。俺がお前を呼んだわけじゃないし。」<br />
「それはそうですけど。」<br />
　予想以上に喋ってはくれたが発せられた言葉は拒絶ばかりで可愛げがない。せっかく可愛い声をしているのに勿体ないと思う。<br />
「レッドさんで、いいんですよね。」<br />
「ああ。俺がレッドだ。」<br />
　ドア越しに二人は会話を続ける。<br />
「生きてたんですね。」<br />
「勝手に殺すんじゃねえよ。」<br />
「だってあなたに会ったっていう人の噂とか聞かないですもん。」<br />
「あー&hellip;。前に何人か来たな。女の子は俺のこの姿見て失礼なことを口走りながら逃げて行ったし。野郎は全裸の俺とバトルしたあと肩を落としながら帰って行ったよ。ったく。自分の家で裸でいて何が悪いんだよ。」<br />
「別の意味で噂にならなくて良かったですね。」<br />
「別に噂になろうがなるまいが俺には関係ねえよ。」<br />
　澄んで綺麗な声が驚くほどの不躾で乱暴な言葉を紡ぎ続けている。ヒビキは意を決してもう一度ドアを開けた。<br />
「なんだよ？　結局入ってくんじゃんかよ。」<br />
「す、すみません。そうしないと全てが始まらないんです。それでもう一度お願いします。どうか、服を着て下さい。」<br />
　レッドの肌色が目に眩しすぎる。そしてあらぬところに目が行ってしまう。<br />
「おい早く家の中に入るなら入るでドア閉めろよ。さみいじゃねえかよ。」<br />
　さみいじゃねえかよじゃねえんだよと、ヒビキはドアに手をやったまま閉めようとしない。<br />
「服を着て下さらないと、ここは閉めません。寒いのは僕も一緒です。さあ、どこまで頑張りますかね。このままだとここの温度は外気と入れ替わってどんどん下がりますよ。<br />
「ちっ。リザードンを出せる広さなら、こんなちんけな奴の脅しには屈さねえのに。わかったよ。着たらいいんだろ着たら。」<br />
「ありがとうございます。」<br />
　それでもヒビキはレッドが服に手を伸ばすまでドアを閉めなかった。レッドはそのしなやかな肢体をやっと服で隠してくれた。サービスのつもりかトレードマークのキャップまで被り、設定どおりの姿になった。<br />
「この山に来てから俺に服を着せたのはお前が初めてだぜ。」<br />
「普通は逆の行為のことで言う言葉ですよね。」<br />
「こんな環境だから茶すら出さねえけど、そこ座れ。そんで人の家に文字通り土足で踏み込んだんだから、要件ぐらいとっとと話せ。」<br />
　ヒビキは言われた通りレッドが指差した床に正座する。<br />
「僕はジョウトから来ましたヒビキと言います。カント―まで来たのは、その&hellip;&hellip;あなたに憧れて。会いにきたわけです。あなたがずっとシロガネ山に閉じこもっていると聞いたので。」<br />
「ふーん。じゃあそれなりにバトルは強いわけだな。そんで会いに来た目的はやっぱりバトルか？」<br />
「それもあります。」<br />
　レッドは興味なさそうに床に布を敷いただけのところに横向きに寝そべった。<br />
「俺のピカチュウとかに勝てるつもりかよ。」<br />
「勝つ自信があるとは言ってません。」<br />
「そんならお前のポケモンが可哀そうになるからやめとけ。」<br />
　実もふたもない言葉だった。想像を裏切ってかなりエキセントリックかつ浮世離れした性格らしい。身にまとった哀愁だと思っていた憂いの姿は、ただのふてぶてしさに変わっていた。<br />
「あのさあ、お前は勘違いしてるみたいだけど。お前のポケモンが弱いから可哀そうなんじゃなくて、勝つ確信もない癖にあわよくば勝てたらいいなあっていう心づもりで、強敵だとわかってるやつと戦わす根性が駄目なわけ。トレーナーに勝てるって見込みがない戦いに自分の手持ちを巻き込むな。馬鹿。」<br />
「いや。それは精神論でしょ。何のデータもない相手に確実に勝つなんて出来るわけないでしょ。」<br />
「データがないなら、データを無視しても勝てるように育てとけ。」<br />
「それまで待ちきれなかったから、先に来てしまったんですよ。」<br />
「待ちきれなかった？　なんだそれ？」<br />
ヒビキにしてみればあわよくば勝つとは別に、あわよくば嫁にして故郷に帰るという妄想が前提の邂逅だった。<br />
「僕はあなたに逢うために、血がにじむような思いをしてきたんです。」<br />
「血がにじむような思いをしてきてまで弱かったら、それこそ俺の中でヒビキっていうトレーナーはビッグマウスの情けない奴と永遠に記憶されるぞ。」<br />
「永遠に記憶されちゃうんですか！　忘れてくれないんですか！」<br />
「ああ。俺は負かせた奴のことは全部覚えてるから。寝る前にそいつらのことを思い返すとよく眠れるんだ。」<br />
　過去の敗者の数はこのチャンピオンにとっては羊と同じらしい。<br />
「なあ？　それは嫌だろう。ていうか俺に会いに来たんならあるよな？」<br />
「なにかって？」<br />
　レッドは焦れたように手をヒビキの前に出した。<br />
「こんなとこに籠ってんだから、飢えてるにきまってるだろ。タンパク質とか炭水化物とか脂質に。」<br />
「え？　え？」<br />
　ヒビキは慌てて背負ったリュックを下し中を物色する。<br />
「あ、あの。こんなもので良かったら。」<br />
「焼き鳥とあんドーナツか。」<br />
「麓のコンビニで買ってたものなんです。駄目ですか。」<br />
　レッドは不遜な態度のままあんドーナツの袋を開け、一口かぶりついた。<br />
「お前これセブンで買ってきただろ。俺はローソン派なんだ。」<br />
「僕どうしてもセブンのそれが好きで、見かけると買ってしまうんですよ。」<br />
「まあいいけど。」<br />
　クールな言葉は変わらないが目は明らかに嬉しそうだった。ヒビキの胸がきゅんとする。<br />
　頬を膨らませてレッドはあんドーナツにむしゃぶりついている。唇についた粉砂糖もピンクの舌が舐めとっている。<br />
　ドーナツを食べたあとに焼き鳥に食いつくレッドを見てヒビキは、しまったフランクフルトかアメリカンドッグにするべきだったと後悔した。<br />
「うまいなあ。久しぶりの肉と菓子パンだったぜ。」<br />
「シロガネ山ってなんだかんだで地元にも近いんですから、一回くらいは降りてきても。お母さんや博士、グリーンさんも心配してましたよ。」<br />
　指についたタレを舐めていたレッドがぴくっと身体を震わせる。<br />
「お前が言った最後のやつ、逢ったことあるのかよ。」<br />
「けっこう絡まれました。今じゃジムリーダーやってて、勝負したこともあります。」<br />
　顧みたレッドの串を持つ手がわずかに震えている。<br />
「どうかしましたか？」<br />
「なんでもねえよ！」<br />
　レッドは竹の串を石の床に突き立てた。真っ直ぐつき立っているそれをヒビキは呆然と眺める。<br />
　グリーンという名前にやけに反応するレッドに嫌な予感が胸をよぎる。シロガネ山はチャンピオンロードに近い位置にある。それはグリーンがジムリーダーを担っているトキワシティにも近いということだ。グリーンは三年間レッドの顔を見ていないという。不自然過ぎる状況は、二人が拮抗した実力者同士というある種のファンタジーで塗り隠されていた。ただのライバル同士ならばそこまで疎遠になる理由はないと思われる。ただのライバルでないなら、何故、そんな近くて遠い距離を維持してきたのだろう。原因は主にレッドにあるような気がする。それを増長させてしまったのがグリーンだとどうしてか想像してしまうヒビキだった。<br />
　ヒビキはグリーンとの対戦を思い出す。本当におぼろげながら思い出す。<br />
　彼は確かに強かった。ジムリーダーとしては異例の、タイプを定めていないスタイルであることを差し引いても、かなり苦戦させられた。<br />
しかしそれはヒビキのジムリーダー戦においてはいつものことで、バトルの終盤相手が既に勝ったと、どや顔を浮かべる寸前に豹変するのがヒビキだった。それまで蹂躙される処女のごとくだったバトル展開が、ある一点を境に劇的に流れが変わる。手持ちのポケモンの体力は真っ赤っか。相手のポケモンはここぞとばかりに勝負を決めにかかってくる。そのときヒビキの指示がポケモンに飛ぶのである。<br />
『――。――。――！』<br />
　バトルの記憶が曖昧になりやすいヒビキだが、ある種のトランス状態になってから勝つのでしょうがないと自分でも思っていた。だからあれだけ追い付きたいと願っていたレッドにも、勝てる自信があるなんて最初から言えないのだ。<br />
そして気が付けば何故か勝っている。それを毎回繰り返しているから、勝てる見込みよりも先にレッドに会いに来てしまった。レッドにはしおらしくデータ云々と反論したが、まるでデータを必要としないで勝利してきたのがヒビキだった。何物かの見えざる力がけしてヒビキを負けさせてくれない。<br />
負けてしまう悪夢は何度も見たことがある。だけど正夢になりえる悪夢はけして現実になることはなかった。<br />
　確かにレッドの言うようにポケモンが可哀そうになるような話だ。それ以上に勝ってきた相手にも失礼千万もいいところである。ましてやこのような告白は、寝る前に一人一人のトレーナー達を思い出しているようなレッドにはけして話せない。<br />
　全てを記憶しているレッドと、全てを忘却しているヒビキ。どちらが人としてまっとうなのかは、言うまでもない。<br />
　グリーンはと言えば、相手によっては忘れてしまっても、大事なことは忘れない人間だった。とにかくライバルだと思ってたレッドのことは逐一覚えていた。だからヒビキはグリーンの口頭での情報を自分の妄想のレッドに組み込んだ。<br />
『あいつが俺がチャンピオンになったそばから勝ち逃げしていきやがってよお。』<br />
『俺に勝って泣いてたよな。よっぽど嬉しかったんだろうぜ。まあ、それが俺とあいつの決着だよ。』<br />
　ヒビキはその言葉を聞いたとき、グリーンに勝ったときレッドが流した涙の意味は、喜びだったのかと首を捻っていた。<br />
　正直グリーンに嫉妬したことは覚えてる。グリーンにとってレッドは妄想でも幻想でも伝説でもなく、れっきとした現実だった。<br />
でも嫉妬してもしょうがないことだった。<br />
「レッドさん。」<br />
「いいよな。お前は。グリーンに構ってもらってさ。お前みたいに見た目素直そうで年下の色々世話を焼きたくなる奴には、少し甘いのかな。どうせどうせ俺は、見た目暗いし、口下手だし。変に博士に気に入られて余計に対抗心ばかり燃やさせただけだし。いつもタイミング悪いんだよ。なんで博士があいつのお祝いに来る直前に、なんであいつに勝ったんだろ？　いや。勝つ気なんてなかった。もうほんとにこれ以上あいつに疎まれるくらいなら、負ける気でいたんだ。」<br />
　やはりレッドはグリーン勝って嬉しいなど微塵も思っていなかった。却って悲しくて泣いていたのだ。<br />
「レッドさん！　あなたわざと負けようとしたんですか？　それこそグリーンさんを侮辱してますよ。」<br />
　月並みだがヒビキは自分の想像のレッドとは思えない一言に、窘めるような口を挟んでしまった。レッドはグリーンに勝った日に浮かべたであろう表情をヒビキに見せている。<br />
「だって&hellip;&hellip;だって&hellip;&hellip;。」<br />
　レッドは俯いて声を震わせる。<br />
「レッドさん&hellip;&hellip;」<br />
　口が滑ったあとにヒビキは気が付いた。この人もある意味、ヒビキと同様に運命的に負けが許されない人だったのかもしれないと。勝たなければ時間が進まない、自分の意志を超越したところで、そういうルールで動かされてきたのではないかと。<br />
「負けようとしたのに、負けられなかったんですね。レッドさんは。」<br />
「俺は呪われているんだ。夢の中では俺が負けていたんだ。だけど結局俺はあいつに勝ってしまって、俺はその呪いと共にここに閉じこもることにした。そしたら三年前のあの日とは逆に、グリーンが俺を倒しに来てくれるかなって思ったんだけど。」<br />
　しかし三年間の現実は二人は隔てられたまま。グリーンはレッドがシロガネ山に閉じこもったことを、孤高で崇高な意志だと勘違いし続けている。レッドのことをわかったような顔をして、あいつは頂点の座に驕ることのない奴だと、皮肉で隠して賞賛していた。こんなにもグリーンを待ち侘びるレッドの気持ちも知らずに。<br />
「あなたの期待どおりにはならなかった。皮肉なことにグリーンさんは、グリーンさん以外の人があなたに逢うための通行証の裁定者に定められてしまった。いや自らがそうなったんでしょう。彼はもうあなたに負けているから、これ以上あなたとバトルする気はない。そして三年前のあなた同様、グリーンさんを負かせた者があなたとバトルするに相応しいと、そういう役目を勝手にあなたの意志を無視して決めた。」<br />
「やっぱり俺の顔なんか見たくないんだ。」<br />
　レッドは遠い目をしていた。ヒビキは慰めのつもりも含めて否定する。<br />
「いや。そうじゃないでしょ。あなたのことを認めているからこそ、彼はその役目を自分に課したんでしょ。」<br />
「そんなの俺頼んでないし！」<br />
　レッドが駄々をこね始める。ヒビキはこのシチュエーションといい、自分が望んでいた姿を、この現状に照らし合わせてあるたとえ話が頭に浮かんだ。<br />
「本当はあの人こそダンテにならなくちゃいけないんですよね。」<br />
　ヒビキにとっての自己投影がその物語の主人公だった。残念ながらレッドにとってのその役はヒビキじゃない。<br />
「ダンテってなにそれ？」<br />
「えっと&hellip;」<br />
　ヒビキは噛み砕いて説明した。<br />
「ふうん。じゃあ俺はベアトリーチェっていう、初恋の相手にして煉獄の山の頂上にいるヒロインなんだな。ちょうど俺も山にいるのが皮肉だぜ。」<br />
　ヒビキは心の中で、だから僕は自分をダンテになぞらえてここまで来たんですと言いたかった。そしていつも恋焦がれていたベアトリーチェはあなたなんですと告白したかった。<br />
「そうか。ダンテっていうのは、ベアトリーチェを倒す刺客を送ってくる奴のことか。」<br />
　自分の立場とベアトリーチェが合致していることをいいことに、レッドはとんでもないところでも彼女と重ね合わせようとしていた。<br />
「違います。今の僕の立場がダンテなんです。ここではっきりさせときましょうよ。グリーンさんの意図がどうであれ、僕がグリーンさんを倒したのはあなたに逢いにいくためだったんです。グリーンさんはその単純さゆえに、あなたとバトルをするに相応しい人間イコールダンテをあなたのもとに送り込んで、三年間ずっとあなたをあのグリーンさんとのバトルに立ち返らせ続けた。それは彼のあなたへのまだ続いている好意の証明になるのではないかと僕は思うのです。」<br />
　しかしながらヒビキの想像は、グリーンが本当の意味で何の気無しでやっていたのなら、空しいもいいところである。しかしレッドを元気づける仮説は、ヒビキには今これしかない。<br />
「つまり俺はあいつなりの気持ちを無下にし続けたようなもんだと？　&hellip;&hellip;あいつがダンテになってくれりゃあ、それですぐに解決したのに！」<br />
「だからあ、もう既にあの人はあなたに負けているから。」<br />
「ああもう！　これだからあいつはっ。」<br />
　レッドは存外ピーキーだった。それでもネガティブに落ち込み続けるよりはマシな状況になったと思う。普段が無口なせいなのと、三年間の鬱憤で感情を爆発させるしかなかったのだろう。ヒビキが来て、たとえ話で気持ちを整理してやっと吐き出せた気持ちなのだろう。<br />
「レッドさん。僕もあなたと勝負しないわけにもいかないんです。僕の気持ちとしても。」<br />
　ヒビキがこの小屋のドアをくぐって一時間あまりの時間は経っていた。まだお互いを分かり合うには短すぎる時間。それ以前の問題だろうという時間である。しかしヒビキの言葉は何故かレッドの心を揺さぶっていた。まるでディグダのじしん攻撃のように。<br />
「ふっ。ちょっと考えてみたら今日いきなり飛び込んできたお前の言葉に、なんで俺はこんなに乗せられているんだろうな。だけどこの動揺は収まらないんだ。」<br />
「僕も最早あなたのことを他人だと思えません。」<br />
「それは言い過ぎだ。俺とお前は赤の他人だ。だけどバトルだけはしてやるぜ。」<br />
　外に出ろと言われてヒビキはレッドに伴われるままに外に出た。レッドのことを他人だと思えないという言葉をきっぱりと否定されたヒビキだったが、このバトルでいい勝負をすれば（勝つだなんて恐れ多くて言えない）、レッドの心の少しの領域でも自分が浸食出来ると考えてみた。そしてその領域を拠点にグリーンに囚われているレッドの心の領域を侵してやろうと心に決めた。<br />
「俺はピカチュウ一体で勝負してやる。」<br />
「では僕は戦闘不能になったポケモンは入れ替えということで。」<br />
　頼むよと言ってヒビキはポケモンを繰り出す。対面のレッドもモンスターボールを取り出し、全国最強と言われているピカチュウを繰り出した。<br />
「さあ。楽しい時間にしようじゃないか。」<br />
　レッドは今になって最強で伝説に相応しい不敵な笑みを浮かべた。<br />
&nbsp;</font><br />
<ul>
	<li>
		<font style="font-size: x-small;">　　＊　　　＊</font></li>
</ul>
<font style="font-size: x-small;">&nbsp;<br />
　太陽がもうそろそろ登ろうとする時、グリーンは麓のコンビニにいた。月曜日の朝早くにその日発売される漫画週刊誌を立ち読みするのが常だった。そのついでに朝食のパンなりを買うのだ。店員は二人。とりとめのない話をしている。<br />
「昨日の晩来た男の子、山に登って行ったんですよ。」<br />
「えー？　またあの伝説って噂のあの子に会いたいってくちかな。」<br />
「あ。」<br />
　店員の片方がグリーンの存在に気付く。<br />
「グリーン君。そんなとこでジャンプ読んでないでちょっと来てよ。」<br />
「なんだよ。レッドのとこに挑戦者が行くのは今に始まったことじゃねえだろ。その直前に俺んとこに挑戦しにきたって順番になっているだけだし。」<br />
　店員はグリーンのあっさりした言葉にかなり鼻白んだ顔を見せた。<br />
「冷たいなあ。同郷の幼馴染だろ？」<br />
「あのなあ。俺は一地方のジムリーダーで、あいつはそれより上のチャンピオンなんだよ。」<br />
　店員はそのグリーンの言う差のせいでグリーンがレッドに対して少し僻み根性を見せているのではないかと勘繰った。<br />
「だけどな。あいつはみんなのものであるチャンピオンなのかもしれねえが、俺にとっちゃ可愛い幼馴染でライバルなんだよ。」<br />
「え？　可愛い？」<br />
　店員はグリーンの口から出た思わぬ言葉ににやにや仕出す。<br />
「え？　可愛いだろ？　あんたらも写真くらいは見たことあるだろ。」<br />
「うん。確かに可愛いとは思う。」<br />
　グリーンは調子づいたようにへへんと笑う。それはライバル心からくる卑屈さの欠片ひとつ見当たらなかった。<br />
「ちっさい頃は弟分みたいなもんでさ。あいつ無口で引っ込み思案だったから俺の後ろに隠れてたりしてさ。」<br />
　店員はこれは話が長くなると思い強制的に話を切り替えた。<br />
「グリーン君。その可愛い君の幼馴染のとこに、今挑戦者が行っているはずなんだよ。」<br />
「もしかしてジョウト出身のヒビキって奴かもな。慇懃無礼っていうくらい言葉使いが丁寧だったりしなかったか？　ていうか、俺のとこに来た最新のトレーナーがそいつだったから特定出来ちまうんだけどよ。」<br />
「うん。多分その子。そんでねグリーン君。ちょっと山に登ってどうなったか見に行ってくれないかな？　礼儀正しくて感じの良い子だったから気になるんだよ。」<br />
「どうせコンビニはここしかないから、あいつここに寄ると思うぜ。そん時訊けよ。」<br />
「反対側に降りられたらどうするんだよ！」<br />
　反対側に降りたらチャンピオンロードだろうがとグリーンは突っ込んだ。というか伝説との勝負に意気込んでいるヒビキに横やりを入れる真似はしたくなかった。<br />
　でもとグリーンは考え込む。三年前、自分を倒して幼馴染にちゃんとおめでとうと言っていなかったような気がする。あの当時はひたすら悔しかったり惨めだったりするマイナスな気持ちが先だって、きちんとライバルらしいことをしてやれなかった。<br />
「あいつもしかして、山に引き籠ってるのって、俺のことで拗ねてるのかもしれない。っていうことはないよな。ないはずだよな。だけどあいつなかなか自分の気持ち出さずに溜め込むとこあるかなら。」<br />
　当たってはいないが遠からずなことを、三年経ってやっとグリーンは思い立った。それまでは本当にレッドは武者修行で強いトレーナーを待ち構えているものだと信じ込んでいた。そう思えばあの時見せた泣き顔の意味も、自分が思い込んでいたものと違うのかもしれない。<br />
　しかしなかなか足が動かない。<br />
「グリーン君。ほら揚げたてのから揚げがあるから、これをレッド君に持って行ってあげなよ。ほら。ヒビキ君のもあるよ。」<br />
　早朝なのに店員はグリーンを急かすために普段はしないフライヤー作業を行っていた。<br />
「けっ。どうせ頂上につくまでに冷めるもんだろうが。だけどあんたらの気持ちは届けねえとな。」<br />
　はーい。から揚げ二個パック五百円ですと店員は言う。なんと商売上手なことだ。グリーンはバッグにそれを詰める。<br />
「そんじゃ行ってくるぜ。」<br />
「ありがとうございました。またのお越しはレッド君やヒビキ君と一緒でお願いします。」<br />
　そうなるかはグリーン自身でもわからない。しかしなんだか自分が誘えばレッドは山を降りてきそうなかなと、鈍いくせに核心をついたことをグリーンはぼんやりと思った。<br />
&nbsp;</font><br />
<ul>
	<li>
		<font style="font-size: x-small;">　　＊　　　＊</font></li>
</ul>
<font style="font-size: x-small;">&nbsp;<br />
　もうそろそろ時間は少し遅めの朝食か、早目の昼食かのブランチの時間になっていた。かと言ってレッドとヒビキが一緒にご飯を食べようと言っている場合ではなかった。<br />
　早朝から続いたバトルはまだ延々と続いていた。少しでもレッドと同じ空間にいたいというヒビキの願いは、五体のポケモンの回避技の技ポイントぎりぎりまで出させ、技ポイントが尽きた時点でピカチュウに止めを刺されるという繰り返しだった。五体目のポケモンが倒れ、あとはバクフーンを残すのみだった。<br />
「お前、しぶとすぎるじゃねえか。こんな長丁場でバトルしたの俺初めてだぞ。」<br />
「そっか。よかった。これであなたの記憶に敗者として残ったとしても恥ずかしくないですね。」<br />
「恥ずかしいわ！　最低の往生際の悪い奴として記憶してやる。」<br />
　しかしながらバクフーンは回避技はほとんど覚えさせていない。<br />
「レッドさん。ちょっと休憩して、僕この技マシンをこのバクフーンに&hellip;&hellip;」<br />
「見苦しいわっ。最後の一匹くらいちゃんと戦え。そして負けろ。」<br />
　レッドの言葉同様、レッドのピカチュウも相当頭にきているようだった。多分そのせいで攻撃力が何割か増しになっているかなとヒビキは思った。<br />
「くっ。あなをほるを覚えさせておけばよかった。」<br />
　ヒビキははっとする。あなをほる。なんだかすごく卑猥に聞こえる。ヒビキはその考えに首を振った。<br />
こんなことを考えている場合ではない。もう既に九割九分死んでいるのだ。<br />
「バクフーン。僕はたぶん負ける。僕に乗り移っていた得体のしれない勝負運は通用しない。そして僕が負けることにより、レッドさんに掛かった呪いは、さらに彼をここに縛り付けてしまう。」<br />
　バクフーンはそんなの知らねえよと言わんばかりに背中の炎を燃やす。バクフーンはヒビキと違って目の前の敵を倒すこと以外に興味がなかった。それがカント―最強のピカチュウとなれば尚更だった。変に夢見がちな主人とは異なって、バクフーンは炎系の癖にクールだ。それ故に主人より真っ直ぐだった。ただ今まで主人の変な勝負運に助けられて勝ってきたのも確かだった。<br />
　だからもうそろそろそれを卒業しよう。勝っても負けてもそれは達成される。バクフーンにとってもこの一戦は所謂転機だった。<br />
「バクフーン。かんえんほうしゃ。」<br />
「ピカチュウ。殺れ。ボルテッカー。」<br />
&nbsp;<br />
「あ&hellip;&hellip;」<br />
&nbsp;<br />
ヒビキの手が思わずバクフーンに伸びる。今までこんなことはなかった。こんなバトルに出て指示を出した自分の手持ちを引き止めたくなる衝動なんて。ああこれが負ける感覚なのかとヒビキは実感する。なんて心地いいんだろう。場違いな感情だが気持ちは軽かった。足元も地面の感触がなくなったようだ。<br />
　地面に倒れるバクフーン。しかしまだ勝負はついていない。バクフーンは地面に転がったがすぐに立ち上がる。それを見てピカチュウが笑った気がした。こいつなかなかやると。先の五匹のポケモンの茶番劇のあとだから余計に痛快なのかもしれない。<br />
　だけど次できっと終わる。ポケモン勝負に引き分けはない。自爆技に巻き込まない限りは。そしてレッドもヒビキも自爆技であわよくば巻き込んでしまおうというトレーナーではなかった。<br />
&nbsp;<br />
「！」<br />
　ところがヒビキは思わずレッドから視線を逸らしてしまった。否、レッドの背後の彼方に目を奪われてしまった。<br />
&nbsp;<br />
「おーい。レッド来たぞ。」<br />
&nbsp;<br />
　呑気に山の斜面を駆け上ってくるのは、この山に登ってくることはないだろうとレッドもヒビキも諦めきった人間だった。レッドは振り返って目を見張る。<br />
「グリーン&hellip;&hellip;」<br />
　人間もポケモンも目を奪われた。いつも二人の人間が三年間対峙し続けたこのシロガネ山に、三人目の人間が登ってきてしまった。<br />
　グリーンはきょとんとしている。<br />
「あ。バトルの途中だったか。悪ぃ。」<br />
　レッドは呆然と立ったあと、ヒビキを見た。ヒビキは何も言わずに頷いた。レッドはグリーンに振り返る。もうこれでは勝負をするのも野暮だった。<br />
　やっとダンテが来てくれたのだ。<br />
　グリーンの下げているバッグから、コンビニのから揚げの匂いが漂っている。<br />
「おい。ヒビキも腹減ってるんじゃないか？」<br />
　コンビニ袋を掲げてグリーンはなんてこともないように言う。まるで三年間会っていない事実がなかったかのように。普通の幼馴染が普通に遊びにきたように。<br />
　ヒビキは見た。レッドの切れ長の目から涙が零れ落ちているのを。なんて綺麗なんだと見惚れてしまった。そしてヒビキはバトルの土壇場でいつも自分がポケモン達に言っていたであろう言葉を思い出した。そしてそれをレッドに言った。<br />
&nbsp;<br />
「大丈夫だよ。きっとなんとかなるから。」<br />
&nbsp;<br />
　レッドは頷く。そしてグリーンのほうに駆けだした。<br />
「おい。レッド&hellip;&hellip;。泣くほどじゃねえだろ。」<br />
　レッドの身体を受け止めてグリーンは困ったように笑う。自分を受け止めてくれたグリーンに安心したようにレッドはグリーンの背中に腕を回していた。<br />
「まだ勝負ついてないんだったら、言えねえじゃねえか。タイトル防衛おめでとうって。まあいいか。あのな、俺もあのときは今でもだけどガキだったから、ちゃんとけじめつけられなくて、ごめん。」<br />
「グリーンは悪くないっ&hellip;&hellip;」<br />
「いや。チャンピオンおめでとう。」<br />
　グリーンもレッドの背中に腕を回して優しく言った。<br />
　バクフーンは残念だったな言わんばかりにピカチュウに視線を送る。ピカチュウは発し続けていた殺気を引っ込めて愛らしく首を傾げる。バクフーンはやれやれとヒビキのもとに戻る。<br />
　ヒビキの耳にレッドの声が届く。でもそれはヒビキに送っているものではなかった。<br />
「ずっと待ってた。」<br />
　あーあとヒビキは山を下っていく。グリーンはどうせヒビキの分のから揚げを買っているのだろうが、レッドと二人で食っていればいい。どうせレッドというベアトリーチェにとってのダンテはグリーンなのだから。ヒビキじゃないのだから。<br />
&nbsp;<br />
「あーあ。半ば嫌な予感がしてたけど、やっぱりそうなるか。」<br />
　グリーンの出現により、とにかく勝つことを運命づけられた二人のトレーナーの勝負は宙に浮いてしまった。もうレッドを縛る呪いもその効力がなくなっているだろう。<br />
　ヒビキが下っている道は勿論チャンピオンロードに続いている道だった。レッドに勝ちはしなかったが、これから行く道は決まっている。<br />
「さあバクフーン。ポケモンリーグをもう一回制覇したあと、今度はどこに行こうかな。世界にはまだ僕を待っているベアトリーチェがいるはずなんだから。」<br />
ホウエンチャンピオンを放棄したダイゴ。<br />
シンオウの異次元に囚われたアカギ。<br />
イッシュの彷徨えるポケモンの子Ｎ。<br />
&nbsp;<br />
　なんだそれとバクフーンは目を丸くしているが、ベアトリーチェ幻想がこのトレーナーのモチベーションなら仕方ない。<br />
「とりあえずまずホウエンだ。ダイゴさん待っててください。あなたのヒビキが今行きますから。」<br />
　いつか運命のトレーナーと一緒に故郷に帰る日は来るのだろうか？<br />
　ヒビキの旅はまだまだ続く。続くったら続くのだった。<br />
&nbsp;<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
なんかシリーズっぽくなりそうですが未定です。</font>]]></content:encoded>
    <dc:subject>ポケモン</dc:subject>
    <dc:date>2013-05-03T10:18:22+09:00</dc:date>
    <dc:creator>柴仲達</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>柴仲達</dc:rights>
  </item>
  <item rdf:about="http://ktkr.gjgd.net/%E3%83%9D%E3%82%B1%E3%83%A2%E3%83%B3/%E2%98%86%E3%80%8C%E3%83%9D%E3%82%B1%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A4%E3%82%BA%E2%91%A2%E3%80%8D%E5%BE%8C%E7%B7%A8%E3%80%80%E4%B8%BB%E2%99%82n">
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    <title>☆「ポケモンデイズ③」後編　主♂N</title>
    <description>　シッポウシティのメインストリート。金髪碧眼、メガネの白衣がアタッシュケースを片手に歩いていた。何か考え事をしながら歩いているようだが、それを裏付けるようににたにたと笑ったり反対に眉間に皺を寄せたりしている。街をいく通行人のほとんどが今を起点にして少し前のこととか少し未来のことを考えているというのに...</description>
    <content:encoded><![CDATA[　<font style="font-size: x-small;">シッポウシティのメインストリート。金髪碧眼、メガネの白衣がアタッシュケースを片手に歩いていた。何か考え事をしながら歩いているようだが、それを裏付けるようににたにたと笑ったり反対に眉間に皺を寄せたりしている。街をいく通行人のほとんどが今を起点にして少し前のこととか少し未来のことを考えているというのに、その男は途方もない未来のことを考えていた。そんな途方のない男は名前をアクロマと言った。<br />
「情報によればこの辺りでしょう。」<br />
　男は今考えていることを中止して、彼にとっては比較的近い未来の為の行動に戻ることにした。メインストリートの真ん中に黒山の人だかりが出来ている。中央には何かが行われているはずなのに、アクロマはゆっくりと近づいて人だかりの最後尾で聞こえてくる音だけをキャッチしていた。<br />
「ねえちゃん。ぼくのとっておきいくよ。」<br />
「負けないわよ。」<br />
　幼すぎる幼稚園児の声とキンと響く若い娘の声が聞こえてくる。そしてギャラリーの歓声が響いた。<br />
「エンブオーかえんほうしゃ！」<br />
　アクロマの前の観客が呟く。<br />
「園児のポケモン相手にかえんほうしゃかよ。容赦ねえ。っぱねえ。」<br />
　アクロマも同じような感想を抱く。どうやらここでかなり年齢差のある二人がポケモンバトルでいい勝負をしているらしい。<br />
「ああ！　外れたあ！」<br />
　ギャルの悲鳴が起こると同時に呆れたような観客の嘆息が聞こえてくる。<br />
「あー、やっぱり外れたな。」<br />
「まあ。いつものことだよ。元才媛テイストのトウコちゃんのお約束だよね。」<br />
　アクロマはふむと頷く。元才媛テイストとマッドサイエンティストはなんとなく語感が似ていると。<br />
そして園児の声が響く。<br />
「ヨーテリーたいあたり！」<br />
　ポケモンの気合いを入れた雄叫びと悲鳴のような声が交錯する。<br />
「急所にいったあ！」<br />
　トウコのポケモンは後ろに引っくり返りなかなか起き上がれそうにない。そしてまだ勝負がついていない。<br />
「エンブオー、えっと&hellip;&hellip;」<br />
「ヨーテリーたいあたりもう一回！」<br />
「また急所に当たった？　みがわりで耐えてっ。ああ！」<br />
「上手く決まらなかったぞ！」<br />
　ああこりゃトウコは幼稚園児に負けるとアクロマは悟る。さっきからの音声情報でここで行われているポケモンバトル（女子トレーナートウコＶＳ幼稚園児）は、トウコは幼稚園児に負けてしまったらしい。最後の最後で決め技が全て外れ、回避技はうまく決まらず、敵の攻撃は全て急所に当たってしまったようだ。<br />
「トウコ！　エンブオー！　また次があるぞ！」<br />
　トウコは泣きながらストリートの土を袋に詰めていた。<br />
「また帰ってくるからここに！　みんなあ。待っててねっ。」<br />
　うおおおおお！<br />
　観客は叫ぶ。称えられるのは敗者だった。<br />
　アクロマは上空を見上げるとティッシュに包まれた何かがトウコに向かって飛んでいく。<br />
「ポケモンバトルでおひねりですか。他では見られないんでしょうね。」<br />
　アクロマはおひねりは投げない。代わりにアタッシュケースの中から何かの包みを取り出した。<br />
　トウコはにこにこしながらおひねりをかき集め去っていく観客たちに手を振っている。そしてその半分を幼稚園児に渡した。<br />
「ねえちゃん。ぼろいしょうばいしてるね。」<br />
「商売じゃないわよ。みんなの善意よ。駄目な子ほど可愛いっていうでしょ。」<br />
　園児もそうだねと言いながらトウコが差出した賞金をトウコに返した。<br />
「おれもねえちゃんをおうえんするぜ。」<br />
「ありがとう。」<br />
　互いに手を振りながら去っていく園児を見届けたあとトウコはエンブオーに駆け寄る。<br />
「今日もダメだったね。」<br />
「ブオ。」<br />
本当はわざと負けているんじゃないかと思われる負け方を毎回しているのだが、トウコとエンブオーはあくまで本気のバトルだった。いいところまでいくのに最後の最後で全て技を外し、敵の攻撃は急所に当たってしまう。いくらエンブオーがレベルが高いとはいっても、技が決まらなければ意味がない。そして急所に決まったダメージは確実に大幅に体力を削ってしまう。ヨーテリーの初歩的な技である体当たりですらだ。<br />
「エンブオー。それでも応援してもらえるのはいいよね。」<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
　エンブオーはそれには頷けなかった。へぼでもいつも本気で頑張っているからトウコは応援の上にお捻りさえももらえる。みんないつかトウコに勝って欲しいと思っている。明日に希望を持って生きているのが人間だから。それを目の前で見せてくれるトウコに、お捻りの形で投資してくれているのだろう。トウコが今までトレーナーを続けられたのは、そんな行きずりの人々の支援があったからなのだ。<br />
　だからエンブオーは思うのだ。自分が勝てるポケモンであれば、自分がそれをトウコにあげられる。勝利を成しえない自分が嫌いだ。何故かわからないけれど、バトルのある瞬間から身体にどろどろに溶けた鉛が身体じゅうに流れ込んで冷えて固まって動けなくなるような感覚に襲われてしまうのだ。そんな感覚を誰にも、トウコにさえも伝えられずに自分はトレーナー戦では毎回負けてしまう。<br />
　今、トウコの手持ちのポケモンはエンブオーたった一匹だ。定期的にトウコも炎タイプに偏るけれどポケモンをゲットするのだが、そのほのポケたちは自分からトウコやエンブオーの前から去ってしまうのだ。今までのエンブオーを除くポケモンたち全部がいなくなってしまった。<br />
　エンブオーは空を見てあいつらはどうしているのかと物思いに耽る。ロコン。ダルマッカ。ヒトモシ。メラルバ。お前らがいてくれたら、もしかしたら勝ててるかもしれない。みんな後ろめたいようにトウコやエンブオーに何も告げず出て行ってしまった。トウコのことは好きなのにやはり色々と不遇な状況が我慢出来なかったのだろうか。<br />
　トウコはどっこらしょとエンブオーに肩を貸してポケモンセンターに行こうねと声を掛ける。こんなふうに気楽に構えているトレーナーは他にはいないだろう。大抵モンスターボールにすぐに戻してそのあとポケモンセンターに連れて行くのが常識なのだから。でもトウコはいつもエンブオーに肩を貸すのだった。<br />
&nbsp;<br />
「ちょっと待ちなさい。」<br />
&nbsp;<br />
　トウコとエンブオーの行く手に金髪碧眼眼鏡で白衣のアタッシュケース持ちの男が立ちはだかった。<br />
「先ほどのポケモンバトル、十分堪能させて頂きましたよ。そしてこれがその私の感謝の気持ちの手作り弁当です。」<br />
　あらと言うようなトウコとは裏腹にエンブオーは激しくひいていた。この男とは当然ながら初対面である。お捻りを投げてくるようなトウコファンは幾らでもいるが、弁当を持参してきたのはこの男が始めてだ。白衣姿と手作り弁当のミスマッチさ加減がエンブオーに自分の主を連れて今すぐ逃げろと告げているようだった。<br />
「ありがとうございます！」<br />
　しかしトウコは平然とその弁当を受け取った。<br />
「ブオー！」<br />
　ファンを装った近頃よく聞く悪の組織だったりしたらどうするつもりかとエンブオーはトウコに抗議をしている。しかしトウコはいそいそと弁当箱を開け、アクロマが差出す箸を渡されるままに弁当をはぐはぐと喰った。<br />
「お口に合いますか？」<br />
　アクロマがいじらしいことを言ってきた。エンブオーは薬か何かを盛られてないかと心配しながら、トウコに何か起こったとき対処できる構えでいる。<br />
「美味だわ。このお弁当には人の情けという特別な味付けがされている。原子レベルまで噛みしめれば噛みしめるほど、それまでに起こった化学反応に感動してしまうわ。食によって人は享楽する。そしてそれは作る喜び、食べる喜び、そして食べさせてあげる喜び。私はその喜びごと頂いているのだわ。」<br />
　アクロマは嬉しそうにしていた。<br />
「貴女の噂を聞き、貴女に一目会うために私は貴女の行方を捜していたのです。三日前からこの弁当を携えて。」<br />
　三日前と聞いてエンブオーは思わずトウコから弁当を取り上げた。<br />
「心配しないでください。この弁当箱は科学の粋を集めた、中身が絶対に腐らない弁当箱なのですから。ちなみに私が開発しました。」<br />
「魔法の弁当箱なのね。」<br />
「いえ科学の弁当箱なのです。」<br />
　そんなことあり得るかとエンブオーは地団駄を踏んでいる。しかしトウコは気にせず食べようとしている。本当になんともないらしい。<br />
「貴女のエンブオーは少し考えすぎるきらいがありますね。科学は万能なんですよ。科学者は魔法使いとは違うんです。」<br />
「でも私にとってはどちらも凄い人だけど。」<br />
「一緒くたにされてもいいんです。貴女に認めて貰えるのなら。」<br />
　エンブオーは話についていけないのだが、トウコはひたすら弁当を喰っている。<br />
　弁当箱が空になったところでエンブオーはこれ以上関わり合いになりたくなくて、トウコの両肩を持って回れ右させる。<br />
「おべんとありがとー。」<br />
　トウコも食べるだけ食べるとあっさりとエンブオーとその場を立ち去ろうとしたが、後ろからまたアクロマが声をかけたきた。<br />
「この次は私の手作りカレーを食べてみませんか？」<br />
「ブオーっ。」<br />
　手作り弁当でさえうざいのに、この次には押しかけてカレーを作る気になっているらしい。旅をしているトウコにどうやってどこに押しかける気なのかは分からないが、アクロマの言い方では出来たてを食べさせる気満々は雰囲気が漂っている。<br />
「カレー食べさせてくれるの？」<br />
　エンブオーはいけませんと子どもを諌める母親のように声を荒げた。<br />
「ブオ。ブオっ。」<br />
　エンブオーに引きずられるままのトウコを見ながら、アクロマはアタッシュケースから明らかに既製品ではないライブキャスターを取り出すと、それをおもむろに操作し始める。間髪入れずに電池を補充したばかりのトウコのライブキャスターの着信音が鳴った。<br />
「もしもし。」<br />
「はーい。アクロマです。」<br />
　数メートル後ろのアクロマが画面に映っていた。エンブオーの顔色が蒼くなる。これはかなり粘着質なストーカーなのではないのかと怖気が立つ。トウコは実物のアクロマと画面のアクロマを交互に見てから画面のアクロマに話しかけた。<br />
「番号交換してたっけ？」<br />
「してませんよ。私のライブキャスターは特別製で、貴女のライブキャスターをハッキングさせてもらいました。」<br />
「すっごーい。」<br />
　二人がライブキャスターで話している間にも、エンブオーはトウコを抱えて全力でヤグルマの森に向かって走っていた。<br />
「トウコさん。トウコさん。」<br />
　揺れる画面に向かってトウコがどうしたのと尋ねている。<br />
「私は自称も他称もマッドサイエンティストなんです。だから元才媛テイストの異名を持つ貴女に是非とも会ってみたかったんです。これからもご縁があればいいですね。ていうか強制的にご縁を作らせていただきました。貴女のタウンマップに私が現在身を寄せているある組織の所在地を追加させて頂きました。言うまでもなくハッキングです。是非ともそちらにも遊びにきてください。是非私の手作りカレーを貴女に振る舞いたいんです。ちなみにコーン入りの甘口です。」<br />
　通信はヤグルマの森に入って電波が極端に悪くなったところで途切れた。エンブオーはトウコのバッグからタウンマップを取り出すとある地点に見覚えのないマーカーを見つけた。そのマーカーの場所に近寄ってはいけないと記憶する。<br />
「エンブオー。ポケモンセンターに寄らずにそんなに走ったら駄目だよ。すごいしんどいんじゃない？」<br />
　ポケモンなのに肩で息をしているエンブオーの腕を取って、元来た入口を指差すトウコに対してエンブオーは首を横に振った。今戻ってはまたあのストーカー紛いに出会うか、ライブキャスターでまた通話されかねない。<br />
「エンブオー。私のこと心配してるんだよね。だけどたぶんアクロマさんは大丈夫。普通な人じゃないけど、危ない人じゃなさそうだよ。」<br />
　それはエンブオーにも薄々わかっていた。あの男は多分、他人との適切な距離感を維持するのが下手だけなのかもしれないと。ただ悪意を感じないことと、それを受け入れられるかは別問題だ。トウコは受け入れられるかもしれないが、エンブオーには少し無理な話だった。だってアクロマがトウコを見る目は、自分と似通っている。アクロマはそれを真っ直ぐやりすぎとはいえ表現しているのに対し、エンブオーはそれから目を逸らすことに必死になっている。きっとエンブオーの抵抗はやっかみがほとんどなのかもしれない。<br />
「エンブオー。エンブオーはほいほい初対面の男に釣られてる私を見て、危なっかしいなと思ったと思う。でも私にも何にも考えがないわけじゃないんだよ。あの人はたぶん私たちにとって有益な存在になるんじゃないかな。とにかく能力だけはやけに高そうだったし。」<br />
　エンブオーはトウコの言葉を聞いてぎょっとする。トウコらしくない人を値踏みするような言い方。かつて初対面の自分に対しても色々と能力を推し量るようなことを呟かれたような記憶がある。昔々の少女とポカブの出会い。無機質な言葉は冷たく凍えそうに灰色だった。それを怖いと思ったのだ。<br />
　エンブオーはもう小さかったポカブではない。なのにこの場のトウコを見ていると背筋が寒い。おバカなトウコが急に前触れもなく才媛のトウコに入れ替わってしまったようだ。自分でも意識してないのに体毛が逆立ってそれらが擦れてざわざわと音を立てる。<br />
「なーんちゃって。いざとなったらさっきのようにエンブオーが私抱えて逃げてくれるもん。」<br />
　エンブオーはほっとしてうんうんと頷いた。<br />
「だからね、エンブオーが頼りだからポケモンセンターには回復しに戻ろ。」<br />
トウコはカレー楽しみだなとそれでもアクロマに対して未練たっぷりに呟きながら、エンブオーの腕を引っ張って、シッポウシティへ戻らせるのだった。<br />
&nbsp;</font><br />
<ul>
	<li>
		<font style="font-size: x-small;">　　＊　　　＊</font></li>
</ul>
<font style="font-size: x-small;">&nbsp;<br />
　きっちり着込んでいたＮの服をトウヤはまた律儀に脱がせていた。一回目よりは冷静さが窺えた。それに少しＮは安堵していた。<br />
　ベッドの上で立膝になって対面した格好で上半身を裸にされ、ベルトを外したままだったズボンにトウヤの手がかかる。<br />
「いいよ。僕自分で脱ぐから。」<br />
　ズボンを足から引き抜くのは他人に任せるより、自分から脱ぐ方が簡単だとＮはトウヤに言ったが、トウヤは大丈夫だと言ってひょいとＮの上半身を片手で抱きかかえ、膝を浮かせたＮからするするとズボンと下着を脱がせてしまった。<br />
　見た目より力が強いし、器用なトウヤの所作にＮはそのままトウヤの肩に顔を埋める。鎖骨の窪みがＮの額をちょうどよく受け止めてくれた。<br />
「トウヤ。僕は重たいかな？」<br />
　明らかに面積も体積も小さい相手が明らかに大きな相手を抱きかかえている構図に、Ｎには少し不可思議な感覚だった。<br />
「特に重くはないよ。ていうか君は見た目より軽いな。」<br />
「そう。だったら&hellip;&hellip;」<br />
　Ｎはトウヤの身体に体重をかけて完全に抱き着く態勢になった。<br />
　トウヤは立膝から腰をベッドに下し、やはりＮを抱きかかえる。まるで恋人同士が抱擁しあうようだった。<br />
「トウヤ。正常位だとなんだか押さえつけられて犯されてるみたいだから、今度は僕が動けるようなやり方がいいんだけど。」<br />
　トウヤは目を泳がせている。<br />
「二回目でそれはちょっと慎みが無いんじゃないのかいＮ？」<br />
「慎みってなんだよ。君が僕を二回目に誘った時点で君こそ慎みが無いよ。」<br />
　そう言われては立つ瀬がないトウヤなのだった。慎みは受け身に押し付けるものではないのだろうけど、シチュエーション的には主導権を握りたいのがトウヤでもある。<br />
　でもＮは構わずトウヤに対して光のない目で不敵に笑った。<br />
「一回目で僕もかなり学習したよ。君にまかせっきりにするのは危険だって。」<br />
「危険って&hellip;&hellip;。優しくしただろ。」<br />
「うん。優しくはしてくれた。だけど動いていたのは君だけだったし、それが僕には惜しいと思った。体勢を変えれば僕も君も好きなように動けるんじゃないかな？」<br />
　流石にＮは頭が回ると感心すると同時に、早くもこなれてきている態度に開いた口が塞がらなかった。天才肌の男はどんなことにおいても早熟で時々大人を辟易させるとはこのことだと痛感する。<br />
「ま、まあ&hellip;&hellip;いいけど。経験の少ない君に、ていうか二度目の君がそんなにうまい具合に動けるとは思えないけどな。」<br />
「そのときはそのときでトウヤの好きにしていい。とりあえず君の膝の上に乗る許可をくれよ。」<br />
　そこまで言われてはトウヤも頷くしかない。Ｎというのは自分で実践しなければ気が済まないたちなのだろう。<br />
「で、どうするんだ？　前向き？　後ろ向き？　どっちにくるんだい？　どっちにしたって僕じゃなくて君主体で中に入れるようになるから、一回目より大変だと思うよ。」<br />
　Ｎは少し逡巡する。少し考えてみてからどうにかしてみると呟いて、じゃあ前向きで君と向き合いながらと言った。<br />
「あの例の&hellip;&hellip;なんて言うんだったっけ。」<br />
「ローションかな。なんだったらゼリーもあるけど。」<br />
「じゃあ。さっき使ったローションでいいよ。ゼリーはチェレンのためにとっといてあげれば。」<br />
　トウヤが少しむっとしたような顔をした。二人の間に気まずい緊張がわずかに生まれる。<br />
　Ｎはローションのキャップを取って中の液体を手に取った。<br />
「これで内側と外側を濡らして滑りやすくすればいいんだよね。そして、ある程度指で馴らしてから君の上に乗ればいいんだよね。」<br />
「自分で出来るのかい？」<br />
　トウヤの意地の悪い笑顔にＮも意地悪そうな笑みを返す。<br />
「君こそペニスが硬くないと挿入出来ないんだから、それは大丈夫かな？　大丈夫ならゴムを付けて待機してくれよ。」<br />
　トウヤはいそいそとサイドテーブルを漁ってゴムを準備している。Ｎもトウヤに言い切った手前覚悟を決めて自分の中に指を入れてみた。<br />
「んっ&hellip;&hellip;。」<br />
　違和感が半端なく襲う。だが一回目にトウヤに入れられていたのだから、ちゃんと広がるはずだとＮはローションを継ぎ足してもう一度指を入れて今度は動かしてみた。<br />
「くっ&hellip;&hellip;ん&hellip;&hellip;」<br />
　どうやっても自分のその入り口は硬い感触がなかなか緩んでくれない。トウヤはどうやったんだと思い出そうとしてみる。トウヤはＮに対して正面からそういうふうにしてくれた。今、Ｎは恥ずかしさもあって後ろ手で自分のそこを広げようとしている。<br />
「Ｎ。手伝おうか？」<br />
　Ｎは思わずトウヤを睨みつけた。<br />
「自分でするから&hellip;&hellip;いい。」<br />
　なおも指を濡らしながら自分のそこを弄ってみる。トウヤはそれにほんの少し顔を赤らめながらにやにやしていた。それが余計にＮの癪に障った。<br />
　なんとか指の抜き差しが楽になったので、指の本数を増やしてみる。無理矢理その二本の指で中をかき回して、痛さよりもトウヤに対する意地でＮは自分の入り口をほぐしていた。半ば涙目になってトウヤの目を結果的に喜ばせる羽目になったとしても。それでもトウヤに対して対等なセックスがしたかった。<br />
「も&hellip;&hellip;もう大丈夫だと思う。その、君のに触れていいよね。」<br />
「どうぞ。随分頑張ってたみたいだね。可愛いよＮ。」<br />
　Ｎはトウヤににじり寄ってトウヤの一物をぎゅっと握った。<br />
「触れるなんてもんじゃないな。お手柔らかに頼むよ。」<br />
　もっと優しく扱えと暗に言われた。Ｎはトウヤのペニスを握って自分の入り口にぴったりと固定する。そしてゆっくりと腰を落とす。<br />
　トウヤもＮの不安定な腰つきを両手で支えていた。先端がＮの中に入っていくのを見守りながら息が詰まりそうな表情のＮに声をかけた。<br />
「Ｎ。息を殺しちゃってるよ。ゆっくり吐いて。そう。先っぽは入ったから、あとは体重をかけるだけでいいから。」<br />
　Ｎははあはあと呼吸を繰り返しながら、トウヤを自分の中に受け入れた。トウヤの首にしがみついて、涙を頬に伝わらせても負けん気が強いような表情を出来るだけ作っている。<br />
「どう、かな？　十分出来てるでしょ？」<br />
「ふっ。ほんとにやっちゃったね。君はほんとにすごいよ。」<br />
「それほどでも。で、動いていいのかな？」<br />
「うん。好きなように動いてみてよ。」<br />
　初めてを終えて二回目なので、Ｎは相当無理をしているのは誰が見たとしても明らかである。でも今更怖いから動けませんなんて言い訳をＮはするわけにはいかないとトウヤのペニスを銜え込んだまま腰を揺らし始めた。中に塗り広げたローションがちゃんとその役目を果たしてくれているのか、揺するごとに粘着質な音を立ててくれる。<br />
「トウヤ。気持ちいい？」<br />
「自分が動くのとちょっと勝手が違うからな。でも&hellip;あ&hellip;&hellip;うん。」<br />
　気の無い振りをしているがちゃんとトウヤを反応させられることにＮは言い様のない満足感を覚え始める。<br />
「たった二回目の僕相手にそんな反応しちゃっていいのかい？」<br />
「こ、こんなの。まだ、まだだよ。」<br />
「そう？　じゃあ、もっと頑張る。」<br />
「え？　無理すんな。」<br />
　トウヤの制止にＮは聞く耳を持たない。動きを激しくしてあげればトウヤは面食らったような表情を浮かべて狼狽えるのが愉快でしょうがない。<br />
「そんなに動きまくればいいってもんじゃ。あっ&hellip;&hellip;あ&hellip;」<br />
　トウヤはＮの実践が二回目だということで高を括っていた。Ｎはこれまで完遂は出来なかったが、何人もの男をセックス目的に誘っていたという一般人から逸脱した積極性を持つ男だ。しかも学習能力が高い。対象の反応も読み取るのも容易にやってみようと思えばやってしまえる。しかも羞恥心や世間体からくる抵抗感は驚くほど少ないようだ。<br />
「Ｎ！　Ｎ！　わかった。わかったから！　僕にも少しは動ける余裕くれよ。」<br />
　Ｎはにぃっと笑うといいよと動きを止める。<br />
　トウヤはＮの腰を引き寄せた。<br />
「僕につかまってろ。」<br />
「うん。今度はトウヤに任せるね。」<br />
「最初から任せてほしかったよ。」<br />
　入り口を解すところから根を上げると思っていたのに。本当に意地っ張りで実行力のある相手だとこうなってしまうのかと、トウヤはどっと疲れたような気分になったが、反してＮの中に入っている自身は元気だった。<br />
　トウヤはＮを膝に乗せて突き上げるように腰を使った。<br />
「あっ&hellip;&hellip;いやっ。トウ&hellip;&hellip;ヤ。」<br />
　最初の正常位の時より当然ながら深いところまで擦られるせいか、トウヤに主導権を譲った途端に今度はＮがトウヤに翻弄される。漏れ出る甘い声にトウヤはお返しとばかりにＮがしなかった動きを混ぜてより一層喘がせようとした。<br />
「&hellip;&hellip;やだっあっ。そこは&hellip;&hellip;」<br />
「ここがいいのかい？」<br />
　ある一点に当てるようにトウヤはそこを狙って律動を繰り返す。逃げようとしたＮの腰をがっちりと押さえつけた。<br />
Ｎの絶壁の胸に口で吸いついて赤い痕を残してみる。色白の肌にその赤みが映えて綺麗だった。<br />
「な、なんで君はっ。すぐに噛むのかな！」<br />
　まだ減らず口が叩けたのかとトウヤは呆れ通り越して感心する。<br />
「噛んでないんだけど。」<br />
「歯が当たった&hellip;&hellip;」<br />
「へえ&hellip;&hellip;。本当に噛むっていうのは。」<br />
　今度は肩の肉が比較的ついたところにトウヤはあからさまに歯をむき出しにして歯を当て、少し強めにかぶりついた。<br />
「いっ&hellip;&hellip;たあ&hellip;&hellip;」<br />
　Ｎは堪えきれずに眉間に皺を寄せる。その表情を確かめるとトウヤはさっき噛んだ場所を舌でぺろぺろと舐めた。Ｎは痛さから一転した刺激に何かを感じて身をよじらせた。<br />
「君のトモダチは、君への親しみを表すのに噛んだりするんじゃないのかい？　勿論本気じゃないんだろうけど。彼らには君に差出す手はないから、代わりに口とか舌を使ってくるんじゃない。」<br />
「君はポケモン並みなのかい？」<br />
「ポケモンと人間に境がないと言っていた君が言うとすごく奇妙だね。」<br />
「ああいえば&hellip;こういう&hellip;&hellip;」<br />
「なごり惜しいけど、そろそろ終わりにしなくちゃ。」<br />
　トウヤはＮの腰を掴んでいた手をＮの背中に回し、Ｎの入り口と自分の性器の間に隙間を作る。<br />
「あっ&hellip;&hellip;あっ&hellip;」<br />
　Ｎに首を抱かれながらトウヤはＮを後ろに押し倒した。<br />
「やっぱりフィニッシュはこの体勢でいかせてもらうよ。」<br />
「卑怯者っ。」<br />
「なんとでも。途中で満足して僕に主導権を渡すからだよ。」<br />
「君はひどい男だっ。」<br />
　Ｎは悔しそうにトウヤの下で喘ぐしかない。<br />
「ごめんな。大人は卑怯で、可愛い子を押さえつけて喘がせるのが好きなんだ。最高に可愛いよ。Ｎ。」<br />
　Ｎは諦めたようにトウヤの下で大人しくなる。悔しい気持ちはあったが、一回目とは違って自分を通り越してこの場にいない誰かの名前を胸中で叫んだりはしなかった。ずっとＮ、Ｎ、と呼びかけてくれた。<br />
「トウヤ&hellip;&hellip;す&hellip;」<br />
「なんだい？　Ｎ。」<br />
「&hellip;&hellip;なんでもない。早くイッて。」<br />
　Ｎが言うまでもなくトウヤはＮの中で果てている。Ｎもトウヤの腹に自分の精液を吐き出した。<br />
「はあ&hellip;&hellip;。」<br />
「同時にイクなんてすごいシンクロ率だね。」<br />
「トウヤ。そんな風に茶化すように言わなければもっと良かったのにね。」<br />
　トウヤのモノがＮから引きずり出される。<br />
「さっき、何言いかけたんだい？」<br />
　Ｎは無意識に言おうとしたことを呑み込んでいる。これを言ってしまえばどうなるかは分かっている。卑怯な大人なんかにわざわざそんなことを告げたくはなかった。<br />
「なんでもないよ。」<br />
「そうか。」<br />
　トウヤは淡泊に答えると今度は一緒にシャワーを浴びようよと、また懲りずに甘い言葉をＮに投げかけるのだった。<br />
&nbsp;</font><br />
]]></content:encoded>
    <dc:subject>ポケモン</dc:subject>
    <dc:date>2013-04-11T08:27:18+09:00</dc:date>
    <dc:creator>柴仲達</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>柴仲達</dc:rights>
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  <item rdf:about="http://ktkr.gjgd.net/%E3%83%9D%E3%82%B1%E3%83%A2%E3%83%B3/%E2%98%86%E3%80%8C%E3%83%9D%E3%82%B1%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A4%E3%82%BA%E2%91%A2%E3%80%8D%E5%89%8D%E7%AF%87%E3%80%80r18%E3%80%80%E4%B8%BB%E2%99%82%EF%BC%AE">
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    <title>☆「ポケモンデイズ③」前篇　R18　主♂Ｎ</title>
    <description>　ＮがまだＮと呼ばれる前のこと。
　Ｎは一度だけ人間に嘘をついたことがある。森でポケモンと生活していたところを彼に保護という名の確保された、その日のことだった。彼はＮが物語るまでもなく、Ｎの能力をＮよりも理解していた大人だった。それを踏まえた上で彼はＮに問うてきた。
『君はポケモンの心の声が聞こ...</description>
    <content:encoded><![CDATA[　<font style="font-size: x-small;">ＮがまだＮと呼ばれる前のこと。<br />
　Ｎは一度だけ人間に嘘をついたことがある。森でポケモンと生活していたところを彼に保護という名の確保された、その日のことだった。彼はＮが物語るまでもなく、Ｎの能力をＮよりも理解していた大人だった。それを踏まえた上で彼はＮに問うてきた。<br />
『君はポケモンの心の声が聞こえるらしいが、人間の心の声は聞こえるのかな。』<br />
　まだ男はＮに現在ほど恭しくはなかった。無機質な声だったが出来る限り優しく話そうとしているような不器用さが窺えた。繋がれた手は大人特有の乾いた感触だった。溶け込めない意識と皮膚による隔絶を実感させた。だがゲーチスは幼い子どもに出来る限りの歩み寄りを見せていた。<br />
なのにＮは、その不器用な優しい問いかけに誠実には答えなかった。<br />
『ぼくがきこえるのは、トモダチの声だけ。ぼくがニンゲンと話せるのはことばだけ。』<br />
『そうなのか。』<br />
　それは都合がいい。<br />
　言外の言葉が聞こえた。やはりＮは正直に話さなくて良かったと思った。遠い未来で思えば却って悪かったかもしれない。だが、幼かったＮは、その時はポケモンの心の声が分かると同時に、同じように心を持っている人間の心の声もわずかに探知できることは、この彼、のちの義父であるゲーチスには永遠に隠すことになった。利用されることが嫌だったわけではない。だがＮはゲーチスの手に引かれるままあの城の中に入った。<br />
　ゲーチスの本当の思惑をＮは知っている。だけど彼の表向きの目的を、自分ならゲーチスが率いるプラズマ団の真の目的に引っ繰り返せるかもしれないと考えるから、Ｎは彼ことゲーチスの傀儡に敢えてなった。まるで古の戯曲で語られたとある国の王子ように、自らの目的とは反対の世界に留まり続けている。<br />
『Ｎ様。ポケモンの解放、五匹ほど成功しました。』<br />
「ありがとう。」<br />
　Ｎはライブキャスターごしの相手に小声で感謝して微笑みかける。同じ服を身に着けていながら、プラズマ団は密かに真っ二つに割れていた。彼女はＮ側の人間だった。<br />
　トウヤは今、Ｎのあとからシャワーを浴びている最中だった。その隙にＮは同志の一人である人間とゲーチスには秘密の会話をしていた。<br />
『本当なら全部解放したいのですが』<br />
「僕も気持ちは同じだ。だけど今それをしたら反動が大きいからね。彼らが見過ごす程度の成果で今は満足しておこう。」<br />
『いつか引っ繰り返せるんですかね？　戯曲を元にしたゲームのような戦略で、全て白に塗りかえるか。それとも黒にしてしまえるか。』<br />
「君の言葉の喩えは相変わらず美しいな。」<br />
『私はＮ様とは違って数学が苦手なんですけどね。』<br />
　大昔の古典の知識をライブキャスターごしの団員が教えてくれたことがある。優れた文学はＮが好む数学と並んで美しいとＮは思った。計算され尽くした描写や物語の展開は、いつまで経っても褪せない普遍を思わせた。<br />
　ただし美しさは感じてもＮがやり遂げなければならないのは、もっと現実的なことだ。正しさは勝利せねばならない。破滅の美は無意味である。<br />
「君はこのまま次の彼らの隙を待つんだ。いいね。絶対に無理をしちゃいけない。」<br />
『はい。私が手解きしたＮ様が、このように頼もしいことを言って下さる日が来るとは。』<br />
　Ｎにオペレーターとしての手解きをしたのは、画面越しの彼女だった。Ｎは呼ぶことは少ないが彼女は名前をハッサクと言った。頭に炊事用の手拭いを被った中年の小母さんで、プラズマ団の中では団員の生活部分の指揮者である。プラズマ団は外部からの雇用者を呼べない集団なので内部で生活部分も団員に分担させている。家事のエキスパートの彼女はそんなプラズマ団の食堂のおばちゃんでもあり、生活部分の責任者でもあった。一見家庭的で見た目はプラズマ団とは思えないが、彼女は古典の戯曲を諳んじ、様々な経歴を持つ優秀なオペレーターでもあった。<br />
　Ｎは彼女に色んなことを教えてもらい、そのお蔭でプラズマ団内の様子を知ることが出来た。だからＮも彼女に彼女がずっと探している人物の情報を提示する。<br />
「君の探している女子高時代の友人は、ライモンのアンダーグラウンドでポケモンバトルをしているらしい。君への土産話としてはどうかなと思うけど、君の目的の一つはこれで達成できると思うんだ。」<br />
『&hellip;&hellip;アマナツが。相変わらず馬鹿なやつだよ。』<br />
「どうする？　今すぐ彼女のところに行ってみるかい？」<br />
　ハッサクは首を振る。<br />
『それはまたいつかの機会にしたいと思います。それではＮ様も良き旅を。』<br />
　ライブキャスターの画像と音声はそこで途切れた。Ｎはけだるい身体を再びベッドに横たえる。水音が止み物音を立てながらトウヤがシャワールームから出てきた。<br />
「Ｎ。調子は&hellip;&hellip;まだ戻ってなさそうだな。」<br />
　Ｎは半ば気まずそうな素振りを見せるトウヤに対してベッドに顔を伏せたまま返事をする。<br />
「君があんな滅茶苦茶するとは思わなかった。」<br />
「ごめんよう。」<br />
　済まなそうな声とは裏腹に顔はすっきりしているんだろうとＮは思った。Ｎは相変わらず人間の心の声もうっすらと読み取ることが出来た。トウヤが最中に何を考えていたのかもわかってしまう。トウヤの一部がＮの中に入っていたのだから、余計にいつもの感応力が強化されていたような気がする。<br />
『もともとのトウヤの執念が強いのもあるんだろうけど。目の前の相手通り越してチェレンのことしか考えてないんだから。』<br />
　肉声のようにはっきりとＮの脳に響いてきたのは、トウヤがここにはいないチェレンを呼ぶ悲鳴とも思えるような声だった。<br />
　チェレンが本命なことは、それはあらかじめ提示されている事実だったからしょうがないかとＮは思い直して顔をあげた。<br />
「Ｎ。さっきの間に君だけ服を着てるなんて随分と薄情なんだな。」<br />
　ライブキャスターは実際の画像も相手に送ってしまうので、まさかの裸姿を晒すわけにはいかなかった。Ｎはしまったと少し焦る。<br />
「こういうのは薄情に思われるのか。そうか。」<br />
　Ｎはわざと無神経な世間知らずを装った。なんだかこの男と出会ってから嘘をつくまではいかないが、なにかと誤魔化す癖が出来つつある。少し悪い兆候かなとＮは思った。<br />
　トウヤはまだ少し滴の残った髪の毛のままベッドに座った。<br />
「君こそ服着ないのかい？　風邪ひくよ。」<br />
　腰にバスタオルを巻いているだけのトウヤにＮは言う。トウヤはまだ暑いからと軽く流した。トウヤの身体はいかにも思春期から未発達といった加減を絵に描いたような身体だった。はっきり言って貧弱の一歩手前。痩せぎすで節々だけがごつく見える。背もＮより低い。三十代の成熟した肉体とは呼べない気がする。<br />
「なんだい？」<br />
「トウヤって少しやせ過ぎなのかなって。」<br />
「あのねえ、男の真価は体格の良さじゃないんだぜ。過去の英雄でも小男が天下を取ったという事実はごまんとある。」<br />
「だけどそういう人って小狡いというか、頭で伸し上がった人たちだから。」<br />
　そういう英雄の裏話は、英雄らしい英雄だった男たちに比べて多かったようにＮの記憶には残っている。だからトウヤに反論してしまった。<br />
「だけどその反面、彼らはロマンチストな側面を持っていた。いつも恋をしていた。」<br />
「沈着と情熱は彼らの内側では両極端ではないんだね。往々にしてそれは融合し彼らはその思念とも感覚ともつかぬものに突き動かされていたということか。だけど、彼らのその恋は大抵叶っていないような気がするんだけど。」<br />
「そうかな？　まあ器のキャパシティは体格に比例しないってことだよ。」<br />
　トウヤは自分の矮躯を弁護したいようだが、どうしようもない空しさを伴っているような気がするのは、Ｎがその裏を掻きすぎなのだろうか。Ｎは情事の余韻とは別にやはり好奇心が優先する人間であることを、自分自身で再確認した。そして今もっともそぐわないことをトウヤに問いかける。<br />
「ねえトウヤ。君はジムに挑戦するつもりなんだろ。」<br />
　トウヤはさも当たり前のように頷いた。頭の切り替えの早さは身に着けた事務的な処世術のようだった。抱いた抱かれたの関係から、また一対一の男同士の関係に戻ってしまった。<br />
「そりゃそうだろう。君もだろ。ポケモントレーナーなら。ちなみに君はチョロネコで挑むつもりなんだろうね。わかるよ。苦労しているのは。」<br />
「え？　チョロネコは頼りになるよ。」<br />
「え？」<br />
　トウヤがＮに身を乗り出してきた。<br />
「その&hellip;&hellip;君のチョロネコ。彼はちゃんと使えるのかい？」<br />
「使えるって言い方やめてくれない。」<br />
「いや会社員時代の癖で、人間に対しても使ってたから。じゃあ、レベルかなり上げているんだね。それならなんとかなるよね。」<br />
「あのね。君はどうしてチョロネコが頼りにならないとか弱いとかという前提で話を進めているんだい？」<br />
　Ｎが本格的に怒りそうなのでトウヤは質問攻めを一旦やめた。<br />
「ごめん。やっぱり彼女が使えないのは僕の努力不足っぽいな。」<br />
　トウヤはこれでチェレンのチョロネコも使えると聞いた日には、本当の意味で落ち込んでしまいそうな顔色をＮの前で晒す。<br />
「トウヤ。最初の話にもどるけど。僕もサンヨウのジムに挑戦するんだ。そして勝ってジムバッジが取れれば、また次の町のジムに行く。そしてまた町を移ってジムバッジを集めるよ。」<br />
「熱心なことだね。」<br />
「最終的にはポケモンリーグに挑戦したいから。それでチャンピオンに到達したいから。」<br />
「僕が知ってる君にしては好戦的な目標だね。」<br />
「やらなくちゃいけないことだから。」<br />
「やりたいことじゃないわけだね。」<br />
「やりたいことに必要なことだから。」<br />
　トウヤは溜息をつく。やらなくちゃいけないこと。このイッシュの頂点に立つチャンピオンに勝つことも相当な目標なのに、その上にやりたいこととはいったいどれほどの壮大な目的なのか。トウヤには皆目見当がつかない。<br />
「まあ君はまだ若いからね。いくらでもやれる歳だから。」<br />
「君こそトレーナーになりたてなのに、どうしてそんな他人事なんだ。」<br />
「その理由を言ったらまた君が怒る。」<br />
　そうかとＮは食いついてこなかった。なんだか嫌に察してもらえてしまったようだとトウヤは苦笑する。トウヤが行く先々のジムに挑戦するのは、チェレンと同じ場所にいたいという動機が一番だ。そのような動機でジムに挑戦するなんて、不純だとまたＮに怒られてしまうのは必至だった。だから今回は前回の反省として、お互いにそれ以上はそのことには踏み込まなかった。<br />
「ちょっと僕らしくないこと言うけどいいかな？」<br />
「なにかな。」<br />
　トウヤはふっと目を閉じて手のひらを何かを包み込むような形で胸の前に翳す。Ｎはその仕草がモンスターボールを握っている感じだな眉を顰めた。<br />
「ただの入れ物のこれが、日に日に僕の中で存在感を増していく。彼らが強くなっていくのが僕の強さだと錯覚するくらいに。」<br />
「それは単に君に彼らの能力に対して指揮権が保証されているが故じゃないの？」<br />
　トウヤは目を閉じたまま首を振った。<br />
「違うよ。そんなんじゃない。わかるんだ。僕が強くなければ彼らは強くなれない。」<br />
　Ｎはその言葉だけには反発はしなかった。なぜかは自分でも釈然としないが、その言葉を否定すれば自分の考えた理想郷が一瞬の間に虚構に落ちると察したためだ。トウヤの言葉が核心を突く前にトウヤの神掛かった言葉を現実に引き戻そうとした。<br />
「君はこの先もしチェレンとそれなりの関係になれたとしたら、君は君の旅をどうするつもりなんだい。」<br />
「チェレン次第だな。彼にとって僕が必要なら僕はずっとポケモンと旅をするよ。たぶんそうなる可能性は高い。彼は子供のときに身体が弱かったんだ。トレーナーになることだけが病気と戦うモチベーションを保っていたようなものだった。やっと念願が叶ったし、彼なりに身体も鍛えているけど、やっぱり昔から彼を見てきた僕には彼の身体のことが心配なんだ。本当に傍にいて、僕が彼を支えられたらいいなと思ってる。」<br />
　Ｎはトウヤの言葉を聞いて色んな意味で合点がいった。男が男に入れ込むトウヤの現状には、チェレンの肉体の脆弱さが強く関わっていた。保護欲が所有欲になり性欲も加わっているとなれば、この男はどれだけ貪欲になれるか、Ｎはその身を以て先ほど知ったばかりだった。<br />
　トウヤのけして逞しくはないが強かな身体が、自分に絡みついてきた感触をＮは自分の腕で自分の身体を掻き抱くことで反芻していた。身体は少年のようなのに節くれだった指は、大人のそれそのものだった。自分の内部を穿ってきたそれも大人そのもので、少しＮを混乱させる。Ｎはトウヤをまるで同世代みたいに呼んだり接しているところがあるが、要所要所で相手が大人だという事実を突きつけられる。<br />
　だいたいトウヤは童顔のくせに声は異様に低く渋い。普段明るくしていれば明るくしているほど、真剣な言葉は真剣な声に相まって心に刺さる。もしかしたら自分はその声音が与えてくる言葉のストレスに振り回されているだけなんじゃないかとＮは分析紛いのことを考えた。そうすれば楽に考えられるかもと思ったから。<br />
　トウヤはちらっとＮを見てぶきらぼうに気が済んだかなと問いかけてくる。<br />
「え？」<br />
　ふいを突かれたＮは何を尋ねられているのかと首を捻った。<br />
「その&hellip;セックスして性欲解消したかったっていうの。」<br />
「あ、ああ&hellip;&hellip;。なんだかんだでスッキリしたし。」<br />
「そう。良かったよ。」<br />
　Ｎがトウヤを巻き込んだ形だったとはいえ、トウヤの言葉の歯切れが悪い。<br />
「トウヤ？」<br />
　トウヤはいきなりＮのほうに身体を傾けてきたと同時に、Ｎを巻き込んでベッドの上に倒れこんできた。<br />
「Ｎ。恥を忍んで頼むんだが、もう一回してもいいかな？」<br />
「え？　え？」<br />
　トウヤの腰のバスタオルが不自然に浮き上がっているのがＮにはわかった。<br />
「と、トウヤ。勃起して&hellip;&hellip;るの？」<br />
「ほんとに何て君に謝ればいいかわかんないんだけど。まだ収まらないんだ。一回だけって言ったのに&hellip;&hellip;一回だけじゃ済まないみたいなんだ僕、年甲斐がないって軽蔑してくれてもこの際いいよ。僕も僕自身が情けない。こんな歯止めの利かない男が僕だなんて僕が認めたくないよ。」<br />
　情けなさに泣きそうなトウヤの頭をＮは衝動的に撫でた。<br />
「だ、大丈夫だよ。」<br />
「助けてくれるかい？　Ｎ？」<br />
　涙が滲んでいるトウヤの背中をぽんぽんと叩きながら、Ｎは今この男を助けてやれるのは自分しかいないと、男の癖に母性的な感情が生まれつつあった。<br />
「だから泣かないでね。しょうがないよね。それがオスの生理だからね。ポケモンもニンゲンも同じことだよね。」<br />
　トウヤはＮの言葉を聞きながらＮの足に硬くなった自分自身を押し付けた。<br />
&nbsp;</font><br />
<ul>
	<li>
		<font style="font-size: x-small;">　　＊　　　＊</font></li>
</ul>
<font style="font-size: x-small;">&nbsp;<br />
チェレンが佇んでいる場所は屋根も壁もない森の中だった。日はもう暮れなずんでいるし、街が近い森なのにこんなところで、この時間に好き好んで留まっているのはチェレンくらいのものだろう。街から街の移動の際に野宿をするというのはポケモントレーナーにとっては日常なのだが、街で泊まれるポケモンセンターや宿があれば当然彼らは自分の身のためにそこに宿泊する。ポケモンもボールに入っているのだから特にトレーナーの寝泊りする場所について気にする者はいない。人間の住居に慣れているポケモンならボールに入っていなくてもトレーナーと一緒ならその場所に馴染める。<br />
　だがチェレンは己が考えすぎる性分故に極端な選択肢を取ってしまった。<br />
　チェレンはポケモンセンターに泊まったことがない。この旅に出てから他の宿泊施設を利用したこともない。いつも街の外れのポケモン達が落ち着くであろう森の中や草原で野宿をしていた。<br />
　理由は単純だった。子どもの頃から自分のポケモンを手にすることを夢見ていたチェレンは、ポケモンをモンスターボールに閉じ込めっぱなしにするのは避けたいと思った。というかそんなことをするのが惜しいくらいにポケモンと触れ合いたかったのだった。チェレンにゲットされたポケモンはまだ人間がいる場所に慣れていないだろうとチェレンは思っている。宿の中でモンスターボールから出せば彼らは落ち着かないだろうと思ったし、ポケモンセンターだと他のトレーナーもうじゃうじゃいる。人見知りする癖のあるチェレンは自分でそこからあぶれてしまうことにした。<br />
「ツタージャ。薪ありがとう。」<br />
　野外の炊事には慣れてきていた。ツタージャはチョロネコやヒヤップをよくまとめてくれているし、新しく入ってきたマメパトも早々に馴染もうとしている。<br />
　癒されるという言葉では筆舌に尽くしがたいほど、チェレンは目の前のポケモン達の姿に胸の内を熱くしていた。だけどそんな幸せを顔に出してしまったらトレーナーとしては三流であることをチェレンは知っていた。ポケモンにはあくまで頼れるトレーナーでなくてはいけない。だからチェレンは笑顔を押し殺してツタージャの頭を撫でた。<br />
「けほっ。」<br />
　チェレンは自分の咳に慌てて口を押えた。ツタージャを恐る恐る見るがツタージャはその咳に気づいていないように火の中に薪を入れている。他のポケモン達も気づいていない。チェレンは胸を撫で下ろす。ポケモン達をモンスターボールから出して一緒にいられるように野宿を続けているが、元々が身体が丈夫でないチェレンにとって野外で夜を明かすのは普通のトレーナーより身体に負担がかかっていた。ただ弱かった頃の自分を晒したくないチェレンは、ふいに出てきた軽い咳一つにも動揺してしまう。身体的に弱いトレーナーだとポケモン達に思われたら、心配をかけてしまう。そんなことは避けなければならない。トレーナーの優秀さは頭脳が明晰なだけでは駄目だ。ポケモン達が最終的に頼らざるをえないのはトレーナーなのだから。自分がしっかりしなければ。<br />
&nbsp;<br />
「少年。シチューが焦げるぞ。」<br />
&nbsp;<br />
　後ろから声を掛けられる。慌ててチェレンは声に釣られて鍋をかき混ぜようと身体を起こしたが、その拍子に連続した咳がチェレンを襲った。<br />
「よいよい。儂が代わりにやってやる。」<br />
　チェレンの前に現れた偉丈夫とも呼べる赤毛の男は片手でおたまを持って鍋をかき回し、もう片手でチェレンの背中を摩った。服の上からでも感じるごつくて温かい手のひら。チェレンは憧憬を覚えると同時に自分と遥かに違いすぎる男の造作に軽い反発心を持った。　<br />
　咳を収めてチェレンは男の手からおたまを引っ手繰る。<br />
「いいです。自分でやります。」<br />
「そうか。」<br />
　チェレンは改めてその男を一瞥する。気さくそうな好々爺の二歩か三歩か手前の年齢っぽく見える。人が好さそうなのに、どこか人を喰ったかのような印象を覚える。どうしてチェレンに声を掛けてきたかは分からないが、そのまま男はチェレンの横に座り立ち去る気配がない。<br />
「なんなん、ですか。」<br />
「いや。風邪をこじらせているなら街に泊まれば良いのではないかと思ってな。」<br />
　さっきの咳でなんだか色々推測されたようだとチェレンは眉間に皺を寄せる。男が言った通りチェレンは少し風邪をひいていた。そしてそれは野宿続きの毎日で完治が長引いていた。薬を飲んで症状は抑えているが、どうしても軽い咳は出てしまう。<br />
「少年よ。トレーナーも生身だからな。あんまり無理はせんほうがよい。身体が資本じゃからな。」<br />
「余計なお世話です。僕は無理なんてしてない。勝手に僕のことを推測して口を出さないでください。」<br />
　男は困ったように眉を下げた。<br />
「少年&hellip;&hellip;」<br />
「ちなみに！」<br />
　チェレンは声を荒げる。<br />
「トレーナー初心者だと思ってあなたは僕を少年と呼びますが、僕はこう見えても年齢的には成人してるんです。だからその呼び方ははっきり言って不快です。」<br />
「なら名前を教えてくれんか？　ちなみに儂はアデクという。」<br />
　何処かで聞いた名前だなとチェレンは思ったが唐突に思い出した。しかしチェレンが知っているアデクならこんなところにいるはずがない。なら彼と同名の別人の可能性のほうが高い。チェレンはぶっきらぼうに言う。<br />
「先に名乗って頂いてありがとうございます。僕はチェレンって言います。見ての通りのトレーナーですが。」<br />
「儂もトレーナーじゃ。ていうか知らんかのう。アデクと言えばイッシュのチャンピオンなのじゃが。」<br />
「はあ。チャンピオンのアデクさんと同じ名前なんですね。」<br />
「本人なのだがなあ。」<br />
　チェレンはえっと身が竦んでしまった。<br />
「し、失礼しました&hellip;&hellip;。バッチ一つやっと取れた僕が、まさかチャンピオンに会えるとは思わなかったから。」<br />
　語尾がだんだんと掠れて小さくなっていくチェレンにアデクは笑顔を見せた。<br />
「そこまで畏まることはない。儂もうん十年前にはバッチ一つがやっとの身じゃったからな。みんなそこから始まるんじゃ。」<br />
　でもチャンピオンになれるのはただ一人だろうと、少し卑屈な気分で心の中で呟いた。よく見ればアデクはチャンピオンという肩書に相応しい男に見える。逞しい身体や包容力のある気質を窺わせる笑顔やオーラ。チェレンにはまだ無いものだった。この先も手に入れられるかどうか定かではない憧憬するものだった。<br />
「チャンピオン。ほんとにさっきは失礼しました。」<br />
「しらん人間から後ろから声かけられれば警戒するじゃろ。ニンゲンに慣れてないポケモンと一緒じゃ。」<br />
「それはそうですけど。」<br />
「ところでそれはそうと、その鍋のシチューをご相伴させてもらっていいかな？　儂は実は腹が減っていたんじゃ。」<br />
　シチューの匂いに釣られたんだなとチェレンは呆れながら納得した。スプーンはともかく皿は余分に無いので自分の大き目のマグカップにシチューをよそってやる。本来なら次の朝食のつもりで二人前以上は作っていたのだが、欲しいというならしょうがない。<br />
　チェレンはポケモンたちのためにフードを用意したあと、やっと自分の分のシチューをよそう。アデクはチェレンを待っていたかのようにいただきますと言って食べ始めた。<br />
「お口に合いますか？」<br />
「儂のようなジジイに染み入る言葉じゃな。腹が減っているときにはなんでも美味いというが、このシチューは絶品じゃ。世の男はこんなシチューを毎日食べたいと思うんじゃろうな。疲れて帰った家にこんなシチューが待っておったら、ああ明日も頑張ろうなと思うじゃろう。そしてそのシチューを喰っている様子をニコニコと笑って見てくれる作り手がおったら、まさに至福とか桃源郷という言葉がぴったりじゃろう。」<br />
「僕みたいな男が作ってごめんなさいね。」<br />
「ほれまたそんな眉間に皺寄せて捻くれた受け答えをする。儂は素直に美味しいと言っておるじゃろ。年寄りの数少ない褒め言葉を引き出したのじゃから素直に得意になっていればよい。」<br />
　いやあんたはこんな風に誰にでも褒め言葉を連ねるんだろうと、チェレンはあくまで無表情で受け流していた。少し嬉しいと思うのが癪だった。誰かに手料理を振る舞うなんて初めてだったから。<br />
　そういえば旅に出て人間と喋ったのは、カラクサタウンでトウヤと話したきりだったと思い返す。他はポケモンに話しかけるだけだったり、ジムリーダーと一言二言何か言ったような言われたような記憶しかない。<br />
「せっかく旅に出てるんじゃから、ポケモンばかりだと息が詰まるぞ。ポケモンだって自分のトレーナー以外の人間に会わんといつまでたっても人間に慣れっこない。」<br />
　チェレンも思い返せばポケモンを強くするということにしか頭が回ってなかったように思う。二十四年間ほぼ閉じられた世界の中で過ごした自分と同じような境遇に、ポケモン達を置こうとしていたかもしれないという現実に気が付いて、チェレンはスプーンを持つ手を止めて呆然としてしまった。<br />
「今日ここであなたと出会わなかったら僕は&hellip;&hellip;」<br />
「いや。そんなたいしたことじゃないじゃろ。儂は森の中では珍しいシチューの匂いに釣られただけじゃ。まあ明日からは風邪が治るまではちゃんとした宿に泊まることじゃ。今は気づかれないようにしても、お前さんが無理をしていることはそのうちポケモンも気づく。いや、既に気づかれているのかもしれん。お前さんがゲットしたポケモンは、進化はしていないが年季が入っていそうな気がする。」<br />
「わかるんですか。そんなこと。ツタージャは研究所で貰ったばかりだし、他のポケモンもそこまでレベルが高くないですよ。」<br />
「年季というのは言い間違いかもしれん。単に歳を喰ってるだけじゃ。こやつら見かけは幼くて可愛くて、レベルも低いが、レベルが低いまま歳を喰って、弱いまま老獪になってるからのう。そんな奴らをお前さんがたまたまゲットしたんじゃろう。ツタージャもなんらかの事情で歳を喰ったのがお前さんに巡りあったんじゃろう。ちなみに儂の特技はポケモンの歳を当てることじゃ。今まで約七割五分の確率で的中させてきたわ。」<br />
　それはかなり微妙じゃないかとチェレンは思ったが、思い当たる節はあった。さっき咳をした時もツタージャに気づかれていないと思ったが、実は気づいていない振りをしていたのかもしれないと思った。咳とは思わなくても変な音がした方向を向いてしまうのは人間も変わらない。しかしツタージャは単なる音でさえも悟った様子もなかった。それは人間の咳の音だと分かっていながら、それでもその人間に駆け寄らなかったのは、チェレンの性格と裏に隠れた事情を察して何も聞こえなかった振りを自然としていた可能性がある。アデクの言うように見かけの可愛らしさに騙されていたが、本当にポケモンとしては歳を重ねた個体なのかもしれない。<br />
「おじいちゃんおばあちゃんぐらいでしょうか。」<br />
「いや。まだおじさんおばさんぐらいじゃろう。まだまだやれる歳じゃ。儂のようにな。少しくらい無理させたほうが身体のためじゃし、こういうポケモンのほうがバトルで勝負強くなる。若い個体ほどパワーはないかもしれんが、その分粘り強く細かい芸が出来るようにもなるしな。」<br />
「ポケモンのおじさん達は気難しいということはないでしょうか？」<br />
「お前さんの性格のほうが余程気難しいと思うぞ。」<br />
　チェレンは一本取られてしまった。それにしてもアデクという壮年の男は、精神が捻くれることなく真っ直ぐに歳を重ねた理想の年寄りの姿っぽいなとチェレンに思わせた。他の地方ではもっと若いチャンピオンがいると聞く。やはり実力と最強の象徴たるトレーナーとしては若いほうがイメージの通りがいいのかもしれない。だけどやはり重ねた年輪の深さや厚さを目の当たりにすると圧巻されてしまう。<br />
　例え口数が多くて、距離なしで、通りがかりに若者のメシをたかるという現実があったとしても。<br />
　今日この時に会っていなかったら、自分は自分のポケモンたちの真実の姿を知ることなく、意固地な思い込みの世界に閉じこもっていたのかもしれない。<br />
「ちゃ&hellip;&hellip;アデクさんも今夜は野宿ですか？」<br />
　チェレンは自分でも驚くほど他人に立ち入ったような問いかけをした。ただの一言だったがチェレンにとってはもの凄く勇気が必要なことだった。<br />
「うん。そうじゃよ。」<br />
　なんてことないようにアデクは答えた。その、と口籠るチェレンを先越してアデクは今日はお前さんと、お前さんのおじさんおばさんポケモンと一緒に寝るかのうと誘ってきた。<br />
「え。ええ！　ぼ&hellip;僕がちゃ、アデクさんと。初めて会ったばかりじゃないですかっ。」<br />
「同じ釜の飯を食ったじゃろう。あ。ついでに儂、ライブキャスターを最近買ったのじゃ。番号交換せんかのう。」<br />
「えええええ？」<br />
　チェレンは混乱しながらも浮足立ったように大急ぎで自分のバッグからライブキャスターを取り出した。断る理由はなかった。天の上の人間が自分のような駆け出しと交流しようと言ってくるのは、どんな棚から牡丹餅だ。もう二度とない機会に衝動的に飛びついてしまった。<br />
「えーと&hellip;これをこうして、赤外線は出来るんかの？」<br />
「か、貸してください。やります。」<br />
「そうじゃのう。機械は若いもんに任せたほうがいい。」<br />
　最新テクノロジーの前では普通の可愛いじいちゃんになってしまうチャンピオンだった。<br />
　チェレンが互いに登録し終えるとおずおずとアデクにライブキャスターを返した。<br />
「ありがとう。」<br />
「どういたしまして。」<br />
　世代を越えた微笑ましいトレーナー同士の交流を見ていたのは、見た目とは裏腹のおじちゃんおばちゃんポケモン達だった。その静かな目線は自分より幼いトレーナーが一皮剥けた瞬間を祝福しているようだった。<br />
&nbsp;</font><br />
<br />
<br />
後半に続く]]></content:encoded>
    <dc:subject>ポケモン</dc:subject>
    <dc:date>2013-04-11T08:24:33+09:00</dc:date>
    <dc:creator>柴仲達</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>柴仲達</dc:rights>
  </item>
  <item rdf:about="http://ktkr.gjgd.net/text%20toho/%E2%98%86%E3%80%8C%E6%9D%B1%E6%96%B9%E7%90%B3%E9%88%B4%E5%93%80%E6%A5%BD%E8%AD%9A%E3%80%8D%E7%AC%AC%E4%B8%80%E8%A9%B1%E5%BE%8C%E7%B7%A8%E3%80%80%E7%BE%8E%E3%83%95%E3%83%A9%E3%80%80%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%80%80">
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    <title>☆「東方琳鈴哀楽譚」第一話後編　美フラ　マリアリ　</title>
    <description>　アリスという魔女は魔理沙が来ると分からないはずの時でも、いつもお茶と少しつまめるものをテーブルに用意していた。今日も例に漏れずアリスのテーブルの上に、クッキーのなだらかな山が出来ていた。
　魔理沙はいつかアリスに、どうして自分を待ち構えるように食べ物が用意されているんだと尋ねてみたことがある。...</description>
    <content:encoded><![CDATA[　アリスという魔女は魔理沙が来ると分からないはずの時でも、いつもお茶と少しつまめるものをテーブルに用意していた。今日も例に漏れずアリスのテーブルの上に、クッキーのなだらかな山が出来ていた。<br />
　魔理沙はいつかアリスに、どうして自分を待ち構えるように食べ物が用意されているんだと尋ねてみたことがある。<br />
　アリスの答えはこうだった。<br />
『一日のうち、朝ご飯・昼ご飯・夜ご飯・十時と三時のおやつ・夜食の時間の、前の時間というのが存在するでしょ。私がその準備をした時間に限ってあんたが来るんだから。』<br />
　アリスはいちいち自分が羅列した回数の食事を摂るほど大食ではない。むしろ三度の食事の時間さえ魔法の研究と人形作りに充ててしまいそうな女だ。<br />
　そう。アリスという女は素直じゃない。だがそれ故に不器用という凡人のパターンに嵌まり込んで悩む女じゃない。その手先と思考回路の器用さは、器用という言葉が蔑称になるくらい細やかなのだ。<br />
　魔理沙はクッキーを齧り茶を啜りながら美鈴の思い出話の愚痴を語った。アリスは適度な相槌を打ちながら眉一つ動かさず聞いている。<br />
「あんたの話を聞いていると、あんたは純朴な中華妖怪の優しさに付け込んだ上に、適当にどんな形でも解釈可能なメッセージもどきで簡単にあしらった、妖怪以上に妖怪じみた人間に腹を立ててるように一見聞こえるけど。」<br />
　魔理沙は首を横に振る。<br />
「人間のずるさに人間の私が腹を立ててどうするのさ。」<br />
「じゃあ私の解釈その二。あんたは美鈴のすぐ騙される馬鹿っぷりと、幻想郷に来ての転職先である紅魔館でも同じ過ちを犯した美鈴の学習能力の無さに呆れている。」<br />
　魔理沙はあーだのうーだの言いながら、そうかもしれないと頷く。<br />
「美鈴は馬鹿だと思った。それは確かだ。」<br />
　魔理沙は納得したようなことを言いながら、納得がいかず眉間に皺を寄せた顔で紅茶を啜る。<br />
「今日はスコーンも焼いてみたけど、食べる？」<br />
「もらう。」<br />
　アリスが持つスコーンの入った籠の中から一つだけ引っ手繰って大きく齧りつく。<br />
「そんでさあ」<br />
「口の中にもの入れたまま喋らない。」<br />
　魔理沙は再び紅茶を口に含んでスコーンを飲み下す。アリスはそれを満足そうに見て微笑んだ。<br />
「あとマフィンとパウンドケーキと他にもいろいろ作ってあるんだけど。」<br />
　何かを取りにキッチンへ向かいそうなアリスを、袖をつまんで魔理沙は引き止める。<br />
「おい。小麦粉で作る似たようなお菓子ばっかりで腹膨らまされても困るんだぜ。」<br />
「ごめんね。魔理沙。今日は興が乗ってしまったの。」<br />
　自分のうっかりを肯定する言葉を吐くアリス。<br />
「私は一人暮らしだから、こんなに作ってしまって自業自得だけど魔理沙が引き取ってくれないかしら？　あんたはお友達が多いことだし適当に配ってよ。」<br />
　アリスが「お友達」と強調するところに魔理沙は少し背筋が震えた。わけがわからないが無性に震えてしまったのだ。<br />
「ぱ、パチュリーのとこにはアリスが行けよ。今日だと私は二度手間になるだろうし、あいつが私からお菓子を受け取ってくれるとは思えないし。」<br />
「そうね。ひと月ぶりに遊びに行こうかしら。」<br />
　パチュリーは活字がないとご飯が食べれないわけじゃないけどと呟きながら、アリスは少し思案するように口元に指を当てる。<br />
「マフィンがいいかしらね。」<br />
　結局アリスはキッチンに消えてしまった。魔理沙に押し付ける分とパチュリーへの手土産の準備をするのだろう。<br />
　魔理沙はアリスの本棚に向かう。魔理沙やほかの客人を迎え入れるこの部屋にある本はごく一般的で、魔法に関するものはない。魔法に関する本は本当の意味でアリスのプライベートの密室にしかないのだろう。<br />
「魔法ものの小説はあるんだけどな。」<br />
　実際に魔法を扱う魔理沙に創作上の魔法はあまり意味がないのだった。創作上の呪文を唱える魔女はただの痛い人間なだけである。<br />
　ほどなくしてアリスが部屋に入ってきた。<br />
「魔理沙。本棚なんか見て、何か借りるの？」<br />
　魔理沙はアリスに振り返る。<br />
「別に&hellip;&hellip;。」<br />
「あら。そう。」<br />
　これとアリスに大き目のバスケットを手渡される。魔理沙がそれを受け取って中身を見ると美味しそうなお菓子がみっしり詰まっていた。<br />
「ありがと。」<br />
　お菓子を押し付けられる立場の魔理沙はごく自然にアリスに告げた。<br />
「あんたが今日話してくれた中国妖怪が何度も人間に騙されて馬鹿って話ね&hellip;&hellip;。」<br />
　アリスは言いにくそうに顔を魔理沙から背ける。<br />
「あ&hellip;&hellip;嫌な話を愚痴ってごめん。」<br />
「嫌とは思ってないわよ。ただ&hellip;&hellip;妖怪が人間に騙される気持ちってのも、わかんないわけじゃないかも。」<br />
　アリスにしては不器用な物言いに魔理沙はテーブルの上にそそくさとバスケットを置き、アリスの両手首を握り身を乗り出す。アリスはたじろいで言葉の続きを口早に吐き出す。<br />
「進んで、騙されたいとは思ってないわよっ。――騙されたくもないし。だけどお伽噺で残ってる妖怪のはなしって、大抵最後は人間のほうが妖怪騙してやっつけたり、してた約束破って別離でお終いになることが多いし。ふと騙されたままのほうが楽なのかなって&hellip;&hellip;魔が差したように思いついただけ。」<br />
　早口で慌てて捲し立てるアリスを魔理沙は可愛いと思ってしまう。魔理沙は進んでアリスを騙したり、してた約束を破ってしまった覚えもない。これからも別にアリスを騙すつもりもない。しかし今のアリスの物言いだと近い将来には魔理沙がアリスを騙して、今もアリスを騙し続けていると言われているような気がしてならない。<br />
　テーブルの上には冷めかけている紅茶と、バスケットに入りきらないあらかじめ魔理沙の前に出されたお菓子の山。いくら作りすぎたとはいえ、バスケットに入っている分と合わせれば異常なほど、アリスの一人暮らしのオーブンで作られたことが想像出来る。<br />
　一人では食べきれないお菓子の山。魔理沙が一人加わっても、パチュリーにおすそ分けしても、腐らせるほうが多くなりそうな気の遠くなるような量。<br />
　バスケットの中のお菓子を改めて見ると、よくわからないがまた背筋が震える。急に思い出したのだ。お菓子の家の魔女のお伽噺を。子どもに高カロリーのお菓子をたらふく食べさせて、丸々太ったところを食ってしまうという魔女のお伽噺。もし魔理沙が持ち帰る方向に話を持って行かなかったらどうなっていたのだろうか？<br />
『アリスはそんなことしないっ。』<br />
　魔理沙は強い意志で疑いを否定する。しかしアリスは泣きそうな顔をしている。ここでお菓子を食べてもらえないことを悲しんでいるように見える。<br />
　お菓子を作るか詰めるときに何か考え事をしていて、考え事がアリス自身では抱えきれないほど大きくなって、それを魔理沙に吐露しなければならない心情に陥った。普段はなにもかも洗練されているくせに、なんで時々不器用なんだろう。<br />
「アリス。私はお前を騙すつもりないぜ。」<br />
　魔理沙はぎゅっとアリスを抱きしめる。<br />
「永夜のときとか地底のときみたいに、また二人で異変解決しようぜ。そんで。いろいろ&hellip;&hellip;な。お前が不安がる必要なんてないんだ。」<br />
　アリスはうんと頷いて魔理沙の肩口に肩を埋めた。手を伸ばせばそこには柔らかなアリスの色白な肌がある。<br />
ただそこに手を伸ばすだけなのに今日はなんだか気が引けてしまう。だけどそこが魔理沙の手を待っているように息づいているような気がした。<br />
&nbsp;<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
「ん&hellip;&hellip;どうしたの？」<br />
乱れたお互いの少し色合いの異なる金髪がベッドに流れている。アリスは恥ずかしそうに手櫛で髪を梳くが魔理沙は乱れてたほうが色っぽいからやめてとアリスを制した。アリスは仰け反るように背中を起こし上掛けを胸元に引き寄せた。布団の隙間を作らないように魔理沙もベッドに半身を起こす。<br />
「なんか外から妙な連中が来てるらしいぜ。紫ん家に行ったときに異変になったらよろしくねと言われたんだけど。」<br />
「紫？　あの神出鬼没のスキマ妖怪の屋敷によく行けたものね。」<br />
「いや。招かれたわけじゃないけど、ちょっとご尊顔を拝観しにねー。」<br />
「顔を見るだけでも大変だったでしょうね。」<br />
　魔理沙の好奇心の強さや物見高さは今に始まったわけではない。しかしながら物見高さだけで八雲邸を見つけようとするには、動機と労力が釣り合わない。<br />
「かの博麗の巫女でさえも訪れるのに運任せなところなのに。」<br />
「運だけならあの天才さんには負けないつもりだぜ。そんで辿りついた私に敬意を示してくれたのか、霊夢より先に異変の予兆を私に伝えてくれたんだぜ。」<br />
「それはあんたに教えれは霊夢にも自動的に伝わると踏んだからでしょ。でもね魔理沙。私が訊きたいのは、いつ会いに行ったの？　昼？　夜？」<br />
「ひ&hellip;&hellip;よ、夜だった気がするぜ。」<br />
　まったくこのろくでなしは嘘つきにはなれないんだからとアリスは溜息をついた。<br />
「なんでわざわざ夜に？」<br />
　魔理沙は目を泳がせながら正直に答えた。<br />
「紫が寝るときには何着て寝てるか気になって。」<br />
「その答えは見つかった？」<br />
「すけすけのネグリジェでした。そんな格好で私の前に行く主人に式が慌てふためいていたぜ。」<br />
　ふーんとアリスは興味なさそげに相槌を打つ。朝自分が脱いで畳んでおいたいかにも思春期の女子な薄ピンク色のパジャマを見て自分が情けないと思えてくる。<br />
「魔理沙。私が何着て寝てるか興味ない？」<br />
「もちろんあるに決まってるだろ！」<br />
　身を乗り出してくる魔理沙に対してアリスはくすっと笑う。<br />
「それじゃ、明日は夜に訪ねてきてね。二日続けては面倒だなんて言わせないわよ。作りすぎない程度に夕飯も用意しておくから、しっかりお腹を空かせていらっしゃい。お夕食のあとには一緒にお風呂に入ってそれからドレスアップした夜の私を見せてあげるから。」<br />
　魔理沙の顔は少し引き攣っていたが、八雲邸に不純な動機で訪れた罪に対しての罰にしては極上に甘すぎるので、それに甘んじるしかなかった。<br />
　それにしてもとアリスは思う。八雲紫は何を思ってすけすけのネグリジェという魔理沙を喜ばせるような格好で、魔理沙の前に現れたのだろうか。紫は魔理沙のことなんてなんとも思ってないくせに。まさか霊夢がこのごろは妖怪の山の神社の巫女にご執心なことへの当てつけなのだろうか。だとしたら魔理沙はとんだ当て馬なんだろうと、そういう考えでアリスは横にいるチンピラへの腹立たしさの溜飲を下げたのだった。<br />
　そして魔理沙が言い出した外から来た奇妙な連中の情報は、見事にアリスはスル―して、またそれが蒸し返されるのは数刻後だった。<br />
　そうこうアリスが考えているうちに魔理沙は身支度を整えて「じゃあ明日の夜までお別れだぜ」と言って去っていこうとする。<br />
「今夜はもうどこにも寄らないわよね？」<br />
　いまだ宵の口なのに、アリスはそそくさと出て行こうとする魔理沙を引き止めはしないが念は押しておく。<br />
「あ、ああ。まっすぐとは言わないが、もう一軒だけ用事済ましたら家には帰るから。」<br />
そんな真面目ぶったことを言っているが、好奇心の赴くままにどこぞの女のもとに行くのだろう。そして色んな厄介ごとに巻き込まれて今度こそ懲りればいいとアリスは願うのだった。<br />
　アリスもアリスでパチュリーにお菓子を押し付けに出掛けようと思い立った。<br />
&nbsp;<br />
<ul>
	<li>
		　　＊　　　＊</li>
</ul>
&nbsp;<br />
　夏祭りの夜からまだ三日しか経っていない。<br />
ゴム風船のヨーヨーは夜が明けた頃に少し小さくなったなと思えば、二日目で半分ほどの大きさになって、今日はもうしぼんで水が入っているぶんだけ膨らんでいる。<br />
　フランドールはそれに落胆する。自分の能力で壊さないようにしたのに、結局ヨーヨーのほうから駄目になった。<br />
　綿あめは食べなければべとつくし蟻がたかる。たこ焼きは腐る。かき氷はすぐ解ける。金魚はビニール袋に入れたままだと死んでしまうから咲夜に水槽に移してもらった。<br />
　美鈴が連れ出して連れて行ってくれたお祭り当時の形のまま残っているのは、プラスチックのお面だけだった。それもいつかは劣化する。<br />
　そんなことへの感慨はフランドールには存在しないが、なんだかしぼんだヨーヨーを見ると泣けてきた。涙は流していないけど。<br />
「また遊びに連れていってくれないかな。美鈴。」<br />
　時計と一日ごとに咲夜が&times;印をつけていくカレンダー以外に時間感覚を保つための装置のない地下室で、フランドールは三日も美鈴に会えなかった。美鈴の指が完治していないから当然なのだが、そんなことは露とも知らないフランドールは膝を抱えながら美鈴を待っていた。世間知らずの令嬢らしく受け身だった。<br />
　地下室とはいえ、吸血鬼の令嬢らしく灰色の壁以外は調度品など姉の部屋と遜色はない。ふかふかのベッドと、客人を呼んでも大丈夫なテーブルと椅子。壁には綺麗な絵が立派な額縁に入れて飾られていた。本棚には随時新しい本を咲夜や小悪魔らが仕入れてくれる。<br />
　だけど美鈴が連れて行ってくれた夏祭りに比べれば、そんな至れり尽くせりもあっけなく霧散する。<br />
　フランドールは地下室の扉の前に突っ立って、手のひらを翳した。扉はひしゃげ外側に吹き飛ばされる。<br />
「ん？　結界の張り忘れ？　姉さまにしては珍しいな。でも姉さまがうっかりなのが悪いんだから。」<br />
　でちゃお。<br />
　フランドールの結論はシンプルだった。いつもは結界があって壊せないと思っていた扉が、今日は壊せそうだから壊してみた。結果壊れた。この間美鈴と一緒に出掛けても姉さまは叱らなかったから、美鈴と一緒なら外出オッケー。でもしばらく美鈴はこない。なら今自由に出てこれる自分が、美鈴のところにいけばいい。<br />
　フランドールは鼻歌交じりに冷たい石造りの廊下を歩く。美鈴はやけに口元に手をやって「しー」っと言っていた。咲夜にばれたらおじゃんだから。だからフランドールも口元に人差し指を当て、声をあげずにしーっと言ってみる。あの日の美鈴との体験はこんな初歩から楽しかった。<br />
　フランドールの行動は、あの夏祭りの日の美鈴との行動をなぞっていた。地下から出る前に誰かが通らないかきっちり十を数えて待ってみる。出たあとは扉はきっちり閉める。屋敷の廊下を一気に走り抜けて、美鈴がやったように、あのときと同じ無人の部屋にまず駆け込んでみる。<br />
それからまた廊下を窺って出て行って走るを繰り返して三回目の部屋で浴衣に着替えていたとフランドールは覚えている。その時は青い髪の、美鈴と全然違うけど匂いが似ている女がいて、美鈴とフランドールの脱走に協力してくれていたが、今日はいない。<br />
また前述の行動を三回ほど繰り返して屋敷の裏口から出る。フランドールはやったと小声で呟いた。<br />
つまりこれらの行動は、美鈴のやった行いがフランドールの脱走の手引きになってしまったということである。<br />
フランドールは美鈴を驚かせてやろうと、庭の木の陰から木の陰に移って美鈴に接近していく。<br />
「あ。やばい。」<br />
　美鈴の傍には咲夜がいる。フランドールは息を潜めて咲夜が去るのを待つことにした。<br />
　咲夜と美鈴の話し声が聞こえてくる。<br />
「手は痛まない？」<br />
「あの医者がくれた薬が効いているから大丈夫です。」<br />
「そう。ならいいけど。貴女も思い切ったものね。お嬢様は指五本って要求しなかったでしょう。お蔭で医者を呼ぶ羽目になるんだから。」<br />
　お姉さま？　フランドールは首を傾げる。お姉さまの言い付けで美鈴は指を切り落とした。なんでそんなことをお姉さまは美鈴に言いつけた？<br />
　疑問に思っていても問いかけなければ、咲夜も美鈴も答えてくれない。<br />
「え？　五本もじゃなかったら医者呼ぶほどじゃなかったんですか？」<br />
「指を詰める意味を考えてみなさいな。それに止血と消毒くらいは私にも出来るんだから。」<br />
「たはは。手間かけさせて、すみません。」<br />
「加減を考えなさい。」<br />
　咲夜は美鈴の包帯を巻きなおして救急箱片手に去っていく。美鈴はさぼりにナイフを投げてくる以外に構ってくれた咲夜ににやけながら門の外から見送った。<br />
　フランドールはわけがわからないまま、美鈴に近寄れないまま呆然と見ていた。<br />
「わっ。」「ひゃうっ。」<br />
　後ろから口元を抑え込まれ、耳元で囁かれる。その声は姉のレミリアのものだった。<br />
　レミリアは意地悪さを垣間見せつつも優しく微笑んでフランドールに小さな声で告げる。<br />
「一人でお外に出てきてくれたついでだから、久しぶりに私の部屋でお茶しましょう。」<br />
「う、うん&hellip;&hellip;。」<br />
　レミリアはフランドールを振り向かないまま先導して歩く。まるでフランドールがついてくることが当然のように。フランドールも姉の期待を裏切ることなくついていく。<br />
「咲夜。開けて。」<br />
　咲夜は屋敷に入る扉の前に控えていて、レミリアの言葉に従い扉を開閉する。<br />
「咲夜。二人分の紅茶をお願い。それとフランの部屋を寝る前までに他のメイドに指示して隣部屋に移して。ドアを直すより手っ取り早いから。」<br />
　フランドールの背筋が震える。姉にはとっくにドアを破壊しての脱走のことはばれていた。レミリアは愉快そうに笑う。<br />
「パチェに頼んで今日だけ破壊防止の魔法をキャンセルして貰ったの。素直なフランなら鍵掛かっててもぶち壊して出てくると思ったから。」<br />
　フランの顔が真っ赤になる。そして絞り出すようにごめんなさいと言った。<br />
「なんで謝るの？　わざと、パチェに頼んでまで、脱走出来るようにしたのは私よ。」<br />
「わかんない。だけどごめんなさいって、言わなくちゃいけないような気がした。」<br />
「そう。」<br />
「ねえ、姉さま。」<br />
「なあに？」<br />
「どうして美鈴に指を切れって言ったの？」<br />
　レミリアはその質問には口を噤んだ。その代わり部屋に行って紅茶がきたらねとフランドールに予告する。フランドールは文句一つ言わずに姉に従うことにした。<br />
「そこまで素直とは思わなかったわ。」<br />
「？」<br />
その平然とした態度にレミリアは苦笑する。せめてもう少しぐずってくるくらいがちょうど良かったのにと。しかしそのレミリアの中の違和感はイントロにしか過ぎなかった。<br />
　レミリアは席につくと自分は窓側、フランドールに廊下側の席をすすめた。<br />
　それほど待つことなく咲夜が紅茶と茶菓子を持ってくる。茶菓子はアリスが作りすぎて来客の魔理沙がいても処理しきれず、パチュリーへのお土産にしたのだが、パチュリーと小悪魔でも食べきれないほどの量だったらしく、最終的に一部をメイドたちやレミリアに横流しされたものだった。<br />
　レミリアは咲夜から聞いた菓子の由来に吹き出した。咲夜はレミリア的にこの菓子の由来が面白いと思っていたので、敢えてこの菓子を出したのだった。<br />
「ぷぷっ。あの魔女も案外露骨ね。」<br />
「露骨？」<br />
「フラン分からないの？」<br />
　そういう言い方にはフランドールはふくれて怒る。しかし幼い感情表現でますます姉に子ども扱いされてしまうのだ。<br />
「咲夜は下がりなさい。」<br />
「はい。」<br />
　咲夜は音も立てずに退室した。レミリアは紅茶を啜って、フランドールがパウンドケーキを口に運んだところで話し始める。<br />
「美鈴が指を切ったのは罰よ。」<br />
「なんの？」<br />
「あなたを勝手に外に出したから。」<br />
「なんで？　私は勝手に外に出ちゃ駄目だけど、夏祭りには美鈴が連れていってくれたのよ。咲夜だって私を時々外に連れて行ってくれるのに。」<br />
　フランドールの不平不満をレミリアは聞き流す。同時に自分の妹の頭の程度を測る。<br />
「咲夜が外にあなたを連れて出るとき、私は咲夜から事前にどこにあなたをつれていくか教えてもらってるの。」<br />
「うん。」<br />
「だけど美鈴からはそんな相談はなかった。」<br />
　フランドールはぽかんと口を開けている。畳み掛けるようにレミリアは言葉を続ける。<br />
「主人の命令もなく、主人になんの注進もせずに、主人の知らないところで勝手なことをした。あなたも言ったじゃない。私は勝手に外に出ちゃいけないって。」<br />
「う、うん。」<br />
「なら外に連れ出す人も勝手にじゃダメ、ってことにならないかしら。」<br />
「め&hellip;&hellip;美鈴は姉さまには内緒って言ったけど、指を切らせることないんじゃ&hellip;&hellip;」<br />
　フランドールの怯えた表情に良いタイミングだとばかりにレミリアはフランドールに迫る。<br />
「美鈴には指の本数は指定しなかった。私は左手小指一本でも構わなかった。だけど美鈴は敢えて、利き手の右手の指五本一気に切り落としてくれたわ。この意味わかるでしょ。」<br />
　レミリアはフランドールの顔を覗き込むが、フランドールの表情から怯えが消えて、思考停止したように呆けた顔で姉を見上げていた。<br />
「どっちにしろ、指は切らなくちゃいけないのよね？」<br />
　どうにも言外のニュアンスが分かってない妹に姉は呆れた。<br />
「そうね&hellip;&hellip;。本気で反省して、その過ちがどれほどのものか美鈴は知ったから、なるべく多くの指を切り落としたのよ。しかも利き手の。」<br />
　レミリアは自分が設定した思考のゴールを提示する。フランドールはそっかとようやく理解してくれたようだ。<br />
「どれだけ反省したか、指の本数の多さで表したわけね。」<br />
　レミリアはその解答をフランドールに求めていたわけだが、どうしようもなく釈然としない。そういう解答を設定したのはレミリアだが、実際のあのちゃらんぽらんの美鈴の反省度も、どんだけのものか疑問だ。だから五本の指を切り落とした真意はレミリアがこじつけたもっともらしい嘘もいいところだ。<br />
　それにフランドールもフランドールだ。自分が納得したらアリス手製の何かの怨念てんこもりっぽいケーキを頬張っている。もう少し美鈴を庇おうとするなり、自分を責めたりせんのかこの娘はと、レミリアは今に始まったことではない妹へのストレスに頭をぐるぐるさせていた。<br />
レミリアはようやくアリスの作った菓子に手を伸ばした。<br />
　アリスの作ったケーキは誰かへの怨念が凝縮されているがとても美味だ。その怨念をまたの名を愛情と呼ぶ。<br />
「罰なんだからね、美鈴には手の治療が終わるまであなたに会っちゃいけないって言ってあるから。会いに行っちゃ駄目よ。」<br />
「はーい。」<br />
「はあ&hellip;&hellip;」<br />
「どうしたの。姉さま！」<br />
　姉がいきなりテーブルに突っ伏してしまったことに妹は本気で驚いている。それも姉を脱力させる原因だった。<br />
『思わず美鈴のところへ駆け出す、くらいの衝動は持ってもいいじゃん。』<br />
　美鈴報われなさすぎじゃん。だけど美鈴は気にしないだろうし。姉の煩悶を妹は理解出来ずに姉の顔を覗き込んでいる。レミリアはよろよろと起き上って紅茶をまた一口啜った。<br />
「ねえ、フラン。美鈴は好き？」<br />
「好きだよ。」<br />
　そのあっけらかんとした答えにレミリアは口を引き攣らせる。<br />
「美鈴は私に内緒であなたと出掛けたいくらいに、フランのことが好きなのよ。」<br />
「へー。そうなんだ。」<br />
　レミリアはフランの顔を見ていられなくなって、唐突に窓の外の物言わぬ月を見たくなった。紅茶を片手に窓辺に立つ。本当なら百年くらい友人でいてくれるパチュリーに愚痴を言いたいところだが、魔法使い友達のアリスが図書館にやってきているらしい。今はあらゆる四方山話をしているのだろう。由来が面白い菓子もくれたことだし邪魔はしないでおきたかった。<br />
　ふと窓から見える庭園の向こうに目が行く。庭園のまたその向こうに美鈴が佇んでいる。美鈴も妹同様に素直で、フランドールのもとに顔を見せに行こうとさえしない。忠実に紅魔館の門の前に立っている。そしてそのすぐ傍に常連の黒白魔女の姿が見えた。<br />
「チンピラがチンピラに話しかけてるわ。よく飽きもしないわね。」<br />
「チンピラ！　魔理沙のことっ。」<br />
　妹が椅子から立ち、姉のもとに駆け寄ってくる。チンピラと揶揄しただけで魔理沙と判断するし、もう一人のチンピラと言われた美鈴のことを気にしていない様子だった。<br />
「魔理沙！　おーい、魔理沙！」<br />
　距離からしてガラス越しだから聞こえないはずなのに、妹は無邪気に魔理沙に手を振っている。しかしチンピラはチンピラ特有の勘で美少女の歓声と自分に向けられた視線を察知したのか、箒に乗って窓の外まで迫ってきている。当然美鈴も門から屋敷に向かって走り出していた。自分のような主人を持ったチンピラではない、そこらへんの野良チンピラがお嬢様たち目掛けて突進している。<br />
　そしてフランドールは大きな窓を開け放った。<br />
「やあ。フランちゃん。ご機嫌麗しゅうだぜ。」<br />
　アリスが危惧したとおり、チンピラは他の可愛い女の子のところにやってきていた。その屋敷にアリスが訪れていることも知らずに。<br />
　しかし魔理沙は今夜は珍しく魔理沙なりに真面目だった。<br />
「レミリアお嬢も夜分遅くに失礼するぜ。是非ともこの館の住人に警告することがあってな。」<br />
　アリスがスルーした案件について、魔理沙は紅魔館の住人に対しても通告する。それは紫からの依頼だった。たぶん今回の奇妙な連中は紅魔館の主人たる吸血鬼にとって脅威になるかもしれないと。<br />
「紫が特にお前らは気を付けておけって言ってた。どっちにしたって外の人間にとっちゃこの幻想郷の人間以外は脅威や恐怖であると同時に、珍重な生き物なんだ。まあ、なんかあったときに霊夢に立会人になってもらう準備はしておけってことだ。相手は人間らしいから穏便に帰ってもらうのが最優先だし。」<br />
　昼間魔理沙が訪れたのはこれを伝えるためだったが、美鈴から話されたショッキングな案件でど忘れしてしまっていた。そのあとアリスのところでご休憩したあとに思い出したのだ。<br />
「そう。わかったわ。貴女からの好意ってことね。」<br />
　レミリアは魔理沙の伝言を直々に承った。部屋の外ではけたたましい足音が近づいてくる。<br />
「お嬢様！　&hellip;&hellip;あ。妹様。えっと&hellip;&hellip;」<br />
　妹様に会ってはいけないという言い付けがあるのにフランドールが同じ部屋の中にいる状況だったので、美鈴は狼狽して次にどういう行動をしていいのか分からなくなってしまった。<br />
「美鈴。今夜のこの目の前にいる侵入者は例外よ。あなたの迎撃対象には残念ながらならないわ。それとあの命令のことは今は気にしなくていいわよ。」<br />
　レミリアの言葉に畏まる美鈴だったが、表情はフランドールに久しぶりに会えたお蔭で嬉しそうで、目だけ姿を窺おうときょろきょろしている。<br />
　ところがフランドールときたら箒に乗った魔理沙に手を伸ばし、美鈴のことなど見えていないかのようだった。<br />
「魔理沙。魔理沙。降りてきてよ。紅茶もあるよ。咲夜にもう一つカップ用意してもらうね。」<br />
「あー。ご相伴さしてもらうかな。いいかお嬢？」<br />
「はあ&hellip;&hellip;。あのねえ、今ね、貴女のこわーい情人がこの館の図書館にいるの。さっき美鈴がばたばた走ってきたし、フランもはしゃいで咲夜まで呼んでるし。今頃貴女がここに来たことを察知して、この部屋に向かっているんじゃないかしら。ちなみにこのテーブルのお菓子、見覚えはあるわよね。私が貴女を追い払おうとして、そういう大嘘をついてるわけじゃないこと、わかるわよね？」<br />
「ははっ。はははっ。」<br />
　しかし魔理沙はすごすごと帰れない。だってフランドールが引き止めてるから。<br />
「魔理沙―。アリスくらい大丈夫だって！」<br />
&nbsp;<br />
「そう。アリスくらい大丈夫、なのね。」<br />
&nbsp;<br />
　アリスがゆっくりとレミリアの部屋に入ってくる。レミリアは最悪の事態になったと判断し、屋敷の主人としてどう収めようかと思案する。しかしフランドールはそんなことは露も考えなかった。<br />
「魔理沙はフランのこと好きだって言ったよね。アリスのことは魔法友達だって言ったもん。幻想郷の中じゃフランが一番可愛いって言ってくれたもん。」<br />
「じゃあ私は何？」<br />
　フランのセリフに魔理沙は全身が凍りついた。しかし誤魔化すような口は動いてくれた。<br />
「アリスは、幻想郷で一番、美人っ。」<br />
　フランドールは不満そうに魔理沙を見上げてくる。<br />
　レミリアからしたら退屈凌ぎの愛憎ドラマにだと呆れればいい。身内さえ関わっていなければ。<br />
　さっきから自分の身の置き場を見失っている自分のチンピラがぼーっと突っ立っている。ここまで息せき切って走ってきたのだから、ここでかっこよくあのどチンピラを追い返せばいいのにと思った。この場にいる自分の主人がそれを言いあぐねているのだから察してくれてもいいのにと。やっぱりチンピラの頭の程度はそれくらいだった。<br />
　フランドールはどっちつかずな態度の魔理沙のスカート掴んでいる。<br />
「魔理沙言ったよね。フランはおっきくなったらすっごい美人になるって。おっきくなったらキス以上のこともしようって。」<br />
　レミリアは心の中で突っ込む。キス以上のことをする日はずっと来ないわよと。だって自分たちは永遠に幼い風体なのだから。そしてアリスもフランドールの言葉に氷のように冷たい青い目をさらに凍えさせて魔理沙を見る。<br />
「キス以上のことはしていないってことは、キスはしているのかしら？　そのどう見てもあなたよりうんと幼く見える彼女に？」<br />
「あいさつのキスっていうのもあるしさ！」<br />
「えー魔理沙はいつも口にしてくれてるよ。こういうふうに。」<br />
　えいっとばかりにフランドールは飛び上がって魔理沙の膝によじ登り、魔理沙の唇にキスをした。<br />
　アリスは穏やかな笑みを浮かべた。そしてレミリアのほうに歩み寄る。<br />
「今夜はお暇させていただきますわ。夜分にこのような騒ぎを私の連れが起こしたこと、大変申し訳ありませんでした。」<br />
　レミリアも珍しく恐縮したようにスカートを摘まんでアリスに深々とお辞儀をした。<br />
「うちの妹も貴女の連れに大変な失礼をしたこと、こちらこそお詫び申し上げるわ。」<br />
　幻想郷の実力者同士が慇懃に弾幕も使わずに世間体塗れの挨拶を交わしている間、フランドールはまだ魔理沙に抱き着いていたし、美鈴はさっき目撃した衝撃シーンに衝撃通り越して変な恍惚感を覚えているようだし、魔理沙は自業自得だし、アリスからの申し出にレミリアは乗っかってしまうしかなかった。<br />
「じゃ&hellip;&hellip;じゃあ、ここにいるみんな全員で、マーガトロイドさんを見送りましょう。さあ霧雨さんもそんなところで浮いてないでさっさとこっちに降りてくる。フランもお客様がお帰りになるときには、ちゃんとご挨拶しましょうねって、いつも言ってるでしょ。美鈴、あなたは先に行って門を開けて待機してなさい。」<br />
　それぞれに指示を出したあと、レミリアはアリスと並んで長い廊下を何事もなかったように歩いて、屋敷を出た後も庭園を悠々と通り抜け、美鈴が先に待っている正面門まで案内した。<br />
「ほほほ。ここの当主様や御一同に見送られてこの館を出るのは初めてだわ。慣れた場所であっても驚くことはあるものね。」<br />
「今までが私が少し無精をしてただけよ。今まで構わなくて済まなかったわね。」<br />
「いいのよ。私も今まで当主の貴女に挨拶一つすらしていなかったから。それにしても無邪気な妹さんがいると気苦労が絶えないわよね。貴女も。」<br />
「妹は世間知らずなことで。貴女こそ奔放なご友人を持って苦労してるわよね。」<br />
「あら。それほどでも。」<br />
「そう。私もよ。」<br />
　女同士の苦労性側の当てこすりと強がりが交錯する会話を、後ろで何とも言えない気持ちで魔理沙と途中で合流した咲夜は聞いていた。<br />
「それでは皆様ごきげんよう。それで、魔理沙。」<br />
　魔理沙はびくっと背筋を正した。<br />
「用事が済んだらさっさと家に帰るんだったわよね。だったらさっさと家に帰りなさい。そして明日の晩は約束通り私の家に来るのよ。いいわね。絶対よ。」<br />
　フランドールは無邪気にアリスに問いかける。<br />
「明日の晩、あの人のとこに行くの？　晩におうちに行くってことはキス以上のことするんだね。わあ、すごい！」<br />
　アリスは振り向いて、フランドールの世間知らずさを確かめるように頷いた。<br />
「そうね。夜におうちに招くような関係なの。」<br />
　そしてアリスはトンっと一歩踏み出すと空に向かって駆け出した。そのまま空を飛んで帰っていった。<br />
「じゃ、じゃあ。私もアリスとの約束もあるし帰って寝るぜ。」<br />
　やけくそのように魔理沙は箒に跨り空を飛んで帰っていく。それをレミリアは見送った。<br />
「ふう&hellip;&hellip;。フラン。今日はもうお開きにしましょう。姉さまは少し疲れたわ。」<br />
「私も部屋に帰るね。美鈴、怪我治ったらまた遊ぼう。」<br />
「あ&hellip;&hellip;はい&hellip;&hellip;。」<br />
　咲夜はどうぞとばかりにフランドールについていく。目顔でレミリアに問いかけるが、レミリアは美鈴のほうに親指を指して咲夜とフランドールを先に行かせた。<br />
　二人の姿が見えなくなったあと、レミリアは衝動的に美鈴にごめんねと告げた。心からの謝罪とは言えないが、無性に謝らなくちゃいけない気分になっていた。<br />
「あんな妹で、ごめん。」<br />
「えー。ああ。いいです。私はあんな妹様でいいです。」<br />
「私が&hellip;&hellip;私の一族が寄ってたかって、あの子からあらゆる機会を奪ってしまって、あんなにしちゃった。」<br />
「そうなんですか。でもそれは、私には関係ないですし。私にとってはあの妹様だけですし。」<br />
　不幸なのか幸せなのか分からない女だった。この美鈴もあの妹同様、あらゆる機会を周囲から奪われた故なんだろう。だからこんなに頭が悪い。悲しいくらいに頭が悪い。<br />
「今度あの魔法使いが来て、黒白のほうね。あいつが来てフランにいらんちょっかい出したら遠慮なくミンチにして良いわよ。」<br />
「えっと&hellip;&hellip;それは、妹様がかなしまないですかね。」<br />
　この期に及んでチンピラ妖怪は主人の許しが出たというのに、自分のどうしようもない怒りや悲しみに無頓着だった。その怒りや悲しみもレミリアの当て推量だったが。<br />
「いいのよ。あの子だったらきっとその光景を見て笑って言うでしょうね。『あら魔理沙。何をぐちゃぐちゃのバラバラになってるの？』って。」<br />
「だったら私が死んだときも妹様にはそう言って笑って欲しいっす。そしたら私しあわせっす。」<br />
　狂った幸せにレミリアは涙が滲みそうになった。それでも妹も門番も見捨てられない自分を奮い立たせるしかなかった。<br />
]]></content:encoded>
    <dc:subject>text toho</dc:subject>
    <dc:date>2013-04-04T19:00:22+09:00</dc:date>
    <dc:creator>柴仲達</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>柴仲達</dc:rights>
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  <item rdf:about="http://ktkr.gjgd.net/text%20nin/%E2%98%86%E3%80%8C%E6%9D%B1%E6%96%B9%E7%90%B3%E9%88%B4%E5%93%80%E6%A5%BD%E8%AD%9A%E3%80%8D%E7%AC%AC%E4%B8%80%E8%A9%B1%E5%89%8D%E7%B7%A8%E3%80%80%E7%BE%8E%E3%83%95%E3%83%A9%E3%80%80">
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    <title>☆「東方琳鈴哀楽譚」第一話前編　美フラ　</title>
    <description>「恋符『マスタースパーク』！」
　魔理沙の宣言と共に発動した弾幕と光線が美鈴を襲う。美鈴はその弾幕を掻い潜り自らが攻撃態勢に出ると思いきや、弾幕の狭間で少し考え込んでいる。
「なんなんだよ。余裕かましてんじゃないぜ。」
　魔理沙は当然怒る。そして弾幕の隙間を移動する美鈴はどういうわけか自分のス...</description>
    <content:encoded><![CDATA[「恋符『マスタースパーク』！」<br />
　魔理沙の宣言と共に発動した弾幕と光線が美鈴を襲う。美鈴はその弾幕を掻い潜り自らが攻撃態勢に出ると思いきや、弾幕の狭間で少し考え込んでいる。<br />
「なんなんだよ。余裕かましてんじゃないぜ。」<br />
　魔理沙は当然怒る。そして弾幕の隙間を移動する美鈴はどういうわけか自分のスペルを宣言しようともしない。<br />
　あくまで魔理沙のトレーニングに付き合っているという体裁だからやる気がないのかこいつはと、魔理沙は美鈴が移動する先に向かってマスタースパークを撃っていた。<br />
「紅さんっ。本気出してくれなきゃ嫌なんだぜ。ノーショット耐久気取ってるんじゃないぜ。」<br />
　二人の足の下には地面がない。３６０度のバトルフィールド。魔理沙が紅魔館の門前に押しかけ、そこで業務を果たしているのか油を売っているのか分からない風情で立っていた美鈴を一方的にトレーニングの相手に選んだ。美鈴は妖怪にしては気のいいほうなのでほいほいと付き合ってくれた。が、美鈴は一度もスペルを宣言していない。<br />
「ほんとに頼むからスペル宣言してくれよ。」<br />
「私スペル苦手なんだけど。いいじゃないか今回は弾幕のコントロールの練習台で。」<br />
「いやだあ！　ちゃんとやってくれないとやだ！」<br />
「しょうがないなあ。」<br />
　妖怪相手に駄々をこねる人間の魔法使いに美鈴はそれでもあまり嫌な顔をしていない。本気でやろうが遊びでやろうが、美鈴の勝手だ。むしろ美鈴に本気の実力を見せて欲しいというなら、それはスペルカードルールでは叶わないことだ。そんなに怖い目が見たいのかなこいつと美鈴は拳に力を入れる。<br />
「そんなに頑張りたきゃ巫女さんに頼めば？　私なんて異変のときに一回あんたに負かされた相手だし。」<br />
「その巫女さんに勝ちたいから手の内見せるのが嫌なの！」<br />
「あのさあ、スペルカードルールに手の内ってないと思うんだけど。」<br />
「とにかく。あいつの知らないところで修行して強くなって負かしたいの！　ボーンといってバーンって。」<br />
「そうしたいなら、まず。」<br />
　美鈴は一気に距離を詰める。魔理沙は一方方向の弾幕を美鈴に照準を向ける暇なく、美鈴はマスタースパークの本体から明後日の方向に移動し続けている。<br />
「ちょっと待つんだぜ&hellip;&hellip;」<br />
　でかい口をきいていた割には豹変したように自分に接近してきた美鈴に魔理沙は狼狽えた。<br />
　スピードは半端ない。しかも魔理沙の死角に移動しているように見せかけて、その逆に抉りこむように魔理沙の目の前にいる。<br />
　魔理沙は地面に振り落とされた。箒があったので地面には激突はしなかったが、美鈴がスペルを宣言していれば確実に被弾していた。<br />
「うう&hellip;&hellip;」<br />
　美鈴は中空から魔理沙を見下ろしごめんねと笑って言った。地面に降りてくる美鈴を見ながら魔理沙は不満そうな顔を見せた。<br />
「そりゃないぜ。紅さんの馬鹿。」<br />
「どういたしまして。」<br />
　美鈴は馬鹿呼ばわりされたのに、露とも不快そうな顔もしない。というか一方的に熱くなっていた魔理沙にも分かるほど、別のことに気が取られているように屋敷にちらちらと視線を向けている。<br />
「どうしたのだぜ。用事があったんなら、事情を言ってくれれば無理に付き合ってくれとは言わなかったぜ。」<br />
「うん。そろそろお嬢様が指定してきた時間だなって思った。」<br />
「レミリアかフランになんか用事でも頼まれてるの？」<br />
　美鈴は口籠る。<br />
「頼まれごととは違うっぽい。魔法使い。落とし前って知ってる？」<br />
「責任取れってことだろ。お前管理職じゃないのに、ただの下っ端なのに始末書書かされるのか？」<br />
　美鈴は私文章書くの苦手だなと呟く。そして魔理沙に下っ端が上の者に逆らったらそれなりの行動で示して深謝するのが当たり前なんだよ、それを落とし前って言うんだよと当たり前のことを魔理沙に教えた。<br />
「紅さん。レミリアになんか逆らったわけ。」<br />
「逆らうことになっちゃうことをしたみたい。」<br />
「余計なお世話とか。」<br />
「ああ。確かにそれが近いかも。私馬鹿だから。」<br />
　馬鹿だから利口な者には思いつかないような愚行を犯す。でも本当は利口な者は馬鹿な者のやることはお見通しだ。だから結局馬鹿は反省しなければならない。反省しても馬鹿が直るわけではないが、そうしなければ利口な者に許してもらえないし、利口な者としても事の収拾がつかなくなってしまうのだ。<br />
「紅さん。始末書の文章が思い浮かばなかったら、ひたすらごめんなさい反省してます、もう二度とやりませんを千回繰り返しで書けばいいんだぜ。」<br />
「うん。参考にする。」<br />
　美鈴はそれじゃあと言って魔理沙に手を振って館に向かう。そして魔理沙の気配が後方で消えるのを待って自分の目の前にその手を翳してみる。<br />
「思い切って、五本かな。」<br />
　その手をグーパーグーパーしながら美鈴はなんでもないように主人のもとに行くのだった。<br />
&nbsp;<br />
<ul>
	<li>
		　　＊　　　＊</li>
</ul>
&nbsp;<br />
「来たわね」<br />
「来たわよ。」<br />
　十代の小娘の味気ない挨拶に永琳はさして口を挟まなかった。永琳は単に一年に一度あるかどうかわからない往診に来ただけなのだから。医者を呼びだすような事態になっているのだから、少し礼儀を欠いているくらいが、そんな怪我人だか病人のいる家人の態度としては相応しいだろう。<br />
八意永琳は紅魔館の主に呼ばれ、そしてメイド長の咲夜にとある地下の一室へ案内されている。<br />
永琳は急な怪我人だとしか聞かされていない。<br />
地下に案内された時は噂に聞く地下に閉じこもる館の主レミリアの気の触れた妹が患者なのかと予想するが、咲夜が言うには紅魔館にはフランドールを閉じ込めているのとは別の地下施設もあると永琳に告げた。<br />
「なんで怪我人を地下に？」<br />
　永琳の問いに咲夜は顔色一つ変えずに答える。<br />
「その者の負傷はここで懲罰を受けてのことだったから。わざわざ移動させるより、その場で治療を受けさせるほうが早いわよね。」<br />
　よくよく考えれば合理的に聞こえるかもしれないが矛盾している。この館の主は冷酷なのか温情主義なのか分かったもんじゃない。しかしその主人の塩梅が咲夜のような優秀過ぎるくらい完璧な従者を生むかもしれないと永琳は考えていた。<br />
「それよりも、今日は門にいなかったわね。意外とこの館に馴染んでいる中華妖怪。」<br />
　咲夜は永琳に微笑んでから重苦しい金属製の扉を開ける。<br />
「美鈴のことかしら。彼女は今日はここに。」<br />
　永琳は扉の向こうの妖怪を見て納得した。<br />
　本来ならほぼ二十四時間体制で門前で待機しているはずの妖怪が、簡素な木の椅子に座って右手を左手で覆って眉間に皺を寄せていた。　<br />
右腕には血が幾本も歪んだ曲線を描いて、肘からぽたりぽたりと机に滴り落としていた。机の上には血のついた刃物。片手で扱える大きさだが指なら容易く切り落とせそうな重量感と無骨さを主張していた。<br />
　<br />
「美鈴。医者を呼んだわ。」<br />
「わざわざすみません。自業自得で指を切り落とすことになっちゃいましたから、これから先この右手と付き合わなくちゃいけないかと思いました。」<br />
　軽薄そうに紅美鈴は笑って言う。咲夜は呆れたように溜息を洩らした。<br />
「貴女もなんだかんだで、お嬢様に買われてるんだから。少しは自覚なさい。」<br />
　咲夜は失礼と永琳に一礼する。<br />
「それではお願いします。」<br />
　永琳は肩を竦めて咲夜の横を通り抜けて部屋に入った。<br />
&nbsp;<br />
&nbsp;<br />
　永琳は黙々と美鈴の治療に入る。<br />
「怪我は右手ね。見せて。」<br />
　美鈴は永琳に対してやりにくそうに右手を差出す。その右手には指が一本も残ってなかった。机の上には刃物とは別に金属のバッドが置かれており、その中に適切に扱われた指が五本入っていた。<br />
「左利きなの？」<br />
「最初にその質問が出てくるのか。いや違うよ。基本は右利きの両利きだ。」<br />
「お嬢様か、あのメイドにやられたの？」<br />
「うんにゃ。自分でやった。」<br />
「五本とも？」<br />
「そう。」<br />
　永琳は顔色一つ変えない。美鈴もへらへら笑いながら永琳の治療を受けている。<br />
「この館の中って見た目とは裏腹に任侠な世界なのね。」<br />
　指を詰めて落とし前とはなんと古風でありきたりな罰なのだろうと永琳はそれを口にはしなかった。<br />
「躊躇いなくやったわね。何をやらかしたの？」<br />
　美鈴はえへへと口に出して誤魔化そうとした。<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
　しかし永琳は別の話題を振ったりしないし、美鈴も永琳というインテリな医者が乗ってくれるような話題が思いつかない。話題も狭い上に他者と共にいての沈黙が耐えられない美鈴は、五分もしない内に自分からゲロする羽目になった。<br />
「門番の仕事サボって妹様とデートをした落とし前に、こうなっちゃいました。」<br />
「そう。」<br />
「昨日夏祭りがあって。」<br />
「人里のね。」<br />
「お嬢様も咲夜さんをお供にそこに行っていたので、あの二人と鉢合わせしなきゃ大丈夫かと思ったのですが。うん。私の考えが甘いとしか言いようがないわ。」<br />
「サボタージュくらいのことであの主人は指を詰めさせるの？」<br />
　永琳は薄々事情を理解しながらわざと的外れなことを言う。<br />
「いやいや。私のサボりは問題じゃないんだ。」<br />
　頭の程度が低い上に美鈴は口が軽かった。だから勢い余ってとレミリアの弁解のつもりで簡単に口を滑らせる。<br />
「サボりと指はほぼ関係ない。妹様を連れ出したことの責任なんだ。私はお嬢様に反発するつもりはないけど、妹様&hellip;&hellip;フラン様も可愛くて仕方ないんだ。」<br />
　わかるかなと言うように美鈴は小首を傾げている。目の前にいるインテリにする話にしてはかなり次元が低くて具体的ではない。永琳はそれを理解する為に想像力を駆使してなんとか頷いた。<br />
「昨日はフラン様の精神状態も良さそうだったから、せっかくのお祭りだしと思って。」<br />
　美鈴は縫合の痛みを感じていないように笑う。永琳の頷きが合意を得られたのだと信じて。<br />
「お嬢様も鉢合わせた時には何も言わず妹様と祭りを楽しんでたんだ。妹様の舌がかき氷のシロップで緑になったのを見せびらかした時なんか優しげで。祭りが終ったあとも博麗神社や魔理沙の家に寄り道してみたりして。」<br />
「帰ってきたら、あなたはここで指を詰めろと言われた。」<br />
「鉢合わせした時には何らかの罰があることは覚悟はしてた。」<br />
　場違いなくらいに耳心地のいい声が永琳の耳に入る。<br />
「やけに誇らしげね。」<br />
　永琳は怪訝そうな顔をする。<br />
「私のようなしがない門番妖怪が、地下に閉じ込められた令嬢を連れ出してしまうなんて、とんでもない暴挙でしょ。しかもそれを妹様は喜んでくれた。」<br />
　美鈴は目を細めて自分の所業に酔いしれている。永琳の中で小さく糸が千切れる音がする。<br />
「あなたのその勝手な行動のせいで、あなたの主人は妹様とやらの姉としての顔が丸潰れね。」<br />
　美鈴は陶酔感に水を差す永琳の言い方にしゅんと猫背になった。このインテリな医者にとって、やってはいけないことをしたことについて、その結果喜ぶ誰かがいたという結果は言い訳にならないらしい。<br />
永琳は美鈴の反応に構わず言葉を続ける。<br />
「妹様とやらは聞く話によればかなり精神が不安定だそうね。それでも吸血鬼とはいえ見た目も中身も可愛らしい女の子なのは、あなたの言葉から察しはつく。少しでも親身になったら外に連れ出したくもなるかもしれないわね。でも物凄く身勝手だわ。」<br />
　本来なら美鈴の主人たるレミリアが既に、またはこれからするであろう説教を、永琳はしようとしている。<br />
永琳は医者としてここに来ている。医者は閻魔と並ぶくらいに説教をする生き物だ。それでも美鈴への小言は美鈴はともかく、レミリア他紅魔館の住人にとっては余計なお世話でしかない。しかも説教の内容は患者の不養生という名のメンテナンスの怠りではなく、他所の組織の自分とは関係ない構成員の勤務態度についてなのだ。<br />
それでも永琳は己の立場を知りながら、美鈴しかここにはいないことをいいことに喋る。<br />
「スカーレット家の当主だからって姉自らが妹を地下に閉じ込め続けているわけでしょう？　ここで暮らしているあなたなら、その事情を承知しているはず。」<br />
「その事情は&hellip;&hellip;私がここにお世話になる最初の日に教えられた。」<br />
　美鈴も最初から門前に置かれっぱなしだったわけではない。使用人の研修の名のもとに、屋敷全体を案内されたことはある。<br />
&nbsp;<br />
地下室にいる気の触れた妹様の話を聞かされたとき、思わずレミリアの前で「可哀そう」と呟いてしまった。その後にレミリアは美鈴に対面させたのだった。たまたまその日、気が触れていたフランドールに。<br />
&nbsp;<br />
　上の空になりつつあった美鈴の意識をこちらに向けさせる為に、永琳は机を乱暴に叩いた。美鈴は授業中の居眠りをたたき起こされた子供のように身体を跳ねさせ「わっ」と声を上げた。<br />
「そう。それほど妹様とやらの幽閉はこの館にとって大事なことだった。門番で地下室に縁のない仕事のあなたに説明するほどにはね。」<br />
　永琳は美鈴の指を縫い合わせていた手を止め、その手の甲を叩く。美鈴はびくっと身体を震わせて「ひっ」と短い悲鳴を零す。<br />
「あなたがその妹様を夏祭りに連れて行くことで、妹様を閉じ込めている意義がぶれてしまった。姉が妹を幽閉するという、特別な理由があってもなかなか許されない構図にひびが入る。その妹様が少しでも頭が回って姉に反抗心がある場合、今回のことを理由にして、レミリアに幽閉状態を解除することを要求するかもしれない。そうなったとき、あなたはこの件からして自動的に妹様の味方になってしまうわ。」<br />
　美鈴はおろおろと意味もなく左右を交互に見た。<br />
　レミリアとフランドールという姉妹。美鈴は彼女らが永琳の言うように争う光景が想像出来ない。<br />
「あのう&hellip;&hellip;。それマジで言ってるんですか？　私は遊びに連れて行っただけですって。そんなことでお嬢様と妹様が敵対するなんてありえないって。」<br />
　永琳は実際の住人の言葉に耳を貸さず自分の推測を推す。<br />
「あり得るからこそ言ったのよ。そんな覚悟もなくて、考えなしにそんなことをしたの？」<br />
　美鈴は永琳が指を全て繋げるまで永琳から離れられない。部外者にされる説教は苦痛でしかないが、いいがかりとは言えないくらい筋が通っているものだから聞くしかない。<br />
「さっきの言葉からして、連れ出したのはあなたの短慮ってことかもしれない。私はこの館の事情については噂でしか知らないから。問題はここから。あなたは妹様の喜んだ顔が見られて嬉しかったと言ったけれど、本当に喜ぶ顔が見られただけで気が済んだのかしら？」<br />
　永琳の言葉は泥のついた靴で家に踏み込むより失礼極まりなかったし、医者の焼くべき世話の範疇を飛び越え過ぎている。<br />
&nbsp;<br />
「私が妹様になにか見返りを求めていたと言いたいのか？」<br />
&nbsp;<br />
　美鈴のした質問返しが「部外者のお前が何故そこまで紅魔館のことに干渉する？」なら、永琳にこれ以上言いたい放題言われなかったのかもしれない。しかし美鈴はそこまでは頭が回らず口に出てしまった。<br />
　その理由は簡単である。永琳の言ったことが真実だったからだ。<br />
　永琳は美鈴の指を縫いわせながら、美鈴から曖昧ではっきりしない何かを感じ取って、不愉快なものを見る目で美鈴に語りかける。美鈴は首を横に向けようとするが、横に向けた途端何されるか想像してしまうためか永琳から視線を外せない。<br />
「あなたは妹様のことを可愛いと言ったし、自分のしたことが暴挙だとも言った。妹様の立場からしたら、あなたは姉の目を盗んで外に連れ出してくれた王子様にでも見えるかもしれないわね。」<br />
「王子様だなんて、そんないいもんじゃないから。」<br />
「あなたがどういうつもりだろうが、状況がそう思わせる。そしてもし、レミリアに見つからなかった場合、あなたと妹様はずっと二人きり。妹様は外に出ることがなかったから、あなたにエスコートされるままでしかない。人通りのない所に誘導しようが妹様は何も疑うことはない。」<br />
　美鈴は口が滑るままに言葉を発することしか出来ない。<br />
「何が言いたいんでしょうかねえ。それじゃまるで誘拐犯じゃないですか。」<br />
「あなたが妹様に外に連れ出した見返りなり、お礼を要求する可能性があったということ。そもそも、姉の方は夏祭りに出掛るつもりだったし、見つかっても妹をすぐに連れて帰らなかったわけだから、今日は妹様の状態もよろしいですし一緒に出掛けられてはどうでしょうか、と提案するべきだった。なんで敢えて指を切り落とすかもしれないリスクを負ってまで、喜ぶ顔が見たいというささやかな動機で、主人の目を盗んで出掛ける必要があったのかしら？」<br />
　美鈴は自分で記憶を辿っても、レミリアに何かを言おうという頭はなかった。当時の自分は誰にも相談することなく独断専行でフランドールを夏祭りに連れて行くことで頭がいっぱいだった。<br />
「私頭が回りませんから。咲夜さんじゃあるまいし。」<br />
　インテリな医者は美鈴にも少しでも回る頭があると信じて疑わない。目の前にいる美鈴レベルの足りない頭は存在しないと決めてかかっている。それが美鈴には苦痛だった。<br />
　それでも美鈴は自分の頭の足りなさ加減を「頭が足りない」と馬鹿正直に申告することでしか主張出来ない。しかしそれをインテリは努力不足と決めつける。<br />
「咲夜さんの話はしてないわよ。咲夜さんは妹様のことに気が回ってないわけでしょ。咲夜なんかより、あなたのほうが余程妹様とやらのことを見ていたってことでしょ。」<br />
　永琳は美鈴の申告を切り捨てた。<br />
　美鈴は思い出していた。永琳の説教と尋問に耐えられなくなった脳が、楽しかったことの回想に逃亡しようとしているのだ。<br />
　夏祭りだから知り合いの協力者に頼んで浴衣を用意して貰って、それにフランドールを着替えさせた。真っ白い胸は膨らみはないが、なだらかで美しい曲線を描いていて、浴衣に隠されてしまうのが惜しいような、そうであるのが良いような、どっちつかずな気分にさせられた。<br />
フランドールが美鈴と手を繋いで歩いている様は、まるで盲人が先導する者の行先をそのまま信じているみたいで、その信頼が純粋に嬉しかった。だけどそれを裏切ってしまいたい衝動も否定出来ない。<br />
レミリアに秘密にしなければフランは夏祭りに行けなかった。それは今の顛末を知らなかった当時の美鈴にとっては事実だった。しかし主人に秘密に出来ればなんでも出来ると思うのが美鈴だった。<br />
「このっ」<br />
永琳は再び机を力いっぱい叩いた。自分の言葉に言い訳がましい言葉を律儀に吐いていたと思いきや、突然口を半開きにして言葉を聞き流し始めた美鈴の一貫性の無さ加減に怒りが隠せない。<br />
　永琳は最後の指を縫いつけ終り、包帯を巻いていく。もう紅魔館と永遠亭の括りが関係ない本音が喉に競りあがって我慢ならなくなってきた。<br />
「私は輝夜の従者。」<br />
　永琳は美鈴を凝視する。それは誰もが勢い余って謝り倒したくなるくらいの迫力を宿していた。先ほどまでの説教の内容を本気で理解して、それが自分にとって的外れでなければ、その場限りであっても「ごめんなさい」を言ってしまうのが当たり前である。<br />
しかし美鈴は「ごめんなさい。」という言葉一つすら頭に掠めずに、首のあたりを引っ掻いていた。<br />
&nbsp;<br />
「あなたみたいな何を考えてるか分からない、あなたみたいに何をしでかすか分からない部下は、絶対に輝夜の傍に置いておけないわ。」<br />
&nbsp;<br />
&nbsp;<br />
「あなたのお姫様の傍に置いておけなくても、私は美鈴を私の館の門前に置くだけよ。」<br />
&nbsp;<br />
　咲夜に扉を開けられてレミリアが部屋に入る。レミリアは腕組みをしながら永琳と美鈴を交互に見る。<br />
「仕事熱心なお医者様で従者ね。他所の家の使用人の教育にまで口を出すなんて。でも残念ね。こっちにはこっちのやり方があるし、あなたの言うことは正しいのかもしれないけど、あなたのこの屋敷についての理解は不十分過ぎるわ。」<br />
　レミリアは後ろにいる咲夜に振り返る。<br />
「咲夜は本当に完璧で優秀な子。だけどこの歳の人間にしては完璧過ぎるから心配になっちゃって、時々咲夜のペースを意地悪して崩したくなっちゃうわ。」<br />
　咲夜は何も言わず礼をする。<br />
レミリアは今度は美鈴の後ろに歩み寄り両肩に優しく手を掛けた。美鈴はレミリアの手に視線を向けたあと、瞬きをしながら後ろにいるレミリアを見ようとした。<br />
「美鈴は大事な鉄砲玉。すこぶる強いけど目の前のことにすぐ夢中になって周りが見えなくなっちゃうことがあるの。」<br />
　永琳はレミリアを一瞥して言う。<br />
&nbsp;<br />
「差し出がましいことを言って失礼したわ。」<br />
&nbsp;<br />
　そして美鈴に薬を手渡す。美鈴はどうもと言いながら会釈をする。自分に説教をしてきた相手に対しているにしては、それは気安くて無造作な仕草だった。<br />
「化膿止めと痛み止めの薬を出しておくから。化膿止めは毎食後、痛み止めは頓服で飲むこと。妖怪だから指を切り落としても抜糸までに時間は掛からないと思う。だけど、なるべく右手は水に濡らさないこと。」<br />
「美鈴はメイドじゃないから、用心するのはお風呂のときくらいね。」<br />
　レミリアの言葉を他所に永琳は道具を全て鞄に仕舞い込む。<br />
「咲夜。八意医師を永遠亭までお送りしなさい。」<br />
　咲夜はレミリアに言われると永琳の傍に行き「お荷物お持ちしましょうか？」と尋ねてきた。永琳はそれを断って咲夜を伴って部屋から出た。<br />
　永琳と咲夜の足音が聞こえなくなったところで、レミリアは美鈴に向かって口を開く。<br />
「言いたい放題言われたわね。」<br />
「はい&hellip;&hellip;。少しは言い返そうとも思ったんですけど。私は学がありませんから。」<br />
　レミリアが庇ってくれなかったら、永琳のパーフェクト従者教室はいつまでも続いていたのかもしれない。<br />
「言い返さなくてもいいのよ。よそ者の言葉で本気で反省しないでね。反省なら私の目の前で指を切り落とした時にしたはずなんだから。あと、ああいう時は何も喋らず顔と身振りだけ神妙にして受け流すこと。ああいうオバサンは相手が何か喋る度に口答えと取ってエスカレートするんだから。」<br />
「はい。今度から気を付けます。レミリアお嬢様。それで&hellip;&hellip;」<br />
「何？」<br />
「妹様をまた外に連れ出すときはどうしましょうか？」<br />
「ん？　そうねえ。」<br />
　美鈴の問いにレミリアは何故かあくどい笑みを浮かべる。<br />
「連れ出さないことは前提だけど、まあ次の機会までに考えておくわ。それまでは勝手な外出をさせたりしたら駄目。美鈴。仕事に戻りなさい。」<br />
　レミリアは美鈴を手招きして一緒に部屋を出る。廊下を歩いて階段に差し掛かったところで、思い出したようにレミリアは「あ」と声を漏らした。<br />
「あと、抜糸するまではフランに会っちゃ駄目よ。折角の楽しい思い出に水を差すわけにはいかないんだから。」<br />
　美鈴はわずかに目を丸くして立ちすくんだ。レミリアは首を傾げる。<br />
「当たり前でしょ？　連れ出してくれた美鈴がお姉さまの罰で指を切り落としたなんて、そんな惨い後日談をあの子に教えられるわけないじゃない。」<br />
「わかりました。」<br />
　美鈴は再びへらへらと笑ってレミリアの命令を了承した。レミリアはくすっと笑って「当たり前じゃない。あなたはフランの従者でしょ。」と美鈴の胸を小突いた。<br />
　美鈴は縫い合わせられた自分の右手を見た。指と手を繋いでいる糸が取れたらまたフランドールに会える。その日が楽しみだと単純に美鈴は思った。<br />
&nbsp;<br />
<ul>
	<li>
		　　＊　　　＊</li>
</ul>
&nbsp;<br />
　紅魔館は主人が吸血鬼故に昼夜逆転営業である。咲夜はレミリアが寝ている間に屋敷の諸管理に追われている。<br />
　門番で鉄砲玉の美鈴は暇人で、昼間に通りかかる周辺住民と交流するのが常だった。<br />
そして今日も美鈴は魔理沙と門前に座って与太話をしていた。<br />
「うわあ。私が家に帰ったあと、そうなってたのかよ。始末書じゃ済まなかったのかよ。」<br />
　美鈴の右手首を握って魔理沙は糸で繋がれた指をじっくり観察していた。<br />
「抜糸は長く掛かって二週間後だってさ。」<br />
　口の軽い美鈴は目を覆いたくなるような右手を隠しもせず、簡単に回る口で魔理沙にことの顛末を話している。魔理沙は「うわあ」だの「ひゃあ」だの相槌代わりに声を出して驚いているような素振りを見せていた。<br />
「五本ってレミリアもよく要求出来たもんだよな。」<br />
「んー？　五本って指定はされなかったような。だけど、切る本数は多いに越したことないかなって。」<br />
「なら十本いっちまえよ。」<br />
「だって左手の指を切る右手の指がないんだからしょうがないさ。」<br />
　魔理沙の悪趣味な冗談にさえも美鈴はへらへらと笑っている。魔理沙は美鈴の返答に閉口した。<br />
「フランには暫く会えないのか。&hellip;&hellip;踏んだり蹴ったりもいいとこだな。」<br />
「指が治れば会えるから私は気にしてない。」<br />
　門番妖怪は開き直りとも取れることを明るく言った。<br />
「いや&hellip;&hellip;踏んだり蹴ったりは、紅さんじゃなくて」<br />
　魔理沙は口籠る。美鈴が首を傾げて眉間を掻いている姿を横目に魔理沙はぶつぶつと呟いている。<br />
「言いたいことがあればはっきり言え。」<br />
　魔理沙は美鈴の要求に答えない。<br />
「他所ん家のことだし&hellip;&hellip;今回は言わない。」<br />
　そうかと言って美鈴は意味深な魔理沙の言葉を気にしないことにした。そしてまた軽い口を滑らせる。<br />
「お嬢様はわざわざ永遠亭の永琳を呼んで、私の指を縫い合わせてくれたわけだけど」<br />
「さっきすっごく怒られたって言ってたよな。」<br />
　美鈴は空を見上げながら永琳とのことを思い出した。永琳のあの怒りようだったら、治療を途中で投げ出されてもおかしくなかった。美鈴は永琳にそのような態度を取られてもしょうがないと思うだけだ。<br />
　何せ美鈴にとって自分の指というのは――。<br />
「私の指。もし腐り落ちたとしても、また生えてきそうな気がするんだよね。&hellip;&hellip;あいてっ。」<br />
　魔理沙は美鈴の頭を叩いた。<br />
「紅さん。医者ほど怒ると怖いもんはないんだぜ。紅さん治療中にそんなこと言ってるから、永琳に怒られるんだぜ。」<br />
「治療中には言ってないよ。ただ昔を思い出したら、この指を繋ぎ合わさなくても良かったのかもって思っただけ。」<br />
「昔？」<br />
　魔理沙は怪訝そうな声音で語尾を上げた。そう、昔、と美鈴は魔理沙に言う。世間話のようにお手軽な話題として。<br />
「私はこの館の使用人歴は実は短いんだ。人間の咲夜さんがそろそろ十年になるのに対して、私はまだ五年くらいしかここにいないんだ。」<br />
「紅さん幾つだよ。そんななりでメディスンのような生後数年の妖怪なわけないだろ。」<br />
　美鈴は湖の水平線を見据える。<br />
「私は外の世界にいたんだ。」<br />
　美鈴が思い出すのは過去のこと。外の世界の中国にまだ皇帝が幻想ならぬ現実に存在していた頃のことだった。<br />
　広大な敷地の優雅な建物と庭園。それは全て皇帝の持ち物。そこに住まう人間も人間でありながら王の持ち物だった。<br />
　妖怪である美鈴も皇帝の持ち物としてそこに長く住んでいた。<br />
「そこの国の皇帝や権力者は誰の時代であろうが奥さんが多くて三千人くらいいて、奥さんたちを集めて生活させる場所に、私は妖怪の身でありながら彼女たちの世話係をしていた。」<br />
　魔理沙は途方もない人数に息を飲んだ。<br />
「三千人って&hellip;&hellip;。幻想郷の人間の女を全員集めてやっとじゃないのか？　下は三歳から上は九十歳までとか。」<br />
「ところが若い娘ばっかりだったよ。」<br />
　それぞれの個性が失われてしまう勢いの美女たちの群れ。美鈴はそのひとりひとりの名前を覚えられるはずもない。ただ一部の不憫な「彼女」を除いて。<br />
「うはうはだな。その男は。」<br />
　魔理沙の率直な感想から美鈴はおぼろげな記憶が鮮明になる。魔理沙が口にした言葉こそ美鈴が「彼女」を鮮明に覚えられた理由に直結するからだ。<br />
「うはうはだったと思うよ。だけど彼らは大抵、そのうはうはの大人数を持て余していた。」<br />
　一日交代で可愛がるとしても十年近くたって、やっと一周するという人数だ。それに妖怪も人間も異性に対して好みというものがある。やはり一部の一握りにだけ、皇帝の愛が注がれてしまう構図は避けられない。<br />
「初めての一回だけしか皇帝といちゃいちゃ出来なかった子なんてざらにいた。その一回で子ども&hellip;&hellip;男の子が出来てたら幸運な方かな。」<br />
　美鈴は人間の小娘にするべき話かどうかあまり迷わなかった。魔理沙は美鈴の話す異常な状況に目を逸らせなくなっている。<br />
「皇帝にいまいち好かれなかったからって、彼女たちはじゃあ他所の男にしようか、なんて出来なかった。皇帝の名ばかりの妻として死ぬまで後宮にいることが運命づけられていた。」<br />
「その代わりにある程度贅沢な生活は補償されてたんだろうな。だけどあまりいい話じゃないや。」<br />
「そう。彼女たちはあまり幸せそうじゃなかった。」<br />
　美鈴は遠い日に恋した不遇な娘たちとフランドールの姿を重ねていた。<br />
「いつも綺麗な服を着て、美味しいものを食べて、暇つぶしに困らないくらいの本や音楽に恵まれていても、彼女たちは寂しかったんだ。彼女たちは皇帝の花嫁になるくらいだから、そりゃあ綺麗で可愛くて。だけど皇帝の好みとはちょっと食い違ったから夢見てた生活が実現しなくて。いつのまにか、ほんのちょっとの差で、他の女が皇帝に気に入られて子ども生んで幸せになっている。私はそんな彼女たちに惹かれて世話を焼いていたんだ。私は妖怪だけど女だから、私を気に入ってくれる娘も時々いた。私は彼女たちの慰みになれるのが嬉しかった。」<br />
　魔理沙は美鈴の話を聞いて、話を聞いている分には「泣かせるな」と思った。しかし素直に共感して泣くには引っかかることがある。<br />
「あのさ。それと指が腐っても大丈夫って話と繋がらないぜ。」<br />
　美鈴はごめんと手を合わせる。<br />
「前置きが長くなった。」<br />
「前置きだって思ってないぜ。」<br />
　美鈴は続きを話し始める。<br />
「彼女たちの心の隙間は、ただの与太話じゃ埋められる程度の浅いものじゃなかったんだ。だけど私は学がないから。そんで流れでその娘にエッチなことして慰めるような関係になっちゃった。私としちゃあ、&hellip;&hellip;あはは。」<br />
「おいおい。健気な話だと思った私の内心の涙を返せ。」<br />
「しょっちゅう着替えとか手伝って裸も見てるし、触れたらいいなあって考えてたら、その願いが叶っちゃったんだ。彼女も気持ちよさそうだったし。だけどほとんど相手にされてなかったとはいえ、彼女は皇帝の妻なんだ。どんな人妻よりも触れてはいけない存在だった。そんで罰を受けた。」<br />
「やっぱり指を詰めろって？」<br />
　美鈴はゆるゆると首を横に振った。<br />
「数人がかりで押さえつけられて、歯を全部抜かれた。」<br />
　魔理沙は愕然としてどんな顔をしていいか分からなかった。自分もチンピラみたいなものだから痛い目にはかなりあってきた方だが、まだ歯がしっかりくっついている歯茎がむずむずして仕方ない。<br />
「すげえな。それ。」<br />
「あの時は今回のように医者を呼んでくれなかった。だけどしっかりまた生えてきた。」<br />
「サメかよ！　つーか、紅さんの歯って実は乳歯だったんか！」<br />
　魔理沙は重たい話の軽いところをやっと見つけてツッコミに成功した。そうでもしないと美鈴の普段二割増しの真面目な話に音を上げそうだった。<br />
「だからねえ。また指が生えてくるんじゃないかって思ったのよ。」<br />
「そうかそうか。既に外の世界で前科があったわけか。そんで、その娘は大丈夫だったのか？　妖怪のあんたがそんな目にあったなら、その娘だって無事じゃ済まないだろ。そいつが浮気したってことは事実なんだから。」<br />
「いや。その娘は無事だった。」<br />
　美鈴は穏やかな笑顔を魔理沙に見せつける。<br />
「そのことは全部、私のせいになったから。」<br />
「おい！　&hellip;&hellip;どういうことだ？」<br />
　魔理沙の激昂具合に首を傾げながら美鈴は答える。<br />
「だから。私が彼女を襲って無理やりってことで収まった。」<br />
「あーあー。そういうことか。あんたは妖怪だから責任を全て吹っかけてもいいって思われたんだな。」<br />
　魔理沙は頭では理解しても止められない憤慨を持て余していた。<br />
世の中はそういうことばかりだと知っていても、そういうことに阿ることで生きていく身だとしても、友人がそういうことの犠牲になっていたと聞かされて平然としていられるほど達観していなかった。<br />
　美鈴が昇華してへらへら笑えるようになったことについて、魔理沙は共感の真似事をして怒るしか思いつかなかった。<br />
　しかし美鈴の思い出話に、魔理沙が覚えたような怒りの色は見えない。それどころか、何か危ない薬で強制的に齎された恍惚感に酔っているようだった。<br />
「私は思いがけない良い思いをしたからね。罰が当たったのさ。歯を抜かれるより辛かったことがある。その次の日から彼女のとこに訪ねても姿を見せてくれなかったし、口も利いて貰えなくなったしね。」<br />
　魔理沙はまた嫌な現実を理解してしまった。全てを美鈴の責任にした女は、二度と美鈴と親しくしないことで、周囲に対して自分はあくまで責任がないことだと主張したのだろう。女は皇帝にこそ愛されなかったが、わずかな恩恵である後宮での恵まれた生活を守った。<br />
「だけどね。魔理沙。私が訪ねる度に彼女の居室の前には一輪の赤い花がいつでも落ちてた。」<br />
　魔理沙は背中が痒くて仕方がない。<br />
　どうしてそう捻くれて、漫然としていたら気づかないような自己主張をするのだろうか。それだけでこの愚直な妖怪に許しを乞えるなんて世の中狂っていると魔理沙は悶えている。そして一番魔理沙を悶えさせているのは、人間のよくわからん気紛れに振り回されながらも、たった一輪の花に夢を見ていた妖怪だった。<br />
「私としちゃあ、良かったとは思う。彼女の一生のほんの一部でしかないけど彼女の寂しさを解せて、いざとなったら庇えたんだから。だけど未練なのかな？」<br />
　美鈴は後宮の娘とフランの姿を二重写しでだぶらせる。<br />
美しくて。可愛くて。健気で純粋で。無防備な。一生閉じ込められる籠の鳥。<br />
「可哀そうなフラン様が可愛くて仕方なかった。彼女と同じように。」<br />
　魔理沙は一気に疲れたように脱力した。<br />
「そこでフラン重ねるなよ。」<br />
　魔理沙は立ち上がって「帰る」と一言言った。<br />
「ん？　図書館には寄らないのか？」<br />
「泥棒を招き入れるようなこと言うな。気が変わったんだよ。アリスんとこ行く。」<br />
「あっそう。じゃあ。」<br />
「またな。」<br />
&nbsp;<br />
　魔理沙は数歩進んだところで美鈴に手を振った。美鈴は左手を振る。なんだかんだで右手は動かすと痛いらしい。<br />
&nbsp;<br />
　魔理沙は今日は無性に歩きたかった。特に昼間農作業している人間が見えるあぜ道を。<br />
「よっ。魔理沙ちゃん。」<br />
「おー。精が出るな。」<br />
　腰を屈めた娘が伸びをして魔理沙に声をかけた。<br />
「箒で飛ばないなんて珍しい。どしたの？」<br />
「いや。時々歩かないと自分が人間だって忘れそうだし。」<br />
「ところでお父さんとは仲直りしないの？」<br />
「するかよ、そんなもん。」<br />
　折角お嬢様な生まれなのに勿体ないと娘はわざとらしく大声で言う。農民として生まれた女だからしょうがないと魔理沙はいつも受け流している。<br />
「じゃあ、森近さんと結婚するの？」<br />
「あいつの方から断られる気がする。私もあいつとそういうことになるつもりないし。さっき妖怪の友達から遠い国の不幸な結婚話も聞いたから、そういう気にしばらくはならないな。」<br />
「実家にも頼らない、結婚もしないって。あんた本格的に魔女になるつもりもしばらくはなさそうだし。歳取ったらどうするの？」<br />
　初心そうな見た目に反しておばさん臭いことを言う娘だった。地に足が着いた生活をしているからこそ、そういうことが言えるのかもしれない。<br />
　魔理沙にとって幼馴染と言えるこの娘は、とっくの昔に睦みあう男が出来ていたことを魔理沙は思い出す。娘は魔理沙が言い返してくる前に自分から魔理沙に告げた。<br />
「私もぼちぼち結婚するし。今魔法使いにならないなら、婚礼までに本当の意味の魔法使いにならないでよ。頭の固い親もいる手前、魔女にお祝いに来てもらうわけにはいかないんだから。」<br />
「それは私が決める。そして私は祝いには行かない。婚礼のご馳走を食べに行くんだ。」<br />
　まったくと娘は肩を竦める。魔理沙に対する悪意も善意も知ったことではないという態度だった。<br />
またねと娘は手を振る。魔理沙に背を向けて作業のために腰を屈めた娘のスカートから覗く白い脹脛に魔理沙はにやける。くそうと娘の婿に嫉妬しながらあの白い脹脛より上の部分を見せてもらえる男は果報だなと思った。魔理沙は少し癒されていた。健全なスケベ心も補充出来たので馴染の可愛い魔女の顔が脳裏に浮かぶ。<br />
　紅魔館だの永遠亭だの白玉楼だのの上流社会の連中や、その他妖怪やら世捨て人ばかりと交流を深めてばかりいると、普通の感覚を忘れてしまう。<br />
魔理沙は妖怪の形成する世界が好きだが、長く居すぎると息が詰まる。それは妖怪の友達に告白はしないが、時々普通の人間みたいに地べたを歩いて、普通の人間と話をして、自分の中の普通の人間の部分を補ってしまう。<br />
「だから私は魔法使いになれないのか。」<br />
　面倒な性分だと自分に辟易しながら、足は自然とアリスの家に向かっていた。<br />
&nbsp;<br />
&nbsp;<br />
　足元が泥だらけの娘は川で足を洗おうとした。川に足を付けたところで動きが止まる。<br />
　小高い丘の上にローブを身にまとった、自分とは似ても似つかない金髪の青い目の、自分の婿より遥かに背の高い男たちが座っていた。<br />
　男たちはどこともなく指を差して談笑しているように見える。その中の一人が娘に気が付いて川辺に降りてきた。<br />
　娘はひっと小さな悲鳴を上げ川の中を後ずさる。金髪の人間なんて魔理沙くらいしか知らないし、その魔理沙だって妖怪の側に少し片足を突っ込んでいる。寧ろ金髪なんて妖怪のほうが多いくらいだ。<br />
　男は娘の怯えた反応に困りながら遠慮がちな笑顔を作った。<br />
「お嬢サン。町へ行くニハどうすればいいのデスか？」<br />
　耳に違和感を覚える日本語だった。娘は男のおどおどとした態度に気が抜けたように返す。<br />
「町って？　里のことですか？　それならここからもう少し北のほうです。」<br />
「アリガトウ。ワタシたちここ来ルノ初めてダカラ。」<br />
　娘はもしかしてこの男たちは迷って幻想入りしてしまったのかと心配になる。見知らぬ他人だが、幻想郷にいるが外の世界にはいない妖怪を知らない男達が食われてしまうのは忍びない。<br />
「あのっ。ここって妖怪がいて、人間を食べたりするんです。里は結構すぐにありますから、里に着いたらすぐに里の人に博麗神社まで案内してもらって、そこにいる巫女さんを頼ってください。」<br />
　娘の心配そうな声に男は微笑みを見せると、男は娘の頭を撫でた。<br />
「アナタ優しいデスね。いざとナレバ博麗神社。覚えておきマス。」<br />
「いざとかそんなんじゃなくて、里に着いたらすぐですってば！」<br />
　娘の危惧を他所に男は仲間のもとに戻っていく。男は登っていく途中でこけた。それを仲間たちが笑っている。<br />
「町はここからすぐ北だそうだ。」<br />
　男は片言な日本語から西洋の自分の国の言葉に切り替えた。<br />
「北は&hellip;&hellip;ああ。あの水田に囲まれたとこか。」<br />
「夕方を待たずに行けそうだが、道を尋ねたあの子の様子からして、幻想郷は外来の人間に慣れてなさそうだ。宿という物があるか、ちと不安だな。」<br />
「まあ、人里も娘が教えた一か所とは限らないし。」<br />
　男たちはトランクを引きずりながら丘を降りて行く。ところが先頭にいた男が倒れて、そこからドミノ倒しのように規則正しく男たちはこけていった。<br />
&nbsp;<br />
<br />
<br />
「とうほうりんりんあいらくたん」と読みます。美鈴と永琳主体です。後編に続く。]]></content:encoded>
    <dc:subject>text nin</dc:subject>
    <dc:date>2013-04-04T18:58:08+09:00</dc:date>
    <dc:creator>柴仲達</dc:creator>
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    <title>ポケモンデイズ　エピソードＮアダルトサイド第二話「七つの大罪を二倍くらいに増やせる男と太陽の冠を戴く男」R18 主♂Ｎ</title>
    <description>　サンヨウシティ。
　ポケモントレーナーの初心者の大部分が最初に挑戦するジムのある街。
　トウヤの手元にはボールが三つ。一つはミジュマル。一つはチョロネコ。もう一つはバオップだった。
　バオップは夢の跡地の近くにいた親切というかお節介焼きの女性から、押し付けられるように譲られたポケモンだった。...</description>
    <content:encoded><![CDATA[　<font style="font-size: x-small;">サンヨウシティ。<br />
　ポケモントレーナーの初心者の大部分が最初に挑戦するジムのある街。<br />
　トウヤの手元にはボールが三つ。一つはミジュマル。一つはチョロネコ。もう一つはバオップだった。<br />
　バオップは夢の跡地の近くにいた親切というかお節介焼きの女性から、押し付けられるように譲られたポケモンだった。<br />
　今はポケモンたちをボールから出して公園で遊ばせていた。見るからにミジュマルとバオップはすぐ仲良しになった。水と炎で相性が悪いはずなのに、トウヤの胸がほっこりするほどほのぼのと遊んでいる。チョロネコはひなたぼっこをしながら欠伸をしていた。とんだぐーたらだった。<br />
「どうしようかな。」<br />
　トウヤにとって今のところのパーティの予定では、単悪のチョロネコと同じく、炎ポケモンを入れるつもりもなかった。ミジュマルにしろチョロネコにしろ、打撃系の技に弱いポケモンの組み合わせになった上、バオップもたいして耐久力には期待できそうにない。しかしミジュマルが物理系の攻撃を次々に覚えてくれたのでパーティの攻撃力は申し分ない。なのにチョロネコはいつまでたっても如何せん、はっきり言えば使えない。性格が災いしているのか大器晩成なのか、即戦力になっていないのが現状だった。<br />
　トウヤの頭を悩ますのはこの町のジムの特異な性質もあった。最初に選んだポケモンの苦手タイプを使う三つ子のうちの一人が対戦相手になるのだ。だからミジュマルの攻撃力の高い技でごり押すのも難しいと予想出来る。控えのポケモンが頼りになるのが一番だが、チョロネコは期待できない。ならば新しく入ったバオップを当てにするしかない。<br />
「まあいいか。」<br />
　大人特有の割りきりでトウヤは考えを打ち切った。そして三匹に声をかける。<br />
「お前たち今から特訓だよ。とにかく相手のジムのポケモンよりレベルが高ければ高いほど、力押しで勝てると思うんだ。」<br />
　ポケモン達はワンマン上司から厳しいノルマを押し付けられた新人会社員のような動揺はしていたが、ある意味覚悟を決めた顔でトウヤを見上げた。<br />
「大丈夫だよ。君たちならやれる。ねえ、チョロネコ。」<br />
　チョロネコはうんうんと頷いている。でもそれはただの形だけなのはトウヤもわかっている。伊達に会社員時代に毎年現れる新人社員を見てきたわけじゃない。時々いるのだ。どうしてこいつが面接で受かったんだというタイプの人間が。<br />
　しかし今回はトウヤが自分の私情で彼女を採用したのだから仕方ない。とにかくパーティのレベルを上げ、彼女にはそれに倣ってついてきて貰わなければならない。しかし大変なのは彼女ではない。お荷物な後輩や先輩を持つ、ミジュマルやバオップなのだ。<br />
だがここを凌げれば鍛え癖や勝負強さが身について弾みになるはずだ。上級のポケモンに引っ張られたならダメネコだって、並みにはなるはずだ。トウヤの元企業の九割くらいの使えない子達も一年以内には形にはなった。あとの駄目なままの一割は彼女ではないはずだ。<br />
「ミジュマル。君はチームのリーダーだからね。頑張ろうね。バオップ、ミジュマルとチョロネコを助けてあげようね。」<br />
　子どものやる気を引き出す。自分はどんな保父さんかと呆れてしまうが、やる気を出した子どもを見るのは気分がいい。ただやはりチョロネコは本心から頑張ろうとは思っていないんだろうなと伝わってくる。とりあえず、ミジュマル達が彼女がやる気のないことを悟って失望しないようにフォローするしかない。<br />
&nbsp;<br />
「&hellip;&hellip;」<br />
　はあとトウヤは溜息をつく。<br />
　案の定先頭にチョロネコをセットして野性のポケモンに特訓をしてみたが、彼女はすぐに戦闘不能になってしまい、それを引き継いだミジュマルとバオップのレベルは着々と上がっていった。<br />
仕方がないのでミジュマルとバオップで削った野性のポケモンをチョロネコに倒させ、なんとか経験値の体裁を整えた。それでも有効な技をチョロネコは覚えなかった。本当に旅をかなり進めてからやっと使えるようになるのかなと、希望と絶望が混じりあった気持ちになった。<br />
　Ｎに最悪呼ばわりされたトウヤだったが、ポケモンに対する義務感から現れる愛情は人一倍だった。義務と言えば言葉は悪いが、自分が出来る限りのことをしてやろうという意志は誰よりも強固だ。しかも感情的になることなく、自分の苛立ちやストレスの原因をけしてポケモンに転嫁して八つ当たりしない。これも自分に課したトウヤの信念だった。<br />
「うん。きっとチェレンも同じ苦労をしてるよね。だって彼のパーティにもチョロネコはいるから。」<br />
　中を開けてみれば、そんな立派な義務感も好きな子に対する同化願望から発生する信念だった。それこそがトウヤの人格の唯一残念なところだった。<br />
　優秀でありながらスイーツ。冷徹でありながらドリーマー。瀟洒でありながらデレデレ。<br />
　もしかしたらチョロネコのぐーたらは、彼のそんな残念な人格を見破っているからかもしれない。<br />
　とにかく努力することも工夫することもたいして苦にならないし、それに使役する労力も少なくて済むのが、この童顔の三十代の強みだった。チョロネコごときお荷物はトウヤにとっては屁でもなかった。<br />
&nbsp;<br />
　そこでトウヤは自分を見つめる誰かの視線に気づいた。ポケモン達を速やかに呼び寄せボールに避難させる。<br />
「あー。やっぱり。しっかり監視されてるんだな。」<br />
　これから展開される物語が終ったあとに自らの存在を著しく消していたＮだったが、今物語が動いている内は、その存在をトウヤにしっかり主張していたのであった。Ｎが直接姿を見せなくても、そこいらの野性のポケモンの目はすなわちＮの目の代わりになっている。全部のポケモンの目がそうだとは言わないが、三匹に一匹はＮからのスパイと考えたほうが変に疑心暗鬼にならずに済む。<br />
「本当に律儀というか真面目というか。」<br />
「それ誰のこと？」<br />
　後ろから声を掛けられる。スパイを寄越しているくせにわざわざＮはトウヤに近づいてくるのだ。トウヤは仕方なさそうに振り向くとそこにはお昼の高く上った太陽を逆光にしてシルエットのようになった姿のＮが憮然と立っていた。頭のところに太陽があるせいで王冠を戴いているような風情さえある。トウヤはその感覚を錯覚だと一人で決めつけた。<br />
　Ｎはすっと腰を屈めると現実的な姿になってトウヤの真ん前で視線を合わせてきた。<br />
「トモダチが教えてくれたから。ちょっと顔を見に来た。」<br />
　ぶっきらぼうというか、半ば刺々しい口調でＮは告げる。<br />
「へえ。君からの差し金じゃないんだ。」<br />
　皮肉気に言うとＮは言い返してくる。<br />
「嫌いな奴を見張ってくれなんて、大事なトモダチに頼むことじゃないだろ。考えてみなくてもわかるだろ。」<br />
「でも君の考えを察して君に僕のことを教えてくれるトモダチはいるわけなんだよね。それで君はトモダチの好意を無下に出来ずにわざわざ嫌いな奴に会いに来てくれたんだ。」<br />
　Ｎはトウヤの言葉に噛みついてくると思いきや、俯いて別にと呟く。<br />
「彼らから悪い話は聞かなかったから。それと、あのとき僕が君に最悪だって言ったこと、よく考えれば言い過ぎだったと思う。いや、君の動機が不純で釈然としないっていうのは変わらないけど、でもあまりにも君とチェレンの個人的な関係に入れ込み過ぎていたようにも思う。君とチェレンの関係にも納得してないけど。だけど」<br />
「いいんだよ。自分でもあんまり内容的に綺麗じゃなくて、君のような初対面の相手にずけずけ話すようなことじゃないとは少し反省したよ。」<br />
　しかし普通なら呆れはしても聞き流す程度の話だったとトウヤは思っている。もし少ない可能性でキレられたとしても、そこから二度と顔を見ないという選択肢を取られてしまうのが普通じゃないだろうか。だがＮはポケモン達からの情報を整理して再びトウヤまで辿りついて、今こうして早口で、でもでもだってを織り交ぜながらも不器用に謝ってきた。ここは大人としては上手い具合に切り上げるのが定石だった。<br />
「それはそうと、あのとき君はなんで夜にふらふらと歩いていたわけ？」<br />
「え？」<br />
　Ｎはふいを突かれたように顔を上げてトウヤの問いへの回答に迷っていた。トウヤの悪い癖だった。切り上げなければならない場面で、またどつぼに嵌りそうなことを言ってしまう。無意識的ではなく意識的に。<br />
「え、えっと&hellip;&hellip;」<br />
「あら。そんなに言いにくいことだったかな。」<br />
　Ｎという青年は嘘をつけないどころか誤魔化すことすら出来ないようだ。そして物凄く言いにくそうにしていたが、あの時の行動の理由をトウヤに告げた。<br />
「僕と、一つ部屋に泊まって性交してくれる相手を探してたんだ。」<br />
　二人の間にしばしの沈黙が流れた。<br />
「Ｎ。ちょっとそこで腰を据えて話そうか。」<br />
　トウヤはＮを手招きしながら服を引っ張って近くの木陰に座らせた。大人としての教育的指導モードにトウヤは入る。<br />
「うん。君が変な嘘をつかなくて良かったとは思っている。だけど正直に言ってくれたとしても、はいそうですかって納得できることじゃないからね。」<br />
「えー。でもポケモンだって発情すれば交尾するだろ？」<br />
「ポケモンと人間は違います。」<br />
「一緒だよ。」<br />
「違います！」<br />
　Ｎは納得できないように眉間に皺を寄せている。それでもトウヤの言葉の響きに少し怯えていた。<br />
「だって人間も性交するくせに。ポケモンには抑制剤を使用して、ポケモンの生理を歪めてるじゃないか。」<br />
「君には理性がないのかい？　本能や感情だけじゃないだろう。君はかなり理性的を装った感情的な人間なんだろうけど。」<br />
「え？　なんだい僕は君にお説教されているのか？　君と歳はあまり変わらないのに。というか君のほうが年下だろ。」<br />
　そんな勘違いはトウヤにとって想定内もいいところだった。自分の見た目は確かにＮより幼いのかもしれないが、あらゆることがそれが間違いだと証明してくれる。<br />
「Ｎ。君はいくつだい？」<br />
「確か、十八。」<br />
「はっ。」<br />
　トウヤは大人気取りの未成年の発言を笑い飛ばす。<br />
「生憎だが僕はね、君より十二は年上なんだよ。それに最近まで結婚もしてた。もう失効されてるけど、この保険証が証拠だよ。」<br />
　トウヤが突きつけたカードにＮは目を丸くした。トウヤは保険証とトウヤを見比べるＮに溜息をついた。<br />
「僕は君より大人だし、ちゃんと家庭も持ってて規制された枠内でセックスをしてきた。今までね。人間は確かに他人から薬で性欲をコントロールされてないのかもしれない。だけどね。人間はね、薬を使わずにあらゆる決まり事と理性を使ってで性欲をコントロールしなきゃいけない生き物なんだよ。薬とどっちが強制的なのかは横に置いておくとして、それなりに人間もきつい制限は受けているんだ。」<br />
「う、うん&hellip;&hellip;」<br />
　わかってくれたんだなとトウヤは肩を竦めた。<br />
「で、君はどれだけの女の子を相手してきたんだい？　そしてなんのためかな？」<br />
　Ｎは違うと大声で叫んだ。<br />
「お、女の子とは交渉はしてない。僕が交渉したのは男ばっかりだった。」<br />
「男ばっかり誘ってたわけだね。なんか経済的に困っていることでもあったのかい。だけどそういうのは金輪際やめるべきだよ。」<br />
「お金なんて取ってないよ。」<br />
「そうかい。それなら良かった。君は十八だからもう相手が捕まる歳じゃないけど。君は全く危なっかしいな。ホントに。」<br />
　トウヤは明らかに苛立ってカリカリしている。Ｎには規制内のセックスをしていたと言っていたが、トウヤは結婚してから本当にベルとはセックスレスだったし、あの田舎町の風俗店に入ろうものならある意味井戸端会議の話のネタになってしまう。よっぽど遠方の出張に単独で行かない限り、トウヤはセックスとはほぼ無縁の生活を送っていた。<br />
「Ｎ。これ以上大人を呆れさせないでくれ。」<br />
　過去の禁欲的な十年間の鬱憤も相まって、トウヤはＮに少しきつく言った。Ｎはトウヤの言い様に完全にしょぼくれてしまっている。ただでさえハイライトの存在しない目が暗くなる。<br />
「だけどマスターベーションじゃあんまり気持ちよくないんだ。だからセックスしようとして男と交渉してみたんだけど、うまくいかないんだ。」<br />
「君はどういう基準で男を選んでるんだ。」<br />
　Ｎの口調からしてセックスが上手くいかないというのは、どうやら行為を重ねても快感を得られないことではなく、セックスという目的そのものが完遂出来ていないような響きがある。互いにセックス目当てで近づいたのに上手くいかない理由がトウヤには分からない。<br />
「トモダチに優しい男がいると、そういう人に惹かれちゃうんだ。それで僕から声をかけて了承を得るわけなんだけど。僕に挿入行為をする前にちょっと話をするだろ。その時に僕が失望して怒ってしまって結局セックスそのものが台無しになったのが一人目。あとポケモンが好きすぎて奥さんとのセックスがうまくいかなくなって離婚したっていう話を聞かされて、勿論僕とも上手くいかなかったのが二人目。あと、ポケモンの世話が忙しすぎて疲れからＥＤになっちゃったのが三人目。それから――。」<br />
「わかったよ！　君に男を見る目がないんだろっ。ポケモン基準に男選ぶんだからそうなるわけだろ。二人目で気づけよ。」<br />
「ごめんなさい&hellip;&hellip;。」<br />
　たった一言のあの夜の回想から思いついた質問が、とんでもないＮのブラックボックスを開けてしまったようだ。トウヤは頭がくらくらしていた。<br />
「つまり君はセックス自体はしたことないってことだね。まあ不幸中の幸いだよ。」<br />
「よくないよ。僕は気持ちいいセックスをしたいんだ。」<br />
「君の男のタイプってアレだよね。ポケモンに優しい一択だよね。」<br />
　トウヤは考え込む。ある意味ではＮは被害者かもしれない。しかしかなり加害者の側面が強い被害者だ。手当たり次第ポケモンに優しい男たちが、この青年の言葉に踊らされて要らない恥を掻くのは忍びない。絶対この先もＮは失敗し続けると踏んだトウヤは、自分でも禁断だと思う決断をした。<br />
「Ｎ。僕はポケモンに優しい男かな？」<br />
「ミジュマルを選んだ動機以外は、優しいと思う。トモダチも保証してくれた。」<br />
　トウヤはＮに手を伸ばす。触れたとき少し震えたＮの指先の緊張した振動に目を瞑った。<br />
「一度ちゃんとしたセックスすれば気が済むって言うなら、僕が相手になってもいい。ただし僕には君じゃない好きな子がいて、僕はその子に操を立てているし、君もこれから先きっとちゃんと好きな人が出来ると思う。だから互いに回数には入れずに、一回だけ。」<br />
　Ｎは戸惑っていた。自分がはた迷惑な奴だという自覚さえなかった人間だとトウヤに知られたのに、トウヤはそのはた迷惑を請け負おうとしてくれている。それは有難いことだけど、素直に首を縦に振れない。<br />
「だって僕はチェレンとは、全然見た目からして似てないし。トウヤに僕は酷いこと言ったし、呆れられるようなことしてきたわけだし。」<br />
　トウヤはＮを引き寄せて耳元で囁いた。<br />
「セックスしたくて気が狂いそうになる気持ちは僕にも経験があるからね。それで君は相手を選ぶのがとことん下手くそで、今まで他人に迷惑をかけてきたんだろ。聞かされたからには、それを見過ごせないだけだよ。」<br />
「大丈夫なの。僕で。」<br />
　トウヤはまだ日が高いうちなのに、Ｎを再び引っ張って町に入っていく。<br />
「まず薬局に行って買わなくちゃいけないものがある。」<br />
「それって&hellip;&hellip;。あの、避妊具とかそんな感じのもの？」<br />
「使用目的は違うけど、それもある。」<br />
「そ、そうなんだ。」<br />
　性交の為の準備を整えなければという四角四面なトウヤの態度に、Ｎは性欲に浮かされた頭とは裏腹に少し怖気づいた。<br />
「君は初めてだからね。そのままじゃたぶん挿入無理。」<br />
「え、え？」<br />
「痛い思いしたくないよね。気持ちよくなりたいんだよね。」<br />
　今までの失敗談とは違う展開にＮは大事になったと慌ててしまう。<br />
「そ、そういうところには&hellip;&hellip;そういうの置いてあった気がするんだけど。」<br />
「新品を買ったほうが確実だし、基本ああいうところは男女で来ることを想定しているから、男同士だと足りないくらいなんだ。」<br />
「あ。そういう&hellip;&hellip;。そうなんだ。」<br />
　トウヤはＮに待っててと店の前で手を翳してＮを止めた。<br />
Ｎは買い物中のご主人を待つリードで繋がれたヨーテリーの横で待つことにした。モンスターボールではないとはいえ、リードで繋がれたヨーテリーもなんとなく拘束されているように見えて痛々しい気分になる。<br />
「君。首輪されて繋がれてつらくない？」<br />
　Ｎはヨーテリーに話しかけた。ヨーテリーはきょとんとしていた。<br />
「いや。ごめん。ネガティブなこと訊いて。君はすごく幸せそうに見えるよ。」<br />
　Ｎはぎこちないながらも笑顔を作った。<br />
「ご主人はちゃんと買い物して帰ってくるから。そうなんだ。」<br />
　ちゃんと帰ってきてくれると分かっているから辛くない。Ｎはそういう気持ちをヨーテリーと共有出来るのかと首を捻る。そして手持ちぶさたから、もとは結婚していたというトウヤの過去をなんとなく想像してみた。<br />
「駄目だ。やっぱり想像出来ない。」<br />
　普通の家庭で育っていないＮには、夫婦という概念すらない。ただ男女が番って生活している感覚だ。知識で言えばある種の契約だというのは理解している。契約を無効にするのに離婚という新たな契約をするのも知っている。だけどＮがすれ違ってきた二人組の男女を見ても、そういう契約の縛られた堅苦しさは全く感じなかった。<br />
　自分とは異質だがなんだか、羨ましく思えるようなこそばゆさを感じた。そして自分を説教してきたトウヤのことを思い返す。まるで知識だけで詰め込んできた父親のイメージそのものだった。そして自分はあのとき、確かに叱られている子どもだった。<br />
「あれ？　でも、子どもにセックスしようなんていう父親いるのかな？　それこそトウヤの言う規制された枠を超えてるよね。ゲーチスだって僕にセックスしようなんて一度も言ってこなかったし。じゃあ、トウヤにとって僕は何のつもりであんなこと言ったんだろ？」<br />
　Ｎはまた分からなくなる。そして素直にトウヤについてきた自分も。<br />
「ごめん。遅くなった。」<br />
　物思いに耽っているとトウヤは店から出てきた。隣にいたヨーテリーはもうとっくにいなくなっていた。結構時間が経っていたのだとＮは気づく。<br />
「店員の説明を聞いていたから遅くなったんだ。ごめんね。」<br />
「トウヤ。普通そういうものはさっと指差してさっと買ってさっと店から出るもんなんじゃない？」<br />
　トウヤはむっとしたようにＮにぐちぐち言い始める。<br />
「ほんとにこの子はそういうことばかりは分かったような口を利くんだから。」<br />
「僕だって感覚的に分かるものは分かるよ。」<br />
「君の為に最善を尽くそうとする僕に、そういう言いぐさはないと思うよ。」<br />
「&hellip;&hellip;ごめんなさい&hellip;&hellip;」<br />
「君の為にこの店で恥ずかしい思いをしてきた僕にいうべき言葉とはそぐうようで、少し違うよ。」<br />
「な、なんて言えば&hellip;&hellip;」<br />
「せめて、ありがとうだろ。あとお疲れ様とか。」<br />
　それもなんか違うと思いながらも、この瀟洒な男が薬局で店員の説明を長々と質問を交えながら聞いていた事実を労うのに、この男が要求してきたのなら、その言葉こそが順当だとも思える。たぶん他に客もいただろうから、本当に恥ずかしい思いもしたんだろう。根が真面目な男だというのはトモダチから多く聞かされているから、その真面目さを精一杯自分に傾けてくれたのは分かる。<br />
　だからＮはトウヤに伝える。<br />
「お疲れ様。ありがとう。」<br />
　Ｎはトウヤに要求された通りにしか言葉を言えなかったが、その二言には全てを注ぎ込んだ。<br />
「じゃあ、行こうか。」<br />
「うん。」<br />
　これからの目的とは裏腹にＮはとても温かいものを胸にトウヤの後ろについて行く。<br />
「トウヤはやけに男同士の性行為について詳しいし慎重だけど」<br />
「だけど、なんだい？」<br />
　Ｎは言おうか言うまいか迷ったが口に自然と出てしまった。<br />
「それって、チェレンのため？」<br />
「本当の予定ならそうなってたね。」<br />
　トウヤは自分の目の前にある空を見上げて、Ｎを振り向かない。<br />
「だからってチェレンを気にして、あらゆる意味で困った君になんとかしてやらないのも何か違うんじゃないか？」<br />
　その理屈はよく分からない。Ｎはまた質問を重ねる。<br />
「だったら、僕の知ってる君ならもっと上手いこと別の方法を使って誤魔化せたと思う。そもそも君自身が僕と性交渉しなくても、君がこれだという人を紹介してくれるっていう手もあったと思う。」<br />
「さっきのチェレンへの慮りもそうだけど、君は頭が回りすぎるのが欠点なんだ。だから男とも上手くいかない。だからそれをちゃんと理解している僕が最適なんだ。他の人を紹介して、その人に君がどういう人物かを説明しても、君はきっと僕が紹介した相手だとしても上手くいかない。」<br />
「上手く、いかない&hellip;&hellip;」<br />
　なんだか悲しいことを言われたような気がする。だけど何人も失敗してきたのだ。たぶん相手よりもＮ自身の過失が大きいことも今のＮには少し理解出来ていた。<br />
「だけど君が僕と上手くいくの？」<br />
「さあ？」<br />
　本当に真面目なのか不真面目なのかわからない。トウヤの足が向いたところには、Ｎの言うそんな目的のための建物が見えてきた。<br />
&nbsp;</font><br />
<ul>
	<li>
		<font style="font-size: x-small;">　　＊　　　＊</font></li>
</ul>
<font style="font-size: x-small;">&nbsp;<br />
　草原の中を一人の十八歳の女子が歩く。髪はポニーテールに結い上げ帽子を被り、服装も近頃の女子らしく露出度が高く活発そうだ。<br />
　しかし彼女ことトウコは一歩前に進むたび地面を食い入るように見ていた。<br />
「ちいさなきのこ、みっけ。」<br />
　彼女はほくほくとそれを袋に入れる。傍で歩いていたエンブオーは彼女の頭をぽんぽんと叩いた。彼女はかれこれ二時間くらいこうして地面を見て換金出来そうなものを探しているので、そろそろ休憩を入れたらどうかと提案しているようだ。<br />
「えー？　きんのたままだ見つかってないよ。きんのたま見つけないと心もとないし。ごめん。もう少しきんのたま探させて&hellip;&hellip;あうっ。」<br />
　年頃の娘がきんのたまを連呼するのを見かねてエンブオーは無理矢理にトウコを木陰に連れて行く。エンブオーはトウコを座らせてモモンのみをトウコに押し付けた。<br />
「食べろって？　勿体ないってば。毒消しにも使えるのに。」<br />
　エンブオーは首を横に振り、トウコの口にきのみを押し付ける。ポケモン馬鹿の癖にトレーナーとして食っていけるほど強くもない自分のトレーナーは、かつかつの財布を見ては食事を疎かにする。それなのにポケモンの分のごはんはきっちりしようとするもんだから、始末におけない。<br />
　トウコの年齢と実力を鑑みれば、世間ではそろそろトレーナーの辞め時である。もう七年以上もトレーナーをしているのに目立った功績を上げられていないからだ。それに女の子なら結婚している人間もちらほら見え始めてる。<br />
　エンブオーもなんだかんだとポケモンの身で考えるのだが、なんだかんだでこうやって駄目トレーナーについて行っている。<br />
「エンブオー。エンブオーさえいればハチクさんには勝てるよね。」<br />
「ブオ。」<br />
　そう。本当なら勝てるはずなんだ。それでも負けてしまうのがトウコなんだとエンブオーは言えなかった。<br />
　旅に出た最初、トウコはどんな子どもより期待された女の子だった。町一番の才媛だと言われ、ポカブだったころのエンブオーはいいトレーナーに巡り合えて良かったねと研究所の大人に笑顔で言われた。<br />
　しかしトウコはポケモンに熱中し入れ込むことで、才媛だった自分をあっというまにやめてしまった。ただの馬鹿になってしまった。なぜ勝てないのかをエンブオーが理解したのは、ライブキャスターごしにトウコをサポートし、ポカブに向かってトウコ指して言っていた大人の「サイエン」という言葉を漢字の「才媛」と理解し、意味を悟ったと同時だった。<br />
　才媛だったトウコのことをポカブだったエンブオーは最初、怖いと思った記憶がある。それがいつしか怖くなくなっていき呆れるようになった理由は、単なる慣れだと思っていた。だけど実はトウコが自ら才媛の自分をやめたということに気付いたのはつい最近だ。人間の言葉を使えるなら、どうして才媛をやめたのか、是非問うてみたい。<br />
　たぶん、才媛だったころのトウコに戻れたなら、きっとバトルだって勝てる。お金にも困らないし、お腹を空かせてこんな地面を這いずりまわるような生活を送らなくて済む。<br />
　今の生活でエンブオーが辛いのではない。トウコが一番辛いだろうからだ。<br />
　もしポカブだったエンブオーが才媛だったトウコを怖がっていたことを知ってトウコが才媛をやめてしまったのなら、エンブオーはとにかく謝りたい。だから無理して嫌われないためだけに馬鹿を続けなくてもいいんだよと伝えたい。みんなから褒め称えられた彼女に戻って欲しいわけじゃない。馬鹿を一生懸命続ける彼女といるのはなんだかんだで楽しい。だけどそのきっかけが拙かったころの自分のせいなら痛々しくて耐えられない。<br />
　エンブオーはそれを伝えようと鳴き声を連呼するのだが、トウコはにこにこと笑いながら「お腹すいたー」とまた地面を食い入るようにきんのたまを探すのだった。<br />
　エンブオーはポケモンの神様に祈るような気持だった。この状況をなんとか変えて下さいと。<br />
&nbsp;<br />
「あれ。トウコちゃん。」<br />
&nbsp;<br />
　ふいに声を掛けられてトウコは硬直する。自分の素性を知っている人間が今目の前に現れた。それはトウコにとって色々と都合が悪く複雑だった。<br />
「だ、誰かな？」<br />
「トウコちゃん。従兄のお嫁さんをわすれちゃ駄目でしょ。」<br />
「従兄のお嫁さんって、ひょっとしてベルちゃん？」<br />
　トウコの目の前にエンブオーが知らない人間が知り合いとして立っている。エンブオーも思わず近づいて人間の真似事みたいにお辞儀をした。<br />
「あら。立派なエンブオー。すごいわトウコちゃん。こんな立派なエンブオー、そうそう他にはいないんじゃない？　かなり大きいし、初対面の人間に自分から挨拶するくらいに賢いし。顔もハンサムさんだわ。」<br />
「え？　え？　そうかな。それほどでも、あるけど。」<br />
　満更ではないトウコはトレーナーにあるまじきポケモンの前でのデレ顔を晒した。<br />
「それはそうとトウコちゃん。」<br />
「いやそれはそうとと言えば、ベルちゃん。なんでこんなとこに？」<br />
　ベルはじゃーんと言ってポケモン図鑑をトウコに見せびらかした。<br />
「え？　なんで？　どうして？」<br />
　トウコにとっては晴天の霹靂だった。従兄の嫁と言えば自分にとっては親戚である。その親戚筋の女にこんな旅の彼方で出会うとは思わなかったし、まさかその親戚のかなりの年上の女がポケモン図鑑を携えて旅をしている途中だなんてさらに思えなかった。<br />
「トウコちゃん。私、トウヤと離婚して旅に出ることになったの。」<br />
「えー！　あんな優秀で将来有望なサラリーマンのトウヤ兄と離婚しちゃったの！　もったいない！」<br />
　昔は自分も優秀で将来有望じゃなかったのかとエンブオーはトウコにつっこみたい。<br />
「いやトウヤもサラリーマンやめてトレーナーになってるから。」<br />
「トウヤ兄が！」<br />
　ドロップアウトが定番なのかこの一族はとエンブオーは感慨深かった。ベルは続ける。<br />
「それでね、さっき言いかけたことなんだけどね。旅に出るとき、トウコちゃんのお父さんやお母さんや他の家族や親戚の人たちが、トウヤの家に一斉に押しかけてね、連絡の取れないトウコちゃんを見つけ出して実家に一旦連れ戻してって頼みにきたんだよ。で、トウヤはそれを了承したわけ。」<br />
「私のライブキャスター&hellip;&hellip;。電池切れして久しいから。」<br />
「そうだね。だけど年単位はやりすぎだよ。」<br />
「お、お金がなくて。」<br />
　ベルはカノコタウンにもうっすらと聞こえてきたトウコのトレーナーとしての評判は本当だったのかと肩を竦めた。<br />
「トウコちゃん。やっぱり家に帰るべきじゃない？　私も言える立場じゃないだろうけど、実家には一旦帰ろうよ。トウヤにも迷惑かけちゃわないうちにさ。」<br />
　トウコはごそごそと靴ひもを結び直し、荷物を手繰り寄せてエンブオーの手を引っ張る。<br />
「こら、逃げない！」<br />
　ベルはトウコにタックルしてトウコを転ばせた。<br />
「いやあ！　逃がしてえ！　見逃してえ！」<br />
「私が連れて帰るわけじゃないから。実家に閉じ込められるのが嫌だって気持ちは私にも分かるから。」<br />
　トウコはとりあえずじたばたするのはやめた。<br />
「私、ほんとにポケモンが好きだから。そりゃあ、へぼで目が出ない万年駄目トレーナーだってことは分かってるけど、でもそれでもポケモンが好きだから！」<br />
　涙目で語るトウコに、そんなんだから家族がこぞってトウヤに連れ戻せって頼みに来るんだろうと、ベルは呆れ果てていた。<br />
「うん。だけどね、連れ戻さなかったらね、トウヤがねえ、まあいっか。トウヤね、もし私が先に出会って連れ戻せなかったらの為にね、準備してくれたものがあるんだよ。」<br />
「トウヤ兄が？」<br />
「トウヤがポケモンバトルで稼いだものなんだけどね。」<br />
　ベルがはいとバッグから出した巾着袋をトウコに渡す。トウコはものすごい勢いで結び目を解いて中を見た。<br />
「な、なにこれっ。トウヤ兄こんなに稼いだわけ！　すごい。すごいよ。」<br />
「連れ戻せなかったからって、トウコちゃんの当座の生活をどうにかしなくていいわけでもないでしょ。」<br />
「お金、お金ぇ。エンブオーぉ。良かったよお。」<br />
　持つべきものは記憶に薄い従兄殿だった。それにしてもとトウコは自分の親指の爪を噛み始める。<br />
「トウヤ兄。トレーナー始めてまだ日数単位だよね。こんなに稼いでるなんてどんだけ。」<br />
「あっ。換金グッズには手を付けてないって言ってたよ。あとで、もしもの時ににって。」<br />
「余裕があんじゃないの。くそう。エリートめえ。」<br />
　お前とは全然違うんじゃないかと、エンブオーは敢えてトウコをカノコの実家に連れ戻すのに協力しようかと迷う。<br />
「当座のお金はそれでいいとして、お金にまた困ったらそれこそトウヤに会ったほうがいいよ。」<br />
　トウコは首をぷるぷると振る。<br />
「だけどトウヤ兄は私を実家に連れ戻すつもりなんだよね？」<br />
「そこはちゃんとトウヤと交渉しなさい。それともトウコちゃんは何か他にお金を入手出来るあてがあるの？　――まさか。」<br />
　ベルはやけに露出度の高いトウコの格好に最悪の事態を想像する。<br />
「いや。ベルちゃん、怖い顔しないで。あのね、カノコのトウコはね、心は売っても身体は売らない主義なの。」<br />
「心も売っちゃいけないよ、トウコちゃん。」<br />
「はい&hellip;&hellip;。」<br />
　流石年上の人間だとエンブオーはベルに感心する。あのポケモンの熱に浮かされたようなトウコが、ほんの少しの間だろうが常識的な世界に戻ってきた。<br />
「とにかく、トウコちゃんからはトウヤのいる場所が分かるようにするから。ライブキャスター貸してよ。」<br />
　もう既に無抵抗になったトウコは大人しくライブキャスターをベルに渡した。ベルはトウコのために購入していた電池に入れ替え、トウヤのデータをトウコのライブキャスターに送信する。<br />
「困ったときにはトウヤに連絡して落ち合うのよ。」<br />
「はい&hellip;&hellip;。」<br />
　じゃあねとベルは手を振ろうとしたがトウコがまた何か言いたげにしているので声を掛ける。<br />
「わかってるわよ。当分の間はおうちの人にはトウコちゃんに会ったことは言わないから。」<br />
「ありがとうございます！」<br />
　今度こそじゃあねと言ってベルは次の町に向かった。残されたトウコは人の情けをしみじみと噛みしめてずっと巾着袋を握っていた。<br />
「エンブオー。」<br />
「ブオっ。」<br />
「わざマシン買いに行こうか！」<br />
　やめろと叫ばんばかりにエンブオーはトウコの後ろ頭を思い切り殴った。今買うべきは次のバトルに備えての装備だし、トウコ自身の食事もだし、何が悲しくて渡された金のほとんどを一個で使い切るようなわざマシンを買わねばならぬのかと。ポケモンにさえわかるような理屈を何故この元才媛の馬鹿はわからないのかと、エンブオーは改めて頭が痛くなった。そのしかめた顔を見てトウコはエンブオーそれ頭痛？エスパータイプの技を覚えたのねとわけのわからんはしゃぎかたをしていた。<br />
　だからこの女は駄目なんだとエンブオーは、自分もろともトウコと実家に帰ることも視野に入れるのだった。<br />
&nbsp;<br />
　　　　　＊　　　＊　　　＊<br />
&nbsp;<br />
　ホテルの部屋に入ってからトウヤはきょろきょろと辺りを見回し、挙句の果てには部屋の中を見て回り始めた。<br />
「よし。」<br />
「何が良しなんだい？」<br />
「変なカメラやマイクが無いかなって確認してたわけ。」<br />
「そんなもの普通ないだろ。」<br />
「あー。君はそういう特殊な趣味の人たちを知らないから。」<br />
　そんなことをさも常識と言わんばかりに言っているが、どう考えても考えすぎだし変な筋からの情報を鵜呑みにしているなとＮは思った。これがサラリーマンというニンゲンなのかと、それでも興味深かった。今までＮが関わってきたトレーナーという人種はここまで用心深いやつはいなかった。<br />
　Ｎはトウヤが一通り納得いくまで確認している間は、ベッドに腰掛けて大人しく待っている。ちらっと薬局の紙袋を見てまた自然と顔が引き攣ってきて、自分でも変な笑みが浮かんでいるとわかった。<br />
「中身確認する勇気はないな&hellip;&hellip;」<br />
　どうせトウヤに何もかも任せればいいんだろうと、Ｎは今までにないくらいに楽観視している。最初会って最悪と叫んでしまった時にはそんなふうに思えなかったのに。安心している信用しているとはＮはさらさら思っていない。なんとなく大丈夫うまくいくという楽観があった。<br />
「ねえ、トウヤ。」<br />
　十以上も歳が上と知ってもこんな呼び方でいいのかと、言葉を発すると同時に躊躇した。<br />
「なんだい。」<br />
　しかしトウヤはＮからの呼ばれ方なんて気にしていない様子だった。ならこれからもこれでいいかなとＮはまた楽観してしまう。<br />
　これからのことをどう切り出していいかわからないＮは、苦し紛れに薬局の紙袋を手に取ってトウヤに差出す。<br />
「あー。」<br />
　トウヤはＮから紙袋を受け取ったが、中身を見るでもなくまたベッドの横に置き直した。<br />
「その中のもの、使うんじゃないの？」<br />
「いや。その前にまずキスくらいはするだろ。」<br />
「そうだった。そういう手順はあった。」<br />
　知ったかぶりっこしていたがＮは、誘ってきた男達とキスすらしたことはなかった。Ｎに釣られた男は常にまず身体に触るのが当たり前だったから。うまくいかなかった理由がそれこそである。だけどＮはまだそれを理解出来ない。成功体験がないからだ。<br />
「Ｎ。知らないことは知らないって言ってよ。」<br />
　見破られた。Ｎはぎこちなく自分の唇に触れた。<br />
「キス、したことない。だけど知識はある。」<br />
　トウヤはそういうふうにきちんと正直に言いなさいと言いたげに二回ほど頷いた。<br />
「じゃあ。今からするから。」<br />
　Ｎはトウヤがどう出るかトウヤの顔を凝視する。<br />
「興味深々だな。だけどこういう時は目を瞑るのが礼儀だよ。」<br />
　そうは言われても視覚を手放すのがＮにはあと一歩のところで耐えられなかった。<br />
「きょ、今日はいいだろ。慣れるまで目を開けてても。」<br />
「Ｎ。今言っとくけど僕は正直、君が慣れるまで歩幅を合わせてやれるか自信がない。それでも待ってくれなんて君は言うのかい？」<br />
　Ｎは黙っている。これから起こることへの好奇心の前では妥協が出来ないのかと、トウヤは今度は目で問いかけてくる。Ｎというのは相手が年上でも明らかに自分が未熟でも、譲らないのは性格か、それともこれからする行為の特性故なのか。<br />
「ちょっと待って。」<br />
　Ｎは一回目を瞑ってすぐに開いた。そして目をまた瞑る。トウヤが顔を近づけた気配を悟ったのか、また目を開いてしまった。目を閉じているトウヤの顔が眼前に迫っている。<br />
『驚いて叫ばなくて良かった。』<br />
　Ｎが目を閉じてくれたからトウヤも目を閉じてくれたのに、Ｎが目を開けたことを悟られてしまったとしたら、また怒られるとＮは思った。Ｎは再び目を閉じる。<br />
　トウヤの柔らかい唇がＮの唇に触れてくる。<br />
『うわっ。』<br />
　叫びたいのに口を塞がれているので叫べない。感覚が触覚に全て持っていかれて自分の体に触れてくる全てに関心がいってしまう。是非とも目を開けて確認してしまいたいが、トウヤはそれをマナー違反と言っていたので我慢していた。<br />
　しばらくするとトウヤの唇が薄く開かれたのが分かった。<br />
『え？』<br />
　トウヤの舌先がＮの唇をこじ開けようとしているように思える。こじ開けようとしていると思っているのはＮなのだが、その解釈が正しいかどうか判別がつかないＮは、自分の解釈に従ってトウヤを真似するように自分の口を開いてみる。<br />
　唇にトウヤの歯が当たる。上唇を少し噛まれたのでＮは首を後ろに逸らしてしまった。<br />
「か、噛むのっ。」<br />
「落ち着いてよＮ。ただの甘噛みじゃないか。」<br />
　トウヤがくすくすと笑う。トウヤは目を閉じて再びＮの唇に触れようとした。<br />
「ぼ、僕もう目を開けてるからね。何されるの分からないと怖いから。」<br />
「最初を我慢してくれたんだから別にいいけど。」<br />
　大丈夫？　その呟きにＮは釈然としない。<br />
「唇くっつけあうだけがキスじゃないんだよ。」<br />
　そう言ってトウヤはＮの口の横や下に唇を押しつけてさっきのように軽く歯を当てたり吸ったりしていた。Ｎにはそれがこそばゆい。上唇も下唇も丹念に吸われて甘噛みされていく。そういうことをやっているトウヤの平然とした目を瞑った顔を至近距離で見つめざるえないＮは、目を瞑らないと言った割には目の前の光景から目を背けたくなっている。<br />
　いきなりトウヤがＮの少し開いた唇にぴったりと唇を当て、Ｎの口の中に舌を差し込んできた。舌先がＮの舌に絡まって背中が震える。ニンゲンの舌だと分かっているのに、なんだかわけのわからない生き物が侵入してきたような気分だった。<br />
　まってと言いたいが言葉を発しようとしたら、自分の舌もトウヤの舌も噛み切りかねない。<br />
気持ちいいのとは明らかに違うだろうというあまりにも変な感覚。どう考えても気持ち悪いというほうが正しいように思える。それなのにトウヤは執拗に口の中に舌を差し込んではＮの舌に絡んでくる。そんな質量にＮの口腔のキャパシティが限界になって息苦しい。なんとか逃れようとトウヤの身体を両手で押すが、トウヤはＮに掛けた手を離してくれない上にさっきまでより強くＮを抱きしめてくる。<br />
「ちょっ&hellip;トウヤ！」<br />
　トウヤの口から気づかぬ間に唸り声のような息が漏れている。<br />
「息、苦しいの？」<br />
　トウヤはひたすらその言葉に首を横に振った。普段のトウヤならジェスチャーではなく言葉が先に出るはずなのに。それに息苦しくないのに息が荒いというのも変だ。<br />
『ひょっとして、トウヤは興奮しているのかも。』<br />
　やっとＮは気が付いた。<br />
ポケモンが発情すると大変だとのたまっていた男がいた。今自分を捕まえているのは発情したニンゲン。ならば自分が見てきたニンゲンたちの発情具合とは、とんだままごとの発情ごっこにすら思えてくる。<br />
「いやっ。ちょっとまって。トウヤほんとに怖い！」<br />
　今まで自分を窘めていた人間が、いきなりケダモノのような本性を現した。あの発情したポケモンを見て困ったと言っていた男は、こんなになったポケモンの姿を見たというのか。なら今のＮにはその話を笑って頷きながら同情しながら聞いてあげることができる。あなたも大変なあいましたね。と言いながら。<br />
　トウヤは相変わらずふーふーと息を漏らしている。<br />
「ご、ごめん。Ｎ。なんか&hellip;僕余裕なくなって&hellip;&hellip;」<br />
「トウヤ。落ち着こう。さあ、深呼吸して。」<br />
　どれほど言葉を交わせるニンゲンというのが有難いか、Ｎは強く実感する。<br />
「無理。」<br />
少し正気になってくれたと思っていたが、トウヤは今度はＮの服をむしり取るように脱がせ始めた。<br />
「ごめん。なんか思ったより興奮してるよ僕。」<br />
「わかってるならどうにかしてよ。」<br />
「ごめん。どうにもならない。」<br />
　言葉は交わせても無意味だった。<br />
「と、とにかくっ。痛くないようにはどうにかするから、君も協力してくれ。」<br />
　しないわけにはいかないだろうとＮも流石は理解できる。もともとは自分が蒔いた種なのだ。その結果がこのトウヤなのだ。<br />
それにしてもさっきまでとの落差が激しすぎる。この元サラリーマンは経験豊富だから、自分に対してあんなふうに穏やかにだけど厳しく窘めていたのではないのか。これでは十二年下の自分よりさらにがっついた性欲とは言えないか。三十なんだからもう少し枯れろとは言わない。だけどもう少しなんとかならないのか。<br />
　Ｎはせめて、興奮しきって恐ろしいことになっているトウヤから目を背けるために目を瞑った。荒い息遣いは聞こえてくるけれど、見えないことがどれだけ心安らかにさせてくれるのかを、Ｎはこの瞬間知った。<br />
　ズボンを毟り取られたところでトウヤが足開いてと要求してきた。Ｎは恐る恐る足を開くとキャップの蓋を開ける音が聞こえて、次に冷たい液体の感触が局部に触れた。<br />
「つめたっ。ぬるぬるする。」<br />
「あ。ごめん。これローションだから別に変なもんじゃないから。」<br />
　ごめんごめんと謝っている割には本当に誠意を感じない。ローションは冷たいがそれを塗り広げるようなトウヤの手は熱い。トウヤは焦っているわりには出来る限り丁寧にＮの受け入れ口にローションを塗りたくり、その滑りを借りて指を侵入させてきた。<br />
「大丈夫だろ？　大丈夫だよな？」<br />
　お前が大丈夫なのかと逆にＮは問いたい。具合を確かめているのだろうが、自分の体に起きていることより、相手の精神状態が気にかかってひたすら翻弄される。<br />
今まで感じなかった男の体臭が鼻を掠める。鼻をつくというわけではないが、今この男に起こっている現象を主張しているようだった。体温が上がって盛んに呼吸を繰り返して、いろんな感覚が敏感になっているのだろう。<br />
これが発情したオス。今まで見てきた男はあくまで人間の男性だった。ニンゲンのオスには今までＮは出会っていたつもりになっていただけだと宣告されたようなものだった。<br />
　紙の箱が破かれるような音がする。<br />
「&hellip;&hellip;。」<br />
　Ｎが薄目を開けるとトウヤが怒張した性器に避妊具を被せている最中だった。Ｎと目が合うとトウヤは苦笑いを浮かべている。<br />
「君はまだ未成年だけど体格がいいからね&hellip;&hellip;たぶん大丈夫だよ。&hellip;そんなに挿入に無理はないと思うんだ。」<br />
　そんなことないとＮは首を振る。だけど途端に泣き笑いのような顔をしてくるものだから拒めない。<br />
「ゆっくりするから。それに出来るだけ優しくするから。」<br />
　Ｎの口元が動く。どう言葉にしていいか分からないが、これだけは伝えてやらないと、この大人があまりにも可哀そうな存在に成り果ててしまう。<br />
「う、うん。」<br />
　Ｎの肯定の言葉を聞いたあと、トウヤはもう少し足開いてとＮにとって残酷で恥ずかしい言葉を吐いた。Ｎはトウヤに言われる通りに限界まで足を開いてトウヤの出方を待つ。<br />
　トウヤは再びＮのアナルに指を押し当てもう一度確認するかのように挿入している。そしてぐるぐると抉るようにかき回してきた。<br />
「痛くないよね？」<br />
「痛くないよ。恥ずかしいけど。」<br />
「恥ずかしい？」<br />
「恥ずかしいのが可愛いって言ってきた人がいたけど。」<br />
「そうだね。可愛いよ。」<br />
　トウヤは目の前のＮという対象物を嬉しそうに見ていた。<br />
「いくよ。」<br />
　開かれた片足に手が添えて、Ｎの局部にトウヤは押し入った。<br />
「あっ&hellip;&hellip;」<br />
　異物感にＮは声を漏らす。<br />
「力抜いて。」<br />
「息吐けばいいのかな&hellip;&hellip;」<br />
「楽になれる方法ならなんでもいいから。」<br />
　無責任なことを言ってくれるものだが、思ったより本来そんなことに使用する箇所ではない癖に、逆からの侵入は想像していたよりも死にそうなほどではなかった。<br />
「上手だよ。Ｎ。」<br />
　Ｎはなんだかその言葉に反発したくなった。<br />
「君だって、&hellip;&hellip;男の&hellip;&hellip;中に入れるなんて初めてだろ。その割にはスムーズなんじゃないか？」<br />
「憎まれ口叩かなきゃもっといいよ。&hellip;&hellip;というか、男は初めてってバレちゃったな。」<br />
「バレないと思ってたのかい？」<br />
　Ｎは自分自身でも信じられないくらいにトウヤに狎れた口を利いていた。初めての相手なのに、何度もしてきたような雰囲気になっている。<br />
でも行為自体は本当に驚かされることばかりだった。マスターベーションの時に手で与える刺激は、セックスでは腰を使って相手の体の中に自身を使って与える刺激になる。そして入れられた方もそうやって擦られるのが気持ちいい。日常の生活では得られない感覚を二人だから共有できる。排泄行為にしか使っていなかった場所が、こんなふうに感じる場所だとは思わなかった。<br />
　確かに今回のことは気持ちいいと手放しで言えるものじゃない。だが確かに言えることは、今回はＮにとって失敗ではなかったということだった。<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
<br />
今回からサブタイトルをつけてみました。登場人物はそれなりに増えるつもりです。</font>]]></content:encoded>
    <dc:subject>ポケモン</dc:subject>
    <dc:date>2013-03-01T16:15:06+09:00</dc:date>
    <dc:creator>柴仲達</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
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