幸福雑音
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☆ss「ロンド」長編④ 勝燐♀前提雪燐♀
「姉さん。ただいま。」
「てめえ、今頃帰ってきやがって! ていうかなんでこんなに早く帰ってこれるんだよっ。」
「姉さん、何か忘れてないかい?」
雪男は一つの鍵を翳してくる。祓魔師御用達の魔法鍵だった。本当はこれの存在を知らせたくなかったが、辻褄が合うように会話を持っていくためには仕方が無かった。
「帰りはこの教会への鍵を使ってそのまま帰れるんだよ。」
「それにしたって早いじゃねえかよ。」
本土に渡るにも一日がかりじゃねえのかよという疑問にも、雪男は別の鍵を翳す形で答えた。
「ちっ。」
祓魔師としてそれなりのキャリアのある弟には、特別な鍵を使う許可が下りている。この教会で留守番しかさせて貰えない自分とは身分が違う。姉の恨めしそうな目を尻目に、弟はそういえばと言って話題を摩り替える。
「ボイラーの調子が変だったの言うの忘れて出てしまったけど、大丈夫だった?」
「大丈夫じゃねえよ。爆発しちまったから、業者呼んで新しいのを俺のへそくりで買ったよ。」
「そう。それは災難だったね。」
災難で済むのかよと燐は思った。せっかくの旅費がほぼ丸々故障したボイラーに持っていかれてしまった。クッキー作りで細々と貯めた金だったのに。またほぼ一から貯金しなくちゃいけない。
「姉さん。」
雪男は落胆している姉の肩に手を伸ばす。顔を俯けて髪の間から見える口元がかみ締められている。
「姉さん。」
実はボイラーが故障した原因は雪男による故意だった。目的は言わずもがなで、燐の貯金を減らすため。任務もこじつけの嘘だった。
業者と燐の会話で、ボイラーは実は新しく作られたものだと知ったときは、正直言うと故障が人為的原因であることがばれるかと肝が冷えた。しかしそれが幸いして、新しく購入したボイラーの価格は姉の手元にある貯金額ぎりぎりだったので、即金で支払われ雪男の目的は果たされた。しかし何度も使える手ではなかったので、これで安心することは出来ないが、とりあえずある程度の時間は稼げそうだ。
燐は相変わらず俯いている。それには心が痛まないわけじゃない。
「姉さん?」
「雪男!」
「はいっ。」
燐は顔を上げると弟の目に焦点を合わせてきっと睨んでくる。
「お前ひょっとして、正十字学園に通じる鍵とか持ってるんじゃねえのか?」
一瞬、ボイラー故障の犯人がばれたんじゃないかと思った雪男は上ずった返事をしてしまったが、それを聞いて呆れるように笑うしかなかった。
「持ってんだろ?」
「持ってたらなんなんだい?」
燐は手の平を上に向けて雪男に突きつけた。
「貸せよ!」
「貸せないよ。」
「なんで?」
「姉さんは鍵を所持する許可を持ってないから。」
下二級祓魔師に渡せる鍵ではない。しかし雪男に同伴すれば使えるのも同然だが、雪男がそんな情報を姉に言うわけがない。
「ちょっと貸してくれるだけでいいんだよ。こっそり使って絶対にばれねえようにするから。」
食い下がる姉。弟は自分に都合のいい情報を開示する。
「姉さん。この鍵は使用者の記録が残るんだよ。」
「そんなの、誤魔化しゃあいいじゃねえかよ。」
「そこまでして鍵を使って姉さんは何をしたいの?」
「みんなに、会いたいからに決まってるだろ。」
それならなお更駄目だと雪男は告げる。
「そんな抜け道すれすれの手段で会ってくれても、みんな迷惑するんじゃないのかな。一年前なら塾仲間だったかもしれないけど、そろそろ進路のこともあるし。悪魔の姉さんと関わったことがあるなんて、隠したがる人もいるんじゃないのかな。」
「そんなことねえ!」
「言い切れるの?」
「だって……。関わりたくない奴の手紙に、どうして律儀にみんな返事返してくれるんだよ?」
雪男に掴みかかろうとする燐の腕を、雪男は乱暴にならない程度に振りほどき、その手首を掴んだ。
「そうだね。彼らはみんな優しかったからね。でも、優しさにも限度があるんじゃない? 彼らと知り合いだった時間より、離れていた時間のほうが長くなってるんだよ。もう、いい加減夢は見ないほうがいいんじゃないか。姉さんには僕がいる。僕なら、この先何十年死ぬまで、姉さんのことを守ってみせる。」
燐は絶句する。離れ離れになった仲間の顔が、記憶している声が、遠ざかっていくような錯覚を覚える。
一度考え出すと止まらなかった。今まで考えないようにしていたからかもしれない。手紙が送られてくることは現実だけど、それがいつまで続いてくれるのだろうか。みんなが学園にいるのは、あと一年と少しくらいしかない。その期間が過ぎれば、祓魔師として本格的に活躍するだろう。
雪男が燐の顔色から察したように言葉を続けた。
「彼らはより一層、悪魔との戦いに関わっていくんだろうね。姉さんと同じ悪魔を相手取って。だからそのうち、姉さんに対する認識が変わるかもしれない。」
「わかったから!」
燐は大声で雪男の言葉を遮る。そしてその脇をすり抜けて部屋を出て行こうとしたが、雪男の腕に捕まえられた。
「わかってないだろ。そんなやけくそな声出して、はしたないよ。どうせ僕に対して反抗的なことを考えてるんだろ。」
「反抗的ってなんだよ。同い年だし、俺が姉なのに。お前がすごく優秀で、立場も上なことは分かってるけど。」
燐に圧し掛かる劣等感。とうの昔に雪男はそれを知っていた。だからこそ苛立つ。
「そうだよ。それが僕に対する反抗心の根拠じゃないのか。少しは立場とか弟とか、そういうのを捨てて、姉さんを心配する誰かの言葉を、素直に聞くべきじゃないのかい?」
それを言われると燐には痛い。
「雪男のことは頼りにしてるし、今までだってずっと有難いって思ってた。」
「だったら僕だけでいいだろ!」
「お前には俺だけかよっ。外に友達とか、好きな子とか、考えたことないのかよ!」
雪男はぐっと燐の腕を引き寄せた。次の瞬間、燐は雪男の胸に抱きしめられる。
「僕には姉さんだけだよ。姉さん以外に何にもいらない。姉さんがいれば、何にも欲しくない。」
燐は頭がくらくらする。
「姉さん。僕だけのものになってよ。」
雪男の体格によって燐はテーブルに押し倒される。
「雪男。お前何する気なんだよ?」
「姉さん。好きだよ。」
雪男は思いつめた目をして顔を燐に近づけていく。緑がかった青い目に燐自身が映る。小さいときから弟のこの目が大好きだった。
何もかもがお揃いじゃなかった姉と弟にとって、目の色だけが双子らしいお揃いさ加減だったから。小さい頃の雪男は、燐の目の色を、海の底の色みたいと言って褒めてくれたことがある。燐はそれに対してお前の目は、昼間の空の色だと頑張って褒め返した。
雪男の目の中で途方もない空の中に、自分は閉じ込められている。雪男も燐という海の青に、溺れていて浮かび上がれないのかもしれない。
このままでいたら、自分たちはどうなってしまうんだろうと、燐は恐怖する。弟があの小さな頃と同じには見えない。いつのまにか燐の知らない男になっている。
「ずっと好きだったんだよ。姉さんを守ろうって思ったから、弱虫でいじめられっ子だった僕から卒業出来たんだ。姉さんの為に強くなれるのが嬉しかった。」
雪男の手の力が少し緩む。その微笑みは優しいけれど、吐かれる言葉は悲痛な叫びだった。
「姉さんを守れるのは、僕だけだろ? そういってくれよ。勝呂君は姉さんに何もしてくれてないじゃないか。いい加減、夢から覚めてくれよ。お願いだから――。」
僕だけの、と雪男の唇が動いたあと、それは燐の唇に近づけられた。
「やめ、ろぉ!」
雪男は反射的に燐から離れる。燐は青い炎を一瞬ちらつかせた後、踵を返してドアに急いで近寄る。背後から雪男にまた捕まらないように、雪男のほうを向いたまま燐は後ろ手でドアを開けた。
「お前なあ! 間違ってるとは言わねえけど、そんなんでこの先やっていけると思ってるのかよ! 俺だけ? お前だけ? そんなん駄目に決まってるだろ! お前が、俺のことに一生懸命だったことに気づいてやれなかった俺も悪かった。だからっていつまでも何十年も、この先縛られなくてもいいんだよ!」
雪男は何かを叫ぼうとしたが、燐の迫力に押されて声が出ない。
「お互いに縛りあわなくても、俺はお前が必要としてくれるなら、この先も絶対側にいる。忘れるなよ。俺はお前の姉ちゃんだからな!」
姉がどたばたと廊下を走って去っていく。雪男は今までの狂ったような熱が冷めたのか、台所の床にへたりこんだ。
「あー…。やっぱり僕は姉さんに勝てないや。」
卑屈な自分の言葉を、願いを、歪んだ思いを、見事に一蹴してみせた。一年前には考えられなかったことだ。
『縛りあうしかないんだよ。』
なんだかんだで、ずっとあの言葉に苛まれていた。勝呂に姉を取られてしまうかもしれないという恐怖に、ずっと怯えていただけの自分が恥ずかしい。
「姉さんも成長してるんだ。それに比べて僕は――。くそう、藤堂三郎太め……」
冷静に考えれば、あの狸の言葉に踊らされていたかもしれない。何が縛りあうしかない、だ。実の姉だということを承知で好きなのに。それを負い目みたいに考えさせた、あの男が憎い。
「姉さんは僕にとって、負い目になんてなり得ない。」
途端に全てが茶番じみて馬鹿馬鹿しい。だけど――。
「姉さん。柔らかかった……」
手にまだ姉の感触が残っている。こればかりはこの姉弟喧嘩に感謝するしかなかった。
雪男と姉さんの喧嘩回でした! 危機一髪。
「てめえ、今頃帰ってきやがって! ていうかなんでこんなに早く帰ってこれるんだよっ。」
「姉さん、何か忘れてないかい?」
雪男は一つの鍵を翳してくる。祓魔師御用達の魔法鍵だった。本当はこれの存在を知らせたくなかったが、辻褄が合うように会話を持っていくためには仕方が無かった。
「帰りはこの教会への鍵を使ってそのまま帰れるんだよ。」
「それにしたって早いじゃねえかよ。」
本土に渡るにも一日がかりじゃねえのかよという疑問にも、雪男は別の鍵を翳す形で答えた。
「ちっ。」
祓魔師としてそれなりのキャリアのある弟には、特別な鍵を使う許可が下りている。この教会で留守番しかさせて貰えない自分とは身分が違う。姉の恨めしそうな目を尻目に、弟はそういえばと言って話題を摩り替える。
「ボイラーの調子が変だったの言うの忘れて出てしまったけど、大丈夫だった?」
「大丈夫じゃねえよ。爆発しちまったから、業者呼んで新しいのを俺のへそくりで買ったよ。」
「そう。それは災難だったね。」
災難で済むのかよと燐は思った。せっかくの旅費がほぼ丸々故障したボイラーに持っていかれてしまった。クッキー作りで細々と貯めた金だったのに。またほぼ一から貯金しなくちゃいけない。
「姉さん。」
雪男は落胆している姉の肩に手を伸ばす。顔を俯けて髪の間から見える口元がかみ締められている。
「姉さん。」
実はボイラーが故障した原因は雪男による故意だった。目的は言わずもがなで、燐の貯金を減らすため。任務もこじつけの嘘だった。
業者と燐の会話で、ボイラーは実は新しく作られたものだと知ったときは、正直言うと故障が人為的原因であることがばれるかと肝が冷えた。しかしそれが幸いして、新しく購入したボイラーの価格は姉の手元にある貯金額ぎりぎりだったので、即金で支払われ雪男の目的は果たされた。しかし何度も使える手ではなかったので、これで安心することは出来ないが、とりあえずある程度の時間は稼げそうだ。
燐は相変わらず俯いている。それには心が痛まないわけじゃない。
「姉さん?」
「雪男!」
「はいっ。」
燐は顔を上げると弟の目に焦点を合わせてきっと睨んでくる。
「お前ひょっとして、正十字学園に通じる鍵とか持ってるんじゃねえのか?」
一瞬、ボイラー故障の犯人がばれたんじゃないかと思った雪男は上ずった返事をしてしまったが、それを聞いて呆れるように笑うしかなかった。
「持ってんだろ?」
「持ってたらなんなんだい?」
燐は手の平を上に向けて雪男に突きつけた。
「貸せよ!」
「貸せないよ。」
「なんで?」
「姉さんは鍵を所持する許可を持ってないから。」
下二級祓魔師に渡せる鍵ではない。しかし雪男に同伴すれば使えるのも同然だが、雪男がそんな情報を姉に言うわけがない。
「ちょっと貸してくれるだけでいいんだよ。こっそり使って絶対にばれねえようにするから。」
食い下がる姉。弟は自分に都合のいい情報を開示する。
「姉さん。この鍵は使用者の記録が残るんだよ。」
「そんなの、誤魔化しゃあいいじゃねえかよ。」
「そこまでして鍵を使って姉さんは何をしたいの?」
「みんなに、会いたいからに決まってるだろ。」
それならなお更駄目だと雪男は告げる。
「そんな抜け道すれすれの手段で会ってくれても、みんな迷惑するんじゃないのかな。一年前なら塾仲間だったかもしれないけど、そろそろ進路のこともあるし。悪魔の姉さんと関わったことがあるなんて、隠したがる人もいるんじゃないのかな。」
「そんなことねえ!」
「言い切れるの?」
「だって……。関わりたくない奴の手紙に、どうして律儀にみんな返事返してくれるんだよ?」
雪男に掴みかかろうとする燐の腕を、雪男は乱暴にならない程度に振りほどき、その手首を掴んだ。
「そうだね。彼らはみんな優しかったからね。でも、優しさにも限度があるんじゃない? 彼らと知り合いだった時間より、離れていた時間のほうが長くなってるんだよ。もう、いい加減夢は見ないほうがいいんじゃないか。姉さんには僕がいる。僕なら、この先何十年死ぬまで、姉さんのことを守ってみせる。」
燐は絶句する。離れ離れになった仲間の顔が、記憶している声が、遠ざかっていくような錯覚を覚える。
一度考え出すと止まらなかった。今まで考えないようにしていたからかもしれない。手紙が送られてくることは現実だけど、それがいつまで続いてくれるのだろうか。みんなが学園にいるのは、あと一年と少しくらいしかない。その期間が過ぎれば、祓魔師として本格的に活躍するだろう。
雪男が燐の顔色から察したように言葉を続けた。
「彼らはより一層、悪魔との戦いに関わっていくんだろうね。姉さんと同じ悪魔を相手取って。だからそのうち、姉さんに対する認識が変わるかもしれない。」
「わかったから!」
燐は大声で雪男の言葉を遮る。そしてその脇をすり抜けて部屋を出て行こうとしたが、雪男の腕に捕まえられた。
「わかってないだろ。そんなやけくそな声出して、はしたないよ。どうせ僕に対して反抗的なことを考えてるんだろ。」
「反抗的ってなんだよ。同い年だし、俺が姉なのに。お前がすごく優秀で、立場も上なことは分かってるけど。」
燐に圧し掛かる劣等感。とうの昔に雪男はそれを知っていた。だからこそ苛立つ。
「そうだよ。それが僕に対する反抗心の根拠じゃないのか。少しは立場とか弟とか、そういうのを捨てて、姉さんを心配する誰かの言葉を、素直に聞くべきじゃないのかい?」
それを言われると燐には痛い。
「雪男のことは頼りにしてるし、今までだってずっと有難いって思ってた。」
「だったら僕だけでいいだろ!」
「お前には俺だけかよっ。外に友達とか、好きな子とか、考えたことないのかよ!」
雪男はぐっと燐の腕を引き寄せた。次の瞬間、燐は雪男の胸に抱きしめられる。
「僕には姉さんだけだよ。姉さん以外に何にもいらない。姉さんがいれば、何にも欲しくない。」
燐は頭がくらくらする。
「姉さん。僕だけのものになってよ。」
雪男の体格によって燐はテーブルに押し倒される。
「雪男。お前何する気なんだよ?」
「姉さん。好きだよ。」
雪男は思いつめた目をして顔を燐に近づけていく。緑がかった青い目に燐自身が映る。小さいときから弟のこの目が大好きだった。
何もかもがお揃いじゃなかった姉と弟にとって、目の色だけが双子らしいお揃いさ加減だったから。小さい頃の雪男は、燐の目の色を、海の底の色みたいと言って褒めてくれたことがある。燐はそれに対してお前の目は、昼間の空の色だと頑張って褒め返した。
雪男の目の中で途方もない空の中に、自分は閉じ込められている。雪男も燐という海の青に、溺れていて浮かび上がれないのかもしれない。
このままでいたら、自分たちはどうなってしまうんだろうと、燐は恐怖する。弟があの小さな頃と同じには見えない。いつのまにか燐の知らない男になっている。
「ずっと好きだったんだよ。姉さんを守ろうって思ったから、弱虫でいじめられっ子だった僕から卒業出来たんだ。姉さんの為に強くなれるのが嬉しかった。」
雪男の手の力が少し緩む。その微笑みは優しいけれど、吐かれる言葉は悲痛な叫びだった。
「姉さんを守れるのは、僕だけだろ? そういってくれよ。勝呂君は姉さんに何もしてくれてないじゃないか。いい加減、夢から覚めてくれよ。お願いだから――。」
僕だけの、と雪男の唇が動いたあと、それは燐の唇に近づけられた。
「やめ、ろぉ!」
雪男は反射的に燐から離れる。燐は青い炎を一瞬ちらつかせた後、踵を返してドアに急いで近寄る。背後から雪男にまた捕まらないように、雪男のほうを向いたまま燐は後ろ手でドアを開けた。
「お前なあ! 間違ってるとは言わねえけど、そんなんでこの先やっていけると思ってるのかよ! 俺だけ? お前だけ? そんなん駄目に決まってるだろ! お前が、俺のことに一生懸命だったことに気づいてやれなかった俺も悪かった。だからっていつまでも何十年も、この先縛られなくてもいいんだよ!」
雪男は何かを叫ぼうとしたが、燐の迫力に押されて声が出ない。
「お互いに縛りあわなくても、俺はお前が必要としてくれるなら、この先も絶対側にいる。忘れるなよ。俺はお前の姉ちゃんだからな!」
姉がどたばたと廊下を走って去っていく。雪男は今までの狂ったような熱が冷めたのか、台所の床にへたりこんだ。
「あー…。やっぱり僕は姉さんに勝てないや。」
卑屈な自分の言葉を、願いを、歪んだ思いを、見事に一蹴してみせた。一年前には考えられなかったことだ。
『縛りあうしかないんだよ。』
なんだかんだで、ずっとあの言葉に苛まれていた。勝呂に姉を取られてしまうかもしれないという恐怖に、ずっと怯えていただけの自分が恥ずかしい。
「姉さんも成長してるんだ。それに比べて僕は――。くそう、藤堂三郎太め……」
冷静に考えれば、あの狸の言葉に踊らされていたかもしれない。何が縛りあうしかない、だ。実の姉だということを承知で好きなのに。それを負い目みたいに考えさせた、あの男が憎い。
「姉さんは僕にとって、負い目になんてなり得ない。」
途端に全てが茶番じみて馬鹿馬鹿しい。だけど――。
「姉さん。柔らかかった……」
手にまだ姉の感触が残っている。こればかりはこの姉弟喧嘩に感謝するしかなかった。
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趣味:
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忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
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