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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆☆リクエスト企画ss「サムライハート」

さくむさんのリクエストで、忍たまの伊雑のギャグ。 付き合ってない設定で、伊作の突飛な愛情表現が理解できずに、部下や伊作と仲のいい食満に相談する雑渡さん。 それを聞いた伊作は、回りくどい手はやめ、直球で勝負する事を決意する、です。
ギャグパートが異様に少なくなった上に、なかなか作品が出来上がらなくてすみませんでした。ノリは少年漫画です。タイトルは銀魂のエンディングテーマが元です。



「僕は彼に嫌われるようなことしたかな?」
 食満留三郎は後ろ手に縛られて尋問を受けていた。くぐもった声はタソガレドキ忍者隊のトップ・雑渡のもので、尋問の内容は本当に個人的なのもいいところだった。
 タソガレドキ領に課題として侵入した六年生は四人。そして早々と留三郎は捕まり、捕虜になった。しかしこれは、先方にもあらかじめ不確かな情報としてもたらされた実習内容で、自国に不利益をもたらさないと確認が取れれば、それなりの金額を忍術学園に要求して、捕虜にした生徒を帰せばいい。食満留三郎は特に何処の城から受けた依頼ではなく、あくまで課題の範囲内での領国侵犯だと言い切った。そこで尋問が終わるかと思いきや、思い切りプライベートな人間関係の相談事の相手に選ばれてしまったようだ。
「彼って、伊作ですか? あいつ、あんたを嫌ってましたっけ?」
 むしろその反対だと留三郎は心中で毒づくが、そんなことをわざわざ知らせてやる義理もないので、おざなりに言うだけだった。
「でも今回の課題選択でわざわざうちの城を選んできたんでしょ。」
 それが根拠かと留三郎は合点がいった。明らかに歪んだ好意の裏返しを嫌がらせと取っている。
「たまたま伊作が決定権の回でしたんで。」
 やはり真相を教える義理は無いので、留三郎はまたもおざなりに事実だけを言った。
「伊作君に選ばせたらいけないでしょう。」
「そんなこと言わないで下さい。」
 雑渡は首を傾げる。留三郎は溜息をつく。十五歳に対してそんな物言いをするから、可燃物に火がついて小火騒ぎになるんだと。
「なんか理由ありなの?」
 留三郎は一瞬逡巡する。でも今回は言っても言わなくても同じだとばかりに雑渡に話す。
「いや。今回もっと難易度の低い選択肢もあったんですけど。ぶっちゃけ言いますとタソガレドキは候補にも入ってなかったんですよ。忍たまにはタソガレドキの百人部隊は荷が重過ぎるって。」
 百人の忍者集団自体が夢物語じみているのだ。だがそれを実現させた張本人が目の前にいる。その実態を匂わせるだけで敬して遠ざかるだけの理由になる。
「なのにわざわざ僕がいる城を、伊作君は選んだわけ? どうして? やっぱり僕のこと嫌いだから?」
「わかんないですよ。でも、あいつはかなり今回張り切ってましたよ。本当にいつも省エネモードのあいつからは考えられないくらいに。なんだか一人でぶつぶつうわ言を言ってましたし。思いを知って欲しいだの。思い知って欲しいだの。よっぽど今まで溜め込んでたんでしょうね。」
「ええー。」
 雑渡は両手で大げさに頭を抱える。ここには雑渡の他に部下が一人いるだけだ。その部下が呟く。
「保健室に入り浸るからじゃないですか……。」
 それはただの上司への不満だ。留三郎は心中でツッコむ。しかし部下からのヒントだと思った雑渡は、自分の忍術学園での行いを振り返るように、うんうん唸っている。
「もしかして……」
 雑渡は保健室に訪れる度に贈られた伊作の手土産を思い返す。明の皇帝が精力を高めるために用いた丸薬を元にカスタマイズしたという精力剤。伊作が妄想の暴走するままに調合した感度の良くなる薬。その他諸々。それらの材料費が負担になっていたのだろうか。いつも悪いなあとは思いながら、自分自身では使った験しがないので、人にあげたら喜ばれていたよと伝えていた。それが伊作の勘に障ったのだろうか。でもお約束なら自分にくれる薬は、特別に調合した傷薬が妥当なのに、何故シモ関係に集中しているのだろう。
「そこまで僕って枯れてるように見えるかな?」
「オッサン。なんか話が飛躍してねえか? つーか真実に遠くなってねえ?」
 もう勝手に迷走しといてくれと留三郎は休止モードに入った。どうせもう今回に限っては自分はリタイアした身なのだから、これ以上このオッサンに付き合う必要はないだろうと、若者特有の乾いた諦めが留三郎を包んでいる。とにかくこのオッサンは確かに伊作の言うとおり、思い知るべきなのだろう。伊作がわざわざ鉄槌を下すなら、それでいいじゃないかと思った。
 
     *   *   *
 
「留三郎が捕まったか。百対四、いや二十五対一か。それが今、三十三対一……。」
「なんか仙蔵ぶつぶつ言ってるよね。」
「伊作……。私でなくてもぶつぶつ言いたくなる。卑怯技のドクササコ相手のほうがまだましだ。数的な意味でも――。」
「不運の確率は数の問題じゃないんだよ。どうせ不運な時は不運なんだ。勝率が高い戦いでもボロ負けすることもあるし、勝率が低い時に限って勝てる時もある。」
「まさかと思うが何か勝算でもあるのか?」
「あるわけないだろう。」
「そんなんだったら、それに私達も巻き込まないでくれ。て、言ったって。もう来ちゃったんだから仕方ないが、その代わりお前の目的を聞かせろ。」
「え? 仙蔵に?嫌だ!」
「お前それほどに私のことが嫌いか!」「嫌い。」
「行を跨がずに即答だと!」
 伊作の仙蔵に対する反感は、既に悪気の無いほどにナチュラルなものになっていた。仙蔵は頭の回転を上げる。伊作からどうしても訊きたいのだ。
「じゃあこれはペナルティだ。人を巻き込んで、気の狂った難易度の課題を選んだのだから。嫌いな相手にこそ、嫌々今回の動機を喋るべきだ。しかもここだけの話なんかにしないぞ。」
「うーん。嫌いな奴に言われると、挑発されて言っちゃいたくなるよね。」
「じゃあ言え。言ってしまえていうか、お前は素直の裏の裏でしか素直になれないんか。」
「しつこいな……。」
 いつものことだがこの男は、嫌いだという言葉の意味を本当に理解しているのだろうか。自分が嫌いな奴には取り繕うことが出来るが、自分を嫌っている奴にここまで食いついてくる、その神経が理解できない。だからますます嫌いになる。
伊作は仙蔵のそんな性分は変えられないと分かってるから、しょうがないと呟く。
「あの人からずっと言われた言葉が、胸に刺さり続けてるんだ。」
「なんだその中二病的な台詞は。」
 だから仙蔵には言いたくないんだよと、伊作はぶつくさ言っている。
「仙蔵には分かりっこないんだ。だって仙蔵はそんなこと言われたことないんだから。というか、この先も縁の無い経験なんだろうから。」
「腐るな。お前の打ち明け話に共感出来ないと決まったわけじゃないんだから。というか共感くらいさせろ。それ如何によっては知恵を絞ってやる。」
「僕から嫌われてる癖に。」
 何様という口を利く伊作に、しかし仙蔵は会話の先を聞くために黙ることにした。伊作は仙蔵の真摯そうに見える行動に免じて話すことにする。
「じゃあ話すよ。あの人からね――。」
 
     *   *   *
 
 留三郎が捕まってから一刻が経過した。そろそろこの無謀な作戦も失敗に収束していくだろう。
「ごめん。やっぱ私も無理だった。」
「しゃあねえだろ。むしろ一刻前に一番最初に捕まった俺の立場がねえ。」
 体力自慢の小平太を捕まえたところで忍術学園の残りの生徒は二人だった。そして、
 
雑渡の目の前には部下数人に取り囲まれている一人がいる。留三郎と小平太が城下で捕獲されたのに対して、城壁の中にその一人は入り込んでいた。
「伊作君――。いつも僕が言っていることが、やっぱり本当なんだよ。」
 伊作はうな垂れて言う。
「でも僕は努力したんです。あなたに分かって貰う為に――。」
「だって本当のことなんだもん。努力で本来持っている君の資質は変えようもないんだよ。」
「そのようでしたね。頑張ったんですけどね……。」
「あとは、仙蔵君だけだね。」
 雑渡が右手を上げるのが合図だった。数人の精鋭中の精鋭が伊作に飛び掛る。それをたった一人の伊作が捌き切れるはずがない。あっというまに両手両足を捕らえられて、そのまま宙吊りの猫車で留三郎と小平太と同じところに運ばれる。手足は拘束されているが、口は塞がれてないので後姿の雑渡に伊作の言葉がぶつけられた。
「僕は無謀な選択で学友を犠牲に貴方に僕を認めさせようとしたんです。わかってもらえなくても構いません。さっき貴方が僕に対して言い切ったことで、貴方の中の僕は変えようが無いとわかりました。」
 雑渡は運ばれていく伊作のほうを振り向く。
「でも。まだ諦めてません。これで終わったわけじゃありません。」
 雑渡は終わってないという言葉に「なにを?」と問い返したくなる。しかしそれが伊作の強がりだと思うと、後味の悪い残酷な真似になると思って何も言えなかった。
 
     *   *   *
 
 雑渡はもやもやが消えないまま帰路につく。残ったのは優秀な仙蔵だけだけど、仙蔵だけに既に自分だけしかいない状況に対して、完全撤退するしかないと考えるだろう。 
今度の彼らの課題実習は完璧な失敗だった。しかも課題選択した伊作の無謀さが原因の。これで伊作も頭が冷えるだろう。納得のいっていないようなことは言っていたが、巻き沿いにした仲間に責められれば、納得とかなんとかも言っていられない。現実の成果が一番なのだから。
いつも自分が言い聞かせていた言葉の意味を、本当の意味で理解してくれるはずだ。これで分かってくれなきゃ、どうしようもない。
 たかだか若い子どもの忍のことで、こんなに頭を悩ませるとは思わなかった。もっと伊作は素直な子どもだと思ってたのに。自分が何に向いているかきちんと理解していると思ってたのに。
 つらつら考えていると後ろに気配が立った。それはうっかり漏らしてしまった気配ではなくて、わざと存在を際立たせるような気配の立ち方だった。
「君は忍にむいてないね。……でしたっけ?」
「仙蔵君かい? 僕が孤立無援だと思ってここまでつけて来たわけだね。」
 背後に立った人影は黙って雑渡を追い抜いて、雑渡の前方に移動する。
「君はもう帰ったと思ったよ。伊作君達もすぐに学園に返してあげるから、伊作君にはさっき君が言った言葉を、もう一度僕からの最終通告だと伝えておくれよ。」
 仙蔵は大きく横に首を振った。
「そんな必要は無いですね。」
「君はもう少し思慮のある男だと思ってたのに。六年の友情に目が眩んだのかな?」
「立花仙蔵は馬鹿がつくくらい友情に熱い男ですよ。どうしようもない学友の、つまらない悩みすら見過ごせないほどに。」
「それ自分で言っちゃ不味くない。」
「不味くないですよ。だって――。」
 仙蔵は自分の顔の皮に手を掛ける。そしてその皮と髪を一気に毟り取った。
 
「それは僕の言葉なんだから!」
 
 雑渡は目を剥く。伊作はさっき部下に取り押さえられたはずだ。今頃はもう学友と同じ牢屋の中。でも伊作は目の前にいる。
「変装してたんだ。二人とも。」
 仙蔵の姿は誰も見ていない。そして仙蔵の変装を解いた伊作が目の前にいる。ならば牢屋にいる伊作が誰かと考えれば、答えは自ずと出た。
「どうして、ここまでするんだ? 仙蔵君だって、ここまでする義理は無いだろ? 君だってここまで無理する必要無いだろ? 忍術学園を出ても、忍者に無理になる必要はない。君の学校はそういう学校だよね? 君にはもっと向いている仕事がある。その優しさという取り得を生かせる生き方もある。」
「優しい? 僕がですか? 友情を利用して、貴方に認めてもらうという目的を果たそうとする僕が? むしろそれって、誰よりも忍者らしいでしょうが。何が何でも目的を遂行する。優しいっていうのは、仙蔵に後で褒めてあげてくださいよ。彼はそういうこと言われ慣れてないんですから。」
 月の光に浮かんだ伊作の顔が泣き笑いの表情を浮かべている。
「伊作君。僕は君に嫌われてるのかな? だから僕の言葉に反抗して、友達まで巻き込んで。」
 まるで不良少年に説教する教師か母親のようだった。伊作に対する思いやりが伝わってくるけど、伊作が欲しいのはそんなものじゃない。
 好きだからこそ、認めて欲しいものと認めてくれるところがズレにズレて、ジレンマを抱えている。素直に雑渡の言う通りにしていれば、自分も楽だし雑渡も安心して喜んでくれるだろう。
「僕は貴方と同じところに立ってたいんですよ――。」
 だから雑渡の言う無理を通して認められたい。学友を巻き込んだと責められたけど、ここまで来て退いたら、それこそ学友の犠牲が無駄死にになる。既に舞台は整っている。後は伊作がどれだけ雑渡に対して立ち回れるか――。
「善法寺伊作。推して参る!」
 雑渡が嫌々ながら苦無を構える。しかし伊作は止まらない。
「覚悟して下さいね。雑渡さん――。」



リクエストの決め台詞を何処で使おうかとかなり迷いました。やはり決め台詞は一番後ろに来るものですね。取り組みがいのあるリクエスト有難うございました。

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☆☆リクエスト企画ss「ロンド」勝燐 女体化注意

ニルグスさんからのリクエストで「勝燐←雪+志摩で燐総受、女体化」です。

目の前に本当に済まなそうな顔をしている女子がいる。勝呂は気にしないように振舞っては見るが、それ自体が白々しく思えてくる。
「ごめん。勝呂……。」
 ごめんとは言っているけど、何を自分が謝っているのか。この女子、奥村燐は自分でもわけがわかってないのだろう。それでも謝らずにはいられないらしい。もう一度燐が謝る小声を勝呂は聞いた。
「お前は悪うないやろ。サタンの娘って聞いて、……。正直俺……。」
「俺のこと嫌いになった?」
 深い青い瞳が涙で滲んでいる。幅の狭い華奢な肩も震えている。その癖胸だけは大きいけど、そんなところに目を付けている場合じゃない。
「俺は……、正直お前に関わるべきじゃなかったと思った。」
 途端に燐の顔がくしゃくしゃと歪む。歪められた口からは今にも泣き叫ぶ声が飛び出してきそうだ。勝呂は女に泣かれるのは苦手だ。
「それはサタンの娘として、やからな? 奥村燐個人のことやない。」
「だって……。だって、俺は、サタンの娘の奥村燐だからっ。」
「だからそれは置いとけやっ。」
「置いとけば嫌いじゃないって言ってくれるのか?」
「最初から嫌い言うとらんやろ。」
 これじゃあ口喧嘩だ。
「せめて奥村先生から聞かされるんやなくて、お前の口から聞きたかったわ。」
「ごめん……。」
「言えるわけないのはわかっとる。これは俺個人の恨み言や……。ほんま情けないわ。」
 
 
正十字学園は名門子女を生徒として多数抱えている学校だ。そして、祓魔師の養成機関でもある。その塾で勝呂と燐は出会っった。
 勝呂は同級生の燐の頭の悪さに苛立ってよく衝突した。黙って大人しくしていれば並み以上に可愛い容貌なのに、男言葉で頭の悪さをまるで隠さない燐に最初は良い印象を持たなかった。しかし、馬鹿なりに努力するし、喧嘩っ早い以外は性格もそんなに悪くないから、勉強を教えるついでの交流がいつのまにか始まった。
 当初燐は弟の塾講師・奥村雪男以外の男とは基本話さない奇妙な姿勢を持っていた。何を話しかけても、ぶっきらぼうに無愛想に上目遣いのキツイ目でにらみ返してくるのが出会った始めのころの燐だった。女子に対しては話しかけたそうにはしているが、いつもすんででその勇気が挫けるのか、いつも自分の席でもじもじしているのをよく見かけた。
 男子のほうにはと言うと、大人しくて穏やかな子猫丸以外には必ず、特徴的な前歯の牙を剥いて威嚇してくる。その行動の一つ一つが、ちぐはぐで無理をしているように勝呂には見えた。だからお節介を焼く気になったのかもしれない。
『お前なあ。野郎には何を思おうが勝手やけど。女子にはもうちょい気軽に話しかけてもええんやないの? 杜山さんも神木に何言われようと気にしてなさそうやし。』
 一度だけ余りにも女子の集団に対して物欲しそうにしてたのを見ていられなくて、燐をそこに引っ張って背中を押したことはある。そのお陰かは勝呂は知ったことではないが、今では人並みに女子同士の中に入っているようだ。そして、燐は少なくとも勝呂には恫喝するような顔を見せなくなっていた。
 そして徐々に接近距離も十メートルから半分の五メートル。そして一メートルから五十センチにまで縮まっていった。
『坊。燐ちゃん酷いんやで。』
 ある日、志摩が燐から奪い取った燐の悪筆が綴ってある紙を勝呂に見せてきた。《俺的カッコいい男ランキング》と書かれて、燐がかろうじて認識しているらしい男の名前の羅列があった。一位の亡父の呼び名のすぐ下に、自分の名前があった。
『俺はランク外なんやて!』
 燐に男をちゃんと見る目やらがあるとは思えなかった。あの完璧な弟が何故か最下位争いをしていて、何故自分が二位なのかがわからない。
『志摩君は何を見て騒いでいるのですか? 姉の字のようですけど……。』
側を通りかかった雪男が志摩が差し出す紙を見て苦笑いを浮かべたあと、視線を勝呂に向けてきた。
『あの姉さんが珍しく勝呂君には懐いているわけだ。』
 その声の響きは優しげだったが、なんだか急に重石を頭に乗せられたような重圧を感じる。しかし何も言わないわけにもいかない。
『あんじょう付きあわせて貰ってます……。友達として……。』
 雪男は意味深に笑みを見せた。それが予兆だったのかもしれない。
 
 その日の夕方。勝呂がいつもの自習がひと段落つくころ。急に自習質のドアを蹴破るようにして燐が飛び込んできた。
『勝呂っ。俺……。』
 血相を変えたように燐が駆け寄って来る。きょろきょろと周りに誰もいないことを確かめる。そしてほっと息をついた。
『どないしたん?』
『雪男に言われたんだ。男子に対して誤解を招くようなメモを作るなって。あのメモはそんなんじゃないから……。それだけ言いたかっただけなんだ。じゃあ!』
 それだけ言うと燐は元来たルートを走り去っていく。走り去る前に見せた顔は、頬が上気して小さな唇ははあはあと荒い息をついていた。まるで恋の告白をしに来たような顔だった。言ってることは逆なのに。不覚にも可愛いとさえ思った。
 それにしても――。
『奥村先生。わざわざ燐にそないなこと注意したんや。』
 どうにも違和感を感じてしょうがない。まるで姉が他の人間と交流を持つことを嫌がるような気配がする。あのメモを前にした時の笑みだって、目は笑っていなかった。
 
 それでも日常は過ぎていく。勝呂も燐も、あのメモが引き起こした出来事を忘れたように互いに友達として振舞っていた。だけどいつからか勝呂と燐は他の仲間達のいない所でも二人でいることが多くなっていた。そしてそれが十日ばかり続いた頃――。勝呂は奥村雪男に呼び出された。そこには今にも泣き出しそうな顔の燐も同席していた。
 奥村雪男は静かに、そして事務的に、奥村燐がサタンの娘で青の炎を受け継ぐ存在だということを勝呂に告げた。当の本人を目の前にしての、とんでもない暴露だった。
『姉は世間一般と交流を持つことがあまり望ましくない身の上です。僕は双子の弟ですが、姉と違ってサタンの炎を受け継いでないことが幸いでした。姉を悪魔と言って迫害しようとする連中に対して、僕は盾になることが出来るわけです。でも、それでも限界があります。そこで十八歳の三月、つまりこの学園を卒業したら、僻地の正十字騎士団の修道院に姉は身を寄せることになっています。そこで一生を過ごすことになりますが、祓魔師の資格を取ればある程度の自由は保証すると騎士団上層部の了解は取れています。まあ気休めですが、生命は保証されるのです。でも一般人のような生活は、たぶん許されないでしょう。ましてや同じ祓魔師候補生でも、恋愛は限りなく難しいと思われます。出来ないと言っても過言ではない。』
『俺と奥村…さん、はそんなんじゃ――。』
『それは幸いでした。姉は悪魔ですから、男の目を惹きつけてしまったのかと心配しました。』
 実の姉に対する言葉にしては辛辣もいい所だった。どうしてここまで心無いような言葉が吐けるかと、雪男の胸倉を掴みたくなる。でも『サタンの娘』という一言が頭を掠めると、それもしょうがないかもしれないと思う自分もいる。
 燐は冷ややかな雪男とは対照的に、必死に瞼を閉じて涙が出るのを耐えていた。
『姉が将来行く支部はたぶん、日本支部では最北端の網走支部ですかねえ。僕も半年経たない内に、そこに行くつもりです。精神的に支えが必要な姉ですから、側にいてやらなければならないですから。』
『その支部って、どのくらいの人間がいるんや?』
『今のところは一人もいないですよ。姉がそこに行けば姉が一人。僕が行けば僕と姉が二人ですね。』
『支部として、成り立つんか?』
『どうせ姉を閉じ込める為の支部です。姉にも了解は取っています。』
 
 
 あのとき、嘘だと叫びたかった。あんなに女子同士で仲良くしたそうにしていたのに。自分と嬉しそうに話していたのに。なのに、三年後には全てを捨てるように北海道の名ばかり支部で、弟と二人きりで一生を過ごすなんて望んでいるはずがない。
「お前、ほんとうにほんまに……あの条件を飲んだんか?」
「だって、しょうがないだろ? あの条件を飲まないと、俺殺されるから。死ぬの怖いから。」
「殺されんためなら、嫌々でもしょうがないんか。」
「祓魔師になれたら――、殺されないし、ちょっとくらい外には出れるかもしれないって言われたんだ。網走に行っても、任務で本土に帰れるかもしれないし。勝呂にだって逢えるかもしれないっ。」
「お前の頭でなれるんか?」
「がんばるから!」
 たとえ燐が頑張って祓魔師になったとしても、たぶん雪男は燐を網走の教会から一歩も外に出さないだろう。
 勝呂にもうすうす分かっていた。奥村雪男は自分の姉を独占するために、姉を殺させない上に姉をずっと自分の側に置く工作をした。そのカラクリに頭がついていかない燐は、健気にその約束を信じている。だがそんなことを勝呂の口からは言えない。言ってしまえば燐のわずかな希望をぶち壊してしまう。
 頼りなげな身体を勝呂は抱きしめてやりたい。だが踏み込むのが怖い。今なら引き返せると頭の中の悪魔が雪男の声で囁いた。
 




思いのほか暗い話にしてどうしようかと思いました。男女のルートが違おうと雪男がラスボスになってしまう。
リクエスト有難うございました。これに懲りずにまたお付き合い出来たらと思います。

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☆☆リクエスト企画ss「フランキーズファーストアフェア」伊雑

ぷりんさんのリクエストでオフ本「恋愛サーキュレーション3」で書かれなかった、伊雑の一夜のことです。





 

「自分の家に入るのに、なんだか曲者になった気分だねえ。」
 雑渡は滅多に帰らない自宅の敷居を跨ぎかけたところで、そう言って伊作に笑いかけた。伊作もそうですねと返したが、ふとこれは失礼な返答だったかもしれないと思い返して、すみませんと小声で言った。
「気にしないでよ。照れ隠しなんだから。」
 二人が今現在いるのは、雑渡の滅多に帰らない持ち家の中。伊作は雑渡の後ろについてきている。前かがみのままで。
「本当に僕が貴方の自宅までついてくる日が来るなんて、今まで思ったこともありませんでしたよ。」
「僕も思わなかったよ。」
 昼間の伊作を思い返すと、今の状況が雑渡の頭で作り出した都合のいい幻想じみている。今まで上辺だけの優しさで慇懃ではあるけど、いつも何処かしら冷淡に雑渡に接していた伊作だったのに。今自分の後ろにいる伊作は、化けの皮が剥がれたと言っては失礼だけど、男丸出しの性欲丸出しの、どこにでもいるような十五歳だった。夜目を透かして見る雑渡の目には、そこらの盛りのついた犬のようにはあはあと小刻みに呼吸を繰り返し、目もどことなく虚ろな様子の伊作が映っている。
「大丈夫?」
「あの、もう……大分切羽詰っています。出来れば早く寝室に案内して頂けますか?」
 伊作は大分焦れてきているようだ。しかし雑渡はまだ心の整理がついていない。
 正直、雑渡は戸惑っている。今まで自分が伊作に対してイメージしていたのは、優しくて綺麗で可愛くて、清純で清潔で。まるで今の伊作と真逆なのだ。戸惑わないほうがどうかしている。大人はいまいち自分の認めがたい事実に対して柔軟じゃないのだ。
 伊作の自分に対する態度も百八十度転換した事情も、ちゃんと自分の脳内で捉えているつもりだが、それを本当に受け入れたとは限らない。ただ、おぼろげながらに想像出来ることは――。極限の状態で取り乱した自分に対して、伊作は同情し、その同情によって今の状況が作り出されたのではないか。十五歳が思い悩む程度の加害者意識がそうさせたとも思える。
自分が傷つけた人間に対して、伊作は何も思わないはずはない。それとも、傷ついて血を流している雑渡の心に、治療を施さなければならないと、戦場での習性と同じ感覚でいるのではないか? 
散々謝られて、宥められて、償いの証のように身体を触ってくれた。でもまだ好きだって言われてない。雑渡に対して罪滅ぼしのつもりで、つまりお情けで欲情した振りをされているのかもしれない。
「伊作君? 一つ訊いてもいい?」
 この子は綺麗でも清純でもない、ただの十五歳だ。小細工しなくても嘘はすぐにばれる。
「……なんでしょうか?」
 雑渡は伊作には見えている片目を一回閉じた。
「君、本当に僕のこと抱けるの?」
「うっ……。」
 伊作は硬直する。雑渡は当然の反応だと思った。しかし次の瞬間に伊作の身体が痙攣したかと思うと、その場にへたりこんでしまった。そこまで突き詰めるような言い方をした覚えはないのにと雑渡は思った。でもこれで思い直して回れ右するきっかけは作ってやった。
「やっぱり。ちょっと無理してた? こんな爛れた火傷だらけのおじさん相手に無理して欲情することないんだよ。」
 伊作はぶんぶんと首を振る。そして口を開いた。
「無理は……してましたけど。ああもうっ、なんですか。貴方のさっきの台詞で僕臨界点越えたんですけど。どうしてくれるんですか。今すっげえ恥ずかしい状態なんですけど。火傷? 火傷がどうかしましたか? さっきなんか言ってましたけど、なんすかそれ? ここまでずっと勃起したまま山道を歩かされて、ああもうちょっとだなって思ってたら、いきなり自分のことが抱ける? ですって。どんな萌え台詞なんですかそれ。そんだけで無駄に一発放出した僕はなんですか。もう責任取って下さいよ!」
 随分と聞き苦しい恨み言だった。雑渡は十五歳の思考回路にあっけに取られるが、なんとか理解する。
「そっか、関係ないのか。」
 却って火傷と年齢を引き合いに出した、自分の問いかけも子どもじみて思える。
 そこにあったのは悟りに近い優しい感情だった。今まで散々、ままならない伊作の感情に悩んできたのに。目の前の男はあっさり自分に対して欲情するまでになったらしい。しかもたった半日の間に。雑渡も自分なりに考えることはあったけど、伊作のそれは劇的過ぎる。
「しょうがないね。伊作君は。」
「もうそれはいいですから。早く布団に行きましょうよ。」
「はいはい。」
 本当にぐだぐだ。綺麗じゃない。ある意味初々しいのだけど、なんか違う。でも嫌じゃない。なんだろう。この気持ち。
 これ以上、伊作に生殺しにさせたままでは忍びない。自室の戸を開けると、後ろからせっついてくる伊作をなんとか宥めて布団を敷いていると、後ろからいきなり伊作が抱き着いてきた。
「薄荷の匂いがします……。」
「君は……。その――。」
 そこから先を言うのがなんとなく躊躇われる。伊作の下着と袴に付着しているものの匂いが、雑渡の鼻を掠める。屈みこんでいたので、抱きつかれると言うよりは、動物の交尾のように上に乗られていると言ったほうが合っている。これはやばい。
「伊作君。落ち着こうよ……。」
「はい……。」
 雑渡が危惧するより伊作は冷静だった。それでも、いきなり突っ込まれたのでは堪ったもんじゃない。その辺の雑渡の危機感は理解して欲しかった。
でもなんとなく刺激的で良いかもと思ってしまう。もう駄目だ。雑渡までなんかふわふわしたものに乗せられている。
「雑渡さん。服脱がしてもいいですか? ――全部。僕の手で脱がしちゃっていいですか?」
「自分で脱ぐのじゃ駄目?」
 雑渡が自分の襟元に手を掛けると、その手の上に伊作が手を重ねてきた。
「駄目です。是非僕にやらせてください。」
 なんの拘りかと思った。が、大人としてここは伊作の望みを叶えてやろう。さっきまでお預けが長かったのだから。
「良いよ。好きにして。」
 雑渡は自分で言ってみて途端に熱が出たような気がした。
 



本番は書きませんでしたが、初々しいと素直に言えないような二人です。雑渡さんはやっぱり伊作の気持ちを疑ってました。でもここで確定しました。伊作の色ボケが。
リクエスト有難う御座いました! 今後もよろしくお願いします。

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プロフィール

HN:
柴仲達
性別:
女性
職業:
会社員
趣味:
読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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