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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆『続・super scription of date』中編① 燐雪前提の朴雪 前作の解答編

「だから先生は」
 暗闇の中から朴朔子の声がした。雪男は前進する朴に手を引っ張られながら人が通れるくらいのトンネル状(?)の通路を通っていた。
一切の光源がない上に雪男は朴の手以外のものには触れていないので、実際の広さは分からない。それでも雪男の脳裏に張り付くイメージはトンネルしかなかった。
この先に前回のサルベージのとき朴が設定した場所がある。他人の精神世界では無敵で無制限状態になれる朴が、雪男の夢の中で勝手に創った架空空間の入り口に、二人は向かっていた。通路は僅かな隆起も陥没も無くしかも進む方向は単一方向なので暗闇の中でも特に不安は感じない。でも探るように腕を手繰られてたどり着いた指先に触れられたとき、雪男は反射的に朴の手を握っていた。まるで縋りつくような弱気な挙動だったと雪男は顔を赤らめたが朴には見えていない。
雪男にも朴の表情は見えないので本当は雪男の強がりを悟られているのかもしれない。粛粛と雪男をエスコートしている少女はどこを向いているのかさえわからない。
 朴は一旦切っていた会話を続ける。
「だからあんなことしたんだよね。先生は。」
「あんなことってなんですか。」
 唐突に話しかけられて要領を得ない問いに了承を求められた。当然聞き返すに決まっている。朴は雪男の返答に少し不満げに唸った。
「むぅ。本当に素直じゃないな。先生は。」
「だからなんなんです?」
雪男は不本意そうに問い返した。朴は一つ息を吐いて話し始める。
 
「前回のサルベージの前に起こった事件のことだよ。悪魔による精神攻撃の魔障で理事長と先生が昏睡状態に陥った。あのアクシデントというかテロは、先生自身が仕組んだことだよね。」
 
 不意をつくような朴の言葉だった。雪男は数秒間絶句した後、何だと、と低い声で返した。朴はそんなことは意に解さないとばかりに、長い原稿を読み上げる朗読者のように言葉を続けていく。
「動機はお兄さんが認定試験に落ちるのは確実だと思ったから。認定試験を延期させるために先生は自らを昏睡状態にしたんでしょ。理事長を道連れにして。違うかな? 
理事長を行動不能にさせておけばヴァチカンとの相互の行き来に影響を及ぼすよね。並びに日本本部の最重要人物いや悪魔を昏睡させる程の存在への危機に注目を集めて、サタンの息子の危険性を相対的に薄めてしまえる。『どうやってそれを僕がやったんだ』と先生は私に問いかけるだろうけど、それは起こったこと全てが物語っているんだよ。
学園の結界を一部破損させたのも先生だし、悪魔が侵入したのだって先生が悪魔を誘導したからだよね。人を夢の世界に閉じ込めて昏睡させる。そんな悪魔を先生は意図的にこの学園内に招き入れて理事長を狙うように仕向けた。そして自分も一緒にその場で昏睡状態にさせられることで、この事件が人為的に引き起こされたものだと気づかれないようにした。
ていうかサタンの息子の弟の犯行と動機を隠すためでしかないんだろうけど。でも隠し通せなくても先生は構わなかった。ただお兄さんが自分と共犯関係だと疑われなければそれで良かった。最悪でも弟が勝手にしでかしたことだと思われればいいぐらいの採算だったんじゃないかな。そんな情がらみの焼け石に水的な犯罪は、先生のように悪魔の兄を持ちながら身も心も弱い人間が追い詰められた結果だと推測されると計算した。学園に一時的に起きたパニックとは無関係を裏付けるように、お兄さんは自ら先生をサルベージしに先生の精神世界に入って行った。」
雪男は馬鹿らしいと一笑にふそうとした。しかし不覚にも声が出せなかった。朴の決めつけ台詞を否定しなければならないと焦る。大分、機を逸したというタイミングでやっと舌が動いてくれた。
「だけどサルベージされた後、誰も僕や兄さんにそんな疑惑を向けてくる者はいなかったよ。それに貴女がいうことが正しければ僕は愚かにも捨て身の行動を取ったことになる。そんなこと小心なこの僕に出来るわけないよ。」
 朴は冷ややかに低い笑い声を立てた。それは嘲笑うようではなく何処か物悲しかった。嘲られているのではなく、憐れまれているらしい。
「先生は夢の世界で燐君を道連れにして捨て身だと思えることしてたよね?」
 雪男は自らの精神世界に兄を取り込み、その中で共に果てても構わないと思っていたと取られても仕方ない言動を朴の前で取ってしまっている。だけどそれは、後で泣き言と恨み言と一緒に「諦めた」と朴に告げた。
 だから。でも。
 そんなことで容赦してくれるような朴ではない。朴の探偵モドキの解説は続く。
「実はね。先生が思うより周りは……正十字学園の祓魔師たちは人為的な犯行というよりは事故だという見解を取っちゃってたんだよ。その分彼らの対応は先生が思うより迅速だった。そりゃそうだよね。祓魔師は警察じゃないんだから真相究明よりも、事故による被害の早期回復と危険対象の拘束なり消滅を優先させるよね。原因になったらしき悪魔はすぐに捕獲されたし。
そういうわけで祓魔師たちはこぞって理事長と先生の救出に専念できてしまった。先生が予測してたより物凄く早く厳戒態勢は解除されたんだよ。そしてサルベージ後に事故に対する違和感とか、遡って原因を追究しようかなんて皆少しは思ったかもしれないけど、そこは被害者の最年少の同僚の証言を聞けばいいくらいに思うよね。先生はいわゆる世間が認める「いい子」だから、誰も先生の言葉を疑わない。先生が事件の状況を「わからない」と言っても事件の元凶は悪魔の仕業だとされてるし、先生は被害者で昏睡してたし、わからないと答えてもしょうがないと思うのが人情だと思うよ。実際皆、先生に同情してたよ。理事長の傍にたまたまあの時いたのが災難だったって。
凄く大雑把でいい加減な話だろうけど。彼らは祓魔師だから次から次へと対応しなくちゃいけない意味不明なことは日常的に慣れているわけだし。若くていい子だと知っている仲間を疑うなんてしたくない。仲間を疑わなくちゃいけない状態は、祓魔師にとって一番危険な心理状態だったよね。そして原因究明がおざなりになったのは、一番の責任者たる理事長が事件当時、事実的不在で調査なり救出の指揮系統のトップがいなかった事と、ヴァチカンからの指示も仰げなかった事。それで、そのへんはうやむやになったんだよ。混乱は起きたけど誰かが意図的に起こしたことだとまでは疑われてない。理事長は早急にサルベージされてヴァチカンとの連絡手段も復活したしね。
今度のことは世界各地の騎士団の拠点で突発的に起こる悪魔の襲来だとみなされ、一番甚大な被害は理事長の昏睡だったけど、日本本部における要の悪魔の行動不能に対して追撃が無かったんで皆ラッキーって、そんな感じで終わっちゃった。」
朴は延々と喋ってふぅと息を吐いた。しかしまだ朴の追及は終わっていない。雪男もそれを察して口を挟まず次の朴の言葉を待った。
「理事長もこのことについては自分が迂闊だったと認め、文書でヴァチカンに届け出て自分以下の日本支部の祓魔師たちに謝罪までして自分自身を今謹慎処分中だし。あの人にしては殊勝だよね。 
その辺で理事長の謙虚さを疑ってみてもいいのにね。丸く収まりすぎだろって。それでも彼ら祓魔師達はあまり積極的には疑おうとしなかったんだよ。なんでだと思う? それはね、あの時起きた混乱の現場の最至近距離にいて当事者だった先生のお兄さんが未だに理事長こみで彼らに内心では恐れられているから。係わり合いになりたくなかったのと、反対になんかんだで先生は彼らには好かれているからだよ。人情と無関心故のなあなあが先生を助けてくれたんだよ。ありがたいよね。なのに先生は、そんななあなあが大嫌い。自分でいつもなんとかしようとしてる。」
「でも今は、貴女を頼っている。」
「だけど滅茶苦茶不本意でしょ。」
 雪男は朴から自分が見えないことを分かって顔を後ろに逸らす。
「先生にとってお兄さんの精神世界潜入は計画の外で、お兄さんの取り込みはあの場で急遽思いついたことなんでしょ。理事長を昏睡状態にして物理的にヴァチカンとの繋がりを切ってしまうより、お兄さんを自分の中に閉じ込めてしまうほうが早いって気づいちゃったんじゃないかな。先生と一緒に目覚めることのない眠りについたお兄さんと先生を、あとはヴァチカンがどう処分するかは分からないけど。少なくとも目の前でお兄さんが処刑されるところは見なくて済む。そして自分の精神世界の中では先生だけのお兄さんを永遠に確定させることが出来る。」
「それは、兄さんが僕の精神世界に抵抗しなかったから成立する推理ですよね。兄さんは檻に閉じ込めても無駄な人なことは誰よりも僕が知っている。兄さんは僕の精神という脆弱な檻に閉じ込められるほど弱くない。」
「うーむ……。そこで納得してあげてもいいんだけど。それだと今までの私の長ったらしい立証は全て無駄になっちゃう。身内の証言は覆すのがきついね。」
 雪男はそうだろうと言うように握っていた朴の手に力を込める。しかし朴はあっけなく雪男に言い返した。
「でも私、君たちのこと、でばがめってたからねえ。燐君の情が深いとこもつぶさに見ちゃったし。精神的な世界は単純に強い弱いの世界じゃない。情が深くて強い人間は、時には弱い人間に流されて間違った選択を取ってしまうんだよ。」
 延々と続くトンネルの途中で朴は立ち止まった。斜め後ろで雪男も同じように足を止め、朴が次に口を開くか歩き出すかを待っている。現実世界の朴に対する嫌悪的な態度や反抗的な言葉は今は出てこない。出す必要もないし、今の朴については雪男は嫌悪する気がないからだ。
そして今までの言葉の流れで雪男は自らが意図的にやったということまで認めることにした。それでもまだ朴に対しては厚顔でいられる。向ける感情が宙に浮いてしまった対象に憐れまれていても、意地になるほど切羽詰った衝動は沸かない。朴がとんでもないところに踏み込んでしまう前に流してしまえばいいのだと雪男は心を落ち着けた。
 
「貴女の言うとおりです。僕は結界をわざと破損させてある悪魔を招き入れた。兄さんのためだったんだ。そしてその後の展開は兄さんが僕の精神世界に来たことで僕が欲を出したからああなった。」
 
「ふうん。それと――。」
 ややあって朴の声が再び暗闇の間隙に滑り込んできた。雪男の自供を聞いていないかのような声音だった。
 
「まだあるんですか?」
 雪男からしてみれば朴の推理は大体のところは真相にたどり着いている。
確かに雪男は意図的に自分とメフィストを昏睡状態にした。兄を取り込んだのもその場の思いつきだった。
しかしこの推理には決定的なものが足りない。朴はそこにまで言及してくるのだろうか。
否、普通の人間はそこに言及できるはずがない。しかし朴は普通の人間でありながら普通の人間ではない。単一の思考と人格でありながら、単一の思考と人格なのに膨大な個体数の集積を実現させていた。視点の多角さ故の緻密な洞察。卑怯業の極致。化物と呼ぶに相応しい禍禍しい女。ある意味ではサタンより恐ろしく見える。
 それでも朴が経験した「奥村雪男」から導き出した推理を持ってしては、残りの真相は絶対に引き出せない。善意からでも悪意からでも朴自身が見た「奥村雪男」を信じる限り、その真相は見つけることが出来ない。どんなに優秀なプロファイリングでも「奥村雪男」とソレを繋ぎ合わせることは出来ない。ごく初期の時点で祓魔師をリタイアした彼女にそれは分からない。彼女だけじゃなく「奥村雪男」の思考回路を知る者はきっと、知れば知るほどその真相を否定する。
なのに朴はあっさりとそれを超える。
「あれから私、先生が言っていた大嫌いな元人間の悪魔について調べたんだよ。確か藤堂三郎太っていう悪魔落ちの祓魔師だったらしいね。」
 朴が話した自らの生業イコール情報屋からして知られていても当然かと、雪男は混乱を抑えてそれらしく解釈した。
「それがどうしたんですか? 今までの話には全然関係ないじゃないですか。」
「夏休みからちょくちょく先生は、その元上二級から粘着されてたって証言があるんですよ。」
「それは彼の一方的な粘着で、僕は彼のことなんて迷惑でしかありません。それともなんですか。今度の事件は藤堂との共犯だと貴女は言いたいわけですか。」
「先生は藤堂さんとは共犯関係を結んでいない。でも彼は間接的にこの事件を起こす前の先生に悪影響を与えてたんでしょ。私が取材した話では悪魔祓いに関わった人間は、自分の弱さを悪い意味で許容してしまった場合、悪魔落ちという現象を起こしてしまうこと。それによって悪魔の能力を持ってしまうこと。容姿の変化を誤魔化せれば、悪魔落ちした祓魔師と普通の祓魔師を見分けることは難しいこと。」
 朴は平然と雪男に告げた。
「私が推測するに一番あり得る可能性を指摘すれば。」
 朴は奥村雪男を知っている人間として一番言ってはいけない言葉を平然と言い放つ。
 
「先生は既に悪魔になってるでしょ。」
 
 雪男はびくっと身体を震わせた。その震えは繋いだ手から朴に伝わっていく。
 雪男は怒りか動揺で震える声で朴に言う。
「兄の炎一つさえ肯定できない悪魔嫌いな僕が? 精神の弱さは自覚してるけど、悪魔を許容するかどうかはまた別物じゃないかな。」
 雪男は朴の当てずっぽうな考えを修正しようと言葉を吐く。雪男の怒りは尤もだ。それでも朴は雪男をもっと怒らせるように仮説を続ける。
「でもね。そうじゃないと辻褄が合わないんだよ。私が思うのに結界の破損はダミー。捕獲された悪魔もダミー。じゃあ本体は何かと言うと、既に結界の内側にいた悪魔。理事長に匹敵するほどの、そして理事長を行動不能にするほどの。それは理事長と同級かそしてそれ以上の存在。あの理事長自らが謹慎処分を受ける必要性、つまり庇い隠そうとする程度の存在。すなわちサタンの息子の関係者。より強く言えばこの事件の発端。先生はお兄さんの命を助けようと自ら悪魔落ちした。そして強大な能力を手に入れて計画を実行に移した。先生に発現した能力はお兄さんとは全く別のもの。お兄さんの炎が物質的に対象へ消滅するほどのダメージを与えるなら、先生はその対象の精神を蝕み侵食していく能力。」
 馬鹿かと雪男は声を絞るように叫ぶ。トンネルと認識しているのに、その声の反響は驚くほどになく、暗闇に溶けていった。
「結界の破損も悪魔もダミーだなんて、どこにそんな証拠がある。」
「証拠はないよ。ただ悪魔落ちした先生はお兄さん同様悪魔の若君になるだろうから、自我のある中級以下の悪魔は先生に無条件に従うんじゃないかな。先生が命じれば。だからそれをダミーにしたわけだよね。」
「君のいうことは意味が分からない。」
「さっきの素直な先生らしくないな。ていうかそのダミーを捕獲した一人っていうのが、その優秀な手騎士のネイガウス先生なんだけどな。それにネイガウス先生は私の言うダミー説の後付もしてくれたよ。無意識的に。」
 
『これがその悪魔なんですね。』
 朴が問うとネイガウスは魔法円に閉じ込めた悪魔を眺めながら首を捻った。
『あのメフィストフェレスが、この程度の悪魔相手に昏倒させられただと?』
『え? 意外とたいしたことないのですか? これ』
『人間の精神や夢に干渉する悪魔であることは確かだが。』
 
「ほんと。歯切れが悪い言い方でしたよ。でも正十字学園にいる悪魔で該当の能力を持つのはその悪魔くらいでした。それ以前に正十字学園は悪魔の存在が他のどんな場所より少ない区域になってますもんね。」
「僕がダミーを用意したって疑うよりも」
 雪男は言いかけたが朴の言葉が入り込む。
「別の悪魔と勘違いして捕まえてしまったというのはナシですよ。実際、その悪魔を使って私達は精神世界に潜入したわけですから。無関係って言うのは苦しいと思いますよ。」
「僕が故意に人間を昏睡させる悪魔を使役してじゃ駄目なんですか。称号は持っていませんが、ある程度の悪魔は召喚出来ます。」
 朴は少し強引な言い方で駄目ときっぱり言い放つ。
「『ある程度』の『たいしたことない』悪魔の能力に対して、メフィストフェレスともあろう方がすんなりその悪魔の能力に屈するとは考えにくいです。彼のスペックを鑑みれば、もっと上級の悪魔でなきゃ彼を昏睡させることは出来ない。
しかし結界の張られた正十字学園において存在出来る上級悪魔は結界を作った本人であるメフィストフェレスが一人。そしてメフィストフェレスに人間で祓魔師だと認識されながら、実は悪魔落ちをしていたかつての藤堂三郎太。メフィストフェレスに招待を受けて物質界に来た地の王アマイモン。そして彼の末弟にしてサタンの息子である奥村燐。
それらを総合して考えれば、人間として認識され、メフィストフェレスに知られずに悪魔落ちした人間や、メフィストフェレス自身が敢えて招き入れた悪魔には、それ以降結界の効力がなくなってしまうという仮説が成り立ちます。理事長の自慢の結界というのは、彼の人格と同じように欠陥品。彼の都合のいいように合わせた故に抜け道は幾らでもあるという代物。それまで騎士団の身内であった悪魔落ちした人間や招かれた悪魔にとっては正十字学園はドーナツの穴のようなもの。
それを考えれば先生は、祓魔師なり生徒なりでメフィストフェレスから招待を受けた人間で、サタンの息子の弟である。知らないうちに悪魔落ちしても、先生は自ら自分の身体を検査しているので幾らでも検査結果の誤魔化しが利く。これほどまでに結界をスルーするのに都合のいい立場はない。」
「それが僕が悪魔落ちしたっていう推察の証明にはならない。」
 ダメ押しのように雪男は最期の抵抗を試みた。なのにそれは――。
「だから先生自身がもうバラしちゃっていいんじゃないですか? 大丈夫です。私は誰にも言わないし、理事長だって口を噤んでくれます。脅すようですがここで先生が認めなければ、私は今までの推察をお兄さんに告げ口するかもしれませんよ。お兄さんは情が深くてすぐ人を信じますけど、先生にこうも何回も裏切られたと思える事実を私が指摘すれば、先生でなく私を信じる可能性もありますよ。確率的には五分と五分。」
 ――緩い、決め手には届かない言葉で打ち返される。
「脅迫だね。それは。」
 雪男は朴から手を離す。肩まで両手を挙げると暗闇のどこかにいる朴を睨み付けた。
「兄さんは絶対僕を信じてくれる。」
「それならそれでいいけど。私は先生が本当のことを言わないからって、燐君の救出にこれ以上協力出来ないなんて言わないし。」
「当たり前だ。ここまで来ておいて。」
「ただ先生の状況が私の推察どおりなら、自分一人でそれを背負えるの? 燐君でさえサタンの息子であるという現実を、先生や仲間がいなくちゃ抱え切れなかったと私は思うんだけど。
先生は悪魔落ちの動機を「兄さんを守るため」って大義名分を掲げることで気丈に振舞っているようだけど、結局は自分の兄を今度の事件で半廃人に追い詰めたようなもんだよ。私はまたそんな事態になることを未然に防ぎたいって思ってる。
私がこうやって先生を追い詰めるような真似をする動機って間違ってるかな? 私に本当のことを言ってくれれば、燐君にはまだ話していないけど嘘はついてないってことになるんじゃないかな。誰かが、特に名目は一般人な私が知っているんだから。そうなれば気づかない燐君や他の祓魔師のほうがよっぽど鈍いって話にも挿げ替えられるよね。そっちのほうが都合が良くない?」
「僕の人格の瑕疵を、貴女が請け負ってくれるっていうんんですか?」
「私はただの一個人だけど、幸いにも私という存在は膨大にいる。幾らでもフォロー出来るんだよ。」
 朴は雪男の手を取ってずんずんと歩き出す。
「今すぐ本当のことを言えとは言わないし、ここでずっと先生の回答を待つつもりもない。道中はまだ十分の一もいってないんだよ。」
「つまり、兄さんに対して僕の都合の悪いことを言われたくなければ、精神世界にいる兄さんと遭遇するまでに貴女に真実を言えと?」
「そういうことと取っていいよ。」
 雪男はしかめっ面を浮かべながら朴についていく。朴は手を繋ぐときさりげなく雪男の手首の脈を探っていた。雪男の動揺などで現れる脈の変化は朴には知られているだろう。ただそれは動揺でしかない。動揺している事実は知られているが何で動揺しているかは知りようが無い。しかしその理屈が朴に通用するかどうかは別物だ。
 
 二人はトンネルを抜けるとそこはネオンが輝く歓楽街だった。自分達の女子制服姿はすごく浮いていた。
「朴さん。ここは僕の精神世界のはずでしたよね。あのときの僕らの部屋が星空に浮いた時といい、好き勝手やりすぎじゃないですか。」
「あはは。私が動きやすいようにチューニングした結果だからね。あそこのラブホが入り口だから。」
 見るからに趣味の悪い派手な建物だった。出入り口には上から垂れたゴム製の幕が掛かっている。しかし雪男と朴は徒歩なので二人はそのままそこをくぐってフロントに急いだ。
 フロントは無人だった。ラブホテルなのでそれが普通なのかと雪男は妙に納得した。しかしながらタッチパネルで部屋を選ぶ朴が妙に手馴れている。よく見るとそれは部屋の選択ではなく、朴が設定したと思しき雪男の精神世界のマップらしきものだった。
「これとこれとこれをこの順で設定して。それじゃいきましょうか。」
「その前に。」
 二人は廊下を歩いている。雪男は朴の後ろから言う。
「朴さんの推理は当たっています。僕は悪魔落ちしています。」
 朴は振り向いて目を丸くしていた。
「もう少し粘ると思ったんだけど。」
 雪男は朴の前に跪く。
「お願いです。兄さんにだけは……」
「いや。そこまで疑うわけ。誰にも言うつもりないって言ったよね。」
 雪男はそんな言葉が聞こえていないかのように朴の足にしがみ付いて懇願する。
「なんでもします…だから、兄さんにだけは僕が悪魔落ちしたってことは……」
 朴はにやけながらも、困ったように見せかけるために目元を覆い溜息をつく。
「やっぱり凄く気持ちは溜め込んでたんじゃん……。先生は」
「うう……」
 朴に屈する屈辱よりも、兄からの信頼が崩されそうになることを恐れた。故に雪男は朴に縋った。朴は誰も通らない廊下の端に雪男を座らせる。
「私は自分じゃその気はないんだけど、先生をいじめちゃうみたいだね。」
「だってまさかこんな推理されるとは思わなかったから。」
 いやいやと朴は雪男の言うことを否定する。
「推理っていうか、八割がたハッタリだったんだけど。自分でも騙ってるうちにノリノリになっちゃって。ごめん。」
「ひどい……。」
 雪男は一言呟いて立ち上がる。
「そんなことなら、しらばっくれればよかった。」
 朴はてへへと笑うと大股歩きの雪男についていく。
「奇跡も魔法も無いけど、イカサマと必然はあるんだよ~。」
 歌うような朴の言葉に雪男は耳を塞いだ。

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柴仲達
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職業:
会社員
趣味:
読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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