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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆「逆境破戒覇王無頼賭食伝レイジ」奥村兄弟+白鳥 ギャグ

 燐と雪男が旧男子寮に暮らし始めて以来、何回目かの珍事が起きた。悪魔のイタズラのせいでガスと電気が止まった。しかし出自がボロ教会の二人にとってはささいなことだった。それぐらいのことは小さな頃から慣れていたので二人とも慌てることはなかったが、ただし今回に限り不測の事態が二人を襲っていた。
「俺ってさあ、サタン様の息子なんだよな。その若君なんだよな。」
「そうだね。兄さんは悪魔のビッグダディの愚息だったよね。」
「ならなあ、その若君様のささやかな暮らしに、下っ端どもが支障を来すような真似はしないのが当たり前なはずだよな。なんで電気とガスが止められなくちゃいけないんだ。あ。でも夜に勉強出来なくなるからいっか。」
「蛍の光窓の雪っていう歌の一節は知ってるよね。兄さんの悪魔的視力なら月明かり星明りでも事足りるんじゃない?」
「ちっちっち。月明かりや星明りはラブラブな二人のためにあるんだぜ。なあ雪男。」
「きゃっ。兄さん。はずかし……」
 燐と雪男は傍で見ているクロの冷めた視線に慌てて襟を正した。クロは一声にゃあと鳴く。燐はクロの頭を撫でながら呟いた。
「そうだな。クロ。あれをどうにかしなきゃいけなかったよな。」
 クロは何事か燐に告げたらしい。それは今回の事態の唯一の問題を指摘していた。電気とガスが止まることによって、由々しき事態が進行中であった。
「なあ雪男。どうしたらいいんだろうな。」
「そうだね。でも、どうするかはもう決まってるじゃないか。」
 燐は観念したように溜息をつく。
「他に方法思いつかないし。俺とお前とクロ。男が三人いるんだ。今夜中にはなんとかなるはずだ。」
 雪男はファイトと心の篭らない掛け声をかけ、燐も応とそれに倣った。
 
     *   *   *
 
 白鳥零二。
 
青の祓魔師の第一話に登場しているわりには、世界観説明用の悪魔の憑依体としてしか扱われなかったDQNキャラである。名前からして次男かなと思わせるが、その上の零は親の名づけセンスを疑ってしまう。正十字学園一年生、学業は優秀じゃなさそうなので、普通科に入学してきた実家は金持ちのボンボンだ。
 夕暮れ時の補習からの帰り道、うざい教師からの生活指導に辟易しながら寮に足を向けていた。そして丘の上にある旧寮が見える場所で何やら集まっている人だかりを見つけた。
「煙が出てる。火事なのかな?」
 白鳥と同じように補習を受けていたらしい女子生徒の数人の中の朴という女が声を上げる。火事を疑ってる割には携帯を取り出して消防に通報する仕草は見せていない。至極他人事のような態度だった。
「まあ火の手は上がってないみたいだし、あんだけ中も外もボロボロだったら燃えても大して被害は無いだろうし。私を酷い目に合わせたゾンビみたいな悪魔もちょうどよく居合わせて燃えちゃえばいい気味だし。」
 朴の独り言を聞いていた白鳥は、この女あの寮の内部に入ったことがあるんだろうかと怪訝な目で見てしまう。男子寮に入り込んだり、その中でゾンビのような悪魔と遭遇したり、その悪魔が焼死すればいいと物騒なことを言っている女。白鳥は早足で通り過ぎようとした。
 数メートル朴から離れたところで振り返ると朴はにこっと笑って白鳥に会釈した。そしてそのあと旧寮を指差し『行ってみる?』と目顔で問いかけてきた。白鳥はぶんぶんと首を振るが、朴は相変わらず旧寮の方を指差し、もう片方の腕をぶんぶん振り回している。
 すなわちそれは白鳥に行って来いと告げているらしい。面識のない女に無言の指図をされるのは白鳥にとって屈辱だったが、見かけに寄らない物騒さを感じ取った白鳥は苛立ちを隠さないまま旧寮に寄り道が決定してしまった。
 
     *   *   *
 
 今は夏休み後半であった。つまり一番暑い季節である。旧寮にはクーラーがないので奥村兄弟は涼を取ることに関しては最初から度外視している。夏なので風呂の湯が出ないこともあまり気にしていない。水風呂に入ればいいからだ。
洗濯だって手洗いのスキルはあるので電気関係の修理が終わるまでどうにかなる。そして照明は燐の特訓の為の蝋燭が大量に余っているのでライターなり青い炎があればいい。問題は雪男の仕事用のパソコンだが、塾にいるときに電源を借りられれば解決する。携帯電話の充電もメフィストに理由を説明すれば上記の方法でも許してくれるだろう。
 あらかたの問題点は解決した。衣食住の衣と住は解決した。
「それにしても思わぬ落とし穴があったぜ。」
「そうだね。」
 二人は玄関先でしゃがみこんで、七輪を団扇でぱたぱたと扇いでいる。その上に乗せられた金網には魚が焼かれていた。焼けるにつれてその脂が炭の上に落ちる。じゅっという音と共に煙が立つ。そこから少し離れたところでは飯ごう炊飯が行われていた。野外研修以来のキャンプ状態だった。
 白鳥と朴らが目撃した旧寮から立ち上っていた煙は、奥村兄弟がごく原始的な方法で夕餉を作っているが故に発生しているものだった。
「おい雪男。お前の上司のあのピエロに今度こういう非常事態の為の自家発電電源でも吹っ掛けてこいよ。」
「えー……そんな怖いこと僕にさせる気? 兄さんこそあの人に後見されてるんだから、僕よりよっぽど要求が通るんじゃないの?」
「俺の支給されてる生活費、前にも言ったことあるけど二千円だぜ。あいつにとって得したり面白そうなことがなけりゃあ、俺のお願いじゃ通らないぜ。」
「なら僕はなおさらじゃないか。」
 そんなふうなお互いへの擦り付け合いを繰り返しながら、兄弟の目はひたすら七輪の上を向いていた。その横にある大きなビニール袋の中身に目を移すと、互いに深い溜息をついた。
「一晩あればどうにかなるって話だったけど、一晩たったらある意味アウトじゃない?」
「だからどうしても今晩中に全てを終わらせるしかないんだ!」
「兄さん。暑苦しいよ。七輪だけで十分に暑苦しいんだから、これ以上暑苦しくされたらある意味僕達に残された時間が短くなっちゃう。今の僕達に必要なのは完璧な身体のコンディションを保ちながら、気力の減退も極力抑えることじゃなかったっけ。」
「そうだった。ほれ、これは雪男のぶん。次はクロのぶん。」
『やっとおれに回ってきた。』
 雪男の皿に焼けた魚を箸で置く。
そのとき、皿の上に急に影が差した。
「あはは。なんだそんな貧乏臭い焼き魚。貧乏人の食い物は見るからに貧乏くさいな。」
 燐は見上げると怪訝そうに「ああん?」と不良時代の片鱗を窺わせる声を上げた。
「てめえこそ鳩を撃ってたじゃねえか。あれは晩御飯のおかずじゃなかったのか?」
「遊びだよ遊び。」
 燐は遊びかよと吐き捨てるように小声で言った。鳩の件は言い返すつもりはないらしいが、別のことで燐は黙らずにはいられなかった。
「秋刀魚だぞ秋刀魚。旬で初物だったら結構な高級魚だろ! しかも良い栄養があるんだぞ。雪男は秋刀魚ばっか食べてるから頭が良いんだ。」
「じゃあてめえは?」
「俺は、これ以上馬鹿にならないように。予防してるんだ。」
 あまり胸を張って言えない事実だった。白鳥は噴出してしまった。
「どっちにしたってびんぼくさいのは、びんぼくさいんだよ。なんだよその七輪。そんなびんぼくさいもので焼くから、余計に貧乏臭く見えるぜ。」
「お前、このびんぼくさい七輪が七輪だってわかってるじゃねえか。そういうときはさりげに知らない振りするところだろう。」
「白鳥君。七輪で焼いた魚は寧ろ贅沢なんだよ。」
 雪男の目線の冷たさに白鳥は後ずさる。
「そ、そういうのはなんだアレ、わざとらしいじゃねえか。レトロなシチュエーションを楽しむってやつ? はあ……。貧乏臭い上にじじ臭いぜ。」
 燐は無言で魚をひっくり返す。
「今俺たちの寮、ガスが止まってるんだ。電気もな。」
「貧乏臭いんじゃなくて、本当に貧乏なんだな。」
「光熱費を滞納したわけじゃないんだよ。そう、悪魔のせいでこんなことになってるんだ。」
 「悪魔」という言葉に白鳥はぴくっと反応する。白鳥は少し前に自分が悪魔に憑依されたことを自覚している。そして現在も自分の後ろで「わかぎみ? わかぎみ?」と肩に手を置いて燐を覗き込む何かを感じている。
『わかぎみじゃねえんだよ!』
 白鳥は心の中で何かを威嚇した。何かはぱっと白鳥から手を離した。雪男と燐も白鳥の背後の何かに気づいてはいたが、全力でスルー中だった。
 旧寮の招かれざる客・白鳥は、気を取り直して再び燐にいちゃもんを付けようと口を開く。
「俺なんか親が金持ちだからさ、高級な鯛とか平目とか河豚とかしか食ったことはないんだよ。しかもそんな頭が付いた状態の魚なんてダサくてさあ、俺ん家のシェフはいつもスタイリッシュなフレンチだのイタリアンだのしか作らないから、そんな原型のまま塩振って焼くだけの魚なんて信じらんねえよ。」
 燐と雪男は顔を見合わせて頷きあう。
「だからお前は頭悪いんだな。」
「秋刀魚をせっせと食ってなお頭が悪いお前が言うな!」
 貧乏人には皮肉も通用しないのかと、白鳥はわざとらしく自分の頭に手を添えた。
「はあ……。」
 ことさらに溜息をつく白鳥だった。屈んでいる雪男が上目遣いに白鳥を見つめている。
「な、なんだ?」
「フレンチやイタリアンが高級ってイメージも、なんか貧乏人っぽいよね。いかに画一的な食事しか体験してないっていうのも暗に露呈されてるよね。」
 鯛の尾かしら付とか、塩釜焼きとか、生け作りとか、雪男はぶつぶつと白鳥に聞こえよがしに呟いている。兄が率直に言い返すのに、弟は自分の賢さを最大限に活用して嫌味だった。そんな風に兄弟二人からステレオ状態で言われると、まるで自分のほうがいびられているような気分になってくる。
「お前ら、総合的に言うと俺の視野が狭いって言いたいんだな?」
「そうだな。俺たちはそれが言いたかったのかもしれない。」
 燐が遠い目をして穏やかに口にした。
「そう言ってるじゃねえか。何を謙遜したような言い方するんだよ。いちいちむかつくんだよ。いやだいやだ。貧乏人のマイペース。」
 京都での不浄王や熱海でのクラーケンを体験した燐にとっては、元悪魔憑きの不良なんてまさしく雑魚にしか感じられなかった。その上での余裕のある対応だった。
「確かにお前の家は金持ちで、俺たちは貧乏なのかもしれない。だけど食ったことのないものを頭から貧乏臭いと決め付けるのは、金持ちの驕りを通り越して、タダの無知でしかない気がするんだ。白鳥。お前は本当に秋刀魚の塩焼きを食ったことがないのか?」
「ああ。食ったことないぜ。」
 燐は哀れむような目を白鳥に向ける。下から目線(物理的な意味)で。
「古今東西。貧乏人の食い方がある意味贅沢だったという逸話は幾らでもある。どうだ、白鳥。数々の逸話に裏付けられた俺の言い分、聞いてみないか?」
 まるで哲人のような燐の言葉に再び白鳥は後ずさる。後ろの何かは自分の背後で正座して燐の言葉を傾聴して感心しているような気がする。白鳥は絶句したままどうやってこの場をやり過ごし、撤退しようかと目線を泳がして思案していた。そんな白鳥の様子を察したのか、燐が先に口を開いた。
「食ってみるか?」
「は?」
 天から降ってきたような燐の言葉だった。燐は淡々と白鳥に向かって語りかける。
「もし今焼きあがる出来立ての秋刀魚の塩焼きが、どうしても旨いと感じられないなら、その時こそ俺たちを貧乏人だと罵ればいい。俺たちはその言葉を真摯に受け止めよう。そして金持ちに勝てなかった貧乏人として、これからも慎ましく生きていく。お前は金持ちの家に生まれた幸運を誇ればいい。」
「兄さん! そんな白鳥君の主観に頼るようなこと。」
 燐の隣から雪男が身を乗り出す。
「白鳥君は嘘をつくかも、いや、嘘をつくに決まっている。それに白鳥君が特定の味しか美味と感じない、そんな味音痴だとしたら兄さんの提案は馬鹿みたいじゃないか!」
「雪男。いいじゃねえか。俺たちが戦うべき金持ちは白鳥だけじゃねえ。あのピエロとかピエロとかピエロとか。」
 雪男は燐の卑屈なまでの金持ちへの反抗心に涙が出そうになった。だが兄はうっすらと口元に笑みを作っている。まるで白鳥という憎き金持ちに勝とうが負けようがどうでもいいという顔だった。
 ふと雪男が思い当たったのは、兄がわざと白鳥を挑発しているのではないかというものだった。兄は、白鳥に微笑みながら秋刀魚を乗せた皿を差し出している。雪男ははっと兄の秘策を悟った。そして自分は兄をアシストするために寮の中に走った。
「おい。お前の弟、お前の馬鹿馬鹿しさに悲しくなって寮の中に逃げちまったぜ。」
「いいんだよ。それより食えよ。焼きたては旨いはずだぜ。もう夕食時だから腹減ってるだろ?」
 燐の隣でクロが鳴く。
『おれのだって約束だっただろ?』
「また焼くから。それに、お前の取り分だけは減らすつもりはないから。さ、白鳥。食ってみろよ。」
 白鳥はおずおずと燐から秋刀魚の皿と箸を受け取った。確かに腹は減っている。つまり何を食っても美味しいと感じやすいコンディションである。たぶん燐の最大の勝算は空腹という名の調味料だろう。だが白鳥だって自分の舌が肥えているというプライドがある。そのプライドを打ち崩すだけの味でなければ、容赦なく「不味い」と嘲る気満々だった。
「そこまで言うなら、食うぞ。」
 塩味の青魚を大雑把に焼いただけの料理。しかし何故か恐れを感じる白鳥だった。白鳥にとって秋刀魚というのは未知の味だった。箸で身を摘むと炭火で焼かれた皮がぱりっと音を立て、じゅわっと湯気と脂が溢れてきた。
『慌てるな零二。奴が高級だと言っていたのは、旬の、しかも初物の秋刀魚だ。そんなものをこいつらが買っているわけがない。しかも今は秋刀魚の旬には早いはず。つまりこの秋刀魚は去年の冷凍品だ。品質も味も劣っているに違いない。何せ去年命を落として、死後一年近くも冷凍保存されていた魚の死体なんだ。これは。』
 旨いわけがない。旨いわけがないと唱えながら白鳥は秋刀魚を口に入れた。
「ふ、ふふふふふ……」
 気味の悪い笑みを浮かべて白鳥は燐に告げる。
 
「不味い。」
 
「なら返せ。不味いと思われてるものを、これ以上食わせる悪趣味は俺には無い。」
 白鳥はしろどもどろになって言う。
「いや。一口食べただけの感想だ。二口目も試してみなければわからない。」
 白鳥は焦ったように再び身を摘み口に運び、燐が何かを言う前に白鳥は再び不味いと叫ぶ。そう言いながら白鳥の箸は止まらなかった。まるで燐に取り上げられることを恐れるように高速で箸を動かし、秋刀魚を蹂躙している。
「不味い。不味い。不味い。」
 それは何回も悪し様に言うことで秋刀魚の不味さを主張し、秋刀魚の味を無理にでも貶めようとしているようだった。
「兄さん。不味いって言葉が聞こえてきたけど。」
 息を荒げながら雪男は何かを乗せた盆を持って駆けつけてきた。
「おー。雪男。白鳥がどうしても秋刀魚が不味いってよ。」
 雪男はつかつかと白鳥に近づき、盆の上に乗せたものを差し出す。
「白鳥君。秋刀魚だけだと味気ないよね。良かったら兄さんが作った、この切干大根の煮物はどう? それと秋刀魚は大根おろしとポン酢を掛けると美味しいんだよ。」
 雪男は手招きして玄関の段差を椅子代わりに白鳥を座らせる。白鳥はふんぞり返って燐と雪男に告げる。
「また貧乏臭いもんが増えたな。お前らの挑戦は全部受けてやる。」
 白鳥は大根おろしとボトルのポン酢を秋刀魚にかけ、再び口に運ぶ。その間に雪男は茶碗によそった飯ごうの白飯をそっと白鳥の前に置いた。
「あー……。ポン酢の酸っぱさと大根おろしの水っぽさが交じり合って不味い。なんか秋刀魚の脂が中和されてるようで、口の中さっぱりしすぎ。」
 すかさず炊き立ての白飯を口に運ぶ。
「炊き立ての飯。あまったるー。もちもちしてて適度な粘り気なんてふざけんじゃねえよ。」
 燐は白鳥の横で遅れたクロの取り分を焼き終えている。その頃には白鳥の皿の一匹目の秋刀魚は完食されていた。白鳥はクロが秋刀魚を旨そうに食っている様を見て下品な笑い声を上げた。
「猫と同じもん食ってんのかよ!」
 しかし燐と雪男は気にしない。
「すぐに次が焼きあがるからな。少し待ってろよ。」
 白鳥はちっと悪態をつく。
「まったく。飯を出した癖におかずが間に合ってねえじゃねえか。」
 クロは一旦秋刀魚を食べるのを止め、不愉快な客のことで燐に抗議する。
『りん。あいつぜったいうまいっておもってる。だからつぎをさいそくしてるんだ。あいつはとんでもないおおうそつきだ。』
 燐は分かってるんだという目をクロに向ける。そして切干大根の煮物を指差した。
「それ食って待ってろよ。」
 白鳥は怪訝な顔をする。旨いものを不味いと言って、まんまとただ飯にありついていたが、切干大根の煮物については、もしかしたら美味しいかもしれないとすら思えなかった。
 色彩に乏しい茶色で、大根の本来の瑞々しさを犠牲にして保存性だけに特化した食材。それに申し訳程度に一緒に煮られた細切のニンジンと油揚げが、ほぼ切干大根と同化してしまっている。
 しかしこれを食べなければ次の秋刀魚まで間が持たない。そして秋刀魚に口を付ける前の『金持ちの無知』という自分が退けたはずの燐の仮説を、また復活させてしまう。
「……しょうがねえな。」
 白鳥は切り干し大根を箸で摘んで目を瞑って口に運んだ。口に入れる寸前、鼻腔に微かな出汁の香りが飛び込んできた。
『不味いに決まってるだろ、こんなもん!』
 白鳥は怒りを露にしていた。
「こんな、こんな出汁が染みた……しなびたどころか、ミイラ化した大根が旨いはずねえよ。乾燥した大根が出汁を吸い込むなんて、そんなのインチキだろうが。揚げからも出汁が出ているなんて、それもイカサマだろうが! 炒り煮されたニンジンが甘いなんて、冗談じゃねえぜっ。ゴマのアクセントで茶を濁そうなんて卑怯だろうが!」
『りん。こいつうざい。』
 クロはすっかり食欲を失くしていた。せめてもう少し音量を下げて感想を言えばいいのに、いちいち大声で叫ぶものだから、うざすぎる。何よりも本音はともかく言葉で、クロにとって親友である燐を貶し続ける根性が気に食わなかった。しかし燐は相変わらずニコニコと秋刀魚を焼いて白鳥を持て成している。クロも燐の目的は分かっているが、この無礼な小僧を持て成さなくてもいいのにと頭痛を覚えていた。
クロの人間としての姿はオッサンである。すなわち可愛らしく見せてもクロの本質はオッサンである。最近の礼儀知らずな若者に辟易する神経は持ち合わせていた。
 燐は白鳥が完食した秋刀魚の骨をどけると、さらに新しく焼かれた秋刀魚を乗せ、お待ちどうさまと微笑みかける。おうと白鳥は偉そうに答える。再び高速で秋刀魚をわしわしと貪り食う。合間に飯をかきこみ、おかわりと言って茶碗を雪男に差出し、時々切り干し大根の煮物を口に運んだ。
「……う。」
 そのとき、白鳥の動きが急停止した。燐が怪訝そうに白鳥の顔を見る。白鳥は苦しそうに箸を持ったまま顔を歪ませたあと、五割り増しほど凶悪な顔に変貌して、燐のほうを向いてお久しぶりですと言った。
「……美味しいです。若君。」
 ヤギの角を生やして感涙する白鳥がいた。
「アスタロト。また白鳥に憑依して……」
「だって、だって……この小僧ったら若君に失礼すぎます。美味しく若君が料理なさったものを不味いと罵倒し続け、その癖貪り続ける傲慢さ。」
「いや。俺は白鳥が秋刀魚さえ食ってくれればそれでいいんだよ。」
「それなら私めが、この小僧の身体を使って若君が望むだけ食べますから。」
 うーんと燐は考えながら「まあいっか」と口にした。
「その秋刀魚食ってもいいから、食い終わったら白鳥への憑依を解除してやれよ。こいつ本当に腹減ってるみたいだから。」
「若君はお優しい。その人間への優しさ故に虚無界にお戻り下さらないなんて、なんて非情なめぐり合わせなんでしょうか。」
 燐は困ったように頭を掻く。悪魔否定派の雪男は普通ならそんな兄と悪魔の馴れ合いに目くじらを立てそうだが、燐と共通した達成すべき目的があるために敢えて口は出さなかった。
 アスタロトは秋刀魚を一匹平らげると、ごちそうさまと言って満面の笑みで憑依を解除した。意外と素直に言うことを聞いてくれた。しかし素直じゃない白鳥は目の前から秋刀魚が消えた事実に憤慨していた。
燐はまあまあと宥めながら次に焼きあがった秋刀魚を皿に乗せてやる。白鳥はとうとう感想らしき言葉を口にせず、無言で秋刀魚を貪り食うのであった。
白鳥は四匹目の秋刀魚を完食し、雪男が気を利かせて淹れた茶を飲み干すとほーっと息を吐いた。
「あー。不味かった。」
 しかし顔は満足そうだった。
「よしよし。ノルマ達成だな。」
「ノルマ?」
 白鳥はきょとんとした顔をして違和感に思った言葉を口にする。
「寮の電気が止まったって言っただろう。冷蔵庫の中に冷凍していた秋刀魚が十四匹あってな。七日分を一日一食。それを二人分でストックしてたら、それが仇になっちまったんだ。」
「兄さんが安いからって馬鹿買いするから。」
 雪男がぶつぶつと文句を言っている。白鳥はなんとなく事情を察してしまった。
「お前ら、俺を……秋刀魚を大量消費させるための頭数にしたんだな。」
 燐はてへっと言ってぺろっと舌を出した。
「夏場だからあっという間に解凍されるし、すぐ悪くなるし。季節柄食中毒は怖いし。だけど勿体ないし。クロが二匹で、俺たちが六匹ずつ食わねえと駄目かなって話してて。だけどお前がちょうど来てくれたんだ。お陰で一人四匹ノルマで済んで良かった。食い物ってやっぱ美味しいって思える分だけ食うのがいいよな。流石に六匹って俺も雪男も自信がなくって。」
「味方……しえみさんとかを呼んでごちそうするっていう考えもなかったわけじゃないけど、友達にそんな恥を晒すのもなんだか躊躇われて。それに、今のここの状態じゃ人を呼んで食事会も難しかったし。あー。でもご飯は多めに炊いておいて良かったよ。」
「そうだな。おかずだけ余ったら悲惨だからって保険かけといたんだよな。」
 白鳥はわなわなと震えている。そうか自分は友達じゃないから恥を晒してもいいし、突然来たわけだから食事会の体裁も取らなくていい。所詮自分は、体の良いあまりモノ処理に担ぎ出されただけだった。
「ふっ。そんなの最初から分かってたぜ。貧乏人のそんな企みに気がつかない俺だと思ってたのかよ。」
 完全に負け惜しみだった。白鳥は立ち上がって奥村兄弟に指を差す。
「いいな。貧乏兄弟。特に兄。安いからって馬鹿買いすんじゃねえぞ。却って不経済なんだから。」
「そうだよ兄さん。彼の言うとおりだ。」
 雪男の同意を追い風に白鳥は言いたいことを言う。
「必要なものは必要な時に必要な分だけ買え!」
「えー。出来るかな俺。」
 貧乏性な燐は首を傾げていた。
「まあ、別にいい。またこんなことがあれば俺を呼べ。この白鳥零二様を崇め奉り招待しろ。何せ貧乏人は金の失敗を学習しないからこその貧乏人だからな!」
 奥村兄弟は白鳥の小言を他所に自分達の分の秋刀魚を焼いては食べ始めていた。






今さらの白鳥君でした。なんかこれから書くものに登場してきそうで怖いです。連載を一回休みでギャグで失礼しました。次からまたシリアスに戻ります。

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HN:
柴仲達
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女性
職業:
会社員
趣味:
読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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