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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆「続・super scription of data」中篇⑤ 燐雪R18

注意書きです。
りば的表現あります。(兄さんの心が折れるレベル)
朴さんに関する中二設定あります。





 朴が息を荒げてフロントにたどり着くと朴三号が壁にもたれて立っていた。やさぐれたようにその身体をだるそうに朴のほうに向ける。朴は嫌な予感に眉根を寄せた。
「三号。外からのサポートだけでも十分なのに。わざわざ入ってきたんだ。」
「一号。理事長から伝言。」
「えー……。」
 悪い予感は的中した。三号は限りなく言いにくそうに自分の絶対的なリーダーに告げる。
「気持ちは分かるけど聞いて。」
 
『フロイライン朔子にこの私からたってのお願いが。』
 メフィストはそう言って朴二号の前で会釈をした。
 
 それが今から五分前の出来事だった。朴三号は二号に押し付けられた伝言を改めて押し付けられ、雪男と朴が歩いてきた長いトンネルを抜けて、このラブホのフロントで朴一号がサルベージを終えるまで待っていようとした矢先だった。
「なんかサルベージ終わってなくない?」
「いや、いろいろと予想外なことが起きてんだよ。」
「なんだ。そっちもトラぶってったってわけ? 追い討ちかけるようで悪いけど、メフィストフェレス自ら出向いての依頼だからね。一応聞いてね。」
 朴はうんざりして嫌そうに身体をくねくねとゆすっている。誰が見てもうざいと感じるさりげない駄々のこねかただった。
「あの人今謹慎中じゃなかったっけ?」
「一号。くねくねしないで。ことが動けばあの人って異様に聡いから、今回のことを嗅ぎ付けて謹慎を終了させたんじゃないの。どうせ自主的にやってて拘束力もないことだし。」
 どうやら自分達が雪男の精神世界、元男子寮、現南十字教会に行っている間に、何事か嗅ぎつけた理事長ことメフィストが朴に何か頼みたいらしい。どうせろくなことではないのだろうが、嗅ぎつけられたからには無視するわけにはいかない。雪男と共に精神世界に同行することは、雪男にしてみても、朴にしてみても、知られないようにはしていたはずなのに。
「ドアの前にいた二号を祓魔塾の講師に目撃されちゃって。」
「あいつ時々とろいよね。」
「その言葉、まんま自分に跳ね返るから。」
 朴は自分の教会での不手際の顛末を思い返して、そうだったと反省する。
「見張りが仇になっちゃったか。」
「それで伝言なんだけど。前回のサルベージで一号がモニターした時のデータを理事長に伝えたら、観測結果に空白の時間が幾らか見られたから、その空白の時間に何か起きていたのなら知らせて欲しいことと、正十字学園での理事長と奥村先生を襲った悪魔のテロの首謀者が、奥村先生であるという言質を取れだってさ。」
「言質は取れてるけど、絶対内緒にするって約束だからちょっとそれ不味いんだけど。」
 三号はそういうわけにはいかないかもと肩を竦める。
「エンジェルさんから燐君の状況が理事長に伝えられたらしいんだよ。」
「でもそれは先生に取り込まれていた魔障の後遺症だって誤魔化すことも出来るよね。」
 どうやらメフィストは朴の曖昧な報告の、曖昧な部分の全てを明らかにさせたいらしい。たかが小娘にどんなプレッシャーを与えるんだと朴は思った。
「一号の言い分は分かるよ。だけど、あの人にあんまり隠し事しない方がいいんじゃない?」
「でもあの人に全てを知られてるっていうのも、ちょっと……」
「でも私達は祓魔師や悪魔について齧った程度の知識しかないんだよ。何か誤魔化せば簡単に別のところで綻びは出る。それに言質を取れって言ってきてるんだから、大体の真相を知ってるってことじゃない。」
「でもその理事長の推測を私が裏づけを取ったって形は避けたいの。」
 朴は自分と同じ自分に対して言い返している状況にはっと我に返る。
「いや私達同じ朴朔子なんだから。こうやって言い合いになって揉めちゃうなんてあり得ないじゃない。」
「一号落ち着け。人間には葛藤っていう自分の中だけの揉め事がしょっちゅうあるから。私達は数に頼って今までそれがなかったって話で、つまり一万人いようが処理出来ない問題なんだよこれは。」
「えー? そんなの大変過ぎる。そういうことを私が解決しなくちゃいけないの? 幾ら先生や燐君がほっとけないからって重すぎ。私の本命は出雲ちゃんだよ。エッチも出来ないような男の子のために、なんで私が。」
 三号はちっちっちと指を振る。
「今まで数に驕ってきた私達への試練かもしれないね。朴朔子という種族はこれを機会に進化するか衰退するかの分岐に立たされている。かもしれない。それに同一思考の朴朔子の一万分の一のなかにいるじゃない。一号と正反対の絶対に交わることのない平行線のあの子。」
「零号か。っけ。」
 朴は同じ正十字学園にいながら意識して顔すら合わせないようにしている自分のことを思い出す。
自分と違って正統の塊。正直でいかさまなんぞ考えず、なあなあを許さず、貞操も堅固な、尊敬して目標にする以外の選択肢を奪われる存在。
それが朴零号。
しかも彼女はメフィストフェレスこと時の王・サマエルの強烈で激烈で熱烈な信奉者。いかさまだらけの悪魔を信奉する正しさの権化の気持ちは朴一号には分からない。常に頭の隅に置かないようにしているのが朴零号だった。だからこそ朴の中の正しさの割合はごくわずかでしかないのだろう。
 朴はいっそのこと零号に今回の主導権を譲ってしまおうかと思いついた。あいつなら否応なしに情け容赦なく今回の事態を収拾させてくれるかもしれない。あの兄弟双方の精神的な弱さから端を発したこの騒動を断罪してくれることだろう。だけど朴が知った雪男の秘密は零号に渡さず、このずるくて不正塗れの自分が笑って抱えればいい。
「零号か。」
 朴は本能的な問題から彼女には勝てないと知っていた。朴朔子という種の史上一番最初に現れた分身が朴零号だ。すなわち自分と一緒にこの世に生まれた一卵性の双子の姉。妹の自分はほぼ無量大数とも言える数まで増殖するという卑怯を犯しながら、それでも朴一号は零号一人に一生勝てないという確信がある。
人間は不正を犯すものだが、それとは矛盾して不正は許さず罰されるべきという考えに誰も彼もが支配されている。つまり無限の一の不正はことごとく零にされるべきなのだ。
「だけどね。だけどね。」
「いや。そういうときに逃げの手を打つのもありじゃない? 無理しないのが私らのスタイルじゃん。その点零号だけはそういうのに立ち向かうのこそ得意分野じゃん。身の程と分をわきまえようよ今回は。」
「だけどぉ。……やっぱ無理かな。私じゃ。」
 朴は嫌々思い出す。英雄のような姉の姿を。歯噛みするしかない姉の姿を。
 
『朔子。大丈夫? 一万人いるからってあなたが死んだら、残りの子たちも道連れなんだよ。あとは零お姉ちゃんに任せて。』
 
 今になって奥村雪男の兄への多大なる劣等感を理解する。そうだ。そういうことなんだ。生まれた時から死ぬまで続く苦行なんだ。彼と私は似たような業を背負う似たもの同士なんだと。
 ただし私はお姉ちゃんなんか大嫌いなんだけど。
朴はへなへなと崩れ落ちる。しかしその膝が地面につく寸前に朴は再び足を踏みしめた。そして不敵に笑う。一つの種族の頂点に立つ女王の如く。
「まあとりあえずなんとかするわ。零号? 零号ね。ああ、そんな奴もいたわね。だけど私には関係ないし。理事長にはなんだかんだ言って誤魔化すし。そうだよね。やっぱ先生との約束のほうが大事だよね。イカサマ使って自白させたんだから、それくらいのペナルティは受けるべきだよね。」
「んじゃ、誤魔化すってことで。いやあ。一号ならそういう結論を出すって思ってたよ。」
「やっぱり私は私だからね。それじゃ、降魔剣持ってまた自転車走らせなきゃ。」
 その前にと朴は天井を仰ぎ見る。三号に伝言を頼むことにした。
「三号。理事長に頼みごとして欲しいの。」
「えー? 依頼をされた人間がまた依頼返しするわけ? そこまで図々しいと自分とはいえ感心しちゃうわ。」
「まあそこは感心しとけ。それでね。事態は予想していたより膠着してしまっているけど、この先急展開させるつもりだから、近隣に分散している私をできるだけかき集めて欲しいって理事長に言っておいて。あの人なら自慢の空間マジックで出来るはずだから。」
 わかったよと言うと三号は自分の背後に隠していた降魔剣を朴に見せる。
「私ちょっと暇だったから、降魔剣改造しちゃったけど。」
 三号が取り出してきたそれを見た朴は叫ぶ。それは鈍い銀の光沢と本来の鋭利さを欠いた代物だった。
「なんじゃこりゃあ! 降魔剣をどうして金属バットにしちゃおうっていう発想になるの! いや私らしい発想かもしれないけど。降魔剣はあの兄弟の精神にとって象徴的なものの一つだから効力があるのであって、金属バットから青い炎が出たんじゃかっこつかないし。」
「いや、物は考えようだよ。もし前回みたいに先生から降魔剣を向けられることがある場合、二回も斬られるなんて芸がないじゃない。今度は撲殺されようよ。」
「演出上の都合ってやつかい。」
 自分自身の悪趣味に朴は嫌気がさしてくる。だがこれも自分だ。朴は三号から手渡された降魔剣改降魔バッドを手にラブホから出て行く。そして自転車に跨り南十字教会を目指した。
 
      *   *   *
 
「雪男。ここで俺と一緒にこの卵が孵るのを見守ろうよ。そしてこの世界で親子三人で仲良く暮らしていこう。俺はお前も子供も大事にするから。」
 雪男は最早心が折れて虚ろな目で虚ろな願いを口にする兄に蔑視を送る。この精神世界での六年間がどんなに兄の心をすり減らしたのか、雪男には想像がつかないが、現実世界での兄の生気に満ちた言動とはかけ離れ過ぎていた。
「さっきも言ったよね。僕は母親役なんてするつもりはない。」
「だって……。」
「だってじゃないんだよ。ここは所詮現実の世界じゃないって兄さんも分かってるだろ。そしてその卵だって得体の知れないものでしかない。なのに兄さんはそれを自分の思い込みで子どもだってことにしている。いつからそうやって自分の都合のいいことだけ受け入れるような奴になったんだよ。しかも兄さんを迎えにきた僕まで巻き込もうなんて、兄さんらしくもない。そりゃ最初に兄さんを取り込んだのは僕かもしれない。だけど兄さんは僕なんかに囚われる程度の存在じゃない。」
 燐は俯いて口の中でだってと何回も呟く。
「そんな俺が、妬ましくって嫌いだったみたいじゃねえか。お前は。だから俺はお前と俺が完全に混ざり合った証のこいつが、俺にとっての特別なんだ。」
「それは所詮兄さんと僕は別個の存在だから、その中間で鎹が必要だってことだよね。それが僕より大切だってことだよね。」
「違う。そんなこと言ってない。」
 燐はますます瞳の青を曇らせてしまう。雪男は黙って兄が抱いている卵に銃口を向ける。燐は光のない目でそれを視認した反射で青い炎を身に纏った。雪男が後ろに飛び退いた一メートルの距離直前までその炎は燃え盛っている。燐は青い炎で雪男が近づけないように威嚇しているつもりだろうか。
 しかしそれは現実と虚構が混濁している燐にしか通用しない法則でしかない。雪男にとってはこの世界は全て虚構で、その中で起こることはその世界にいる登場人物の思考次第で改変可能なのだ。
 雪男は一歩炎の中に足を踏み出した。
 燐の炎は雪男の服の裾に燃え移って布を焦がしたが、それだけでしかなかった。
「どうだい。兄さん。そんな青い炎、本体の兄さんがそんなへたれた状態じゃあ、僕を焼き殺すことも出来ないだろ。」
「お前を焼き殺すなんて、そんな……俺はただ……」
「そうだね。その忌々しい卵を守りたいだけなんだよね。」
 雪男は冷たい視線を燐に注ぎながら燐の手を思い切り掴み卵を手放させる。卵は硬い音を立てて床に落ちて転がった。卵のほうに手を伸ばそうとする兄を無理やり床に押し付けて雪男は上ずった声で兄に告げる。
「久しぶりに会ったのにさあ、僕のことをどうでもいいみたいに言うから。ちょっと感情的になっちゃったかもしれないね。」
「俺はおまえのことどうでもいいなんて思ってないから。」
「そうだよね。そうに決まってるよね。」
 いつも通りの冷静な言葉遣いと言葉選びが激昂していたさっきよりも不穏なものを感じさせる。
青の炎は燐からも卵の周辺からも火花ぐらいの幽かに吹き出ているほどに弱弱しくなっている。そしてほどなく雪男の氷のような憎悪に鎮火されたかのように消滅した。雪男はその様を見てほくそ笑んだ。相変わらず精神世界での自分の有利を兄から捥ぎ取れたことが雪男の傲慢さと嗜虐性に火を点ける。今この場で、自分を蔑ろにしたような世迷いごとをほざいていた兄に本来の自分たちの関係を思い知らせてやるべきだと雪男捲くれ上がったスカートから伸びる長い足で燐の胴を挟み込んだ。
「ごめんね。僕がいなかったせいで一人ぼっちで長いことこんなところに居させて。」
 燐はふるふると横に首を振る。雪男の「ごめんね」の言葉の空虚さと本心の無さ加減を感じ取っているような仕草だった。
「ひ、一人で……寂しかったけど、俺、頑張れば報われるってそう、思って…」
「そうだね。報われなくちゃいけないよね。頑張りっていうのは。それに兄さんが報われなくちゃいけないのものはもう一つあるよね。それを頑張るために子どもっていうまやかしに縋り付いたんだよね。うん。よく分かったよ。」
 雪男は片足を燐からはずすと、転がっていた卵を蹴りつけて燐とさらに引き離した。
悲鳴を上げようとする燐の口に自らの口を合わせ舌先で兄の唇を嘗め回した後雪男は言った。
「じゃあさあ、久しぶりに仲良ししよっか。兄さんがそう思い込んでる子どもの前でさ。」
 雪男は床に兄を押し倒し、自分の服の襟元を緩め始める。跳ね起きて逃げようとする兄を馬乗りになって押さえつけ、両手を掴んで完全に拘束する。
 雪男はこの精神世界に舞い戻ってきた理由を軽く忘れかけていた。思いもよらなかった兄の自分に対する心の裏切りを知った途端に、現実への義務が霧散した。今の雪男には兄の自分に対する執着を別の何かに転嫁したことがひたすら腹立たしい。常識だとか大義名分より、はるかに個人のごくごく当たり前の感情のほうが優先される世界だからこそ、こんな事態の悪化の仕方をしたとしか言えない。
 そしてそんな世界で、唯一誰よりも理性的にやるべきことを優先できる存在の朴は、まだこの場には間に合ってない。
 それは不幸としか言いようが無い。誰にとっての不幸か?
 目下の被害者・奥村燐でしかない。
「兄さんはさあ、子ども子どもってしつこいんだよね。うっかり僕が男だってこと後悔しちゃうほどにね。」
 雪男は腕を伸ばして床に落ちたウィッグを拾って再び頭に載せる。
「兄さんは結局子どもを産んでくれる、女の子のほうがいいんじゃないかな。」
 燐は雪男の下で許しを請うように口を開く。
「雪男誤解だ。卵は本当にもしかしたら子どもかもしれないって思っただけなんだ。そうだったら俺にとって夢が叶ったような気になっただけだ。もとから子どもを期待してたわけじゃないっ。」
「ああ。純粋にそう思い込もうとしたってこと。それに気がついた? じゃあ。もう一回思い返してみようよ。どう? 僕と卵と、どっちが大切?」
 燐は雪男を凝視するばかりだ。言葉に出すには迷いのほうが強くてままならないのだろう。しかし卵のほうを見ないようにしようと努力する、虚しいばかりの必死な誠意紛いの振る舞いに雪男は少し愉快になった。
「考えてみればそりゃそうだね。兄さんが六年の孤独に持ちこたえたのは卵のお陰だし。その間ほったらかしたのは僕のせいだ。兄さんが何かの錯覚で卵に入れ込んでいたのはしょうがない。だからこれからすることは治療の一環だよ。いわゆる荒療治なんだ。」
「治療? 何を?」
「エッチと生殖を結びつけて考える兄さんに、男の僕を愛していくのは、これから無理が出てくると僕は考えるんだ。だから純粋に快楽と愛だけのセックスを行うことによって、生殖だとか家族に囚われない思考が兄さんには必要だと僕は判断した。」
「雪男。お前は、何言ってるんだよ? 俺とお前ってずっと家族じゃねえのか? お前って筋が通ってそうでもっともらしいこと言ってるけど、それこそお前のいう無理がでてくるってもんじねえのか。」
「兄さん。そろそろ黙ろうよ。」
 雪男は燐のシャツのボタンを外して、雪男が眺めていたりするのが好きだった腹筋の形が浮かぶ腹を撫でている。それもこの六年間で肉が薄くなって肋骨が浮かんできてはいたが、見るも無残というほど痩せてはいなかった。
「いいな。僕の作り物の筋肉とは全然違う。まさしく自然が作り出した健全で綺麗な身体だよ兄さんは。妬ましいほど。」
 燐は雪男の手が行き来するごとに浅く息を吐く。
「子どものときから兄さんの身体が羨ましかったよ。病弱な僕と違って速く走れる足、重いものでも持ち上げられる腕、そのくせ手先は器用に繊細に動くし。そんな兄さんの身体を僕はいつも盗み見ながら少しくらいその強さとしなやかさを分けてくれれば良かったのにと思ってた。」
「お、お前は今俺を見下ろすくらい、背が高い、だろ。」
 燐は怯えたように雪男に告げる。
「そんなもの、僕の弱さをカモフラージュするために必死で僕が作りあげた虚構だよ。だけどね、そうやって妬ましく思っていた兄さんの身体にいつしか僕は欲情するようになったんだ。それがおかしいこと、正しくないと悩んだことは……思い出せないよ。そんなことに悩んでいる暇もなかったしね。早めに見切りがついて自慰の時だって手っ取り早いから兄さんのことを思い浮かべて慰めてた。兄さんの知らないところで僕はどんどん節操のない自分を増長させていった。なにもかも時間を惜しむしかない自分のせいだって言い訳してね。兄さん。そんないけない僕を叱って可愛がってよ。ほら。ねえ、耳を手で塞がないで。可愛い弟がお願いしてるんだよ。兄さんこそ、自分が叱られる立場のように振舞わないで。兄さんは悪くないって僕はちゃんと理解してるんだから。こんな場所に引きずり込んで閉じ込めて、兄さんの迷惑を省みず僕の都合のいい存在にしようとした、そんな弟を責めてよ。」
 雪男の手は燐の腹を滑ってジッパー部分に掛かる。燐は声を震わせてやめろと繰り返す。
雪男は楽しそうにジッパーを下ろして下着から縮こまっている燐のペニスを取り出した。
「ん。久しぶり。兄さんの。」
 雪男は自分も腰を上げて片手でスカートをまくりあげスパッツとその下の下着を脱ぎ捨てた。雪男の状態はすでに興奮していてスカートの布地が雪男の昂ぶりで不自然に浮き上がっている。
「ねえ。この姿って倒錯的だと思わない? ぐっとこない?」
 雪男は肩までのウィッグを揺らして片膝を立てるポーズを取った。雪男は制服のボタンとブラウスのボタンを外し、リボンを解いて左右に垂らしたまま燐に自分の胸元を見せた。それはあからさまに男の胸という感じで、柔らかさもそれに伴う母性の欠片も感じない。ただその平面に存在する二箇所の小さな突起を雪男は自らの指で弄んでいた。
「見てよ。兄さんがそこはいいって言うのに、可愛いって何度も可愛がってくれた。だから僕はこんなとこも女の子みたいに性感帯になっちゃったんだ。」
 雪男の唇から熱い吐息が漏れる。それに引き寄せられるように燐はおずおずと右手を雪男に伸ばした。その手を雪男は自分の胸元に引き寄せ、燐の手のひらを自分の胸に擦り付ける。
「あ…ぁんっ。やっと手を伸ばしてくれた。治療の一段階目クリアだね。」
 燐は重心が定まらないように、すぐにでも雪男の胸までの角度から腕が落ちそうになっている。雪男はそれを阻止するように腕を掴んで支えてやっていた。兄はやはり性的なシチュエーションや視覚的な刺激にあまり反応するような状態ではないらしい。
「兄さん愛してる。兄さんも僕だけだって言って。」
 一番最初に兄と交渉を持ったとき、あのときも雪男のほうからアプローチをかけた。要するに兄はごく平均的な性欲を持っていると思わせながら、実はかなり奥手な男だった。雪男にしたところで相手が兄でなければ性に対して積極的なほうではない。だからこそあのとき兄と自分の関係を箍をぶち切ることが出来たのは、セックスという手段があればこそだと雪男は思う。なんだかんだで姑息な色仕掛けでしか兄を縛れないのが歯痒いが使える手なら何でも使うつもりだった。雪男は燐のペニスに指を絡ませてみるが、それは熱を持つことなく雪男の手の中で項垂れているだけだった。
「雪男。俺、今駄目かも。」
「そうかもね。」
 待てど暮らせど燐のそれの反応は芳しくない。たちあがりかけてはいるが、雪男の中に挿入するには硬度が足りない。しかし雪男には対応策があった。
「兄さん大丈夫だよ。僕が兄さんを気持ちよくしてあげる。」
 雪男はポケットからリップクリームを取り出すと、身体を兄の足の間にずらし、一気に兄のズボンをずり下げた。
「ゆ、雪男。なにすんだ……?」
 雪男は燐の腰を持ち上げてリップクリームの蓋を開けると、燐の後孔に押し付ける。
「兄さんのペニスを銜えたとき目に付いたんだけど、兄さんのここのほうが僕のより可愛いよね。小さいし色も薄いし。」
 雪男の言葉どおりの可憐な窄まりが雪男の視線にさらされていっそう小さく窄まる様がえも謂えずかわいらしい。笑みを浮かべる雪男とは反対に燐は怯えまくっていた。
「だからなにをっ」
「まずは兄さんの可愛いここにお化粧してあげようかな。」
 雪男はリップクリームを燐のアナルに塗りたくる。色つきのリップは燐のそこを薄ピンク色に染めていき奇妙な光沢を浮き上がらせる。
「ゆ、雪男……」
リップの長さが半分になるほど丹念に塗り上げると、リップの油分が燐の熱で融けていく。
「うん。ここまでやれば兄さんも初めてでも痛くないよね。」
 雪男は自分の指を唾液で湿らせ、燐のそこに押し入れる。
「あっ。ああー!」
「入っちゃった。」
 雪男の声は弾んでいた。
「確か尿道の近くだったから、ここらへんだよね。」
 雪男はぐっと進めた指で燐の直腸ごしに見当をつけた場所を探る。燐はうめき声を上げながら異物感からくる不快ななにかを雪男に訴えるも、雪男はさも嬉しそうに燐の直腸を弄っていた。
「くすくす。」
 燐は身体をずらして逃げようとしたが、気力の少ない身でそれは叶わない。
「うっ。あ……ああ……」
 燐は絶望的な表情を浮かべる。雪男は自分の探っていた場所に指が当たったことを悟ってそこを尚更執拗と言うくらいに嬲りにかかる。
「な、なんだよこれっ。」
 燐は恐慌状態だった。今まで味わったことのない感覚が燐を襲っていた。雪男がその部分を弄ると燐はその気もないのに勝手に性器が上を向いて立ち上がってしまう。
「男の性感帯の中でここは格別らしいよ。女の子のGスポットみたいに。僕に入れる前にそれをちょっと体感してみるのもいいんじゃない?」
「や、やめろ! ゆ、ゆきおっ。こんなの、こんなの……い、いやだ!」
「怖くなんかないんだから。そんな声出さない。身体強張ってるよ。もっとリラックスして声出して。」
 燐は初めての感覚に引きつった声を上げた。今までペニスでは味わったことのない快感が襲ったのだった。しかし性器は精を吐き出すことなくただびくびくと痙攣している。
「兄さん可愛い。」
「あ、ああ! ああ……ああ!」
 燐は自分の性器に手を伸ばすが雪男に手を払われてそれが叶わない。
「ゆ、雪男、こ、こすって俺の、う、うしろは、もう、い、いや。あ…。ああ、ああああ――。」
 懇願する燐の叫びをあざ笑うかのように、雪男の指は燐を追い詰める。やがて燐は果てた。射精せずに絶頂を迎えた燐は涙の筋を作りながら眠るように意識を失おうとしている。雪男は冷めた気分で兄を見下ろして言った。
「兄さん。ドライでイッたんだからまだいけるよ。」
「やだ……もうやめて……」
「兄さんが悪いんだよ。」
 雪男はそう言いながら再び燐の中で指を動かし続けた。




後編に続く

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柴仲達
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女性
職業:
会社員
趣味:
読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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