幸福雑音
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☆ss「エメロードアナザールート」④ 雪アマ
尋問の舞台は焼肉屋になった。
特に高級店ではない普通のオーダーバイキング食べ放題が出来る店だった。
「また牛ですか――」
制限時間は百二十分。
「二時間で尋問が足りるもんなんですか?」
「そうだな。一人頭一キロは食わないと元が取れねえ。二時間食いまくるぞ。」
「いや尋問は!」
「雪男。お前なあ、肉焼く時間も込みなんだぞ。計算甘いと大損だぞ。」
雪男はこりゃあ駄目だと思った。
「分かりました。僕が肉を焼きますから、あなたたちが存分に食べて下さい。」
そう言って雪男は腕まくりをすると、運ばれてきた肉を網に乗せていく。
「雪男ちゃん。私はミディアムレアが好みだからね。」
「はいはい。」
ふとアマイモンを見る。アマイモンは首を傾げながらも言い切った。
「僕は表面あぶっただけのほとんどレアがいいです。」
ホテルでの愁嘆場をまるで感じさせない口調だった。雪男はそれに安堵する。
「それにしてもお前らも眠たかったんだな。結局私が起こしに行ったし。」
いや。それはあんたが十二時まで飯を待ちきれなかっただけだろう。雪男は敢えて言葉にしなかった。余計なことを口にして上一級祓魔師に騒がれたくなかったから。
「食いながらでも尋問は進めましょう。シュラさん。」
「いやまず、お前は肉を焼け。そして私とこの悪魔に奉仕するんだ。」
やっぱりその為に僕を巻き込んだのか。悪魔より可愛くないだけたちが悪いと雪男は思った。
しかしまたアマイモンの世話を焼けるのは、雪男にとっては僥倖だった。シュラにはおざなりな焼き方で皿に盛ってやるが、アマイモンに対しては絶妙な焼き加減を見極めながら、おまけにふーふーと冷ましてやる甲斐甲斐しさを見せてやる。
「雪男ちゃーん? 私なんて、どうせどんな肉でも食うんだろとか思ってない?」
「え? ちゃんとミディアムレアでしょ?」
シュラは頬杖をつく。
「そのふてぶてしさを、普段から見せてくれれば全然心配しないんだけどね。」
「なんであんたに心配されなきゃいけないんです。」
シュラはいやあと誤魔化すように笑った。
「なんか悪魔とやけに波長合ってるからよお。でもまあ、取り越し苦労みたいだな。」
シュラの目の前で雪男はアマイモンの口をナプキンで拭いてやっていた。
あのホテルの一室でなんかがあったかもしれないが、この眼鏡はいつものような世話焼きの口うるさい眼鏡に戻っている。しかしいつもより断然穏やかに。それを良いと思うこそすれ、良くないこととはシュラは思わない。その相手が悪魔だったとしても。
そんなシュラが感慨に耽っている間にも、雪男は交互というよりは二対一ぐらいの割合で、アマイモンとシュラの皿に肉を盛っていく。
「おい肉焼き係。私のほうの肉が少ないじゃないか。」
「アマイモンのほうがレアだから早く焼けるんです。」
「ああいえばこういう。それを普段から見せろっつーんてんだろうが。メフィスト相手にはへーこらするより、ふてぶてしく反抗的なほうが、あいつにはよっぽどうけるのによお。」
アマイモンがシュラを凝視する。
「それほんとですか? 兄上はふてぶてしくて反抗的な方が好みなんですか? お兄さん。」
「さあ。真偽のほどは知りません。もしシュラさんの言うことが本当なら、僕は無意識のうちにフェレス卿からの厚意を受けたくなくて、従順で礼儀正しくしているのでしょう。」
アマイモンは少し冷めた目で雪男を見ると、ぼそっと言った。
「お兄さんて、優秀だけど出世は遅そうですね。」
それはじゅうじゅうと肉が焼ける音に掻き消えた。雪男も敢えて聞かなかった振りをした。シュラはにやにやと笑っている。その顔は、私は世渡りが上手いもんというドヤ顔だった。
「肉焼き係が癇癪起こす前に、本日のメインイベント。アマイモン、お前に訊きたいことがある。」
開始から三十分強経過。雪男の卓越した肉焼きのお陰で、シュラとアマイモンは一応のノルマ一キロを消化した。あとは雪男の分の一キロを二人がかりで消化すればいいので、ゆっくり話は出来る。
「肉焼くのやめときましょうか?」
「アホ言え。さぼろうと思ってんじゃねえよ。肉焼き奴隷。」
「どんな身分制度――。ていうか残り一時間弱で足りるんでしょうかねえ。」
「たいした質問じゃねえんだよ。最初から言ってるじゃねえか。」
仕方なく雪男はまた肉を焼き始める。シュラがどんなくだらない質問をしても、いつでも呆れる準備は出来ていた。
シュラは質問のための口を開く。
「お前。お前の兄貴ことメフィストフェレスと、私の元不肖の師匠・藤本がどうやって知り合って、どんなふうに付き合ってきたか知ってるよな?」
雪男は呆れるどころか、肉を焼く手を止めてシュラを凝視する。雪男の凝視が目に入っていないかのように、アマイモンは淡々と返す。
「知ってます。兄上は物質界に行かれた時から、父上とヴァチカンを二枚舌で言いくるめていましたから。僕のことを父上サイドを懐柔するための駒にしていました。だからある程度の情報は、僕には伝えられています。」
シュラは思った通りだと言った。しかしシュラの表情は僅かに硬かった。
「奥村燐については、いつから聞かされていた?」
アマイモンはその質問には表情を曇らせる。
「奥村燐が母親の腹に宿ったことが確定した頃からです。」
シュラは雪男のほうに視線を向けた。雪男は多分目を逸らしたかったのだろうが、変なところで意地を張っているのだろう、頑なにアマイモンの横顔を凝視している。
「その当時はまだ、奥村燐なんて名前はありませんから。どちらかというと、母親のほうの名前ばかり聞かされてましたけど。確か――」
「いや。その辺の話はいいんだ。私が知りたかったのは、奥村燐をサタンに対抗する兵器に仕立て上げる計画を、あのバカ達が、本当に大真面目にやるつもりだったかどうかだ。」
アマイモンは目を伏せる。
「大真面目じゃないと駄目でしょう。じゃないと、奥村燐を十五年間生かしておいた口実になりません。」
「だから口実だってお前、今言っちゃったよな。今。元から本気じゃねえってことだよな。あいつらは燐を兵器に仕立て上げるつもりはなかった。そうじゃねえのか?」
アマイモンはシュラの口調にげんなりしている。
「お姉さん。現に兄上はあなたに、奥村燐を対サタン兵器としてヴァチカンに差し出したいと、おっしゃったらしいじゃないですか。」
「それにしては辻褄の合わないことが山のようにあるんだよ。」
雪男には分かるよな。
唐突な問いかけが雪男には遠く聞こえた。焼肉屋の煙で霞んだ窓ガラスに、死んだ義父の幻を見たような気がした。
「シュラさん。ここから僕が尋問を替わってもいいですか?」
「ああ。思う存分やれば? 元から私は前座のつもりだ。雪男がこいつとの追いかけっこに遭遇した時からな。」
雪男は、ではとアマイモンに尋問を開始する。
「あなたは同じ兄弟のフェレス卿に特別な感情を抱いているから、フェレス卿と父の事情だけではなく、あの二人の感情も理解しているものと思っていいですね?」
アマイモンはほんの少し迷ったように胸の前で腕を組んだ。
「理解。とまではいかないと思います。でもいろいろと察してました。」
雪男は頷く。
「察しているだけでもいいんです。あなたはフェレス卿の使い走りのお人形さんじゃなく、ちゃんと意思あって彼に協力していたのですから。」
アマイモンは腕を解く。そして雪男に申し訳無さそうに目を伏せて言った。
「お兄さん。かいかぶり過ぎです。兄上は口が上手くて頭が良くて、お兄さんみたいに誠実じゃない大嘘つきだから。ボクみたいに力が強いだけのバカは利用されるだけです。」
「そんなふうに自分を卑下しないで下さい。そんなつもりで言ったんじゃないです。お願いです。僕はフェレス卿をずっと見ていた、あなたの目を信じたいんです。だから、僕の質問に答えてください。」
アマイモンは頷いた。雪男は長い前置きを終わらせて、本題を口にした。
「義父は、藤本獅郎は――。何故、兄を普通の子供のように育てたのですか?」
アマイモンは黙っている。雪男は続けて言った。
「兄の思考を人間サイドに近づけたいという動機でも、一応の辻褄は合うかもしれません。でも兵器として育てるつもりだったんですよね? それならあんな普通の町にある、何の変哲のない教会で、人の温かさや優しさを与えて育てる必要なんてなかったでしょう。もっと人と隔離したような場所で、父と二人で心や身体を鍛えれば良かったんじゃないですか? 特別な能力のない僕は、それこそ一人だけ教会に預けられていれば良かった。僕は兄の兵器化計画には余計な存在ですから。その上、先に僕を祓魔師に仕立て上げるなんて、余計な労力もいいところなんです。」
まるで燐を取り巻く世界と燐を繋ぐために、わざと回りくどいことをしているようだった。雪男はそう訴えている。
燐の弟である雪男でさえも、義父とメフィストがしていることが、そういうふうに見えていた。
雪男の言葉の続きをシュラが継ぐ。
「燐を本気で兵器にしたいなら、明らかに燐はスタートが大幅に遅れすぎている。人間の十五年を甘く見るな。もっと幼かったらもっと簡単に柔軟に対応出来そうなところを、敢えてまるで無駄な行程を積み上げて遠回りしている最中なんだ。あのバカどものぬるいやり方のせいで、こいつの兄貴はバカで感受性の強い、仲間思いの精神的マゾに育っちまったんだぞ。兵器としての能力も、炎ばかりいっちょ前で、コントロール一つ出来やしない。あいつらのやり方で上手くいったことと言えば、燐は人間の敵には絶対にならない。それくらいだろ?」
「それが、重要なんじゃないですか?」
シュラはアマイモンに向かって箸を突きつける。
「お前悪魔の癖に。何言ってんだよ。」
「続きは、肉を食べ終わってからにしましょう。」
アマイモンは雪男のほうを向いて肉の催促をした。雪男はあと一回と人差し指を上げた。
「僕と兄さんが引き離されなかったのは、父とフェレス卿の、どちらの考えなんですか?」
アマイモンは雪男がトングで掴んだ肉をじっと見ながら、即答する。
「どっちも同じ考えでした。」
食い放題。残り一時間。スパートには余裕過ぎる時間だった。
そこからは何の会話もなく、雪男はひたすら肉を焼く。結局この店で雪男の口に入る肉はなかった。シュラとアマイモンは各二キロずつの肉を平らげ、十分に元を取った。
普通オーダーバイキングは90分ですが、切りのいい時間にしてしまいました。今回は「ロンド」といい、アマイモン特集な気がしてきた。
特に高級店ではない普通のオーダーバイキング食べ放題が出来る店だった。
「また牛ですか――」
制限時間は百二十分。
「二時間で尋問が足りるもんなんですか?」
「そうだな。一人頭一キロは食わないと元が取れねえ。二時間食いまくるぞ。」
「いや尋問は!」
「雪男。お前なあ、肉焼く時間も込みなんだぞ。計算甘いと大損だぞ。」
雪男はこりゃあ駄目だと思った。
「分かりました。僕が肉を焼きますから、あなたたちが存分に食べて下さい。」
そう言って雪男は腕まくりをすると、運ばれてきた肉を網に乗せていく。
「雪男ちゃん。私はミディアムレアが好みだからね。」
「はいはい。」
ふとアマイモンを見る。アマイモンは首を傾げながらも言い切った。
「僕は表面あぶっただけのほとんどレアがいいです。」
ホテルでの愁嘆場をまるで感じさせない口調だった。雪男はそれに安堵する。
「それにしてもお前らも眠たかったんだな。結局私が起こしに行ったし。」
いや。それはあんたが十二時まで飯を待ちきれなかっただけだろう。雪男は敢えて言葉にしなかった。余計なことを口にして上一級祓魔師に騒がれたくなかったから。
「食いながらでも尋問は進めましょう。シュラさん。」
「いやまず、お前は肉を焼け。そして私とこの悪魔に奉仕するんだ。」
やっぱりその為に僕を巻き込んだのか。悪魔より可愛くないだけたちが悪いと雪男は思った。
しかしまたアマイモンの世話を焼けるのは、雪男にとっては僥倖だった。シュラにはおざなりな焼き方で皿に盛ってやるが、アマイモンに対しては絶妙な焼き加減を見極めながら、おまけにふーふーと冷ましてやる甲斐甲斐しさを見せてやる。
「雪男ちゃーん? 私なんて、どうせどんな肉でも食うんだろとか思ってない?」
「え? ちゃんとミディアムレアでしょ?」
シュラは頬杖をつく。
「そのふてぶてしさを、普段から見せてくれれば全然心配しないんだけどね。」
「なんであんたに心配されなきゃいけないんです。」
シュラはいやあと誤魔化すように笑った。
「なんか悪魔とやけに波長合ってるからよお。でもまあ、取り越し苦労みたいだな。」
シュラの目の前で雪男はアマイモンの口をナプキンで拭いてやっていた。
あのホテルの一室でなんかがあったかもしれないが、この眼鏡はいつものような世話焼きの口うるさい眼鏡に戻っている。しかしいつもより断然穏やかに。それを良いと思うこそすれ、良くないこととはシュラは思わない。その相手が悪魔だったとしても。
そんなシュラが感慨に耽っている間にも、雪男は交互というよりは二対一ぐらいの割合で、アマイモンとシュラの皿に肉を盛っていく。
「おい肉焼き係。私のほうの肉が少ないじゃないか。」
「アマイモンのほうがレアだから早く焼けるんです。」
「ああいえばこういう。それを普段から見せろっつーんてんだろうが。メフィスト相手にはへーこらするより、ふてぶてしく反抗的なほうが、あいつにはよっぽどうけるのによお。」
アマイモンがシュラを凝視する。
「それほんとですか? 兄上はふてぶてしくて反抗的な方が好みなんですか? お兄さん。」
「さあ。真偽のほどは知りません。もしシュラさんの言うことが本当なら、僕は無意識のうちにフェレス卿からの厚意を受けたくなくて、従順で礼儀正しくしているのでしょう。」
アマイモンは少し冷めた目で雪男を見ると、ぼそっと言った。
「お兄さんて、優秀だけど出世は遅そうですね。」
それはじゅうじゅうと肉が焼ける音に掻き消えた。雪男も敢えて聞かなかった振りをした。シュラはにやにやと笑っている。その顔は、私は世渡りが上手いもんというドヤ顔だった。
「肉焼き係が癇癪起こす前に、本日のメインイベント。アマイモン、お前に訊きたいことがある。」
開始から三十分強経過。雪男の卓越した肉焼きのお陰で、シュラとアマイモンは一応のノルマ一キロを消化した。あとは雪男の分の一キロを二人がかりで消化すればいいので、ゆっくり話は出来る。
「肉焼くのやめときましょうか?」
「アホ言え。さぼろうと思ってんじゃねえよ。肉焼き奴隷。」
「どんな身分制度――。ていうか残り一時間弱で足りるんでしょうかねえ。」
「たいした質問じゃねえんだよ。最初から言ってるじゃねえか。」
仕方なく雪男はまた肉を焼き始める。シュラがどんなくだらない質問をしても、いつでも呆れる準備は出来ていた。
シュラは質問のための口を開く。
「お前。お前の兄貴ことメフィストフェレスと、私の元不肖の師匠・藤本がどうやって知り合って、どんなふうに付き合ってきたか知ってるよな?」
雪男は呆れるどころか、肉を焼く手を止めてシュラを凝視する。雪男の凝視が目に入っていないかのように、アマイモンは淡々と返す。
「知ってます。兄上は物質界に行かれた時から、父上とヴァチカンを二枚舌で言いくるめていましたから。僕のことを父上サイドを懐柔するための駒にしていました。だからある程度の情報は、僕には伝えられています。」
シュラは思った通りだと言った。しかしシュラの表情は僅かに硬かった。
「奥村燐については、いつから聞かされていた?」
アマイモンはその質問には表情を曇らせる。
「奥村燐が母親の腹に宿ったことが確定した頃からです。」
シュラは雪男のほうに視線を向けた。雪男は多分目を逸らしたかったのだろうが、変なところで意地を張っているのだろう、頑なにアマイモンの横顔を凝視している。
「その当時はまだ、奥村燐なんて名前はありませんから。どちらかというと、母親のほうの名前ばかり聞かされてましたけど。確か――」
「いや。その辺の話はいいんだ。私が知りたかったのは、奥村燐をサタンに対抗する兵器に仕立て上げる計画を、あのバカ達が、本当に大真面目にやるつもりだったかどうかだ。」
アマイモンは目を伏せる。
「大真面目じゃないと駄目でしょう。じゃないと、奥村燐を十五年間生かしておいた口実になりません。」
「だから口実だってお前、今言っちゃったよな。今。元から本気じゃねえってことだよな。あいつらは燐を兵器に仕立て上げるつもりはなかった。そうじゃねえのか?」
アマイモンはシュラの口調にげんなりしている。
「お姉さん。現に兄上はあなたに、奥村燐を対サタン兵器としてヴァチカンに差し出したいと、おっしゃったらしいじゃないですか。」
「それにしては辻褄の合わないことが山のようにあるんだよ。」
雪男には分かるよな。
唐突な問いかけが雪男には遠く聞こえた。焼肉屋の煙で霞んだ窓ガラスに、死んだ義父の幻を見たような気がした。
「シュラさん。ここから僕が尋問を替わってもいいですか?」
「ああ。思う存分やれば? 元から私は前座のつもりだ。雪男がこいつとの追いかけっこに遭遇した時からな。」
雪男は、ではとアマイモンに尋問を開始する。
「あなたは同じ兄弟のフェレス卿に特別な感情を抱いているから、フェレス卿と父の事情だけではなく、あの二人の感情も理解しているものと思っていいですね?」
アマイモンはほんの少し迷ったように胸の前で腕を組んだ。
「理解。とまではいかないと思います。でもいろいろと察してました。」
雪男は頷く。
「察しているだけでもいいんです。あなたはフェレス卿の使い走りのお人形さんじゃなく、ちゃんと意思あって彼に協力していたのですから。」
アマイモンは腕を解く。そして雪男に申し訳無さそうに目を伏せて言った。
「お兄さん。かいかぶり過ぎです。兄上は口が上手くて頭が良くて、お兄さんみたいに誠実じゃない大嘘つきだから。ボクみたいに力が強いだけのバカは利用されるだけです。」
「そんなふうに自分を卑下しないで下さい。そんなつもりで言ったんじゃないです。お願いです。僕はフェレス卿をずっと見ていた、あなたの目を信じたいんです。だから、僕の質問に答えてください。」
アマイモンは頷いた。雪男は長い前置きを終わらせて、本題を口にした。
「義父は、藤本獅郎は――。何故、兄を普通の子供のように育てたのですか?」
アマイモンは黙っている。雪男は続けて言った。
「兄の思考を人間サイドに近づけたいという動機でも、一応の辻褄は合うかもしれません。でも兵器として育てるつもりだったんですよね? それならあんな普通の町にある、何の変哲のない教会で、人の温かさや優しさを与えて育てる必要なんてなかったでしょう。もっと人と隔離したような場所で、父と二人で心や身体を鍛えれば良かったんじゃないですか? 特別な能力のない僕は、それこそ一人だけ教会に預けられていれば良かった。僕は兄の兵器化計画には余計な存在ですから。その上、先に僕を祓魔師に仕立て上げるなんて、余計な労力もいいところなんです。」
まるで燐を取り巻く世界と燐を繋ぐために、わざと回りくどいことをしているようだった。雪男はそう訴えている。
燐の弟である雪男でさえも、義父とメフィストがしていることが、そういうふうに見えていた。
雪男の言葉の続きをシュラが継ぐ。
「燐を本気で兵器にしたいなら、明らかに燐はスタートが大幅に遅れすぎている。人間の十五年を甘く見るな。もっと幼かったらもっと簡単に柔軟に対応出来そうなところを、敢えてまるで無駄な行程を積み上げて遠回りしている最中なんだ。あのバカどものぬるいやり方のせいで、こいつの兄貴はバカで感受性の強い、仲間思いの精神的マゾに育っちまったんだぞ。兵器としての能力も、炎ばかりいっちょ前で、コントロール一つ出来やしない。あいつらのやり方で上手くいったことと言えば、燐は人間の敵には絶対にならない。それくらいだろ?」
「それが、重要なんじゃないですか?」
シュラはアマイモンに向かって箸を突きつける。
「お前悪魔の癖に。何言ってんだよ。」
「続きは、肉を食べ終わってからにしましょう。」
アマイモンは雪男のほうを向いて肉の催促をした。雪男はあと一回と人差し指を上げた。
「僕と兄さんが引き離されなかったのは、父とフェレス卿の、どちらの考えなんですか?」
アマイモンは雪男がトングで掴んだ肉をじっと見ながら、即答する。
「どっちも同じ考えでした。」
食い放題。残り一時間。スパートには余裕過ぎる時間だった。
そこからは何の会話もなく、雪男はひたすら肉を焼く。結局この店で雪男の口に入る肉はなかった。シュラとアマイモンは各二キロずつの肉を平らげ、十分に元を取った。
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柴仲達
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職業:
会社員
趣味:
読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12
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