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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆ss「高砂番外編」柔蝮

 「高砂6」の帰り道。僧正家設定に捏造あり。







 宝生蝮は男運の悪い女だった
 その始まりは生まれたときから始まった。
 蝮が生まれたとき、志摩家には蝮より年長の男児が既に二人いた。長男の矛造と次男の柔造だった。当時の座主だった竜士の祖父は明陀の結束を強めるために宝生家と志摩家に声をかけ、両家の長男と長女に将来婚姻関係を結ばせようとした。分かりやすく政略結婚だった。一人息子が旅館の娘なんぞと結婚したので、身内同士で僧正家を結びつけたかったのかもしれない。息子への当て付けの意味も込めて。
 両家は勝呂家に敬して暫定的に志摩家長男の矛造と志摩家長女の蝮を許嫁とした。あくまで勝呂家に対する恭順の意を表すためだった。
『蝮は将来、矛造さんのお嫁さんになるんやで。』
 当たり前のように蟒から刷り込まれた擬似恋愛みたいな言葉は、幼い蝮の心に深く染み渡っていった。実際に歳がいっこ上の柔造は蝮の目から見てもガキっぽく見えていたが、それよりさらに数年年長の長男矛造はたかが数年とはいえ、蝮にとっては随分と大人に見えてしまった。将来自分を保護し守ってくれる男として、幼女ながらに胸をときめかせたものだった。矛造も将来のまだ幼い花嫁に優しく接してくれた。
 なのに蝮が十歳を迎える前に矛造は勝呂竜士と志摩廉造を守って非業の死を遂げてしまった。
 蝮は勿論その現実を悲しんだ。しかし蝮はたかだか八歳の幼女でしかなく、しかしその歳にしては現実的な考え方をしていた。運が悪ければ宝生家でも似たような死人が出ていたかもしれないという仮定のもとに、なんとか悲しみに引きずられそうな自分を叱咤した。そして八歳にして今度は宝生家次期当主としての生き方を受け入れようと決意した。
そんな幼女の悲痛な決意とは裏腹に、裏話を言えば蝮は次期当主繰り下げによる影響で柔造の許嫁にさかけていた。喪の明けたある日のこと、八百造と蟒の間でそのことについて話し合いがあったのだ。そこで当然のように八百造は前述のような話を蟒に持ちかけた。
 しかし見た目は冷血な蛇に見える父親の蟒は、割と世間でいうところのスタンダードな父親で、矛造と娘の婚約は勝呂家に対する義理を通したに過ぎなかったと八百造に告げた。
『八百造。矛造さんの次は柔造さんってのは、流石に蝮が可哀想すぎると思うんや。』
 冷静な蟒から「可哀想」という主観的過ぎる言葉を聞いて八百造は面食らった。
『ええ? 可哀想って。柔造と結婚するの嫌とか蝮ちゃんがそう言うたんか? うちの柔造は蝮ちゃんによう絡むけど、本当は蝮ちゃんのこと好きなんやで。どうにか柔造の嫁に貰えんかな?』
 他人の家の娘を粗品みたいに言うなと蟒は綺麗なスキンヘッドに静脈を浮かせながら昔からの親友に言う。
『それについて蝮に聞いたんやけどな、ガキっぽい申はどうでもええと言うとったわ。』
『ひど!』
 先代の勝呂家の和尚様も青い夜の犠牲になって既に死んでいる。もう志摩家・宝生家に課せられた婚姻関係の履行義務はほぼない。現当主になった達磨が再び命令すれば違うだろうが、達磨は先代ほど明陀の僧正家に対して高圧的な人物ではなかった。それを知って敢えて蟒は蝮の父親の立場として八百造に告げる。
『こう言ってはなんやけど、柔造さんは矛造さんに比べてちょっとなあ。あのかっとしやすいところとか。好きな子に対してちょっかい出すとことかなあ。そういうとこも含めて蝮の言った手前もあるし、もうちょい明陀も柔造さんも落ち着くときまで、その話は置いておいて欲しいんや。八百造。』
『そうか。わかったわ。つまり柔造と蝮ちゃんはあんまり見込みがないということやな。すまんな。オブラートに包んで言うてくれたんやな。蝮ちゃんの言ったことはせめて柔造には内緒にしとこ。すまん、蟒。』
 しかし父親二人が話し合っている外で柔造はその話を立ち聞きしていた。兄の矛造のことは勿論ショックだったが、将来の夫を幼くして亡くした蝮のことも背負おうと心密かに誓っていた柔造に追い討ちを掛けてしまった迂闊な父親たちだった。
 
 そして年月が経って蝮は高校生になった。真面目な蝮は家族から離れて上京した先の正十字学園でも一生懸命勉強した。当然、そこらへんの同年代の男になんぞ目もくれなかった。もしかしたら心に残った幼女時代の自分が死んだ矛造に変に義理立てしていたのかもしれない。しかし勉強家の蝮が唯一身内以外で言葉を交わすことが多かった男がいた。
 祓魔塾講師・藤堂三郎太である。
 後に蝮の人生を良くも悪くも狂わせ二度目の災難に遭わせた男だった。
 
     *   *   *
 
 とらやから帰る車の中で柔造は助手席に座って無口になっている嫁に声をかけづらかった。しかし黙っているのも気まずいので、他愛のないことから話そうと必死に考え口を開いた。
「びっくりしたなアレ。」
「アレ言うて、なんやねん。眼鏡の狸か?」
「眼鏡の狸がおったのもびっくりしたけど。お前がもしかしたら、間髪入れずあの狸殺すかもしれんと思うてあのときは冷や冷やした。それをきっと止めへんやろうなと冷静に思ったりした俺も、俺自身が怖かったわ。」
 蝮は柔造を一瞥する。
「……。せやな。なんで私はあいつ殺せへえかったんやろ?」
 柔造なりの軽いブラックジョークを蝮は本気で受け取ってしまった。そしてある意味柔造は地雷を踏んだ。
「お前昔っから落ち着いた大人っぽい男が好みやったからな。」
 蝮は黙って視線を逸らした。柔造は前方を向いて運転しながらぽつりと呟く。
「しかもあいつは優しげな奴やったし。」
 いきなり蝮が左手を伸ばしてハンドルを握っている柔造の手を掴んできた。
「危ないやろ。」
「変なこと言うんやったら、このままそこらへんのガードレールに突っ込んで心中したろか?」
 そんなことをされては困るので柔造は蝮を宥めながらハンドルを取られないように車を走らせる。そして路肩に車を止めた。
「柔造お前、私があの男に未練があるとか勘繰っとんのか?」
「お前が娘時代に個体識別出来とった数少ない男の一人やったからな。一応根拠はあるっちゅーことで。」
「根拠があったら勘繰ってええんか? 昔のことごちゃごちゃと……。」
 あーあ、と柔造は心の中で思う。こんなふうなやり取りの時には蝮は頑固というか、一方的に非がこっちにあるように持って行こうとする。別にそれはいい。好いた女に八つ当たりされるくらいは柔造はなんとも思わなかった。しかし今日しか出来ないような話を今日しない理由はない。
「お前。あの狸に騙されたんは、ほんで騙され続けとったんは、やっぱりあいつのこと好きやったからやないん? ほんで今日あいつのこと許したんも、まだあいつのこと恨み切れないとこがあったんやないん?」
「女の腐ったような詮索すんなや。私があの狸のことうっかり信じ抜いてとんでもないことになったんは、あいつの言うてたことが途中まで本当に真実やったからや。」
「ほんでも俺やったら信じんけどな。」
 蝮は痛いところを突かれたというようにぎくりと肩を震えさせる。
「ゆ、許したんはな……、あの……。そや。心の新陳代謝というやつや。いつまでも古い記憶に縛られとったらあかん。心が垢だらけになってまう。」
「ふーん。」
 柔造は再び車を発車させた。
「ほんならもう、ええんやないか?」
「何がや。」
 柔造は京都の街の碁盤の目を軽快に走る。
「騎士団復帰。再認定試験の受験資格まだ貰えてへんし。」
 蝮は水面下に多方面に騎士団復帰の根回しをしていた。しかし不浄王事件そのものの知名度と予測された被害の大きさ故に、蝮の堅実な努力の結果は芳しくなかった。それはつまり堅実であっても空回りでしかなかった。柔造としてもそろそろ、そんな妻の空回りを見守るのも辛くなってきていた。
 蝮は再び柔造に噛み付いた。
「妻のキャリアアップへの努力が不満なんか!」
「いや……だからな、キャリアアップなら家で他の職種でやればええやん。それに俺もうそろそろ子ども欲しいんやけど。お嫁さんからおかあはんにキャリアアップ、ええやんか。」
 この男はと蝮は歯噛みする。妻の他の男への気持ちを咎めはしないが、やはり自分が特別だと思いたいところがひしひしと伝わってくるし、それの裏に隠した妙な思いやりが背中を痒くさせる。
 柔造は大事なことなのか、もう一度同じことを口にする。
「子ども、欲しいわあ。結婚三年目やし。もう坊もサタンの息子を嫁にしとんやで。時が経つんは早いわ。だからこそ親父に孫の顔見せたいし。弟やら妹やらに甥っ子姪っ子の顔見せたいし。お前のおとうはんや妹らもそれを楽しみにしとるやろうし。」
 それを言われたら耳が痛い蝮だった。
「考えとくわ。前向きに。」
「頼む。前向きに。」
 
 旧姓・宝生蝮は男運の悪い女だった。
 そして三度目の正直によって、結局蝮は志摩家の花嫁になった。幼かった自分の思い描いていたものとは全然違う。幼い自分が今の自分を見たらきっと何に妥協しとるんやお前と説教を食らう羽目になるだろう。しかし、そんな無垢だった頃の自分に蝮は言い返すだろう。
『私は妥協したわけでも諦めたわけでもない。』
 隣の柔造がちらっちらっとこちらを余所見してくる。危ないやんかと言いながら柔造の横腹をつつく。柔造はへらへらと笑いながらごめんと言った。ほんま頼りない男やわと思いながらシートに身体を沈めた。
 心の中の幼い自分はまだ怪訝な顔をしている。その自分に蝮は語りかける。
『私も柔造も失敗しながら大人になっただけや。私はとんでもない狸に騙されて大人っぽい男に夢見がちな幼女やなくなって、柔造は好きな子にちょっかい出してガキ扱いされるような申やなくなった。そんな柔造に私が遅ればせながらに気づいて、好きになった。そういうことや。』
 幼女な蝮はしかめっ面を浮かべながら頷いてくれた。所詮は蝮が心の中で思い浮かべただけの自問自答の相手でしかないかもしれないが、ここまですんなりと納得してくれたのには驚きが隠せなかった。







なんか最近柔蝮率が高いような気がします。esperanzaとは違うはずなので、蝮と金造の嫁小姑戦争は無いものと考えてください(現時点)

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柴仲達
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読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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