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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆ss「青と黒」燐と朴

 自分のほうに笑顔で近づいてくる少女。ショートヘアーの中背、温和そうな細目の。
 その姿を見て燐は少し身構えてしまった。
「あら。燐君。隣いいかな?」
 燐は中庭のベンチに座って横に参考書やら塾でメフィストから貰った本を積み上げていた。手にはその中の一冊が広げられている。それらをまとめて膝に移動させて声を掛けてきた人物のために隣のスペースを空けた。
「朴朔子……。」
「そんなに警戒しないでよ。」
 朴はおっとりとした口調で言うと、燐の隣に腰掛けた。上体と腕を背もたれに預け、足を組んでどう見てもだれけたオヤジのような格好で空を仰ぎ見る。そしてこれまたオヤジのようにはあなどと声を上げた。
「朴。夏バテか?」
 あまりにも気だるげな格好に燐は呆れたように言う。とうの燐といえば揃えた膝の上に本を置いているので、両手でちょこんと押さえた格好は、まるで文学少年を思わせるようだった。
「夏バテというかー。へへへ……へへへへ……。」
「気味悪いな!」
 朴は燐の言うとおり気味の悪い笑い声を上げている。以前はそれほど気にならなかったのだが朴の本質を思い知ってからというもの、その笑顔の裏のどす黒いものを疑わずにはいられない燐だった。
 朴は薄ら笑いを浮かべながら言う。
「出雲ちゃんが……。」
「神木がどうかしたのかよ。」
 朴がらみの神木出雲という名前にもあまりいい気がしない燐だった。何かといえば「セクハラ」という四文字に纏わる記憶が蘇る。
「あのね。出雲ちゃんが……飽和状態っていうかバブルっていうか。うふふ……。」
「意味わからんけど! そのやらしい笑いだけはやめろっ。気持ち悪い通り越して怖い。」
 まだ残暑が残っているような時候だったが、燐の背中は極寒地帯だった。
「うふふ……。ふふふ……。君には、ありがとうと言うべきかな。君のケツにちょっかい出したせいで、出雲ちゃんがね、物凄くヤキモチやいてくれてね。今私達すっごいいちゃラブ状態なの。」
 そうですかとしか燐は返せそうにない。
「会話の中に君の名前をちょこーっと出すだけでね。『だめーっ』とか『朴は私の!』とか『あの泥棒猫殺す!』とか、可愛いでしょ? わざとなんだけどね。燐君の名前を聞くと対抗心をくすぐられるらしくて。」
「いい加減にしろよてめえ! 他人のことネタにするんじゃねえよ。ていうか殺すなんて言わせるほど名前出すんじゃねえよ! 俺はかませ犬かよ!」
 神木出雲は塾では燐にそういう感情を極力出してなかっただけに、燐は自分の知らないところで身近な他人に何を思われているか分からないという恐怖に戦慄した。
「いやそこはちゃんと、アレはただのつまみ食いだって言っているから。腹の足しにならないって言ってるから。私にとってのフルコースは出雲ちゃんだって言ってるから。」
「神木は、そのつまみ食いが許せねえんじゃねえのか。ていうか、人をつまみ食い扱いするなよ! 俺だって勝呂にしてみればフルコースだからな!」
 ふふんと朴が鼻で笑う。足を組み替えて燐のほうを向きにやりと笑った。その顔はごはん味噌汁メザシ沢庵のフルコースごときが何を言っているという、ある意味挑発的な表情だった。何を言われたわけでもないの燐は目を逸らしたくなる。
「まあ。たまにも粗食もいいかなって思っただけだし。」
「粗食!」
 やはり燐の脳内を過ぎったものは気のせいではなかったらしい。
「ま、いいけど。さっきから私に、なんかつっかかってるよね君。生意気。」
「お前が先にからんで来たんだろ。」
「あれ? そんなこと言っていいのかな? サタンの息子が。」
 おいと燐は言おうとした。京都での「サタンの息子」いじりが元塾生の朴にまで広がっている。
「勝呂君と奥村先生に二股かけてるサタンの息子に言われたくないなあ。あ。しえみちゃん入れたら三股か――。」
「だれがいつ二股かけた。っつーか、しえみには一生友達宣言受けたし。」
「あらお気の毒。」
 朴は燐が積み上げているテキストの背表紙を覗き込んで、少しだけ驚いたような表情を見せ言う。
「それにしても。燐君って勉強熱心なほうじゃないはずだよね。どうしたの。そのテキストの山。」
 燐は朴からの指摘に頬を赤らめる。他人に言われるとわけもなく気まずいと思ってしまった。
「えーと。お前に言ってもしょうがねえんだけど。」
「ああ。ひょっとして祓魔師認定試験に受からないと処刑されるってやつ?」
「おい。そんな込み入った事情、神木がぺらぺら喋ったのか?」
「いや。理事長。」
 思わず腰を浮かせた燐は膝から参考書をばたばたと落とした。それを拾いながら燐は溜息をつく。
「何喋ってんだよ。あいつ。」
「ほんと。何喋ってんだ、だよね。あの理事長。でもさ、」
 燐が参考書を拾い集めているのを手伝わずに眺めながら朴は言葉を続けた。
「理事長も自分の胸になにもかも仕舞い込めなかったから、私に言ったんじゃないかな。」
「俺の事情だろ。なんであいつが。」
「燐君の後見人さんじゃん。同じ悪魔だし。だからああ見えても、あの人にとっては燐君は身内みたいなもんだし。一蓮托生な気分なんじゃないの。」
 それもそうかなと燐は合点しかけた。それでも喉に小骨が刺さったように、すんなりと飲み込めない。しかし言葉に出来ないから燐はこの場では一応朴に頷いてみせた。
「私は燐君には、なんの力にもなってあげられないんだけどね。所詮は一般人の脇役だから。モブだから。ヒーローにもヒロインにもなれないからね。」
「いやその割には、お前は破壊力がすごいんだけど。」
 朴は笑って誤魔化した。そして朴は次の言葉を瞬時に燐に告げる。
「君は死なないように頑張ろうね。」
 燐は今度はその朴の言葉に素直に頷けた。
「ああ。……俺だって生き残って二年生になりてえからな。出来れば、その……勝呂と同じクラスになりたいし。」
「ああ。だから参考書なんか見てたわけ。認定試験と同じくらいの時期に進路やコース変え希望の調査もあったよね。確か。ふーん。そうなんだ。……燐君にしては努力し始めたというか、ちょっと欲張りになってきたような感じだね。」
「欲張った覚えはねえぞ。」
「分不相応なこと思ってるのは欲張りって言うんだよ。聖十字学園で普通科下位の生徒が特進科に鞍替えはどう考えても無茶だよ。あー。でも数ヶ月先の認定試験に受かるのと難易度はどっこいか。とりあえず君は生き残れば、あらゆる可能性が出てくるってことだよね。」
「お前さっきから血も涙もないような、励ましているようで貶してるようなことばっかり言ってるんだけど。前に俺のこと気になってたとか言ってなかったっけ?」
「人の興味関心の仕方なんてそんなもんだよ。同情したって現実は変わらないし。」
 でもと朴は燐の髪に自分の細い指を絡ませた。
「君が死んだら出雲ちゃんにアピるネタがなくなるから、頑張って生き延びてね。」
 そう言って朴は燐の額に唇を寄せてきた。柔らかくて優しい感触が燐の額に触れる。
 
「でこちゅー。」
 
 それは一瞬の出来事で、燐は口をぽかんと開けて再び地面に参考書を落としてしまった。今度は朴は自らその参考書を拾ってやる。
「はい。」
「お、おう……。」
 周りの景色が金色に霞んでどこからか金木犀の香りがする。もう夏の終わりで秋の始まりなんだと燐は思った。その淡い光が朴の優しげな表情によく似合う。
 
「頑張れ。サタンの息子。」
 
「またそんなことを言う。」
 照れくさくなって朴から目を逸らしたその視線の先に、見つけてはいけない人影を見つける。長い髪。釣り上がった目は、彼女にとってあってはいけない光景への怒りに余計に釣り上がっていた。
 朴はこともなげに燐に告げる。
「あ。このベンチね。出雲ちゃんとの待ち合わせ場所だったんだ。」
「おい……。」
「さっきの見られたね。たぶん。」
 燐はそそくさとベンチから立ち上がって参考書を抱えて小走りに立ち去ろうとする。
 
「この泥棒猫!」
 
 出雲は走ってベンチに駆け寄り逃げ去る燐に向かって叫んだ。そのまま朴を追い越して逃げていく燐を追っている。
 朴はその風景を見送りながら、意味深に真顔になった。
「本気で頑張って欲しいな。燐君。君が死んじゃったら、物質界だって無事じゃ済まなくなるもん。」
 君は対サタンの最大の対抗策なのだからと朴は呟いた。
 
 


今回はちょっと短めでした。

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HN:
柴仲達
性別:
女性
職業:
会社員
趣味:
読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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