忍者ブログ

幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

[226]  [224]  [223]  [222]  [221]  [220]  [219]  [218]  [217]  [216]  [215

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


☆ss「悪魔の兄を弟がエンドにしちゃうぞな腐った話」第十一話「ハルトマンの囮中年」燐雪、暴力注意

 いってきますという言葉と共にアサ子はリュックサックを背負ってドアから出て行った。その姿を幼稚園児の保護者宜しく燐は手を振って見送っていた。
 アサ子がメフィストのところに話をつけに行った日から、アサ子はたびたびヨハン・ファウスト邸にお泊りに行くようになった。
「すっかりあいつと仲良くなっちまったな。アサ子。」
「こんなことならもとから理事長のところに預ければよかったんだよ。」
 雪男がわざとらしく溜息をつく。アサ子がメフィストのところにお出かけするたびに、燐がかなり気合の入った弁当をアサ子にせがまれて作っているが、そんなことはアサ子が四六時中いたときのストレスに比べれば些細なことに思える。要するに雪男は兄がベタベタに可愛がっていた居候の存在が目障りだったのだ。
「アサ子そのうち、自分のもといたところに帰るのかな?」
「そうだね。アサ子さんの所属していたところの人も心配しているだろうし。」
 雪男を含めた正十字騎士団日本本部の職員は、アサ子が燐のところに転がり込んだ由々しき原因を知っていた。アサ子の正体さえも。だから雪男はメフィストのところに入り浸るアサ子の行動を、アーサーがヴァチカンに戻るための算段に取り掛かったと解釈した。そのために燐への処遇をどうするかという話し合いもしているのだろうと。
 しかし雪男の予想はばっさりと裏切られているわけだが。
 アーサーはもう雪男やその他の祓魔師が知っているアーサーではなくなっている。神の教えを第一に悪魔に容赦なく剣を振るう聖者は、正十字騎士団日本支部での日々の移ろいの中、とある人にとっては腑抜けてしまったと思われかねない心変わりに今少し戸惑っていた。
 アーサーはヴァチカンからの要請に逆らっている状態だった。中学生の反抗期のようなヒステリーぎみの痛々しい反逆ではなかったが、消極的にはヴァチカンの利益に反することをしている。しかもそれをしている根拠は自分の私的な感情からだった。
 自分に優しく接してくれた奥村燐を殺せない。とんでもなくシンプルで誰も納得しない甘々な理由だった。
 だからこそ。メフィストはともかくアーサーは、燐がこのままカソリックの僻地である島国の悪魔のお膝元に身を隠し、普通の祓魔師として生きて欲しいと思っている。日本の信仰の拠点にも悪魔が封じられていたり、たまにヴァチカン側の攻撃の対象になったりしているが、燐はその時には匿名で祓魔に携わればいいと、メフィストとアーサーは考えを同じくして示し合わせることにしている。燐は青の炎もどうやらコントロール出来ているらしい。だから燐は危険対象じゃないとアーサーは判断していた。その根拠は約一ヶ月一緒に過ごした燐の人柄や、突発的に発動される炎の頻度が著しく低かったお陰でもあった。
 そして周りに悪魔だということをばらしていても、結構受け入れられている現実もある。というか悪魔であることを明るみにしたお陰で、勝呂及び塾生の頭の中で渦巻いていた様々な疑問なり疑惑に説明がついたからでもある。
 でもぶっちゃけて説得力がある理由というのは、燐が実の弟に殺意を持たれているというわけあり物件なせいだった。燐は弟の虐待に対してよく耐え、周りがどんびきするほど無抵抗主義というか、やられっぱなしだった。
 そして今日も弟に付けられた傷を弟に手当されているのだった。
「アサ子が言ってたけど、雪男見てると人間のほうが悪魔より怖いと思うって。」
「どうして?」
 雪男はピンセットで挟んだアルコール綿をぐりぐりと傷口に押し込むように当てて燐に悲鳴を上げさせている。
「痛い! ゆきおいだい!」
「兄さんがアサ子さんの意見に同調しようとするからだよ。兄さんは本気でそんなこと思ってるの?」
「お、思ってねえけど。」
「うそ。思ってるでしょ?」
 雪男は燐に顔を近づけてじっと目を覗き込む。眼鏡のレンズごしの緑がかった青い目は、西洋でいう緑の目に込められた意味を殊更に強調するように燐を射抜いていた。それは魔性の嫉妬の炎のようだった。
「他人から同情されるようになったからっていい気になってるんじゃないよ。それは兄さんを受け入れてくれたことにならないからね。兄さんは見た目馬鹿っぽく見えるから、彼らには兄さんの本質が分かってないだけだよ。」
「俺が馬鹿なのは俺が一番よく分かってるし。お前のいう俺の本質って……。」
 雪男は包帯を巻き終えると、燐の額を小突いた。
「弟にスケベ心を持っている悪魔らしい性欲のことだよ。」
 燐は反論はしない。
「俺は我慢してるだろ。」
「我慢が必要な時点で何かおかしいと思わないかな。」
「そんなこと言ったって。」
 弟の青い目が燐の劣情を嘲笑っている。雪男の言葉に燐は対抗しようがないからだ。
 雪男の言っていることは人間の社会の中では正しくて、燐が抱えている思いのほうが間違っている。だからそれなりに報復は受けて当たり前。燐が嫌というほど自覚している事実だった。そしてそれをアーサーが留守の今日、雪男は改めて燐に思い知らせてやろうと思っていた。
「あれだけアサ子さんにべたべただったのは、それは僕から気を逸らすためだったんだよね。」
「アサ子は記憶喪失なんだから、ほっとけないのが当たり前だろ。」
「僕との共同生活が膠着状態のときに、ほんと都合よくそんな人が現れて良かったよね。」
「お前は、何が言いたい。」
 雪男は凍りついた目で燐を凝視していた。
「それ以外にも。勝呂君から部屋に来てと誘われたり、ネイガウス先生のところに泊まりにいったり、僕と距離を置こうとしてたよね。彼らもそれを推奨していたわけだけど。それでも兄さんは、彼らに救いを求めて情欲の捌け口に出来ないんだよね。僕に兄さんの思いが否定されても、僕が駄目なら勝呂君、なんて器用な真似は兄さんは出来ない。そうだよね。アサ子さんにしても。最初は綺麗だから世話を焼いていた。アサ子さんは僕と違って、可愛くて素直で兄さんにとって恋の相手になってもおかしくなかったけど、手を出す前にその気持ちは保護欲に変わってこれも駄目。だったら結局、兄さんの好きな人は僕のままってことで理解していいかな?」
 事情を知らない誰かが聞いたら自意識過剰極まりない推測でしかない言葉だった。しかし悲しいかな。燐はそんな推測の全てを否定出来ないのだ。否定しても嘘になるし、肯定して白状して許してくれるわけもない。だから燐は黙るしかない。
 雪男は燐が自分が望む通り存分に傷ついていることを認識したが、それだけでは足りなくなった。もっと目に見える形で兄の苦しみや悲しみを目の当たりにしたい。
「他人から同情されていい気になってんじゃないよ。兄さんは知らないだろうけど、僕にだって僕の気持ちに寄り添ってくれる人もいる。」
「誰なんだそいつ。」
 燐の目に心なしか怒りの気配が見える。雪男が見たかったものが少しだけ見えた気がした。
「兄さんが知らない人。僕は兄さんの作った人間関係のほぼ全てが分かってるけど、僕の人間関係を兄さんがどれだけ分かってるかな? 兄さんの人間関係なんて所詮、僕からの虐待がきっかけの同情心からなのがほぼ全てじゃないか。悪者の僕がいるから、彼らは被害者の兄さんに惹かれるんだ。でも僕には兄さんに対して加害者だとしても、それでも味方してくれようとしている誰かが存在する。彼は僕が兄さんを虐待せずにはいられない僕の言う理由を受け入れてくれた。」
 雪男の口からは燐が聞くに堪えない言葉が溢れていた。燐はそれに耳も塞げずに呆然と弟を見上げている。
「お前はそいつのことが好きなのか?」
「好きじゃないよ。でも彼が僕の存在を全て肯定してくれる言葉をくれるんだ。そういうところは身に染みて感謝してるよ。」
 雪男は今まで鼻も引っ掛けてなかった藤堂のことを話しだす。燐の顔が悔しさやら嫉妬やらで歪む。兄は弟の言葉を正面から忠実に受け止めてしまっているから、雪男の話していることと、雪男と藤堂の現実の関係のズレにも気がつかない。弟の日頃の同僚達への態度を見ていれば分かってもいいはずだ。しかし燐は馬鹿正直に弟の口から齎される情報を鵜呑みにして心を嵐の海のように揺らしている。
 虚言でさえも自分は兄の心を波立たせることが出来る。それはとんでもないくらいの優越感を与えてくれている。
「雪男。お前そいつのこと好きじゃないとか言ってたけど。」
「それが何?」
 雪男は苦し紛れな兄の態度に身体が軽くなったような気がした。そして夢うつつのように相槌を打つ。何か言われたら、どう言い返して、どんな苦しみを与えてやろうかと。
 燐は一回だけ唇を噛んで、血を滲ませた。そして言う。
 
「本当は、そいつのこと好きなんじゃね?」
 
 雪男にとって心地良い空間に亀裂が走る。兄が言ったのは、弟の虚言を正面から受け止めたが故に理解した解答だった。雪男が兄を突き放すことを許容した言葉。そして兄が雪男を突き放した言葉。雪男の言葉を認めたからこと出てきた真摯で辛辣な推測。
「馬鹿が! そんなことしか考えられないのかお前は!」
 雪男はそう叫ぶと燐の顎を蹴り上げる。垂直に振り上げた足が綺麗に燐の顎を捉え、部屋の壁に吹き飛ばした。燐は背中から壁にぶつかって「ぐうっ」と唸ったあとに唾液と血を呼吸と共に飛ばした。
 壁際で咳き込んでいる燐にゆっくり雪男は近づく。
「や、やめろ……。雪男……。俺、なんか。気に障るようなこと、言った?」
「言っただろう。僕が誰にでも心を許すような、ふしだらな男だって言っただろ。その口で。」
「だって……。俺なんかより、そいつのほうがよっぽど……雪ちゃんの味方っぽいじゃん。」
「それがなんだよ! 味方してくれる人間、みんな好きにならなきゃいけないのかよ! 僕はお前と違ってそんなのことに逃げたりしないっ。他の男に縋ったりしない!」
 雪男は矛盾したことを兄に言っている。雪男のほうから藤堂のことを兄に打ち明けて、兄を焦らしてへこませたかった癖に、それを兄に肯定されるとそれは違うと言う。
 そこにもし他に観測者がいれば誰もが叫ぶだろう。『お前は何をして欲しいんだ!』と。
 燐だってその叫びを口に出したかった。それを言葉に出来れば、何かのきっかけにはなったかもしれない。だけど燐は弟からの暴力の嵐から身を守るのに精一杯だった。反撃はまかり間違ってもしてはいけない。弟が十の暴力で与える傷を、自分は一の暴力で事足りるかもしれないからだ。なら燐は当然のように無抵抗を選ぶ。雪男が疲れてくれるまでやり過ごす。
「この。ろくでなし。」
 雪男は汚物を吐き捨てるように言うとはあはあと肩で息をつきながら自分の机の椅子に座る。そこからぐったりした燐を眺めていた。
「ねえ、兄さん。僕のことを好きだって言い寄っている男は、兄さんと同じ悪魔だよ。元人間のドロップアウトした、いい大人。そんな奴、好きになるわけないじゃないか。」
 燐は腫れ上がった顔を雪男に向ける。雪男はその顔を見て顔を顰める。
「手当てしてあげたいけど。兄さんを殴りすぎて僕の手も痛いよ。」
 燐は回復し始めた身体を起こして床に座り込む。
「それを先に言ってもらえたら、兄ちゃんは勘違いしなくて済んだかもな。」
「僕も正直同感だよ。今までじゃ考えられない馬鹿馬鹿しい理由で兄さん殴っちゃったね。」
 雪男はよろめきながら兄に近づく。
「だけど今日は本気で怒ったからね。兄さんだって、僕から本当は勝呂君が好きだろとか、ネイガウス先生が本命だったりしないとか、言われたらショックでしょ。」
 燐は考え込む。雪男のこめかみに青筋が浮かぶ。
「どうなんだよ? 好きな相手にそんな勘違いされるの? まさか勘違いさせた相手が悪いかもとか考えてたりしない?」
「お……思ってません。」
 雪男は燐の血がこびりついた唇にキスをしてやる。
「雪男……。」
 燐の手が肩を抱いて腰に回ったが、雪男はその手を振り払わなかった。
「雪男。俺にキスしたかったの?」
「自意識過剰なこと言わないで。仕方なくだよ。」
 そう言いながらも。今まで兄にキスした時には自分からしたかったのだと、雪男は今更ながら思った。
 






久しぶりに二人きりだと思えばこんなんです。


拍手[1回]

PR

☆ss「高砂6」勝燐+柔蝮+雪&藤堂 ギャグ | HOME | ☆ss「青と黒」燐と朴

-Comment-

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

カレンダー

05 2026/06 07
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30

フリーエリア

最新コメント

[08/16 木音]
[07/16 木音]
[07/09 木音]
[06/06 さくむ]
[06/04 ニルグス]

最新トラックバック

プロフィール

HN:
柴仲達
性別:
女性
職業:
会社員
趣味:
読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

バーコード

ブログ内検索

P R

カウンター

忍者アド

忍者アド

フリーエリア


忍者ブログ [PR]
template by repe