幸福雑音
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☆ss「ロンド」長編最終話 勝燐♀+雪男
悪賢い悪魔に比べて人間のほうが一枚上手だった。遠目に窺った駅には、それとなく騎士団の息がかかったと思われる人間がうろついていた。
「雪男のやつ。もう感づいて人を手配しやがった。」
網走市からは出ているはずなのに。それどころか札幌駅にいるのに。クロは最寄の駅から線路沿いに電車並みの速さでここまで来た。乗っていたのが悪魔の燐でなかったなら、身体がついていかなかったところだろう。
燐は駅のトイレに入ってくる祓魔師の会話を聞いた。
「奥村下二級祓魔師はお使い中に迷子だってさ。弟の中一級祓魔師の奥村神父見習いから捜索要請があった。早急に保護してくれと。」
「まあ、北海道来てから一年以上網走市の端っこの教会からから出てないらしいし。しょうがないのかもしれないけど。」
その会話を咄嗟に飛び込んだトイレの個室から聞いて、燐は「迷子だとぉ」と苦々しく呟く。
「よくそれで人が動いてくれるもんだぜ。北海道の祓魔師は暇なのか。」
祓魔師の会話は続く。早くトイレから出て欲しいものだ。
「服装はシスターの制服を着てるから、すぐに見つかりそうだな。」
「それにしても、騎士団日本支部の名物ともいえるサタンの娘を見れるわけだから、ある意味役得な任務かもしれないな。」
「そうだな。噂の割には情報が少ないからな。なんか凄い可愛いとか、巨乳だとか聞くけど。本当なら間近で見てみたいもんだ。」
人をパンダみたいに言いやがってと燐は青筋を立てる。可愛いとか巨乳とか、勝呂にさえも言われたことないのに。見も知らない連中に好き勝手言われる日が訪れるなんて思ってもみなかった。
「りん。あいつらこのふくきてること、しってる。」
「そしたら、他所の駅でもこの服で特定されちまう。」
教会じゃないのだから、シスターの服を着ていたら、どっちにしろ目立ってしまう。祓魔師二人が出て行ったあと、燐はトイレから出て外を窺った。始発を狙っていたので、まだ外は暗い。
「よし。クロ、トンネルにいくぞ。」
まだ切符は買っていない。朝も早いので、通勤時間ぎりぎりまでならクロの背中に乗っても大丈夫だろう。 何気にクロは北海道を横断するという悪魔ならではの偉業を成し遂げていた。人口密度の低い地域も多い北海道だからこそ為し得た荒業だった。
人通りが多くなれば、そこから先は歩いていくしかない。
「トンネルって、せいかんトンネルか?」
燐は頷く。
「とにかく本土に渡ってしまえば、交通機関しかマークしてない雪男の目は誤魔化せる。」
幾ら迷子でも網走から離れすぎている青函トンネルまでは人を配置出来まい。でも、本土に移っても雪男なら何か手を打ってきていそうだが、そのときはそのときだと燐は覚悟した。
* * *
「ほんじゃあ坊。気をつけて行ってきて下さい。」
「ああ……」
東京駅のプラットホームで預けていた荷物を志摩から受け取った。
「あいつの顔見て土産渡したらなるべく早く帰るつもりやけどな。」
「坊。そういうときには、なんやかんや帰れん理由こじつけて居座ってしまえばええんや。買っとった切符がどっか行ったとか、財布すられたとか。」
「阿呆。みえみえの嘘なんてよう吐かん。」
そうやろなと志摩は言う。
「でも、燐ちゃんに言うべき言葉はちゃんと用意しとるんやろうな?」
この時ばかりと志摩は真面目な顔で言った。
「当たり前や。ちゃんと返事も貰ってくる。」
「坊。気張りや!」
勝呂は電車に乗り込む。志摩が手を振って頑張りぃと叫んでいた。
* * *
「札幌駅にいなかったんですか。はい……心配をお掛けします。迷っていたと言っても、この付近に帰ってきているのかもしれません。あとは僕が探してみます。ああ……大丈夫です。もし手に余るようでしたら、本部へ後見人のフェレス卿に助けを求めますから。」
名誉騎士の名前を出しておけば必要以上の追求を受けずに済むだろうと、この時ばかりは自分の後見人の名前を利用することも屁とも思わなかった。
「フェリーを使われるか、鉄道を使われるか。まさか空路ってことはないよな。」
それならそれで鍵を使って学園で待ち伏せほうが早いのかと雪男は頭を捻る。しかしそれだと、メフィストに燐が修道院を抜け出したことを知られてしまう。そして燐の話を聞けば、自分がどれだけ捏造した事実を燐に話していたかもメフィストに全て知られてしまう。
メフィストの呼び出しはいつあるか分からない。そのときすぐに対応出来なければ、何かあったのかと疑われるのは必至だ。しかしここを動かなければ、どっちにしろ燐が本土に渡ってしまう。
「メフィストの呼び出しは何とか誤魔化すかしてみよう。旅慣れない姉さんのことだから、とにかく最短ルートで追えば追いつけるかもしれない。」
そうと決心したら雪男はすぐさま旅装に身を窶して修道院をあとにした。
「………」
雪男が修道院をあとしたあと、人ならぬものが修道院へ近づいてくる。それは百年ぶりに訪れる気配だった。
* * *
燐はクロと一緒に線路沿いを歩く。普通の徒歩ではなかなか青函トンネルの入り口にたどり着けない。しかし悪魔の体力のお陰でその距離は確実に迫っていた。
「疲れはしねえけど。気が遠くなるな。」
「りん。それおなかすいてるせい。」
「そうだな。交通費浮いたぶん、なんか食っておけば良かったかもな。」
「クッキーあるじゃん。」
「あいつらへのお土産だけど、いっか。」
缶も大きいし、三つもあるんだから。
燐は線路の脇に腰掛ける。そしてリュックから牛乳パックとクッキーの缶を取り出した。
「さあ、食ったらまた元気出して歩くぞ。」
ハンカチの上にクッキーを出す。食べるのが勿体ないと思っていたためか、腹八分にしても少ない量だった。クロも嬉しそうに大好きなクッキーを齧っている。口の周りを舐めているクロを燐は目を細めて見ていた。
「なんだか思っていたより大事になっちまったけどさ、あっちでみんなに会ったら、良かったって思えるよな。」
「もしかしてふあんなのか?」
「いや。ここまで来たんだから、そんなん感じてる暇ねえよ。」
燐が眺めていたクロと地面の色が急に濃くなる。
後ろを振り向くと見知らぬ男がいた。しかしどこかで見たような気がする。不思議と自分を探している祓魔師の一人だとは思えなかった。しかし誰かに似ている。
「なんやかや考えなくてもいいですよ。奥村燐。」
「お前は、騎士団の人間なのか?」
「騎士団にも所属していませんし、人間でもありません。」
「んじゃ、悪魔?」
男は頷く。燐は頭に降って沸いた勘に従って声を発する。
「こんなこと言ったらって自分でも思うけど、お前ひょっとして、俺のこと助けてくれるつもりでここにいるのか?」
悪魔の直感だった。男は困ったように首を傾げている。否定的なその態度にも関わらず、男は言った。
「確かに兄上には助けるようにって頼まれました。僕、アマイモンって言います。貴方、いや君は、僕に助けて貰いたいですか?」
燐はアマイモンと同じように首を傾げている。助けてくれそうなのは嬉しいけれど、今は助けて欲しいとは思っていない。
「君一人より、僕という連れがいたほうが何かと有利に働くと思います。」
「いや、いいよ。」
「そう言われても、あれ? これは」
アマイモンは燐のハンカチの上のクッキーを一つ摘むと、目の上で翳してから口の中に入れた。
「うまい。」
「勝手に食うんじゃねえ。」
「美味しいクッキーをもっと食べたいので、僕は君についていくことにします。」
「勝手に決めるんじゃねえ!」
「報酬はさっき仕舞った缶一個分でいいです。」
三つしかない内の一缶丸々をこいつに寄越すつもりはない。しかしアマイモンは力づくで燐からリュックサックを取り上げてしまう。
「君はその猫又に乗って、目的地のトンネルを抜けるんでしょ。僕は君たちのあとを追いかけて走りますから。」
どうでも燐のクッキー目当てに同行してくるつもりらしい。リュックを人質に取られてしまったので、アマイモンの同行を許可するしかないらしい。
「ちゃんとついて来れるんだろうな?」
「はい。美味しいクッキーと兄上に誓って。」
悪気の無い返事に燐は呆れる。
悪魔と悪魔と悪魔の珍道中が始まった。
これで網走編の最終話です。次は正十字突入編になります。
「雪男のやつ。もう感づいて人を手配しやがった。」
網走市からは出ているはずなのに。それどころか札幌駅にいるのに。クロは最寄の駅から線路沿いに電車並みの速さでここまで来た。乗っていたのが悪魔の燐でなかったなら、身体がついていかなかったところだろう。
燐は駅のトイレに入ってくる祓魔師の会話を聞いた。
「奥村下二級祓魔師はお使い中に迷子だってさ。弟の中一級祓魔師の奥村神父見習いから捜索要請があった。早急に保護してくれと。」
「まあ、北海道来てから一年以上網走市の端っこの教会からから出てないらしいし。しょうがないのかもしれないけど。」
その会話を咄嗟に飛び込んだトイレの個室から聞いて、燐は「迷子だとぉ」と苦々しく呟く。
「よくそれで人が動いてくれるもんだぜ。北海道の祓魔師は暇なのか。」
祓魔師の会話は続く。早くトイレから出て欲しいものだ。
「服装はシスターの制服を着てるから、すぐに見つかりそうだな。」
「それにしても、騎士団日本支部の名物ともいえるサタンの娘を見れるわけだから、ある意味役得な任務かもしれないな。」
「そうだな。噂の割には情報が少ないからな。なんか凄い可愛いとか、巨乳だとか聞くけど。本当なら間近で見てみたいもんだ。」
人をパンダみたいに言いやがってと燐は青筋を立てる。可愛いとか巨乳とか、勝呂にさえも言われたことないのに。見も知らない連中に好き勝手言われる日が訪れるなんて思ってもみなかった。
「りん。あいつらこのふくきてること、しってる。」
「そしたら、他所の駅でもこの服で特定されちまう。」
教会じゃないのだから、シスターの服を着ていたら、どっちにしろ目立ってしまう。祓魔師二人が出て行ったあと、燐はトイレから出て外を窺った。始発を狙っていたので、まだ外は暗い。
「よし。クロ、トンネルにいくぞ。」
まだ切符は買っていない。朝も早いので、通勤時間ぎりぎりまでならクロの背中に乗っても大丈夫だろう。 何気にクロは北海道を横断するという悪魔ならではの偉業を成し遂げていた。人口密度の低い地域も多い北海道だからこそ為し得た荒業だった。
人通りが多くなれば、そこから先は歩いていくしかない。
「トンネルって、せいかんトンネルか?」
燐は頷く。
「とにかく本土に渡ってしまえば、交通機関しかマークしてない雪男の目は誤魔化せる。」
幾ら迷子でも網走から離れすぎている青函トンネルまでは人を配置出来まい。でも、本土に移っても雪男なら何か手を打ってきていそうだが、そのときはそのときだと燐は覚悟した。
* * *
「ほんじゃあ坊。気をつけて行ってきて下さい。」
「ああ……」
東京駅のプラットホームで預けていた荷物を志摩から受け取った。
「あいつの顔見て土産渡したらなるべく早く帰るつもりやけどな。」
「坊。そういうときには、なんやかんや帰れん理由こじつけて居座ってしまえばええんや。買っとった切符がどっか行ったとか、財布すられたとか。」
「阿呆。みえみえの嘘なんてよう吐かん。」
そうやろなと志摩は言う。
「でも、燐ちゃんに言うべき言葉はちゃんと用意しとるんやろうな?」
この時ばかりと志摩は真面目な顔で言った。
「当たり前や。ちゃんと返事も貰ってくる。」
「坊。気張りや!」
勝呂は電車に乗り込む。志摩が手を振って頑張りぃと叫んでいた。
* * *
「札幌駅にいなかったんですか。はい……心配をお掛けします。迷っていたと言っても、この付近に帰ってきているのかもしれません。あとは僕が探してみます。ああ……大丈夫です。もし手に余るようでしたら、本部へ後見人のフェレス卿に助けを求めますから。」
名誉騎士の名前を出しておけば必要以上の追求を受けずに済むだろうと、この時ばかりは自分の後見人の名前を利用することも屁とも思わなかった。
「フェリーを使われるか、鉄道を使われるか。まさか空路ってことはないよな。」
それならそれで鍵を使って学園で待ち伏せほうが早いのかと雪男は頭を捻る。しかしそれだと、メフィストに燐が修道院を抜け出したことを知られてしまう。そして燐の話を聞けば、自分がどれだけ捏造した事実を燐に話していたかもメフィストに全て知られてしまう。
メフィストの呼び出しはいつあるか分からない。そのときすぐに対応出来なければ、何かあったのかと疑われるのは必至だ。しかしここを動かなければ、どっちにしろ燐が本土に渡ってしまう。
「メフィストの呼び出しは何とか誤魔化すかしてみよう。旅慣れない姉さんのことだから、とにかく最短ルートで追えば追いつけるかもしれない。」
そうと決心したら雪男はすぐさま旅装に身を窶して修道院をあとにした。
「………」
雪男が修道院をあとしたあと、人ならぬものが修道院へ近づいてくる。それは百年ぶりに訪れる気配だった。
* * *
燐はクロと一緒に線路沿いを歩く。普通の徒歩ではなかなか青函トンネルの入り口にたどり着けない。しかし悪魔の体力のお陰でその距離は確実に迫っていた。
「疲れはしねえけど。気が遠くなるな。」
「りん。それおなかすいてるせい。」
「そうだな。交通費浮いたぶん、なんか食っておけば良かったかもな。」
「クッキーあるじゃん。」
「あいつらへのお土産だけど、いっか。」
缶も大きいし、三つもあるんだから。
燐は線路の脇に腰掛ける。そしてリュックから牛乳パックとクッキーの缶を取り出した。
「さあ、食ったらまた元気出して歩くぞ。」
ハンカチの上にクッキーを出す。食べるのが勿体ないと思っていたためか、腹八分にしても少ない量だった。クロも嬉しそうに大好きなクッキーを齧っている。口の周りを舐めているクロを燐は目を細めて見ていた。
「なんだか思っていたより大事になっちまったけどさ、あっちでみんなに会ったら、良かったって思えるよな。」
「もしかしてふあんなのか?」
「いや。ここまで来たんだから、そんなん感じてる暇ねえよ。」
燐が眺めていたクロと地面の色が急に濃くなる。
後ろを振り向くと見知らぬ男がいた。しかしどこかで見たような気がする。不思議と自分を探している祓魔師の一人だとは思えなかった。しかし誰かに似ている。
「なんやかや考えなくてもいいですよ。奥村燐。」
「お前は、騎士団の人間なのか?」
「騎士団にも所属していませんし、人間でもありません。」
「んじゃ、悪魔?」
男は頷く。燐は頭に降って沸いた勘に従って声を発する。
「こんなこと言ったらって自分でも思うけど、お前ひょっとして、俺のこと助けてくれるつもりでここにいるのか?」
悪魔の直感だった。男は困ったように首を傾げている。否定的なその態度にも関わらず、男は言った。
「確かに兄上には助けるようにって頼まれました。僕、アマイモンって言います。貴方、いや君は、僕に助けて貰いたいですか?」
燐はアマイモンと同じように首を傾げている。助けてくれそうなのは嬉しいけれど、今は助けて欲しいとは思っていない。
「君一人より、僕という連れがいたほうが何かと有利に働くと思います。」
「いや、いいよ。」
「そう言われても、あれ? これは」
アマイモンは燐のハンカチの上のクッキーを一つ摘むと、目の上で翳してから口の中に入れた。
「うまい。」
「勝手に食うんじゃねえ。」
「美味しいクッキーをもっと食べたいので、僕は君についていくことにします。」
「勝手に決めるんじゃねえ!」
「報酬はさっき仕舞った缶一個分でいいです。」
三つしかない内の一缶丸々をこいつに寄越すつもりはない。しかしアマイモンは力づくで燐からリュックサックを取り上げてしまう。
「君はその猫又に乗って、目的地のトンネルを抜けるんでしょ。僕は君たちのあとを追いかけて走りますから。」
どうでも燐のクッキー目当てに同行してくるつもりらしい。リュックを人質に取られてしまったので、アマイモンの同行を許可するしかないらしい。
「ちゃんとついて来れるんだろうな?」
「はい。美味しいクッキーと兄上に誓って。」
悪気の無い返事に燐は呆れる。
悪魔と悪魔と悪魔の珍道中が始まった。
これで網走編の最終話です。次は正十字突入編になります。
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趣味:
読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12
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