幸福雑音
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☆ss「エメロードアナザールート」最終話 雪アマ+シュラ
アマイモンの持っている鍵で、ヨハンファウスト邸に三人は侵入した。不法侵入者が三人。特に周りをはばかるでもなく歩き回っているのに、何の警備システムも動く様子が無い。最初からそんなものは無いのかもしれない。
「兄上は大事なものや秘密のものは、自分の家には置かない人ですから。」
「肌身離さず持つのとは逆の心理ですね。」
屋敷の裏。一見古井戸に見える場所が入り口らしい。井戸の周りをコンクリートの建物が囲んでいる。アマイモンを先に立たせてシュラと雪男も続いてそこに入る。
中は別の次元になっているのか、井戸なんてものはなくなって埃っぽい部屋の一室になっていた。沢山の小物入れの箪笥が並んでいる。それは年代物らしい。その上には西暦らしき四桁の数字が刻まれたプレートが張ってあった。御伽噺みたいなロケーションだった。
「確か奥村燐が生まれたのは一九九……あった。」
アマイモンは滑りの悪い箪笥の一つを開ける。その年のプレートの張ってある箪笥は五つか六つみられた。雪男からしてみれば、他の年のプレートより多いような気がする。
アマイモンはその中から一つだけ取り出した。それは一枚の古ぼけた写真だった。保存状態はほぼ壊滅的。ようやく目を凝らしてみて、何が写っているか分かる程度だった。
「なんだこりゃ? えらく色も褪せちゃってる。」
「何年かしてから拾ってきたらしいですから。」
「どこから?」
アマイモンはその問いには答えない。そしてシュラと雪男にそれを突きつけるように差し出した。
「これはどういうふうに見えますか?」
「女性が横たわっているようにしか……」
一人の女が両手を組んで横たわっている。その両脇には赤ん坊がすやすやと眠っている。
「母親が寝てる隙に写真を撮ったのか?」
「いいえ。その女の人は死んでますから。」
シュラと雪男は目を見開いた。そしてアマイモンは雪男と写真の女を交互に指差す。
「その女の人、お兄さんに似ていると思いませんか?」
「僕に?」
あまりぴんときていない雪男に対して、シュラはああと声を上げた。その顔は今にも泣き出してしまいそうだった。
「この女、確かに良く見ると、黒子がやけに多いかもしれないな。」
そこから三人は黙り込む。言葉を発することを誰もが躊躇った。周りの空気が、誰か義務を果たせよと訴えてくる。誰かがこの静寂を破るべきなのにと。
その場でどれくらいの時間が経ったのか分からない。元々時間の流れなんてない部屋なのかもしれない。シュラは黙って部屋のドアのほうへ身体を向けた。一歩踏み出す前にアマイモンが呼び止める。
「ちゃんと、兄上と藤本が仕組んだ御伽噺の始まりを聞いて下さいよ。きちんと絵本の一ページ目からめくらないと、わけがわからないでしょう。」
シュラが虚ろな目をアマイモンに向ける。雪男もシュラのほうを見たが、初めて見るような生気のない目に、雪男はぞっとする。
「ほっといてくれよ。私は絵本を読んで欲しい子供なんかじゃないから。絵本に縁もなかったし。」
シュラは残りの話はそいつにしてやってくれと、アマイモンに言い残して部屋を去った。あとに残されたのは悪魔と、絵本の読み聞かせを待つような雪男だけだった。
「どうします?」
その問いに雪男は答えられない。だから質問を質問で返してしまう。
「その御伽噺の作者は、フェレス卿と義父なんですか?」
「そうですね。あの人たちは親密なお友達同士でしたから。一緒に一つの物語を作りたかったんでしょう。」
雪男は途端に一つ物語のあらすじが思い浮かんだ。それを迷わず口にする。
「人間として育てられた、優しい悪魔の子供が世界を救う。」
「優しい人間の弟と一緒に、です。」
おちゃらけたようでいて強い父親。
頭が良くてお節介やきな優しい弟。
父親の周りの優しい人たち。
悪魔の子供に戸惑って怖がる人々。
でもそのうち、悪魔の子供の友達になってくれる愉快な仲間も出来るだろう。
そして悪魔の子供にも好きな子が出来るかもしれない。
それを見守るのは父親の親友の愉快で嘘つきな悪魔。
「兵器なんて言い方は方便なんですよ。そんなふうに言うから、兄上は奥村燐に近い人から誤解されるんです。まあ、自業自得でしょうけど。」
シュラがこの場から逃げ出した理由が、雪男にはなんとなく分かった。生前の師匠の願いを拒否した自分を悔いているのだろう。
藤本獅郎への思い故に、そんなことをしてしまったせいで、愛する男の一部さえ自分は手に入れられなかった。残してくれるはずだったもののほとんどを、あの悪魔に持っていかれた。
それを理由にあの悪魔を悪者にすることは出来ない。
御伽噺の作者の三人目になることを拒否したのは、霧隠シュラの確固とした意思だから。もう二度と藤本獅郎と同じ場所に立てないことさえも。
「お兄さんと、お兄さんのお兄さんは、引き離されることなく育てられました。同じように優しいお父さんの記憶を共有して、今こうやって同じ世界に生きています。その事実を弟はどう受け止めるのでしょうか?」
雪男ははあーっと長く息を吐く。
「幸いなことだと言わなければ、僕は罰当たりでしょうね。」
アマイモンは頷く。
「僕が読み聞かせ出来るのはここまでです。」
アマイモンは雪男の腕を取る。
「さあ。落ち込んでいるお姉さんを追いかけて、何もかもが遅すぎることが無いことを教えてあげてください。」
「そうですよね。シュラさんだって遅ればせながら、兄さんの師匠を引き受けましたし。僕、昔からあの人のことを知ってるんですけど。兄に剣を教えるなんて奇跡だって思ったんです。」
ドアを開けると元どおり薄暗い井戸のある暗い部屋。井戸の縁に腰掛けているシュラが宙を見ていた。
「あれ? もう終わり?」
「あなた僕が言うまでもなく、自分で答え見つけて立ち直ったわけですね。」
「いつ私落ち込んだっけ?」
にゃははと笑いながらシュラは立ち上がる。親指を立てて雪男とアマイモンを振り返る。
「今度またこの面子で肉食いに行こうぜ。」
「お姉さん。ボク今度は甘いお菓子がいいです。」
「いいですけど、今度の祓魔師の給料が出てからにしてください。あと給仕役は二度としませんから。」
えー? アマイモンとシュラは不平不満を口にする。波長が合ってるのは、どっちだよと雪男は心の中で文句を言った。
これでおしまいです。ちなみにお気づきだと思われますが、うちのメフィストはかなりお人よしよりの解釈を取っています。だからこそいろいろといぶかしむシュラと雪男でした。
「兄上は大事なものや秘密のものは、自分の家には置かない人ですから。」
「肌身離さず持つのとは逆の心理ですね。」
屋敷の裏。一見古井戸に見える場所が入り口らしい。井戸の周りをコンクリートの建物が囲んでいる。アマイモンを先に立たせてシュラと雪男も続いてそこに入る。
中は別の次元になっているのか、井戸なんてものはなくなって埃っぽい部屋の一室になっていた。沢山の小物入れの箪笥が並んでいる。それは年代物らしい。その上には西暦らしき四桁の数字が刻まれたプレートが張ってあった。御伽噺みたいなロケーションだった。
「確か奥村燐が生まれたのは一九九……あった。」
アマイモンは滑りの悪い箪笥の一つを開ける。その年のプレートの張ってある箪笥は五つか六つみられた。雪男からしてみれば、他の年のプレートより多いような気がする。
アマイモンはその中から一つだけ取り出した。それは一枚の古ぼけた写真だった。保存状態はほぼ壊滅的。ようやく目を凝らしてみて、何が写っているか分かる程度だった。
「なんだこりゃ? えらく色も褪せちゃってる。」
「何年かしてから拾ってきたらしいですから。」
「どこから?」
アマイモンはその問いには答えない。そしてシュラと雪男にそれを突きつけるように差し出した。
「これはどういうふうに見えますか?」
「女性が横たわっているようにしか……」
一人の女が両手を組んで横たわっている。その両脇には赤ん坊がすやすやと眠っている。
「母親が寝てる隙に写真を撮ったのか?」
「いいえ。その女の人は死んでますから。」
シュラと雪男は目を見開いた。そしてアマイモンは雪男と写真の女を交互に指差す。
「その女の人、お兄さんに似ていると思いませんか?」
「僕に?」
あまりぴんときていない雪男に対して、シュラはああと声を上げた。その顔は今にも泣き出してしまいそうだった。
「この女、確かに良く見ると、黒子がやけに多いかもしれないな。」
そこから三人は黙り込む。言葉を発することを誰もが躊躇った。周りの空気が、誰か義務を果たせよと訴えてくる。誰かがこの静寂を破るべきなのにと。
その場でどれくらいの時間が経ったのか分からない。元々時間の流れなんてない部屋なのかもしれない。シュラは黙って部屋のドアのほうへ身体を向けた。一歩踏み出す前にアマイモンが呼び止める。
「ちゃんと、兄上と藤本が仕組んだ御伽噺の始まりを聞いて下さいよ。きちんと絵本の一ページ目からめくらないと、わけがわからないでしょう。」
シュラが虚ろな目をアマイモンに向ける。雪男もシュラのほうを見たが、初めて見るような生気のない目に、雪男はぞっとする。
「ほっといてくれよ。私は絵本を読んで欲しい子供なんかじゃないから。絵本に縁もなかったし。」
シュラは残りの話はそいつにしてやってくれと、アマイモンに言い残して部屋を去った。あとに残されたのは悪魔と、絵本の読み聞かせを待つような雪男だけだった。
「どうします?」
その問いに雪男は答えられない。だから質問を質問で返してしまう。
「その御伽噺の作者は、フェレス卿と義父なんですか?」
「そうですね。あの人たちは親密なお友達同士でしたから。一緒に一つの物語を作りたかったんでしょう。」
雪男は途端に一つ物語のあらすじが思い浮かんだ。それを迷わず口にする。
「人間として育てられた、優しい悪魔の子供が世界を救う。」
「優しい人間の弟と一緒に、です。」
おちゃらけたようでいて強い父親。
頭が良くてお節介やきな優しい弟。
父親の周りの優しい人たち。
悪魔の子供に戸惑って怖がる人々。
でもそのうち、悪魔の子供の友達になってくれる愉快な仲間も出来るだろう。
そして悪魔の子供にも好きな子が出来るかもしれない。
それを見守るのは父親の親友の愉快で嘘つきな悪魔。
「兵器なんて言い方は方便なんですよ。そんなふうに言うから、兄上は奥村燐に近い人から誤解されるんです。まあ、自業自得でしょうけど。」
シュラがこの場から逃げ出した理由が、雪男にはなんとなく分かった。生前の師匠の願いを拒否した自分を悔いているのだろう。
藤本獅郎への思い故に、そんなことをしてしまったせいで、愛する男の一部さえ自分は手に入れられなかった。残してくれるはずだったもののほとんどを、あの悪魔に持っていかれた。
それを理由にあの悪魔を悪者にすることは出来ない。
御伽噺の作者の三人目になることを拒否したのは、霧隠シュラの確固とした意思だから。もう二度と藤本獅郎と同じ場所に立てないことさえも。
「お兄さんと、お兄さんのお兄さんは、引き離されることなく育てられました。同じように優しいお父さんの記憶を共有して、今こうやって同じ世界に生きています。その事実を弟はどう受け止めるのでしょうか?」
雪男ははあーっと長く息を吐く。
「幸いなことだと言わなければ、僕は罰当たりでしょうね。」
アマイモンは頷く。
「僕が読み聞かせ出来るのはここまでです。」
アマイモンは雪男の腕を取る。
「さあ。落ち込んでいるお姉さんを追いかけて、何もかもが遅すぎることが無いことを教えてあげてください。」
「そうですよね。シュラさんだって遅ればせながら、兄さんの師匠を引き受けましたし。僕、昔からあの人のことを知ってるんですけど。兄に剣を教えるなんて奇跡だって思ったんです。」
ドアを開けると元どおり薄暗い井戸のある暗い部屋。井戸の縁に腰掛けているシュラが宙を見ていた。
「あれ? もう終わり?」
「あなた僕が言うまでもなく、自分で答え見つけて立ち直ったわけですね。」
「いつ私落ち込んだっけ?」
にゃははと笑いながらシュラは立ち上がる。親指を立てて雪男とアマイモンを振り返る。
「今度またこの面子で肉食いに行こうぜ。」
「お姉さん。ボク今度は甘いお菓子がいいです。」
「いいですけど、今度の祓魔師の給料が出てからにしてください。あと給仕役は二度としませんから。」
えー? アマイモンとシュラは不平不満を口にする。波長が合ってるのは、どっちだよと雪男は心の中で文句を言った。
これでおしまいです。ちなみにお気づきだと思われますが、うちのメフィストはかなりお人よしよりの解釈を取っています。だからこそいろいろといぶかしむシュラと雪男でした。
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忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12
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