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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆ss「三匹が……!」雪朴雪、志摩雪志摩、志摩朴志摩、ギャグ風味

食べ物表現注意。




「放課後になるまでは僕のことを部下扱いはやめて頂けませんか。フェレス卿。」
 
 雪男は対面の長身痩躯の男に告げる。しかし男は雪男をにやにやと笑うだけだった。
「今日は貴方のお兄さんは任務で不在だ。だから貴方はお昼ご飯にこちらに来ると思って張ってました。」
 雪男は窓の外を見る振りをしてちっと舌打ちをする。
「兄に学食に来たことは内緒ですよ。」
「分かってます。」
 ついでに一介の生徒と同席して昼飯を食おうなんて理事長のすることではないと窘めていたのが雪男だった。それを貴方は私の部下なんですからと押し切って、メフィストが雪男にそのまま同行したのが、正十字学園名物・超高級学食だった。そのようなものを名物にしていいのかとつっこみたくなる、若い者には贅沢は敵だという建前を無視した場所だった。
 しかし当たり前のようにこの学園の食堂を利用する生徒は、実のところ一定数以上存在する。そしてそれに与れない者は購買部や手製の弁当で食いつなぐ。こんなところでこれから出て行く社会の縮図を垣間見せる、とんでもない場所でもあった。
 雪男は食に関する関心が薄い。故に購買部での生存競争に負けて、しかも今日任務が入っている兄は弁当を作ってくれなかった。燐は任務先で出るロケ弁で頭がいっぱいで、雪男の弁当のことなど忘れ去っていたのだ。以前から燐は任務時に供されるそれを羨ましがっていたし、今日のところは兄のうっかりを許してやろうと雪男は思っていた。食事単価の面から慮れば、今日くらいは兄と自分の二人分の費用を外食に当てても罰は当たるまいと考えていた。
 そしてわずかな差であれ、安価とも呼べるメニューが存在するのは複数のメニューを扱う飲食店の法則である。雪男は迷わず一番安価なものを選んだ。そして上司はというと、値段を気にせず選んだようだ。
「おや。私のメニューの一つが貴方のメニューと被りましたね。」
 メフィストは値段どころか量も気にしていないようで複数のメニューを頼んでいた。その一つが雪男の頼んだメニューのちょっと豪華版と呼べるものだった。
「奥村先生知っていますか?」
「何をですか。」
 気まぐれな悪魔は一人でメシを食うのが嫌いらしい。やり手な癖に一人でメシを食えないとは。なんて男子力のない男なんだと雪男は思った。雪男は飲食店でも一人でメシを食うことが出来る。ただしカウンター席だけはNGだった。そういえば兄も一人でメシを食うのが苦手だったような気がする。ただし雪男と違って複数の人間と連れ立っていても、カウンターでメシを食いたがっていたような気がする。あの少し高くて、店員が動き回るのを間近で見られる席がかっこいいと思っていたのだろう。いわゆる一つの中二病臭かった。
 そんなことよりメフィストの問いかけだった。雪男の上の空に気づいたらしいメフィストが待っている。
「やれやれ。奥村先生は教科書通りのことは完璧なのに、目の前に展開されている事象については観察眼が明らかにお留守だ。ほら。」
 メフィストはさっき雪男に指摘した共通のメニューを指差す。そしてこの二つの皿の上のものの違いが分かりますかと問いかけてきた。
「貴方のそれには豪華なトッピングが付いていますね。」
 雪男は淡白に答えた。
「いいえ。それは敢えて無視してください。失礼。トッピングがあればこその違いですが、もう一つ貴方に質問します。貴方と私のこの料理の金額の差は幾らでしたかね?」
「普通の店でも三百円ですからね。ここだと確か四百円から五百円ってところでしょうか。」
「そうです。この料理の価格の四割近くを占めています。そうなってくると、料理の主役はトッピングということになりますよね。主客の逆転です。見事な。」
「何が言いたいんですか?」
 メフィストはほかほかと湯気が立っている料理の数々を眺めて目を細めている。本当に食い意地の張った悪魔だ。
「アマイモン相手だと食べながら講釈を垂れるという、私にとっての愉悦がいまいち満たされないんですよね。だから貴方が弁当を持ってこなくて幸いでした。あっそうです。燐ともたまに一緒に昼食を食べているのですが――。」
 雪男のこめかみがひくっと疼く。
「あの子はがさつで貧乏性な割りには、食に関しては博識で饒舌だ。この高校を卒業したなら、是非とも紹介したい専門学校があるくらいには。」
「それは服部栄養専門学校ですか。それとも辻料理学園ですか。それとも星岡茶寮ですか。」
「候補としてはそんな感じですかね。」
 馴れ馴れしさにも程があると雪男は思った。まさか祓魔師以外の進路の目星を付けられているとは。しかもそれを兄との親密さを根拠にして雪男に当てつけている。
「燐は話し甲斐のある子ですよ。藤本からはとんだ不良のどチンピラと聞かされていたもので。たぶん私と共通の話題を探すのも一苦労かなと心配していたのですが。食に関してはあの子の知識はそこいらのプロに匹敵するんじゃないですか。頭だけの知識だけじゃありません。あの子の料理に関するセンスは天性のものです。選ばれた者にしか齎されないような。」
「はあ。褒めて戴いて僕としても嬉しいのですが。フェレス卿――。」
 メフィストはまるで自分の言葉に酔っているかのように宙に目を彷徨わせ熱い吐息を吐く。
「食欲というのは人間悪魔も問わず、究極の欲です。どんな悲惨なことがあっても、生命を維持する根源であるそれが満たされれば、否応なく元気になれるものです。そしてそんな欲を満たしてくれる存在が傍らにいればどうでしょう? 燐は私のお嫁さんになるべきだと思いませんか?」
「思いません。」
 雪男は机をばんっと叩く。「おや」とメフィストは間抜けな声を出した。
「あの子は料理の上達と将来の為に、私の今の提案を呑みそうなものですが。それに、私ならあの子の情熱を分かってあげられる。」
「あの子あの子って馴れ馴れしいんですよ。そんな不毛なことは今後一切聞きたくありません。兄に対する気遣いは無用です。兄には精神的な施しより、物質的な援助のみをお願いします。兄の身内である弟の僕の希望、聞いていただけますよね?」
 メフィストは眉を下げて見かけだけの弱気を見せる。そんなものに油断させられてたまるかと、雪男はもう一度念を押す。
「いただけますよね?」
「わかりました。奥村先生。とりあえず、当座はこの話は保留とさせてもらいましょう。三年間あるんですから。高校生活は。」
 また聞き捨てならないことを言われたが、雪男はもうこの件に関しては取り合わないことにした。それより燐がうんぬんかんぬんという前のクイズめいた問いに答えは出ていなかった。
「フェレス卿。もうタイム・アップということにしてください。貴方は僕に何を言いたかったのですか?」
「うーん。貴方の頼んだものはカレーライス。私は特製カツカレー。」
 ずっと件のメニューについてはぼかされていたが、ついにそれがはっきりとした。雪男がオーダーしたのは学食最安値のカレーライス。他のメニューとは異なり大量調理が可能な故の比較的良心的な価格だった。そしてメフィストがオーダーしたのはそれに分厚いトンカツが乗っているカツカレーだった。勿論市価より何割か値の張る価格設定だった。悪魔はその経済力を見せ付けるように、改めて言う。
「その価格差は貴方の言うとおり五百円です。これを貴方はトッピングの差だと言いました。」
「違うのですか? というか貴方は他にもから揚げ定食、天丼をオーダーしているじゃないですか。あぶらもんばっかりどんだけ~っと思うんですけど。」
「まだまだ育ち盛りですからね。私。」
 百九十センチ越えの身長をまだ伸ばすつもりかと雪男は眉間に皴が寄った。
「だ・か・ら。貴方のあぶらもん満載のメニューの一つと、僕の頼んだ素カレーの差がどうだって言うのですか。」
「言ったでしょう。奥村先生、差額五百円はカツの値段で間違いはないでしょう。でもこのカツカレーはそれだけではないのです。」
「他に何が……」
 メフィストはちっちと指を振る。
「カツカレーとは、ただ単にご飯の上にカツを乗せてカレールゥを掛けたものだと思っているでしょう? そしてそのカレールゥは普通の単品のカレーと同一であると。貴方はとんでもない誤解をしている。普通の飲食店では、もしかしたらそうなのかもしれませんが、この食堂では違うのです。この食堂では素カレーのルゥと、カツカレーのルゥは別物なんです。」
「なんでいちいちそんなことをするんですか。めんどくさい。」
「それが食に関するこだわりです。貴方のお兄さんなら分かって貰えるでしょうし、私の言う理屈にも耳を傾けてくれるでしょう。そして私に同意してくれるはずです。」
 また兄かよと雪男は奥歯をかみ締める。そんなに僕に喧嘩を売りたいのかよこのクソ悪魔と上司に向かってあるまじきことを雪男は思った。
「カツカレーの主役は貴方も納得したとおりカツ。では、脇役に追いやられたカレーはそれを引き立てなくてはなりません。そのために我が正十字学園学食のカツカレーは、特別にルゥを別に作っているのです。あっ。ちなみにカレーうどんのルゥは貴方が食べている素カレーのものと同一です。私はカレーうどんは食べないものなので。」
「つまり貴方は、カレーはカツカレーばかり頼むものだから、理事長の権限でカレーを別に作らせているわけですね。食へのこだわりという理屈で。」
「そうです。その素材、そして手間暇は、素カレーのそれとは比べ物になりません。カツの存在を殺さないように、そして引き立てるように工夫して作られているのです。貴方が単なるトッピングの差だと思っていた五百円以上の価値があるのです。つまりカツカレーをオーダーすることにより、私は貴方より得をしているのです。」
「あ……そう。……一言言っていいですか?」
「なんです?」
 
「くだらねえ。」
 
 流石の悪魔もテーブルに突っ伏した。雪男は淡々とスプーンに巻きつけてあった紙ナプキンを取ると散々メフィストの長話のせいでおあずけを食らったカレーに向き合った。そしてメフィストに告げる。
「僕だって安いだけでこのカレーを頼んだわけじゃありません。カツカレーだと僕のとある欲求は満たされないのです。」
「なんですかそれ。」
 メフィストは理解しがたいというように首を捻っていた。どう考えてもカツカレーのほうが量・質共に素カレーよりは上だろう。雪男のように育ち盛りでデカイがたいを維持するには、カツカレーのほうが適している。
 メフィストは雪男の所作を観察していた。
「奥村先生。ネタばらしはなしですか? 放置プレーなんですか? 悪魔に対して気になるようなことを言っておいて、このままやり逃げなんですか? やり逃げは男の甲斐性ですか?」
「フェレス卿。僕は自分の楽しみは自分だけのものにしておきたい主義なんです。他人と共有するのは嫌なんです。貴方はさっきまで自分の楽しみを押し付けて、僕の時間を奪っていた。僕には自分の楽しみのために貴方に対して沈黙を貫く権利だってあるはずです。」
 なんという閉鎖的な人格だろうとメフィストは自分の背中に震えが走った。この弟にしてあの馬鹿兄あり。正反対なのはもとから分かっていたが、雪男のその口ぶりは兄ですら踏み込むのを拒むような気配があった。
 雪男はふと視線をカレーから逸らした。その視線の先には女子のきゃんきゃんした甲高い声が上がっている。
「ちょっと朴! やめてぇ!」
「出雲ちゃん。いい加減慣れてよ?」
 塾生と元塾生の神木出雲と朴朔子が斜め横の席に座っていた。雪男がやけにその二人の痴話喧嘩を食い入るように見つめているので、メフィストは気になって雪男に尋ねる。どうかしたのですかと。
 雪男は上の空でああと声を上げ、メフィストのほうに向き直るとくすくすと笑った。
「朴さんとは気が合いそうかなと思っただけです。」
 メフィストにはわけが分からない。
「僕には個人的なことで兄さんにも幾ら言っても分かって貰えなかったことがあるんですけど。今度彼女に打ち明けてみようかな。ひょっとしたら僕達、分かり合えるんじゃないかな。世界には僕は一人じゃないって彼女ならそう言ってくれるような気がする。」
「変な電波受信してるんですか? それとも朴さんと付き合いたい願望ですか? もういいです。さっさと食事にしましょう。」
 スプーンでカレーを掬ってメフィストはふてたように頬を膨らませる。雪男はいただきますと言ってカレーにスプーンを向けた。
 こころなしか嬉しそうにスプーンを動かす雪男をちらちらとメフィストは観察しながらメフィストはカツカレーを食べていたが、次第にその表情に変化が訪れていた。
「ちょっとやめくださいよ。奥村先生……。」
 雪男は涼しい顔でカレーを食べている。
「ああ。貴方もそういう部類の方でしたか。兄のような。しかし僕と同席しようと絡んできたのは貴方なんですから。」
「そりゃあそうかもしれませんが……。ですが――。」
 斜め横の席では相変わらず出雲が朴に対して抗議の声を上げているが、反して朴はおっとりとその声を受け流していた。
「こうやったほうが美味しいんだよ。出雲ちゃん。」
 メフィストは朴のその言葉にぴくりと反応する。さっきまではちら見だったのだが、改めて出雲たちの席のテーブルを観察して、そこでメフィストは神木出雲の嘆く原因をなんとなく悟った。雪男に向き直ると雪男はうんうんと頷いて嬉しそうにカレーを食べていた。
「確かに貴方と彼女は心の親友になれるかもしれませんね。」
 メフィストはもう何も雪男に言うつもりはなかった。そして雪男のほうを見ないようにしながら黙々と自分のオーダーしたメニューを食することにした。
 
     *   *   *
 
 とあるファミレスにて雪男と朴は待ち合わせしていた。
「まさか先生が私を誘ってくれるなんて思ってもいませんでした。」
「前々から貴方のことは気になっていたんです。」
「貴方だなんて。君でいいですよ。」
「じゃあ君も僕のこと先生じゃなくて奥村君って呼んで欲しいかな。」
「じゃあ、奥村君。」
 二人はほんわかとしたオーラを出しながら店員に席に案内される。席についてお冷が運ばれてきたところで割り込むようにもう一人が同じテーブルに走ってきた。ピンクっぽい茶髪の同級生、エロ魔人似非紳士の志摩廉造だった。
「わあ。」
 雪男は淡白に驚く。
「志摩君……。朴さんから話は聞いてますよ。」
「遅れてすまんわあ。」
 志摩は雪男と朴を交互に見る。そしてニコニコ笑っている朴に笑いかけたが、朴はやはりニコニコと笑い返すだけで微動だにしなかった。雪男が身体をずらして志摩の分の席を開けると渋々というように志摩は雪男の隣に座った。
「先生。さっきから聞いとったけど、女子に対する要求がいまいち甘いわあ。奥村君やのうて、雪男君やろ?」
「え? そうなの? そうなんですか朴さん?」
「えー……。新密度で言えば志摩君が言った要求がきそうかなって思ってたけど。まあそこは奥村君ということで。」
 席につくや否や変な突っ込みを入れてくる志摩に呆れたが、朴からも雪男は世間とずれていると言われてしまった。雪男は渋々その現実を受け入れる。
「学年随一の奥村先生と、裏人気の高い朴さんが密会なんて、ゴシップのネタにはええやろうけど。そこは筋書き通りにいかんいうとこが現実やね。」
「そうだね。君も来たもんね。」
 男二人の会話に朴が割り込む。
「いや。もとからそんな疚しい会合でもないでしょ。私は出雲ちゃんの手前もあるし。ところで私は志摩君にも声を掛けちゃったけど、奥村君はお兄さんとか誘えばよかったのに。」
 雪男は明らかにぎくりと表情を強張らせて言いにくそうに口を動かしている。
「兄は……芸がないというか。僕達みたいな人種を理解してないというか、対極の思想で動いているというか。この場で行われることを目の当たりにすれば、その……。」
「先生。無理に言わんでええわ。俺も予想がつくし。」
「そうなの。志摩君? 燐君だったら私達より独創的なことをしでかすような気がしてたんだけど。」
 朴は燐の特性をあまり解っていない。しかし男連中の間ではある事柄に関する燐のこだわりは知られていた。
「兄さんは、『あっち側』の人間だから。」
「そうなの?」
「兄さんみたいな人種がいなければ、僕達がこうやってこっそり会う必要はないでしょう。」
「そうかあ。燐君はアレなんだ。出雲ちゃんと一緒なんだ。残念。残念。そうだね。私も出雲ちゃんに内緒で奥村君と会うことになっちゃったもんね。」
「あんたら俺のことも忘れとらへん?」
「いや。君の事情は僕はわかってないから。言及出来なかったんだ。」
「そんなこと言うて。朴さん独り占めしよう思うてもあかんで。」
「独り占めなんて。そういう意味で彼女に声掛けたわけじゃない。」
 三人は意味深な会話をしながらメニューを開いて見ていた。
「僕はカレーライス。志摩君は確か、ラーメンでしたよね。そして朴さんは定食類で……良かったんですよね。」
「うーん。今日はトンカツ定食にしよ。」
 雪男は店員を呼ぶボタンを押す。すぐさま近寄ってきた店員にスラスラと注文を言うと店員は調理場に消えていった。
「朴さんさっきから奥村先生のことばっかり見とらしまへんか?」
「しつこいね。志摩君。君にここに来るように声掛けたの私じゃない。」
「そうだよ。志摩君は女子を意識しすぎてるよ。ていうか僕達が集まったのは、身内にさえも理解されないという苦悩を抱えてのことだよね。僕は君も朴さんも同じくらい受け入れたいと思っている。男女の差なんか関係ない。君も朴さんも僕にとっては……」
「いや。はっきり言うて欲しいんやけど。そこで『……』はあらへん。俺がさっきまで先生に絡んどったのは、そこをはっきりさせときかったんや。先生も俺と同じ気持ちでええんやな?」
「うん。」
「ほんで。朴さんもやろ。」
「そうだよ。君達は私にとって特別な男子達だよ。」
 志摩は安心したようにテーブルの背もたれに体重を預けた。
「志摩君は変に勘繰りすぎ。奥村君。ちゃんと志摩君に言ってあげようよ。」
「そうだね。志摩君、君は僕にとって大事な存在だよ。」
「おおきに先生。こう見えても俺は臆病やから。ちゃんと言葉にして貰えんと不安やったんや。俺も先生のこと、大好きやで。」
 感極まった志摩の声が震えている。二人はその震えの意味を理解していた。それは誰からも理解を得られなかった者が、やっとその孤独感・疎外感・孤立感・罪悪感から解放されたが故のものだったから。
 お互いの気持ちを言葉にしあった三人にもう言葉は要らなかった。と言いたいところだが、まだ頼んだメニューが来なかったので、三人は暫くは雑談に興じることにした。
「いいですね。学園に帰ったら、僕達はまた仮初の関係を他者の前で演じなければならない。僕達の関係は誰にも秘密です。」
「分かった。これからもこの関係続ける為や。」
 うんうんと頷く朴が近づいてくる店員に気づいて二人に呼びかけた。
「きたよ。ごはん。」
 店員は何も気づかずマニュアル通りに宣言する。
「カレーライスとラーメン、それにトンカツ定食です。以上でよろしかったでしょうか。」
「はい。大丈夫です。」
 注文した料理がそれぞれの前に並ぶ。
「では。」
 朴が音頭を取ると三人は手を合わせた。
 
「いただきます。」
 
 そこから異様な光景が始まった。
 雪男はスプーンを構えるとカレーのルゥと白飯をかき混ぜ始める。それは完全に二者が混ざり一体となるまで続けられた。丹念に混ぜ合わせられたそれは、彼の中でわずかに残っていた幼児性を思わせる。
 それを微笑ましそうに見ていた朴は、次に自分の目の前の定食の膳に手を伸ばす。定食にはつき物の味噌汁の入った椀を持ち上げると、白飯の上に具ごとぶっかけた。大人しそうで控えめそうに見える彼女の隠れた大胆さが窺える所業だった。朴はその味噌汁がけご飯の上にトンカツの一切れと漬物を乗せると、それを一気にかきこんだ。
「うーん。なんでもかんでも乗っけて一緒に食べると美味しいよね。」
 その頃志摩は、ラーメンのどんぶりに突き立てた箸を揃えて握り、ぐるぐると回して麺を巻きつけていた。その巻きついた麺は黄色い毛糸玉のように丸まり、それを見てほくそ笑んだ後、志摩はその麺の塊を口に運んだ。
「ああ……ええわ。誰にも怒られず好きに食えるのは。」
 雪男は一口食べて無意識なのか再びカレーライスをかき混ぜている。
「兄さんの前でやったら怒られるから、いつも不本意な食べ方をしてたんだ。カレーは好きだけど、カレーの日は僕にとっては欲求の満たされない辛い食事を強いられる日でもあったんだ。僕は兄さんのことを愛しているけど、兄さんの料理人として矜持による押し付けは憎らしかったんだ。」
「お兄さんのこと、嫌いで好きってそういうことだったの?」
 朴は原作がらみの見当違いな突っ込みを入れる。
「兄さんは僕に美味しい料理を作ってくれる。でも分かってくれないんだ。僕にとっての美味しい食べ方はあたまから認めてくれない。お行儀が悪いだの、見た目が悪いだの、作ってくれた人に失礼だの。」
 朴は雪男の愚痴を聞きながら「出雲ちゃんはね」と呟く。
「なんだかんだで私の駄目なところを叱りながらも好きでいてくれるんだ。だけど駄目なところは叱らずにはいられないみたいで。私のほうが間違ってるのはわかってる。慣れて黙って欲しいって思うほうが筋違いってことも。だけど、ごめん。出雲ちゃん。それでもやめられないよ。奥村君や志摩君みたいな理解者と知り合えたらすぐに、こうやって内緒で会ってしまうくらいに。」
 志摩はその間も箸をくるくるどんぶりの中で回している。
「最初に怒られたのが三歳のころ。おとんと柔兄からやったわ。それから先は金兄とか姉ちゃんとか、子猫さんからもフルボッコや。なあ? なんが悪いんやろうな? パスタはフォークに巻きつけるのが正しい食べ方やん。ラーメンでやったらあかん言うことはないやろ。坊かて昔は俺と同じ食べ方しとった癖に、そんなのは幼稚園入る前に卒業したわって、冷たいわあ!」
 それぞれが自分の悲しみを吐露しながら思い思いの食事をしている。それは確かに目を覆うような光景だったが、この場では誰も自分を非難する者がいないという満ち足りた空気が三人を和ませていた。
「今日は本当に楽しかった。」
「ほんと、こんな楽しい食事久しぶり。」
「いや。初めてかもしれへん。」
 志摩が大袈裟に言うが、雪男も朴も案外同意してしまうような言葉だった。
 
ファミレスから出た三人は、手を繋いで学園までの帰路につこうとしている。
この『マナー違反だがそれが一番美味しい食べ方同盟』の初回のオフ会はつつがなく大成功に終わった。
 
     *   *   *
 
 しかしこの同盟が成ったと同時に別の同盟が産声を上げようとしていた。
「本当か。メフィスト。雪男が俺の留守にカレーぐちゃぐちゃに混ぜて食べてたって。」
 メフィストは苦々しく頷く。
「私も貴方にそれを話すべきか迷ったのですが。」
「何を迷う必要があるんだよ。あいつ……。」
「しかも、朴さんという同類に目をつけたらしいですよ。今後彼らは地下に潜り活動することでしょう。つまり学園のそとで接触するということです。」
「外でアレをやらかすつもりか!」
 燐は理事長室を飛び出る。
「こうなったら神木と組んで奴らを矯正するしかねえ! そういや勝呂も志摩の食い方で悩んでるって言ってたよな。」
 同時に生まれようとする同盟。それは、『マナーを守ってこそ美味しい食事同盟』。
 相反する食事同盟が同日生まれた。この二つの同盟がぶつかりあう日は近い。かもしれない。








雪男、朴、志摩のくんずほぐれつでした。表現が少し汚くてごめんなさい。でも私も似たようなことやってるという人は結構いるんじゃないでしょうか。

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柴仲達
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女性
職業:
会社員
趣味:
読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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