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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆ss「悪魔の兄を弟がエンドにしちゃうぞな腐った話」第六話「あの犬よりはマシ」 燐雪

「僕は狡い人間だ。」
 
 
 六○二号室を出たドアの外で雪男は呟いた。廊下の突き当たりの階段を駆け上る兄が見える。上に逃げたって屋上で追い詰められてしまうのに。相変わらず馬鹿な兄だとせせら笑いたくなった。笑いをかみ殺して雪男はその背中を追う。
 雪男は特に急ぐ素振りも見せず、ただ愛用のハンドガンを構えて階段を上がる。
 
 ことの発端は休日の昼下がり、ほんの少し仮眠を取っていたら誰かの手の感触で目が覚めた。それでも瞼がまだ重かったので薄暗い視界に浸って横臥の姿勢のままじっとしていると、その手は眼鏡を外された自分の瞼を指で撫でている。起きかけた自分をまた寝かしつけようとしているかのように。しかし妙に心地よくてまた眠ってしまいそうだった。
「雪男。」
 その手の主が悪魔な兄だと確信するまでは。
 
 本当に油断も隙もない。完全に覚めてしまった視界の中で大写しな兄がいた。振り上げようとした右手は、しかし上手く上がってくれなかった。見れば兄の左手が指を絡めて繋がれている。
「兄さん。何してるの?」
「寝顔が可愛くて、一人眠り姫ごっこ……」
 黙って力いっぱい、圧し掛かっている兄の腹を蹴る。指が絡まったままなので雪男の身体も燐に引き寄せられてベッドに起き上がる姿勢になった。
「雪男、ごめん。」
 燐は手を放して床に這いつくばると雪男に見下ろされながら土下座した。
「いつもいつも謝る割には、全然懲りてないようだね?」
 雪男はベッドの側に脱いであった靴を履くと、燐の頭を踏みつける。
「この身持ちの悪い悪魔が――」
 テンポ良く何回も床に燐の頭が打ちつけられる。
「許してくれよ。雪男……」
 懇願する兄には頓着せず雪男はベッドから離れると、作り付けの机の前まで行き引き出しを開け、ハンドガンを取り出した。
「さあ。逃げなよ。兄さん。いつもどおりに無様にさ。」
 
 そして一方的な追いかけっこが始まった。雪男はわざと燐の身体を掠めるように弾丸を放っている。動く的はその掠める痛みに反応している暇は無いらしく、吹き出た血や裂けた服を後方に撒き散らしながら上へ上へと逃げて、逃げて、逃げて――。
屋上に行き着いた。
「雪男……」
 手を上げて無抵抗だということを主張する燐。近づいている雪男に向かって微かな笑いを浮かべながら首を振っている。
「ほんの、冗談だろ? 本気で撃ったりしねえよな? な?」
「さあ、どうだろ?」
 一歩ずつ前進する弟と、半歩ずつ後退する兄。誰もこんな幽霊屋敷の屋上の出来事なんか観測していない。何が起こっても、何が起こったか当事者同士以外には分からない。
「僕に許して欲しいんだね。兄さんは。」
「そうだよ。ちょっとした出来心の過ちは、許されるのが普通だろ。そして悔い改めるチャンスをくれるのが神の道だろ。」
「普通に悪魔が神の道に縋るのはやめなよ。」
 雪男は銃口を向けたままずんずんと燐に近寄る。
「だって、だって……。兄ちゃんだって日頃から散々我慢してたのに、雪男ちゃんが無防備に寝ちゃうから、つい、兄ちゃん、魔が差しちゃったんだよ。さっき思ったことなんだけど、なんかこの頃、雪男おかしいよ。ひどいことする割には、そのあと甘えてきたり優しくしてくれたり。だから兄ちゃん、雪男が兄ちゃんと同じ気持ちなのかなって期待しちゃうじゃんか。」
 兄の泣き言を聞いて雪男は自分の狡さを実感する。
『兄さんにも、そう思われてたんだ。』
 
「雪男ちゃんが思わせぶりだから!」
 
 兄の泣き言は実にみっともないが、雪男の耳には心地よかった。己が一途に心をささげている対象に蔑まれて傷つけられる痛みにのた打ち回る姿は、痛めつける側としては存分に安堵出来る光景だった。兄が本当に素直な馬鹿で良かったと思う。簡単に罠に嵌って、墓穴を掘ってくれる。
言うまでもなく、雪男はわざと兄に無防備な姿を見せていた。そして自分に手を伸ばしてきたところを狙って、それを口実に虐待を繰り返しては兄に死ぬような思いをさせて、精神的な優位を得ていた。本当に狡猾で陰湿な弟だと雪男自身でも思う。
『だって、そうしないと。』
 兄は自分では自覚していないだろうが、いつのまにか兄に同情的というか、兄に味方するような相手が出来た。
メフィストしかり、勝呂しかり。
そんな献身的な相手に兄が靡かないとは限らない。ちょっと手綱を緩めれば、そんな優しい人達の懐に逃げ込みかねない。
 なんだかんだで雪男は兄以上に、兄がいなければ生きていられない人間だった。あんなに殺したいと思う忌まわしい悪魔なのに、自分の側にいて自分にだけ目を向けてくれなければ嫌だと思う。自分の側で自分を思いながら、苦しんでいて欲しい。なんて身勝手な願いなんだろう。
 
 燐はついに屋上の端に追い詰められる。雪男は最初から決めていた。いつもどおり、ここで兄が謝ったら、兄を許して、今日の折檻は終わりにしようと。
「兄さん。僕に許して欲しいんだよね?」
 燐はうんうんと頷いている。その目はわずかな希望を捕らえたかのように、白い光が宿っていた。
「僕に許して欲しいなら」
 燐の胸の前に雪男は右手を置いた。
「そこから飛び降りてね?」
 ぽんと前に燐の胸を押す。燐は両腕をわずかに振りながら後ろに消えた。雪男は静かに踵を返す。
「さあて。兄さんを手当てしなくちゃ。」
 
     *   *   *
 
 アーサー・О・エンジェルはサタンの落胤が隔離されているという、正十字騎士団日本本部正十字学園旧男子寮の前に立っていた。
「ふふふ。いつまでもオレが待っているなんて思うなよ。シュラ。」
 魔剣を携えてずんずんと近づく。
「何の口実かは知らないが、サタンの落胤に関することに時間を掛けすぎだ。その分オレはほっとかれっぱなしじゃないか。優秀な部下が側にいないとオレは魔剣持ちの騎士でしかないのは、シュラにも分かっているだろう。こうなったらサタンの息子のことは、俺が手を下してやる。そしてシュラは元通りヴァチカンでオレに構ってればいいんだ。」
 ここにも、誰かがいないとまともに生きられない困ったちゃんがいた。
今現在、祓魔塾に通う謎のパーカー男の山田というのは、ヴァチカンが放ったスパイ・霧隠シュラで、このアーサーの部下を(嫌々)やっていた。サタンの息子を発見しだい殺せというのがシュラの任務なのだが、当の対象が実の弟に虐待され命の危機に常に晒されているのを目の前にして、自分からは手を下しづらいことになっていた。
もう既に悪魔の正体を塾のメンバーにも(視覚的に強制的に)知られているし、その弟との関係のせいで周囲から同情も惹いているので(しえみには誤解されているが)、余計にヴァチカン側のシュラが手を出しづらくなっていた。
そんなのはアーサーの知ったことじゃない。天然構ってちゃんの新任聖騎士は、そんな部下を迎えに、部下の代わりにサタンの息子を殺しにきた。まるで母を訪ねて三千里な息子のような健気さと傍迷惑さだった。
アーサーは中の様子を窺うように上を向く。位置的にはちょうど建物の間際までせまっていた。その目の前には入り口が見えていて、ちょうどそれを蹴破ろうかと思った矢先。
「あれは、なんだ?」
 自分に向かって迫ってくるものがある。
「ああああああああああああ!」
 そして頭上から絹を裂くような男の悲鳴が降ってきた。
アーサーの顔の上で影を作ったのは、一瞬のことだった。アーサーの視界はあっけなく暗転する。人間一人(六十三キロ/1G)が落ちてくる衝撃に人間が耐えられるわけがなかった。
 
 兄が屋上から地面に落ちてきた衝撃音を雪男は聞いていた。あの分なら死なないまでも重症だろうから、しばらくは寮の外で動けなくなっているだろうと考えた。手当てをしてやらなければと思っていた割には、救急箱の中身がほとんど在庫切れなのを思い出してフツマヤに暢気に買出しに行っていた。そこでしえみにハーブティーをご馳走になり、日頃の緊張をほぐすようにお喋りに興じ、しえみお手製の(唯一まともに作れる)ハーブクッキーをご馳走され、気がつけば二時間くらい兄を放置していた。
 
 雪男はそれを心底後悔する羽目になる。
鍵を使って帰ってきたら、燐と親しそうに話す金髪長髪の整った顔の見知らぬ男がいた。重症かと思われていた兄は、(状況を推察すれば)その男が下にいたお陰で事なきを得たようだ。しかもその男は。
「記憶喪失らしいんだよ。」
 男は困ったように言う。
「なんにも覚えてないんだ。ただ渾名がアサ子だったこと以外。なんでここにいるのか、アサ子は今まで何をしていたのか、全然思い出せないんだ。」
 アサ子というのはシュラが駄目上司のことを「駄目っ子アーサー」と常に罵っていたのを、圧縮と変換を加えた結果生まれた渾名である。(そんなことはとうの昔にアーサーは忘れているが。)当のアーサーは自分に対してキリキリしているシュラのことを、苗字をもじって「きりちゃん」と呼んでいた。
 燐は拝むように雪男に頼み込んでいる。
「俺を下で受け止めてこうなっちゃったみたいだから、なんとか俺らで世話してやれないかな?」
「なんで僕が?」
 雪男は胡散臭そうにアーサーの金髪と服装を見ている。
「よく見たら正十字騎士団のバッジを付けてるじゃないか。騎士団縁の人なんだから、兄さんはあまり係わり合いにならないほうがいいよ。」
 さっさとメフィストなりに引き渡すべきだと雪男は思った。見知った顔ではないので、たぶん他の正十字騎士団の男なのだろう。この日本本部では燐のことは公然の秘密だが、こうやって外部からこの寮まで出向いてくる外部の人間がいるというのは芳しくない事態だった。
「でもこいつ、自分が騎士団の誰っていうのも思い出せないんだぜ。いきなりメフィストに引き渡して、もしメフィストに都合の悪い人間だったりしたら、なんかされちゃうんじゃないかな?」
 メフィストにとって都合の悪いということは、燐にとっても都合の悪い人間だということに気がつかないのか、この馬鹿兄と弟は内心で毒づいた。アサ子ことアーサーは燐と雪男のやり取りを聞きながら、自分を庇ってくれる燐のシャツの裾をぎゅっと握り締めている。その姿が雪男は気に入らない。記憶喪失だとしても、大の大人が十五歳に庇って貰うなと思うと眉間に皴が寄ってしまう。嫉妬以前の問題だった。
「とにかくいきなり引き渡すのは可哀想だと思うんだ。なあ、雪男。俺がちゃんと世話するから。なあ、こいつ俺たちの部屋に置いてやってもいいだろ?」
「駄目。学園の外に捨ててくるんだ。」
 アサ子はひしっと燐にしがみつく。
「雪男がそんなこと言うから、アサ子が怖がってるじゃないか!」
 雪男の口元が歪む。アサ子は今まで黙っていた口をおずおずと開く。
「ちょっと思い出したんだけど、アサ子たぶん誰かを探しにここに来たんだと思う。」
「へえ? アサ子さんはここに誰か探しに来たんだ? だけど僕たちは全然そんな人に心当たりないから、他所に行ったほうがいいと思いますよ。僕も兄さんもアサ子さんと初対面ですし。」
 相変わらず雪男は淡々と言っている。燐はアサ子を庇うように肩を抱くと、雪男を睨みつける。そんな兄の表情を雪男は初めて見た。一瞬だけ胸が竦んだ。
「なんだい、その目は。僕は常識でものを言ってるんだけど。」
「どうしてそこまでアサ子を追い出したいみたいに言うんだ。」
「どうしてそこまで兄さんは、アサ子さんを庇うのかな?」
 さっきから目の前でちらついている、自分とは正反対のアサ子の長い金髪。甘ったるい目元。何から何まで気に障る。兄の真下にたまたまいて下敷きになったのも、それで記憶喪失になって兄の同情を惹いているのも、兄がそんな男に保護欲をそそられているのも、全部気に入らない。
 しかし雪男は冷静さを取り戻した。
「まあ、部屋もいっぱいあることだしね。」
「いいのか。雪男なら分かってくれると思ったよ。」
 燐はアサ子の手を引く。
「アサ子もう大丈夫だからな。アサ子の記憶が戻って、アサ子の探してる人が見つかるまで、俺がお前の面倒を見てやるからな。」
「ありがとう。えーと、君は名前は……」
「奥村燐。こいつは、弟の雪男。」
「ありがとう。燐。それと、雪男もありがとう。」
 雪男は無愛想にアサ子に背中を向ける。抱えていたフツマヤの紙袋を二人から隠すように。
「アサ子。早速飯食わせてやるからな。そのあとは一緒に風呂に入って洗ってやるから。そんで今日は俺のベッドで一緒に寝ようぜ。」
 まるで大型犬でも手なづけたような燐だったが、アサ子はアサ子でそんな燐に犬よろしく懐いている。とても不倶戴天の敵同士のサタンの息子と聖騎士な二人には見えなかった。
 
     *   *   *
 
 植え込みの影から三人を見ている影があった。
「ヴァチカンも遅いんだよ。知らせるのが。」
 アーサーが日本本部に向かったとシュラに知らせてきたのは、アーサーが旧男子寮に姿を現してから三十分ほど経過したあとだった。駆けつけた時には既に時遅しで、屋上から突き落とされたらしい燐と、その真下に都合よくいたアーサーが接触完了していた。しかも遠目から観察している限りでは、二人がお互いの存在を認めたあと、いきなり切った張ったになると思いきや、アーサーの記憶喪失のせいで逆方向にシフトしてしまったらしい。
「あのビビリメガネがキレないかと心配だったけど、この場はなんとかなったみたいだな。」
 なんとかならないほうが良かったのかもしれない。シュラは雪男の燐に対する虐待の事実は認識しているが、燐への歪んだ思いは知ろう由も無い。しかしなんとなく予感めいたものを思ったのは、魔剣と共に在る、呪われた(あるいは祝された)身の成せる業なのかもしれない。
「なあ、雪男。お前どうしちまったんだよ。」
 昔はにかんだように「兄さんが好き」と言っていた、健気な弟はどこに行ってしまったんだと魔剣の女は溜息をついた。





話をややこしくするトリックスター・アーサーの登場です。「アラベスク」シリーズが「嘘だ!」と叫びたくなるような仲良しなふたり。しばらく雪ちゃんのヤキモチとヤンデレと、他ヒロイン強化シナリオに移行します。(2~3話ほど)

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読書、二次創作
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忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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