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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆ss「リコリス・ラジアータ」 「アラベスクシリーズ」現在編、雪男。オリキャラ注意

「『俺を助けて』か……」
 
 夜通し兄と自分の回想を重ね合わせていたので、雪男の頭の中はかなり疲れていた。
「確かに兄さんは僕に助けを求めてきた。でもそれを僕が受け入れなかったから、志摩君に行ってしまった。うん。自業自得だ。」
 この真実に志摩廉造は気づいているのだろうか。何が圧倒的に廉造に味方したかと言えば、あのメフィストフェレスの手引きがあったからだ。燐が信頼を寄せていた(何がそうさせていたのか分からないが)あの悪魔がいたから、燐は廉造の言葉を受け入れられたのだろう。
「もう一度、あの悪魔と話をつけなくちゃ。」
 あの正十字町の大通りで対峙したとき、悪魔落ちしてサタンの力を吸収した雪男を倒すことによって、メフィストは物質界を圧迫していた虚無界のパワーを殺ぐのに成功したと言う。最初から雪男を追い詰めるつもりで仕掛けてきたとしか言いようが無い。
 
「おじちゃん。すごいおこってるようにみえますが、だれにおこってるんですか?」
 雪男の視線の先を繋げて双子の片方が首をかしげている。
「君は、えーと」
「らんのほうです。おじちゃんが、るんかぼくかまようのは、しかたないです。」
「ごめんね。すぐに言えなくて。」
 燐が病院に行っている間、雪男は双子を連れてアパートの敷地内にある小さな公園に出ていた。二人の目線の先には、浴衣姿で松葉杖をついているメフィストとるんが滑り台で遊んでいる。奇しくも五年前に死闘を演じた男二人が、平和な住宅地で子どもを連れて遊んでいるのだった。ただし雪男はベンチに腰掛けてメフィストには近寄らない。目顔で挨拶しただけだった。メフィストのほうもそれに苦笑を返してきただけ。そんなふうに因縁の二人が再会した。
 るんはよっぽどメフィストが好きなのか、片割れが自分の側を離れてもまるで気にすることなくメフィストとはしゃいでいた。そんなるんを雪男の目の前のらんは四歳児にしては冷めた目で眺めている。
「僕に気を遣ってくれているのかい? あっちでお兄ちゃんと遊んでいいんだよ。」
「るんがいないときに、おじちゃんとはなしたいことがあったので、ちょうどいいんです。」
四歳のわりに要領が良いし流暢に喋るものだなと雪男は感心した。その要領の良さが昔の自分にあれば、案外いじめられなかったのかもしれない。その反動で卑屈な性格になってしまったのだから、その実感は多大なものだった。
「おじちゃんがらん君に答えられることなんてあるのかな?」
「たぶんぜんぶこたえてくれるとおもいます。まず、うちのおかあさんはすきですか?」
「すきだよ。」
「うちのおとうさんは?」
「……きらいだよ。」
「どうしてですか?」
「君たちのお母さんを僕から横取りしたから。」
「ぼくたちはどうですか?」
「すきだよ。」
一つ問われるごとに一つ答える。淡々と言われる言葉は、子どもにしては容赦ない。子どもだから容赦ないの間違いだろうか。らんは雪男の回答を聞くたびに頷きながら咀嚼しているようにも見えた。
「ぼくもそのうち、メフィストおじちゃんのことをきらいになるのかな。」
 らんがぽつんと言う。
「それはどうしてだい?」
 質問者と回答者が入れ替わる。らんは拙い口調で淡々と答える。
「メフィストおじちゃんがぼくからるんを「よこどり」するかもしれないからです。」
「あのおじちゃんは、嘘吐いたり悪だくみはするかもしれないけど、誰かから誰かを横取りするようなひとじゃないと思うよ。」
「ぜったいに、「よこどり」されます。だってるんがメフィストおじちゃんのことがだいすきだからです。」
 雪男から少し離れた場所でるんは、一メートルに満たない身体で倍以上のメフィストの膝に乗っている。メフィストはそれを拒むことはない。それはまだ年長者に小さい子が懐いている光景だが、それが思春期を迎えるころには別の何かに変わっているのかもしれない。
「ぼくはおおきくなったら、るんとけっこんして、ぼくらのおじいちゃんのせかいにいこうとおもってました。」
「さらっと聞き捨てならないこと言ったよね。」
「はい、いいました。おとうさんはずっこけました。」
 お父さんの前で言ったのかよと雪男は呟いた。らんは要領が良くて肝が据わっている。
「お父さんはなんて言ってた?」
「おまえはあくまだから、それはありかもしれへんな。といってました。でもぼくはそのゆめを、あきらめました。」
 しかも潔かった。雪男は顔面を片手で押さえながら、言葉を続ける。
「るん君がメフィストおじちゃんが好きだから? でも、るん君がずっとあのおじちゃんを好きだとは限らないよ。」
 らんは大好きな兄を目で追いながら、子どもにしては低い声で「だめですよ」と呟く。
「そういう「きぼうてきかんそく」に、ぼくがしがみついていると、るんをふしあわせにしてしまいそうなのです。ぼくはるんのふしあわせが、だいきらいなのです。」
「でもそれじゃ、君が不幸せになるんじゃないのかい? それって不公平なんじゃないのかい?」
 らんは雪男を見上げる。幼かった頃の自分とは似ても似つかない、幼かった頃の兄そのものな顔立ち。しかしその達観したような目つきは、そんな兄の面影を裏切っている。寧ろその暗い情念は、自分と似通っていて、目の当たりにするのが苦しい。
「これはおもいつきなんですけど、おじちゃん、ぼくとけっこんしませんか? おとうさんがいうように、あくまどうしなら、もんだいないとおもうんですけど。」
 雪男はベンチから身体がずり落ちそうだった。というか、自分が悪魔だということが、ばれてしまっていた。
「あくまどうしでも、おじちゃんと甥っ子は結婚して大丈夫なのかな?」
 雪男はそれが駄目なことは勿論知っている。
「るんとメフィストおじちゃんも、おじとおいです。」
「彼らのことは横に置こうよ。というか、メフィストおじちゃんをお母さんの兄弟だって認めてるんだね。僕はどうもそうだと思いたくないんだけど。」
 潔すぎる。大胆すぎる。雪男はどうもついていけない。らんの言い分を聞いて、ツッコミどころにツッコむしか無さそうだ。
「らん君。君はヤケになってないよね? ていうか、ヤケになってるよね。ヤケになってるとしか考えられないよ。」
 悪魔落ちしてからこのかた、こんなにぐだぐだした思いに囚われたことはない。とりあえず、この甥っ子はまだ更正しようがあるのだから、どうにかできるだけやってみようと思った。しかしどうしていいか分からない。
「らん君。」
「いいんです。今のところは、ぼくのことちょっといしきしてくれるだけで。」
「人生、こんなところで諦めちゃ、駄目だからね。僕が言うようなことじゃないけど、僕みたいにはならないでね。僕の道連れになることもないからね。」
 らんは子どもらしくなく溜息をつく。
「おじちゃんもまだ、おかあさんをあきらめてないんですよね。だからきのうもおかあさんといっしょにねたりしたんでしょ。」
 ぎくっと雪男は固まった。寝静まったのを確認したはずなのに。
「せまいおうちなので、うちのなかでおこってることはだいたいつつぬけなのです。」
「壁が薄いってことなんだね。」
「おじちゃんたちのはなしもきこえてました。」
 それには雪男の胸はぎくりどころではなかった。この潔くて大胆で要領が良くて賢い甥っ子がどれだけ理解しているか、戦々恐々だった。
「そっか、聞こえてたのか。」
「るんはねてたので、だいじょうぶです。」
 そういえば、るんのほうとはほとんど話していないなと雪男は思った。そしてあれだけ疎ましいと思っていたメフィストのことも、この甥っ子と会話をしている内に頭の中を離れていたのに気がついた。再びメフィストのほうに視線をやると、膝の上でだいぶ眠そうになっていたたるんを腕に抱き上げてこちらに歩いてくる途中だった。
「らんはこちらにいましたか。おじちゃんと楽しそうに、いや、おじちゃんが楽しいことになっている姿が見えましたよ。」
「はい。おじちゃんといろいろはなしてました。るんは、メフィストおじちゃんをこまらせてませんでしたか?」
「子どもに困らされるのは、大人としては本望です。」
「そうですか。」
 メフィストは雪男に松葉杖を支えていたほうの手を伸ばした。
「どうです? これから私の家でおやつでも。らんはそのあとお昼寝したほうがいいでしょうし。燐が帰ってくるまでもう少しかかりそうですから。」
「おことばにあまえさせてもらいます。るんははしゃぐとすぐにねむたくなっちゃうけど、ぼくはあまりねむたくならないのですが、るんがおきるまでまつことにします。」
 そう言ってらんは雪男の隣から立ち上がった。雪男も釣られて立ち上がる。
「僕もお邪魔させてもらっていいですか? フェレス卿。」
「構いませんよ。かつての仇敵の家でよければ、どうぞ。」
 皮肉な響きはなかった。悪魔のお茶目な戯言。それを素直に聞き流せる余裕が出来たことに、誰よりも雪男が驚いてしまった。





一区切りがついたので、ちょっと現在に戻ってみました。いろいろと進化系の双子の弟編でした。

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柴仲達
性別:
女性
職業:
会社員
趣味:
読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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