幸福雑音
女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。
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☆☆リクエスト企画「ロミオとジュリエット」 志摩燐
木音さんのリクエストで 「ジャンル:青エクCP:一周して志摩燐志摩と燐がお互い食べているアイスを交換するシチュ」です。時間が掛かって本当にすみませんでした。しかもかなり変則的なお話です。
『舞台は唐突に中世イタリアのベローナだにゃ。そこには同じような声望を享受していた二つの名門があったんだにゃあ。片や南十字教会。藤本獅郎がまとめる修道院だ。片や明王陀羅尼宗(明陀)。気のいい和尚さんを頂点に家族ぐるみでやっている寺だ。昔からの両家の確執は平和な市民の血を流す酷い暴力沙汰と相成ってたんだにゃ。こともあろうにいがみ合う両家に、生まれし二人の男たちが出会い、やがて運命の結末を迎えるにゃあ。』
明陀の志摩家の五男坊・廉造は南十字教会に忍び込んでいた。もし見つかれば袋叩きにされても仕方が無い。しかもその目的たるや、万死に値するといってもいい。何せ南十字教会が抱え込んでいる秘密の子ども、サタンの落胤に逢瀬を仕掛けているのだから。
「本当に、コンビニでゴリゴリ君を取り合ったお前とこんなふうに出来ちまうなんて、俺はなんてふしだらで尻の軽い男なんだ。」
言葉とは裏腹に燐は一途な男だった。
「ほんまやなあ。一個しか残ってないゴリゴリ君を取り合ったのはええけど、お前は財布持ってくるのを忘れてて。仕方なく俺と半分にしたんやなあ。」
あの時はどうしてもゴリゴリ君が食べたくてコンビニに走ったものだったが、実はそのときから燐との運命を感じていたのかもしれない。教会の片隅で寄り添いあう二人を闇夜が優しく隠してくれていた。
「明陀と俺んちが敵同士だなんて。しかも俺はサタンの息子だし。なあ、どうしてお前は志摩なんだ? その名前を俺の為に捨ててくれないか? 出来なかったらせめて俺だけを愛してると言ってくれ。」
「おっしゃるとおりにしたるわい。いますぐにでも志摩の名前を捨てて別の人間になったる。」
燐は嬉しいと志摩に抱きついた。志摩も燐を抱きしめ返す。
「俺、ほんとにゴリゴリ君半分くれたとき嬉しかった。」
「お前はゴリゴリ君やったら誰でもええわけやないよな?」
燐は少し考えこんで、そんなわけないと答えた。志摩は溜息をつく。ひょっとしたら自分はゴリゴリ君のついでに好きになられたのではと、ちょっとだけ疑った。しかし燐も十五歳なのだから、そんな馬鹿なことはないと自分に言い聞かせる。それに今夜、この教会に忍んでついさっきまで、あーんなことや、こーんなことまでやっていたのだ。燐は俺初めてなんだと頬を染めて言っていた。それはどうやら本当らしい。ゴリゴリ君半分の見返りにしては嬉しすぎる。たとえ敵の家の息子でも、その単純さとか無邪気さが心底愛おしかった。
まだ噂でしか聞いていない話だが、どうやら燐には結婚話が持ち上がっているらしい。燐はわけありの子どもなので、任せられる相手は限られている。南十字教会よりも上の家柄の息子・アーサー・О・エンジェル。金ぴか頭の将来有望で非の打ち所の無い騎士。明陀の僧正とはいえ末端の五男坊の冷や飯食いが争っても勝てそうにない相手。
そんな男が物好きにも燐を見初めてしまったらしい。そりゃあちょっと凶暴なところはあるけど、可愛い顔立ちだし料理上手だし、お行儀が悪いところはあるけど素直ないいこだ。それは志摩が身をもって知っている。
「燐。お前に結婚の話があるらしいんやけど、ほんとなんか?」
あー。と燐はどうでも良さそうに頷いている。
「うちさあ、弟の雪男がさ、俺にべったりで親父がいろいろと心配してるんだよ。だから変なことが怒らないうちに俺をどっかの家に嫁がせたいらしくて。」
いかにも親が言ったことをそのまま鸚鵡返しに言っているようだった。たぶん深い意味は絶対に分かっていないのだろうと志摩は思った。
『結婚話そのものよりも、結婚話の原因になったっちゅー弟のほうが厄介やな。』
燐は暢気に志摩に言う。
「大丈夫だって。お前どうせ明陀の中でも立場が低いんだから。俺がアーサーとの結婚を断って、お前が明陀出てくれば一緒になれるって。て、いうか。お前手ぇ出してきたんだから、ちゃんと責任取ってくれよ。」
脅迫する言葉までも可愛らしかった。
「わかった、燐。俺は家も親も捨てるわ。そして責任は取る。」
燐は嬉しそうに頷く。
「でも、しょうもない問題だけは起こすなよ。例えばコンビニでエロ本万引きとかな。」
「なんでそないなことせんとあかんのんや。」
* * *
「お客さん。カバンの中にエロ本しまって金も払わんと出ていかれたら困りますぅ。」
しかし今現在、志摩ははコンビニの店長に詰め寄られている最中だった。
燐との逢瀬の一日後。奇しくも燐と出会ったコンビニで、燐の最大の危惧が現実になっていた。勿論志摩には身に覚えがない。しかし何故かカバンの中に今日発売のエロ本が勝手に忍び込んでいた。
「罠や!」
「罠とちゃいます。言わせてもろうたら、お客さんのほうが罠や。わしらコンビニの店員にとっては、万引きほど憎むべき犯罪はありまへん。どう考えてもお客さんのカバンから出てきたんやから、お客さんが犯人と違いますん?」
「そうは言うても、俺は手に取っただけや。カバンの中には入れとらへん。」
「なんや! 素直にごめんなさい言うたら初回やから許したろう思うたけど、わけのわからん言い訳した時点でアウトや。」
「わあ! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「ごめんなさいで済んだら警察はいらんのとちゃいます?」
「さっきと言ってること違う!」
「お客さん。失礼やけど何歳? 身分証見せてもらいますか?」
志摩は学生証を渋々見せる。
「十五歳? エロ本買える歳やあらへんやろ? そやから黙ってカバン中に入れたとちゃいますん?」
「あうう……」
志摩はエロ本を立ち読みしていた時の状況を思い出そうとしていた。
店員が行列の出来たレジを捌いていた頃だった。雑誌コーナーには自分と同じようにジャンプスクエアを立ち読みする、長身で黒コート眼鏡で黒子が目立つ端正な男が立っていた。何かの拍子に目があったとき、男はスッと自分の横から立ち去った。そのとき肩がぶつかる感触を覚えた。「失礼」と言ってその男はレジにスクエアを差し出して会計をしてもらっていた。そのあと男は店から出たのにこちらを窺うように暫く店の外に佇んでいたと思う。
『もしかして……』
志摩が何かを思いついても、もう遅い。
「このことは親御さんに連絡させて貰いますぅ。あんた名家の明陀の息子やろ? 語領主様にも一応言うとかんとなあ。犯罪の目は一つずつ摘んでおくに限るわあ。」
志摩が家を追い出された知らせは燐にも届いた。そしてその傍らには燐を慰める弟の雪男がいた。
「志摩が……。嘘だろ。あんなに約束したのに。信じてたのに。」
「兄さんがあの志摩君の万引きになんでそんなに動揺しているのかは、この場では訊かないことにするから。」
雪男は燐の嘆きをさらっと流そうとしたが、燐にはそうはいかなかった。
「いや、訊いてくれよ! じゃないと。この気持ちをどうしていいか分からないんだよ。」
「えー……。」
弟をなんだかんだで信頼してくれているのは嬉しいが、その信頼を今こんな形で示されるのは微妙に嫌過ぎた。物心ついてからずっと兄を、兄以上の存在と思っていた雪男だった。そしてその思いを隠そうともせずオープンに露骨に周りが退くほどに示してきたが、兄からすればそれが弟の自然体だと思い込んでしまったので、まるで一ミリも伝わっていなかった。
弟の気も知らないで、あろうことか敵の明陀の僧正家の五男坊に手を出されて、燐に対して理不尽な怒りを覚えなかったと言えば、穏便過ぎる言い方だろう。煮えくり返った腸と頭を冷やして憎んでも憎み足りない曲者の外道を葬ることにした。
しかしそれを実行して残ったのは、ひたすら志摩を心配して志摩への思いをよりによって自分に訴えている燐の姿だった。
誤算だった。ゴリゴリ君が引き寄せた、夏風邪のような、すぐに醒める白昼夢のような恋愛ごっこな恋だと思い込んでしまったのが雪男の誤算だった。
「う……。うぅ……。志摩のやつ、そんなに欲求不満が溜まってたんだな。俺がどうにか出来たはずなのに。」
「そうだよ! 志摩君は酷いやつだよ! 兄さんという人がありながら、エロ本でさらに解消しようだなんて。甘いものは別腹っていう女の子じゃあるまいし。本当に最低な行為だよね。今回捕まって良かったよ。」
燐は何故か赤い顔で何か思い返しているようだった。
「捕まるようなことをさせたのは、俺かもしれない。志摩が俺のゴリゴリ君を舐めてくれって言ったとき断らなきゃ良かったんだ。志摩は初心やなって褒めてくれたのを鵜呑みにしたのが悪かったんだ。俺、志摩のパピ子ならちゅーちゅーしたかったのに。」
「兄さん!」
とんでもない方向に兄が動揺し始めている。エロ本の万引きは本当に露骨過ぎたかもしれない。
「……落ち着いて。ていうか、ゴリゴリ君とパピ子って大きさに随分と違いがあるよね? 本当のところはどっち寄りなの? 志摩君のって。」
弟のほうがよほど動揺していた。燐は言わないでいいことを、何も考えずに口にする。
「ゴリゴリ君って言ったら、その、……語感からして痛そうだろ。俺としては可愛くパピ子って言っておきたかっただけなんだ。」
「じゃあやっぱりゴリゴリ君くらい!」
くそう。明陀の息子の癖に。
生意気にそんな逸品を隠し持っているだなんて。しかもそれを僕の大事な兄さんに舐めさせようとしていたなんて。
しかし雪男とて居村屋の小豆バーくらいのものは装備しているつもりだ。ゴリゴリ君には勝てないかもしれないが、大きければいいというものでもない。あのまったりとして飽きさせない味がいいのだ。
「兄さん。本当に落ち着こう。兄さんには結婚の話もあるんだから。」
雪男としてはその結婚話にも納得していないが、この場はこうでも言わないと兄を窘められないので敢えて言う。
「なにー。あのアーサーとか言うやつか? くそう。あんなところに嫁に行ったら、ゴリゴリ君なんて庶民的なもんは食えなくなるかもしんねえ。」
「ゴリゴリ君から離れようよ。」
「お高くとまったハーゲンダッツとか、レディーボーデンなんかしか食えなくなるのかよ。」
「ある意味幸せじゃない。それ。」
「俺はゴリゴリ君がいいんだよ!」
燐は雪男の胸に顔を埋めるとべそべそと泣き始めた。雪男はそんな燐を優しく抱きしめながら、次の標的の抹殺に思いを馳せていた。
* * *
「にゃははは! 同じ手を何度も使おうなんて、策士の雪男君らしくないんだにゃ。」
手を後ろにねじり上げられ、雪男はその綺麗な形の眉を歪めた。雪男の手には一冊のエロ本があった。雪男が謎の人物に手を取られているのは、本屋の雑誌のコーナーの片隅の成人向け雑誌のコーナーだった。雪男の視線の先には書店をあとにするアーサーがいる。雪男の目が悔しそうにそれを凝視していた。
「志摩君から、あんたと似たやつと直前に接触したって聞いて、ちょっと嫌な予感はしたけど、まさかそのままあんただとは思わなかったよ。」
「あなたは、何でも屋のシュラ。」
「あんたとは修行時代の好だから、今すぐ店員には突き出すつもりはない。でもあの店長さんと志摩君と燐には、きちんと謝って釈明しろよ。」
「なんの証拠があって……」
「私は何でも屋だからにゃあ。志摩廉造に頼まれて、真実を見つけ出して欲しいって依頼されたんだよ。」
「そして僕を破滅に追い込めとも?」
シュラはその厚い唇で苦々しい笑みを浮かべる。
「あんたの破滅までが志摩廉造の依頼なら、すでにあんたは本屋の事務所にいるはずだよ。店長を目の前にしてね。志摩は自分の無実を晴らして燐のもとに帰れればいいんだ。あの黒コートで眼鏡で黒子の目立つ男を、一言だって奥村雪男だって言ってなかったよ。」
「くそっ。敵に情けを掛けられるなんて。」
シュラは雪男の肩に馴れ馴れしく腕を回してきた。
「ほんで、こっからは提案なんだけどよ。今回のことは燐にだけは内緒にしといてやるから、お前はこれ以上、志摩と燐の関係を妨害するのはやめろ。アーサーとの結婚のことは、もともとお前が燐に行き過ぎた感情を隠そうとしないのを、藤本が心配して組んだ縁談なんだから。あんたに何も心配することがなければ、なかったことになっても大丈夫なんだよ。」
「僕が一人だけ我慢するんですかっ!」
シュラはぽりぽり頭を掻きながら、「それで丸く収まるし」とぼやいている。
「燐に接触する男が出てくる度に、お前がそいつらのカバンにエロ本を突っ込み続けるなんて悲しいどころの話じゃねえぞ。少しは藤本と姉弟子の気持ちも汲んでくれよ。」
今度は肩をぽんぽんと叩く。
「嫌だと言ったら?」
「志摩君と同じ思いをして貰おうかな。バックルームで店長クラスにいびられるのは辛いもんなんだよ。優等生の雪男君に耐えられるかな?」
雪男は手に持っていたエロ本を元のところに返す。そして脱力して気の抜けた笑みを見せた。
「わかりました。兄さんに僕の悪事がばれるのは、勘弁して欲しいですからね。」
「よっし。交渉成立。同時に藤本と明陀の和尚様の依頼も完了。」
雪男はぎょっと目を剥いた。
「父さんと、達磨和尚?」
「そんなことはどうでもいいんだよ。お姉さんと一緒にこれから方々に謝りにいくぞ。」
雪男はシュラに手を引かれて本屋を出る。自分の罪を雪ぎに行くのだった。
* * *
エピローグというか。その後の結末。
「志摩。あーん。」
志摩が持っているゴリゴリ君の味違いを燐は差し出してくる。志摩はもともと垂れていた目を余計に垂れさせながらかぶりついた。
二人がいるのは真夜中の教会。志摩の万引き冤罪騒動を機に関係修復した両家なのに、二人は隠れるような密会を続けている。妙な習性だった。
「志摩が帰ってきて本当によかった。お前のカバンにエロ本を突っ込んだのは誰かのイタズラだったみたいだし。」
「ほんま。手の込んだことをやってくれるわ。」
燐はその犯人が弟だということを知らない。志摩とシュラと両家の当主と、結果として巻き込まれたコンビニの店長しか知らない事実だった。
次は志摩がゴリゴリ君を差し出す。燐も同じようにかぶりついた。
「アーサーさんいう人があっさり縁談をなしにしてくれたのは助かったわ。そのせいで俺らの関係もみんなにばれてしもうたけど。」
しかし両家の反応はそれほど殺伐としなかった。両家とも構成員は過激な思想を持っていないことを今回で証明したというわけだ。ダ○ーズとか、黄○族とは違うのだ。
「それよりも、燐。」
「あ……。うん。」
燐のせつなそうな声に調子に乗っていく志摩。
志摩の後頭部に硬い感触があたる。
「それで君と兄さんの関係もなかったことになれば良かったんだけどね。」
「若先生。冗談はよしや。」
「ははは。僕は冗談は嫌いだね。」
「雪男! やきもち妬くなよっ。お前にもやるから。」
燐は自分のゴリゴリ君を弟に差し出す。雪男は嫌そうに言う。
「嫌だよ。志摩君と間接キスだなんて。」
志摩と燐は顔を見合わせる。雪男は結婚するまでは僕に内緒でエッチなことはしないでよと言うと、礼拝堂を出て行った。
「言われてもなあ。それは聞けんなあ。」
燐のシャツの中に志摩の手が這い登っていく。燐はきゃあっと言いながらも振り払う素振りは見せなかった。雪男が礼拝堂の入り口からひょこっと顔を見せる。
「約束破ったら、君のお父さんと坊と和尚様に逐一報告するから。」
志摩は慌てて燐から離れる。和尚様ならともかく、坊と父親の説教は怖かった。しかし弟の冗談じゃない冗談を聞いて吹き出す燐は可愛かった。
色々と矛盾する世界の奇妙な物語はこれでお終い。めでたし、めでたし。かな?
タイトルをそのまま借りたくせにストーリーを踏襲してないわ、死んでるはずの人は生きてるわ、アーサーは名前と後姿しかでないわ、雪男はこすいわ、燐は馬鹿だわでごめんなさい。ツッコミどころしかない話として笑って読んでいただければ助かります。
リクエストありがとうございました!
『舞台は唐突に中世イタリアのベローナだにゃ。そこには同じような声望を享受していた二つの名門があったんだにゃあ。片や南十字教会。藤本獅郎がまとめる修道院だ。片や明王陀羅尼宗(明陀)。気のいい和尚さんを頂点に家族ぐるみでやっている寺だ。昔からの両家の確執は平和な市民の血を流す酷い暴力沙汰と相成ってたんだにゃ。こともあろうにいがみ合う両家に、生まれし二人の男たちが出会い、やがて運命の結末を迎えるにゃあ。』
明陀の志摩家の五男坊・廉造は南十字教会に忍び込んでいた。もし見つかれば袋叩きにされても仕方が無い。しかもその目的たるや、万死に値するといってもいい。何せ南十字教会が抱え込んでいる秘密の子ども、サタンの落胤に逢瀬を仕掛けているのだから。
「本当に、コンビニでゴリゴリ君を取り合ったお前とこんなふうに出来ちまうなんて、俺はなんてふしだらで尻の軽い男なんだ。」
言葉とは裏腹に燐は一途な男だった。
「ほんまやなあ。一個しか残ってないゴリゴリ君を取り合ったのはええけど、お前は財布持ってくるのを忘れてて。仕方なく俺と半分にしたんやなあ。」
あの時はどうしてもゴリゴリ君が食べたくてコンビニに走ったものだったが、実はそのときから燐との運命を感じていたのかもしれない。教会の片隅で寄り添いあう二人を闇夜が優しく隠してくれていた。
「明陀と俺んちが敵同士だなんて。しかも俺はサタンの息子だし。なあ、どうしてお前は志摩なんだ? その名前を俺の為に捨ててくれないか? 出来なかったらせめて俺だけを愛してると言ってくれ。」
「おっしゃるとおりにしたるわい。いますぐにでも志摩の名前を捨てて別の人間になったる。」
燐は嬉しいと志摩に抱きついた。志摩も燐を抱きしめ返す。
「俺、ほんとにゴリゴリ君半分くれたとき嬉しかった。」
「お前はゴリゴリ君やったら誰でもええわけやないよな?」
燐は少し考えこんで、そんなわけないと答えた。志摩は溜息をつく。ひょっとしたら自分はゴリゴリ君のついでに好きになられたのではと、ちょっとだけ疑った。しかし燐も十五歳なのだから、そんな馬鹿なことはないと自分に言い聞かせる。それに今夜、この教会に忍んでついさっきまで、あーんなことや、こーんなことまでやっていたのだ。燐は俺初めてなんだと頬を染めて言っていた。それはどうやら本当らしい。ゴリゴリ君半分の見返りにしては嬉しすぎる。たとえ敵の家の息子でも、その単純さとか無邪気さが心底愛おしかった。
まだ噂でしか聞いていない話だが、どうやら燐には結婚話が持ち上がっているらしい。燐はわけありの子どもなので、任せられる相手は限られている。南十字教会よりも上の家柄の息子・アーサー・О・エンジェル。金ぴか頭の将来有望で非の打ち所の無い騎士。明陀の僧正とはいえ末端の五男坊の冷や飯食いが争っても勝てそうにない相手。
そんな男が物好きにも燐を見初めてしまったらしい。そりゃあちょっと凶暴なところはあるけど、可愛い顔立ちだし料理上手だし、お行儀が悪いところはあるけど素直ないいこだ。それは志摩が身をもって知っている。
「燐。お前に結婚の話があるらしいんやけど、ほんとなんか?」
あー。と燐はどうでも良さそうに頷いている。
「うちさあ、弟の雪男がさ、俺にべったりで親父がいろいろと心配してるんだよ。だから変なことが怒らないうちに俺をどっかの家に嫁がせたいらしくて。」
いかにも親が言ったことをそのまま鸚鵡返しに言っているようだった。たぶん深い意味は絶対に分かっていないのだろうと志摩は思った。
『結婚話そのものよりも、結婚話の原因になったっちゅー弟のほうが厄介やな。』
燐は暢気に志摩に言う。
「大丈夫だって。お前どうせ明陀の中でも立場が低いんだから。俺がアーサーとの結婚を断って、お前が明陀出てくれば一緒になれるって。て、いうか。お前手ぇ出してきたんだから、ちゃんと責任取ってくれよ。」
脅迫する言葉までも可愛らしかった。
「わかった、燐。俺は家も親も捨てるわ。そして責任は取る。」
燐は嬉しそうに頷く。
「でも、しょうもない問題だけは起こすなよ。例えばコンビニでエロ本万引きとかな。」
「なんでそないなことせんとあかんのんや。」
* * *
「お客さん。カバンの中にエロ本しまって金も払わんと出ていかれたら困りますぅ。」
しかし今現在、志摩ははコンビニの店長に詰め寄られている最中だった。
燐との逢瀬の一日後。奇しくも燐と出会ったコンビニで、燐の最大の危惧が現実になっていた。勿論志摩には身に覚えがない。しかし何故かカバンの中に今日発売のエロ本が勝手に忍び込んでいた。
「罠や!」
「罠とちゃいます。言わせてもろうたら、お客さんのほうが罠や。わしらコンビニの店員にとっては、万引きほど憎むべき犯罪はありまへん。どう考えてもお客さんのカバンから出てきたんやから、お客さんが犯人と違いますん?」
「そうは言うても、俺は手に取っただけや。カバンの中には入れとらへん。」
「なんや! 素直にごめんなさい言うたら初回やから許したろう思うたけど、わけのわからん言い訳した時点でアウトや。」
「わあ! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「ごめんなさいで済んだら警察はいらんのとちゃいます?」
「さっきと言ってること違う!」
「お客さん。失礼やけど何歳? 身分証見せてもらいますか?」
志摩は学生証を渋々見せる。
「十五歳? エロ本買える歳やあらへんやろ? そやから黙ってカバン中に入れたとちゃいますん?」
「あうう……」
志摩はエロ本を立ち読みしていた時の状況を思い出そうとしていた。
店員が行列の出来たレジを捌いていた頃だった。雑誌コーナーには自分と同じようにジャンプスクエアを立ち読みする、長身で黒コート眼鏡で黒子が目立つ端正な男が立っていた。何かの拍子に目があったとき、男はスッと自分の横から立ち去った。そのとき肩がぶつかる感触を覚えた。「失礼」と言ってその男はレジにスクエアを差し出して会計をしてもらっていた。そのあと男は店から出たのにこちらを窺うように暫く店の外に佇んでいたと思う。
『もしかして……』
志摩が何かを思いついても、もう遅い。
「このことは親御さんに連絡させて貰いますぅ。あんた名家の明陀の息子やろ? 語領主様にも一応言うとかんとなあ。犯罪の目は一つずつ摘んでおくに限るわあ。」
志摩が家を追い出された知らせは燐にも届いた。そしてその傍らには燐を慰める弟の雪男がいた。
「志摩が……。嘘だろ。あんなに約束したのに。信じてたのに。」
「兄さんがあの志摩君の万引きになんでそんなに動揺しているのかは、この場では訊かないことにするから。」
雪男は燐の嘆きをさらっと流そうとしたが、燐にはそうはいかなかった。
「いや、訊いてくれよ! じゃないと。この気持ちをどうしていいか分からないんだよ。」
「えー……。」
弟をなんだかんだで信頼してくれているのは嬉しいが、その信頼を今こんな形で示されるのは微妙に嫌過ぎた。物心ついてからずっと兄を、兄以上の存在と思っていた雪男だった。そしてその思いを隠そうともせずオープンに露骨に周りが退くほどに示してきたが、兄からすればそれが弟の自然体だと思い込んでしまったので、まるで一ミリも伝わっていなかった。
弟の気も知らないで、あろうことか敵の明陀の僧正家の五男坊に手を出されて、燐に対して理不尽な怒りを覚えなかったと言えば、穏便過ぎる言い方だろう。煮えくり返った腸と頭を冷やして憎んでも憎み足りない曲者の外道を葬ることにした。
しかしそれを実行して残ったのは、ひたすら志摩を心配して志摩への思いをよりによって自分に訴えている燐の姿だった。
誤算だった。ゴリゴリ君が引き寄せた、夏風邪のような、すぐに醒める白昼夢のような恋愛ごっこな恋だと思い込んでしまったのが雪男の誤算だった。
「う……。うぅ……。志摩のやつ、そんなに欲求不満が溜まってたんだな。俺がどうにか出来たはずなのに。」
「そうだよ! 志摩君は酷いやつだよ! 兄さんという人がありながら、エロ本でさらに解消しようだなんて。甘いものは別腹っていう女の子じゃあるまいし。本当に最低な行為だよね。今回捕まって良かったよ。」
燐は何故か赤い顔で何か思い返しているようだった。
「捕まるようなことをさせたのは、俺かもしれない。志摩が俺のゴリゴリ君を舐めてくれって言ったとき断らなきゃ良かったんだ。志摩は初心やなって褒めてくれたのを鵜呑みにしたのが悪かったんだ。俺、志摩のパピ子ならちゅーちゅーしたかったのに。」
「兄さん!」
とんでもない方向に兄が動揺し始めている。エロ本の万引きは本当に露骨過ぎたかもしれない。
「……落ち着いて。ていうか、ゴリゴリ君とパピ子って大きさに随分と違いがあるよね? 本当のところはどっち寄りなの? 志摩君のって。」
弟のほうがよほど動揺していた。燐は言わないでいいことを、何も考えずに口にする。
「ゴリゴリ君って言ったら、その、……語感からして痛そうだろ。俺としては可愛くパピ子って言っておきたかっただけなんだ。」
「じゃあやっぱりゴリゴリ君くらい!」
くそう。明陀の息子の癖に。
生意気にそんな逸品を隠し持っているだなんて。しかもそれを僕の大事な兄さんに舐めさせようとしていたなんて。
しかし雪男とて居村屋の小豆バーくらいのものは装備しているつもりだ。ゴリゴリ君には勝てないかもしれないが、大きければいいというものでもない。あのまったりとして飽きさせない味がいいのだ。
「兄さん。本当に落ち着こう。兄さんには結婚の話もあるんだから。」
雪男としてはその結婚話にも納得していないが、この場はこうでも言わないと兄を窘められないので敢えて言う。
「なにー。あのアーサーとか言うやつか? くそう。あんなところに嫁に行ったら、ゴリゴリ君なんて庶民的なもんは食えなくなるかもしんねえ。」
「ゴリゴリ君から離れようよ。」
「お高くとまったハーゲンダッツとか、レディーボーデンなんかしか食えなくなるのかよ。」
「ある意味幸せじゃない。それ。」
「俺はゴリゴリ君がいいんだよ!」
燐は雪男の胸に顔を埋めるとべそべそと泣き始めた。雪男はそんな燐を優しく抱きしめながら、次の標的の抹殺に思いを馳せていた。
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「にゃははは! 同じ手を何度も使おうなんて、策士の雪男君らしくないんだにゃ。」
手を後ろにねじり上げられ、雪男はその綺麗な形の眉を歪めた。雪男の手には一冊のエロ本があった。雪男が謎の人物に手を取られているのは、本屋の雑誌のコーナーの片隅の成人向け雑誌のコーナーだった。雪男の視線の先には書店をあとにするアーサーがいる。雪男の目が悔しそうにそれを凝視していた。
「志摩君から、あんたと似たやつと直前に接触したって聞いて、ちょっと嫌な予感はしたけど、まさかそのままあんただとは思わなかったよ。」
「あなたは、何でも屋のシュラ。」
「あんたとは修行時代の好だから、今すぐ店員には突き出すつもりはない。でもあの店長さんと志摩君と燐には、きちんと謝って釈明しろよ。」
「なんの証拠があって……」
「私は何でも屋だからにゃあ。志摩廉造に頼まれて、真実を見つけ出して欲しいって依頼されたんだよ。」
「そして僕を破滅に追い込めとも?」
シュラはその厚い唇で苦々しい笑みを浮かべる。
「あんたの破滅までが志摩廉造の依頼なら、すでにあんたは本屋の事務所にいるはずだよ。店長を目の前にしてね。志摩は自分の無実を晴らして燐のもとに帰れればいいんだ。あの黒コートで眼鏡で黒子の目立つ男を、一言だって奥村雪男だって言ってなかったよ。」
「くそっ。敵に情けを掛けられるなんて。」
シュラは雪男の肩に馴れ馴れしく腕を回してきた。
「ほんで、こっからは提案なんだけどよ。今回のことは燐にだけは内緒にしといてやるから、お前はこれ以上、志摩と燐の関係を妨害するのはやめろ。アーサーとの結婚のことは、もともとお前が燐に行き過ぎた感情を隠そうとしないのを、藤本が心配して組んだ縁談なんだから。あんたに何も心配することがなければ、なかったことになっても大丈夫なんだよ。」
「僕が一人だけ我慢するんですかっ!」
シュラはぽりぽり頭を掻きながら、「それで丸く収まるし」とぼやいている。
「燐に接触する男が出てくる度に、お前がそいつらのカバンにエロ本を突っ込み続けるなんて悲しいどころの話じゃねえぞ。少しは藤本と姉弟子の気持ちも汲んでくれよ。」
今度は肩をぽんぽんと叩く。
「嫌だと言ったら?」
「志摩君と同じ思いをして貰おうかな。バックルームで店長クラスにいびられるのは辛いもんなんだよ。優等生の雪男君に耐えられるかな?」
雪男は手に持っていたエロ本を元のところに返す。そして脱力して気の抜けた笑みを見せた。
「わかりました。兄さんに僕の悪事がばれるのは、勘弁して欲しいですからね。」
「よっし。交渉成立。同時に藤本と明陀の和尚様の依頼も完了。」
雪男はぎょっと目を剥いた。
「父さんと、達磨和尚?」
「そんなことはどうでもいいんだよ。お姉さんと一緒にこれから方々に謝りにいくぞ。」
雪男はシュラに手を引かれて本屋を出る。自分の罪を雪ぎに行くのだった。
* * *
エピローグというか。その後の結末。
「志摩。あーん。」
志摩が持っているゴリゴリ君の味違いを燐は差し出してくる。志摩はもともと垂れていた目を余計に垂れさせながらかぶりついた。
二人がいるのは真夜中の教会。志摩の万引き冤罪騒動を機に関係修復した両家なのに、二人は隠れるような密会を続けている。妙な習性だった。
「志摩が帰ってきて本当によかった。お前のカバンにエロ本を突っ込んだのは誰かのイタズラだったみたいだし。」
「ほんま。手の込んだことをやってくれるわ。」
燐はその犯人が弟だということを知らない。志摩とシュラと両家の当主と、結果として巻き込まれたコンビニの店長しか知らない事実だった。
次は志摩がゴリゴリ君を差し出す。燐も同じようにかぶりついた。
「アーサーさんいう人があっさり縁談をなしにしてくれたのは助かったわ。そのせいで俺らの関係もみんなにばれてしもうたけど。」
しかし両家の反応はそれほど殺伐としなかった。両家とも構成員は過激な思想を持っていないことを今回で証明したというわけだ。ダ○ーズとか、黄○族とは違うのだ。
「それよりも、燐。」
「あ……。うん。」
燐のせつなそうな声に調子に乗っていく志摩。
志摩の後頭部に硬い感触があたる。
「それで君と兄さんの関係もなかったことになれば良かったんだけどね。」
「若先生。冗談はよしや。」
「ははは。僕は冗談は嫌いだね。」
「雪男! やきもち妬くなよっ。お前にもやるから。」
燐は自分のゴリゴリ君を弟に差し出す。雪男は嫌そうに言う。
「嫌だよ。志摩君と間接キスだなんて。」
志摩と燐は顔を見合わせる。雪男は結婚するまでは僕に内緒でエッチなことはしないでよと言うと、礼拝堂を出て行った。
「言われてもなあ。それは聞けんなあ。」
燐のシャツの中に志摩の手が這い登っていく。燐はきゃあっと言いながらも振り払う素振りは見せなかった。雪男が礼拝堂の入り口からひょこっと顔を見せる。
「約束破ったら、君のお父さんと坊と和尚様に逐一報告するから。」
志摩は慌てて燐から離れる。和尚様ならともかく、坊と父親の説教は怖かった。しかし弟の冗談じゃない冗談を聞いて吹き出す燐は可愛かった。
色々と矛盾する世界の奇妙な物語はこれでお終い。めでたし、めでたし。かな?
タイトルをそのまま借りたくせにストーリーを踏襲してないわ、死んでるはずの人は生きてるわ、アーサーは名前と後姿しかでないわ、雪男はこすいわ、燐は馬鹿だわでごめんなさい。ツッコミどころしかない話として笑って読んでいただければ助かります。
リクエストありがとうございました!
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絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
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