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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆ss「ユーフォリア」 「アラベスク」シリーズ現在編、メフィスト。オリキャラ注意。

 メフィストフェレスが松葉杖を手放せなくなったのは二年前からだった。その前の二年間は車椅子で、そのまた前の一年間はベッドに縛りつけられていた。
そんな日々も今は懐かしい。再び日の下で埃臭い空気を吸えるなんて五年前では考えられなかった。そして今、自分の横で自分の足にしがみついているのは、末弟の燐の子どもだった。
「おじちゃんになるという経験は初めてですね。」
 それは正確な言葉ではない。自分たちの父親・サタンには多くの子どもたちがいて、その子どもたち、つまりメフィストにとっての兄弟姉妹にも子どもはいるだろう。しかしこうやって伯父さんと甥だと紹介したりされたのは、るんとらんが初めてだった。
「虚無界か――。」
 メフィストはずっと離れている自分の生まれ故郷を思った。宗教も倫理も道徳もない世界で、血縁だとか家族だとかいう感覚は到底なかった。極端を言えば親子兄弟で恋愛も有り、そんな情さえなくて肉体関係を持つことも普通だった。それに参加しないメフィストが異端呼ばわりされるくらいだった。
 本当に侘び寂びのない世界だった。一方的に弱いものが蹂躙される世界。
「ゲヘナはおじちゃんのじっかだよね。おれもいってみたい。」
 メフィストがちょうど虚無界を思っていたのを口に出してしまったのか、小さな甥っ子が興味津々になっている。
 メフィストは平静を装っているが、内心では慌てふためいて、るんの言葉を否定する。
「いかないほうがいいですよ。あんなとこ。」
 今まで思い返していたことを総合すれば、この純粋な子どもなど格好の餌食にしかならない。メフィストは大袈裟に言う。
「わたしが二百年も帰らない、これからだって帰りたいとは思わないところです。」
 異常さが普通で、異常、惨酷、殺伐、ただそれだけの世界。だからサタンは物質界が羨ましかった。だからサタンは物質界も虚無界とおんなじにしたがった。
「私は、燐やるんやらん達と、ずーっとのんびり平和にここで過ごしたいですよ。」
 ぎゅうっと、るんを抱きしめてやる。るんは何か言いたいらしいが、メフィストがぎゅっとしてくれているので、ここはもう何も言うつもりはないらしい。おれが一人称でらんより活発そうに見える割には、控えめな子だった。
「メフィストおじちゃんがいるなら、おれもここにいる。」
 そして少し恥ずかしそうに小さな声で続けた。
「おれ、メフィストおじちゃんがすき。」
 それにメフィストはいつも答えてやらない。でも悪魔の心臓が少しだけ高鳴った。
『お母さん似なのが災いですね。』
 勿論、燐を末の弟と言い張っているのだから、燐に対して恋愛感情はない。どこぞの弟じゃないのだから。
『この子も将来は別の人に好きっていう日が来ます。その時まで嬉しがりながらも、受け流しておけばいいんです。』
 それが人間の家族の作法だと人間から学んだ。悪魔のように節操無く欲望の対象にしてはいけない。大事に汚さないように、守っていかなければ。あの末の弟にやってやったように。
『そう考えると、雪男君には悪いことしちゃいましたね。』
 五年前の雪男のことを考えると、少しだけ悪魔にはあるはずもない良心が痛むような気がするが、そうしなければ収拾がつかなくなっていたとも思う。
 自らの父親のサタンに燐を向かわせることだけは避けておきたかった。元々が平凡な心を持った燐がささやかな願いを胸に隠していることは、悪魔の嗅覚で読み取っていた。最善をつくしたつもりが、片方の弟を最悪の淵まで追い詰めてしまったことだけは、悔やんでしまう。
でも字面にすれば「悔やんじゃいますぅ♪」なテンションのつもりだけど。悪魔なんだから罪悪感など抱かないはずだ。あくまでちょっと成功するには足りない、失敗しちゃいました的なやっちゃった感ばりばりの後悔だ。  でもこの悪魔には悪魔なりにセンチメンタルになったりすることもある。甘酸っぱい感傷は悪魔にとっては大好物だからだ。
 しかしそんな心情は悟られてはならない。それは悪魔の処世術だった。
「るん。そんなに簡単に悪魔に好きって言っちゃいけませんよ。付け込まれて頭から食べられてしまいますよ。」
 その言葉にるんは目を輝かせる。
「おじちゃん、おれのことたべるの? たべて!」
 食いつかれてしまった。るんは嬉しそうに歌うように話し続ける。
「おじちゃんがおれをたべたら、おじちゃんがねてるあいだに、らんがおじちゃんのおなかをきって――。」
 おいおい。燐が寝る前に読んでやる絵本の赤頭巾か七匹の子山羊が、この子どもの頭の中では展開されている。現実でそんなことが起こったら凄い惨劇だろう。
「で、おれはおじちゃんのおなかからでてきたら、おじちゃんのおなかをおかあさんにぬってもらうんだ。」
「どちらかというとそれは、あの――」
 と、メフィストは目顔で遠くのベンチに座っている雪男にるんの目がいくように仕向ける。
「雪男おじちゃんのほうが、おなかを縫うのは上手だと思います。」
 雪男に自分の身体を任せたら、石を大量に詰められるのは必至だろう。それを燐に阻止して欲しいメフィストだった。
「うん。そうだな。メフィストおじちゃんのおなかのなかにはいってみたかったけど、おはなしのおわりにおじちゃんしんじゃうもんな。それはいやだな。」
 子どもの想像はどこまでも惨酷だった。るんは考えこみながら、うんうんと頷いている。
「さいごにけっこんできるおはなしがいいな。」
「結婚ですか?」
「さいごに、まほうつかいとけっこんできるはなし。」
 仮にるんがお姫様か王子様だとしても、自分の役回りは、子どものるんが考えても魔法使いだろう。だからそんな発言が出てくるのだ。姫や王子と、魔法使いが結婚する話なんか、御伽噺には存在しない。魔法使いはいつも都合のいい便利屋か、許しがたい敵役と相場が決まっている。
「るんは意外と御伽噺は詳しいですね。」
 るんは褒められて嬉しいのか、自分の知っている限り御伽噺の題名を言い続ける。その中で自分とメフィストに当てはまる物語を探しているようだ。
「しらゆきひめも違うし、シンデレラみたいにおれはこきつかわれてないし、ねむりひめもちがうし。かぐやひめはけっこんしないし。いっすんぼうしもちがうし。」
 どこまで結婚願望の強い幼児なんだとメフィストは怖気だった。あの奥村燐の結婚願望が確実に遺伝している。
「おれが、そんなおはなしをしらないだけなのかな。ちっともおもいだせない。」
 だから子供向けでそんな話は無いんだよとメフィストは言いたくなる。しかしぐっと堪える。
「そうかもしれませんね。大人になったらいろいろ本を読んでみてください。」
「そうしてみる。」
 そしてるんはメフィストを滑り台の降りたところに座るように手招きする。メフィストが腰を下ろすとその細長い足の間によじ登って、るんは落ちないようにメフィストの浴衣にしがみついた。子猫のような仕草で子猫のように愛らしく。
「眠くなったのか。」
 柔らかい肌を摺り寄せて、るんは寝息ともつかない声を上げている。今日はいろいろとるんなりに一生懸命考えていたせいだろう。
 
「私がこんな杖がいらなくなった頃には、どうなってるんでしょうね。獅郎。」
 
 あの男は杖がいるようになるまで生きていられなくて、孫には会えなかったけど、この孫たちを愛おしく思ってくれているだろう。
 それが人間の感情の、当たり前だった。
 自分には絶対に手に入れることが出来ないと思い込んでいたものを手に入れた男の、持て余す限りの感傷だった。





最後に藤本さんにいきつきました。双子の兄編です。

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柴仲達
性別:
女性
職業:
会社員
趣味:
読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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