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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆ss「キャットフードその③」燐雪(ちょっと燐ネイ、藤雪)

 日付が変わる前に燐は目を覚ました。隣を見るとベッド横のスタンドの明かりでネイガウスは本を読んでいる。小説みたいに娯楽で読むような本ではなく、何やらの専門書らしかった。燐はネイガウスに小声でおはようと言うと、ネイガウスはまだ夜中だと返した。
「なんだ。本当に隣で寝るつもりだったんだ。」
 自分のすぐ横で仰向けになっているネイガウスを見て、燐は言わずもがなのことを言う。
「私のベッドなんだから、私が寝て悪いか?」
 燐は首を横に振る。寝起きなのにやけにぱっちりと目を開けてネイガウスを見ている。
「いや。男同士で一つのベッドってなんかな。」
「二人だけだとそう思うだろうが……。私の経験上。」
 ネイガウスの言葉に燐はぴくりと反応する。
「経験上? そんなことってよくあることなのか?」
 ネイガウスは本を閉じてサイドテーブルに置くと燐のほうに身体を向けた。
「祓魔師の任務は野外戦が多いからな。泊りがけで宿が確保出来なければ、簡易的な拠点で雑魚寝は当たり前だ。その場しのぎだから、男同士でも肌と肌が触れた状態で休まなければならないこともある。」
「えええ! じゃあ、雪男も……。複数の野郎と一緒に寝てたりするのかよっ。」
「お前は弟を特別視してるから、そんなふうに驚いているのだろう。しかしな。他の祓魔師にとっては、奥村雪男は単なる年下の同僚にしか過ぎない。そんな疚しい思いでいる奴など滅多にもいるわけがない。」
「わかるもんか。軍隊と男子校と刑務所にゃあ、ホモがつきものなんだよっ。」
 やけに特殊な例にだけ詳しそうな悪魔だった。ネイガウスは常識で言い返す。
「そうかっかするな。騎士団の祓魔師は妻帯者も多いし、女性祓魔師もいる。」
 ネイガウスの言葉はあまり燐には聞こえていないようだった。雪男ちゃんが雪男ちゃんがと小言で喚いている。ネイガウスは、ここは何も言わずにほっといてやろうと思った。
 しかし言わなければいけないことがある。
「ところで、お前は何か気がつかないか?」
 ネイガウスは燐を通り越して燐の枕元に視線を移す。燐はそれから何か察したように頭の後ろを振り返った。
「えーと……。そういや、あの子猫どうした? 俺の枕元で寝てたんじゃなかったっけ?」
 ひょっとして潰してないかと毛布を持ち上げて身体を起こす。シーツの白に紛れているわけでもなく、子猫は姿も形も見当たらない。
「あれ? どこいった? ていうか、ベッドから落ちてるんじゃ。」
 燐は慌ててベッドの下も覗いている。
「そんなことはない。お前が起きたら言わなければいけないと思っていたが、実はあの猫は悪魔の一種だったようだ。存在はかなり微弱だったがな。」
 燐は意味がわからずに頭を抱えている。ネイガウスは分かりやすい言葉を探す。
「猫の幽霊、というべきか。助けて貰いたかったという猫の思念の小さな集合体だったのだろう。お前が気づいて助けたから、未練なく消えることが出来たようだ。」
「そんな、あいつもとから死んでたって言うのか。結局俺はあいつを助けられなかったってことかよ。」
 ネイガウスは首を振る。
「助けるのは遅かったが、救ってやったという事実は変わらない。お前が助けなかったら、性質の悪いものに変わっていたかもしれない。」
 燐はベッドの上に起き上がって、子猫のいたタオルの敷き詰められた箱を覗く。
「あんた。俺が車の中であいつを抱っこしてやってた時から気づいてたのか?」
「まあな。あんなに小さい子猫が袋の中で放置されて、都合よく人間に助けられるまで無事でいられるはずもあるまい。」
「そうだよな。でも生きてるうちに助けたかったな。まあ、いっか。しょうがねえ。」
 意外と諦めのいい悪魔だとネイガウスは思った。そういえば、寝付く前の愁嘆場が嘘のように燐の顔はあっけらかんとしている。それがある意味、奥村燐を支えているのかもしれない。単に物覚えが悪いだけかもしれないが。
「私はもう寝るが、お前はどうする?」
「俺は。」
 燐は窓の外を見る。部屋に残してきた雪男が気になった。しかし、いきなり部屋に帰るのも可笑しな話だし、もしやネイガウスに迷惑を掛けて追い出されたと思われるのも面倒な話だった。それに、雪男は自分がいないほうがよく眠れるかもしれないと、一抹の寂しさも感じながら考えてしまった。
「俺も二度寝する。」
「そうしたいならそうすればいい。」
「ちゃんと起こしてくれよ。明日学校なんだ。」
「善処はしよう。」
 燐はまた毛布にくるまって目を閉じる。
「あーあ、せっかく可愛い子猫を拾ったと思ったのに。クロがいるから別にいいけど。」
 ネイガウスは溜息を吐く。諦めがいいのか未練がましいのかどっちかにしろと思った。
 
     *   *   *
 
 燐のいない部屋の中で雪男は黙々と仕事をしている。やはり兄がいないと三割り増し仕事が進む。兄が思っていたとおり、燐が部屋にいない雪男は好調なようだった。しかし仕事が一段落して伸びをした途端、もの凄い寂寥感が雪男を襲って背筋を竦ませた。
 いつも聞いている兄の息遣いだとか、自分を盗み見る視線だとか、時折聞こえてくる自分を呼ぶ寝言とか。この部屋を構成する兄のパーツがごっそり抜け落ちると、この部屋の構造が不安定に頼りなく思えてくる。
「気のせいだよね。兄さん一人がいないくらい。」
 多分自分は疲れている。仕事がはかどった分だけ多く休むのも手かもしれない。
「もう寝ようかな。」
 朝にシャワーは浴びるし、このまま眠い状態で寝てしまえばいい。雪男はベッドに横になってスマフォでアラームを設定する。しかしアラームとは違う振動がスマフォを震わせた。誰かから電話が掛かってきた。雪男は淡々とそれに出る。
『今晩わ。藤堂です。』
「藤堂さんですか。先日はどうも。」
 雪男が数週間前についた任務の指揮者であった藤堂からだった。藤堂は上二級に留まりながら一部隊を率いる統率者の役割も果たしていた。それは藤堂が悪魔落ちして悪魔の力を取り入れた上で、騎士団に協力しているからだ。それ以前までは名家の出でありながらあまりうだつの上がらない存在だったらしい。しかし雪男は最近藤堂に会ったばかりなので、悪魔落ちするほど冴えない人生を送っていた藤堂など見たことはない。悪魔落ちというある意味ドロップアウトした存在になって初めて輝きだす人間、いや悪魔も珍しいものだった。それは蛇足だった。
一週間前に電話番号を教えたばかりに、そこから一日に二回は用事も無いのに電話が掛かってくるようになっていた。(他の同僚や上司と通話する時のような言葉遣いなので、燐は特に気にしていなかった。)しかし今日やけに時間が遅すぎるような気がする。
「僕に何の用ですか?」
『いやあ。悪魔らしい気まぐれだよ。』
「はあ……。」
 藤堂は電話の向こうでくすくすと笑っている。なんだか嫌な感じだった。
『お兄さん、元気ぃ?』
「ええ。元気ですよ。頭痛の種になる程度には。」
 いつもこうして藤堂からの問いを受け流している。そうすれば勝手に五分ぐらいで飽きてくれるからだ。
『相変わらず、ここの君は即答だね。』
「僕が複数いるかのように言わないで下さい。ここの他にどこに僕がいるんですか?」
 藤堂ははぐらかすように含み笑いを漏らした。
『ついでに、お兄さんのこと嫌いだろう?』
「ええ。嫌いですよ。」
『自分のことは?』
 雪男は子どものようにしつこい藤堂にこめかみがひくつく。
「好きに、決まっているじゃないですか。僕のこと一番分かっているのは僕自身だし、僕を助けられるのは僕だけだ。」
『寄る辺は己っていうことか。悪くは無いね。羨ましいことだよ。僕は自分を寄る辺に出来ずに悪魔の力に縋ってしまったからね。』
 雪男は一連の藤堂と交わした会話の中の自分をほんの少しだけ省みる。この会話の中には嘘が含まれている。たぶんきっと、藤堂はその嘘に気づいている。
「僕と兄の近況伺いが済んだところで、もう電話を切ってもいいでしょうか? 明日、学校があるので。」
 藤堂はあたかも慌てたように雪男に頼み込む。
『えー。もうちょっといいじゃない。一緒に寝た仲じゃない?』
「あれは任務でしょうがなくだったじゃないですか。二人きりでもあるまいし。」
 雪男は少し笑いを含ませて電話の向こうの藤堂にやんわりと告げる。三日ほど泊りがけの任務があったときのことだった。わりと僻地の集落での任務だったので、風呂なし睡眠なしの戦闘に次ぐ戦闘続きだった。眠れたと言えば合間の仮眠ぐらいだ。そのときに藤堂に見張りをしてもらって休んでいた。藤堂はそのときのことを楽しそうに語る。
『僕の隣で無防備に疲れきって眠っていた君は、実に可愛らしかったよ。周りは悪魔の死体でいっぱいだったけど。その中の一体を僕は食べさせてもらったし。君が寝ている間にね。』
 雪男は溜息を吐いた。悪魔落ちをしたこの男が、騎士団に頭を下げる形で祓魔師を続けているのは、悪魔の力を溜め込むためでもあるようだ。そのうち何かをやらかすかもしれないが、そんなのには雪男の知ったことではない。自分がこの手に掛けなければならない悪魔はたった一人だから。幾千幾万の悪魔を屠ろうと関係ない。しかし、便宜上は一応言っておく。
「くれぐれも何もやらかさないで下さいね。僕への嫌がらせだとしても。」
『ここの僕は何もやらないよ。』
「まるで自分も複数いるかのように言わないでください。」
 自分は一人しかいないのだ。そうやってパラレルワールドを信じているから、悪魔落ちに逃げてしまうんだと雪男は文句を言いたかった。だが言わない。他の人間に対してはどうかは知らないが、藤堂はいつも絡んでくるような言動をとってくる。それを軽く雪男はあしらったりする。そして藤堂はそれを嬉しそうに受け取っている。
 本当に楽しそうな様子が伝わってくる。人生の路頭に迷った中年がある日を境に生まれ変わってしまうこともあろうが、悪魔落ちすることによって残り少ない人生が無限に近くなった途端に、こんなに楽しそうに生きられるとは思えない。人生の意味に疲れていた男が、人生の意味を放棄した、逃げただけの話じゃないか。それを肯定するのは、雪男の中の矜持というか潔癖な部分が許さなかった。そんな男に対して憤りはしないが、切り離して考えるべきだということくらいは分別はついている。
『しっかり者だね。君は。好きだな。おじさんは君みたいな子。ほっとけないな。構いたいな。』
「構うなら次に任務で一緒になったときでいいでしょう。」
 とうとう藤堂は声を出して笑い始めた。
『ひゃははは。一応、構うのは許してくれるわけだ。』
「祓魔師は一人では戦えませんから。」
 なんだかんだで頼りになるのは事実だから。
『いいよ。僕は君に味方しよう。何か困ったりしたときはいつでも頼ってくれ。そのために僕は悪魔の力を蓄えておくから。』
「結構です。寄る辺は自分ですから。」
 雪男はちらりと壁の時計を見る。とっくに五分以上は過ぎている。今日はやけに藤堂は粘っているなと思いながら、藤堂に半ば強引に問いかける。
「じゃあ。もういいですね? 切りますよ。」
『あともうちょっと。』
「なんですか。手短にお願いします。」
『夕方。君のお兄さんが職員の寮に来てたんだけど。お兄さんには宿舎に行って勉強を教えてもらうくらい親しい先生でもいるのかい?』
 雪男はなんでそんな場面をわざわざ見ているんだこいつ、と思いながら投げやりに答える。
「ネイガウス先生のところに今夜はお邪魔しています。兄は。」
 藤堂のわざとらしい口笛が聞こえてくる。
『じゃあ君は今日、一人なわけか。やったあ。ちょっと寝ないで待っててね。』
 電話の向こうでなにやらがさごそと動く音がする。ここで反応すれば藤堂の思う壷だから、雪男は無視を決め込む。
「いや。もう僕寝ます。」
 なんだか風を切る音がひゅうひゅうと聞こえている。
『窓開いてるよね?』
 雪男はベッドから飛び出して、換気に開けていた窓を閉め鍵を掛ける。
「いや。今閉めました。」
 バサバサという音は受話器から聞こえてくる。羽ばたきの音のようだ。藤堂は手っ取り早く異形に姿を変えてこの寮を目指しているらしい。雪男は机の中からハンドガンを取り出す。
「『そんなもの。僕に効くと思ってる?』」
 窓の外に、前に見た藤堂よりよほど若い藤堂がいた。背中には悪魔らしい気持ち悪い色合いの翼が生えている。雪男は窓から後ずさった。
「ほんとに一人だ。」
「……。僕はあなたなんか招いてませんよ。」
 雪男の身体に緊張が走る。兄の不在なんか、うっかり口を滑らせるんじゃなかった。迂闊な自分は、話の流れで藤堂の質問に何でも答えてしまう姿勢になってしまっていた。
「いきなりお泊りさせて貰えるとは思ってないよ。でもお兄さんがいないときじゃないと話せないこともあるし。」
「僕には話すことなんてありません。帰って下さい。」
 毅然と拒否の言葉をぶつける。藤堂には無駄と分かっていても、意思だけははっきりと伝えなければいけない。
「生意気なことを言うと、窓を割って入っちゃうよ。そんでどうしよっかな? お兄さんから君を攫っちゃおうかな? 弟の気も知らない兄なんか二人揃ってほっといちゃおうよ。僕なら君を楽にさせてあげられる。」
 何か気になる一言を聞いたような気がするが、雪男はそれどころではない。それにもまた拒否で返す。
「楽になんかならないで結構です。どうか、帰って。」
 宙に浮いた藤堂は優しげに微笑みかける。
「泣きそうな顔でお願いされちゃあねえ。僕もそこまで悪魔するつもりないし。でも勿体ないなあ。このまま帰りたくないなあ。せめてキスくらいさせてくれないかな?」
「僕にとってキスはくらい、じゃありません。」
 それを言ってしまうと、いつか兄にしたキスに意味があるような気がしてくる。どうしてこの場にいない、頼りない兄とのことを思い出してしまうんだと、雪男の眉が歪む。しかし、目の前のしつこくて嫌らしい男と急場しのぎとはいえ同意の上キスするなんて、死んでも嫌だった。それくらいだったら、無理やり強姦されたほうがマシだった。一方的にあっちが悪いと言い張れるから。
 雪男の表情から何か読み取ったらしい藤堂は、にやにやとした笑いを引っ込める。
「そうだね。……軽率なことを言って済まなかった。」
 藤堂は素直に頭を下げて謝った。雪男は一瞬あっけに取られる。藤堂は小さく雪男に手を振る。
「じゃあ。おやすみ。」
「おやすみ、なさい……」
 藤堂は背を向けて飛び去ろうとする。雪男は何故か窓際まで寄って藤堂を見送る形になってしまった。そんな雪男に振り返って、藤堂はやはり嬉しそうに笑っていた。
 
「今日は休もう。」
 雪男は部屋を消灯した後、周りを見回す。さっきの藤堂との邂逅を思うと、自分のベッドで寝るのはなんだか心許ないような気がする。なんだか自分らしくなく気分的にそう思った。
「いや。だからって」
 言い訳しながらも雪男は兄のベッドに近寄る。きょろきょろと周囲を確認して、雪男はそっとベッドに潜り込む。そして両手で掛け布団を握り締めて包まった。
「別に側にいないから不安ってわけじゃないけど。兄さんがいないから、藤堂がやってきたわけだし。気休めのおまじないみたいなもんだよ。そうだよ。これで藤堂が近寄ってこないわけじゃ、ないけど。兄さんが悪いんだよ。藤堂なんかに見つかるから。だから少しくらい。布団借りたっていいじゃないか。」
 雪男は滅茶苦茶な結論を言うと、瞼を閉じた。そしてあっという間に眠りにおちた。
 
悪魔の兄のその床で。





藤堂|∀・)<ミタヨー 

 他ヒロインに2~3話使うと言っておいて、ネイさんに結局3話使ってしまいました。ていうかアサ子一回休みかよ。雪ちゃんはなんとか滑り込みました。ピンチだけど。次回はアサ子が出張るかもな。

拍手[2回]

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柴仲達
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会社員
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読書、二次創作
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忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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