幸福雑音
女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。
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☆☆リクエスト企画ss「ロミオとオフィーリア」
Mさんのリクエストで「雪燐+1」で三角関係です。今回はメフィストを採用しました。
兄がサタンの落胤であることが発覚した。
雪男はその現場を目撃した候補生たちに奥村燐の事情を説明することになった。
審問を受けている兄を心配する気持ちはあったが、まだ祓魔師の道に踏み込んだばかりの生徒の精神的フォーローのほうを優先しなければいけないということは、講師の雪男にとって当然のことだった。
『上手くいかなかったな……』
我ながら駄目だったと頭を垂れる。雪男が見て取ったところ、明らかにもうあの兄は候補生たちの輪に戻ることは叶わないようだ。生徒たちの反応を見れば一目瞭然だった。身内としてはもう少しでも燐を弁護するとか、同情を惹くように掻き口説くようにすれば良かったのだろうか? しかし公人である自分を捨て切れなかったのも確かだった。
『神父さんのようにはいかないか。当然だけど。』
雪男は幼稚園での騒動を思い出す。兄が悪魔の衝動と力に振り回されいた頃の出来事だった。兄は結局、勢い余って義父の肋骨を折ってしまったが、義父のおどけた顔やらふざけたような態度が候を奏したのか、幼稚園から追い出されるような事態にはならなかった。あの幼稚園関係者の前で、真に父親らしい態度を取った藤本に免じてのことだったのかもしれない。
「はあ……」
なんだかもう、高校生になってから「うまくいった」と何もかもが感じられない。上手くいかなくても時は過ぎるし物事は動く。
いや、動かされている。大方の元凶は自分たちの後見人のメフィストフェレスだ。ただでさえヴァチカンから目を付けられている癖に、本当に好き勝手動いてはあらゆる物事を逆手に取ってくる。今回の審問でも、燐の危険性を逆手に取るつもりだろう。
「忌々しい……」
だが自分たちの十五年間の平穏は、あの悪魔が義父に協力していたことが大きい。その間に自分は兄を守る力をつけた。兄にも同じ道を歩んで欲しいとは思わなかったが、自分の生い立ちや正体を知った兄は何の迷いもなくこっちに来た。やけになって悪魔側につくなんて考えが馬鹿らしいほど、当然のように祓魔師になるなんて言い出した。予想通りだったが、そこは予想を裏切って欲しかった。雨が降る夜空を見上げて、雪男はさてこれからどうしようかと漠然と考えていた。
そんな雪男の前に忽然とメフィストが棒立ちで縦に長い姿を晒していた。虚ろに宙を見上げ、疲れたようにこんばんはと雪男に言ってきた。
「審問のほうは、どうなりました?」
「条件付でこっちの要求は通しました。」
「条件?」
「半年後の祓魔師の試験に合格することです。」
「……。そうですか。」
ほとんど殺すことが前提のような条件だった。でも、目の前の悪魔がそんなことを全然問題にしてないのは一目瞭然だった。
「これで貴方と亡き義父が目論んだことを現実にする段取りが確定したわけですよね。さぞかし喜ばしいことでしょう。」
「奥村先生にとっては?」
「僕は、兄の身さえ安全ならそれで良かったんだ。」
幾分語気が強くなる。メフィストは平坦ながら説得力を持って言い返す。
「兄弟揃って、こそこそと隠れて人の情けに縋って、人の目を気にして、それでも人に好かれることなく、人生を送るのがいいことですか? 堂々と陽の下で自分を偽らずに、誰からも認められて生きるのが、貴方のお兄さんにとってはいいことだと思いませんか?」
「それは兵器として認められて利用されろってことでしょう。」
「でも貴方のお兄さんはそっちを選ぶと思います。」
「僕は絶対嫌だ! いい機会です。反論してもいいですか。フェレス卿。」
今まで言い返せなかった反動のためか、雪男はメフィストに噛み付くように告げる。メフィストは優しげにどうぞと言って微笑んだ。
どうせ兄のことだから、この悪魔の操る審問の場の筋書きに何の疑問も持たず、その条件を飲んだに違いない。そしてなんとなくとしか思えないが、ぎりぎりのところで兄は、その条件を満たしてしまうかもしれない。
全部、雪男の意に反したことなのに、雪男が許せないと思うことなのに、兄はなんだかんだでメフィストの願いを叶えてしまうだろう。
自分が自分らしく生きる為という大義名分を抱えて。
馬鹿が思い込めば悪魔の思惑は達成される。それを傍で指を銜えて見ているしか出来ない。
「貴方と兄が通じ合うところがあるのは、やはり悪魔同士という繋がりのせいですか? 貴方はそれを根拠に兄を煽って、運命の奈落に追いやっても構わないと思っているかもしれませんが。じゃあ。僕だって兄さんに対して干渉する権利はある。同じ血が流れているのだから、僕だって兄を好きに出来ていいはずだ。」
メフィストは笑う。
「貴方の言っていることは、お気に入りのお人形を取られた幼女のようじゃないか。可愛らしいことを言っているが、その意味は何よりもえげつない独占欲ですよ。」
「それが悪いか! 今までずっと、兄のためにと頑張ったのに。いきなり現れた悪魔に全部掻っ攫われてたまるもんかっ。」
兄の携帯に雪男意外では一件だけ登録された番号がある。兄がその携帯電話を手にする前からそこに掛けられることが決まっていた男の番号だった。兄がしょっちゅうこそこそとその番号に掛けては、らしくもなくはにかんだ声を聞かせていたことは知っている。それを、電話の向こうで素知らぬ顔で聞き流す悪魔が嫌いだった。
「私は、貴方から燐を奪うつもりはありませんよ。」
「馴れ馴れしく兄の名を呼ぶな。」
「落ち着きましょうよ。貴方らしくもない。貴方が燐を助けられる場面はこの先幾らでもあります。私のことを敵視してお兄さんを助けようという気持ちの起爆剤にするのはいいですけど、独占欲ゆえに独り相撲を取るなんて貴方らしくもありません。盤上の有様をもっとよく御覧なさい。それでは勝てるゲームも勝てませんよ。」
「兄も僕も貴方にとっては駒なんですね。」
してやったりと雪男は思う。メフィストは苦い顔をする。雪男の言葉がさも残念と言わんばかりだった。
「弟たちを駒に、いるかいないか分からない対戦相手とチェスをする悪趣味はありません。特に貴方のお兄さんは勝手に動く駒ですから。そして貴方は動かない駒だ。」
しおらしい言葉は演技か本音か。それでもメフィストの言葉に従うわけではないが、雪男は一応は頭を冷やそうと思った。
「全てが思い通りってわけでもないんですね。」
「今回の審問でもそうでしたよ。もう少し燐が神妙にしていれば、もうちょっとは緩い条件に持っていけたかもしれませんけど。あの子は本当に強情で要領が悪い。」
あの子という呼び方に、雪男のこめかみがまた動く。
「なるほど。貴方でさえも兄さんに振り回されているわけか。そうですか。僕のような若造なら尚更ですね。」
せめて悪魔にとげとげしいことを言ってみた。ただし成功しているとは思えない。悪魔は雪男に阿るように「そうですよね」と相槌を打っている。
「あの子の言っていたことは裁判の被告人としては真に不適切でした。しかしそれは紛れもない真実でもあります。かつての魔女裁判で有罪の判決を受けた魔女は、大抵が無実だったように、サタンの落胤の燐はこの世界で何も罪は犯してません。それは貴方が誰よりも知っているはずです。貴方があの審問に駆けつけてくれなかったことは、本当に惜しいことだと思いました。」
「僕があの場に行けるなんて、おこがましいことは考えてませんよ。」
あの審問の場が兄との別れになるかもしれない可能性は十分にあった。そんな場に自分が耐えられるはずがない。だから自分にとってはどうでもいい関係者への説明に託けて、兄と一緒に窮地に立ってあげられなかった。そしてなんとなくは分かっていた。メフィストならあの場をなんとかしてくれるだろうと。
独占欲が強いわりに、肝心なところは他力本願だった。だからメフィストに突っかかる資格なんて本当はない。
メフィストは雪男にお願いするように言う。
「また機会がありましたら、今度は燐のために証言台に立って貰えると助かります。わがままを言いますと、あの愉快な仲間たちも連れてきてくれるといいんですけど。」
「彼らとの関係を修復できると思っているのですか?」
メフィストは雪男の顔の前で指を振った。野暮なことを言っている子どもを窘めるように。
「お引止めして悪かったです。奥村先生はまだ事の収拾に尽力して頂いているのに。」
「そうですね。これから祓魔塾の先生方にわざわざ集まっていただくわけにもいきませんから、僕は各講師の皆さんのところを回って今後のことをお願いしに行きます。」
「流石奥村先生は建設的でいらっしゃる。」
「かなり後手ですけどね。」
「些細な差です。」
雪男はメフィストに踵を返す。これから兄のことで色んな人達に頭を下げにいけなくちゃいけない。そしてそれを思い付くまでに冷静になれたのは、さっきまでのメフィストとの会話の間だったと気づかされた。やはり悪魔の手のひらの上かもしれない。
* * *
メフィストは雨が降る中、メフィストは自分の屋敷のほうに向かって歩いている。自分の能力を使えば瞬時に暖かい我が家に帰れるが、今日は雨の中を歩くのが自分に相応しいと思った。まだ明け方前、そして雨雲に覆われた空では朝の明るさは頼りない。だからその近づいてくる姿はおぼろげな影にしか見えなかった。しかしその影は確実に向かって近づいてきた。
「おや? 燐ですか。」
「メフィスト……」
また事がややこしくなるのかなとメフィストは首を傾げる。燐の顔色は少し青白かったが、目は今までに見たことがないほど強い光を灯していた。なんだか胸が痛くなるような姿だった。燐は駆け出してメフィストに抱きつく。
『これを弟にすればいいのに。』
まるで聞き分けのない子どものように、燐はメフィストにしがみついている。
「メフィスト。俺は頑張ったよな? あいつらに負けないで言い返せたよな。」
「貴方が頑張らなかった時なんてないでしょうが。私と初めて会った時とか。」
メフィストは燐の頭を撫でている。
「褒めてくれる? 俺、えらい?」
「褒めるのはまだです。半年以上経っても貴方が生きていられたら、その時こそ手放しで褒めてあげましょう。」
メフィストは燐を引き剥がそうとその肩を押したが、燐は簡単には離れてくれなかった。メフィストの背中に指を食い込ませて、その顔は必死そうだった。
「俺は頑張るから。自分と仲間と雪男と、それとお前の為に。だから――。」
「だから? なんですか?」
燐は腕を伸ばしてメフィストの首にしがみつく。
「だから。俺に優しくしてくれよ。もっとぎゅってしてくれよ。お前にだったら、俺は何されてもいいから。」
誰かが言っていた。
メフィストはチェスをするように人間を知らず知らずのうちに操ると。
でも、弟にこんなはしたないことを言わせるように誘導した覚えはない。好かれるなんて計算していなかった。
「貴方も随分な交換条件を出してきますね。」
えへへと燐は笑う。あの審問があったあと強がっているのがあからさまな笑顔だった。儚いとか健気とか、そんな言葉が頭に浮かぶ。メフィストは黙って燐を抱き寄せて唇を近づけた。
同じような気持ちに自分もなるとは、本当に予見すらしていなかった。
単に雪男とメフィストの掛け合いを書きたかったのかもしれません。そしてメフィストに甘える燐を書きたいがためともいえます。シリアスだけど笑っていただけると幸いです。
リクエストありがとうございました!
兄がサタンの落胤であることが発覚した。
雪男はその現場を目撃した候補生たちに奥村燐の事情を説明することになった。
審問を受けている兄を心配する気持ちはあったが、まだ祓魔師の道に踏み込んだばかりの生徒の精神的フォーローのほうを優先しなければいけないということは、講師の雪男にとって当然のことだった。
『上手くいかなかったな……』
我ながら駄目だったと頭を垂れる。雪男が見て取ったところ、明らかにもうあの兄は候補生たちの輪に戻ることは叶わないようだ。生徒たちの反応を見れば一目瞭然だった。身内としてはもう少しでも燐を弁護するとか、同情を惹くように掻き口説くようにすれば良かったのだろうか? しかし公人である自分を捨て切れなかったのも確かだった。
『神父さんのようにはいかないか。当然だけど。』
雪男は幼稚園での騒動を思い出す。兄が悪魔の衝動と力に振り回されいた頃の出来事だった。兄は結局、勢い余って義父の肋骨を折ってしまったが、義父のおどけた顔やらふざけたような態度が候を奏したのか、幼稚園から追い出されるような事態にはならなかった。あの幼稚園関係者の前で、真に父親らしい態度を取った藤本に免じてのことだったのかもしれない。
「はあ……」
なんだかもう、高校生になってから「うまくいった」と何もかもが感じられない。上手くいかなくても時は過ぎるし物事は動く。
いや、動かされている。大方の元凶は自分たちの後見人のメフィストフェレスだ。ただでさえヴァチカンから目を付けられている癖に、本当に好き勝手動いてはあらゆる物事を逆手に取ってくる。今回の審問でも、燐の危険性を逆手に取るつもりだろう。
「忌々しい……」
だが自分たちの十五年間の平穏は、あの悪魔が義父に協力していたことが大きい。その間に自分は兄を守る力をつけた。兄にも同じ道を歩んで欲しいとは思わなかったが、自分の生い立ちや正体を知った兄は何の迷いもなくこっちに来た。やけになって悪魔側につくなんて考えが馬鹿らしいほど、当然のように祓魔師になるなんて言い出した。予想通りだったが、そこは予想を裏切って欲しかった。雨が降る夜空を見上げて、雪男はさてこれからどうしようかと漠然と考えていた。
そんな雪男の前に忽然とメフィストが棒立ちで縦に長い姿を晒していた。虚ろに宙を見上げ、疲れたようにこんばんはと雪男に言ってきた。
「審問のほうは、どうなりました?」
「条件付でこっちの要求は通しました。」
「条件?」
「半年後の祓魔師の試験に合格することです。」
「……。そうですか。」
ほとんど殺すことが前提のような条件だった。でも、目の前の悪魔がそんなことを全然問題にしてないのは一目瞭然だった。
「これで貴方と亡き義父が目論んだことを現実にする段取りが確定したわけですよね。さぞかし喜ばしいことでしょう。」
「奥村先生にとっては?」
「僕は、兄の身さえ安全ならそれで良かったんだ。」
幾分語気が強くなる。メフィストは平坦ながら説得力を持って言い返す。
「兄弟揃って、こそこそと隠れて人の情けに縋って、人の目を気にして、それでも人に好かれることなく、人生を送るのがいいことですか? 堂々と陽の下で自分を偽らずに、誰からも認められて生きるのが、貴方のお兄さんにとってはいいことだと思いませんか?」
「それは兵器として認められて利用されろってことでしょう。」
「でも貴方のお兄さんはそっちを選ぶと思います。」
「僕は絶対嫌だ! いい機会です。反論してもいいですか。フェレス卿。」
今まで言い返せなかった反動のためか、雪男はメフィストに噛み付くように告げる。メフィストは優しげにどうぞと言って微笑んだ。
どうせ兄のことだから、この悪魔の操る審問の場の筋書きに何の疑問も持たず、その条件を飲んだに違いない。そしてなんとなくとしか思えないが、ぎりぎりのところで兄は、その条件を満たしてしまうかもしれない。
全部、雪男の意に反したことなのに、雪男が許せないと思うことなのに、兄はなんだかんだでメフィストの願いを叶えてしまうだろう。
自分が自分らしく生きる為という大義名分を抱えて。
馬鹿が思い込めば悪魔の思惑は達成される。それを傍で指を銜えて見ているしか出来ない。
「貴方と兄が通じ合うところがあるのは、やはり悪魔同士という繋がりのせいですか? 貴方はそれを根拠に兄を煽って、運命の奈落に追いやっても構わないと思っているかもしれませんが。じゃあ。僕だって兄さんに対して干渉する権利はある。同じ血が流れているのだから、僕だって兄を好きに出来ていいはずだ。」
メフィストは笑う。
「貴方の言っていることは、お気に入りのお人形を取られた幼女のようじゃないか。可愛らしいことを言っているが、その意味は何よりもえげつない独占欲ですよ。」
「それが悪いか! 今までずっと、兄のためにと頑張ったのに。いきなり現れた悪魔に全部掻っ攫われてたまるもんかっ。」
兄の携帯に雪男意外では一件だけ登録された番号がある。兄がその携帯電話を手にする前からそこに掛けられることが決まっていた男の番号だった。兄がしょっちゅうこそこそとその番号に掛けては、らしくもなくはにかんだ声を聞かせていたことは知っている。それを、電話の向こうで素知らぬ顔で聞き流す悪魔が嫌いだった。
「私は、貴方から燐を奪うつもりはありませんよ。」
「馴れ馴れしく兄の名を呼ぶな。」
「落ち着きましょうよ。貴方らしくもない。貴方が燐を助けられる場面はこの先幾らでもあります。私のことを敵視してお兄さんを助けようという気持ちの起爆剤にするのはいいですけど、独占欲ゆえに独り相撲を取るなんて貴方らしくもありません。盤上の有様をもっとよく御覧なさい。それでは勝てるゲームも勝てませんよ。」
「兄も僕も貴方にとっては駒なんですね。」
してやったりと雪男は思う。メフィストは苦い顔をする。雪男の言葉がさも残念と言わんばかりだった。
「弟たちを駒に、いるかいないか分からない対戦相手とチェスをする悪趣味はありません。特に貴方のお兄さんは勝手に動く駒ですから。そして貴方は動かない駒だ。」
しおらしい言葉は演技か本音か。それでもメフィストの言葉に従うわけではないが、雪男は一応は頭を冷やそうと思った。
「全てが思い通りってわけでもないんですね。」
「今回の審問でもそうでしたよ。もう少し燐が神妙にしていれば、もうちょっとは緩い条件に持っていけたかもしれませんけど。あの子は本当に強情で要領が悪い。」
あの子という呼び方に、雪男のこめかみがまた動く。
「なるほど。貴方でさえも兄さんに振り回されているわけか。そうですか。僕のような若造なら尚更ですね。」
せめて悪魔にとげとげしいことを言ってみた。ただし成功しているとは思えない。悪魔は雪男に阿るように「そうですよね」と相槌を打っている。
「あの子の言っていたことは裁判の被告人としては真に不適切でした。しかしそれは紛れもない真実でもあります。かつての魔女裁判で有罪の判決を受けた魔女は、大抵が無実だったように、サタンの落胤の燐はこの世界で何も罪は犯してません。それは貴方が誰よりも知っているはずです。貴方があの審問に駆けつけてくれなかったことは、本当に惜しいことだと思いました。」
「僕があの場に行けるなんて、おこがましいことは考えてませんよ。」
あの審問の場が兄との別れになるかもしれない可能性は十分にあった。そんな場に自分が耐えられるはずがない。だから自分にとってはどうでもいい関係者への説明に託けて、兄と一緒に窮地に立ってあげられなかった。そしてなんとなくは分かっていた。メフィストならあの場をなんとかしてくれるだろうと。
独占欲が強いわりに、肝心なところは他力本願だった。だからメフィストに突っかかる資格なんて本当はない。
メフィストは雪男にお願いするように言う。
「また機会がありましたら、今度は燐のために証言台に立って貰えると助かります。わがままを言いますと、あの愉快な仲間たちも連れてきてくれるといいんですけど。」
「彼らとの関係を修復できると思っているのですか?」
メフィストは雪男の顔の前で指を振った。野暮なことを言っている子どもを窘めるように。
「お引止めして悪かったです。奥村先生はまだ事の収拾に尽力して頂いているのに。」
「そうですね。これから祓魔塾の先生方にわざわざ集まっていただくわけにもいきませんから、僕は各講師の皆さんのところを回って今後のことをお願いしに行きます。」
「流石奥村先生は建設的でいらっしゃる。」
「かなり後手ですけどね。」
「些細な差です。」
雪男はメフィストに踵を返す。これから兄のことで色んな人達に頭を下げにいけなくちゃいけない。そしてそれを思い付くまでに冷静になれたのは、さっきまでのメフィストとの会話の間だったと気づかされた。やはり悪魔の手のひらの上かもしれない。
* * *
メフィストは雨が降る中、メフィストは自分の屋敷のほうに向かって歩いている。自分の能力を使えば瞬時に暖かい我が家に帰れるが、今日は雨の中を歩くのが自分に相応しいと思った。まだ明け方前、そして雨雲に覆われた空では朝の明るさは頼りない。だからその近づいてくる姿はおぼろげな影にしか見えなかった。しかしその影は確実に向かって近づいてきた。
「おや? 燐ですか。」
「メフィスト……」
また事がややこしくなるのかなとメフィストは首を傾げる。燐の顔色は少し青白かったが、目は今までに見たことがないほど強い光を灯していた。なんだか胸が痛くなるような姿だった。燐は駆け出してメフィストに抱きつく。
『これを弟にすればいいのに。』
まるで聞き分けのない子どものように、燐はメフィストにしがみついている。
「メフィスト。俺は頑張ったよな? あいつらに負けないで言い返せたよな。」
「貴方が頑張らなかった時なんてないでしょうが。私と初めて会った時とか。」
メフィストは燐の頭を撫でている。
「褒めてくれる? 俺、えらい?」
「褒めるのはまだです。半年以上経っても貴方が生きていられたら、その時こそ手放しで褒めてあげましょう。」
メフィストは燐を引き剥がそうとその肩を押したが、燐は簡単には離れてくれなかった。メフィストの背中に指を食い込ませて、その顔は必死そうだった。
「俺は頑張るから。自分と仲間と雪男と、それとお前の為に。だから――。」
「だから? なんですか?」
燐は腕を伸ばしてメフィストの首にしがみつく。
「だから。俺に優しくしてくれよ。もっとぎゅってしてくれよ。お前にだったら、俺は何されてもいいから。」
誰かが言っていた。
メフィストはチェスをするように人間を知らず知らずのうちに操ると。
でも、弟にこんなはしたないことを言わせるように誘導した覚えはない。好かれるなんて計算していなかった。
「貴方も随分な交換条件を出してきますね。」
えへへと燐は笑う。あの審問があったあと強がっているのがあからさまな笑顔だった。儚いとか健気とか、そんな言葉が頭に浮かぶ。メフィストは黙って燐を抱き寄せて唇を近づけた。
同じような気持ちに自分もなるとは、本当に予見すらしていなかった。
単に雪男とメフィストの掛け合いを書きたかったのかもしれません。そしてメフィストに甘える燐を書きたいがためともいえます。シリアスだけど笑っていただけると幸いです。
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絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
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