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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆ss「悪魔の兄を弟がエンドにしちゃうぞな腐った話」第七話「キャットフードその②」燐雪、燐ネイ

「雪男。俺今日他所の部屋でお泊りしてくるから。」
 雪男は兄のこめかみに銃口を押し付ける。パソコン操作をしていた右手が瞬間、キーボードから消えて、一瞬後にはそんな状態になっていた。
「どういうことかな? この前部屋から出て行くことは許さないって言ったよね?」
「出て行くつもりはねえよ。それに行き先は俺を監視するのに、お前ぐらい厳しい奴のところなんだけど。」
 
 今現在はまだアサ子(アーサー)を拾う前である。燐と雪男は相変わらずの毎日を送っている。
今日、雨の中を帰ってきたはずなのに、見慣れぬ傘を差し乾いた服を着て戻ってきた兄を雪男は不審には思っていた。それでも勝呂の時のように不愉快な匂いはさせてないので、無関心を装うことになんとか成功した。しかしその後の燐の言葉には何も言わずにはいられない。
 
「厳しい? そうだろうね。そういう条件を挙げなくちゃ、僕を説得出来ないだろうね。」
「うん。この前は俺が一人で他所の部屋に行くって言ったから、俺がだらけるって思ってたんだよな。雪男の見えないところで生活態度が乱れるのがいけなかったわけだよな。」
 少し本質からずれているが、雪男の建前はちゃんと理解しているようだった。
「よく、わかってるじゃん。」
 だけど、その理解が不自然なのだ。兄はすらすらとまるで誰かにレクチャーされたような台詞を雪男に向かって言っている。実際にも多分、誰かに入れ知恵されたのだろう。
 誰に? 兄に対して親身になってくれる人物に何人か心当たりはある。だが、監視者も兼ねることも出来る人物に該当する誰かは誰だろう?
 燐はいつものおどおどした態度ではなく、言葉も建設的で雪男を説得しようという意思が読み取れた。こういうときの兄に対して暴力で押し込むのは、雪男の性格上あまり出来かねるところがあった。兄に対して支配的ではあるが、こちらが弱みを少しでも見せるような場面があれば、今の関係はすぐに瓦解してしまうだろう。常に緊張感がなければいけない。
『兄さんの言うことだから、どこかで矛盾があるだろうし。その矛盾をついていって、キレさせればいいんだ。説得している姿勢を崩せればいい。』
 雪男はとりあえず燐のこめかみから銃口を離して、自分こそカッとなって引き金を引かないように、銃を机の中にしまった。
「さて、兄さんを泊めてくれる奇特な人って誰なんだろう? 勝呂君は品行方正だけど、同じ学生の立場だから僕は許可出来ない。フェレス卿は兄さんにいかがわしいものを提供していた事実もあるから、これも却下だ。まさか女子のしえみさんや、神木さんのところとは言わないよね? あと、そうだな。誰がいたかな?」
 雪男はさっきの燐のペースを崩すべく、燐の親しい者たちという逃げ道を塞いでいく。しかし燐は眉一つ動かさない。いつものように雪男の指摘に慌てる素振りはない。
 雪男は自分は兄の交友範囲を把握していないのかと不安になる。だって他に誰も思い付かない。講師陣の誰かという選択肢もあろうが、一番燐と接触が多い椿は確か家庭があったはずだ。いきなり自分の職場の問題児を家に招く真似はしないだろう。
「とにかくお前は心配しないでいいんだよ。雪男。」
「いや。とりあえず行き先だけは教えて?」
 雪男のほうが縋りつくような気分になっている。だって兄が誰のことを言っているのか分からないから。
「まさか僕に嘘吐いて野宿とか、ネットカフェに泊まるわけじゃないよね?」
「なんで嘘つかなくちゃいけないんだよ。」
 雪男にそこまで疑われたら、流石の燐も顔を曇らせる。いっそのこと雪男はそんな嘘を吐かれたほうがマシだった。だって、すぐにバレる嘘だから。
「だから本当に誰のとこ? そこまで自信があったら誰か言えるはずだよ。」
 燐はぽかんとした顔を雪男に向けた。
「俺、言わなかったっけ? 誰のとこか。」
「言ってないよ。大丈夫とか、心配ないとかしか聞いてないよ。」
「ごめん。すっかり言った気になってた。」
「しっかりしてよ。僕を説得する気ほんとにあるの?」
 燐はごめんごめんと雪男に平謝りしている。
「あいつのところだよ。」
「あいつって誰だよ!」
 燐は罪のない笑顔を向けて言った。
「ネイガウスのところだよ。」
 
     *   *   *
 
 ドアを開けて入ってきた男は、荷物をむき出しのまま手で抱えていた。愛用らしい枕と下着類、明日の学校の準備と制服だった。
 たいしたものはないが、カバンにくらい詰めてくればいいのにとネイガウスは思った。
「雪男を説得するのに遅くなってごめんな。」
「当然だろう。貴様の弟は賢明な男だからな。信頼されるにもそれなりの時間を費やすのも致し方あるまい。過去に因縁のある私みたいな者との関わりなど特に……。」
「いや、雪男はお前の名前出したらなんにも言わなかったぞ。」
 なんにも言えなかったの間違いじゃないかとネイガウスは思う。対応のしようがなかっただけなのかもしれない。
「まあいい。」
 ネイガウスの宿舎にお邪魔している男は、言うまでもなくサタンの愚息の奥村燐だった。
「荷物、どこに置いたらいいかな?」
 ネイガウスはベッドの脇のサイドテーブルを指定する。燐はそこにいそいそと荷物を置いた。
「あれ? ベッド一つしかないんだ?」
 狭苦しくもないがそんなに広くもない部屋に、他に寝転べるようなソファー類もない。
「泊りがけの客を呼ぶ予定が今までなかったからな。だが、これは妻が生きていた頃から使っていたベッドだから、二人分くらいのスペースがある。」
「へえ。このベッド、お前が奥さんと寝てたベッドなのか。」
 ネイガウスは無表情な燐を見て、あてつけがましい真似をしたかと自己嫌悪に陥る。
「今晩は世話になるわ。」
 燐にお泊りしに来いと誘ったのは、こともあろうにネイガウスだった。燐は二つ返事というほどには単純に同意はしなかったが、躊躇している言葉の端々を聞いていたら、ネイガウスのことが嫌で迷っているわけではなさそうだった。とにかく事情を話させていたら、ネイガウスは燐への感情を百八十度近く変えざるをえなかった。
「お前ぐらい大人で真面目な奴のところだったら、流石に雪男も許してくれたさ。」
 ネイガウスは少々気恥ずかしくなってそれを誤魔化すように提案する。
「コーヒーでも飲むか?」
 燐は部屋の中をキョロキョロと見回している。少し前に勝呂の部屋では堂々とベッドに上がりこんだ同一人物とは思えない。やはり、それなりの年齢の大人の男の部屋の雰囲気に気圧されているようだ。
 ネイガウスはコーヒーを淹れに台所にいく。後ろから燐の声が聞こえてきた。
「俺はブラックとかじゃ飲めないんだけど。砂糖とかクリープとかあるよな。」
「そんなのは分かってる。砂糖はちゃんとあるし、クリープはないが牛乳はある。」
 燐は良かったと間延びした声で答えた。ベッドの上に置かれたクッションの上に、先ほど拾った子猫が、温めたミルクで満腹になって眠っていた。
「わあ! かわいいー。」
 燐は寝ている子猫におおはしゃぎだった。
ネイガウスは淡々とコーヒーを淹れて、そのコーヒーの片方に無造作に砂糖と牛乳を入れてスプーンでかき混ぜた。そういえば昔、ブラックコーヒーが飲めない妻にもこうしてやったなと妙な感慨を覚えた。妻にしてやったことをサタンの息子にもしている事実が実に皮肉だった。
「今は寝ているんだから、騒ぐな。」
「う、うん。」
 砂糖と牛乳の入ったほうを燐に差し出す。燐はカップに口をつけた。
「どうだ?」
「うん。あまい。」
「甘すぎたか?」
 妻はこれくらいがちょうど良かったが、十六年経っても妻の好みを覚えていた自分に複雑な心境を覚える。
「俺甘いの大好き。」
 そうかとネイガウスは安堵する。コーヒーの味が分からないガキではあるが、それが悪いと言うつもりはない。妻もそんな子どものような可愛い女だった。
 燐は少しぬるくなったコーヒーがちょうどいいのか、ごくごくと一気飲みしてしまった。ほおっと息をついている悪魔に、ネイガウスは本題に入ることにした。
「あの夜のことはすまなかった。お前に私がやったことは許されることじゃないだろう。」
「え。試験のこと?」
「そのあとだ。私はさも復讐の相手がお前だと言わんばかりだっただろう?」
 燐はピンとこないの目を泳がせている。
「だって俺は、サタンの息子だし。お前に悪く思われても仕方ないとは思ったぜ?」
「悪く思われることと仇に思われることは、分けて考えたほうがいい。」
 燐は難しい話は勘弁なとネイガウスの話を流そうとしたが、ネイガウスは退く気はなかった。
「私の妻の仇は、サタンだ。」
「そうだよな。その頃俺は生まれてなかったし。」
 しかし燐はその頃母の腹の中には存在していただろう。あの奥村雪男と一緒に。
ネイガウスは燐の泳いでいる目に視線を合わせる。無意識に両手が燐の肩を掴んでいた。
「奥村雪男のお前への憎悪は、私がかつてお前に向けた感情に通じるものがある。」
 ネイガウスの言わんとすることは、つまり、奥村雪男の兄への虐待の動機に関するものだった。
燐自身ではなく、燐にその血を引き継がせたサタンへの感情が、雪男を虐待に走らせているのではないかとネイガウスは考えた。理不尽に自分たちをこの世に送り出した忌まわしい父親と、その父親に穢された母親を、兄と自分に重ねているのではないかと。
「もう一度言う。私の妻の仇はお前の父親だ。お前じゃない。」
「それはもう分かったよ。」
「でも私はお前とサタンを同一視して、お前を攻撃した。」
「だって俺は、あいつの力を継いでるし。」
 しょうがないじゃん。
燐は力なく笑う。その心理こそがことを深刻にするとネイガウスは思う。
「気にするなというのは簡単かもしれんが、どうにも解決してやれる気がしない。」
 自分の言葉は偽善だろうか? 奥村雪男という別人の名を借りているが、ほぼ自分の懺悔に始終するような気がする。言いたいことだけ言っても、この悪魔に希望的なものを与えてやれるとは思えない。しかし言わずにはいられない。せめてこれくらいは、この悪魔に伝えてやりたい。
「逃げたくなったら私のところに来い。たとえそれがひと時の避難にしか過ぎなくても、たまには誰かに甘えたほうがいいと思う。」
「雪男を苦しめている俺に、そんなのあってもいいのかな?」
「奥村雪男はお前を苦しめようとしているが、実は自分こそが苦しんでいる。お前が苦しめば苦しむほど、お前の弟は苦しんでしまう。だから――。」
 ネイガウスは燐の肩を掴んでいた手を外して、顎に添え、そっと燐を上向かせる。そして顔の間近に近づけた。
「わかった。辛くなったらお前のところに逃げてくる。……ただ、そうなると……えーっと、本当にいいのかな?」
 ネイガウスの言葉で今までの雪男との辛かった日々を思い出したのか、能天気な悪魔の目から涙が溢れ出した。ネイガウスは抱き寄せてやろうかと思ったが、思い返して止め、側にあったタオルを燐に渡した。
「う……。ありがとう。お前ほんとうに……」
「その先は言うな。」
 偽善者にはなりたくないから。あれだけ傷つけておいて、燐の心の中で大事な存在になろうと思い上がるつもりはないから。
 
『雪男を怒らせちゃって。『雪男を苦しめてるのかな?『俺は『雪男が好きなのを『やめたほうがいいのかな?『それでも『俺は雪男が好き『好きだけど『怒らせちゃって『あいつに『撃たれちゃって『時々『撃たれたら痛い『抱きしめると『痛い目にあう『でも『大好きなんだ『離れたくないんだよ『でも『近くにいたら『雪男が。『俺が『全部悪いんだけど『だから『これは全部『しょうがないこと『他の奴にやられたことの『他の奴が『雪男に変わっただけ『だから『逃げたら『駄目『だと思う『でも『ちょっとこのごろ『しんどい『そう思う資格なんて『まったく『無いんだろうけど『好きになることすら『間違いだった『かもしれない『だけど』
 
『俺は雪男が好きなんだよ。』
 
 ベッドの上で口を開けて仰向けで眠っている燐をネイガウスは見下ろしていた。あんなに苦しそうに弟への思いを言っていたのに、今は辛さの欠片も無いような顔で寝ている。ぐっすりと、多分、夢も見ずに。
 
 駐車場から部屋に帰ったあと、バスタオルを頭から被って髪を乾かしていた悪魔は、何を思ったのか自分を殺そうとしていた男に、堰を切ったように話し出した。雨で濡れた身体に厚めのバスタオルの生地が心地よくて安心したのかもしれない。変なスイッチが入ったようにネイガウスが先を促しもしないのに延々と語ってくれた。
 だから言った。
『とりあえず弟と距離を置いてみろ。』
 その口実になってやると。最低な身の上の悪魔なんだから、自分が干渉することによって、これ以上悪いことにはならないだろう。良くなるとも思えないが。
 
 よくよく考えてみればこの悪魔は自分の息子と言ってもいいような子供、そして自分は父親と言っても通るような歳だろう。
 そういうことにして、今日はこの男の側で眠ればいいんだとネイガウスは思った。





欝話ごめんなさい。メランコリー? ははは。笑っちゃうぜ。その③で終わりだぜ。雪ちゃんで〆ちゃう予定だぜ。たまにはシリアスも書くんだぜ。でも慣れてないからしんどかったぜ。

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忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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