幸福雑音
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☆ss「セレナーデ」アラベスクシリーズ 志摩燐R18
雪男と双子がメフィストの現在住んでいるアパートの部屋で燐の帰りを待ちわびている頃、当の燐は留守にしている家を案じる様子も無く、病棟に移された廉造と部屋で二人きりだった。
二人きりというのは、六人部屋を無理やりカーテンで仕切った一区画の中のことで、周りは静かだ。病人しかいないのだから当たり前だが、今は夜の食事の二時間前という中途半端な時間帯なので、志摩の他に部屋の入院者はイヤホンを耳にさしてテレビを見ている者が多い。当然その目と耳はテレビのほうに集中しているものだから、カーテン越しの赤の他人の言動を気にしていない。それも安静にしていなければならない病人なのだから当たり前だった。
「ほんますまんかったな。燐。」
「大したことなくて良かったよ。」
「何? 俺があのまま死ぬって思っとったん?」
廉造はイタズラっぽく笑う。燐は無愛想にカーテンのほうに視線を向ける。
「あんだけ騒いでたんだから。」
「お前泣きそうになってたもんなあ。」
燐はその時のことを思い出したのか、少し肩を震わせながら頷く。
「お前は二年前までいたあそこで、結構無茶なこともされたんだろ。今頃その反動がきても可笑しくないかもしれないって、らしくもなく考えちまった。」
「そやな……。」
燐が呼んだ救急車だったが、その救急車は一般の病院に行くことなく、まず先に騎士団の付属の病院に廉造を搬送した。ただの虫垂炎だと分かってから総合病院に移されたのだった。志摩が二年前まで騎士団で受けていたのは「検査」だとは言われているが、実態は実験動物並みの扱いだったのだろう。そうでなければ、後暗いことをにおわせる対応に説明がつかない。
廉造は二年前まで自分がどういう目にあってきたかを燐に話していない。話せば廉造を巻き添えにしてしまったような燐が、自分で自分を責め立ててしまいかねない。それは廉造のなけなしの努力を否定されるようなものなので、敢えて廉造は何も語らない。
「違う病院で余計な検査されたもんだから、お前ずっと苦しんでて……、俺はお前のこと早くどうにかしてくれって頼んだのに……」
「気にすんなや。別に見殺しにされたわけやないし。ただの虫垂炎やて納得してもらったあとにはちゃんと、ここに運んで貰えたし。」
「俺は普通に救急車呼んだつもりだったんだけど。」
ただの一一九番で祓魔師機関の病院に連れて行かれるのは、はっきり言えば非常識だ。電話の主が、サタンの息子であるのが分かっているのではないかというような、対応のされかただった。廉造や燐の周辺はまだ監視が継続されているのだろう。それを思い知るような出来事だった。
「ここで俺とお前が揉めてもしゃあないやろ。……チビ達は若先生に預けとるんやろ。」
「うん。」
「そっか。」
俯いた廉造を燐は見つめている。廉造が燐や双子と暮らし始めたのは、双子が二歳を過ぎた頃のことだった。そこから二年経った今でも、双子にとって廉造が父親という感覚は時々希薄になることがある。だから、なるべくだったら家を空けず双子の近くにいたかったのに、廉造はそう考えると自分の内臓の勝手さに少し腹が立った。
「若先生かっこええし頭ええから、俺より懐かれたらショックやわあ。」
「そんなことあるわけねえだろ。あいつらの父ちゃんはお前なんだから。雪男は昨日逢ったばかりのおじちゃんだし。」
廉造は嬉しそうにへへへと笑う。しかしその笑みとは裏腹の言葉を呟いてしまう。
「俺、元理事長に最近聞いたんや。奥村先生、あんなことがあって一時は騎士団の中で立場も失っとったんやけど。なんや奇跡的な逆転やらかしとるらしいわ。騎士団への貢献度が半端のうて、それを上の上の上のお偉いさんにも認められて、地位も回復たんやて。」
「メフィストの弁明や、しえ……現・聖騎士の証言やらを利用したからだろ。」
「それでも普通なら考えられんことやで。悪魔落ちして日本支部の中心地半径一キロ圏内を壊滅状態にさせるような事件起こしといて。やっぱあの人は頭の中もやることも天才やから。俺には真似できんわあ。」
「お前何が言いたいんだよ。」
流石の燐も弟が異常だと言われ続ければ苛立ってくる。廉造はそれを察したように、へらへらと自虐の言葉を吐く。
「ほんま俺とは正反対やろ。俺は未だに祓魔師にも戻れへんし、どこかで働く言うても、なんやかんや言っても中卒扱いになるから拾ってくれる会社もあらへん。二年間宙ぶらりんやん。……拗ねとるだけや。今まで親のとかの敷いたレールに乗っておこう思って、何も考えてなかったんやから。しかたあらへんけど。」
「でもお前は俺と結婚してくれたじゃねえかよ!」
燐はベッドに仰向けになっている廉造に抱きつく。廉造は今までの卑屈な言葉が嘘のように燐を抱きしめた。
「先生。昨日泊まったんやろ? なんもなかったん? お前と。」
「お前は……。俺と雪男を二人にしとけば、お前に対して疚しいことしてるとか、考えてたのかよ。」
ごめんと廉造は呟く。
「俺はこの世でお前が一番可愛い思うとるから、ほんで、多分俺に負けんぐらいそう思うとるのが、あの若先生やから。それに。燐がそう思ってなくても、若先生はちゃうやろ。どうなん? なんかそれらしいことを言われたりしたんやない? ほんでお前も少しは久しぶりに会った弟の言葉に絆されかけたんやない? 若先生のことやから、最初は少し遠慮してたやろうけど、五年ぶりにお前に会えたんや。そんなもん長く続かへんかったやろ。お前のこと抱きしめて、今でも好きや言うて口説かれたんやないか?」
何故そんなこと。
燐はその言葉が口からこぼれ落ちそうだった。確かにお互いの気持ちを確かめ合うような言葉を雪男と交わした。そのあと抱擁もしあった。でもそれはまだ久しぶりに会う兄弟同士のそれ、からは逸脱しているつもりはなかった。しかし燐の心臓が焦ったように速く脈を打つのはどうしてだろう。
「馬鹿言うなよ。お前は少し弱気になりすぎだよ。」
「そうや。弱っとるから弱音吐かせてや。」
「しょ、しょうがねえ奴だな。甘えたかっただけかよ。そんなことなら雪男のことを引き合いに出さなくてもいいだろ?」
「そうやなあ。」
燐にしては上手くこの場を切り替えたなと廉造は感心した。それだけに自分が言ったことの信憑性が余計に増したなと溜息をつきたくなったが、燐の手前それは出来なかった。
「ほんでどうやって俺のことを元気付けてくれるん?」
燐はきょろきょろとカーテンの外を窺っている。燐の見ているカーテンの外は、やはり排他的にカーテンで仕切られており、無関心な同室者達はテレビやラジオや本の世界に没頭している様子だった。
燐は廉造のほうを向き直る。
「俺が……雪男とそういうことやったかどうか、確かめてみる?」
「え?」
「騒ぐなよ。」
燐は廉造の布団を剥いで寝巻きの裾を捲り上げている。
「おーい。何すんや? ここ病院やけどなあ。」
燐が何か言う前に意図を察したらしい廉造がわざとらしく小声で指摘する。
「いいから。ちょっと上にずりあがって足曲げてくれねえか。」
言葉に従うと燐はベッドに出来た空きスペース三分の一に上がりこむ。すこしギシっと鳴ったベッドに乗っかった本人がぎくりと顔を強張らせている。廉造は笑いを堪えるのに必死だった。そして低い声で自分に覆いかぶさってきた燐の耳に囁きかける。
「俺点滴しとるねんで? それに手術後やねん。お前ほんま何する気や?」
燐は廉造の耳元で、お前は動かなくていいからと言う。
「ほなアレしてくれるいうことかな?」
「どうとでも受け取っていいよ。」
「家じゃ恥ずかしがってなかなかしてくれへんのに。却って大胆になっとるで。」
こんなエッチなこと言い出すんやから、若先生とそういうことをしとらんのやろうな。
燐の手で外気に晒された廉造のモノは、既に反応をみせていた。燐はポケットの中から四角いパッケージの何かを取り出す。
「あらゴムやん。生でしてくれへんの?」
燐は応えない。廉造のモノに淡々とそれを被せている。その顔は真っ赤だった。
「病院にそないなもん持ってきて、悪い子やな。まあ。一晩でも俺がおらんで寂しゅうなったいうことで。」
ゴムはそういう、奉仕的な行為に慣れてない燐がえづいて廉造の放ったものを零さないための保険なのだろう。
「俺も……」
燐は自分の履いていた短パンと下着も一緒に脱いだ。その姿に廉造は嬉しいやら驚くやらだった。燐も自分のペニスにゴムを被せようとしている。
「汚さないように……。」
ああそういうことかと廉造は納得する。そして燐を引き寄せると「俺が付けたるわ」と言って手を伸ばす。燐は素直に廉造に任せた。
「はい。これで大丈夫。」
「…ありがと。……ん……。」
ついでに少し燐のペニスにイタズラをして離れていく廉造の手。
「ご近所さんが気づかん内に、気持ちようなろうな?」
燐はそれに対して横に激しく首を振る。
「今日は、お前だけでいいから。」
「あ。そうなん? じゃあお言葉に甘えて。」
廉造は立膝をした足の間に燐の頭を導く。燐は目の前のものに一瞬だけ戸惑ったが、すぐにそれを口の中に迎え入れた。
「最初から奥まで咥えんでええで。しんどいやろ。」
「時間惜しいから。」
意地っ張りな子やなあと思いながら、燐の様子を案じている。恥ずかしいのか呼吸が苦しいのか分からないが、必死に頬張って顔を真っ赤にしている燐の顔がある。
「燐。俺がしてやっった時のこと思い出してみ?」
燐は廉造のペニスを浅く咥えると先端を舐めながら、右手で竿を上下に擦っている。
「そうや。そうやれば俺も気持ちええし、お前も楽やろ。」
咥えながらうんうんと頷く燐。舌と歯が先端を掠めてむず痒いような刺激を与えてくる。
「玉もいじってな。」
そういうとぎこちないながらもやわやわと触ってくる感触がある。
「そうや。ええ子や。」
廉造は燐の頭を撫でる。燐は上目遣いで目を細める。どうやら褒められて嬉しかったようだ。燐は健気に頑張っているが、やはりゴム越しの刺激が少し物足りない。
『ゴム外して言うたら、……やっぱあかんか。』
ゴムの中は既に先端からにじみ出た我慢汁でぬるついている。それを直に味わえば燐はその異質な味に臆してしまうかもしれない。
『あー。俺の汁が、ストロベリー味とかミルキー味とかやったら、俺の嫁さんはフェラ好きになったやろうなあ。』
元々世話を焼くことを苦にしてなさそうというか、頼られると張り切る性格だったしなどと思いながら、廉造はその少しの欲望をぐっと堪えた。そして、こんな最中に何ファンタジーなことを考えているんだとも思った。
「うわっ。」
ぞわっと背筋を駆け抜ける刺激に廉造は素っ頓狂な声を上げる。慌てて口を押さえてみるが、断続的にあっあっと声が出てしまう。
「それ良すぎるわ……」
再び深く咥えた燐が口をすぼめて根元から先端まで吸い上げてきている。その端々に「んっ」と声がもれ出ている。燐の股間を見れば無意識に腰が動いている。自らの先端をシーツに擦り付けているようだ。やはりゴムしてて良かったと思う反面、廉造は自分は燐を気持ちよくさせてやれないことを悔やんだ。
「手だけは使えるから……」
燐が廉造を睨んでくる。集中させろとも取れるし、燐の行為に集中してくれとも言っているようだ。
「ごめん。」
けして上手ではないのに気持ちがいいから、本当に申し訳なくなってくる。しかしそんな気持ちでは燐の努力に応えられるはずはない。廉造は自らの分身に意識を集中させるために目を瞑った。しかしそれでも顔を真っ赤にしている嫁の様を見たいという欲が掻きたてられてしまう。薄目を開けてまるで覗き見をするように燐を見る。
燐の左手はさっきまで自分の身体を支えていたが、いつの間にか前に回って自分のペニスを扱いていた。廉造が目を瞑ったのを見計らったように。
『ほんまに、やせ我慢して可愛い嫁やわ。』
このまま薄目していようと廉造はほくそ笑む。
「燐。裏も舐めてくれへんかな。」
「ん……」
口が離されて自分の裏筋に燐の下が這う。やはりそれもゴム越しの感触でもどかしい。それでもあの未だに幼げな嫁が、自分のあられもないところを舐めていると思うと、刺激そのものよりも感じいってしまう。
「ええで。上手や燐。」
廉造の手が燐の頬を撫でる。その手に濡れた感触が当たる。ぎょっとして瞼を開けると、
燐は涙を流しながら廉造のものを咥えている。口から滴った唾液がぽたぽたと顎を伝って落ち、シーツに染みを作っている。
「だ、だるいんやな。口が。そうやろな。俺がずっと楽しんでたら燐がしんどくなるわ。」
扇情的でもっと見ていたいと思うが、流石にそれはワガママが過ぎるというものだろう。
「燐ちょっと頑張ってや。」
え? 燐が目を丸くすると、廉造は燐の頭を掴んで開けた口の中にペニスを突っ込んだ。そして自分で腰を動かす。無体な仕打ちだが早く終わらせるにはこれしかない。
「ん…んっ…んん……。」
廉造のペニスから外れて寝巻きを掴む燐の手にぎゅっと力が入る。
「………ん。……はあ……」
廉造の押し殺した呼吸と手の動きが止まる。ゆっくりと燐の口から萎えたペニスがずるりと引き抜かれる。燐は廉造のベッドに突っ伏しながらはあはあと息を吐いていた。廉造は側に置いてあったタオルで燐の顔を拭いてやる。
「初心者に無茶さしてすまんな。」
「……俺がやるって言ったんだから、気にすんなよ……。」
改めて廉造は燐を引き寄せる。触って欲しそうにしていた足の間のものは既に萎えていた。
『口でしてイッたとは思えへんけど……。』
最後の自分がやらかしたことは、勢いで萎えても仕方ないことだと罪悪感がどうしようもなく沸いてくる。可哀想なことをしたと深く反省した。
「ごめんな。退院したら可愛がったるから。」
燐は廉造の胸に凭れる。手術跡を気にして体重は掛けてこない。でも、少し甘えたいように顔を擦り付けてくる。
「うん。退院したらいっぱいしてくれよ。」
「わかった。」
燐は素早く身支度をする。廉造も乱れた着衣を直していた。
「もうチビたちのとこに戻らなくちゃ。」
「そうやな。今回はすんまへんでしたと俺からやと伝えてくれ。」
「雪男に?」
「そや。あと元理事長に。」
分かった。燐は短く応えた。そんじゃあと燐が離れようとすると、廉造は燐を呼び止める。
「これ。始末しといてな。」
廉造に示されたものを見て燐はすぐさま理解して、自分が持ってきた荷物の中の、手ごろなコンビニ袋の中に二人分のゴムを放り込んで口を硬く縛った。
「ゴミ箱の中にそれがあったら、入院中に何やっとんやと医師や看護師さんに白い目で見られるんや。」
燐は顔を真っ赤にしてこくこくと頷く。
「そ、そんじゃ。明日も来るからな。な……何か欲しいもんある?」
「お前が来てくれれば何もいらんわ。強いて言えば、チビ達の顔も見たいわ。」
「そうだな。明日は連れてこようかな。」
「ついでに若先生にも来て欲しいわ。」
その一言で燐は固まる。
「あ、ああ。」
「何も特別な意味は無いで。懐かしいから顔見たいだけやで。」
燐の胸中を見透かしたように廉造は言う。病室のドアのところまで燐の後姿を目で追い、振り返って自分のほうを見る燐に手を振る。
「明日かあ……。」
ふと自分の携帯を見るとメールが入っていた。それは柔造からだった。
「兄貴もう京都に帰ったんやな。」
燐が見舞いに来るのとは時間差で少し前、京都の実家から兄と父が見舞いに来た。そこで廉造にある決定事項を伝えた。それは明陀宗の中の志摩家の今後の行く末についてだった。
そして、それこそ廉造と燐と子どもたち、果ては雪男までも巻き込みそうな結論だった。
次に続くような話でごめんなさい。これでアラベスクシリーズの現在話が動き始めました。しょっぱなからR18ではじまりましたが、とりあえずエッチを沢山書いておいて慣れておこうという魂胆はあります。
二人きりというのは、六人部屋を無理やりカーテンで仕切った一区画の中のことで、周りは静かだ。病人しかいないのだから当たり前だが、今は夜の食事の二時間前という中途半端な時間帯なので、志摩の他に部屋の入院者はイヤホンを耳にさしてテレビを見ている者が多い。当然その目と耳はテレビのほうに集中しているものだから、カーテン越しの赤の他人の言動を気にしていない。それも安静にしていなければならない病人なのだから当たり前だった。
「ほんますまんかったな。燐。」
「大したことなくて良かったよ。」
「何? 俺があのまま死ぬって思っとったん?」
廉造はイタズラっぽく笑う。燐は無愛想にカーテンのほうに視線を向ける。
「あんだけ騒いでたんだから。」
「お前泣きそうになってたもんなあ。」
燐はその時のことを思い出したのか、少し肩を震わせながら頷く。
「お前は二年前までいたあそこで、結構無茶なこともされたんだろ。今頃その反動がきても可笑しくないかもしれないって、らしくもなく考えちまった。」
「そやな……。」
燐が呼んだ救急車だったが、その救急車は一般の病院に行くことなく、まず先に騎士団の付属の病院に廉造を搬送した。ただの虫垂炎だと分かってから総合病院に移されたのだった。志摩が二年前まで騎士団で受けていたのは「検査」だとは言われているが、実態は実験動物並みの扱いだったのだろう。そうでなければ、後暗いことをにおわせる対応に説明がつかない。
廉造は二年前まで自分がどういう目にあってきたかを燐に話していない。話せば廉造を巻き添えにしてしまったような燐が、自分で自分を責め立ててしまいかねない。それは廉造のなけなしの努力を否定されるようなものなので、敢えて廉造は何も語らない。
「違う病院で余計な検査されたもんだから、お前ずっと苦しんでて……、俺はお前のこと早くどうにかしてくれって頼んだのに……」
「気にすんなや。別に見殺しにされたわけやないし。ただの虫垂炎やて納得してもらったあとにはちゃんと、ここに運んで貰えたし。」
「俺は普通に救急車呼んだつもりだったんだけど。」
ただの一一九番で祓魔師機関の病院に連れて行かれるのは、はっきり言えば非常識だ。電話の主が、サタンの息子であるのが分かっているのではないかというような、対応のされかただった。廉造や燐の周辺はまだ監視が継続されているのだろう。それを思い知るような出来事だった。
「ここで俺とお前が揉めてもしゃあないやろ。……チビ達は若先生に預けとるんやろ。」
「うん。」
「そっか。」
俯いた廉造を燐は見つめている。廉造が燐や双子と暮らし始めたのは、双子が二歳を過ぎた頃のことだった。そこから二年経った今でも、双子にとって廉造が父親という感覚は時々希薄になることがある。だから、なるべくだったら家を空けず双子の近くにいたかったのに、廉造はそう考えると自分の内臓の勝手さに少し腹が立った。
「若先生かっこええし頭ええから、俺より懐かれたらショックやわあ。」
「そんなことあるわけねえだろ。あいつらの父ちゃんはお前なんだから。雪男は昨日逢ったばかりのおじちゃんだし。」
廉造は嬉しそうにへへへと笑う。しかしその笑みとは裏腹の言葉を呟いてしまう。
「俺、元理事長に最近聞いたんや。奥村先生、あんなことがあって一時は騎士団の中で立場も失っとったんやけど。なんや奇跡的な逆転やらかしとるらしいわ。騎士団への貢献度が半端のうて、それを上の上の上のお偉いさんにも認められて、地位も回復たんやて。」
「メフィストの弁明や、しえ……現・聖騎士の証言やらを利用したからだろ。」
「それでも普通なら考えられんことやで。悪魔落ちして日本支部の中心地半径一キロ圏内を壊滅状態にさせるような事件起こしといて。やっぱあの人は頭の中もやることも天才やから。俺には真似できんわあ。」
「お前何が言いたいんだよ。」
流石の燐も弟が異常だと言われ続ければ苛立ってくる。廉造はそれを察したように、へらへらと自虐の言葉を吐く。
「ほんま俺とは正反対やろ。俺は未だに祓魔師にも戻れへんし、どこかで働く言うても、なんやかんや言っても中卒扱いになるから拾ってくれる会社もあらへん。二年間宙ぶらりんやん。……拗ねとるだけや。今まで親のとかの敷いたレールに乗っておこう思って、何も考えてなかったんやから。しかたあらへんけど。」
「でもお前は俺と結婚してくれたじゃねえかよ!」
燐はベッドに仰向けになっている廉造に抱きつく。廉造は今までの卑屈な言葉が嘘のように燐を抱きしめた。
「先生。昨日泊まったんやろ? なんもなかったん? お前と。」
「お前は……。俺と雪男を二人にしとけば、お前に対して疚しいことしてるとか、考えてたのかよ。」
ごめんと廉造は呟く。
「俺はこの世でお前が一番可愛い思うとるから、ほんで、多分俺に負けんぐらいそう思うとるのが、あの若先生やから。それに。燐がそう思ってなくても、若先生はちゃうやろ。どうなん? なんかそれらしいことを言われたりしたんやない? ほんでお前も少しは久しぶりに会った弟の言葉に絆されかけたんやない? 若先生のことやから、最初は少し遠慮してたやろうけど、五年ぶりにお前に会えたんや。そんなもん長く続かへんかったやろ。お前のこと抱きしめて、今でも好きや言うて口説かれたんやないか?」
何故そんなこと。
燐はその言葉が口からこぼれ落ちそうだった。確かにお互いの気持ちを確かめ合うような言葉を雪男と交わした。そのあと抱擁もしあった。でもそれはまだ久しぶりに会う兄弟同士のそれ、からは逸脱しているつもりはなかった。しかし燐の心臓が焦ったように速く脈を打つのはどうしてだろう。
「馬鹿言うなよ。お前は少し弱気になりすぎだよ。」
「そうや。弱っとるから弱音吐かせてや。」
「しょ、しょうがねえ奴だな。甘えたかっただけかよ。そんなことなら雪男のことを引き合いに出さなくてもいいだろ?」
「そうやなあ。」
燐にしては上手くこの場を切り替えたなと廉造は感心した。それだけに自分が言ったことの信憑性が余計に増したなと溜息をつきたくなったが、燐の手前それは出来なかった。
「ほんでどうやって俺のことを元気付けてくれるん?」
燐はきょろきょろとカーテンの外を窺っている。燐の見ているカーテンの外は、やはり排他的にカーテンで仕切られており、無関心な同室者達はテレビやラジオや本の世界に没頭している様子だった。
燐は廉造のほうを向き直る。
「俺が……雪男とそういうことやったかどうか、確かめてみる?」
「え?」
「騒ぐなよ。」
燐は廉造の布団を剥いで寝巻きの裾を捲り上げている。
「おーい。何すんや? ここ病院やけどなあ。」
燐が何か言う前に意図を察したらしい廉造がわざとらしく小声で指摘する。
「いいから。ちょっと上にずりあがって足曲げてくれねえか。」
言葉に従うと燐はベッドに出来た空きスペース三分の一に上がりこむ。すこしギシっと鳴ったベッドに乗っかった本人がぎくりと顔を強張らせている。廉造は笑いを堪えるのに必死だった。そして低い声で自分に覆いかぶさってきた燐の耳に囁きかける。
「俺点滴しとるねんで? それに手術後やねん。お前ほんま何する気や?」
燐は廉造の耳元で、お前は動かなくていいからと言う。
「ほなアレしてくれるいうことかな?」
「どうとでも受け取っていいよ。」
「家じゃ恥ずかしがってなかなかしてくれへんのに。却って大胆になっとるで。」
こんなエッチなこと言い出すんやから、若先生とそういうことをしとらんのやろうな。
燐の手で外気に晒された廉造のモノは、既に反応をみせていた。燐はポケットの中から四角いパッケージの何かを取り出す。
「あらゴムやん。生でしてくれへんの?」
燐は応えない。廉造のモノに淡々とそれを被せている。その顔は真っ赤だった。
「病院にそないなもん持ってきて、悪い子やな。まあ。一晩でも俺がおらんで寂しゅうなったいうことで。」
ゴムはそういう、奉仕的な行為に慣れてない燐がえづいて廉造の放ったものを零さないための保険なのだろう。
「俺も……」
燐は自分の履いていた短パンと下着も一緒に脱いだ。その姿に廉造は嬉しいやら驚くやらだった。燐も自分のペニスにゴムを被せようとしている。
「汚さないように……。」
ああそういうことかと廉造は納得する。そして燐を引き寄せると「俺が付けたるわ」と言って手を伸ばす。燐は素直に廉造に任せた。
「はい。これで大丈夫。」
「…ありがと。……ん……。」
ついでに少し燐のペニスにイタズラをして離れていく廉造の手。
「ご近所さんが気づかん内に、気持ちようなろうな?」
燐はそれに対して横に激しく首を振る。
「今日は、お前だけでいいから。」
「あ。そうなん? じゃあお言葉に甘えて。」
廉造は立膝をした足の間に燐の頭を導く。燐は目の前のものに一瞬だけ戸惑ったが、すぐにそれを口の中に迎え入れた。
「最初から奥まで咥えんでええで。しんどいやろ。」
「時間惜しいから。」
意地っ張りな子やなあと思いながら、燐の様子を案じている。恥ずかしいのか呼吸が苦しいのか分からないが、必死に頬張って顔を真っ赤にしている燐の顔がある。
「燐。俺がしてやっった時のこと思い出してみ?」
燐は廉造のペニスを浅く咥えると先端を舐めながら、右手で竿を上下に擦っている。
「そうや。そうやれば俺も気持ちええし、お前も楽やろ。」
咥えながらうんうんと頷く燐。舌と歯が先端を掠めてむず痒いような刺激を与えてくる。
「玉もいじってな。」
そういうとぎこちないながらもやわやわと触ってくる感触がある。
「そうや。ええ子や。」
廉造は燐の頭を撫でる。燐は上目遣いで目を細める。どうやら褒められて嬉しかったようだ。燐は健気に頑張っているが、やはりゴム越しの刺激が少し物足りない。
『ゴム外して言うたら、……やっぱあかんか。』
ゴムの中は既に先端からにじみ出た我慢汁でぬるついている。それを直に味わえば燐はその異質な味に臆してしまうかもしれない。
『あー。俺の汁が、ストロベリー味とかミルキー味とかやったら、俺の嫁さんはフェラ好きになったやろうなあ。』
元々世話を焼くことを苦にしてなさそうというか、頼られると張り切る性格だったしなどと思いながら、廉造はその少しの欲望をぐっと堪えた。そして、こんな最中に何ファンタジーなことを考えているんだとも思った。
「うわっ。」
ぞわっと背筋を駆け抜ける刺激に廉造は素っ頓狂な声を上げる。慌てて口を押さえてみるが、断続的にあっあっと声が出てしまう。
「それ良すぎるわ……」
再び深く咥えた燐が口をすぼめて根元から先端まで吸い上げてきている。その端々に「んっ」と声がもれ出ている。燐の股間を見れば無意識に腰が動いている。自らの先端をシーツに擦り付けているようだ。やはりゴムしてて良かったと思う反面、廉造は自分は燐を気持ちよくさせてやれないことを悔やんだ。
「手だけは使えるから……」
燐が廉造を睨んでくる。集中させろとも取れるし、燐の行為に集中してくれとも言っているようだ。
「ごめん。」
けして上手ではないのに気持ちがいいから、本当に申し訳なくなってくる。しかしそんな気持ちでは燐の努力に応えられるはずはない。廉造は自らの分身に意識を集中させるために目を瞑った。しかしそれでも顔を真っ赤にしている嫁の様を見たいという欲が掻きたてられてしまう。薄目を開けてまるで覗き見をするように燐を見る。
燐の左手はさっきまで自分の身体を支えていたが、いつの間にか前に回って自分のペニスを扱いていた。廉造が目を瞑ったのを見計らったように。
『ほんまに、やせ我慢して可愛い嫁やわ。』
このまま薄目していようと廉造はほくそ笑む。
「燐。裏も舐めてくれへんかな。」
「ん……」
口が離されて自分の裏筋に燐の下が這う。やはりそれもゴム越しの感触でもどかしい。それでもあの未だに幼げな嫁が、自分のあられもないところを舐めていると思うと、刺激そのものよりも感じいってしまう。
「ええで。上手や燐。」
廉造の手が燐の頬を撫でる。その手に濡れた感触が当たる。ぎょっとして瞼を開けると、
燐は涙を流しながら廉造のものを咥えている。口から滴った唾液がぽたぽたと顎を伝って落ち、シーツに染みを作っている。
「だ、だるいんやな。口が。そうやろな。俺がずっと楽しんでたら燐がしんどくなるわ。」
扇情的でもっと見ていたいと思うが、流石にそれはワガママが過ぎるというものだろう。
「燐ちょっと頑張ってや。」
え? 燐が目を丸くすると、廉造は燐の頭を掴んで開けた口の中にペニスを突っ込んだ。そして自分で腰を動かす。無体な仕打ちだが早く終わらせるにはこれしかない。
「ん…んっ…んん……。」
廉造のペニスから外れて寝巻きを掴む燐の手にぎゅっと力が入る。
「………ん。……はあ……」
廉造の押し殺した呼吸と手の動きが止まる。ゆっくりと燐の口から萎えたペニスがずるりと引き抜かれる。燐は廉造のベッドに突っ伏しながらはあはあと息を吐いていた。廉造は側に置いてあったタオルで燐の顔を拭いてやる。
「初心者に無茶さしてすまんな。」
「……俺がやるって言ったんだから、気にすんなよ……。」
改めて廉造は燐を引き寄せる。触って欲しそうにしていた足の間のものは既に萎えていた。
『口でしてイッたとは思えへんけど……。』
最後の自分がやらかしたことは、勢いで萎えても仕方ないことだと罪悪感がどうしようもなく沸いてくる。可哀想なことをしたと深く反省した。
「ごめんな。退院したら可愛がったるから。」
燐は廉造の胸に凭れる。手術跡を気にして体重は掛けてこない。でも、少し甘えたいように顔を擦り付けてくる。
「うん。退院したらいっぱいしてくれよ。」
「わかった。」
燐は素早く身支度をする。廉造も乱れた着衣を直していた。
「もうチビたちのとこに戻らなくちゃ。」
「そうやな。今回はすんまへんでしたと俺からやと伝えてくれ。」
「雪男に?」
「そや。あと元理事長に。」
分かった。燐は短く応えた。そんじゃあと燐が離れようとすると、廉造は燐を呼び止める。
「これ。始末しといてな。」
廉造に示されたものを見て燐はすぐさま理解して、自分が持ってきた荷物の中の、手ごろなコンビニ袋の中に二人分のゴムを放り込んで口を硬く縛った。
「ゴミ箱の中にそれがあったら、入院中に何やっとんやと医師や看護師さんに白い目で見られるんや。」
燐は顔を真っ赤にしてこくこくと頷く。
「そ、そんじゃ。明日も来るからな。な……何か欲しいもんある?」
「お前が来てくれれば何もいらんわ。強いて言えば、チビ達の顔も見たいわ。」
「そうだな。明日は連れてこようかな。」
「ついでに若先生にも来て欲しいわ。」
その一言で燐は固まる。
「あ、ああ。」
「何も特別な意味は無いで。懐かしいから顔見たいだけやで。」
燐の胸中を見透かしたように廉造は言う。病室のドアのところまで燐の後姿を目で追い、振り返って自分のほうを見る燐に手を振る。
「明日かあ……。」
ふと自分の携帯を見るとメールが入っていた。それは柔造からだった。
「兄貴もう京都に帰ったんやな。」
燐が見舞いに来るのとは時間差で少し前、京都の実家から兄と父が見舞いに来た。そこで廉造にある決定事項を伝えた。それは明陀宗の中の志摩家の今後の行く末についてだった。
そして、それこそ廉造と燐と子どもたち、果ては雪男までも巻き込みそうな結論だった。
次に続くような話でごめんなさい。これでアラベスクシリーズの現在話が動き始めました。しょっぱなからR18ではじまりましたが、とりあえずエッチを沢山書いておいて慣れておこうという魂胆はあります。
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絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
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