幸福雑音
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☆ss「高砂」勝燐 夫婦ネタ(?)
結婚というものは必ずしもゴールではない。そこから新たな試練と戦いが始まることがある。勝呂竜士と旧姓・奥村燐もその例に漏れなかった。
「燐。詠唱騎士言うたら、祓魔師にとっちゃ標準装備やで。なんでお前未だに取れんのんや。」
「勝呂。お前俺が暗記が苦手なの知ってて、そんなこと言うのか?」
竜士は目の前でごねている燐に溜息をつく。ごねたいのはこっちのほうだった。是非ともお願いしてでも、強請っても集っても、詠唱騎士の称号を取って欲しいと言うのは、無茶苦茶な要求だろうか? こっちとしては『どうして取れないんだよ!』と叫びたいくらいだが、竜士の性格と物言いでは、目の前の男と同等の言い方なんて無理だった。
それにしても――。
「相変わらず勝呂言うとる。お前かて今は勝呂やろうが。」
この春、青い夜から十八年が経っていた。竜士と燐はめでたく正十字学園を卒業、そしてスピード婚約と結婚に漕ぎ着けた。在学中になんとか称号も習得し、晴れて祓魔師にもなれて、今はその仕事に従事している。学生との二束の草鞋を履いていた頃とは違い、祓魔師として任務に没頭出来る身になれたのはいいことだが、まだまだこの道は先が長い。
特に勝呂は実家の寺の座主を継ぐという特別な資格もそのうち取らなければならないが、今は子どもの頃に決意した、悪魔と戦うという志は達成しつつある。
「あ。そっか。俺も今は勝呂だったんだ。」
「だった。やないよ。」
このもの覚えの悪い嫁が、自分が勝呂姓なのを自覚していないのには原因はある。
嫁の弟・奥村雪男は何気に、未だにこの結婚に納得していないらしく、他人に兄を紹介する時は、『兄の奥村燐です』と繰り返しているらしい。自分の知らないところでならまだいいが、嫁の弟は現在のところ、自分と嫁の上司でもある。いつも部下である兄を呼ぶ時は、『奥村君』呼びである。
『男同士のイレギュラーな結婚だからねえ。あ、勝呂君に不満があるのは重々承知ですが、勝呂君は妻が職場で旧姓を名乗ることに抵抗を感じるタイプでしょうか? ちょっと前時代的な考えじゃないでしょうかね? 勝呂君が同じ職場に二人いたらややこしいという、僕なりの気遣いなのですけど、癇に障ったのなら一応は謝っておきます。それでも、奥村君にしても呼ばれ慣れた呼称のほうがいいでしょう。』
そういう雪男こそ奥村じゃねーかと突っ込みたくなった。しかし上司の言うことだからしょうがない。今の状況から抜け出すには、二年上の先輩上司を追い抜くしかない。それか夫婦揃って部署移動して上司が変わるか。
夫婦別姓なんて猛反対だ。
話は果てしなく逸れた。しかし勝呂が燐に詠唱騎士を習得させたいのは、この上司絡みの事情もある。
「燐。今のところ奥村上二級祓魔師の専らの方針は、詠唱騎士の大量投入による広範囲かつ短期決戦やで。」
「最近上級の大物の悪魔はあまり出ないからな。」
そのへんの現状はアホな嫁でも理解しているようだ。
「だから俺だけ任務に引っ張り出されとるやろ。詠唱騎士持ちの俺だけな。」
「なんでなんだよ。俺だって勝呂と一緒に戦いたいのに。」
「そこで話は戻るけどな。最近の傾向は下級の連中が大量に現れて騒動を起こして、一般人が被害被るのが多くなってもうとるんや。そんで、奥村先生の提唱する作戦は悪魔の発生したエリアを取り囲んで、詠唱をさながら弾幕のように大勢で唱えることで、その範囲の悪魔を根こそぎ消滅させるという、今までの祓魔師の常識を覆したもんなんや。詠唱騎士なら大抵は誰でも取ってるし、基本中の基本だから、祓魔師になったばかりのペーペーでも作戦に参加出来るわけや。ほんまに頭の良い人はとんでもないもん思いつくな。」
ある意味悪魔と渡りあうという旧時代的な戦法でなく、兵力の大量投入という近代の戦争を思わせる光景だ。
ただしそれには祓魔師の組織図的に一つだけ難点がある。
「つまり当分は詠唱騎士とらんと、どれだけ強かろうと作戦に参加出来んのや。」
「がーん!」
あの弟上司はそれを狙っていたのかもしれない。燐と勝呂が仲睦まじく共同戦線を張ることのないように、周囲にこの夫婦を夫婦だと認知させない為に。
奥村雪男にしてみれば未だに燐と勝呂の関係は有名無実。書類の上だけの結婚でしかない。だからしつこく燐を奥村姓で呼ばわったりする。
「とにかく、詠唱騎士取るんや。それしかない。」
「わかった。……頑張ってみる。」
これも雪男の計算の内かもしれない。燐と勝呂は夜の夫婦生活を削って、妻の詠唱騎士習得の為にその時間を勉強に当てざるをえなくなったのだった。
雪男はひとまず白星です。なんか夫婦やってないネタですみません。もう少し甘い予定だったのに、どうしてこうなった。
雪男の呪いか!
燐が詠唱騎士を取るのは二年後以降でしょうね。
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絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
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