幸福雑音
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☆ss「アルペジオ」志摩と虎子の会話。勝燐前提(サタンの息子発覚後)
志摩廉造はなるべく早く京都の勝呂の母親に連絡を付けなければならないと思った。奥村燐と勝呂竜士が付き合い始めたとき、勝呂の実家に報告しようかと迷ったが、結局その時はしなかった。あの二人の性格の不一致加減なら、熱が冷めれば自然と別れる方向に行くと思っていた。
しかし志摩の予想を裏切って、それなりに上手く行ってしまっている。しかし好事魔多しという言葉がある。魔は起こったのではなく隠されていただけなのだが、奥村燐こそその魔そのものだった。しかも最上級の。
林間合宿にて悪魔の襲撃を受けた候補生。奥村燐は襲撃してきた悪魔と戦った。そして自分の正体を、勝呂を含めた候補生全員に晒してしまった。そのあと志摩は実家に連絡を取ったのだが、勝呂の父である達磨が倒れてしまったという報せも聞いてしまった。
まだ壮年の達磨だが、割と道楽癖のあるところは志摩も知っていたので、生活習慣病が原因なら勝呂家にとってもその一粒種である竜士にとっても一大事だ。
そのうえ、上は理事長から下は新任講師の奥村雪男までが、候補生全員に隠蔽していたのが、奥村燐がサタンの息子という事実だった。
達磨が床に伏しているのなら、せめて遅ればせながら、母親の虎子に竜士が知らなかったこととはいえ、悪魔と交渉があった事実は伝えなければならないと緩い志摩の頭でも思いついた。
(あかん。責任重大過ぎて手が震えるわ……。)
一応東京に行く前に、父親からお前は坊のお目付け役だと言われたが、自分のほうが余程ちゃらんぽらんであることは認めている。それでも知らせなければならない。
唯一救いなのは自分達が戴く坊が、歳の割にはしっかりしていて抑制が利く性格なので、志摩が観察する限りでは、奥村燐とはそんなに深い関係ではなさそうだということだ。だからと言って問題が回避出来るわけではないが、志摩の心持としてはその坊の母親である女将さんにそれとなく連絡するべきだろう。
落ち着いて電話するためにわざわざカフェまで足を運んで、カウンターではなく隅のテーブル席に一人で座る。携帯電話の電話帳から、久々に電話をかける虎屋の番号をプッシュした。
『もしもし。虎屋ですぅ。』
たった数ヶ月しか経ってないのに、京都弁のイントネーションが懐かしく響く。しかしその懐かしさで、志摩の緊張が緩むわけがなかった。
「志摩の廉造です。女将さんはいらっしゃりはりますか?」
『廉造はん? 虎子ですぅ。ほんま久しぶりやねえ。ほんでどうしたん?』
相変わらずサクサクと会話を進める人だ。志摩は少々固まる。
『どうしたん? もしかしてうちの竜士が人様に迷惑かけたん? まあ、あの子の性格やったらそんなこと、あらへんやろうけど。真面目なのが取り得やからなあ。』
そして相変わらず自分でツッコんでボケる人だ。ますます志摩は話を切り出しづらくなる。
「たまには世話話でもと思いましてなあ。」
とりあえず前置きだけは言えた。その後が問題だ。
「あくまでたとえ話になるんですけど――。」
『なんやの?』
廉造はたとえ話という盾を得て、やっと本題を口にする。
「女将はん。坊が東京で悪いやつに騙されとったとしたら、どないします?」
『悪いやつ言うて、尻尾生やした女狐でもあの子の側におるん?』
流石は女の勘という奴だろうか。想定している対象をよく見極めている。
「いや尻尾いうて、ま……まあええんですけど。」
奥村燐には尻尾が生えている。この目でも確認している。志摩はさらにたとえ話を進める。
「騙したというか、黙っていただけやけど。そいつ、ものごっつい秘密を抱えとったんですわ。坊もかなりショックやったみたいで……。いや、たとえ話です。そういうことがあったら、ショックやろうなあっていう話で。」
『でもそれ本当の話なんやろ。廉造はん。』
相変わらず決め付け台詞が、真実に合致する人だった。
『騙されとったって。そうやな。うちの子やったら簡単に騙されるやろうな。』
「女将さん。それ言うたらあきまへんやろ。」
『せやかて。なんだかんだ言って、うちの子は世間で言うとこのボンボンやもん。そりゃなんぼでも騙されるわ。好きになった子のことなら、なんぼでも信じようとするわ。』
「好きになった子までは言ってまへんよ。」
『でも、そうなんやろ?』
「~~……。」
もうなんか言葉にならない声が口の端から漏れる。
『本当に違う言いたいやったら、意地でも違う言う度胸はつけとき。でもな、廉造はん。うちの子は騙されても、後悔して好きな子を嫌いになるような子やあらへん。』
流石の虎子の言葉でも、廉造は黙って頷けなかった。
(サタンの息子相手にそれはないやろ。)
いっそのこと、息子さんが付き合っていたのは、男でしかもサタンの息子だったと暴露したい気分だった。
『他にどんな爆弾があるんな? おばちゃんに全部言ってみい?』
相変わらず心まで読むような人だった。
志摩はもういいですと心の中で白旗を振った。
「ほな。切りますわ。」
『ほなさいなら。』
廉造は電話を切る。一応は自分の義務を果たしたことにはなる。しかし虎子の言葉が引っかかる。
『騙されても、後悔して好きな子を嫌いになるような子やあらへん。』
「そんなら、坊と奥村燐はこれからも続いていくんやろうか。ありえへん。ありえへんやろ……。坊。あんたはほんまに、女将さんのいうような男なんか?」
志摩はどっと疲れたようにカフェを後にする。頭の中の虎子の言葉がこれから先の未来を予知するようで、怖く思えてくる。
「後悔するような子やない、か……。」
それでは困ると思いながらも、廉造の裏の本音はそうなって欲しいのかもしれない。廉造は重い足を引きずりながら竜士達のいる病院に戻ることにした。
うちは基本は今のところ「サタンの息子発覚前」という前提で書いています。今回に限っては「発覚後」の話を書いてみました。「京都編」が始まる前という設定です。
これからも時系列無視して「発覚前」の話を書くと思いますが、今回坊の京都の実家萌えの端っことして上げてみました。
また急に甘くなっても「発覚前」のお話と取ってもらえると恐縮です。京都編終わるまでは「発覚後」の話はタイトルに「発覚後」と付けることになります。
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絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
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