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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆ss「悪魔の兄を弟がエンドにしちゃうぞな腐った話」第八話「本気と書いてマジ、浮気と書いてアソビ」

 窓から差す朝の光で白いシーツの上に長い金髪が、まるで金色の川のように流れている。燐はその様子をうっとりと床の上に敷いたマットレス(下には大型のダンボールを何枚も重ねたもの)からなんとく見上げていた。
「本当にアサ子は人間じゃないみたいだな。」
 ドカっと背中に衝撃が襲ってきた。兄の猫背になっている背中を踏みつけるように雪男が蹴りを入れている。
「ああ! ごめん! 俺が一番好きなのは雪ちゃんだから!」
 二、三回追加で蹴りを入れたあと、雪男は不機嫌そうに兄に告げる。
「今日はアサ子さんを塾に連れて行くんでしょ。自分が言ってた癖になんだよ。さっさと起こしてあげないと遅刻するよ。」
 
 つい先日、燐は正十字学園に目的があってやってきた祓魔師こと、金髪王子のアサ子を拾った。アサ子は金髪で蜂蜜色の目をした白い服が似合う記憶喪失の祓魔師だった。
 記憶喪失になったのは燐が屋上から落ちてきてアサ子にぶつかったせいなので、燐にぶつかる前までのアサ子はちゃんと自分がなんの為にこの学園を訪れたのかを分かっていたはずだった。しかしアサ子は自分の渾名以外の記憶を失くしてしまっているので、奥村兄弟のいる寮で世話になっていた。
 
 祓魔師の知識もほぼ壊滅的だったので、どうせ人数的にガラガラの教室なのだからアサ子一人が増えても問題ないと、燐は誰にも相談せず勝手に判断して、今日から祓魔塾にアサ子を連れて行く気満々になっていた。
「いっとくけど、フェレス卿が駄目って言ったらそれまでだからね。」
「いやあいつ、初日しかあの塾に顔見せたことないじゃん。バレようがないからいいじゃん。」
「急に来てなんか言われても僕は知らないからね。」
 ちなみにアサ子の本名はアーサー・О・エンジェルだったりする。闇の代理人こと諸悪の誘惑者・メフィストフェレスとは不倶戴天の敵とも言える。(臨○とか○ちゃん的な意味で。)
 今日は土曜日なので兄弟の用事は塾のみだった。アサ子を塾に連れていくにはちょうどいい。
「アサ子―。起きろよ。」
「うーん。まだ眠い。」
「駄目だぞアサ子。今日はアサ子を塾に連れて行くって言ったろ? アサ子見たらみんなびっくりするぞ。綺麗だからな。」
 背後で弟がまたもやチッと舌打ちする。燐はまた蹴られたくないあまりに叫ぶ。
「俺にとっては雪ちゃんが一番可愛くて綺麗ですから!」
 雪男が憮然としたまま顔を洗いに出て行ったのをしっかり確認してから、燐はまたアサ子に構いだす。
燐がアサ子の背中を優しく揺らしている。アサ子は眠たげに瞼をこすりながら燐に向かって手を差し出し「だっこ」と言った。燐は嬉しそうにアサ子を抱きかかえて布団の上に座らせようとしたが、身長差故に燐はアサ子に向かって倒れこんでしまった。
「アサ子、体重かけてない?」
「えへへばれたか?」
 どこの馬鹿っプルだとツッコミを受けかねない男同士だった。
「本当に手の掛かる子だな。アサ子は。」
「アサ子はまだ飼い始められたばかりの馬鹿犬だから、ちゃんと燐が躾けてくれよ。」
「犬って、お前自分でそんなこと言っちゃっていいの?」
「いいのいいの。燐は優しいご主人様だから。」
 誰が見ても信じられないだろうが、アサ子にとって燐の存在は「ご主人様」で自分は「飼い犬」のつもりらしかった。燐はそんなアサ子の認識に戸惑いながらもまんざらではないらしい。
その光景をドアの隙間から、雪男は兄に悟られないように不機嫌そうに見ている。
『けっ。』
 しかし雪男は思うだけで、さっきのように暴力には出なかった。
『所詮アサ子の記憶が戻れば、すぐに滅茶苦茶になる関係なんだよ。』
 何気に雪男はアサ子の正体に気づいていたというか、アサ子の顔を知らない現役祓魔師はいなかった。しかし兄がしでかした粗相(雪男に半分以上責任がある)を追求されたくなさにずっと黙っていた。
『早くアサ子記憶戻らないかな。』
 用意周到なことだが雪男はメフィストに既にアサ子に関する連絡は済ませてある。アーサーの記憶が戻ればメフィストがサタンの息子である燐を隠蔽していたことでアサ子が騒ぎ出すのは必定だろう。
そしてメフィストにその場に参上して貰って、ヴァチカンの審問に持ち込んだ上で、ちょっと無理めな半年後に祓魔師の資格を取らなければ死刑という条件のもとに兄の延命を求める。
 その判決に持ち込めれば、兄はヴァチカンの関係者に勝手に殺されずに済むのだ。
 そして特訓の名の下に自分が兄を独占できる。
 そのときにダメ押しのように、サタンの息子というブラックボックスの中身を勝呂を筆頭(中井さん的な意味で)に塾生全員に見せつければいい。思う存分、教師面して、淡々と。内心で友達ぶっている甘い連中に向かってぶちまけてやるのだ。
 サタンを恐れ倒すことに野望を燃やす勝呂は燐から離れるしかない。サタンとそのへんの悪魔では、アナコンダとミミズくらいの違いがある。勝呂が離れてくれさえすれば、あとの塾生が離れてしまうのは必至だ。
 兄は当然のように孤立無援になって自分から離れられなくなる。
 あと、不安要素といえばあの悪魔落ちした中年だが、(雪男は半分も信じていないが)藤堂は何もやらかさないと雪男に宣誓してくれた。その宣誓が本当なら、藤堂が不測の事態を引き起こすという心配はない。(勝呂との仲直りイベントのある『京都編』とやらには絶対に突入しない。)『世界は雪男にとって俺得』な状況に持ち込めるはずだった。
『兄さん。アサ子の記憶が戻る日を楽しみにしててね。そうしたら他の人に気を散らさずに、僕だけとずっと一緒にいられるからね。』
 アサ子の飲食物に記憶が戻ることを促す薬物も日々仕込んでいる。アサ子の記憶は早くて一週間後に戻るだろう。雪男は燐には知られないようにほくそ笑んだ。今は兄がアサ子の髪を解かす光景を我慢して見届けようという余裕があったのだ。
 
     *   *   *
 
「今日から皆さんと勉強することになります。アサ子さんといいます。」
 よろしくとアサ子はお行儀よくお辞儀をした。いつも塾の空気になっている山田がぶっと噴出して腹を抱えて蹲っている。
「山田君笑わない。アサ子さんはこの学園で発見された時には既に記憶喪失になっていて、自分のニックネームしか思い出せないそうです。祓魔師の知識すらかなりの部分を失ってしまっているので、リハビリも兼ねて塾に入ることになりました。皆さんもアサ子さんと仲良くしてやってくださいね。アサ子さんの身の回りの世話は奥村君がするそうです。」
「ははっ。燐は俺直属の飼い主だ!」
 一同はそれを言うならお前が直属の飼い犬と言うべきだと、態度のでかい飼い犬に対して思った。山田ことシュラは腹の中で人の世話になっていても(サタンの息子の世話になっていても)偉そうな奴だと笑いを堪えている。
 塾の生徒の視線は当然のようにアサ子に集まっている。しかしそれは燐が思っていたような「綺麗」という単純な意味の視線だけではなかった。
 しえみが燐の横から「綺麗」とうっとり見ている。何気に燐としえみの感性は似通ったところがある。金髪の生きた人形のようなアサ子を、きらきらした目で小声で賞賛している。
「なんや奥村は。金髪がそんなにええんか。洋物やったらそんなに有難いんか。」
 勝呂は、横にアサ子をはべらせている燐に言っているのか言ってないのかぶつぶつ呟いている。
「坊。思考が暴走してまっせ。奥村君の本命は若先生なこと忘れとる。……子猫さん、あんたは、この坊の状況を傍観しとるけど、あかんのやない?」
 志摩は子猫丸に耳打ちする。普通なら子猫丸と自分の立場は逆のはずなのに、子猫丸は志摩のようにやきもきせずにニコニコと勝呂の様子を見守っている。そこが志摩には気に食わない。この塾に入ってから、志摩はことあるごとに今のようにしょうっちゅう子猫丸同意を求めては、やんわりと断られていた。
「あかんのやない?」
「ええんやないですの? 奥村君を気にする前の坊は、実家と自分の希望の軋轢に苦しんでましたから。坊は奥村君気にして勉強や鍛錬を怠ってる様子はありませんし。ええ傾向だと思います。……それに坊、ちょっと可愛らしくなったし。怒鳴るときは怒鳴りますけど、態度も柔らかくなってきたし。」
 そう言われればそうなのだが、坊をそういうふうにした奥村燐が気に食わないしまだった。明陀に引きずられる勝呂も見ていられないが、そんな自分が唯一面白くもくそもない正十字騎士団縁のこの学校に入ったのは、実家から離れて勝呂と一緒にいられるためだったのに。実家の志摩家では限りなく末席に近い自分が、総本家の跡取りの坊の側近でいられるのは、その坊と同い年というメリットがあるからだ。
『くそ重いからって血も明陀も全部消えてまえって、思ったのが悪かったんやろうか。思えば思うほど悪い方向にいくもんやし。』
 坊や子猫丸は大好きでありながら、坊や子猫丸と共にある明陀は大嫌い。面倒だから反発もしない中途半端さを、見えない何かに見透かされた結果が、これだったのかもしれない。とりあえず親や兄弟の敷いたレールに乗っておけばいいと思ってたのに。
『これはレールやないやん。とてつもない秘境の獣道やん!』
 自分の意思なんかなくてもいいと思ってたのに。なんとなく祓魔師になって、なんとなく正十字を卒業して、なんとなく仏教大学行って、そのままの流れで京都帰ればいいと思っていた。でもそれじゃ駄目だった。入学して間もないのに、しょっぱなのしょっぱなで自分らしくなく人の間で立ち回らなくてはならなくなってしまったと志摩は頭を抱える。
『どうせこういうのが悪魔落ちフラグ言われるんや。好きな子を横から取られたりなあ。好きな子をいい方向に変えたのが、別の奴やったりなあ。おまけにそいつは俺より不幸そうな奴で、それを苦にしてなくて、俺はそれをギリギリいって嫉ましく思うんや。奥村燐。お前や! お前のことや!』
 雪男は一時間目の講師と入れ替わって教室を出た。一時間目の講師は最前列のサタンの息子と記憶喪失の聖騎士を交互に見る。一介の講師が終生見ることも叶わないようなツーショットが当たり前のように目の前にあった。
 燐はアサ子に教科書を見せている。
 一時間目の授業の講師は当然アーサーの正体を分かっている。それはこの講師に限定せずに祓魔塾講師全員が、メフィストからの命令で記憶が戻るまでそれを知らない振りしていろの指示を受けていた。
しかしそこは同じ祓魔師として、この若くして聖騎士になったアーサーを試してみたいという欲求が湧き上がってきたようだ。
 テキストの数ページを説明したあと、講師は口頭の小テストをすると言い出した。
「それでは、まず神木――。といいたいところだが、アサ子。」
「え。俺か?」
「さっきのところを掻い摘んで説明してみろ。」
 アサ子はテキストと睨めっこをしながら「なんだったかな」と呟いている。講師からすれば、記憶喪失の影響もあるだろうが聖騎士なら暗記で諳んじれるだろうと思って期待している。だがアサ子は首を捻るだけだった。
「えーっと……。なんだろ?」
「おい。アサ子。冗談だろ? 本当はわかってるだろう?」
 アサ子の狼狽っぷりに講師はおろおろしている。山田がこっそり溜息をついた。
『代わりに答えるっきゃないかにゃ。』
 その時、アサ子の隣の燐が「はい」と手を上げる。
「はい。死海文書とは、イスラエルの死海北西の要塞都市クムランの近くの十一箇所の洞窟で発見された、ヘブライ語聖書の断片を含む約八百五十巻の写本の集まりです。その内容はヴァチカンでは異端とされる預言の書です。その理由としては。クムラン共同体が存在した時代はユダヤ・キリスト教世界で終末論が流行した時代でもありました。それだけに死海文書の中には終末に関連した内容を持つものが数多く含まれていますが、特に「戦いの書」および「宗規要覧」と呼ばれている文書などに死海文書独自の内容が含まれているからです。普通、終末時に義人たちを救済するメシヤはただ一人しかいないとされていますが、死海文書の中では、二人のメシヤがやってくるとされているそうです。故にその差異がこの書を異端としているわけです。」
 講師は目を点にした。
「奥村。お前本当に奥村か?」
「いや。奥村燐だし。」
 せっかくの聖騎士向けの問題だったのにと講師は肩を竦める。それにしてもありえなさ過ぎる燐の回答に、教師の目が光った。
「では次の章――。」
 講師は授業を進める。途中で前回の授業のおさらいだと無理やり言い出した
「では、宝……は前回当てたから、アサ子。」
 山田が「はい」と手を上げる。
「アサ子は前回授業受けてねえだろ。」
 山田の反抗的な生徒口調を講師はそ知らぬ顔して無視する。
「えっと……えっと……。すまん。わからん。」
 当然だと一同は思う。しかし教師の標的は別にあった。煮詰まった教室の嫌な空気を切り裂く「はい」が木霊する。
「また奥村か。答えてみなさい。前回は?」
「exorcism悪魔祓いという言葉は、ギリシアの異教に起源があり、『誓約によって確実にする』もしくは『深く求める、あるいは祈る』を意味する、ギリシアのexokizoに由来する。元の意味は誰かあるいは何かに対して厳粛に呼びかけることである。新約聖書はイエスへの切実な懇願の性質を表すため、本来の意味のexorcizeを二度にわたって使用している。――。――。――。」
 なんやその専門書と思わんばかりの回答ぶりだった。明らかにテキストの内容以上のことを言っている。教師は確信する。この奥村燐は奥村燐でありながら奥村燐ではない。記憶喪失の聖騎士を隣に置くことによって覚醒した、奥村燐・改やら、奥村燐・ゼータとか、奥村燐・シードディステニーと呼べる何かだった。
「凄いやんか。奥村。」
 勝呂が感嘆の声を上げる。志摩は苦笑いを浮かべていた。頭の中では『またこのクソ悪魔。坊の前でええかっこしやがって。』と思っている。そしてそんな志摩の心の声を聞いたかのように、隣の子猫丸は心ここにあらずな笑いを浮かべていた。
 
 そのあとの授業も奥村燐無双が繰り広げられた。その話は塾の講師室でもちきりだった。
「奥村先生の教えがやっと実を結んできたようですね。」
「え?」
 雪男は首を傾げる。椿が肩を叩いてくる。
「講義ですごい活躍をしたんですよ。お兄さんに秘密の特訓してあげてたんでしょう。」
「あ、ああ。そうですか。今日は悪魔薬学はなかったので。」
「凄かったらしいですよ。帰ってきたら是非お兄さんを褒めてあげるべきですよ。」
「は、はい。」
 雪男は困ったように俯いた。
 
     *   *   *
 
 燐はちょっと有頂天だった。
 アサ子を庇って自分が教師に叱られるつもりが、今日はなんだか自分でも信じられないくらい冴えていた。日頃ほとんど使われていない脳が一挙にフル回転して、世界がクリアに見える。しかし慣れない感覚のせいで少し眠気がする。
「燐。ありがとう。燐がいなかったら俺は、あの講師にいびられていたところだよ。」
「いやなんか、執拗にアサ子を当てるもんだから、俺がなんとかしなくちゃって思って。」
 思っただけで実際にあれだけの好プレーを披露できるものかと燐は自分自身が怖くなる。
『なんか頭の中が俺じゃないみたい。』
 なんとなく分かることは、隣にアサ子という守ってやりたい存在がいたから、守れるだけの知恵が回ったのかもしれない。
『なんか俺って、なんでも実践派なんだな。』
 でも惜しいと思ってしまう。
『なんで今日、悪魔薬学なかったんだろ。』
 そうすれば雪男にいいところを見せられたのに。ぼんやりと考え事をしている燐に、アサ子がすりすりと寄ってくる。
「燐? 疲れてるのか?」
 燐が作ったご飯をおなかいっぱい食べて、お風呂で身体を洗ってもらって、髪を乾かしてもらって、燐に頭を撫でてもらっているアサ子は燐のベッドで眠そうにしていた。燐は帰ってきてからアサ子が気にするほどに口数が少なかった。アサ子が心配げに燐に目を向けると、燐はから元気のように言い訳をする。
「アサ子。俺、疲れてるように見えるかな。慣れない頭を使っちまったから。」
「じゃあ、もう寝たらいいと思うぞ。ご主人様。」
 敬う呼び名とは裏腹にアサ子は偉そうに燐に言った。
「そうしよっか。」
 燐の返答にアサ子は満足そうに目を瞑る。アサ子は目を瞑ってすぐ現金に寝息を立て始めた。
「やっぱ綺麗だよな。作りもんみてえだし。」
 燐の食指は雪男にのみ動くわけではない。アサ子は金髪で、白い肌にはシミも黒子もなくて、燐が大好きな誰かとは正反対だった。見つめているうちに生唾が口に溜まってくる。
「これって浮気?」
「浮気だろうね。」
 突然後ろからなんだか怒っているように聞こえる声が降ってくる。
「何アサ子さんの顔見て涎垂らしてんだよ。」
 燐は焦ったように口の中に溜まった唾液を飲み込んだ。いつもニコニコしたアサ子とは正反対の、いつも怒ってるような弟が後ろにいた。
「雪男……。」
 燐に向かって雪男の腕がさっと上げられる。
「ひいっ……。」
 しかしその手は燐に苦痛を与えてくることはなかった。代わりに優しい感触が頭を撫でてきた。
「今日はすごく頑張ったみたいだから、椿先生が褒めてやれって。」
「え? え? え?」
「月曜の悪魔薬学、楽しみにしてるから。」
 雪男は憮然とそう言うと燐に背中を向けてデスクのところに向かおうとした。
「待って。雪男ちゃん。」
「何。兄さん。」
 燐は雪男を手招きする。雪男は渋々とまた燐に向き直った。
「その……ご褒美にキスしてくんないかな? この前みたいな。」
 雪男はちらりと燐の背後を見る。天使のような顔をして眠るアサ子を鼻で笑う。お前は燐にこんなお願いなんてされないだろうと。
「そんな俺のこと笑わなくていいじゃねえか!」
「兄さんを笑ったわけじゃないんだよ。」
「そ、そうか?」
 雪男は燐の顎に手を掛けて引き寄せる。
「いいよ。今日は特別だからキスしてあげる。」
 言うなり雪男は燐と唇を重ねた。ほんの一瞬だけ。
「雪男は、最近はキスは嫌がらないんだ?」
 断られること前提で言ったつもりだったから、燐の表情はきょとんとしていた。雪男は悪そうな笑みを浮かべて兄を斜に見る。
「僕は兄さんが好きなんだよ。兄さんって時々ご褒美あげないと、すぐに別の誰かを構ってしまって弟の存在を忘れるから。仕方なくだよ。」
「え? 俺ってそんなことしたっけ?」
 兄のことだから本気で自覚がないのだろう。この頃はアサ子にばっかり構っていることなんてのも。そして兄に思いを寄せている人間が複数いることにも。
「まあいいけどね。」
「いや雪ちゃん。俺まじでそんなことしてたの。ほんとごめん。怒ってない? なんだったら俺のこと二三発殴ったり蹴ったりしていいから。いや、是非してくれよ。」
 雪男はおろおろしている兄に皮肉げに返した。
「そうすれば兄さんの気が楽になるって言うの? そんなんだったらやらないよ。」
 兄の呆然とした顔を雪男は満足げにうっとりとした目で眺めている。
 
 兄には自分のことで存分に苦しんで欲しい雪男だった。







サブタイトルのサブタイトル「パラディンのパラはパラサイトのパラ」。だんだん展開が恐ろしいことになってきました。次回のヒロインは志摩を予定しています。あくまで予定だからな。

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柴仲達
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女性
職業:
会社員
趣味:
読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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