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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆ss「悪魔の兄を弟がエンドにしちゃうぞな腐った話」第九話「たったひとつのダメなやり方」燐雪、燐アサ、籐雪

 突如覚醒した燐のスーパーモードは、しかし、そう長くは続かなかった。何故ならアサ子が祓魔塾に行くことに三日で飽きて、「燐が帰るまで大人しく留守番してる♪」とほざいて塾に通わなくなったからである。
「僕らの部屋には僕の個人のパソコンとかあるし、日中にアサ子さんが一人でいるとなんとなく心配なんだけどな。他の部屋をアサ子さんの為に開けておく手もあるにはあるけど。」
 雪男からして見れば、アサ子は機械にはあまり明るくないような印象なのだが好奇心だけは嫌に強そうなので、やはり私物のパソコンは触って欲しくなかった。最初は雪男はアサ子の塾通いに反対だったが、塾に通えば通ってくれたで、このようにかなり助かる面もあったのだった。
 現在アサ子が来てから一週間はとっくに過ぎている。しかしアサ子の記憶が戻る様子は無い。塾に通わなくなったという点も含めて雪男はかなり精神的に焦れてきていた。燐が傍らのアサ子の頭を背伸びしながら撫でている。
「いやアサ子はパソコンなんかイタズラしないだろ。」
 雪男が焦れる最大の理由は、燐が無意識にアサ子を庇ったりすることだった。アサ子が空気を読んで提案する。
「でも雪男が心配なら、俺どっかに行こうかな?」
 燐はまたアサ子を庇うように発言した。
「うーん。アサ子を置いておけるような広くて綺麗で居心地が良くて、ゴージャスなとこってあったっけ。」
「兄さん。それって他の部屋に置いておくって僕の提案を暗に却下してない? というか、この部屋も塾も兄さんの言った条件に合致しないんだけど。」
「いや。俺がいることでアサ子は精神的な安定を保っているんだ。俺抜きで一人ぼっちで汚くて狭くて貧乏臭いところにアサ子を一人で置いていたら、どうなるか分からない。」
 雪男は黙って燐の鳩尾にエルボーを叩き込んだ。燐はたまらず膝から落ちて咳き込んでいた。
「兄さん。アサ子さんを部屋に置いていて、どうにかなりそうなのは、兄さんのほうじゃない。忘れちゃいけないことがあったでしょ。ほら言って御覧よ。兄さんにとって一番は誰なんだい?」
「雪ちゃんですぅ……。」
 兄はこう言っているが、実際に雪男にとってもアサ子は脅威だった。
 兄は保護欲をそそられて、アサ子も犬よろしく燐を慕っている。最初はアサ子の記憶が戻れば滅茶苦茶になる関係だったが、時間が経つにつれて記憶が戻ったアサ子がかつてのアーサーのように、燐を殺すべきサタンの息子と見てくれるかどうか分からなくなってきている。
 もしかして燐に対して、彼の半身とも言える魔剣カリバーンを向けることを躊躇う可能性は、日増しに強くなってきている。
『カリバーンはアサ子の記憶喪失によって、契約が一時的に中途半端に切れている状態だ。それに、ここに来てからのアサ子はカリバーンに指一本も触れていない。というか触ろうとしていない。』
 カリバーンは今、部屋の隅っこに追いやられている。時々恨めしげに夜泣きしているようだが。そんなことを知っているのはいつも眠りの浅い雪男くらいで、肝心の聖騎士とサタンの息子は、そんな哀れな魔剣に気づくことなく、のほほんと毎日を送っている。
『カリバーンに呼びかけさせれば、アサ子の記憶は戻るかも。あとアサ子が探しに来たっていうキリちゃんに引き合わせれば。』
 雪男はキリちゃんという名前にも当たりはつけていた。他ならぬかつての自分の姉弟子・霧隠シュラではないのかと。
 しかしキリちゃん=霧隠シュラということは、この正十字学園に霧隠シュラが潜伏しているということだ。そして、その目的は他ならぬ兄であろう。故・藤本獅郎から溺愛されていた燐に対して、ただでさえ心象の悪いシュラがここにいるとなると、雪男の描いた絵図面通りにいかないかもしれない。
『やはり、カリバーンか。』
 雪男は見捨てられた魔剣を見ている。魔剣のほうもなんとなく雪男を見ているようだった。両者の間で交わされるアイコンタクト。
『やってくれるわね。雪男ちゃん。』
『貴方の主人をあの悪魔から取り戻させてみせます。』
 雪男は、蹲って雪男に肘を食らわされた腹を押さえている燐の背中を擦ってやっているアサ子の背中をツンツンとつつく。
「アサ子さん。あそこに立てかけているでっかい剣なんですけど、ちょっと入り口の近くなんで邪魔になるんですけどね。どっかに移動させてくれませんか?」
 アサ子は少し躊躇ったようにあとずさる。
「え……。あ。そうだね。」
 アーサーはおずおずと魔剣に近づこうとしたが、それよりも早く燐が魔剣に歩み寄り、その柄を持って振り上げた。
「きゃっ! どこ触ってんのよ、サタンの息子! そこを許してるのはアーサーだけなのにっ。」
 いきなり物言わぬはずの魔剣が金切り声を上げる。燐は驚いて目の前の魔剣を凝視した。
「いやああああ! そんなおぞましい目で見ないでええええ。」
 続けて声を上げる魔剣の反応が面白いのか燐は、その刀身をこちょこちょと擽り始めた。
「あ……。はあっ。そんなところ……。いやんっ。アーサーの目の前でそんな……汚らわしい悪魔にこんなに好きにされて、私……。」
 カリバーンははあはあと荒い息を吐き始めた。合間に悩ましい溜息も混じる。
「あ……、あん……。こんなこと。アーサーにも…されたこと……」
 雪男は思わず後ろから燐の頭を降魔剣で殴った。
「ぎゃん!」
 燐は頭を抱えてしゃがみこんだ。なんだか分からないが絶頂に達してぴくぴくと痙攣しているカリバーンを、どさくさに紛れてアサ子は燐の机の下の奥に避難させた。
「あ、アーサー……。違うの。これは……、あんな悪魔の手なんか全然気持ちよくなんかなかったからっ。」
 アーサーはアサ子の時には見せなかった表情を浮かべてカリバーンの言葉に頷く。
「わかったから。」
 アーサーは燐と雪男に聞こえないように小さく囁くと、指先でカリバーンを撫でた。
「もう少し、我慢して。」
 その表情はカリバーンから見れば少し苦しんでいるように見えた。だからもう、カリバーンは黙ることにした。
 カリバーンのもとを離れたアーサーは、にこっと笑うと燐のところまでスキップして近づく。
「りーんっ。」
 燐は雪男に袋叩きにされている最中でそれどころではなかったのだが、アサ子の甘ったれた声にすぐさま反応する。アーサーは言いにくそうにしながら提案する。
「……そういえば燐って、頼りにしてる後見人の人がいるって言ってたことがあったけど。その人って、お金持ちで、この学園に大きくて綺麗な部屋を持ってるんだよな? その人が燐のお願いで居て良いって言ってくれたら、俺、燐がいない間はそこにいようと思うんだけど。」
「後見人って、メフィスト?」
 燐は驚いていたが雪男の目(眼鏡)は光った。
「確かに、フェレス卿は日本においての祓魔師の長と言っても過言でもないからね。多分アサ子さんの身の上に同情して、いいって言ってくれるんじゃないかな。」
 雪男はいっそのことメフィストにこの聖騎士を押し付けてしまえばいいんじゃないかとも思えてきた。メフィストのほうがアーサーとの因縁も深いので、記憶の回復の見込みも燐と一緒にいるよりも高い。メフィストの元で記憶が戻れば、その後いちゃもんも付け易いだろう。
「そうだな。あの部屋ならアサ子にぴったりかもしれない。お人形のように綺麗なアサ子は、きっとメフィストに気に入られるだろうし。」
 雪男は腹の中の計算用紙に筆算でこれからのことを計算してみた。現実離れしたアサ子の見てくれと、一見かわいらしく見える仕草に騙されている兄から、アサ子を引き離すにはメフィストにアサ子を押し付けるしかない。あまり世話する必要がなくなって、接触時間が短くなれば、兄も束の間の夢から覚めてくれるに違いない。
「でもアサ子。俺は塾が終わったら直ぐに迎えに行くからな。待ってるんだぞ。」
 燐はポケットから鍵を取り出すと、それをアサ子に見せた。
「これ。メフィストの部屋の直通鍵。今から話つけに行くから。少し待ってろ。」
 背を向ける兄の後ろで雪男は「いつのまにそんなもん貰ってたんだ!」と叫びたくなった。本当に兄も、その周りも、油断も隙も無い。
「合鍵だと……。くそ悪魔同士が馴れ合いやがって。」
「雪男も持ってるだろ。この部屋の合鍵。」
 アサ子のツッコミが雪男の癇に障ったが、それもそうだねと言い切ってみせた。
 燐は鍵穴に鍵を突っ込んで出て行ったが一分も経たないうちに帰ってきた。
「あー。了解取れたわ。で、メフィストのやつ、変則的な出張で毎日朝から夜九時までいなくなるらしいんだよ。だからアサ子に好きなように部屋使って良いって。」
『『なんだと。』』
 アサ子と雪男が同時にチッと舌打ちした。
「良かったなあ。アサ子。俺は塾が終わったら八時半までには迎えに行くからな。」
「う……うん。燐。待ってる。後見人の人の部屋でいい子で待ってる。」
 
     *   *   *
 
 その日からアーサーはメフィストの私室兼執務室で昼間の時間を過ごすことになった。そして燐は当然のように凡人以下の成績に落ち着いてしまった。まるでかのSFの巨匠が描いた儚い人間とネズミの物語のようだった。しかし当の燐は自分にも世界にも絶望することなく、講師達を落胆せしめ、当初から予定されたように補習授業を受けることになった。
「どうせ兄さんのことだから、そうなると思ってたよ。」
 そうやって割り切っていても、兄の頭の悪さを人前で再び晒しても、雪男だけはみんなのように、それに呆れるだけじゃ済まなかった。日に日に兄は自分だけのものじゃなくなってきている。それどころか美味しいところは全部他人に持っていかれているような気がする。
「兄さんってば限定的なサヴァン症候群っぽっかったな。」
 雪男が廊下をとぼとぼと歩いていると見覚えのある人影が手を振って歩いてくる。そして「どうしたの。寂しそうじゃない?」と軽々しく声を掛けてきた。雪男は礼をしただけで淡々と受け流そうとしたが、藤堂はたった一言で雪男の無視をぶち壊す。
「自業自得じゃないのかな?」
 廊下ですれ違う藤堂が雪男の肩を抱いてくる。
 藤堂のほうが背が低いので、年上から上目遣いに見られる居心地の悪さに雪男は目を伏せた。相変わらず日に数回掛かってくる藤堂からの電話で、うっかり兄のことを愚痴ってしまったことはある。いや、迂闊だったわけではない。藤堂は雪男に対してセクハラ紛いの事や揶揄することも言うが、あくまで藤堂は雪男の味方というスタンスは崩していない。時々見え透いたように煽てられたり心配げに声を掛けられると、藤堂が味方でいいと思えることもある。だからなんだかんだで藤堂の番号を着信拒否にすることもないし、意味深なことを言われると耳を傾けたくなる。
 藤堂はというと、あれからも悪魔の討伐のたびにその悪魔の力を吸収しているのか、自分からそうしなくても溌溂とした外見になりつつある。ただし悪魔の性質も濃くなっているため、かつては落ち着いていた雰囲気も歪になってきている。
 雪男は主語無しで問いかけてきた藤堂の言わんとしているところが分かってしまった。
「人は優しくしてくれる他人を好きになりますからね。僕みたいに殴る蹴るを繰り返しても、兄が上辺だけだとしても好きって言ってくれること自体が異常なんですよね。」
「えー? 僕だって君に冷たくされても君が好きだよ。」
 雪男は笑って誤魔化そうとした。その気のない笑顔にも藤堂は食いついてくる。
「僕も君のことが好きだからね。お兄さんの気持ちはよく分かるよ。」
「兄の、気持ち。」
 雪男が一番把握したいものに藤堂は心当たりがあると言う。だから参考までに雪男は問いかける。
「僕みたいな精神的に少し壊れたような男を好きになる男って、どんな感じですか?」
 まさか問いかけられると思っていなかったのか、藤堂は泣きそうな笑顔で口ごもりながら告げる。
 
「劣等感にいつも苛まれている、寂しがりやだよ。」
 
 雪男ははき捨てるように声を上げた。
「それは、昔の僕だ!」
 藤堂は続ける。
「だから君にそんな思いをさせた兄を、昔の自分と同じ存在に変えたいんだよ。君は。過去の君は、そんな兄に、どうして自分の気持ちが分かってくれないんだろうと、焦れていた。そして何年もそんな気持ちを、その綺麗な顔の下に隠し続けて……。しかし君は幸運だった。自分はまっとうな人間で優秀な祓魔師で、当の兄はサタンの息子で人間としては劣性な資質しか持っていない。君の本来的な弱さをそれらが包み隠してくれたんだ。それに君は、父親に与えられた「兄を守る」という大義名分も得ていたろう。」
「それは、認めます。僕が兄に対して強く出られる二本柱ですから。それがなければ……。」
「いいや。三本柱だよ。」
 藤堂は滔々と続ける。
「その上君はまたしても、とてつもない幸運に恵まれた。ある日君は知ってしまったんだよ。たった一冊の薄っぺらい雑誌と写真でね。実の兄が君を性愛の対象にしているということを。そしてその握った兄の弱みを、兄自身に暴露して、その欲望を拒否せしめた。これが決定的だったね。お兄さんは君の言うことにもやることにも抵抗出来なくなっちゃった。君の兄は不良でブラコンだけど、性根は可哀想なくらい真っ直ぐで優しい男だから。」
「そうですよ。だから僕は、かつての僕に苦しい思いをさせた兄さんに、そっくりそのまま、あの時の感情を味あわせているんです。」
 藤堂は少し面食らっている。
「僕が言ったことは推測の域を出ないと反論されると思ってたんだけど。まさか全肯定とは豈図らんやだね。」
 藤堂と雪男は互いに含み笑いの声を上げた。
「藤堂さん。貴方は悪魔の力で人の過去まで探れるようになったんですか?」
 藤堂は歯切れ悪く答える。
「人間だった時にはね、もっと慎ましかったんだよ。僕は。こんな風に人の黙ってあげるべき過去が分かったとしても、それをこれ見よがしに言ったり、どこかに暴露することもなかったんだよ。悪魔の性質っていうのは、それを抑制する部分を麻痺させてしまうんだ。」
 雪男は廊下の壁に凭れて横目で藤堂を眺める。藤堂はそんな雪男をうっとりとした目で見つめていた。
「こんな話をして君に軽蔑されても、悪魔というのはそんな君に潜む卑屈さと頑強さに惹かれてしまうもんなんだ。ああ。でも。君のような簡単に心も肌身も許してくれないような潔癖さを持っている子だったら、好き好き言われても、いや、その言葉が常に自分に纏わりついていると、そんな言葉を君に浴びせる人間に対して、懐疑的になってしまうのかも。」
「そっか。」
 兄が祓魔師を目指してからずっと雪男に纏わり付くストレスの原因。雪男はそれについに気づいてしまった。
 
「僕にとって願ったりだった状況が、一番しんどいことだったんだ。」
 
 雪男はずるずると床にへたり込む。藤堂は手を差し伸べようとしたが、雪男に嫌だと返された。
「後悔したかい?」
 雪男はこみ上げてくる嗚咽を必死で抑えて首を振る。
「貴方の言うとおり、自業自得でしたね。流石は僕の味方だと言い張るだけのことはあります。」
 雪男は片膝を立てて立ち上がろうとする。その目を見た藤堂がやるせなさそうなヘラヘラ笑いを浮かべている。雪男の反応があまり気に入っていないようだった。
「思ったよりダメージ受けないね。君。涙は流しているみたいだけど、うそ泣きっぽく見えるよ。」
 雪男は屈んでいる藤堂の肩に手を添えて、まるで手すりのような扱いで立ち上がった。
「ちょっとだけ弱音を吐きたかっただけですよ。僕はそんなに弱い人間じゃない。そして僕が呪っている悪魔も、ちょっとやそっとじゃ死なないし。僕が作り上げた状況が、僕の心を追い詰めているだって? 上等じゃないですか。そんな状況で傷ついているのは僕だけじゃないでしょう? あの悪魔だって存分に傷ついている。なら僕としては本望だ。」
 藤堂はちょっと鼻白んだが、皮肉な感嘆の声を上げる。
「ブラヴォー。エクセレント。ファンタスティック。」
 人間なのに悪魔的。痛み分けを勝利と言い切る病んだ恋心。
 それを元人間の悪魔に褒め称えられて雪男は、思わず歯を食いしばった。
 
 そして、雪男は藤堂と別れて歩き出す。歩きながら雪男は一人呟いた。
「ふっ。任務三連チャン後に言われたら堪えていたかもしれないけど。通常の僕ならどうってことないや。あの悪魔も詰めが甘い。」
 それでも雪男は唇を噛む。
『あいつが気づいた程度のこと、兄さんが気づかなくてどうするんだよ。』
 元人間の悪魔が放った言葉の矢じりは雪男の心を掠めて、楔形の傷を作っていた。







お気づきだと思いますが(いや絶対気づいていらっしゃるでしょうけど)アーサーはもう記憶が戻っています。次回はマジで明陀番外編いきます。
 

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柴仲達
性別:
女性
職業:
会社員
趣味:
読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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