幸福雑音
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☆☆リクエスト企画「UNオーエンは彼だったのか後編」勝燐
けいりんさんのリクエストの後編です。前置きが長くてすみませんでした。ではでは。
翌日の塾の勝呂は不絶頂そのものだった。持病の偏頭痛がいつもより激しくてしつこくて、常に眉間に皴を寄せているような状態だった。何度か講師に怪訝そうな表情を向けられたあと、勝呂は「はい」と片手を挙げて立ち上がった。
「すみません。頭痛がひどいんで医務室で薬貰ってきてもよろしいでしょうか?」
「そうか。どうりで顔色が悪すぎると思ってたよ。」
思ってても言うなと勝呂は言いたい。ぎりぎりまで自分を律していたために、悪気の無い言葉でも癇に障ってしまう。
「このあとはもう授業はないから、薬を貰って収まるまでは休んだらいいんじゃないか。」
「……すみません。自己管理が出来ていなくて。」
「若いときはどうしてもそうなることもある。お前は特に真面目で根を詰めやすいからな。いらんストレスは溜めないことだ。」
真面目なところを褒めて貰えたが、精神面の脆さも指摘されたようだ。勝呂は足早に教室の机の間を横切る。前列で燐がこちらを振り向いてきた。
「奥村はこっちに集中する。」
「あ、ごめん。」
丸めたテキストで頭をはたかれる燐が見える。燐はもう一度勝呂のほうを見てにこっと笑ったが、勝呂は無愛想に教室を出ていった。
医務室には医工騎士兼養護教員がいて、勝呂が訴えた頭痛の薬はすぐに処方された。
「このあと授業はないんだろ? 薬が効くまで休んでていいから。俺はもう帰るし。」
あっさりとした対応だったが、頭痛もちには有り難い対応だった。症状や原因を根掘り葉掘り尋ねられるのはあまり好ましくなかったからだ。
勝呂は簡素なベッドに横になって養護教員の背中を見送った。ベッドの脇の机に置かれた薬の小さなカップを煽る。たぶん数分後にはこの忌々しい頭痛も退いてくれるだろうと、気休めみたいなことを思いながら瞼を閉じる。
教室を出て行く前の燐の顔を思い出す。いつものように無邪気で屈託の無い笑みだった。弟にあんなふうに思われている兄とは思えない。それでも昨日雪男に告げられたことは現実なのだろう。授業が始まる前に昨日雪男と何を話したのか尋ねられた。そんなのは答えようもない。だから黙っていた。燐もそれ以上は訊かなかった。
「あかんなあ。」
なんだか急に現状に甘んじられない気分になってきた。こんなことで自分の心情が揺らぐなんて考えつかなくて、どうしていいかわからない。ただ一ついえるのは、雪男と思いを共有することはいいとして、自分が燐と離れている夜の間、燐と二人きりでいるのはあの弟だという事実だった。
* * *
「雪男。俺は勝呂の見舞いしてから帰るから。」
「見舞いじゃなくて邪魔じゃないの? 彼は具合が悪いんだから今日は自重したほうがいいんじゃない? 志摩君や三輪君はどうするって言ってるの?」
「俺が様子見に行くんだったら先に寮に帰って待ってるってさ。」
「彼は子どもじゃないんだから、具合が良くなれば自分で帰るに決まってるよ。」
「でも心配だし。」
ああ言えばこう言う兄だった。要は今日も勝呂と二人きりになりたいのが見え見えだった。弟は咎めるように言う。
「それは兄さんの主観だ。彼がどんな原因で医務室に駆け込んだか、兄さんには分かるのかい?」
燐はきょとんとする。
「頭が痛いからだろ。」
雪男はそれに苦笑する。
「そりゃそうだ。」
「だろ。」
「くれぐれも勝呂君の頭痛を悪化させないようにね。」
燐は雪男に自分の荷物をはいと渡して医務室の方向に走る。荷物を持たされた雪男は困ったように口元を歪めた。
「やっぱり止めたほうが良かったかも。」
勝呂の煩悶も知らないように煩悶の原因を作った兄弟は、いつものように過ごしていた。
燐は言葉どおりに医務室の戸を開ける。そこには眉間に皴を寄せながら目を瞑っている勝呂がいた。
「すーぐろっ。」
本来なら目を開けるまで待つのがマナーだろうが、燐は思わず名前を呼んでしまった。勝呂はすぐさま瞼を開けて身体をベッドの上に起こした。
「燐……。」
「見舞いにきてやったぞ。」
「そうなんか。」
勝呂は困ったように自分の後ろ頭を掻く。燐はきょろきょろと医務室の中を見回している。
「医務室に入るの初めてなんだ。いろんなもんあるよな。」
「そんなに珍しがるもんあらへんやろ。」
一通り見たあと燐はベッドに腰を下ろしてきた。
「いや。俺もう帰るつもりやからお前もはよ帰り。」
「え。そうだったんだ。」
「先生もおらんし。」
勝呂の言葉が終わる前に燐が勝呂に抱きついてきた。いつもと同じような甘い仕草で勝呂を引きとめようとしている。
『兄でなかったら――』
雪男の昨日の言葉が脳裏を過ぎる。その言葉に引きずられたくなくて、勝呂は思わず強引に燐の腕を引っ張ってベッドに引き上げた。
「……。誘ったんはお前やからな。」
「え?」
組み伏せた燐の言葉と呼吸を奪うように勝呂は燐の唇に自分の唇を重ねた。燐が息苦しそうにうめき声を上げる。勝呂も息継ぎしきれずにすぐに顔を上げた。
燐は勝呂の身体の下から這い出そうとしている。それがなんだか自分から逃げているように見えて、拒絶されているように見えて、縋りつきたい気分を募らせる。ベッドの上で押さえ込んで滅茶苦茶に燐の体中に手を這わせる。平べったい胸や少し太めの太ももを手荒く掴むように触れると、緊張した筋肉がびくりと震えた。
勝呂の手が燐の腰の後ろに進んでいくと、燐の顔色がさっと青ざめた。今まで為すがままだったのに、いきなり強い力で勝呂の手首を掴む。
「なんやさっきまで大人し……」
「驚いて動けなかっただけだよっ。お前何しようとしてんだよ!」
軽くではあるが頭を殴られたような気がした。
「お前は俺に手を出されたかったんやなかったんか?」
燐は顔をくしゃくしゃにして金切り声を上げた。
「お前キスしかしないって言ったじゃねえかよ!」
その約束を本気にされているとは思ってなかった勝呂は、自分のかつての言葉に戸惑うしかなかった。
「そら、言うたのは俺やけど。」
なんとなくそれが反故される雰囲気というか状況もあるのではないかと、勝呂は反論したくなる。しかし本気で泣きそうになっている相手を目の前にして、そんなふうに開き直れない。またもや脳裏に雪男のせせら笑いが聞こえてくる。
『兄が手に負えなくなったら、いつだって兄から離れてもいいんですよ。』
手に負えないわけやないわと脳内の自分が叫ぶ。相変わらずあの弟は腹の立つ笑みを見せている。なんの制約もなく燐に触れることが出来る癖に、それでもその権利を行使出来ないのかとひたすら嘲笑われている。
「燐。ええやろ? やっぱりキスだけやなんて、不自然やから。」
「不自然なのかもしれないけど、俺困る。」
「困る? なんやそれ。」
燐は再び触れようとしてくる勝呂の手から身をよじってまた逃げた。ベッドから落ちるように這い出て医務室から出て行こうとするのを、勝呂は後ろから羽交い絞めにして押さえつける。
「なんでや……。」
せめてはっきりとした理由が聞きたい。怖いからとか知らなかったとかいう曖昧なものじゃなくて。そうすればこんな気持ちにも整理がつくはずなのに。
「なんでって言われても――。」
勝呂は少し手の力を緩めて燐を自分のほうに向けさせた。燐の態度に勝呂が困っているのに、燐のほうがよほど困ったような顔をして勝呂を見上げてきた。
「怖いんやったら怖くないように優しくする。知らんかったんなら俺が教えるし。今のお前の理由やったら、それだけでも十分やろ?」
『弟のことを気にしているなら、そうだと言ってくれ――』
それだけは口に出せなかった。何故なら自分が今燐にしようとしていることは、その弟が出来ないことをやり遂げて優位に立とうという卑屈な思いもあったからだ。この場で燐を自分のものにしてしまえば、弟のせせら笑いや言葉に怯えずに済むから。
それを燐に腹を割って話せないことこそが、自分の狡さだったりするが。
「まさかお前はそれほど俺のこと思っとらへんかったとか、そういうことなんか?」
ついに脅し文句のようなことまで口から出任せに出てきた。燐は完全に萎縮してしまっている。
「そんなわけ、ないじゃんか……」
「ほんなら抱いてもええやろ?」
「それは……」
脅しはしても嫌がられているような気配のせいで手が出ない。勝呂は自分のお人よし加減に腹が立つ。
「俺は、勝呂のことが好き。」
「でも抱かれたくないんやろ?」
「そんなんじゃない。でも勝呂が信じてくれないんなら俺……」
燐は勝呂の前に跪く。
「な…なんや?」
「こ……これで俺の気持ち、信じてくれる?」
燐は震える手で勝呂のズボンのベルトを外す。そしてジッパーを下ろし、下着の中のモノを引きずり出した。
「おい。」
呆然とした勝呂が我に返って屈もうとした時には、思いつめたように目を瞑った燐がそれを口に銜えていた。はずみで後ろに尻餅をついた勝呂の股間に圧し掛かるように、燐は身を乗り出している。
「……ん。」
燐が息苦しそうにしている。その原因は勝呂自身が自覚して赤面している。
「ん……んっ。」
燐はなんとか鼻で呼吸しながら、勝呂の大きくなりつつあるモノを口で受け入れようとしている。舌を必死で使って、時折喉を詰まらせながらも健気に。
「り……ん?」
勝呂が燐の名前を呼ぶと、燐は涙目になって苦しそうにしながらも目元だけで微笑んでみせた。そんな健気さに勝呂は臆してしまいそうになる。
「こんなん、どこで覚えたんや。」
掠れた声で勝呂が訊く。燐は勝呂のモノから口を離すとけほっと咳き込んで小さく「エロ本」と言った。再びしゃぶりつこうとする燐の顔を勝呂は両手で掴んで上げさせる。
「お前言ってることとやってること全然違うし。」
キスから飛んでいきなりフェラチオなんてありえなさ過ぎる。
燐が俯いてまた勝呂のモノに目を向けてきたので、勝呂は素早く膨張した自分のモノを下着に収めて慌ててズボンを上げた。
「俺が乗っかる前に、お前に乗っかられるとは思わんかったわ。……追い詰めるようなこと言ってしもうて、ほんまにごめん。」
燐はキッと勝呂を睨む。
「まだ終わってねえだろ。しまうなよソレ。」
「何を意地になっとんや。」
「意地になってるのは勝呂だろっ。かっこつけるなよ。最後までするから。」
「いやもうそれやめて。自分で処理するから先に出てってくれや。」
燐の視線は相変わらず勝呂の股間に向いている。不自然に盛り上がったズボンが気になっているようだ。
「やだ!」
「やだ言うな。恥ずかしいやん。」
「前膨らましたまんま意地張ってる勝呂のほうが恥ずかしいもん。」
「だからもう、今日は勘弁して。全面的に俺が悪かったことにしてええから。」
ええ子やからドアの外で待っときと勝呂は燐を医務室の外に追い出す。
五分ほどして項垂れた勝呂が医務室から出てきた。
「早いなお前。」
「早い言うな。やけくそになって無茶苦茶舐めよったのは、どこのどいつや。」
「俺が下手ってこと?」
「阿呆!」
燐の後ろ頭に手刀が降る。下手以前の問題だった。
「あいたっ。」
燐は後ろ頭を押さえている。しかし燐は妙に顔がにやけていた。
「勝呂のアレ初めて見ちゃった。」
「俺には見せてくれんくせにな。」
また燐がはっとしたような顔を見せる。たぶんこいつの頭の中は、この状況をどうやって誤魔化そうとぐるぐるしていることだろう。そんなことはもう承知の上なので勝呂はこう言ってやる。
「まあ気長に待つことにするわ。」
それが一番無難で平和だろう。燐も嬉しそうに笑っていることだし。
勝呂の脳裏ではあの弟がまだせせら笑っている。まあ笑わせとけと勝呂は思った。
しかしある日突然、せせら笑う雪男は勝呂の脳裏から消え去ることになる。それは勝呂が燐のブラックボックスの中身を垣間見てしまう瞬間のことだった。
なんか中途半端なエンドでごめんなさい。しかし私らとしては京都編が終わらないとどうしようもなかったんです。だって尻尾が出せないもん。勝燐の更新の遅さもそのせいだと思ってください。燐雪で書いてるシリーズでは堂々と尻尾は出してるけどな。
今回書くほうも読むほうも不完全燃焼だとは思いますが、いつから一緒に真っ白な灰に燃え尽きられる日がくることを祈っています。次のリクエストあたりかな。
それではリクエストありがとうございました。勝呂の脳内でせせら笑う雪男は笑うところです。
翌日の塾の勝呂は不絶頂そのものだった。持病の偏頭痛がいつもより激しくてしつこくて、常に眉間に皴を寄せているような状態だった。何度か講師に怪訝そうな表情を向けられたあと、勝呂は「はい」と片手を挙げて立ち上がった。
「すみません。頭痛がひどいんで医務室で薬貰ってきてもよろしいでしょうか?」
「そうか。どうりで顔色が悪すぎると思ってたよ。」
思ってても言うなと勝呂は言いたい。ぎりぎりまで自分を律していたために、悪気の無い言葉でも癇に障ってしまう。
「このあとはもう授業はないから、薬を貰って収まるまでは休んだらいいんじゃないか。」
「……すみません。自己管理が出来ていなくて。」
「若いときはどうしてもそうなることもある。お前は特に真面目で根を詰めやすいからな。いらんストレスは溜めないことだ。」
真面目なところを褒めて貰えたが、精神面の脆さも指摘されたようだ。勝呂は足早に教室の机の間を横切る。前列で燐がこちらを振り向いてきた。
「奥村はこっちに集中する。」
「あ、ごめん。」
丸めたテキストで頭をはたかれる燐が見える。燐はもう一度勝呂のほうを見てにこっと笑ったが、勝呂は無愛想に教室を出ていった。
医務室には医工騎士兼養護教員がいて、勝呂が訴えた頭痛の薬はすぐに処方された。
「このあと授業はないんだろ? 薬が効くまで休んでていいから。俺はもう帰るし。」
あっさりとした対応だったが、頭痛もちには有り難い対応だった。症状や原因を根掘り葉掘り尋ねられるのはあまり好ましくなかったからだ。
勝呂は簡素なベッドに横になって養護教員の背中を見送った。ベッドの脇の机に置かれた薬の小さなカップを煽る。たぶん数分後にはこの忌々しい頭痛も退いてくれるだろうと、気休めみたいなことを思いながら瞼を閉じる。
教室を出て行く前の燐の顔を思い出す。いつものように無邪気で屈託の無い笑みだった。弟にあんなふうに思われている兄とは思えない。それでも昨日雪男に告げられたことは現実なのだろう。授業が始まる前に昨日雪男と何を話したのか尋ねられた。そんなのは答えようもない。だから黙っていた。燐もそれ以上は訊かなかった。
「あかんなあ。」
なんだか急に現状に甘んじられない気分になってきた。こんなことで自分の心情が揺らぐなんて考えつかなくて、どうしていいかわからない。ただ一ついえるのは、雪男と思いを共有することはいいとして、自分が燐と離れている夜の間、燐と二人きりでいるのはあの弟だという事実だった。
* * *
「雪男。俺は勝呂の見舞いしてから帰るから。」
「見舞いじゃなくて邪魔じゃないの? 彼は具合が悪いんだから今日は自重したほうがいいんじゃない? 志摩君や三輪君はどうするって言ってるの?」
「俺が様子見に行くんだったら先に寮に帰って待ってるってさ。」
「彼は子どもじゃないんだから、具合が良くなれば自分で帰るに決まってるよ。」
「でも心配だし。」
ああ言えばこう言う兄だった。要は今日も勝呂と二人きりになりたいのが見え見えだった。弟は咎めるように言う。
「それは兄さんの主観だ。彼がどんな原因で医務室に駆け込んだか、兄さんには分かるのかい?」
燐はきょとんとする。
「頭が痛いからだろ。」
雪男はそれに苦笑する。
「そりゃそうだ。」
「だろ。」
「くれぐれも勝呂君の頭痛を悪化させないようにね。」
燐は雪男に自分の荷物をはいと渡して医務室の方向に走る。荷物を持たされた雪男は困ったように口元を歪めた。
「やっぱり止めたほうが良かったかも。」
勝呂の煩悶も知らないように煩悶の原因を作った兄弟は、いつものように過ごしていた。
燐は言葉どおりに医務室の戸を開ける。そこには眉間に皴を寄せながら目を瞑っている勝呂がいた。
「すーぐろっ。」
本来なら目を開けるまで待つのがマナーだろうが、燐は思わず名前を呼んでしまった。勝呂はすぐさま瞼を開けて身体をベッドの上に起こした。
「燐……。」
「見舞いにきてやったぞ。」
「そうなんか。」
勝呂は困ったように自分の後ろ頭を掻く。燐はきょろきょろと医務室の中を見回している。
「医務室に入るの初めてなんだ。いろんなもんあるよな。」
「そんなに珍しがるもんあらへんやろ。」
一通り見たあと燐はベッドに腰を下ろしてきた。
「いや。俺もう帰るつもりやからお前もはよ帰り。」
「え。そうだったんだ。」
「先生もおらんし。」
勝呂の言葉が終わる前に燐が勝呂に抱きついてきた。いつもと同じような甘い仕草で勝呂を引きとめようとしている。
『兄でなかったら――』
雪男の昨日の言葉が脳裏を過ぎる。その言葉に引きずられたくなくて、勝呂は思わず強引に燐の腕を引っ張ってベッドに引き上げた。
「……。誘ったんはお前やからな。」
「え?」
組み伏せた燐の言葉と呼吸を奪うように勝呂は燐の唇に自分の唇を重ねた。燐が息苦しそうにうめき声を上げる。勝呂も息継ぎしきれずにすぐに顔を上げた。
燐は勝呂の身体の下から這い出そうとしている。それがなんだか自分から逃げているように見えて、拒絶されているように見えて、縋りつきたい気分を募らせる。ベッドの上で押さえ込んで滅茶苦茶に燐の体中に手を這わせる。平べったい胸や少し太めの太ももを手荒く掴むように触れると、緊張した筋肉がびくりと震えた。
勝呂の手が燐の腰の後ろに進んでいくと、燐の顔色がさっと青ざめた。今まで為すがままだったのに、いきなり強い力で勝呂の手首を掴む。
「なんやさっきまで大人し……」
「驚いて動けなかっただけだよっ。お前何しようとしてんだよ!」
軽くではあるが頭を殴られたような気がした。
「お前は俺に手を出されたかったんやなかったんか?」
燐は顔をくしゃくしゃにして金切り声を上げた。
「お前キスしかしないって言ったじゃねえかよ!」
その約束を本気にされているとは思ってなかった勝呂は、自分のかつての言葉に戸惑うしかなかった。
「そら、言うたのは俺やけど。」
なんとなくそれが反故される雰囲気というか状況もあるのではないかと、勝呂は反論したくなる。しかし本気で泣きそうになっている相手を目の前にして、そんなふうに開き直れない。またもや脳裏に雪男のせせら笑いが聞こえてくる。
『兄が手に負えなくなったら、いつだって兄から離れてもいいんですよ。』
手に負えないわけやないわと脳内の自分が叫ぶ。相変わらずあの弟は腹の立つ笑みを見せている。なんの制約もなく燐に触れることが出来る癖に、それでもその権利を行使出来ないのかとひたすら嘲笑われている。
「燐。ええやろ? やっぱりキスだけやなんて、不自然やから。」
「不自然なのかもしれないけど、俺困る。」
「困る? なんやそれ。」
燐は再び触れようとしてくる勝呂の手から身をよじってまた逃げた。ベッドから落ちるように這い出て医務室から出て行こうとするのを、勝呂は後ろから羽交い絞めにして押さえつける。
「なんでや……。」
せめてはっきりとした理由が聞きたい。怖いからとか知らなかったとかいう曖昧なものじゃなくて。そうすればこんな気持ちにも整理がつくはずなのに。
「なんでって言われても――。」
勝呂は少し手の力を緩めて燐を自分のほうに向けさせた。燐の態度に勝呂が困っているのに、燐のほうがよほど困ったような顔をして勝呂を見上げてきた。
「怖いんやったら怖くないように優しくする。知らんかったんなら俺が教えるし。今のお前の理由やったら、それだけでも十分やろ?」
『弟のことを気にしているなら、そうだと言ってくれ――』
それだけは口に出せなかった。何故なら自分が今燐にしようとしていることは、その弟が出来ないことをやり遂げて優位に立とうという卑屈な思いもあったからだ。この場で燐を自分のものにしてしまえば、弟のせせら笑いや言葉に怯えずに済むから。
それを燐に腹を割って話せないことこそが、自分の狡さだったりするが。
「まさかお前はそれほど俺のこと思っとらへんかったとか、そういうことなんか?」
ついに脅し文句のようなことまで口から出任せに出てきた。燐は完全に萎縮してしまっている。
「そんなわけ、ないじゃんか……」
「ほんなら抱いてもええやろ?」
「それは……」
脅しはしても嫌がられているような気配のせいで手が出ない。勝呂は自分のお人よし加減に腹が立つ。
「俺は、勝呂のことが好き。」
「でも抱かれたくないんやろ?」
「そんなんじゃない。でも勝呂が信じてくれないんなら俺……」
燐は勝呂の前に跪く。
「な…なんや?」
「こ……これで俺の気持ち、信じてくれる?」
燐は震える手で勝呂のズボンのベルトを外す。そしてジッパーを下ろし、下着の中のモノを引きずり出した。
「おい。」
呆然とした勝呂が我に返って屈もうとした時には、思いつめたように目を瞑った燐がそれを口に銜えていた。はずみで後ろに尻餅をついた勝呂の股間に圧し掛かるように、燐は身を乗り出している。
「……ん。」
燐が息苦しそうにしている。その原因は勝呂自身が自覚して赤面している。
「ん……んっ。」
燐はなんとか鼻で呼吸しながら、勝呂の大きくなりつつあるモノを口で受け入れようとしている。舌を必死で使って、時折喉を詰まらせながらも健気に。
「り……ん?」
勝呂が燐の名前を呼ぶと、燐は涙目になって苦しそうにしながらも目元だけで微笑んでみせた。そんな健気さに勝呂は臆してしまいそうになる。
「こんなん、どこで覚えたんや。」
掠れた声で勝呂が訊く。燐は勝呂のモノから口を離すとけほっと咳き込んで小さく「エロ本」と言った。再びしゃぶりつこうとする燐の顔を勝呂は両手で掴んで上げさせる。
「お前言ってることとやってること全然違うし。」
キスから飛んでいきなりフェラチオなんてありえなさ過ぎる。
燐が俯いてまた勝呂のモノに目を向けてきたので、勝呂は素早く膨張した自分のモノを下着に収めて慌ててズボンを上げた。
「俺が乗っかる前に、お前に乗っかられるとは思わんかったわ。……追い詰めるようなこと言ってしもうて、ほんまにごめん。」
燐はキッと勝呂を睨む。
「まだ終わってねえだろ。しまうなよソレ。」
「何を意地になっとんや。」
「意地になってるのは勝呂だろっ。かっこつけるなよ。最後までするから。」
「いやもうそれやめて。自分で処理するから先に出てってくれや。」
燐の視線は相変わらず勝呂の股間に向いている。不自然に盛り上がったズボンが気になっているようだ。
「やだ!」
「やだ言うな。恥ずかしいやん。」
「前膨らましたまんま意地張ってる勝呂のほうが恥ずかしいもん。」
「だからもう、今日は勘弁して。全面的に俺が悪かったことにしてええから。」
ええ子やからドアの外で待っときと勝呂は燐を医務室の外に追い出す。
五分ほどして項垂れた勝呂が医務室から出てきた。
「早いなお前。」
「早い言うな。やけくそになって無茶苦茶舐めよったのは、どこのどいつや。」
「俺が下手ってこと?」
「阿呆!」
燐の後ろ頭に手刀が降る。下手以前の問題だった。
「あいたっ。」
燐は後ろ頭を押さえている。しかし燐は妙に顔がにやけていた。
「勝呂のアレ初めて見ちゃった。」
「俺には見せてくれんくせにな。」
また燐がはっとしたような顔を見せる。たぶんこいつの頭の中は、この状況をどうやって誤魔化そうとぐるぐるしていることだろう。そんなことはもう承知の上なので勝呂はこう言ってやる。
「まあ気長に待つことにするわ。」
それが一番無難で平和だろう。燐も嬉しそうに笑っていることだし。
勝呂の脳裏ではあの弟がまだせせら笑っている。まあ笑わせとけと勝呂は思った。
しかしある日突然、せせら笑う雪男は勝呂の脳裏から消え去ることになる。それは勝呂が燐のブラックボックスの中身を垣間見てしまう瞬間のことだった。
なんか中途半端なエンドでごめんなさい。しかし私らとしては京都編が終わらないとどうしようもなかったんです。だって尻尾が出せないもん。勝燐の更新の遅さもそのせいだと思ってください。燐雪で書いてるシリーズでは堂々と尻尾は出してるけどな。
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会社員
趣味:
読書、二次創作
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忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
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