忍者ブログ

幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

[137]  [136]  [134]  [133]  [132]  [131]  [130]  [129]  [128]  [127]  [126

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


☆ss「悪魔の兄を弟がエンドにしちゃうぞな腐った話」第五話「白き手のイゾルデ」 燐雪、燐勝・志摩勝要素あり

 思いもがけぬ僥倖はいつ訪れるか分からない。
 
 毎日が台風襲来(ハリケーンも有りよ)な燐の毎日に、つかの間の雲の切れ間が三日ぐらい前から訪れていた。しかしそれは、素直に喜んでいいのかどうか戸惑う晴れ間だった。
 メフィストが散歩に興じているところに燐が通りかかったので、あくまでメフィストは義務的に声をかけた。
「おや奥村君。君が五体満足で痣もない姿でいるとは。」
「まあな。俺としては良いのか悪いのか、ほれ、よく言うだろ?」
「複雑な心境ですか。」
 燐は胸の前で腕を組む。今回の雪男の任務は期限がないらしい。いつも予定期間は定められていて、とりあえず作戦という名目の仕事を期限内にこなしているらしかったのだが。とういうことは、騎士団は下調べなり状況把握などをしたあとに、戦力を投入しているということだ。しかし今回は、下調べから作戦実行まで同じ期間内にしてしまわないといけないらしく、決まった期限を定められないらしい。
「雪男のやつ、今頃アンパン片手に張り込みなんかしてんのかな? 住宅街に潜伏しているらしいし。」
「そうですね。人間に憑依した悪魔って、住宅街とか集合住宅を根城にしていることが多いのですよ、実は。人数の少ない核家族は、ぶっちゃけ言うと隠れ蓑というか、小さな要塞じみてますからね。何が起こっても大抵は外に知られません。」
「まるで刑事ドラマみたいだな。」
「家族という密室は悲劇を生み出しやすいですから。」
「含蓄のある言葉だな。」
「あんたらのことですよ。」
 虐待なんて一番ポピュラーな悲劇ではありませんかと、メフィストは燐を横目で見る。ここで多少なりとも暗い顔になれば可愛げがあるのだが、自分自身のことなのにこの男はまるで人事のように聞いている。見れば頬のあたりがやたらとツヤツヤして血色がいい。新たに加えられる傷がないだけでなく、精神的にも肉体的にも上々な様子だった。
「奥村先生がいない間に、下半身事情を発散しまくってるようですね。」
「お前生徒相手にはもっと婉曲な言い方したほうがいいぞ。」
「あからさまなのはお互い様でしょう。羽根を伸ばしすぎるのはどうかと思いますが、こんなことでも無いよりはましですからね。性欲処理行為についてですが、あくまで単独行動でお願いしますよ。間違っても他の生徒を巻き込まないで下さい。」
「俺は雪男一筋だからな。」
「はいはい。」
 性欲ばりばりの癖に身持ちは固いと言いたいのか。
メフィストはちらっと燐の手元を見る。さっきからそれが気になっていたので、思い切って問うことにした。
「その美味しそうな和菓子の包みはなんです?」
 燐は普段ならチープな氷菓やスナック菓子ぐらいしか持ち歩いているのしか見たこと無いが、今日は打って変わって、どこかの和菓子の包み紙を抱えている。その封はまだ切られていない。メフィストの嗅覚が中身の正体を知らしめたのだ。高級菓子ではないが、きっと袋の中には、可愛らしくも侘び寂びを感じさせるものが詰まっているに違いない。しかも機械生産ではなく手作りの。
 メフィストは和菓子には目が無いので、内容によったらご相伴に与りたいところだった。燐は手に提げた袋を掲げて何気ないように言う。
「勝呂が差し入れだって。」
 メフィストは嗚呼とおこぼれに与るのを諦めた。勝呂竜士が奥村燐に、虐待被害への同情を超えた感情を持っているのを分かっているので、そんな気持ちの篭った贈り物を強請るのは大人気ないと思った。しかし流石、京都の坊である。この男には廉価な駄菓子でもやっておけばいいものを。
「奥村君。早く食べないと、それすぐ悪くなりますよ。」
「うん。寮に帰って食おうと思ったんだけどさ」
「思ったんだけど、何ですか?」
 燐は新しいほうの男子寮の方角を向いて呟いた。
「一人で食うのも寂しいからさ、勝呂の部屋に行って一緒に食べようかなって。」
 好意のブーメランが恐ろしいメフィストだった。燐は、あいつ俺にこれ押し付けてすぐに帰っちゃったから、これから追いかけようと思ってたんだと付け加える。メフィストはああそうですかと言って、燐をしっしと追い払うような仕草をした。
 燐はまたほけほけと歩き出している。
「まあいいでしょう。悪魔の身でありながら束の間の幸せを満喫するのも。」
 
     *   *   *
 
 男子寮、某室。ぶっちゃけいうと勝呂の部屋。勝呂と志摩と子猫丸の三人部屋。
「な、なんや奥村。急に……なんでこないなとこに来たん? さっき分かれたばかりやのに。」
「いや。お前からこれ貰ったのはいいけど。一人で食いきれないことはないんだけど、なんとなく一人で食うのも寂しいし。このところ雪男もいねえから。だから、一緒に食おうって思って。」
「そ、そうか。とりあえず入りぃ。おかんが押し付けて来た茶でも淹れるわ。」
 勝呂は湯沸しポットを持って部屋から出て行く。その間に燐は見るとはなしに部屋の中を見回した。そして勝手知ったように部屋の奥のベッドにダイブする。非常識だった。自分がいつも部屋に帰ってきて自分がやっていることを、他人の部屋でも臆面もなく実行するあたりが、世間なれしているのか世間ずれしているのか分からない感じだった。奥村燐の辞書に人見知りという文字は無い。
 大急ぎで水をポットに満タンにしてきた勝呂に、燐はベッドの上から「よお!」と手を振る。
「おい奥村! お前、俺のベッドで何さらしとんや!」
「お前のだったのか。」
 勝呂はあわあわと動揺していたが、少しすると落ち着いたのかポットをコンセントに繋いで茶葉なりを用意し始めた。ちらちらと燐のほうを見るが、小憎らしいほどに燐は勝呂のベッドで寛いでいた。ポットが沸騰するまで手持ち無沙汰な感じだったが、その手持ち無沙汰はアホの一言で崩壊した。
「なんだよ。お前もこっち来て座れよ。勝呂のベッドだろ?」
 水より先に勝呂は湯だってしまいそうだった。この部屋に子猫丸と志摩はいない。別に狙い済ましたわけではないが、そんな状況になっている。
「わ、わかったわ。行くわ。」
 自分のベッドに上がるのに照れているのが恥ずかしかった。勝呂はわざと、どすどすと足音を立ててベッドに上がる。
「これでええか?」
「なんで訊くんだ?」
 寝そべっている燐の横の空いたスペースに勝呂は腰掛けている。燐はそれが習性なのか、くんくんと匂いを嗅いでいた。
「あんま男臭くねえな。お前らの部屋。子猫丸はあんま臭そうにないし、志摩はシャレっ気があるから分かるとして、お前あたりは物凄く男臭そうなイメージがあったけど。」
「た、鍛錬の所為や。」
 勝呂は常日頃から鍛錬を欠かさないので、その度に汗を流すようにしていた。だから実質的な匂いは少ないのかもしれない。
「お前こそさっきから凄く汗臭いんやけど。」
「夜にはだいたいシャワー浴びるから。」
 どんな欧米化やと勝呂は思った。だいたいということは、浴びんこともあるんかこのものぐさとも思った。
「お前ちゃんと湯船に入って洗ったほうがええぞ。日本は湿気が多いんやからな。」
「そんなの俺も日本人なんだから知ってるよ。でもそれを言うなら雪男だってシャワー派なんだぜ。しかも朝シャワー派なんだからな。」
「え。奥村先生って夜パスして朝にシャワー浴びるん?」
 燐はそうなんだよと起き上がって話し始めた。好きな子の自分しか知らないプライベートを語れるとなると、どうしても熱が篭ってしまうらしい。
 
 
 深夜、任務から帰ってきた雪男はふらふらと奥にある自分のベッドのほうに歩いていく。燐は素早く跳ね起きると、雪男のコートの背中を掴んでその足を止めた。
『雪男。コート脱いで風呂場行けよ。任務あとのすげえ匂いがするんだけど。』
『今、夜の二時だろ? 僕六時には起きなくちゃいけなくなるから、風呂に入ってたら睡眠時間足りなくなるよ。』
『どうせ朝シャワーするんだから、学校行く時間は同じだろうが。』
『あれは目覚ましになるんだよ。』
 そんなことを言ってベッドに倒れこもうとする雪男を、燐はとりあえず抱きとめた。雪男の少し濃くなった体臭の他に、悪魔の体液だろうか錆臭い匂いとか、酸っぱい匂いとか、そのものずばりな生臭い匂い(雨の日に車に轢かれた蛙をへばりつかせたアスファルトのような)も燐の鼻を刺激する。こんな匂いに塗れても、今の雪男には睡眠のほうが優先されるのかと燐は妙に感心してしまう。
『せめて服は着替えよう。な?』
『疲れている僕から服を脱がせようって言うの? 明日の朝どうなるか分かってるんだろうね……』
 口はまだ動いているが、目は既に閉じかかって声も寝息に変わりかけている。本当にこの弟は極限まで体力を消費してしまう傾向があるようだ。少しは加減して働けばいいのにと燐はいつも思っているが、祓魔師の任務はそうそう手抜きが許されるほど楽じゃないらしい。
そしてそれも違うかなと燐は思った。
『俺と同じ悪魔を相手にしてると思っちゃうと、気が抜けねえんだろうな。』
 そう言いながら雪男のコートのボタンを外していく。雪男の腕が上がって一度燐の手首を掴んだが、すぐにそれはパタンと下ろされた。
『さあ、雪男ちゃんと着替えよう、な?』
 
 
「ちょっと待て! 自分さっき、自分のこと悪魔言うたやろ。」
 あれ? 燐は首を傾げるが、据わった目で勝呂に問いかける。
「そんなもん。薄々は感づいてただろう。」
「うわ! 開き直った!」
 確かにメフィストの部屋でクローゼットの中で盗み聞きしていた時もそれらしいことは聞いていた。それに燐の怪我の治りの早さだとか、雪男が折檻するときに使用する凶器の過激さには違和感を持っていた。
「ほんま、悪魔なんかい?」
 燐は頭が良くないのでこの場での誤魔化しかたはわからない。しかし、ここで誤魔化すのは良くないという判断だけはついた。
「うん。尻尾とかあるし。」
 燐はするりと尻尾を勝呂の前に出す。それは作り物ではなく、神経の通ったものだった。
「……でさ、雪男のやつがさ」
「そっちに戻るんかい! ていうか、兄弟なんやから、先生も悪魔ちゃうんかい。」
「いや。ぶっちゃけ雪男は違う。俺にとっては天使。」
「残酷な天使かい! ほんでテーゼかい!」
 頭の整理がまだつかないのか、勝呂は狭いベッドでのた打ち回っている。燐は勝呂が落ち着くのを待っていたが、なかなか勝呂の煩悶は解消されないようだった。
 他人の部屋なのにまた燐は、勝手知ったるように戸棚から急須と湯のみを持ってきて、いい加減沸騰しまくっているポットの湯で茶を淹れる。
「おーい勝呂。饅頭食おうぜ。」
 爆弾発言をやらかしたばかりの男がと勝呂は憤慨しているが、アホにそんなことは通用しない。そして鼻につく汗の匂いが無視出来なくなった勝呂は、湯のみに手を伸ばす燐の手をぴしゃっと叩いた。
「ちょっと待った。やっぱ饅頭食う前にお前シャワー浴びて来い。」
「ええー? 着替えは?」
「俺が貸したるわ。汗臭いと折角の饅頭も台無しやわ。」
 着替えとタオルを持たせて、燐をシャワー室に押し込めて勝呂は再びポット付近に戻る。
「あいつ。あんな能天気でよく悪魔なんかやっとられるわ。」
 悪魔という重大問題を抱えている癖に。弟からそれで折檻される毎日の癖に。燐の悩むべき部分まで勝呂が請け負っているような気分になってくる。だいたいあんな、どんくさい悪魔が存在していいものだろうか。人間の弱さに付け込むのが悪魔だろうに。あの馬鹿は身体は頑強なのだろうが、打たれ弱すぎる。
 そしてかなりのお人よしだ。弟に対しては無抵抗主義と言えばかっこいいが、他所から見れば虐待被害者で惨めな身の上だ。しかもそんな弟にべた惚れなのだから救われない。
 勝呂は自分のイメージの悪魔との重ならなさに憂鬱になる。なまじ気になっていた相手だからこそもある。しかもこんな何にもない普通の日に自分の正体を明かすなんて。
「最終回にアンヌに正体をばらした、セブンくらいの演出くらいせんかっ。」
 あいつにとってのアンヌはあの弟なのだろうけど。俯いて物思いに耽っていた勝呂の気も知らずに、ほけほけとアホが帰ってきた。勝呂は燐と自分の分の湯のみに茶を入れる。
「ただいま。」
「おかえり。」
 燐は勝呂の向かい側に座って饅頭の袋を開ける。かなり大振りな饅頭を燐は取り出した。そして手洗ってきたからと言って、勝呂に饅頭を手渡した。本当に人間に饅頭を勧める悪魔なんてありえ無すぎる。
「お、おおきに。」
「俺が悪魔って聞いて、嫌になったか?」
 勝呂は少し考え込んだが、いやと返した。燐はそっかと言って饅頭を頬張った。饅頭を飲み込んだあと、何食わぬ顔で勝呂に言う。
「今なら引き返せるぞ、お前。」
「何からや。」
「俺から。俺ってさ、悪魔だし弟とも上手くいってるとは言えないし。ここに帰る途中に志摩に会ったんだけど、あんまり坊の同情惹くようなことしないほうがいいって叱られたよ。」
 勝呂は幼馴染の勝手な手出しに前のめりになった。
「あんの、志摩っ。そんなこと思ってたんかい。しかも言うんかい。」
「志摩すごく心配してたぞ。俺みたいにややこしい問題抱えた奴に、深入りして大変なことになりそうで怖いって。」
「俺は誰かにお守りしてもらわんでも、自分で付き合う相手くらい選べるわ。」
 だからもう関わるなとか言うな。勝呂は叫ぶように燐に告げた。燐は勝呂の剣幕にきょとーんとしている。勝呂も羞恥に声を詰まらせながら、それでも自分の気持ちを言葉にせずにはいられなかった。
「俺は。べ……別に先生の代わりに抱きつかれても全然、か、構わへんから。ほ、他にもいろいろしてもええから……」
「勝呂?」
 燐にはわけがわからない。でも、勝呂が自分に対して嫌悪感を持っていないことだけは分かった。
「お前も、饅頭食えば?」
 ほれと勝呂の饅頭を指差す。勝呂は震える手元で自分の口元まで饅頭を持っていって、小さく一口齧った。
「あー。それ俺のとあんこ違うっ。」
 アホが目敏く指摘してきた。勝呂も今更ながら二種類買ったことを思い出したので頷く。
「あ、そうやな。」
「勝呂。俺の一口やるから、お前の一口くれよ。」
 そんならと勝呂が饅頭を割ろうとしたが、それより早く燐が饅頭にかぶりついてきた。しかも勝呂が齧った上から。
「うん。うまい。」
 そして自分の饅頭を勝呂に差し出してくる。燐が齧った部分を勝呂に向けて。
「お、俺は――。」
「遠慮すんなよ。ほら。」
 仕方なく勝呂は差し出される饅頭に口をつけたが、よく馴染んでいる味が今日はさっぱり分からなかった。
そしてアホはというと、饅頭を食べ終え茶を飲むと、じゃ帰るわとあっさり立ち上がった。勝呂の気も知らないで、こういうところが悪魔なのだろうか。
 ドアの前まで歩いていくアホを、勝呂は呼び止める。
「ちょっと待て。シャワー浴びたついでやから。」
 勝呂は自分の机の引き出しから、小さな小瓶を取り出す。
「香水? 女みてえなもん持ってるんだな。」
「阿呆。身だしなみやし、これはコロンや。」
 勝呂は自分の指に数滴垂らして、燐の首に液体を付ける。
「なんかいい匂い。」
 燐も満更ではなさそうだ。くんと匂いを嗅いで嬉しそうにしている。
「さっきの話の続きなんだけどさ、俺あいつのこと着替えさせて身体も拭いてやったんだ。悪魔の匂いに塗れているままにしたくなくてよ。」
 勝呂はその光景を想像する。肌蹴た雪男の肌を優しく甲斐甲斐しく拭いてやっている燐の姿が浮かんだところで、泣きたくなってきた。
「雪男が寝言で、兄さんやめてとか言うんだよ。すっげえ怖がってるような声で。俺、そんな気ないのに。ただ雪男を綺麗にしてやりたいだけなのに。」
 勝呂は燐に手を伸ばしてどうしようかと迷う。この悪魔は俺を試しているのだろうか? しかしこの悪魔が恋するのは、実の弟だ。胸が痛いどころの騒ぎじゃない。
「言うたやろ。俺、先生の代わりで構わへんって。」
「勝呂――。」
 燐の手を引いてベッドに逆戻りしたろうかと勝呂は大胆にも思ったが、外で痺れを切らしていたらしい志摩がわざとらしくドアを押し開けてきたので、結局は何もなかった。
「奥村君? もう入ってええ?」
「じゃあまたな、勝呂。」
「お、おう。」
 寮の廊下を駆けていく姿を見送る勝呂。その後ろで志摩がわざとらしく溜息をついた。
 
     *   *   *
 
「長居したつもりもねえのに、もう七時だ。」
 急ぐ必要もないのに駆け足で寮に燐は戻っていく。自室のドアの前に来ると、一足先に戻っていたらしい雪男が立っていた。
「おかえり兄さん。いい匂いだね。」
 褒めているはずなのに、雪男の顔はまったく笑っていない。どころか、眉間に皴を寄せている。
「任務、もう終わったのか?」
「終わったから帰ってきたんだよ。何か悪い?」
「全然。」
 後ろめたそうなところを見せない燐に雪男は何か感じたらしく、余計に不機嫌そうな顔をしてからドアを開けた。
「お前相変わらずすげえ匂いだな。」
「悪かったね。三日間風呂に入れなかったし。流石に今日は朝にするなんて言えないよ。」
 雪男は自分と燐を見比べて皮肉げに言った。
「他所でお風呂に入ってくるような兄さんみたいに、僕は気楽じゃないんだ。」
「いや。勝呂がおやつ食う前に、汗臭いのどうにかしろって言うから。」
 そうなんだ。雪男は邪悪な笑みを浮かべた。
「勝呂君におやつに呼ばれるくらい、仲良かったんだ。」
「俺のほうから押しかけたんだけど。」
 またもや雪男の眉がひくりと動く。
「あんまり迷惑かけちゃ駄目だよ。彼は名家の御曹司なのだから。」
 実態はそれほどでもないが、一応の体裁としては違うことはない。
「兄さんと付き合うと、彼まで不良にしてしまいかねないからね。そうなると困るのは僕もなんだからね。」
「き、気をつけるわ。」
 いつものように雪男に対して従順な燐の姿を見て多少は溜飲を下げたのか、雪男はホルスターを下ろすと、はいと手を広げて燐の前に立った。
「雪男ちゃん?」
「服を脱がせて。いつもやってくれてるように。」
 燐は顔を赤くして呆気に取られている。いつもはかなり嫌がられているというか、わけの分からない罪悪感に苛まれるのに。今日は雪男からおねだりされてしまった。
「いいのかよ?」
 言う前に手は雪男のほうに伸びている。そして慣れたように祓魔師のコートのボタンを外していく。その下の上着もカッターシャツもボタンを外しては雪男の足元に落としていく。ベルトに手が掛かったところで、雪男はそこまでとストップをかけた。
「あとは風呂場に行ってから。兄さん、洗ってくれるよね。僕のこと。」
「もちろん……。」
 
 
 雪男の身体を洗うということは燐も浴室に入らなければいけないということ。
「兄さんも服脱いでよ。」
「え。俺はシャワー浴びたんだけど。」
「見慣れない服着てるけど、勝呂君のだろ? 洗って返さないと。」
 雪男は有無を言わせず燐の着ていたTシャツを一気に脱がせた。それを脱衣かごにぽんっと投げ入れる。自分から借り物だと言った癖に、妙に扱いが雑だった。それはズボンも同様だった。
「じゃあ行くよ。」
 全裸になった燐の腕を引っ張る雪男。そしてすぐさま燐に熱めのシャワーを浴びせた。
「あちっ。」
 火傷する温度ではないが、条件反射で身構えてしまう。雪男は温度調節とシャワーノズルを燐に譲る。
「さあ、ちゃんと洗ってよ。兄さん。」
 燐の目の前で浴室の低い椅子に腰掛けている。燐は身体を洗うためのスポンジを片手に固まってしまった。
「雪男。お前どうしちゃったんだよ?」
「僕の前で他の男の匂いなんかさせるからだよ。」
 シャワーの音に掻き消されて、雪男の小さく呟いた声は燐には聞こえなかった。
「いいじゃない。兄さんみたいな悪魔のような匂いをぷんぷんさせるよりは。」
「あうっ。」
 そういう言い方をされると、やっぱり傷つく。燐は大人しく雪男の身体を洗ってやるしかない。
「変なとこ触ったら許さないからね。そこは自分で洗うから。」
「はーい……」
 締めるところはきっちり締めてくれる。シャワーの湯に流されて兄がさせていたコロンの匂いが落ちたところで、雪男は兄に気づかれないようにほっと息をついた。




勝呂本格参戦です。次はアサ子が魔窟に迷い込む予定です。

拍手[2回]

PR

☆ss「パラディン」 「アラベスク」シリーズ本編続き | HOME | 拍手返信

-Comment-

お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

この記事へのトラックバック

この記事にトラックバックする:


カレンダー

05 2026/06 07
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30

フリーエリア

最新コメント

[08/16 木音]
[07/16 木音]
[07/09 木音]
[06/06 さくむ]
[06/04 ニルグス]

最新トラックバック

プロフィール

HN:
柴仲達
性別:
女性
職業:
会社員
趣味:
読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

バーコード

ブログ内検索

P R

カウンター

忍者アド

忍者アド

フリーエリア


忍者ブログ [PR]
template by repe