幸福雑音
女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。
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☆ss「ノクターン」 青エク 勝燐
時刻は昨日と今日をあと十分で入れ替える頃合だった。
珍しく遊び過ぎたと勝呂は思った。夕方から学園の外に出て、ゲームセンターやらコンビ二やらを適当に燐と歩いていたら、気がつけばこんな時間になっていた。本当に勝呂らしくない。中庭まで帰ってきたのはいいが、そこで燐は急に花壇の縁に勝呂の服を引っ張って座り込んでしまった。
「もう帰らんとあかんやろ。ここもう学校やし、寮監に見つかったらやばい。」
「もうちょっとだけ。」
「お前のその根性は不良やな。」
いつものように窘めてはいるが、いつものように妥協出来る状況ではない。それなのに勝呂の腕は燐にしっかりと掴まえられている。その間にも時計の秒針は一回りしてますます状況を切迫させる。それを燐も自覚してるらしく、誤魔化すような笑顔の頬の辺りが引きつったようにひくついている。だけど燐は頑として動こうとしない。
「どうしたんや。ちゃんと門限守らんと、奥村先生に怒られるんと違うんか?」
「勝呂。急ぎすぎ。まだ大丈夫だから。」
幾ら理事長権限で設定した門限が緩かろうと、常識的に考えて深夜のこの時間に外に出ている学生はいてはいけないはず。燐はそれを分かってるはず。それでも今の燐は、真面目な性格だと知っている勝呂を巻き込んでまで、強情に寮の部屋に帰ろうとしない。
「奥村先生と喧嘩でもしたんか? だから帰りたくないんか?」
ひとつ当てずっぽうを言ってみた。幼稚だが想像が容易なことだった。燐と雪男の兄弟の関係のややこしさは塾のメンバーなら誰でも知っている。それでもなんとか、彼らなりに兄弟関係を保っているようだから、誰もあまり気にしていなかった。しかし実は、かなり燐には思うところがあるのではないのかと勝呂は思い付いた。
「お前その歳で反抗期かい。しかも奥村先生はお前の弟さんやろ? 普通は逆やで。溜めこんどるもんがあるなら、また放課後に聞いたるから。今日のところは帰りい。」
頭を撫でて燐の手を取る。燐の青い目は重たそうな瞼に半分隠されている。
その寂しげな表情に勝呂が心動かされないわけがない。だけど今は時間が悪い。
自分と燐のことが奥村雪男に知られているかは分からないが、学校関係者でもある奥村雪男の心証を損なうことは、勝呂にとっても燐にとっても好ましくない。人情では幾らでも燐に付き合ってやりたい。でもその安易さで、燐や自分を取り囲む状況を悪くしたくない。
ここはきちんと燐を部屋に帰すべきだ。雪男が兄を探しにここに訪れる前に。
「奥村……。いや。……燐。」
「もうちょっと。もうちょっとだけだから――。」
燐は首を振って勝呂の声を拒絶すると、よりいっそう強く勝呂の腕に縋りついた。
勝呂はそれに面食らうというか、自分がとんでもない暗部に踏み込んでいるような錯覚を覚える。不良で頭の悪い兄と、聡明で優秀すぎる弟の、そんなややこしい関係では済まされない何かがあるのではないか。勝呂はそれを燐に問いかけられない。安易に燐の側に立てば、それはそれで燐の味方であると胸を張れるかもしれない。しかし、それによってとんでもない何かを敵に回すかもしれない。要は情に流されて大局を見失うことに繋がる。
だからここで自分は燐を送り返すしかない。一緒に逃げ出すような真似はしちゃいけない。幾らそれが今の自分にとって納得出来ない何かを胸に残すとしても。
根が生えたように座り込んでいる燐を抱えるように立たせる。燐はもぞもぞと身じろぐが、相変わらず勝呂の腕を掴んでいる。
「勝呂……。やっぱ、駄目か。」
諦めるようでいて茶化すような燐の口調に、何故か胸が痛む。時計の秒針がまた一回りする。もう五分前を切っている。
「ああもう! こうすりゃええんやろっ。」
えっ? 短く声を出した燐の腕を、今度は勝呂が掴む。そのまま燐の部屋に向かって外階段をずんずんと進む。
「あかんことしとるのはお前なのに、なんで俺が気まずくならんとあかんのや。ああ! あと三分しかないやんか。ちゃっちゃと足を動かさんかい。」
「ごめんっ。」
「余計な手間掛けさせようってからに。俺は門限破りになるけど、お前までそうはさせんからな。十二時ぎりぎりまで俺と一緒におれて、さぞやお前は本望やろ。それは今日限りやからな。お前と奥村先生がややこしいことになっとるのは塾の仲間なら勘付いとる。こうやって回りくどいことせんでも、なんなら俺のこと盾にせえや。変なことして余計に自分の状況おかしくするな。」
燐はわかったと言う。本当に分かってるのか勝呂には分からなかったが、胸の痛みは軽くなったような気がする。自己満足は許せない性格だけど、今は自己満足な行為に妥協するしかない。寮の燐の部屋の前まで来る。
「ほな。おやすみな。奥村先生になんか言われたら、俺に勉強教わっとったと言うて言い訳しとき。」
「でも。もうそれで、五回くらい言い訳してる。」
燐の苦笑いに勝呂は釣られる。
「出来の悪い子には、何回でも教えんとあかんやろ。回数多いほど信憑性はあると思うから。」
言っていて説得力がない。だけど燐の笑みに先ほどの重たい陰はない。
「じゃあな。」
そういうと燐はゆっくりと勝呂の手を自分から放して、部屋のドアを開ける。そして燐がドアの向こうに吸い込まれて、勝呂はパタンという乾いた音を聞いた。
ドアの向こうで燐が雪男と何を話すことになるかは勝呂は知らない。だけどドアが閉まったところで、勝呂は門限破りに自分の部屋に帰るしかなかった。
まだ燐がサタンの息子だということがバレていない頃の設定です。テーマ的には「ロミオとシンデレラ」かな。
たぶんかなり燐は雪男に怒られると思います。でも、勝呂が言ったように勝呂を盾に使えない奴だと、私としては思います。
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絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
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