幸福雑音
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☆ss「アリア」青エク 勝燐 わりと甘め(勝呂は大変なものを盗んでいきました)
京都生まれの坊こと勝呂とは喧嘩ばかりの仲になるかもしれないと思っていたが、実際は俺達はすぐに普通以上に仲良くなった。
燐は勝呂の膝に乗っかって参考書を広げている。勝呂は燐の頭越しに燐の読む参考書の説明に補足を入れていた。適度に筋肉のついた膝はクッションが効いているし、背中はぬくぬくで居心地がいい。思い返せば反抗期に入る前の燐は弟を差し置いて、始終義理の父親の膝を独占していたこともあった。
「お前ほんまに甘ったれやな。しかも馬鹿やし。」
後ろ頭を小突かれる。それでも嫌な気がしない。勝呂は秀才だが、自分に内緒で祓魔師やその教員の資格を取っていた弟よりは、身近で置いていかれた感が少ない。だからこの頃は弟より勝呂のほうに勉強を教えて貰っている。
勝呂は努力家だ。弟の雪男も相当な努力家なのは確かだけど。燐にとっては勝呂の努力の仕方は、中学校もサボりがちだった燐でも理解出来る努力だった。燐は勝呂の真似から努力の方法を学んでいた。というか、燐は雪男の努力の仕方なんて真似のしようがない、超越者の所業に見えた。見習おうというよりは悔しさや諦観が先に立ってしまう。
でもそんなことは勝呂と二人きりの時には言わないし、考えないようにしていた。
窓に西日が差している。
「流石にしんどくないか? 俺がずっと座っていて。」
燐は腰を浮かせようとしたが、やんわりと勝呂に座り直させられる。
「寺の息子で座禅で鍛えとる俺にそんな野暮なこというなや。お前ごとき一日中でも乗っけとられるわ。」
「でも悪いし……。」
勝呂はふっと息をついて、燐の後頭部に僅かに風を当てる。
「そんなこと言うてお前、飽きてきたんやろ? 勉強。」
ぎくりと燐の背中が強張る。
「お前は頭そのもんがアホやなくて、どっちかいうと根気と集中が足らんようやな。」
「俺にしたら頑張ってるほうじゃないのか? もう二時間くらいやってるし。」
「二時間しかやってへん。それを一人でずっとやるならともかく、俺がいてやっと二時間もったんやろ。」
膝の上で燐がしゅんとする。顔も見えないのに本当に分かりやすい奴だと勝呂は思った。
「少し休憩いれよか?」
途端に燐の顔が上がる。本当に分かりやすい奴だ。顔を勝呂のほうに向け、そのまま伸び上って抱きついてくる。
「んじゃ。アレしてくれよ?」
「アレ言うて。……。」
勝呂の顔が燐の顔に接近する。そして軽く燐の唇に口付けた。
東京に進学しても勉強と鍛錬三昧でそれ以外の余計なことは考える気はなかった。女子との交際なんて頭の隅にもなかったのに。今ではこの燐という男にねだられれば左程抵抗もなく口を合わせている。
流石に幼馴染の志摩と子猫丸には事後ではあるが、燐との交際の承諾は取っている。当然驚かれた。志摩には『なんで坊は、そないな秘密を胸に留めとかれへんの?』と涙目になられてしまった。勝呂としてはけじめのつもりだったが、却ってとんだ非常識な行動になってしまったらしい。だが未だに実家には知らされてないらしいから、了承もしくは黙認されているのだろう。
燐と付き合っていると言っても、所詮は膝に乗っけたり勉強を見たりキスしてやったりする程度。自分は燐から昼食の弁当のおかずを貰ったりしている。付き合うきっかけは勝呂自身でも曖昧だ。好きだ好きだと言われるようになって、それを突っぱねられなかったので、結果として自分も燐のことを好きになっていた。好きと言われれば嬉しいし、自分を好きな人間をそうそう嫌えるもんじゃない。
ただし、勝呂の身近な人間でただ一人この事実を言えないでいる人間が一人だけいる。燐の双子の弟で、燐と勝呂の教師もやっている奥村雪男だった。知的で人当たりのいい雪男に会った当時はその当時の燐と比べようのない好感を持っていたが、燐を好きになってからは、あまりにも正反対な兄弟の性格のせいかどうかは知らないが、雪男に対して訝しげな感情を覚えている自分がいる。だからといって意識してはいないのだが、雪男がいる前では燐に対しても親しげなところを見せづらいところがあった。燐も同じように感じているのか、雪男の前では今のように甘えるような仕草を見せない。(大抵雪男もいる場面では、幼馴染やら女子やら他の教師もいるせいだろうが。)
その反動とは思えないが、二人でいるときはとにかく燐は勝呂の側を離れようとしない。最初はそんなふうでもなかったのに、一定ごとの接近を許していたらいつのまにか勝呂の膝の上が燐の指定席になっていた。こんな現状を幼馴染にだって見せられるはずがない。
「次はデコにしてくれよ。」
髪留めでちょうど全開になっている額に勝呂は唇をつけた。そういえばこの髪留めは自分があげたものだった。集中力に乏しくてそこまで几帳面そうでない燐のことだから、髪留め一つくらい失くされても可笑しくないはずなのに、よくもまあ大切に使ってくれているものだ。そう思ったらなんとなくいじらしく思えてきて、すこしだけきつく抱きしめた。燐は嬉しそうに喉を鳴らしている。こいつは猫か。
「勝呂はさ――。俺に手を出さないの?」
勝呂はらしくなく言葉の意味を取るのに時間が掛かった。そして意味が分かると同時に頬が赤くなる。
「出さん。」
「それってなんか理由があるのか?」
理由まで尋ねられるとは思わなかった。そこまで思われるのだったら、手を出して欲しいのかと問い返してしまう。燐もやはり赤くなって答える。
「……してほしい。」
言葉の最初がどもったくせにやけに言い方はストレートだ。しかし勝呂はきっぱりと言った。
「キスはしたるけど手は出さん。そいうことは学校卒業してからでもええやろ。せめて二人ともなんかの資格一つ取ってからやな。」
「そうだよな。お前はそう言うよな……。」
どこか寂しげな言い草だった。でもそれをこの場で取りざたするとどつぼに嵌りそうになる気がしたので、勝呂も穏やかにそうやと言い返した。
本当にこんなふうに聞き分け良く勝呂の言葉に頷けるような関係になるなんて、最初は全然思いも寄らなかった。
勝呂と燐はこんな感じ。六巻読み直したら燐的かっこいいランキングで勝呂が親父についで二位だったので、かなり燐としては惚れ込んでいると思います。
盗まれたもの→燐の心です
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絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
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