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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆☆リクエスト企画SS「UNオーエンは彼だったのか」前編 勝燐

けいりんさんのリクエストで「勝燐で、燐が男同士のあのことを知ってしまい、勝呂がキスまでしかせんよと言ってからの続き」です。ちょっと今回もリクエストの趣旨とは違う前置きの話が先にあります。それがこれです。リクエスト自体は後編で書きました。ではどうぞ。





 外の景色が見えない祓魔塾の教室では、今が一体何時頃かわからない。しかし身体と頭のだらけ具合からしてかなり遅い時間だということだけは確かだろう。
 燐は眠気覚ましのつもりなのか、勝呂の髪をいじっている。咎めるつもりはないが目を合わせると一瞬手の動きが止まる。そこからじーっとお互いに見詰め合ったあと、燐は勝呂の頬に唇を寄せた。
 ちゅっと小さな音を立てて燐の顔が離れていく。毎度毎度恥ずかしげも無く露骨とも言える愛情表現に勝呂はぼんやりとした幸福感を覚える。
「勝呂。お返しは?」
 勝呂は肩に力が入ったままぎこちなく燐を引き寄せてその額にキスをした。勝呂がもっとも緊張してしまう慣れない瞬間だった。
 キスから先には進まないことが、意外と苦になっていない現状に勝呂は少し戸惑っていた。もっと煩悶するかと思っていたら、キスだけならキスだけでもお互いの気持ちは通い合っていると信じているからか。多分答えはそれで確定することはないだろう。何より燐が男同士の行為について怖がっているのに、無理をして先に進む理由がなかった。逆にそれを自重する理由ならいくらでもある。
 一つはやはり燐を怖がらせたくないから。一つはそれで嫌われたくないから。今の関係に特に不満はないし、学業を疎かに出来ないこともある。
 
 そして、お互い同士の感情とは別にいつも頭の中でちらついている存在がいるから。
 
『もう時間が……』
 
 勝呂は携帯電話で時間を確かめる。これから燐をやむを得ず説得しなければならない。
「お前そろそろ帰らんでええんか?」
「あっ。やべ……」
 勝呂は広げてあった燐の勉強道具やら携帯をまとめ、燐の前に置く。燐は自分の目の前に置かれたそれに手を伸ばそうかどうか迷っている。
 勉強会自体は三十分前くらいから中断していたが、勝呂と一緒に居たいがために毎度毎度馬鹿の一つ覚えのような駄々をこねたり、甘えたりで勝呂を塾の教室に引き止めていた。
「雪男は授業の片付けで帰りは大抵九時になるけど……やっぱり駄目か。」
 今は午後八時三十分が来るか来ないかの時間だった。
「でも。今日のおさらいまだ終わってないし。俺は馬鹿だから明日になったら忘れちゃうかも。もう少しやったほうがよくない?」
 しおらしいことを言っているが、勉強を中断してしまったのは燐が原因だ。それを許してしまった勝呂にも責任はあるが、馬鹿がごねているのは、要はまだ勝呂に甘え足りないだけである。
「燐……。」
 燐の言葉に釣られてしまいたいのは、勝呂の甘えでもある。しかしその結果、燐が双子の弟に小言を食らうのは心苦しい。燐はその弟からの小言とか叱られたことを勝呂にはひた隠しにしているけれど、燐の口から時々出る「雪男」という名前でなんとなく察しはついていた。
「奥村先生やて決まった時間にばっかり帰ってくるとは限らへんやろ? お前より早う部屋に帰って、お前がおらんかったらここに迎えに来るかもしれんで。ほんで二人して怒られるか? 俺はいっぺんくらいやったら怒られるのに付き合ってもええけど。」
 燐は真一文字に口を結んで眉間に皴を寄せている。
「………。勝呂は、雪男に悪く思われたくねえんだろ? わかるもん。お前は雪男のこと、なんか尊敬してたりするっぽいもん。」
 そのような事実は確かに過去の勝呂にはあった。
「尊敬するのは俺ばかりやないやろ。俺らからすればあの人は、奇跡みたいな人やからな。」
 燐はそれを聞いて俯いてしまう。
「雪男が昔から頭がすっげえ良いってことは知ってたけど、悪魔倒せるくらい強くなってるなんて知らなかったぜ。」
「え。知らんかったん。」
「うん。……この学校に入るまで内緒にされてた。」
 このくらいまでは勝呂に言っても大丈夫だろうと燐は思った。勝呂はそういえばと言いながら頷いている。
「先生だけ先に祓魔師の勉強しとったって言うのは、少しおかしな話やな。」
 燐はぎくりとする。その辺に突っ込まれたら自分の正体にも関連する話になる。だから苦し紛れに誤魔化しの言葉を発してしまう。
「あ。俺んちは育ての親が祓魔師やってたんだよ。で、雪男のほうが素質あるから先になったんだ。」
「あの人は天才言われてるから、親もそうしたくなる気持ちも分かるんやけど。それやかて、別にお前に内緒にせんでもええやろ。」
「えーと…えーと。……」
「言えん事情があることだけはわかったわ。」
「言えないんじゃなくて、説明するのが難しいだけなんだよ。」
「ああ。そう。」
 燐がすっかり困り果ててしまっている。勝呂は変な奴だと思ったが、自分もそれなりにわけありで塾に通っている身なのでこれ以上は訊かないことにした。
 
 会話の区切りのところで教室の外に人が立つ気配がした。
 ドアがとんとんとノックされて、黒コートの同級生の教師が入ってきた。それは二人の話題の端々に出てきた雪男だった。
「勝呂君。奥村君。勉強熱心なのはいいことですが、そろそろ寮のほうに帰ったほうがいいですよ。あんまり夜が更けると、この塾でも安全とは限りませんから。」
「あ。すんません。今すぐ帰りますんで。」
 燐があからさまにぎくしゃくして表情を浮かべているのを勝呂はちらっと横目で見たが、この場でのお咎めは無しなようだった。
「勝呂君。いつも兄がすみません。」
「いえ。たいしたことはしてませんが。奥村を引き止めて、こちらこそすみません。」
 雪男は穏やかな笑みを浮かべる。
「君が引き止めているなんてありえません。庇って頂かなくても、兄がワガママを言っているのは僕は百も承知ですから。」
 勝呂は雪男の言い方に首を傾げる。事実は事実だろうが、この場合は責任は燐にも勝呂にもあってお互い様名はずなのに。
 勝呂の表情から雪男は殊更に穏やかに繰り返す。
「君のように優秀な人に手を引いてもらえるなんて、兄はとんだ果報者ですよ。しかも君はよっぽど忍耐強いのか未熟な兄によく付き合ってくれている。」
「俺かて……まだまだ未熟者です。奥村には勉強以外で助けてもらったこともありますし。」
「あ……。あのリーパーの実習の件ですね? でも十分にその恩は返されたはずでしょう。」
 あのときのことの恩はただの口実で言ったつもりだが、雪男に本気で返されると立つ瀬が無い。もういっそのこと。勝呂はここで燐との仲を言ってしまったほうが誤解がなくなるような気がした。
「燐。お前は先に帰ってくれへんか? 奥村先生、少し話させてもらってもええですか?」
「いいですよ。」
 雪男はまるで予測していたかのように了承した。燐が帰りにくそうにしているのに雪男はかぶせて言う。
「兄さん。勝呂君のお願いだろ? 先に帰ってあげなよ。そんなに時間は掛からないだろうからすぐに僕も帰れると思うし。そうですよね。勝呂君?」
「お時間は取らせませんから。」
燐は明らかに後ろ髪が引っ張られぱなしのように「じゃあ」と言って教室を出て行った。燐の覇気の無い足音が遠ざかったのを確かめて、勝呂は雪男に向き直った。
「どう思われるかは分かりませんが、とりあえずは聞いて頂きたいと思うんです。――俺とあいつは、あの件のすぐあとくらいから、仲良うしています。」
「それは分かってますよ。」
 雪男の目は勝呂を凝視している。勝呂はまた繰り返す。
「仲良う言うのは、その。お互いに好きや言い合うような感じです。ほんまに先生に対しては、今まで隠しとったような形になって申し訳なかったと思います。時々帰すのが遅くなったりした時には、心配掛けたんやないかと。」
 雪男は勝呂に一歩近づく。
「何を心配するんです?」
 その声音は優しげだったのに、なんだか凍りつくようだった。この人は今日この場で勝呂が懺悔しなくても、前々から全て理解していたのだと勝呂は悟った。
 言葉を詰まらせる勝呂を見計らったように、雪男が語り始める。
「さっきも言ったように、僕は君には感謝しています。」
「俺らが男同士言うのは、気にならんのですか?」
 雪男はますます優しげに冷気を篭らせるように答えた。
「僕が好きな人も男ですからね。君と兄ばかりを責めるなんて考えられません。」
 勝呂は絶句して、そして雪男から一歩後ずさった。ここまで核心を突いたことを言われるとは思わなかった。薄々は頭を過ぎったことはあったが、それが本当だと目の前に提示されても、柔軟に対応出来るはずがなかった。
 
 誰もが羨む才能の持ち主でありながら、いつも駄目な兄を優先させているのは誰だ?
 
 同い年で立場が違い過ぎるのに、未だになんだかんだで兄を慕っているのは誰だ?
 
 同じ部屋でいつも兄と暮らしているのは誰だ?
 
「ああ……。」
 勝呂は大きく息をつく。燐が言っていた雪男が先に祓魔師になった理由。それはもしかしたら兄のためかもしれない。だから燐は答えに困っていた。勘の良い勝呂は手で口元を押さえながら雪男を見た。
「先生の好きな人いうて、……。」
「君の好きな人とおんなじですよ。」
 こともなげに言う。
「どんなふうに好きなんですか?」
 せめて過ぎた兄弟愛くらいだったらすくわれるかもしれないと、勝呂は雪男の返答に縋りたかった。
「それも君と同じだと思います。」
「だからどんなふうにっ?」
 雪男は目を瞑る。
 
「兄でなければ抱いてしまいたいと思うくらい。」
 
 すくわれることは、すくわれた。
 密室の中ではまだ何も行われていない。勝呂と燐と雪男の関係の中でそれだけが幸いだった。でもあの兄弟の部屋の中では、兄だから弟なのにという思いがいつも充満している。燐だってそんな空気の中で過ごしているのだから、そんな雪男の心の声に薄々は気づいているだろう。ひょっとしたらもう思いを告げられているかもしれない。
 自分にとって可愛い馬鹿が、この天才祓魔師にとってはもっと根の深い感情を抱かせているなんて思いも寄らなかった。「兄でなければ」。それだけの為にこの類まれな男は、叶わぬ思いに焦がれていたということか。
 そして、どんな目で自分たちを見てきたのかも思い知った。
 勝呂は雪男の取り繕わない正直な返答に足元を完全に掬われてしまった。
「そうですか。」
 他人の言葉に縋りついたのがこのざまだった。早鐘を打つ心臓に自分自身が耐えられない。雪男の目を直視するのが苦しくて仕方ない。でも雪男は勝呂など眼中にないように、いっそ清清しい笑みを見せている。
「一人で抱えているのは正直苦しかったんですよ。まさか打ち明ける相手が君になるとは思いませんでした。――ありがとう。君からきっかけをつくってくれて。」
 勝呂はひたすら首を横に振り続けている。自分はただ誠意さえ見せれば、この弟に認められるとでも勘違いしていただけだ。
 
 雪男は一緒に出ましょうと勝呂を促す。重い足を動かして教室から出て装飾過多な長い廊下を歩き、入り口のドアのところまで来た。
「お先に。」
 雪男は前を勝呂に譲って鍵を取り出した。
「失礼します。」
 勝呂は鍵穴に鍵を差し込む。ドアを開いたとき、雪男が後ろから声を掛けてきた。
「これからも兄のことをよろしくお願いします。でも、君にとって手に負えないような事があったら、迷わず兄から離れてくれて結構ですよ。」
 勝呂は雪男のほうを見ないようにして聞き返す。
「手に負えないようなことって?」
「それは僕たち兄弟だけの事情なので答えられません。」
 兄も兄なら弟も弟で、肝心なことは何も喋ってくれない。
 雪男の言葉からは、近い将来には必ず勝呂のほうから燐を避けざるを得ない出来事が起こるような気がした。
 勝呂は失礼しますと言って外に出る。ドアを閉める瞬間、雪男の忍び笑いが聞こえてきた。振り返れない閉じた扉の外で勝呂は小さく舌打ちをした。





後編に続きます。
 
 

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柴仲達
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読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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