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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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15000hitリクエスト企画「レザン」 雪燐 獅燐前提 勝燐要素アリ

 

 明け方に雪男は任務を終わらせて帰ってきた。
しかし何故か黙って部屋の扉の前で立ち往生している状態だった。
現在土曜日の午前八時。あの兄なら寝ているかクロと二人で騒がしくしている頃合だ。扉の向こう側は静かだから寝ているのかもしれないが、雪男は扉の向こうからはあっという溜息の音を聞いた。
 鍵穴からそっと部屋を覗く。自分のスペースより向こうの、兄の机の前の椅子に兄は腰掛けている。ひどく虚ろな目をして俯いていた。
『どうしたんだい? 何があったんだい兄さん。』
 さっさと扉を開けて入っていけばいいものを、雪男は何故かそれを躊躇していた。ドアノブに手を掛けようとしたちょうどその時、燐の携帯が鳴った。雪男はまたはっとして息を潜める。耳をドアにくっつける。中から抑揚のない兄の声がした。
「あ。勝呂? ――。ごめん今日は調子悪いんだ。いや。ああ……雨だし。熱とかないから。見舞いも、いいから。気にしなくていいから。」
 雪男が帰ってくる少し前に通り雨はあった。今もぽつぽつとは降っている。
「うん。ごめんほんと。じゃあまた、学校で。」
 兄さんが勝呂君の誘いを断っただと。
雪男としてはびっくりだった。今度こそとドアノブに手を掛ける。そのときまた、燐の携帯が鳴った。
「今度はお前かよ。うん……理由はねえんだよ。勝呂にもそう言ってくれ。わざわざ心配かけて済まなかったな。うん。じゃあよろしく。」
 どうやら勝呂の誘いを断った燐に対して、志摩か子猫丸が気を聞かせて電話を掛けてきたらしい。燐はそれにも生気のない声で断りの返事をしていた。
雪男はドアノブに手を掛けて回す。今度は誰の邪魔も入らなかった。
 ただいまと言って燐の前に立った。
「おかえり……。疲れてるんだろ。俺は、クロと一緒に外に出てるから。ゆっくり休んどけよ。」
 雪男はまだ何も言わないのに、日頃なら思いつきもしないような労りの言葉を掛けてくる。つまり疲れて落ち込んでるのは、兄さんのほうじゃないのかと、雪男は言いたくなったがそこはぐっと堪えた。
「いや、僕はいいよ。移動のバスの中でしっかりと寝たから。」
「どれくらい?」
 どろっとした口調に雪男はわずかながらに動揺する。こんな欝が入った兄を見るのは久しぶりだった。
「行き帰りジャスト四時間。」
「そうか。お前の平均的睡眠時間だったな。」
 またもや兄にしては考察的な物言いだった。つまり兄は今、普通の状態じゃないのだろう。そりゃあ勝呂は心配するし、志摩も間髪いれずに電話してくるわけだ。
「兄さんこそ、顔色悪いけどどうしたんだい?」
 雪男は自然と燐の額に手を伸ばそうとする。その手首を燐は眉間に皺を寄せながら掴んだ。やんわりと差し伸べてくる手を拒絶しているようだ。。
「大丈夫だよ。俺うっかり夜更かししちまって、でもなんか寝付けなくて。そんで徹夜しちゃった。そんで少し調子崩しただけだから。」
 簡単に軽くは言ってくれるけど、平均睡眠時間十一時間の燐にしてみれば一大事じゃないかと雪男は危惧を覚えた。
 さっきからうっすら気付いてはいたが、燐から嗅ぎなれた香水の匂いがした。そして机の上にはラムネ菓子のボトルが置いてある。こんなチープなものを兄に渡す人物は一人しか思いつかなかった。
 雪男の視線に気がついたのか、燐は唐突に雪男に問いかける。
「お前はあの野郎とジジイが、かなり深い友達づきあいしてたの、知ってた?」
 雪男はアマイモンに以前聞かされた話を思い出す。あれについてはもう聞かなかったことにしたかったのに、兄に改めて言われると、なかったことに出来なくなった。
「……僕は別の人に聞いたことはあるよ。詳しくは分からないけど。」
 適当に答えてみる。兄は何が言いたいのだろう。そしてそれが今の欝状態と関係あるのだろうか。
「俺はあいつから直接聞かされたんだ。年賀状とか友チョコだとかプリクラとか、お年玉とか。」
「うん。そうらしいね。」
 だから? 雪男は燐の言葉の先を促す。
「ジジイの本当の友達だと知ったからかな。俺あいつに甘えたくなったけど、甘えさせてくれなかったんだ。お父さんが恋しいなら、自分に甘えるのは逆に駄目ってさ。」
「兄さんは父さんが恋しかったの?」
 燐は頷かなかったが、それは事実だろう。この学園に来てから三ヶ月近くになっている。そろそろホームシックになっても可笑しくない時期だった。しかも燐は自分では自覚してなかっただろうが、養父に対して淡い恋心を抱いていた。
 そして藤本獅郎もそんな悪魔の子に養い子以上の感情を隠していた。まるで地の底から燐に呼びかけるように、燐の心に存在し続けている。たぶん藤本獅郎はそんなことは望んでいないだろう。
燐の話の内容からして、メフィストが燐の甘え心を抑制してくれたことは助かったと、雪男はらしくなくあの悪魔に感謝した。
メフィストは遠まわしに任務を終えて帰ってくるであろう雪男に、ホームシックが表に出てきた燐のことを任せるつもりで燐を突き放したのだろうと推測できる。それも悪魔の不透明な思惑なのかもしれないが、今はそれに乗ってやるのもやぶさかではない。
「兄さん。せっかくの休みなんだから塞ぎこんでちゃ駄目だよ。」
 雪男は掴まれたままの手首を引っ張る。燐は反射的にその手首を放した。
「俺今日、勝呂から誘われたけど、断っちゃったし。志摩からも電話きたけど、また調子悪いって嘘ついちゃったようなもんだし。」
「じゃあ。兄さんは今日一日中この寮の中にいるしかないんだね。」
 雪男の顔はいつもどおりの薄い笑みを浮かべた澄まし顔だった。しかし兄の欝を利用しているような後ろめたさはあるけど、勝呂や志摩から遠のいた兄を見るのはなんとなく心が軽くなったような気がした。
本当に意地の悪い考え方だと自覚はしている。しかし嬉しいのは止められない。
「兄さんらしくないよ。父さんならこう言うはずだよ。」
 雪男は芝居がかった声音で言う。
「おい燐! 馬鹿の癖に落ち込んでんじゃねえっ。さっさと仕事帰りの弟にメシでも作ってやれ!」
 燐はぽかんとした顔で雪男を見上げる。そしてぶっと噴出した。
「なんか……にてるうっ。ジジイの真似なんかしてどうしたかと思ったけど。お前実は眠たくはないけど、腹が減ったのかよ。」
「ああそうだよ。腹減ったんだよ! なのに、てめえがドア開けるなりうじうじしてる姿見せやがるから、腹の虫も遠慮して鳴いてくれねえんだよ。」
「わ、悪かったな。うじうじしてて。」
 燐は藤本の生前に励まされたときのことを思い出す。しかし口調に対して、見た目と声が雪男であるということに妙にうけてしまった。噛み殺しても噛み殺しても笑いがこみ上げてくるらしい。細かく身体が痙攣している。
「もうジジイの真似やめて。笑いすぎて、メシ作ってやるどころじゃねえから。」
 燐の顔に笑顔が戻った。雪男は面白がって物真似を続ける。
「ああぁ? 俺の口調が笑えるだって? でも俺は続けちゃうぞー。燐ー。腹減ったあ。今日の味噌汁はワカメと豆腐で、出汁はいりこで取ってくれよ。」
「わかった。わかったから。」
 燐は這うようにしてドアに移動している。しかしドアは開かない。
「あれ? あれれ?」
 燐は笑えるやら混乱しているやらで困り果てている。雪男は後ろから燐に追いつくと、またも藤本口調で言った。
「ドアも満足に開けられないのかよ。」
 ほらと雪男はドアを開けてがっちりと後ろから燐に抱きつくと、そのまま電車ごっこのように二人で厨房のほうに向かう。
「はーい。右曲がったら真っ直ぐだぞ。着いたら手ぇ放すからなあ? こけるんじゃねえぞ。」
「うるせえ。ガキ扱いすんな。」
 少しずついつもの兄らしさが戻ってきた。そんな兄が胃痛と頭痛の種なのに、落ち込んでいる兄を見ていると、やはりほっとけない。たとえ、永遠の恋敵である義父の身代わり扱いという、気の重さから解放されなくてもいいと思えるくらいには。
 それにしても人が見たら呆れ果てる光景だろう。あの冷静で完璧な奥村先生がご乱心あそばされたと思われるかもしれない。いや、絶対思われる。
 ハイジの夢遊病になるレベルのホームシックを、笑いで解消させるロッテンマイヤーさんがどこにいるんだよ。ツッコむ声がどこからかしたような気がする。
亡き亡父のようであり、あの捻くれた悪魔のようでもあった。
でもそれはどうでもいいことだった。今日一日、藤本獅郎の身代わりになってやってもいい。雪男は珍しく気兼ねなくそう思えた。
 
 



お待たせしました。木音さんリクエストの勝呂も志摩もいない二人きりの雪燐です。前置きがないと書けない話だったので、前置き話まで書いてしまいました。だけど永遠の初恋の人までは追い出せないのがちょっと雪男の力不足なところです。こんな雪男でも楽しんでみてくだされば幸いです。
引き続きのリクエスト企画の参加有難うございました! また機会があれば付き合ってやってください。楽しみにしております。

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柴仲達
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女性
職業:
会社員
趣味:
読書、二次創作
自己紹介:
忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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