幸福雑音
女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。
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☆ss「ハンプティダンプティ」志摩燐
木音さんのリクエストで書きました。その2です。「雪男のいない時に燐の手料理を食べる志摩」です。
「奥村君。俺から頼みがあるんや。」
天下のちゃらんぽらん・志摩廉造が真剣な目で燐に頭を下げている。
「なんだよ。気持ち悪いな。」
「気持ち悪いかてっ。失礼やろ!」
流石はカッコいいランキング選外へのあしらい方である。これが勝呂相手だったらもっと歓迎されただろうに。
「まあいい。聞いてやる。」
「偉そうっ。まあええわ。奥村君料理得意って聞いたんやけど、ちょっと一品作ってくれへん?」
「とりあえず、何を作って欲しいんだ?」
まだ了解はしていないが、料理のことについては燐も食いついてきた。志摩は一言、卵焼きと答える。燐は首を捻った。
「え? 卵焼きって言ったら、三日にいっぺんは朝飯に出てきてるじゃん。」
志摩はぶんぶんと首を振る。
「アレは出汁まき卵やろうが。俺が食べたいのはなあ、砂糖と塩だけのシンプルなあまーい卵焼きなんや。」
正十字学園はいわゆる地元一の金持ち校である。どうしても食事も手の込んだ傾向に行きがちだ。寮の朝食の卵焼き一つ取っても、寮の調理士さん達は迷わず出汁まき卵の高級でスシネタになりそうな代物をつくってくる。燐もかねがね、高校生相手にやりすぎじゃねーかこれと疑問に思っていた。(ウコバクはレシピを提示されてそれ通りに作っているから罪はない。あくまでそれを作り手に要求する学園側の特に理事長のメフィストのモチベーションだろう。)そしてそのささやかな疑問の賛同者が目の前にいる。
「まあ別にいいぜ。今日雪男は任務で留守だから、そんな暇あったら勉強しろとか言われないし。作って明日持って行くか?」
「作って貰えるとなると待ちきれまへん。お邪魔して食べに行かさせて貰います。」
志摩はたれ目を余計に垂れさせながら、おおきにと言った。
「んじゃ。塾終わったら来いよな。」
燐は努めてそっけない口調で言う。しかし内心は嬉しかった。
* * *
放課後、旧寮の厨房で燐と志摩は二人きりだった。ウコバクは隅っこに避難している。というか、男のしかも、食べる専門の燐の客にウコバクは用がなかった。
「甘さは控えめのほうがいいか?」
「いや。卵の味を殺さん程度にあまーいほうがいいです。」
お? と燐は志摩の言葉に反応する。意外とこいつは料理のこと分かってるんじゃねえか?
弟の雪男はとりあえず薄味ならなんでもいい野郎なので、燐は常々手ごたえがなくてつまらない奴だと思っていた。雪男自身が食べることに頓着しないので余計に思ってしまう。雪男にしてみれば文句言ってるわけじゃないんだから、別にいいだろうという考え方だが、作る側としてはそれで納得出来るわけがない。燐は注文を付けられれば、はりきるタイプの料理人だった。
「さて。」
燐は片手で卵を割る。志摩がほーっと横で声を上げている。なんだか凄くいい気分だった。修道院にいたころは小さな頃からいたせいか、誰も燐の一挙手一投足に反応することはなかった。作った料理をいつもどおりに美味しいと食べてくれるのだが、その作る過程に注目されることはなかった。彼らの日常に燐の料理をする姿が溶け込みすぎた所為だろう。
だから志摩のリアクションに笑みがこぼれる。出来た料理を頬張ってくれる姿を見るのも楽しいけど、作ってるところを後ろから覗かれて感心されるのも悪くない。小さい子を持つ母親がこんな気分なんだろうか。
菜箸で卵をかき混ぜ砂糖と塩を加える。さらにかき混ぜて四角い卵焼きのフライパンをコンロにかける。
「ここでいい具合にフライパンをあっためとかないと、上手く焼けないんだ。」
「そうなんや。」
頃合を見て卵を注ぐ。じゅーっと卵が焼けながら広がっていく。それを手早く巻いていく。片側に寄せてもう一度油を引き、さらに残った卵を流し込む。そしてまた焼く。ベテランの料理人としては焦げの一つも作りたくないところだった。
完璧な色形、焼き具合を目指した渾身の卵焼きだった。
「切らんでもええよ。」
「わかった。」
燐は皿の上に出来たての卵焼きを載せる。志摩はいそいそとテーブルについた。
「はあっ。夢にまで見た卵焼きやわ。」
「そうかそうか。」
燐は久しぶりに新鮮な喜びに包まれていた。まさか志摩相手にこんな気持ちになるなんて。ひょっとしたら、こいつは自分が思うより魅力的な人間なのかもしれない。好物を目の前にして素直に喜ぶ姿に微笑ましくなる。目の前の志摩がキラキラしている。卵焼き一つでとんでもないフィルターである。
しかも燐の料理人生で卵焼きとは原点だった。
『父さんに最初に作ったのも卵焼きだっけ。』
初めて作った故の激マズさ加減にむせながらも、食べた後は笑顔を見せてくれた。でもそれは、不味いものを食べさせたという現実も殊更に感じさせて悔しかった。だからこそ美味しいものを食べさせたいという思いを絶対のものにさせてくれた。思いだけでなく、実際に才能もあったのだろう。燐の食事当番のときは、かすかではあるが楽しみにするみんなの気配を感じ取れるほどになった。
「美味しいか?」
「うまあ……。絶品やわ。」
燐は志摩の向かい側で頬杖をつく。なんだか卵焼きを食べる志摩が眩しく見える。かっこよさの片鱗は見えないのに、どうしてか魅力的だ。あまりにも自分の心の変動に動揺した燐は志摩から視線を外すと、俯いて赤くなる。
『俺、どうしたんだろ。』
胸までドキドキと高鳴る。志摩の声が聞こえる。
「ほんま奥村君って男にしとくのが勿体無いわあ。嫁にしたーい。」
そうかと頭を上げた燐は眉をしかめる。
「おい。」
声まで低くなる。燐の視線は志摩の左手に握っていたものに向けられていた。紅い蓋に黄色いボトル。世間でいうマヨネーズだった。ボトルから搾り出された黄色い物体が、渾身の卵焼きを覆うような勢いでかけられている。黄色が黄色を侵食する異様な光景が皿の上で繰り広げられている。
「お前卵焼きになんてもん掛けてやがるんだ!」
「え? マヨネーズやけど?」
志摩はひたすら不思議そうな顔をしている。それもそのはず。燐と志摩の間には決定的に交わることの無い平行線があるのだった。
燐はびしっと志摩を指差す。しかし怒りのあまりにその指は震えていた。
「俺はそういう、マヨラーとかケチャッラーとか、惰性でとりあえず料理にはソレをなんでもかけるって奴が、大っ嫌いなんだよお!」
えええええええっ。と志摩は燐の剣幕に悪魔が聖水をぶつけられたような悲鳴を上げる。
「そ、そやかて。若もんならマヨネーズくらいかけるのが普通ちゃう?」
しかし燐には通用しない。まさしく逆鱗に触れるである。
「うるせえっ。ちょっとだけいいなと思ったお前は、俺のとんでもない勘違いだったよ! やっぱりお前はランク外だ!」
「うわあ! 燐ちゃん怒らんといてえ。」
「燐ちゃん言うなっ。」
青い炎は出さなかったが、その場は修羅場と化していた。そして二人をほくそ笑みながら見ている誰かがいた。任務が早く済んで帰ってきた雪男である。
志摩君。とんだ墓穴を掘ったね。
思い出すよ。父さんが鳥のから揚げにマヨネーズをかけた時の兄さんのキレっぷりを。
やっぱり兄さんを理解してるのは僕なんだ。残念だったね。志摩君。
出来たら次は勝呂君あたりが、野菜炒めに醤油掛けて今日のようになればいいんだ。
しかし雪男は知らない。食べることに頓着しない姿勢(注文は付けないが食べることに関心が薄い)で、自分が兄の中のポイントを日々じわじわ下げている事実に。
ちなみに勝呂は料理に何も足さない派、であることは雪男は知らない。
その1がどうも殺伐とした状況で書いてしまったので、普通の状況バージョンも書いてみました。あまり甘くなくてすみません。そしてこの話に限っては「アラベスク」関係ありません。
その1がどうも殺伐とした状況で書いてしまったので、普通の状況バージョンも書いてみました。あまり甘くなくてすみません。そしてこの話に限っては「アラベスク」関係ありません。
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忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
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