幸福雑音
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☆ss「高砂3」勝燐夫婦ネタ 雪男vs虎子
「ごめんください。」
「新聞なら間におうとりますぅ。」
「この僕が新聞屋に見えますか?」
「うわあ。ほんまや。どっからどう見ても祓魔師やわ。」
「奥さん。それは見抜き過ぎです。」
「しかも息子の上司の奥村さんやわ。」
「どうして分かるのですか? 不肖の部下の勝呂君のお母様。」
「そういうあんたかて、うちのアホ嫁の弟さんやないですか?」
「アホ嫁は失礼じゃないですか。」
初対面の第一発から波乱含みの会話が玄関口で行われていた。穏やかな顔と口調、しかしその裏には一物どころではない兄への思いを隠し持つ奥村雪男、そして全ての良い事も悪いこともブルドーザーのようにならして平らにする京女にして明陀の母・勝呂虎子のファーストコンタクトだった。
二人は口には出さないが、この出会いに宿命めいたものを感じていた。
『こいつ』『できる』
不浄王の眼ん玉事件では、雪男は事件を追う側だったので虎子とは接触がなかった。しかしあの時は勝呂達磨も秘密を抱えていたし、不浄王の眼ん玉の件もあったので、もし出会っていたとしても遺憾なく会話出来たかどうかわからない。しかし二人はその当時ですら同じ空間に、自分と同じ関西でいうところの『いけず』の気配を感知していた。互いの息子と兄から。
東の『いけず』と西の『いけず』の戦いが、始まらなくてもいいのに火蓋が切って落とされた。まさしく混ぜるな危険であった。
「まあお土産でもどうぞ。」
虎子はお土産のパッケージを見て感嘆の声を上げる。
「いやあ。ひよこ饅頭やわ。でもうちは東京のひよこ饅頭より、九州のひよこ饅頭のほうが口に合うわあ。」
「よく見て下さい。これは九州福岡のひよこ饅頭です。」
雪男はパッケージを裏返す。工場の住所は九州福岡だった。虎子はあっけに取られる。
「なんで東京から来たあんたが、九州のひよこを買えるん?」
「京都の方は東京に対する偏見があるということを予測したまでですよ。たぶん東京のひよこは口に合わんと言われるに違いないと。」
虎子の問いかけに対して雪男は何も回答していないが、虎子はそのひよこ饅頭の入手ルートの予測がついていた。祓魔師の上級者には便利アイテムが付き物だと。
「ふうん。そうなん。」
虎子は一発入ったと思ったが、まだ軽いと思った。
「そんなら戴こうな。お茶でも淹れるさかい。」
「有難う御座います。」
雪男は部屋に通される。作法どおりに座って虎子が茶を淹れるのを待った。
「粗茶ですがどうぞ。」
雪男はその茶を飲んだ。
「流石は宇治の玉露。味わい深いですね。」
雪男は京都で茶と言えば宇治だということぐらい分かっている。しかし虎子の眼が光った。
「ぶー。これは玉露は玉露でも、静岡の清水の玉露やわっ。」
雪男は思わず両手で己を庇った。
「なんでわざわざ静岡の清水……。」
宇治緑茶という名産があるのに。これも自分の言葉を先取りして虎子が仕掛けた罠だと悟る。客にそんな引っ掛けをかまして大丈夫かこの旅館とも思った。
虎子はにやりと笑う。この若造がと言いたげである。
「こないな冗談も家族やからできるんですえ。」
善人ぶるのは虎子の十八番だった。しかし雪男だってそれは得意だった。
「家族同然に扱って貰えるとは、光栄ですね。」
「そういうたら目の敵と書いて友と読むと言いますやろ?」
「奥さんそれは宿敵の間違いですよ。」
あはは。うふふ。
なんとも言えない笑い声が静かな部屋に木霊する。
「ところで、うちの兄は奥さんの娘としてはどうでしょうか?」
ん? と、虎子は柔らかく微笑む。
「アホ過ぎるのはあるけど、ええ子やと思いますわあ。」
「そうおっしゃられて頂けると嬉しいですね。弟としては。」
「うちの息子はあんたの新しいお兄さんとしては、どないですか?」
「まあ給料分の働きはしてくれますね。」
「あんた! うちちゃんと褒めたやろ。ちゃんと燐ちゃんのこと! 遅出しジャンケンみたいな手ぇ使ってくるなんて、やっぱり東京もんは恐ろしいわあ。」
何をしおらしいことを言わんばかりに雪男はニコニコ笑顔を崩さない。
「このご時勢、十八歳の若者が、給料に見合う仕事をしてくれるだけでも有難いですよ。」
「くっ。流石は魔王やわ。ああいえばこういう。」
「僕がいつ悪魔落ちしたと?」
雪男は必殺「原作はそこまで進んでない」を炸裂させた。
「ああ。そうやわ。これは原作でも『とっとこう』ハム太郎なネタやったわなあ。」
「そうですよ。『とっとこう』、ですよね。もう最終回まで『とっとこう』でいて欲しいですよね。」
とって置こうがうまい具合に京都弁にマッチした。雪男はこんな普通の主婦にもこれでネタにされるのかと辟易した。
「みんな先を読みすぎなんですよね。」
「誰に言うてるか分からんけど、なんか同情するわあ。」
二人は湯飲みを取るとずずずと音を立てて茶を啜る。
「ところで奥さん。」
「いやっ。虎子って呼んで!」
ここでリアクションしたら負けだと思った雪男は続けて奥さんと呼ぶ。はあいと虎子は素直に返事をした。
「竜士君は近々、明陀の寺を継ぐ為にこの実家に帰るそうですね? そしてその際には兄もこの家に連れてくると聞いたのですが。」
「そうや。うちは全然かまへんで。うちは嫁に来た時から悪魔のちょっかいなんか慣れとるからなあ。」
「そこらへんの野良悪魔と、うちの兄を一緒にせんといてくれはりますか?」
「あらぁ。京都弁うまいわあ。」
「失礼。はっきり言いますとそちらへのご迷惑以前に、僕としては正十字本部から兄をあまり引き離したくないんですよ。」
「兄離れできへん弟かっ。」
雪男の顔が引きつる。
「それは心の中だけで呟く言葉じゃないんですか。」
虎子はすんまへんと心の篭らない返事をした。
「兄は祓魔師ですが、ヴァチカン本部にしてみれば特Aのマルタイなんです。本来なら籍だけだとしても結婚はNGなんです。」
「今更そんな話されても明陀は知りまへん。」
「何言ってるんですか。明陀も正十字騎士団に加入している団体でしょうが。」
「じゃあ、勝呂家はそんな話知りまへん。嫁にもろうてから言われても困ります。」
嘯くように虎子は言う。
雪男にとっては意外だったが、なんと虎子はあの馬鹿兄を気に入っているらしい。姑根性として、今にも勝呂の家から追い出したいとでも考えそうと思っていただけに。やはり関西人だからあの兄のボケを格好のツッコミ対象にしているのだろうか? それとも育成素材として見ているのだろうか?
「あんな元ヤンのどこがいいんですか。」
「そんな。うちかて昔は……。あ。これは内緒やった。」
「それはいいです。要するに、息子が選んだ嫁だからですか。」
「そうやねえ。」
虎子はほっこりと笑みを浮かべる。
「あの子はなあ、親がええって言うのに明陀継ぐ言うて東京の学校に行ったんや。んで。うちなあ、東京に行く前にちょっと脅かしてやったんや。」
「なんて言ったんですか。」
『竜士。あんたがなあ、明陀継ぐのは勝手やけどなあ。明陀継いだらあんたの嫁はんになる人はなあ、漏れなく魔障が付き纏うんやで。うちもあんたのお祖母ちゃんも、その前もその前もその前も、明陀の嫁は命掛けて跡取りを産んできたんや。お陰でみんな一人っ子や。あんたは明陀継ぐんは自分だけ継ぐんか、そのあともずっと続いて欲しいんか、よく考えてみい。将来好きな子にそんなえらい思いさせる覚悟あるんか?』
「そしたら三年後に連れてきた嫁が、『あの』燐ちゃんや。男やから子ども産まんでもええし、悪魔のしかもサタンの子やから魔障も平気や。うちとお父ちゃんはな、ほんまにようやったと思ったわ。」
「でも竜士君がこのまま跡取りになったとしても、次が……」
「もうカルラおらへんし。不浄王も往生したし。明陀ある理由言うて、もう檀家さん相手か正十字の任務しかあらへんやろ。それとうちの旅館の仕事となあ。燐ちゃんうち来てもなんも問題あらへんやろ。」
つまり燐は正真正銘、勝呂家の嫁ということらしい。雪男はがっくりとうな垂れる。
「貴女なら僕の言葉に乗って下さると思ったんですけどね。常識的に考えて。」
褒めているのか貶しているのかどうか分からない言葉だった。せっかく兄と勝呂を別れさせようとして、京都まで二人の先回りをしたのに。とてつもなく当てが外れてしまった。雪男は膝に乗せた手を握り締めて俯く。虎子は無言でポットから湯を急須に足すと、雪男の空になった湯飲みに茶を注いだ。
「あんた。お兄ちゃんのこと、ほんまに好きなんやねえ。」
普通なら頷けない。他の人間から言われたら絶対にはぐらかして誤魔化したくなる問いかけだった。しかし考えるより先に何故か雪男は涙をぼろぼろ零していた。
「奥村はん。あんたもうちに来ん?」
いきなりの勧誘だった。しかし雪男は首を横に振る。
「出来ません。僕は管理職だから。」
ふーんと虎子は気の無い返事をしたが、まだ雪男の返事に納得していないようだ。
「志摩さん家の三男さんとな、お姉ちゃん二人が騎士団の本部であんたの上におるはずなんや。うちが頼めば、あの三人のうち誰かがええように人事してくれると思うで。何せ坊の嫁の唯一の身内やからな。」
雪男は顔を上げる。騎士団がどうの悪魔がどうのと理由付けをして雪男だが、たった一人の血の繋がった大好きな兄と離れるのが嫌なだけだった。でも自分はなまじっか立場があるだけに、京都に一緒に行くなんて考えもしなかった。
「奥さん。お言葉に甘えてもいいですかね。」
「雪男君。いや、雪ちゃん。もう今日からあんたもうちの娘やからね。」
「おかあはあん!」
雪男と虎子は座卓を挟んで手を取り合う。日差しが二人をあたたかく包み込んだ。
旅館『とらや』にて、女将・虎子の繁盛記は続く。本日は正十字騎士団屈指の天才祓魔師・奥村雪男を一本釣りした虎子であった。
* * *
「奥村先生先行っとるって? 燐はよせなっ。」
「雪男が何にも言わず先に行ったのはアレだけど、どうしてそんなに急ぐんだ?」
竜士は志摩から掛かってきた電話を切って、燐の手を引いて大股早歩きになる。
「嫌な予感がするんや。寺のほうやなくて、旅館のほうに行った言うとったから。」
「あのお義母さんなら大丈夫なんじゃないのか。」
「大丈夫なんが問題なんや。おかん絶対に変な方向に話持っていっとるに決まっとる。」
同じ京都の空の下、燐と竜士はとらやに急ぐ。しかしもう、全ては終わっているはずである。
雪男君も勝呂家入りしました。竜士君のストレスメーターも上昇します。なのに虎子さんはしてやったりです。燐は驚きはするけど、雪男と一緒で嬉しいと思います。まだ続くのかな、これ。
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忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
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