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幸福雑音

女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。

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☆ss「或る妖怪の感傷的な考察」 東方レミ咲

 

私が思うような彼女は、完全で瀟洒。そして誰よりも一途です。
そんな今朝の彼女は、一途さ故に、まったく完全でも瀟洒でもありませんでした。
 
銀色の髪は一応は結われていたものの、それは朝に結いなおされたものではなく、昨日の夜からずっとそのままで、ところどころ三つ編みが緩みかけ、見た目にも少々疲れているような印象を醸し出していた。
 朝の四時。本当ならこの紅魔館の主は就寝に入るはずだった。しかしまだその主人・レミリアは紅魔館のどこにも姿を見せていない。咲夜は図書館も探してみたが、図書館に篭りきりのパチュリーもレミリアの姿を見てないという。
 こんなことならレミリアの外出に自分もついて行きたかった。だから同行を申し出たのに。しかし昨日の夜は、レミリアについてこないで欲しいと言われたので、特別な理由も無いのに主人の命令に背くことが出来ない咲夜は、ただ出掛けていく主人の後姿を見送るしかなかった。
 咲夜は屋敷を出て屋敷と外界を隔てる門扉のところまで来ていた。そこでずっと佇んでいる美鈴に挨拶もそこそこに問いかける。
「美鈴。お嬢様は今朝はここを通らなかったかしら?」
 美鈴は首を振る。
「昨夜出て行かれる時にはここを通られましたけど。」
「そう……。まだ帰ってきてないのね。」
 綺麗な白い糸切り歯が薄い色の唇を噛む。美鈴は努めて明るく声に出す。それはいつもの完璧な咲夜の憔悴も入り混じった顔に妙な色気を感じたのを誤魔化す為でもあった。
「咲夜さん。お嬢様は心配ないですよ。なんならここで私と待ちませんか?」
 そう言いながら、さりげなくその頼りなげな肩を引き寄せようとしたが、咲夜は自然で緩慢な動作で、その美鈴の手を振り払った。というより美鈴の手は美鈴の胸に引き戻されてしまった。
 邪な考えを悟られてしまったのかと、焦って次の誤魔化しの言葉が口をついて出る。
「そ、そうですね。ここで二人ともいたんじゃ、一箇所しか見張れないですもんね。でもですね。お嬢様はここの主人なんだから、泥棒みたいに裏口から帰ってくる必要なんか、ないんじゃないですか? よっぽど疚しいことがない限り。」
「疚しいことって何?」
 咲夜の顔色が余計に白くなる。美鈴は取り繕うように自分の言葉に付け足す。
「だから、お嬢様には妹様がいらっしゃいますし、友人のパチェリー様も。もちろん一番の懐刀の咲夜さんもいるのですから。」
 咲夜の手は白いエプロンを皺くちゃにしてしまうほど、その白くて清潔な生地を握り締めていた。
 口数の多い妖怪は、やはり下々の邪推するようなレベルでしか話をしない。
下世話なその想像はしかし、主たるレミリアを揶揄するものではないようだ。
「外で逢うような女がいても、所詮はたまに遊ぶくらいでしょう。いつも支えてくれている咲夜さんより、上なことは無いと思います。」
 気楽な妖怪は慰めているつもりかもしれないが、咲夜が心の中で思わないようにしていた、悪い予感そのままを口に出してしまっている。しかもレミリアなら当然だといわんばかりだ。
 確かにレミリアは高貴な身分である。例えば外の世界で言うところの貴族みたいな。彼らは伴侶の他に恋愛の相手を持つなんてのは日常茶飯事。今の咲夜のようにやきもきしたり、心配を募らせるのは寧ろ、階層の低い女の発想だと取られてしまう。 
だから咲夜はそれを口に出さない。口に出すのは、吸血鬼である主人の身体を気遣っていると取られる程度の、言葉だけ。
 そんなにやせ我慢して。自分は所詮使用人頭じゃないかと、咲夜は本来の自分の立場を振り返ろうとした。レミリアを高貴たらしめているのは、メイド長である咲夜の振る舞いにも掛かっているから。咲夜はそれを認識している。だから妖怪の言葉に何も反応をしめそうとしない。
 何もその表情は感情を表そうとしない。
 完全で瀟洒。その鋳型を精神的な枷だと今日ほど思ったことはない。
 
「あれって、お嬢様?」
 
 うな垂れそうになる頭をなんとか前方に向かせる。咲夜の健気さが報われたのか、門の遥か向こうでレミリアの小さな影が現れた。妖怪が指差した先、少し霞んだ視界の中に白く浮かぶドレス姿が、自分たちの方に歩み寄って来る。
「おはよう。二人とも早いのね。」
「お嬢様。おかえりなさいませ。」
 咲夜は最敬礼でレミリアを迎える。いつもどおりの瀟洒な表情で、完全なるメイドの姿だった。ただ、その頬がいつもより艶がなく、どこかやつれたような顔色を顔を下げることで隠そうとしているようにも、傍目からは見える。気付いているのか、気付いていないのか、レミリアは何気ないふうに口元に手を当てて欠伸をした。
「違ったわ。私が夜更かしだったのね。咲夜、お茶はいらないわ。それと寝る前のお風呂も今日はしなくていいわよ。」
 咲夜は顔を上げてレミリアの帽子から覗いている髪を見る。明らかに夜明け前に洗われて、乾かしたばかりの髪だった。今の自分の髪とは全く逆の、今さっき家に帰ったばかりの主人の姿にしては、不自然な清潔さだった。咲夜は理由を訊こうか訊くまいか一瞬迷ったが、レミリアが屋敷に眠りに着くために入って行こうとするので、結局は何も言えずにレミリアの寝る支度を始めるために、その背中についていくしかなかった。
 
     *   *   *
 
「今日も図書館に用なのか?」
「お? 門番妖怪は今日は忙しいのか。暇つぶしに何もしないなんてな。」
 堂々と正面から入ってくる図書館の本泥棒と、紅魔館付きの門番妖怪は、自分たちの立場の違いにたいして気遣うことなく、互いに軽口を叩き合った。お互いにレベルの合った者同士、忌憚なく隣り合って紅魔館の塀に凭れて座った。
「弾幕ごっこでもするか? どうせ本が目当てなんでしょうが。」
「いやいや、門番妖怪。私はこの館の芳しい香りに誘われてやってきただけだぜ。」
「この女好きが。」
「お前こそな。」
「私は、女は泣かしたことは無いけど、女に泣かされたことは何回もある。」
 美鈴の意味深っぽく聞こえる言葉に、魔理沙は身を乗り出した。
「なんかある意味羨ましいぞそれ。どんなめくるめく体験をしてるんだあんた。」
「あんたこそ。女に纏わることなら、なんでもOKなんだな。」
「いや。それほどでも。」
「褒めてないぞ。この勘当娘。」
「ドロップアウトはお互い様だろ。」
 ふうと美鈴は溜息をつく。魔理沙はどうしたんだと美鈴の顔を覗き込んだ。
「またあの咲夜さんがらみか? 片思いは辛いねえ。」
「片思いって言っても、私はレミリア様にも妹様にも、パチュリー様にも気があるから、あまり堂々と片思いって言えないんだ。」
「アリスに対する私に近いもんがあるぜ。」
 私は両思いだけど。
魔理沙は少女らしくなくかっかっと大口開けて笑っている。
「それで、片思いの一人の咲夜さんがどうしたって?」
 美鈴はさいして気にすることなく、自分の身内の出来事を部外者に語り始める。
「お嬢様が朝帰りなさって。ちょっと咲夜さんがナーバスになってしまいましてね。私は気が多くてしがない門番妖怪だから、なーんにも、咲夜さんの力になれそうにないんです。」
「おいおい。あの咲夜がレミィの朝帰りくらいで落ち込むのかよ。」
「後から思い返して考えてみれば、私が何気に失言してしまったようで。口数の多さを呪うのですが。反省はしても覆水は盆に帰りませんし。つまみ食いしたクッキーも元に戻りません。つまり悩みの種を、私が咲夜さんの心に蒔いてしまったんです。」
 魔理沙はあまり合点がいかないようで、腕を組んで頭を捻っている。
「あんたは咲夜さんについて、あまり分かってないようだから言うけど、あの人は一人の人しか想えない人なんだ。」
 魔理沙はへえそうなのと言う様に今度は頷いた。
「つまりレミリアお嬢様一筋ってことか。あいつはヒトじゃないけどな。」
「咲夜さんはレミリアお嬢様のことを種族の違う吸血鬼だと思い切るか、それ故に心を縛られるかの選択に悩まされてるんです。」
「無茶苦茶難しいことを、普通の魔法使いに言わないで欲しいんだぜ。」
「あんたの頭は豆腐かい。」
「角にぶつけても死なないけどな。」
 そんなことよりと美鈴は立ち上がる。
「あんたは咲夜さんの名前をどう思う?」
 唐突に美鈴は魔理沙に問う。
「いい名前なんじゃないか。」
 魔理沙の素直な返答に、美鈴は深くうなずいた。
「そう。良い名前なんだ。姓も名も、どっちも月を思わせるような、素敵な名前なんだ。だけどそれは咲夜さんが生まれた時に貰った名前じゃない。レミリアお嬢様が付けてくれた名前なんだ。」
「それこそいい名前じゃないか。自分が選べない親がつけたんじゃなくて、自分が敬愛するお嬢様がつけたんだから。」
 魔理沙が言うとやけに説得力があるように聞こえる。父親と喧嘩別れしたせいだろうか。
 美鈴はしかし、魔理沙の相槌に再び頷くことが出来なかった。
「だけど咲夜さんは、名前の意味とか由来をお嬢様から何も伝えられてないんだ。」
 魔理沙は一瞬ぽかんと口を開いた。
「なんか分かった。つまりその十六夜って苗字も、咲夜って名前も、レミリアが昔好きだった女の名前じゃないかって、疑い始めてるんだろ。」
 こういうときだけ勘がいいなと感心する反面、軽蔑したくもある美鈴だった。
「咲夜さんの髪や目の色や、白い肌は、東洋の名前にはちょっと不釣りあいだろ。なのに、敢えてそんな名前を付けられたんだよ。あまりにも音も字も意味も綺麗だから、私も咲夜さんもみんな気に留めてなかったけど。改めて考えれば、なんて意味深で疑いようのある名前の付け方なんだろうってなって。」
「さく『や』ってことは、男の名前の可能性もあるしな。」
「そうなのか?」
 門番妖怪はそこまではレミリアを疑っていなかったらしい。まあ、人間の名前の付け方だから、妖怪の美鈴が男女の名付けが判別出来なくても可笑しくない。
「男。男かあ。まあそのほうがまだ、咲夜さんにとっちゃあ救われるかもしれない。」
「私珍しく良いこと言った?」
 少し褒めれば多大に勝ち誇るところが、魔理沙の惜しいところだった。
「いや。やっぱり咲夜さんじゃない咲夜さんがいないことを願うよ。私は。」
「そうだな。絶対無理があるよな。あんな可愛い顔した少女に、わざわざ男の名前を付けるなんて無理があり過ぎるもんな。」
 自分から自分の推理に駄目だしをする阿呆がそこにいた。
咲夜がレミリアに出会って心酔してここにいるのは、屋敷の外の人間が思うほど長くはない。レミリアにとってはたいしたことのないたまたま復活した夜の遊びだろうが、咲夜にとっては身も心も捧げた主人が別の女の匂いを漂わせていることで、主人を疑って苦しんでいるのだろう。そして自分が触れることの叶わない主人の過去にまで嫉妬している。そして今まで主人から押戴いた名前にまで疑いを深めている。美鈴にしてみても、この状態はあまりよくないと思えた。しかし自分に何が出来るのかと自問してみれば、答えはあっさりと何も出来ないしか言葉が出ない。
ふと見上げると今日も月が綺麗だった。館の中のことまでは、門番妖怪が知ろうはずもないが、あのレミリアお嬢様が気紛れでもいいからメイド長に優しくしてくれたら良いのになと、気の多い門番妖怪は薄い希望を胸に秘めて、紅い屋敷を振り返った。

初の東方小説です。続きはそのうち書きます。

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柴仲達
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読書、二次創作
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忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
柴はツイッターもしています。http://twitter.com/#!/hitsugi12

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