幸福雑音
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☆ss「Esperanza―りんメランコリー―」(勝燐、オチは雪燐)
俺は悲しい。何故なら勝呂がしえみのことばかり褒めるからだ。
「本当に杜山さんがいなかったら本当ぉに危なかったわ。」
しえみは身を挺して樹木のバリケードを作って、詠唱が終わるまでの時間を稼いだ。屍の魔障で体力をけずられながらも、ぎりぎりまで守り抜いた。
だから候補生昇格試験のあと、勝呂はとにかくしえみに一目置くようになっていた。そして燐の気も知らずに、ことあるごとにしえみに無意識のアプローチを掛けている。それは恋愛のアプローチではなかったけれど、それだけで手放しで燐は安心出来なかった。
「杜山さんの非常時における心構えが常人のそれやない。寺の修行を齧った俺にも分かる。」
齧ったくらいで分かるのかよお前と燐は心の中でツッコミを入れる。しかし、しえみが意外と度胸が据わった女であることは燐も認める。あの実力もあるし気も強い神木出雲のほうが、出遅れて援護するのがやっとだった試験中の状況――。勝呂もしえみの体力の消耗を見て、やっと腹を括ってグールと対決する意思を固めたぐらいの。そう何もかもがしえみを中心に起こった奇跡だった。
「う、うわあ。燐。私すごく褒められたよ。」
普段が大人しいとか、おっとりしているからとか、あらゆる補正を差し引いても、その賞賛は当然と言えば当然だ。しかし修羅場慣れしている燐には分かっていた。
しえみの非常時での剛勇ぶりは単に心の螺子が足りないせいなのだ。しえみはかつて自分の家の庭に引き篭もっていた。
それがいきなり塾に通いだして、祓魔師の勉強を仲間と一緒に始めた。出雲からの不当なパシリ扱いも、世間というのを知らないしえみにとっては、ある意味信頼の証の頼みごととして取っていた節もある。しえみはほぼ自分が生まれて初めてまっとうに所属することになった組織の一員として役に立ちたいという思いが強かったから。本来怖がって判断が鈍るはずの場面でも咄嗟に動けた。燐に言わせれば、ただの考え無しの怖いもの知らずが、あの時のしえみの本質だった。
勝呂はどっかの誰かさんは無謀にも一人で単独行動起こしよるしと、燐を追い討ちを掛けるようにしえみに言った。燐はずきっと胸が痛む。恨めしそうな眼で勝呂を見たが、こんな時に勝呂が甘やかしてくれないことは分かってる。
『俺が無茶なのはわかってるけど。』
燐は自分の行動も振り返る。あれは誰からしても一見すれば独断専行の無茶苦茶なのは確かだった。身の程を知らずに囮を引き受けた馬鹿が、一匹しか対象を寄せ付けられず運良く倒せたにしか過ぎない。それが勝呂の中の燐としえみの評価の差を生んだ。
勝呂は燐から見ればまっとうな世界でずっと過ごしてきた、いわゆるボンボンだ。しえみは無菌培養された、これまたお嬢さんと言っても差し支えがない。所詮、自分なんかと違う世界の住人だ。でもそれが燐には眩しく見える。
「俺だって、頑張ったのに……。」
しえみと違って、燐はもの凄く勝呂に怒られた。その理由はもっともだけど、自分の活躍は誰にも見られてはいけない。自分の炎は誰にも見せちゃいけない。
「俺一度でいいから任務で杜山さんと組みたいわあ。」
「えっ。私とですか? 頑張りますっ。」
また勝呂が悲しいことを言う。それにしえみがやる気になって応えてる。でも仕方ない。
つらつら考えると、まるで自分が悲劇の主人公じみてくる。それはみっともなくて、惨めなことで。そんなのは嫌だから、無理矢理ポジティブに考えてみる。
『俺は隠れて皆を守る影のヒーローなんだ。』
手前味噌なキャッチフレーズは不思議と気分が高揚する。うふふと薄く笑って勝呂に笑いかけようとしたら、視線の先が途中で、自分のことを何とも言えない顔で見ている弟と合った。
「兄さん。どうしたの?」
「雪男かよ! 勝呂はどこ行った?」
「勝呂君なら志摩君と三輪君と一緒に出て行ったよ。」
しえみもいつの間にか消えていた。燐は考え事に夢中になっていた自分が恥ずかしくて机に突っ伏する。すると雪男が微笑ましそうに言う。
「残念ながら勝呂君は兄さんを分かってあげられないけど、僕だけは兄さんを分かってあげられるから。」
自分と弟しかいない教室で、燐は悪魔に魂を売り渡してしまいそうになるような弟の笑みを見た。
「雪男だけ?」
「そうだよ。兄さん。」
雪男は満足そうに兄の頭を撫でた。候補生昇格試験のあとの勝燐です。
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忍たまで「幸福雑音」というサークルで、大阪のイベントに出没しています。
絵描きの竹さんと字書きの柴の二人サークルです。
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