幸福雑音
女性向け二次創作サイト。 イベント参加情報もここに載せています。 オフは忍たま、オンでは青エク中心。
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☆ss 「世界はそれを愛というんだぜ」(伊雑)
「雑渡さんは僕となら、どんなことまでなら出来ますか?」
唐突に伊作が雑渡に問いかける。
「どんなことって――。僕らとりあえず、その、なんやかんや、お互いに誤解しあってたこともあったけど。今はきちんと付き合っているじゃないか。それ以上なにかあるの?」
雑渡はあまり抽象的な受け応えは得意ではない。自分の部下がそんな言い方をしたとしたら、絶対に注意なりして改めさせたりするのが常だった。しかし伊作は忍者隊のどのぺーぺーよりも歳が若いが、雑渡にとっては対等に付き合っている彼氏なので、勿論そんな年上ぶったことは言わない。しかし伊作の言いたいことがいまいち雑渡には分かっていない様子だった。
「なにかと言われても……。」
「ごめん伊作君。もうちょっと考えてみる。」
それでも雑渡の首は捻られたままで、まっすぐに戻ろうとしない。それを横目に見ながら伊作は伊作で、なんで言葉の裏を読まないかなこの人、と思っていた。
このままでは埒が明かない。伊作は雑渡の肩をぽんっと叩く。
「あ。ちょっと待って。今、言おうとしてたんだから。」
業を煮やした伊作が性急に結論をだそうとしていると考えた雑渡は、慌てて伊作の手を振り払う。
「その、あの……アレだろう? アレ。将来的な展望とかそんな感じ? 君はすぐ就職だし。」
「ぶー。」
伊作は顔の前で手を交差させる。
「それももちろん考えていることではありますが。あなたが僕と出来ることを言っているのです。」
「僕たぶん、君の就職に有利に働けると思うんだけど。」
「しちゃいけません。」
「えー……。」
本当に油断も隙もない。不平の声を聞く限り、実際にやらかしかねない気配がひしひしと感じられた。一城一軍の組頭が、そんなふうに懇ろになった男に流され、割と重要であるはずの人事に私情を混ぜまくっていいのだろうか。
いや。よくない。というか、伊作としてもこの年上の恋人の考え方が怖かった。しかしもう一方で、男の悪癖である虚栄心を満足させてくれる雑渡の甘さを嬉しいと思う。忍として類稀な男が、伊作がその気にさえなれば職権濫用も辞さないと言う。しかし悲しいかな、伊作にはその特権だとか恩恵に浴する度胸がいまひとつ足りない。
人の甘やかしに甘えて駄目になることを避けるようにというのが、忍術学園の教育方針だが、そんな高尚な志など関係なく伊作は、自分の身に余る幸せというものに慣れていないだけなのだった。
「僕は苦労してるほうが合ってるんですよ。ていうか、たぶんその方が安心して生きていられると思うんです。」
「そっか。伊作君は幸せだと死んじゃうんだね?」
「うにっ! 幸せにはなりたいですよ! でも、それはそれ相応なりの、いや、それ以上の血が滲むような苦労をしてからじゃないと。……ぶっちゃけ、後の反動が怖いんです。」
「その怖いことも僕がぶち壊せるんだけどね。うにっ。」
本当に冗談か正直か区別がつかない。伊作はいやいやと手を横に振った。雑渡は手を腰に当ててうんうんと頷いている。
すっかり話は横道に逸れてしまった。僕とならどんなことまでなら出来ますかという問いが、大分遠いところに置いていかれてしまっている。伊作はあくまで現在の交際について話したかったのだった。もう少し決定するには時間的には余裕のある自分の将来のことより、今、目の前の雑渡との恋愛を、どう発展させるかということを微に入り細を穿って際どく話し合ってみたかっただけなのに。
現在、伊作と雑渡は、一応の形では肉体関係を経た恋人同士なのだが、如何せんその(つまりエッチの)機会があまりにも少なかった。伊作が心置きなくその機会に恵まれるのは、長期の休みにタソガレドキ領に赴き、雑渡の屋敷に訪れるしか手段がない。雑渡はわりと忍術学園を訪問するが、あくまで忍術学園にとってタソガレドキは敵対だとしているので、とても、学園内でそのようなことをするわけにはいかない。幾ら雑渡が入り浸ろうが、後輩が雑渡の部下に恋をしようが、雑渡にうどんを振舞おうが、雑渡から土産をもらおうが、それだけは越えてはいけない一線だった。
というか、ぶっちゃけ無理だった。学習スペースには教師の目とじょろじょろした同級生や下級生のたくさんの目があって、生活スペースには留三郎の目があって、保健室は雑渡の出没地点として学園からマークされている。
だから――。伊作は雑渡に提案するつもりだったのだ。忍術学園の中がいけないんだったら、今、今日このときのように授業が休みの日に、人気のないところで逢引のついでにラブホでエッチとか、人に見られたくないというなら屋外で、とか。むろんそれは昼日中のことになるので(休みと言えども忍術学園には門限がある)、強引には迫れない伊作は雑渡の了解を得たくて、はるか冒頭の問いかけをしたのだった。
「伊作君は将来に対して前向きに悲観的なんだねえ。」
「後ろ向きに楽観的よりましだと褒めて頂けませんか?」
「うん。なんか足掻いてるって感じだよね。少年漫画だよね。」
「僕はそこまでかっこいいつもりじゃなかったんですけど。」
それでも君の生き様は素敵だよという雑渡に、伊作は温い笑みを返した。それは、今までの会話があまりにも自分の胸の内と食い違ってしまったので、笑うくらいでしか間を持たせられなかったからだだった。
『もう。本来僕が雑渡さんに問いかけたかった話題に戻せないよ。』
今回は、堅実な将来の話になってしまったので、今更生臭い話でぶち壊すわけにはいかなくなってきた。それでも伊作は雑渡に(そのつもりがなくても)、一本取られたままではいられない。何か上手いこと言って、雑渡を驚かせてやりたい。
「ところであなたが思う僕達の将来って、普通に僕がタソガレドキ忍者隊に入ることを前提に、話されてますよね。だけどここで少し発想を逆転して考えてみてはどうでしょう。」
「発想を逆転?」
「僕があなたのもとに行くのではなく、あなたが僕のところ――忍術学園に教師として来るとか。そうしたら僕は保険医の助手なり、忍術学園印の薬の製造販売元になって、学園に就職という道もあると思うんです。つまり同じ職場で共働きですよ。」
「でもそれって、僕は教師としてなら学園にとってはいつまでも必要とされるだろうけど、君が学園において希望している職種は、君の後進の子達が君以上の医療の技術を身につけてしまえば、いらなくなるかもしれないポジションじゃない? 今までどおりに新野先生と生徒で委員会活動していれば、人件費はそんなにいらないし。君が必要とされるのは精精、三反田君が六年生になるまでの二年ほどになっちゃいそうだけど。」
「数馬は……、大丈夫ですよ。は組ですし。そんな台頭してくるような子じゃ……。」
「君だって、は組じゃない。じゃあもう一年あとの川西君は?」
「あ、あいつは……保健室で終わるような奴じゃないですよ。」
「今のところ一番年下の乱太郎君とか、伏木蔵君とかはどうなるのかなあ?」
「伏木蔵。乱太郎。……手ごわいな。ははっ……ははは……」
伊作は、ここで言い返せなかったら学園就職ルートが途絶えてしまうと、まるで油で滑る棒に必死によじ上ろうとする蟻のごとく、または石鹸水の水溜りで必死に浮き続けようとしているアメンボのように、無理やり雑渡の言葉に言い返す。
「一旦、自分の役職を手に入れてしまえば、僕はそれにしがみつき、誰にもそれを渡す気なんてありません。どんな手を使っても学園に留まり続けて、例え実態がないと言われても、それで恩師に白い目で見られても、給料泥棒と学友に蔑まれても、安定した収入と生活を守りきってみせます。」
勿論、雑渡さんの教員の給与を合わせれば二人で暮らすには大丈夫ですよと締めくくった。大見得を切った割には、雑渡の収入を当てにしているところが、伊作の惜しいというか気の小さいところだった。
「頑張ります。僕。」
ただのネタ振りのつもりだったのだが、言っている内に伊作の中でなんかの固い決意のようなものになってしまっている。心なしか伊作の目には、雑渡の目が少しうるんでいるように見えた。しかしそれは、力みすぎて額から流れた汗が目元に伝って落ちてきたに過ぎない、かもしれない。
「伊作君――。」
なんだかいい雰囲気だった。これなら件の願いもここで果たせるかもしれない。そしてそれが慣習化されれば、授業の休みごとにいちゃラブ出来る。
「雑渡さん。」
伊作は手を雑渡の腰から移動させて肩を抱くと、せーので引き寄せようとした。雑渡はとっさに顔を背けてしまう。伊作はやわらかい笑みを作って囁きかける。
「どうしたのですか。」
滅多に視線を外すことさえしない雑渡なのに。急に何故こんな、恥ずかしがるような仕草を見せるのだろうか。もしかしたら、今日はいけるかもしれない。そう確信した。
顔は見えないが、雑渡が口ごもりながらも何かを言葉にしようとする、そんな気配が伝わる。伊作はそれを聞く前に自分が決めてしまおうと思った。
「雑渡さん」
「伊作君、僕は……」
寸でで止められてしまったので、伊作は雑渡の言葉の続きを待つ。
「なんでしょうか?」
「僕は……外でとか、ラブホとか、そういうのは駄目だから。」
「え?」
伊作の目が点になる。ずっと話題が逸れ続けていたのに。あれは単なる年甲斐のない、かまととぶりっ子だったのか。雑渡はいきなり核心をついた事を言い出し、しかも伊作の胸の内に隠し持っていた思惑を全否定した。
「駄目、というのは」
駄目というのはすなわち、そういうところでのエッチは受け付けないということだろう。しかし雑渡のほうからそんな話題を言ってきたのだから、交渉の余地はあるかもしれない。伊作は現代の営業マンでもないのに、奇妙な粘りを見せつけようとする。しかし雑渡はあっさりと伊作の手を逃れて、立ち上がった。
「僕は不特定多数の人が使った部屋とか、ましてや屋根も壁もないところであられもないことをするのは、ちょっと勘弁して欲しいんだ。伊作君はそれが訊きたかったんだよね。」
「それはそうだったのですが、それじゃ僕はどうしたらいいんですか! 性欲的なものとか、下半身的な事情とか。その他もろもろとか。」
「我慢して。君は僕の為なら、かなり忍耐出来るようだから。大丈夫だろうと思うよ。」
君なら出来るよ。
伊作はそうやって雑渡に期待されると、ぐうの音も出なくなった。
伊作敗北。もしかして彼はおだてられると退けなくなるタイプなんでしょうか。
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